説明

システム同定装置及び同定方法

【課題】プラントの動特性変化を、オペレータにわかりやすいモデルパラメータを用いて、定量的に、日常の制御計算に影響を与えない低計算負荷でプラント操業運転を停止することなく同定するシステム同定装置及び同定方法を提供する。
【解決手段】応答データ記憶装置10から同定処理駆動イベントを検出する同定処理駆動イベント検出装置40、検出された同定処理駆動イベント前後の応答データを切り出す応答データ切り出し装置50、切り出された応答データをもとにプラント動特性変化を同定する動特性変化同定装置60、同定された動特性変化分が与えられた動特性変化検出条件を満たすかどうかを判定し、該条件を満たす場合には表示出力指示を行う動特性変化検出装置70を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、制御対象の動特性モデルに基づいて制御をおこなう制御装置において、制御対象の動特性を同定する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
ほとんどの制御系設計は、制御対象(プラント)のモデルに基づいておこなわれる。制御系の性能を高く維持するためには、操業条件やプロセス特性の変化などによって生じるプラントと設計時に用いたモデル(ノミナルモデル)のミスマッチを検出し、的確に対応する必要がある。特にこれはプラントのモデルに基づく制御であるモデル予測制御において顕著である。しかし、大規模なモデル予測制御系では、プラント操業運転を停止する特別な閉ループでの同定期間を設けるモデル再同定に多大な労力が必要となる。そこで、プラント操業運転を停止することなく日常の閉ループでの運転データからプラントとそのノミナルモデルのミスマッチ分を同定できることが望ましい。
【0003】
下記に示す特許文献1では、プロセスの特性状態に応じた適確な離散値プロセス制御装置について開示している。特性変化検出部では予測モデル誤差をオンラインで逐次求めて特性変化を検出している。
【0004】
また下記に示す非特許文献1では、多入力多出力のモデル予測制御系において、日常の運転データから重大なミスマッチが存在するサブモデル(何番目の入力から何番目の出力への伝達特性、即ち、どのサブモデルに重大なミスマッチが存在するか)を特定することを目的としている。モデル誤差を説明するという点で統計的に有意な過去の入力変数をステップワイズ法を用いて選択し、その選択された変数の数に着目し、あるサブモデルについて多くの変数が選択された場合、そのサブモデルは重大なミスマッチを持つとオフライン計算により判定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特公平4−34764号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】加納 学 外3名「モデル予測制御システムにおけるモデルとプロセスのミスマッチ検出」、第10回制御部門大会、2010年3月16日〜18日、熊本
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記非特許文献1の方法は、日常の運転データから重大なミスマッチが存在するサブモデル(何番目の入力から何番目の出力への伝達特性であるサブモデルに重大なミスマッチが存在するか)を定性的に特定するものであり、伝達特性のどのパラメータにどれだけのミスマッチがあるかを定量的に知ることはできない。パラメータのミスマッチ分を定量的に知るためには、ミスマッチがあると判定されたサブモデルに対して、閉ループでのステップ応答試験を改めて行うなどの再同定の実施が必要である。また、上記非特許文献1の方法は、任意に切り出したデータに対してオフラインで実施するものであり、動特性変化検出の方法は自動化されていない。
【0008】
また上記特許文献1に開示されている特性変化検出部では、予測モデル誤差をオンラインで逐次求めて特性変化を検出しているため、常に計算負荷が大きい。また、モデルを離散系としているので、伝達特性がパルス伝達関数に限定されるとともに、離散系のモデルパラメータは物理的意味を把握しにくいため、オペレータにとって扱いづらい。加えて、制御対象は単入力単出力系に限定されている。
【0009】
本発明は、上述した従来技術による課題を解消するためになされたものであり、プラント操業運転を停止することなく日常の閉ループでの運転データから多入力多出力系も含めたプラントの動特性変化を、オペレータにわかりやすいモデルパラメータを用いて、定量的に、日常の制御計算に影響を与えない低計算負荷で同定し、必要に応じて表示したり動特性変化履歴を記録するシステム同定装置及び同定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
これらの課題を解決するために本発明は、プラントのモデルに基づいて制御をおこなう制御装置に用いられるシステム同定装置において、制御対象のプラントの現在から一定期間過去までの運転データを記憶する応答データ記憶手段と、応答データに動特性変化同定に利用する動揺が発生した場合に、それを同定処理駆動イベントとして検出する同定処理駆動イベント検出手段と、前記同定処理駆動イベント前後の特定区間の応答データを切り出して収集する応答データ切り出し手段と、切り出した応答データを利用してモデルの動特性変化分を同定する動特性変化同定手段と、同定された動特性変化分が与えられた動特性変化検出条件を満たすかどうかを判定し、該条件を満たす場合には同定処理駆動イベントの検出と同定結果の履歴の記録指示および又は表示出力を指示する動特性変化検出手段とを備え、前記検出した同定処理駆動イベントを契機に前記動特性変化同定手段が同定処理を開始するよう構成したものである。
【発明の効果】
【0011】
従来の非特許文献1記載の方法では、日常の運転データから重大なミスマッチが存在するサブモデルを定性的に特定できるが、伝達特性のどのパラメータにどれだけのミスマッチがあるかを定量的に知ることができなかったのに対して、本発明は、パラメータのミスマッチを定量的に知ることができ、ミスマッチがあると判定されたサブモデルに対して、閉ループでのステップ応答試験を改めて行うなどの再同定を実施する必要がなく、動特性変化検出の方法も自動化されているので手間がかからないという効果を奏する。
【0012】
また、従来の特許文献1記載の方法では、予測モデル誤差をオンラインで逐次求めて特性変化を検出しているため、常に計算負荷が大きかったのに対して、本発明は、通常では目標値、プラントへの入力(操作量)、プラントの出力(制御量も含む)の変化から同定処理駆動イベントを監視するだけの、制御計算に影響を与えない程度の低計算負荷の処理で済むという効果を奏する。
【0013】
また、従来の特許文献1記載の方法では、モデルを離散系としているので、伝達特性がパルス伝達関数に限定されるとともに、離散系のモデルパラメータは物理的意味を把握しにくいため、オペレータにとって扱いづらかったのに対して、本発明は、プラント動特性変化をオペレータにわかりやすいモデルパラメータ、例えば連続系モデルパラメータ、により表現できるとともに連続系モデルのパラメータ変化を定量的に求めることができ、加えて、多入力多出力系(MIMO:Multi-Input Multi-Output)に自然に対応できるという効果を奏する。さらに、パラメータ変化を自動的に同定し、必要に応じて表示(アラームの発報)と動特性変化履歴を記録するしくみが提供されるので、採用している動特性モデルのメンテナンスが容易になるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施形態に係るシステム同定装置の構成を示すブロック図である。
【図2】本発明の実施形態に係るシステム同定装置の動作を説明するフローチャートである。
【図3】本発明の実施形態に係るシステム同定装置の制御系への設置例を示すブロック図である。
【図4】本発明の実施形態に係る動特性変化検出装置の具体的構成の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。
図1は、本発明の実施形態に係るシステム同定装置の構成を示すブロック図である。図1は、対象とするプラントを含む制御系の目標値、プラントへの入力(操作量)、プラントの出力(制御量を含む)をプラントの現在から一定期間過去までの運転データとして記憶する応答データ記憶装置10、プラント動特性モデルパラメータの現在の推定値を記憶するプラント動特性モデルパラメータ記憶装置20、動特性変化検出装置70からの記録指示に従って同定された動特性モデルパラメータの変化履歴を記録する同定履歴記憶装置30、応答データ記憶装置10から同定処理駆動イベントを検出する同定処理駆動イベント検出装置40、同定処理駆動イベント前後の応答データを切り出す応答データ切り出し装置50、切り出された応答データをもとにプラント動特性変化を同定する動特性変化同定装置60、および、同定された動特性変化分が与えられた動特性変化検出条件を満たすかどうかを判定し、該条件を満たす場合には表示出力指示および又は同定処理駆動イベントの検出と同定結果の履歴の記録指示を行う動特性変化検出装置70を備える。
【0016】
そして、必要に応じて、動特性変化検出装置70から表示出力指示を受け取り、該表示出力指示の内容を表示する表示装置80を備え、また、オペレータにより設定された同定履歴表示条件に従って、プラント動特性変化同定履歴、表示出力(例.アラーム発報)履歴の内容を制御対象モデル変化情報として出力する同定履歴出力装置90を備えることができる。上記において、表示装置80は、アラームを発報するアラーム発報装置とすることができるが、他の形式の表示装置、例えば、携帯可能なポケットベルやPHS(Personal Handyphone System)などであっても良い。
【0017】
また、プラント動特性モデルパラメータ記憶装置20は、プラントを管理するオペレータが必要と認めた場合に適宜更新される外、同定履歴記憶装置30に記録する同定結果の履歴を利用して更新することもできる。オペレータが必要と認めた場合とは、例えば、後述する図3に示す制御器120が保持するプラント動特性モデルパラメータを更新する場合などがこれに該当する。
【0018】
プラントのモデルに基づいて制御をおこなう制御装置に図1に示す本発明の実施形態に係るシステム同定装置を適用した場合において、制御対象のプラントの現在から一定期間過去までの運転データ(目標値、プラント入力(操作量)、プラント出力(制御量を含む)などの応答データ)を応答データ記憶装置10により記憶する。この応答データ記憶装置10は、当業者に良く知られたバッファメモリ等の記憶装置により実現できる。
【0019】
応答データに動特性変化同定に利用する動揺が発生した場合に、その動揺を同定処理駆動イベントとして同定処理駆動イベント検出装置40により検出する。そして同定処理駆動イベント前後の特定区間の応答データを応答データ切り出し装置50により切り出して収集する。
【0020】
同定処理駆動イベントの検出をトリガーに動特性変化同定装置60による同定処理を開始する。動特性変化同定装置60では、切り出した応答データを利用してモデルの動特性変化を同定する。動特性変化同定はプラントへの入力データ(操作量)とプラントの出力データ(制御量を含む)からなる応答データとその入出力特性ができるだけ整合するように仮想的なフィッティング用プラント動特性モデルの動特性変化分を探索することで求めることができる。
【0021】
動特性変化検出装置70では、同定された動特性変化が与えられた動特性変化検出条件を満たす(例えば、同定した動特性変化が予め設定された閾値を超えるなど)かどうかを判定し、該条件を満たす場合には同定処理駆動イベントの検出と同定結果の履歴の記録指示および又は表示出力を指示する。
【0022】
本実施形態では、動特性変化検出装置70から表示出力指示を受け取り、該表示出力指示の内容を表示する表示装置80を備えるようにしている。また動特性変化検出装置70から同定処理駆動イベントの検出と同定結果の履歴の記録指示を受け取り、同定された動特性モデルパラメータの変化履歴を記録することができる同定履歴記憶装置30を備えるようにしている。
【0023】
そして、オペレータにより設定された同定履歴表示条件に従って、同定履歴記憶装置30に記録されたプラント動特性変化同定履歴、アラーム発報履歴の内容を制御対象モデル変化情報として出力する同定履歴出力装置90を備えるようにしている。表示装置80では、動特性変化検出装置70から表示出力指示を受け取り、プラントオペレータなどに動特性変化が所定の検出条件を満たしたことを表示出力(例.アラーム発報)する。
【0024】
また、本発明の実施形態に係る同定処理駆動イベント検出装置40は、一定値以上の目標値の変化があったことをもってイベント検出条件とし、同定処理駆動イベントの検出を行うようにしている。さらには、上述した同定処理駆動イベント検出装置10は、一定値以上の目標値の変化と、一定値以上のプラントへの入力の変化または一定値以上のプラントの出力の変化があったことをもってイベント検出条件とし、同定処理駆動イベントの検出を行うようにしても良い。
【0025】
また上述した本発明の実施形態に係る応答データ切り出し装置50は、同定処理駆動イベント前後の応答データをプラント動特性モデルパラメータ記憶装置20に記憶されている現在の動特性モデルパラメータのうち、等価時定数とむだ時間に基づいて有限の切り出し区間を決定する。これは例えば、切り出し区間を、経験則に基づいて、同定処理駆動イベント前は(1×等価時定数+むだ時間)、同定処理駆動イベント後は(5×等価時定数+むだ時間)とし、切り出し区間長は両者の和として(6×等価時定数+2×むだ時間)とすればよい。
【0026】
図2は、本発明の実施形態に係るシステム同定装置の動作を説明するフローチャートである。図2において、まず応答データ記憶装置10(図1参照)から応答データを読み込む(ステップS1)。次に、応答データに動特性変化同定に利用する動揺が発生したら、その動揺を同定処理駆動イベントであるとして検出する(ステップS2)。
【0027】
そして同定処理駆動イベント前後の特定区間の応答データを切り出して収集する(ステップS3)。収集した応答データについて、同定処理を開始する。同定処理では、適宜プラント動特性モデルパラメータを参照する(ステップS4)。ここでプラント動特性モデルパラメータは、プラント動特性モデルパラメータ記憶装置20(図1参照)にあらかじめ記憶されている。
【0028】
最後に、同定した動特性変化が所定の条件を満たした場合にプラント動特性モデルパラメータの変化分を検出する(ステップS5)。なお検出した後のプラント動特性モデルパラメータの変化分の後処理は図2のフローに示していないが、必要に応じて、上記検出に基づいて表示出力指示を発するようにするか、または、上記検出に基づいて同定処理駆動イベントの検出と同定結果の履歴の記録指示を発するようにすることができる。
【0029】
図3は、本発明の実施形態に係るシステム同定装置の制御系への設置例を示すブロック図である。図3に示す設置例において本発明の実施形態に係るシステム同定装置は、イベント駆動型同定装置300として図示され、制御系(プラントのモデルに基づいて制御が行われる制御装置)200から目標値110、制御対象への入力(操作量)130、制御対象の出力(制御量を含む)160を観測し、制御対象動特性変化情報としてモデルパラメータ変化情報やアラームを出力する。イベント駆動型同定装置300には、あらかじめ各種設定が施されている。なお、目標値110は、制御系200の構成要素である制御器120に入力され、制御器120は、制御対象への入力(操作量)130を出力する。制御対象への入力(操作量)130は、制御対象140に入力され、制御対象140は、制御対象の出力(制御量を含む)160を出力する。通常、出力(制御量を含む)160には外乱150が付加される。そして出力(制御量を含む)160は、制御器120にフィードバックされて、制御系200の閉ループ制御が実行される。
【0030】
図4は、本発明の実施形態に係る動特性変化検出装置の具体的構成の一例を示す図であり、実プラント400を、一次遅れ+むだ時間系(単入力単出力:SISO(Single Input Single Output))の動特性を持つものとして、以下の伝達関数を表す式1
【0031】
【数1】

でモデル化する例を示す。ここで、Kはゲイン、Tは時定数、Lはむだ時間である。
【0032】
そしてはじめに、前提として実プラント400が事前の同定(開ループ同定)により、以下の伝達関数を表す式2
【0033】
【数2】

で概ねモデル化されていたと仮定する。すなわち、上記式1が、実プラントの事前の同定により、初期状態で上記式2のようにモデル化されることが前提となる。
【0034】
このようなモデル化の後、プロセス特性の経時変化やレシピ変更に伴う動作点の変更等により動特性が以下に示す式3
【0035】
【数3】

のように変化したと考える。なお、図示例では、考察を簡略化するために外乱を考慮しないものとしている。
【0036】
図1に示した動特性変化同定装置60は、連続系モデルパラメータの変化分として以下の式4
【0037】
【数4】

を定義し、応答データ切り出し装置50で切り出した応答データの入力波形u(t)を、動特性をフィッティングさせるためのフィッティング用プラント動特性モデル500を表す以下の式5
【0038】
【数5】

の入力とした場合に、フィッティング用プラント動特性モデル500から得られるフィッティング用プラント動特性モデルの出力波形を表す以下の式6
【0039】
【数6】

と応答データの出力波形y(t)との切り出し区間t = 0 〜T (切り出し区間の初期時刻をt=0、切り出し区間長をTとおいた)における二乗積分誤差が、目的関数を表す以下の式7
【0040】
【数7】

と考え、最適化装置600で上記式7に示される目的関数が最小になるようにパラメータ変化分Δθを決定する。
【0041】
ここにおいて、パラメータ変化分Δθは、以下の式8に示される条件を満たすものとする。
【0042】
【数8】

パラメータ変化分Δθについて一例を挙げて説明すれば、Δθは、上記式4で定義され、さらに制御対象とするプラントは安定で、時定数は正の値しか取らないものと仮定し得る場合には、パラメータ変化分Δθ内の一つのパラメータΔT、すなわち上記式5におけるT(1+ΔT)について、T(1+ΔT)≧0と置くことができる。これを上記式8の条件式に当てはめると、以下の式9が成り立つ。
【0043】
【数9】

ここにおいて、Tmin≧0,Tmax≧0は、経験的にプラントに応じて求めことができる値である。また上述の例は、パラメータΔTについてのものであるが、例えば、他のパラメータΔK、ΔLについても上記式8に倣って上記式9と同様に条件式を設定することができる。
【0044】
目的関数が最小になるようなパラメータ変化分Δθは、上記の最適化問題の最適解が以下に示す式10
【0045】
【数10】

として求められる。このように上記の最適化問題はパラメータ変化分に対する非線形最適化問題となり、勾配法やニュートン法、粒子群最適化(PSO:Particle Swarm Optimization)法等などの各種手法を用いて最適解(最適な推定値)を得ることができる。
【0046】
以下では、上記最適解を求める勾配法を用いる例について説明する。上記式7における勾配は、以下に示す式11のように求めることができる。
【0047】
【数11】

式11において、Tは、切り出し区間長(時間)、L-1は、ラプラス逆変換を表している。なお、式11における2行目から3行目への変形は、切り出し区間中のモデルの動特性変化が無視できる程度に小さい、という仮定が成り立つことを前提にしている。また上記のようにして勾配が求まれば、勾配法のみならず、ニュートン法等の他の最適化手法を利用することができる。ここでは、その初期値Δθ0 = 0として、以下の式12により勾配法を利用している。
【0048】
【数12】

このようにして得られた同定処理駆動イベントの検出と同定結果の履歴を、図1に示した動特性変化検出装置70の指示により同定履歴記録装置30に記録する。同定履歴記録装置30はデータベースをはじめ、種々の記憶装置を用いることで実現できる。同定履歴記録装置30に記録されたデータは、同定履歴出力装置90により読み出され、あらかじめオペレータにより設定された同定履歴表示条件に応じて、制御対象動特性変化情報としてプラント動特性変化同定履歴、表示(例.アラーム発報)履歴を出力することができる。
【0049】
以上に示した本発明の実施形態は、本発明の好適な実施例の一例を示すだけであり、これに限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変形が可能である。例えば、上記した本発明の実施形態は単入力単出力系について記述しているが、多入力多出力系(MIMO)については、系を出力数分の多入力単出力系(MISO)に分解して、各出力毎に上記の方法を適用することで多入力多出力系に拡張可能である。
【0050】
以下では、多入力多出力系へ拡張する場合において、系を出力数分の多入力単出力系に分解する例を以下に示す式を用いて説明する。
多入力多出力系のモデルとして、以下の式13のように表現されるものを考える。
【0051】
【数13】

上記式13について、系を出力数分の多入力単出力系に分解して、その一方の出力についての伝達関数を考えると、以下の式14のように表現できる。
【0052】
【数14】

上記式14は、既述した式5に対応するもので、また、式4に対応する連続系モデルパラメータの変化分を、以下の式15のように定義することができる。
【0053】
【数15】

これらについて、上記したように最適化装置600で、目的関数が最小になるようにパラメータ変化分Δθを分解した一方の伝達関数について決定することが可能となる。
【0054】
そして系を出力数分の多入力単出力系に分解して、その他方の出力についての伝達関数を考えて、式14および式15と同様に、表現し定義することで、最適化装置600で、目的関数が最小になるようにその出力の他方の伝達関数についてパラメータ変化分Δθを決定することが可能となる。
【0055】
最後に、探索パラメータにおける制約条件について改めて説明する。パラメータ変化分を探索する場合に、その初期値を0として探索を開始することで効率よくパラメータ変化分Δθを探索することできる。さらに、探索パラメータ(決定変数)に上記式8および式9のような制約条件を加えることで効率よく探索できる。これは、探索するパラメータが連続時間系の伝達関数のパラメータであり、物理的な意味を考察することにより、その取り得る範囲を限定できるためである。
【0056】
そして探索パラメータ(決定変数)を限定して探索することで計算負荷、計算速度、計算精度を向上させることができる。プラント動特性モデルパラメータの中で、物理的考察や経験から特定のパラメータは変化しないこと、或いは、変化の範囲が限定されること、が事前に分かっている場合には、変化しないパラメータを決定変数から除外して決定変数の個数を削減することや、決定変数に制約を加えることで、最適化計算の効率を改善することができるようになる。
【符号の説明】
【0057】
10 応答データ記憶装置
20 プラント動特性モデルパラメータ記憶装置
30 同定履歴記憶装置
40 同定処理駆動イベント検出装置
50 応答データ切り出し装置
60 動特性変化同定装置
70 動特性変化検出装置
80 表示装置
90 同定履歴出力装置
110 目標値
120 制御器
130 入力(操作量)
140 制御対象(プラント)
150 外乱
160 出力(制御量を含む)
200 制御系
300 イベント駆動型同定装置
400 実プラント
500 フィッティング用プラント動特性モデル
600 最適化装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラントのモデルに基づいて制御をおこなう制御装置に用いられるシステム同定装置において、制御対象のプラントの現在から一定期間過去までの運転データを記憶する応答データ記憶手段と、応答データに動特性変化同定に利用する動揺が発生した場合に、それを同定処理駆動イベントとして検出する同定処理駆動イベント検出手段と、前記同定処理駆動イベント前後の特定区間の応答データを切り出して収集する応答データ切り出し手段と、切り出した応答データを利用してモデルの動特性変化分を同定する動特性変化同定手段と、同定された動特性変化分が与えられた動特性変化検出条件を満たすかどうかを判定し、該条件を満たす場合には同定処理駆動イベントの検出と同定結果の履歴の記録指示および又は表示出力を指示する動特性変化検出手段と、を備え、前記検出した同定処理駆動イベントを契機に前記動特性変化同定手段が同定処理を開始することを特徴とするシステム同定装置。
【請求項2】
前記制御対象のプラントのモデルは、連続系モデルであることを特徴とする請求項1に記載のシステム同定装置。
【請求項3】
前記動特性変化検出手段から表示出力指示を受け取った場合には、表示出力の指示内容を表示する表示手段をさらに有することを特徴とする請求項1に記載のシステム同定装置。
【請求項4】
前記同定処理駆動イベント検出手段は、一定値以上の目標値の変化があったことをもってイベント検出条件とし、同定処理駆動イベントの検出を行うことを特徴とする請求項1に記載のシステム同定装置。
【請求項5】
前記同定処理駆動イベント検出手段は、一定値以上の目標値の変化と、一定値以上のプラントへの入力の変化または一定値以上のプラントの出力の変化があったことをもってイベント検出条件とし、同定処理駆動イベントの検出を行うことを特徴とする請求項4に記載のシステム同定装置。
【請求項6】
前記応答データ切り出し手段は、現在の動特性モデルパラメータのうち、等価時定数とむだ時間に基づいて切り出し区間を決定し、同定処理駆動イベント検出前後の応答データを切り出すことを特徴とする請求項1に記載のシステム同定装置。
【請求項7】
前記動特性変化同定手段は、前記切り出した応答データ中の入力波形をフィッティング用プラント動特性モデルの入力とした場合に得られるフィッティング用プラント動特性モデルの出力波形と応答データ中の出力波形との二乗積分誤差が最小になるようにフィッティング用プラント動特性モデルパラメータの変化分を決定することを特徴とする請求項1に記載のシステム同定装置。
【請求項8】
前記フィッティング用プラント動特性モデルパラメータの変化分の決定は、該パラメータの変化分を決定変数とし、その初期値をゼロとして探索を開始して決定することを特徴とする請求項7に記載のシステム同定装置。
【請求項9】
前記フィッティング用プラント動特性モデルは、連続系モデルであることを特徴とする請求項7または8に記載のシステム同定装置。
【請求項10】
同定処理駆動イベントの検出と同定結果の履歴を記録する同定履歴記憶手段を更に備えることを特徴とする請求項1ないし9のいずれか一項に記載のシステム同定装置。
【請求項11】
プラントのモデルに基づいて制御をおこなう制御装置に用いられるシステム同定方法であって、プラントの現在から一定期間過去までの運転データを記憶する過程と、応答データに動特性変化同定に利用する動揺が発生した場合に、それを同定処理駆動イベントとして検出する過程と、前記同定処理駆動イベント前後の特定区間の応答データを切り出して収集する過程と、切り出した応答データを利用してモデルの動特性変化分を同定する過程と、同定された動特性変化分が与えられた動特性変化検出条件を満たすかどうかを判定し、該条件を満たす場合には表示出力指示する過程と、前記表示出力指示を受け取り、該表示出力指示の内容を表示する過程とを含み、前記検出した同定処理駆動イベントを契機に前記同定処理を開始することを特徴とするシステム同定方法。
【請求項12】
前記モデルの動特性変化を同定する過程は、切り出した応答データ中の入力波形をフィッティング用プラント動特性モデルの入力とした場合に得られるフィッティング用プラント動特性モデルの出力波形と応答データ中の出力波形との二乗積分誤差が最小になるようにフィッティング用プラント動特性モデルパラメータの変化分を決定することを特徴とする請求項11に記載のシステム同定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−181715(P2012−181715A)
【公開日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−44684(P2011−44684)
【出願日】平成23年3月2日(2011.3.2)
【出願人】(000005234)富士電機株式会社 (3,146)
【Fターム(参考)】