説明

シミュレーション装置、シミュレーション方法及びシミュレーションプログラム

【課題】精度の高い出力データを求めることのできるシミュレーション装置を提供する。
【解決手段】シミュレーション装置は、対象の状態を推定するモデルを作成する装置である。シミュレーションモデル作成手段は、対象の物理的な性質を考慮したシミュレーションモデルを作成する。第1の修正関数生成手段は、シミュレーションモデルに入力データを入力して得られる中間データを対応する実測データに近づける第1の修正関数を生成する。第1の補正手段は、中間データを第1の修正関数で補正する。第2の修正関数生成手段は、シミュレーションモデルに第1の補正手段により補正された中間データを入力して得られる出力データを対応する実測データに近づける第2の修正関数を生成する。第2の補正手段は、出力データを第2の修正関数で補正する。このようにすることで、出力データを実測データに精度良く近似させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、対象の状態を推定するモデルを作成するシミュレーション装置に関する。
【背景技術】
【0002】
対象の物理的なモデルを正確に得ることができれば、ある目的に適合するように所定の操作を加えて対象を精密に制御することが可能である。しかし、実際の対象は、各種の要素が相互に複雑に関係しており、正確な物理モデルを構築することは困難であることが多い。そこで、特許文献1に記載の技術では、まず、エンジンの物理的な性質を考慮したシミュレーションモデルを設定すると共に、実機で粗く実測する。次に、シミュレーションモデルにより算出された出力データと実測データとの差に基づいて修正関数を導出し、出力データと修正関数とを組み合わせて最終モデルとする。特許文献1に記載の技術では、この最終モデルを用いて出力データの最終適合値を決定している。
【0003】
【特許文献1】特開2004−178247号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、出力データと実測データの間の誤差発生は、シミュレーションモデルで予測し切れていない現象や、元々考慮していない現象等、種々の現象や要因に起因している。そのため、誤差が単純な傾向を示すものでなくなることがあり、この場合、特許文献1に記載されたシミュレーションモデルに修正関数を組み合わせた最終モデルを用いても、精度良く出力データを近似することが難しくなる。
【0005】
本発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、より精度の高い出力データを求めることのできるシミュレーション装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の1つの観点では、対象の状態を推定するモデルを作成するシミュレーション装置は、前記対象の物理的な性質を考慮したシミュレーションモデルを作成するシミュレーションモデル作成手段と、前記シミュレーションモデルに入力データを入力して算出途中の値として得られる中間データを、前記対象の状態を実測して得られた前記中間データに対応する実測データに近づける第1の修正関数を生成する第1の修正関数生成手段と、前記中間データを前記第1の修正関数で補正する第1の補正手段と、前記シミュレーションモデルに前記第1の補正手段により補正された前記中間データを入力して最終結果として得られる出力データを、前記対象の状態を実測して得られた前記出力データに対応する実測データに近づける第2の修正関数を生成する第2の修正関数生成手段と、前記出力データを前記第2の修正関数で補正する第2の補正手段と、を備える。
【0007】
上記のシミュレーション装置は、対象の状態を推定するモデルを作成する装置である。前記シミュレーションモデル作成手段は、前記対象の物理的な性質を考慮したシミュレーションモデルを作成する。ここで作成されたシミュレーションモデルは、修正関数で補正される前のモデルである。前記第1の修正関数生成手段は、前記シミュレーションモデルに入力データを入力して算出途中の値として得られる中間データを、前記対象の状態を実測して得られた前記中間データに対応する実測データに近づける第1の修正関数を生成する。前記第1の補正手段は、前記中間データを前記第1の修正関数で補正する。前記第2の修正関数生成手段は、前記シミュレーションモデルに前記第1の補正手段により補正された前記中間データを入力して最終結果として得られる出力データを、前記対象の状態を実測して得られた前記出力データに対応する実測データに近づける第2の修正関数を生成する。前記第2の補正手段は、前記出力データを前記第2の修正関数で補正する。これらの手段は、例えばコンピュータのCPU(Central Processor Unit)により実現される。このように、中間データについて修正関数で補正することで、出力データを前記出力データに対応する実測データに精度良く近似させることができる。
【0008】
上記のシミュレーション装置の好適な実施例は、前記第1の修正関数生成手段は、前記中間データと前記対象の状態を実測して得られた前記中間データに対応する実測データとの差分を基に前記第1の修正関数を生成する。
【0009】
上記のシミュレーション装置の他の一態様は、前記第1の修正関数生成手段は、前記中間データにおける所定のパラメータの値を、前記対象の状態を実測して得られた前記中間データに対応する実測データにおける前記所定のパラメータの値に近づける第1の修正関数を生成し、前記第1の補正手段は、前記第1の修正関数で前記中間データにおける所定のパラメータの値を補正すると共に、補正された前記所定のパラメータを基に前記中間データを補正する。これにより、中間データと前記対象の状態を実測して得られた前記中間データに対応する実測データとの差分の傾向が複雑な場合であっても、中間データを前記中間データに対応する実測データに精度良く近似させることができる。
【0010】
本発明の他の観点では、対象の状態を推定するモデルを作成するシミュレーション方法は、前記対象の物理的な性質を考慮したシミュレーションモデルを作成するシミュレーションモデル作成工程と、前記シミュレーションモデルに入力データを入力して算出途中の値として得られる中間データを、前記対象の状態を実測して得られた前記中間データに対応する実測データに近づける第1の修正関数を生成する第1の修正関数生成工程と、前記中間データを前記第1の修正関数で補正する第1の補正工程と、前記シミュレーションモデルに前記第1の補正工程により補正された前記中間データを入力して最終結果として得られる出力データを、前記対象の状態を実測して得られた前記出力データに対応する実測データに近づける第2の修正関数を生成する第2の修正関数生成工程と、前記出力データを前記第2の修正関数で補正する第2の補正工程と、を備える。この方法によっても、出力データを前記出力データに対応する実測データに精度良く近似させることができる。
【0011】
本発明の更なる他の観点では、コンピュータによって実行されるシミュレーションプログラムは、対象の物理的な性質を考慮したシミュレーションモデルを作成するシミュレーションモデル作成手段、前記シミュレーションモデルに入力データを入力して算出途中の値として得られる中間データを、前記対象の状態を実測して得られた前記中間データに対応する実測データに近づける第1の修正関数を生成する第1の修正関数生成手段、前記中間データを前記第1の修正関数で補正する第1の補正手段、前記シミュレーションモデルに前記第1の補正手段により補正された前記中間データを入力して最終結果として得られる出力データを、前記対象の状態を実測して得られた前記出力データに対応する実測データに近づける第2の修正関数を生成する第2の修正関数生成手段、前記出力データを前記第2の修正関数で補正する第2の補正手段、として前記コンピュータを機能させる。このプログラムによっても、出力データを前記出力データに対応する実測データに精度良く近似させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、図面を参照して本発明の好適な実施の形態について説明する。
【0013】
[全体構成]
図1は、本実施形態に係るシミュレーション装置100を示す模式図である。シミュレーション装置100は、コンピュータ1と、計測装置2と、エンジン3とを備える。エンジン3には、トルクセンサ等の各種のセンサが取り付けられている。各センサの出力信号は、計測装置2に取り込まれる。また、計測装置2は、エンジン3の吸気バルブ及び排気バルブの動作タイミングや、燃料噴射弁の開度等を制御できる。コンピュータ1と計測装置2とは接続されており、計測装置2は、コンピュータ1からの指令に従って、所定の制御条件の下でエンジン3を運転する。エンジン3の状態は各種センサによって計測される。計測装置2は、それらセンサの出力信号に基づいて実測データを生成し、これをコンピュータ1に送信する。
【0014】
コンピュータ1は、CPU(Central Processor Unit)11と、メモリ12と、入力装置13と、ハードディスク14と、ディスプレイ15と、インターフェース16とを備える。これらは、システムバス10を介して接続されている。CPU11は、コンピュータ1の制御中枢として機能すると共に、各種のプログラムを実行する。メモリ12は、例えばRAM(Random Access Memory)であり、CPU11の作業領域として機能し、そこには処理途中のデータ等が記憶される。ハードディスク14には、シミュレーションモデルが記憶されている。シミュレーションモデルは、プログラムやデータより構成されており、CPU11によってメモリ12にロードされる。
【0015】
入力装置13は、例えばキーボードやマウスであり、オペレータが指示を入力するための入力手段として機能する。インターフェース16は、外部機器との間で通信を行う機能を有する。CPU11は、インターフェース16を介して計測装置2へ指令を送信したり、計測装置2から実測データを取得したりすることができる。
【0016】
以下では、本発明のシミュレーションモデルの作成方法の実施形態について具体的に説明する。
【0017】
[第1実施形態]
最初に、本発明の第1実施形態に係るシミュレーションモデル作成方法について具体的に説明する。
【0018】
まず、シミュレーション装置100は、ユーザにより設定された制御条件の下、シミュレーションモデルを作成する。ここで言うシミュレーションモデルは、修正関数による補正がされる前のモデルであり、対象の物理的な性質を考慮した物理モデルとして与えられる。第1実施形態では、エンジン3の可変バルブタイミング(VVT:Variable Valve Timing)に対するトルクの傾向を導出するシミュレーションモデルの例について説明する。なお、以下の説明では、可変バルブタイミングを単にVVTと称することとする。
【0019】
このシミュレーションモデルでは、入力データとしてクランク角が入力され、シミュレーションモデルの計算途中に算出される中間データとして、クランク角に対するエンジン3の気筒内の筒内圧の大きさを示すグラフである筒内圧波形が算出される。そして、当該筒内圧波形がシミュレーションモデルに再度入力されることで、出力データとして、VVTに対するトルクの大きさを示すグラフが求められる。このグラフより、VVTに対するトルクの傾向を知ることができる。
【0020】
図2に、クランク角に対する筒内圧を示すグラフ、即ち筒内圧波形の一例を示す。図2において、横軸はクランク角を示し、縦軸は筒内圧の大きさを示す。図3に、VVTに対するトルクの大きさを示すグラフの一例を示す。図3において、横軸はVVTを示し、縦軸はトルクの大きさを示す。
【0021】
図2において、実線で示すグラフ21は、シミュレーションモデルの中間データとして算出された筒内圧波形を示す。波線で示すグラフ22は、シミュレーションモデルで設定された制御条件と同じ制御条件下において動作させたエンジン3において実測された筒内圧波形を示す。
【0022】
図2に示すように、グラフ21で示される筒内圧波形は、グラフ22で示される実測された筒内圧波形とずれが生じている。このずれが生じる原因は、シミュレーションモデルでは、予測し切れていない現象や、元々考慮していない現象等が存在しているためであると考えられる。
【0023】
図3において、実線で示すグラフ31は、中間データとして算出された筒内圧波形をシミュレーションモデルに入力して求められたVVTに対するトルクの大きさを示すグラフである。波線で示すグラフ32は、シミュレーションモデルで設定された制御条件と同じ制御条件下において動作させたエンジン3において、VVTに対するトルクの大きさを実測したときのグラフである。
【0024】
図3に示すように、シミュレーションモデルより算出されたVVTに対するトルクの大きさを示すグラフ31は、実測されたVVTに対するトルクの大きさを示すグラフ32と大きくずれが生じている。これは、先に述べたように、シミュレーションモデルに入力される筒内圧波形が、既に、実測された筒内圧波形とずれが生じているためである。このように大きくずれが生じている場合、グラフ31を、グラフ32に近づける近似を行おうとしても、精度良く近似することは難しい。
【0025】
そこで、本発明の第1実施形態では、シミュレーション装置100は、シミュレーションモデルの中間データとして算出された筒内圧波形を実測された筒内圧波形に近づける修正関数を求めることとする。この修正関数が、本発明における第1の修正関数に該当する。
【0026】
具体的には、修正関数は、シミュレーションモデルにより算出された筒内圧波形と実測された筒内圧波形との差分に基づいて求められる。例えば、クランク角に対し、当該差分の値が略一定であるならば、当該差分の値が修正関数として求められる。また、クランク角に対し、当該差分の値が略一定の割合で増加していれば、当該差分の値は一次関数として表すことができるので、当該一次関数が修正関数として求められる。そして、シミュレーションモデルにより算出された筒内圧波形は、修正関数で補正された後、シミュレーションモデルに入力されることとなる。
【0027】
図2において、一点鎖線で示すグラフ23は、修正関数で補正された筒内圧波形を示している。図3に示すように、このグラフ23は、実測された筒内圧波形のグラフ22に近づいている。
【0028】
図3において、一点鎖線で示すグラフ33は、修正関数で補正された筒内圧波形をシミュレーションモデルに入力して求められたVVTに対するトルクの大きさを示すグラフである。
【0029】
図3に示すように、修正関数で補正された筒内圧波形をシミュレーションモデルに入力して求められたVVTに対するトルクの大きさを示すグラフ33は、先に述べた修正関数で補正されていない筒内圧波形をシミュレーションモデルに入力して求められたVVTに対するトルクの大きさを示すグラフ31と比較して、実測されたVVTに対するトルクの大きさを示すグラフ32とずれが小さくなっている(矢印36を参照)。従って、グラフ33をグラフ32に近似することは、グラフ31をグラフ32に近似するのに比較して、精度良く近似することが可能となる。
【0030】
本発明の第1実施形態では、シミュレーション装置100は、グラフ33をグラフ32に近似する具体的な方法として、グラフ33をグラフ32に近づける修正関数を求めることとする。この修正関数が、本発明における第2の修正関数に該当する。この修正関数は、グラフ33に示すシミュレーションモデルにより算出されたトルクの大きさとグラフ32に示す実測されたトルクの大きさとの差分に基づいて求められる。例えば、VVTに対し、当該差分の値が略一定であるならば、当該差分の値が修正関数として求められる。また、VVTに対し、当該差分の値が略一定の割合で増加しているのであれば、当該差分の値は一次関数として表すことができるので、当該一次関数が修正関数として求められる。シミュレーションモデルにより求められたVVTに対するトルクの大きさを修正関数で補正することで、図3の矢印37に示すように、実測されたVVTに対するトルクの大きさに近似することができる。このようにして、シミュレーションモデルの最終モデルが生成される。
【0031】
(シミュレーションモデル作成処理)
次に、第1実施形態に係るシミュレーションモデル作成処理について、図4に示すフローチャートを用いて説明することとする。図4は、シミュレーションモデル作成処理を示すフローチャートである。
【0032】
まず、ユーザは、クランク角やVVTなどの計測条件を決定する(ステップS101)。そして、コンピュータ1は、当該計測条件を基にエンジン3より筒内圧波形やトルクの大きさなどの実測データを計測する(ステップS102)。
【0033】
コンピュータ1は、ユーザにより設定された制御条件の下、VVTに対するトルクの大きさを示すシミュレーションモデルを作成する(ステップS103)。このシミュレーションモデルによって求められるVVTに対するトルクの大きさは、図3で示したように、実測されたトルクの大きさと大きな誤差が生じる。
【0034】
次に、コンピュータ1は、シミュレーションモデルに入力データ、ここではクランク角を入力し、シミュレーションモデルの中間データ、上述の例では、筒内圧波形を算出するまでシミュレーションを実行する(ステップS104)。これにより、図2のグラフ21で示した筒内圧波形が算出される。そして、コンピュータ1は、中間データと当該中間データに対応する実測データとの差分を算出した後、当該差分を基に第1の修正関数を求める(ステップS105)。上述の例では、シミュレーションモデルにより算出された筒内圧波形と実測された筒内圧波形との差分を求めた後、当該差分を基に第1の修正関数を求める。従って、コンピュータ1のCPU11は、本発明における第1の修正関数生成手段として機能する。
【0035】
コンピュータ1は、シミュレーションモデルにより算出された中間データを第1の修正関数で補正した後(ステップS106)、シミュレーションモデルに再入力してシミュレーションを実行し、出力データを算出する(ステップS107)。従って、コンピュータ1のCPU11は、本発明における第1の補正手段として機能する。上述の例では、図2に示したように、シミュレーションモデルにより算出された筒内圧波形を第1の修正関数で補正して、実測された筒内圧波形に近づけた後、シミュレーションモデルに再入力してシミュレーションを実行し、VVTに対するトルクの大きさを出力データとして求める。このトルクの大きさのグラフが、図3のグラフ33で示される。
【0036】
コンピュータ1は、このようにしてシミュレーションモデルにより求められた出力データと当該出力データに対応する実測データとの差分を算出した後、当該差分を基に第2の修正関数を求める(ステップS108)。上述の例では、シミュレーションモデルにより求められたVVTに対するトルクの大きさと実測されたVVTに対するトルクの大きさとの差分を求めた後、当該差分を基に第2の修正関数を求める。従って、コンピュータ1のCPU11は、本発明における第2の修正関数生成手段として機能する。
【0037】
コンピュータ1は、シミュレーションモデルにより求められたVVTに対するトルクの大きさを第2の修正関数で補正することで、実測されたVVTに対するトルクの大きさに精度良く近似することができる。従って、コンピュータ1のCPU11は、本発明における第2の補正手段として機能する。このように、コンピュータ1は、シミュレーションモデルと第1の修正関数と第2の修正関数を基に最終モデルを作成する(ステップS109)。
【0038】
以上のことから分かるように、第1実施形態では、まず、対象の状態を示すシミュレーションモデルが作成される。次に、作成されたシミュレーションモデルの中間データについて修正関数(第1の修正関数)が求められて補正された後、シミュレーションモデルに再入力される。そして、シミュレーションモデルにより算出された出力データについても修正関数(第2の修正関数)が求められて補正される。このようにすることで、出力データを当該出力データに対応する実測データに精度良く近似することができる。
【0039】
[第2実施形態]
次に、本発明の第2実施形態に係るシミュレーションモデル作成方法について具体的に説明する。
【0040】
上述の第1実施形態では、シミュレーション装置100は、シミュレーションモデルにより求められた中間データと当該中間データに対応する実測データとの差分を基に当該中間データを補正するための修正関数を求め、当該中間データを修正関数で補正している。本発明の第2実施形態では、シミュレーション装置100は、シミュレーションモデルにより求められた中間データと当該中間データに対応する実測データとの差分を基に修正関数を求める代わりに、中間データにおける所定のパラメータの値を、前記中間データに対応する実測データにおける所定のパラメータの値に近づける修正関数が生成され、中間データにおける所定のパラメータが当該修正関数で補正される。そして、シミュレーション装置100は、補正された所定のパラメータを基に中間データを補正する。以下では、第1実施形態と同様のシミュレーションモデルを用いて説明することとする。
【0041】
図5(a)は、シミュレーションモデルにより求められた筒内圧波形のグラフ41と実測された筒内圧波形のグラフ42を示している。図5(a)において、横軸はクランク角を示し、縦軸は筒内圧の大きさを示す。ここで、クランク角をθ、グラフ41で示される筒内圧の大きさをθの関数P(θ)、グラフ42で示される実測された筒内圧の大きさをθの関数P(θ)と示すこととする。図5(b)は、シミュレーションモデルにより求められた筒内圧の大きさP(θ)と実測された筒内圧の大きさP(θ)の差分(P(θ)−P(θ))の大きさを示すグラフである。図5(b)において、横軸はクランク角θを示し、縦軸はP(θ)−P(θ)の大きさを示す。なお、以下の説明において、添字mは、実測による値であることを示し、添字pは、シミュレーションによる値であることを示すこととする。また、以下の説明において、P(θ)はPと、P(θ)はPmと略すこともある。
【0042】
図5(b)のグラフでは、差分(P(θ)−P(θ))の大きさは、クランク角に対する傾向が複雑なものとなっている。この場合、クランク角θに対し、一次関数などの低次の多項式で表すことは難しい。このことから分かるように、差分(P(θ)−P(θ))の大きさは、常に一次関数などの低次の多項式で示すことができる訳ではなく、このように差分のクランク角に対する傾向が複雑な場合には、シミュレーションモデルより算出された筒内圧Pを示す筒内圧波形を、当該差分の大きさを基に修正関数を求めて近似したとしても、実測により算出された筒内圧Pを示す筒内圧波形に精度良く近似することは難しい。
【0043】
そこで、第2実施形態では、シミュレーション装置100は、まず、シミュレーションモデルにより求められた筒内圧波形を実測された筒内圧波形に近似する際、シミュレーションモデルにより求められた筒内圧波形及び実測された筒内圧波形を夫々、中間データの他の一形態である熱発生率波形に変換して燃焼期間等のパラメータを算出する。
【0044】
図6(a)は、シミュレーションモデルにより求められた筒内圧波形のグラフを示している。図6(a)において、横軸はクランク角θを示し、縦軸は筒内圧Pの大きさを示す。図6(b)は、当該筒内圧波形を基に求められた熱発生率波形のグラフを示している。図6(b)において、横軸はクランク角θを示し、縦軸は熱発生率dQ/dθの大きさを示す。ここで、熱発生率dQ/dθは、熱発生量Qをクランク角θで微分した値である。熱発生率dQ/dθは、熱力学第1法則を用いることで、筒内圧Pより求められる。言い換えると、熱発生率波形と筒内圧波形は、熱力学第1法則を用いることで互いに変換可能である。
【0045】
図7(a)は、熱発生率dQ/dθをθで積分して求められた熱発生量Qを理論熱発生量Qfで規格化したもの、即ち、Q/Qfのグラフである。図7(a)において、横軸はクランク角θを示し、縦軸はQ/Qfの大きさを示す。図7に示すグラフにおいて、Q/Qfが50%となるときのクランク角θ50,pを50%燃焼時期のパラメータとして、Q/Qfが10から70%となるときのクランク角の期間θ10−70,pを10−70%燃焼期間のパラメータとして、排気弁開弁時期EVO(クランク角θEVO)のときのQ/Qfを燃焼効率ηc,pのパラメータとして、シミュレーション装置100は夫々求める。
【0046】
実測された筒内圧波形についても、上述したのと同様にして、熱発生率波形に変換して、上述の各パラメータを求める。具体的には、熱発生率dQ/dθを筒内圧Pより求めて、Q/Qfのグラフを求める。図7(b)は、熱発生率dQ/dθを基に求められた熱発生量Qを理論熱発生量Qfで規格化したもの、即ち、Q/Qfのグラフである。そして、当該Q/Qfのグラフより、Q/Qfが50%となるときのクランク角θ50,mを50%燃焼時期のパラメータとして、Q/Qfが10から70%となるときのクランク角の期間θ10−70,mを10−70%燃焼期間のパラメータとして、排気弁開弁時期EVOのときのQ/Qfを燃焼効率ηc,mのパラメータとして、シミュレーション装置100は夫々求める。
【0047】
次に、シミュレーション装置100は、上述の各パラメータについて実測により求められた場合の値とシミュレーションモデルにより求められた場合の値との差分を求める。即ち、50%燃焼時期の差分Δθ50=θ50,m−θ50,p、10−70%燃焼期間の差分Δθ10−70=θ10−70,m−θ10−70,p、燃焼効率の差分Δη=ηc,m−ηc,pを求める。シミュレーション装置100は、これらの各パラメータについての差分を夫々、VVTやエンジン回転数などの所定の制御変数における複数の値について求める。
【0048】
図8は、制御変数の複数の値に対する燃焼効率の差分Δηの値を示すグラフである。図8において、横軸は制御変数を示し、縦軸は燃焼効率の差分Δηを示す。図8における4つの黒点61は、例として、4つの制御変数の値K1〜K4について求められた燃焼効率の差分Δηの値をプロットしたものである。グラフ62は、プロットされた当該燃焼効率の差分Δηの値を基に、最小二乗法などの統計処理を用いて近似したグラフである。シミュレーション装置100は、このグラフ62を示す関数Δηを修正関数として、シミュレーションモデルにより求められた燃焼効率ηc,pを当該修正関数で補正した燃焼効率ηk,p(=ηc,p+Δη)を求める。この燃焼効率ηk,pは、実測により求められた燃焼効率ηc,mに近い値となる。
【0049】
シミュレーション装置100は、同様にして、50%燃焼時期の差分Δθ50、10−70%燃焼期間の差分Δθ10−70についても夫々、複数の制御変数の値についての差分の値を求めて制御変数−パラメータのグラフ上にプロットし、プロットされたパラメータの差分の値を基に、最小二乗法などの統計処理を用いて近似した関数(修正関数)を求める。このようにして求められた、50%燃焼時期の修正関数をΔθk,50、10−70%燃焼期間の修正関数をΔθk,10−70とする。そして、シミュレーション装置100は、修正関数で補正した50%燃焼時期θk,50(=θ50,p+Δθk,50)、修正関数で補正した10−70%燃焼期間θk,10−70(=θ10−70,p+Δθk,10−70)を求める。これらのパラメータθk,50、θk,10−70は夫々、実測により求められたパラメータθ50,m、θ10−70,mに近い値となる。
【0050】
シミュレーション装置100は、このようにして求められたパラメータηk,p、θk,50、θk,10−70を基にして、熱発生率dQ/dθのグラフを補正し、補正された熱発生率dQ/dθのグラフ、即ち、補正された発生率波形を筒内圧波形に再度変換する。このようにして、求められた筒内圧波形は、パラメータηk,p、θk,50、θk,10−70を基にして補正されたものであるので、上述の修正関数が反映されたものとなっている。この求められた筒内圧波形をシミュレーションモデルに入力して出力データを得る。このようにすることで、筒内圧波形の差分のクランク角に対する傾向が複雑な場合であっても精度良く近似することができる。
【0051】
(修正関数算出処理)
次に、第2実施形態に係る修正関数算出処理について、図9に示すフローチャートを用いて説明することとする。図9は、修正関数算出処理を示すフローチャートである。
【0052】
コンピュータ1は、シミュレーションモデルに入力データ、ここではクランク角を入力し、筒内圧波形を算出するまでシミュレーションを実行する(ステップS111)。ここまでの動作は、第1実施形態に係るシミュレーションモデル生成処理におけるステップS104までの動作と同様である。コンピュータ1は、シミュレーションモデルより算出された筒内圧波形を熱効率波形へ変換した後(ステップS112)、各パラメータ、即ち、50%燃焼時期θ50,p、10−70%燃焼期間θ10−70,p、燃焼効率ηc,pの各パラメータを求める(ステップS113)。
【0053】
また、コンピュータ1は、実測データを基に筒内圧波形を算出する(ステップS114)。コンピュータ1は、実測データを基に算出された筒内圧波形を熱効率波形へ変換した後(ステップS115)、各パラメータ、即ち、50%燃焼時期θ50,m、10−70%燃焼期間θ10−70,m、燃焼効率ηc,mの各パラメータを求める(ステップS116)。
【0054】
コンピュータ1は、各パラメータの差分、即ち、50%燃焼時期の差分Δθ50=θ50,m−θ50,p、10−70%燃焼期間の差分Δθ10−70=θ10−70,m−θ10−70,p、燃焼効率の差分Δη=ηc,m−ηc,pを夫々、所定の制御変数における複数の値について算出する(ステップS117)。コンピュータ1は、これら各パラメータの差分を基に修正関数、即ち、修正関数Δη、Δθk,50、Δθk,10−70を求める(ステップS118)。次に、コンピュータ1は、修正関数で修正した各パラメータ、即ち、燃焼効率ηk,p(=ηc,p+Δη)、50%燃焼時期θk,50(=θ50,p+Δθk,50)、10−70%燃焼期間θk,10−70(=θ10−70,p+Δθk,10−70)を求める(ステップS119)。
【0055】
コンピュータ1は、修正関数で修正した各パラメータを基に、熱発生率波形を補正した後(ステップS120)、筒内圧波形に再度変換して(ステップS121)、処理を終了する。この後の動作は、第1実施形態に係るシミュレーションモデル作成処理におけるステップS106以降の動作と同様である。即ち、コンピュータ1は、補正後の筒内圧波形をシミュレーションモデルに再入力し、出力データを算出する。
【0056】
以上のことから分かるように、第2実施形態では、シミュレーション装置100は、中間データにおける所定のパラメータの値を、対象の状態を実測して得られた当該中間データに対応する実測データにおける所定のパラメータの値に近づける修正関数を生成し、当該中間データにおける所定のパラメータを当該修正関数で補正する。そして、シミュレーション装置100は、当該中間データを、補正された当該所定のパラメータを基に補正する。このようにすることで、中間データと実測データの差分の傾向が複雑な場合であっても、当該中間データを実測データに精度良く近似することができる。
【0057】
なお、第2実施形態では、上述の方法は、中間データを当該中間データに対応する実測データに近似する場合に適用されるとしているが、これに限られるものではなく、代わりに又は追加して、出力データを当該出力データに対応する実測データに近似する場合についても適用可能なのは言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】本発明の各実施形態に係るシミュレーション装置の模式図である。
【図2】筒内圧波形を示すグラフである。
【図3】VVTに対するトルクの大きさを示すグラフである。
【図4】シミュレーションモデル生成処理を示すフローチャートである。
【図5】筒内圧波形を示すグラフである。
【図6】筒内圧波形及び熱効率波形を示すグラフである。
【図7】熱発生量を理論熱発生量で規格化したグラフである。
【図8】制御変数の複数の値に対する上述の各パラメータの差分の値を示すグラフである。
【図9】修正関数算出処理を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0059】
1 コンピュータ
2 計測装置
3 エンジン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象の状態を推定するモデルを作成するシミュレーション装置であって、
前記対象の物理的な性質を考慮したシミュレーションモデルを作成するシミュレーションモデル作成手段と、
前記シミュレーションモデルに入力データを入力して算出途中の値として得られる中間データを、前記対象の状態を実測して得られた前記中間データに対応する実測データに近づける第1の修正関数を生成する第1の修正関数生成手段と、
前記中間データを前記第1の修正関数で補正する第1の補正手段と、
前記シミュレーションモデルに前記第1の補正手段により補正された前記中間データを入力して最終結果として得られる出力データを、前記対象の状態を実測して得られた前記出力データに対応する実測データに近づける第2の修正関数を生成する第2の修正関数生成手段と、
前記出力データを前記第2の修正関数で補正する第2の補正手段と、を備えることを特徴とするシミュレーション装置。
【請求項2】
前記第1の修正関数生成手段は、前記中間データと前記対象の状態を実測して得られた前記中間データに対応する実測データとの差分を基に前記第1の修正関数を生成することを特徴とする請求項1に記載のシミュレーション装置。
【請求項3】
前記第1の修正関数生成手段は、前記中間データにおける所定のパラメータの値を、前記対象の状態を実測して得られた前記中間データに対応する実測データにおける前記所定のパラメータの値に近づける第1の修正関数を生成し、
前記第1の補正手段は、前記第1の修正関数で前記中間データにおける所定のパラメータの値を補正すると共に、補正された前記所定のパラメータを基に前記中間データを補正することを特徴とする請求項1に記載のシミュレーション装置。
【請求項4】
対象の状態を推定するモデルを作成するシミュレーション方法であって、
前記対象の物理的な性質を考慮したシミュレーションモデルを作成するシミュレーションモデル作成工程と、
前記シミュレーションモデルに入力データを入力して算出途中の値として得られる中間データを、前記対象の状態を実測して得られた前記中間データに対応する実測データに近づける第1の修正関数を生成する第1の修正関数生成工程と、
前記中間データを前記第1の修正関数で補正する第1の補正工程と、
前記シミュレーションモデルに前記第1の補正工程により補正された前記中間データを入力して最終結果として得られる出力データを、前記対象の状態を実測して得られた前記出力データに対応する実測データに近づける第2の修正関数を生成する第2の修正関数生成工程と、
前記出力データを前記第2の修正関数で補正する第2の補正工程と、を備えることを特徴とするシミュレーション方法。
【請求項5】
コンピュータによって実行されるシミュレーションプログラムであって、
対象の物理的な性質を考慮したシミュレーションモデルを作成するシミュレーションモデル作成手段、
前記シミュレーションモデルに入力データを入力して算出途中の値として得られる中間データを、前記対象の状態を実測して得られた前記中間データに対応する実測データに近づける第1の修正関数を生成する第1の修正関数生成手段、
前記中間データを前記第1の修正関数で補正する第1の補正手段、
前記シミュレーションモデルに前記第1の補正手段により補正された前記中間データを入力して最終結果として得られる出力データを、前記対象の状態を実測して得られた前記出力データに対応する実測データに近づける第2の修正関数を生成する第2の修正関数生成手段、
前記出力データを前記第2の修正関数で補正する第2の補正手段、として前記コンピュータを機能させることを特徴とするシミュレーションプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2008−52529(P2008−52529A)
【公開日】平成20年3月6日(2008.3.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−228717(P2006−228717)
【出願日】平成18年8月25日(2006.8.25)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】