説明

ショートカットポリエステル複合繊維

【課題】 自然環境下で分解する性能を有し、かつ環境への影響が少ない素材であって、風合いがソフトで、ヒートシール等の熱融着を施した後であっても、風合いが硬くならず、かつヒートシール部が脆くならずに実用的な引裂強力を保持しうる繊維を提供する。
【解決手段】 ポリ乳酸が芯成分、ポリアルキレンサクシネートに乳酸が1〜10モル%共重合したポリマーが鞘成分に配された芯鞘型複合繊維であり、前記複合繊維の横断面において芯成分が一つの場合は芯成分と鞘成分とは略同心に配置されており、芯成分が2個以上の場合は鞘成分中に略均等に配置されており、前記複合繊維の繊維長が25mm以下、複合繊維には機械捲縮が付与されてないショートカットポリエステル複合繊維。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ショートカットポリエステル複合繊維に関するものである。詳しくは、湿式抄紙法により得られる湿式シートや、電着により植毛されたフロック加工製品のフロッキーパイルに適用するのに好適なショートカットポリエステル複合繊維に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ビニロン、ナイロン、ポリエチレンテレフタレート等の合成繊維で捲縮が付与されていない繊維長25mm以下のショートカット繊維は、湿式シートやフロック加工製品のフロッキーパイルとして用いられることで知られている。
【0003】
すなわち、湿式シートは、繊維長5〜25mm程度のショートカット繊維を、水中に分散させ、紙を抄くのと同様の方法で湿式抄紙により得られる。
【0004】
また、フロック加工製品は、1〜2mm程度のフロッキーパイルとなるショートカット繊維を、接着剤を塗布した織編物やプラスチック等の基材上に電荷を利用してショートカット繊維が垂直に立つように植毛接着(電着)することにより得られる。
【0005】
しかし、上記したビニロン、ナイロン、ポリエチレンテレフタレート等の合成繊維は、限りある化石資源である石油を主原料としている。そして、これらの合成繊維は、自然環境下ではほとんど分解されず廃棄処理が問題となる。
【0006】
この問題に対して、トウモロコシなどの植物資源を原料としたポリ乳酸を繊維化したものが開発・製品化されている。ポリ乳酸繊維は、廃棄の際にコンポストや土壌中などの自然環境下で最終的に炭酸ガスと水に分解される。そして、これらは再び光合成によって植物に取り込まれるため、ポリ乳酸は、究極のリサイクル素材として注目されている。そして、2種の融点の異なるポリ乳酸を用いた複合繊維が提案されている(特許文献1)。
【0007】
しかしながら、ポリ乳酸は、ヤング率が高いポリマーであり、繊維化して得られるポリ乳酸繊維は、風合いが硬く、耐摩耗性や耐久性が従来の合成繊維より劣るという問題がある。例えば、特許文献1記載のような2種の融点の異なるポリ乳酸を用いた複合繊維であって、機械捲縮が付与されず、かつショートカット(繊維長5〜25mm程度)のものを湿式抄紙の材料として用い、湿式シートを得、これをヒートシール加工したところ、ヒートシール部分が硬くて脆くなってしまい、引き裂かれやすく、ヒートシール強力が劣ったものとなってしまう。
【特許文献1】特開平7−310236号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、自然環境下で分解する性能を有し、かつ環境への影響が少ない素材であって、風合いがソフトで、ヒートシール等の熱融着を施した後であっても、風合いが硬くならず、かつヒートシール部が脆くならずに実用的なヒートシール強力を保持しうる繊維を提供することにある。
【0009】
本発明者等は、上課題を達成するために検討した結果、結晶性の高いポリ乳酸と、特定の共重合ポリマーを用いて特定の複合形態の繊維とすることによって、自然環境下で分解する性能を有しながら、繊維自体が硬くなく、かつヒートシール等の熱融着を施した部分(ヒートシール部)においても、硬く脆くならずに実用的なヒートシール強力を保持していることを見出し、本発明に到達した。
【課題を解決するための手段】
【0010】
すなわち、本発明は、ポリ乳酸が芯成分、ポリアルキレンサクシネートに乳酸が1〜10モル%共重合したポリマーが鞘成分に配された芯鞘型複合繊維であり、前記複合繊維の横断面において芯成分が一つの場合は芯成分と鞘成分とは略同心に配置されており、芯成分が2個以上の場合は鞘成分中に略均等に配置されており、前記複合繊維の繊維長が25mm以下、複合繊維には機械捲縮が付与されてないことを特徴とするショートカットポリエステル複合繊維を要旨とするものである。
【0011】
以下、本発明についてさらに詳細に説明する。
【0012】
本発明のショートカットポリエステル複合繊維(以下、ショートカット複合繊維と記載することもある。)は、ポリ乳酸が芯成分、ポリアルキレンサクシネートに乳酸が1〜10モル%共重合したポリマーが鞘成分に配された芯鞘型複合繊維であり、複合繊維の横断面において芯成分と鞘成分とは略同心に配置されている。
【0013】
芯成分に配されるポリ乳酸としては、ポリL−乳酸、ポリD−乳酸、L−乳酸とD−乳酸の共重合体であるポリDL−乳酸、あるいはポリL−乳酸とポリD−乳酸の混合物(ステレオコンプレックス)のいずれでもよい。
【0014】
ポリ乳酸として、L−乳酸とD−乳酸の共重合体であるポリDL−乳酸を用いる場合のD−乳酸とL−乳酸の共重合比(D−乳酸/L−乳酸)は、100/0〜95/5、5/95〜0/100が好ましい。上記共重合比を外れる共重合体は、融点が低くなり、また、非晶性が高くなる。非晶性の高いポリマーでは、製造工程において、特に熱延伸が施し難くなるため高強度の繊維が得られにくくなる。また、繊維が得られたとしても、耐熱性、耐摩耗性に劣る傾向となる。
【0015】
また、上記したポリ乳酸の中では、ポリL−乳酸とポリD−乳酸の混合物(ステレオコンプレックス)は、融点が200〜230℃と高く、高温染色やアイロン加工にも耐え得るので好ましい。
【0016】
また、芯成分に配されるポリ乳酸としては、本発明の目的が損なわれなければ、上記したポリ乳酸にヒドロキシカルボン酸や脂肪族ジカルボン酸、脂肪族ジオールが共重合してなるものであってもよい。ヒドロキシカルボン酸としては、グリコール酸、ヒドロキシ酪酸、ヒドロキシ吉草酸、ヒドロキシカプロン酸、ヒドロキシペンタン酸、ヒドロキシヘプタン酸、ヒドロキシオクタン酸等が挙げられる。脂肪族ジカルボン酸および脂肪族ジオールとしては、セバシン酸、アジピン酸、ドデカン二酸、トリメチレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール等が挙げられる。
【0017】
ポリ乳酸の粘度は、ASTM D1238に記載の方法に準じて、温度210℃、荷重20.2N(2160gf)で測定したメルトフローレート(以下、MFRと略記する。)が5〜100g/10分であることが好ましく、10〜50g/10分であることがより好ましい。MFRが5g/10分未満であると、溶融押出が困難となるだけでなく、繊維の機械的強力が低下する傾向にある。一方、MFRが100g/10分を超える場合、溶融押出により良好に繊維化しにくい。
【0018】
ポリ乳酸の耐加水分解性を高めることを目的として、ポリ乳酸にカルボジイミド化合物、オキサゾリン化合物、オキサジン化合物、エポキシ化合物などの末端封鎖剤を添加してもよい。
【0019】
本発明のショートカット複合繊維の鞘成分は、ポリアルキレンサクシネートに乳酸が1〜10モル%共重合したポリマーが配される。なお、鞘成分のポリマーを熱接着成分として機能させる場合には、芯成分であるポリ乳酸の融点よりも鞘成分のポリマーの融点を30℃以上低く設定することが好ましい。
【0020】
鞘成分のポリマーにおけるポリアルキレンサクネートとしては、エチレンサクシネート、ブチレンサクシネート、プロピレンサクシネート等が挙げられ、これらはエチレングリコール、ブタンジオール等のアルキレンジオールとコハク酸とが共重合したものである。また、本発明の目的を損なわない範囲で、上の繰り返し単位に、ε−カプロラクトン等の環状ラクトン類、α−ヒドロキシ酪酸、α−ヒドロキシイソ酪酸、α−ヒドロキシ吉草酸等のα−オキシ酸類、エチレングリコール、1,4−ブタンジオール等のグリコール類、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、リンゴ酸等のジカルボン酸類を共重合させてもよいが、これらの共重合量は30モル%以下の範囲であることが好ましい。
【0021】
鞘成分のポリマーは、ポリアルキレンサクシネートに乳酸が1〜10モル%共重合されている。鞘成分のポリマーは、乳酸が共重合してなるものであることによって、鞘成分のポリマーと芯成分部のポリ乳酸との相溶性が飛躍的に良化する。芯成分と鞘成分との相溶性が低い場合、繊維自体の強度を高くすることが難しい。また、鞘成分のポリマーを熱接着成分として機能させる場合、すなわち、本発明のショートカット複合繊維を熱接着性繊維として機能させる場合に、芯成分と鞘成分との相溶性が低いと、溶融した鞘成分が、芯成分との界面が小さくなるような挙動を示し、流動して島状に凝集するという現象が起こるため、接着強力が低くなる。本発明のショートカット複合繊維は、鞘成分に配するポリマーが乳酸を含有していることで、すなわち、芯成分に配されるポリ乳酸と共通の成分を含有させることにより、鞘成分と芯成分との相溶性が良化し、高強度の繊維が得られ、ポリ乳酸のみによって形成される繊維と比較して、繊維自体の柔軟性や肌触り性にも優れる。また、熱融着処理を施した場合において、熱融着部分(ヒートシール部分)は、前述のような現象が起こりにくく、硬くかつ脆くならず、容易に引き裂かれることはなく、実用的なヒートシール強力を保持することができる。
【0022】
鞘成分において、共重合する乳酸が1モル%未満であると、鞘成分と芯成分との相溶性が十分に良化せず、上記の効果が得られにくい。一方、共重合する乳酸が10モル%を超えると、ポリ乳酸との相溶性はより良好ではあるが、ポリアルキレンサクシネートの本来有する柔軟性が損なわれ、得られる繊維は硬く屈曲性に欠けるものとなり、本発明の目的が達成されない。本発明においては、ポリアルキレンサクシネートに乳酸が1〜5モル%共重合されているポリマーを鞘成分に配することが好ましい。
【0023】
なお、ポリアルキレンサクシネートに共重合する乳酸は、L−乳酸であっても、D−乳酸でもよい。また、乳酸は、モノマー単位で共重合してなるものを基本とするが、本発明の効果を損なわない範囲でオリゴマー単位(2個〜10個程度)のものが一部含まれていてもよい。
【0024】
鞘成分のポリマーの融点は、90℃以上であることが好ましい。融点が90℃未満であると、紡糸や延伸時に密着が起こりやすく、操業性に劣る傾向にある。なお、鞘成分のポリマーの上限は、特に限定されないが、このポリマーを熱接着成分として機能させる場合は、140℃以下とするのがよい。融点が140℃を超えると、芯成分に配される結晶性が良好で汎用性が高いポリ乳酸(融点170℃程度のポリDL−乳酸)との融点差が小さくなるため、熱接着処理を行おうとすると設定温度の幅が小さくなり、芯成分に熱の影響を受けないようにするには、設定温度を十分に上げることができにくいため、熱接着成分が十分に溶融せず接着性が低下する傾向となるためである。
【0025】
鞘成分のポリマーの粘度は、ASTM D 1238に記載の方法に準じて、温度190℃、荷重20.2N(2160gf)で測定したMFRが10〜80g/10分であることが好ましく、20〜40g/10分であることがより好ましい。MFRが10g/10分未満であると、溶融押出が困難となるだけでなく、繊維の機械的強力が低下する傾向にある。一方、MFRが80g/10分を超えても、溶融押出により良好に繊維化しにくい。
【0026】
芯成分のポリ乳酸および鞘成分のポリマーには、本発明の目的を損なわない範囲で必要に応じて、熱安定剤、結晶核剤、艶消し剤、顔料、耐候剤、耐光剤、滑剤、酸化防止剤、抗菌剤、香料、可塑剤、染料、界面活性剤、難燃剤、表面改質剤、各種無機および有機電解質、その他類似の添加剤を添加してもよい。
【0027】
本発明のショートカット複合繊維の繊度は、用途に応じて適宜選択すればよく、また、生産性、操業安定性、柔軟性などを考慮して1〜20デシテックス程度が好ましく、1.7〜10デシテックスがより好ましい。
【0028】
本発明のショートカット複合繊維において、芯成分と鞘成分の芯鞘比率については、特に限定しないが、芯/鞘の容積比で30/70〜70/30が好ましい範囲である。
【0029】
本発明のショートカット複合繊維は、横断面において芯成分が一つの場合は、芯成分と鞘成分とは略同心に配置されている。また、本発明のショートカット複合繊維は、横断面において芯成分が2個以上の場合(複数の芯成分を島、それぞれの芯成分を取り囲む鞘成分を海として、海島型ともいう)は、鞘成分中に芯成分が略均等に配置されている。本発明のショートカット複合繊維は、芯成分と鞘成分とが上記のように配置されることにより、実質的にパイル曲がりがない。本発明において、実質的にパイル曲がりがないとは、下方法にて測定したパイル曲がりの度合いが10%以下であるものをいう。すなわち、繊維長10mmにカットしたサンプルを用意し、このサンプルを紙上に載置し、温度20℃、湿度60%の雰囲気下に一週間放置する。一週間後、サンプルの両端を結んだ線分(L)と、その線分から最も離れたサンプル上の点までの垂線(L1)の長さを測定し、線分(L)に対する垂線(L1)の距離の比を算出する。10個のサンプルの測定を行い、それぞれ比を求め、その平均値をパイル曲がりの度合いとする。なお、ショートカット複合繊維の繊維長が10mm未満の場合は、ショートカット複合繊維を得る前(所定の長さにカットする前)の繊維から10mmのサンプルを得て測定する。
【0030】
本発明のショートカット複合繊維は、上記複合形態であることから、実質的にパイル曲がりがないため、本発明のショートカット複合繊維をフロッキーパイルとして用い、電着フロック加工を行う際、均一に植毛することができ、品位および風合いの良好なフロック加工製品を得ることができる。また、本発明のショートカット複合繊維を用いて湿式抄紙により湿式シートを得る場合、湿式法によって水中に繊維を分散させるが、水中に均一に繊維が分散し、斑のない品質の高い湿式シートを得ることができる。なお、本発明のショートカット複合繊維には、機械捲縮は付与されていない。
【0031】
本発明のショートカット複合繊維の繊維長は、25mm以下である。本発明のショートカット複合繊維を用いて、例えば、ショートカット複合繊維を、例えばフロック加工製品のフロッキーパイルとして用いる場合には、繊維長は2mm程度以下がよく、下限は0.3mm程度がよい。また、湿式シートを得る場合には、繊維長は5〜25mmがよく、好ましくは5〜15mmである。
【0032】
また、ショートカット複合繊維の横断面形状は、芯成分と鞘成分とが前述したように配されていれば、特に限定するものではなく、円形断面に以外に、扁平形、多角形、多葉形等などであってもよい。また、中空部を有するものでもよい。
【0033】
本発明のショートカット複合繊維は、以下の方法により得る。すなわち、ポリ乳酸とポリアルキレンサクシネートに乳酸が1〜10モル%共重合されているポリエステルを通常の複合紡糸装置(同心芯鞘型の複合紡糸装置、あるいは複数の芯成分(島)が鞘成分(海)中に均等に配置した海島型の複合紡糸装置)を用いて溶融紡糸し、冷却、油剤を付与した後、延伸することなく一旦巻取る。この未延伸糸を数十万〜二百万デシテックスのトウに集束して、延伸倍率2〜5倍、延伸温度40〜80℃で延伸を行い、80〜130℃で熱処理を施す。続いて、仕上げ油剤を付与し、乾燥機で乾燥を行い、さらにECカッター等のカッターで目的とする長さ(繊維長25mm以下)に切断して本発明のショートカット複合繊維を得る。なお、繊維長2mm以下に切断する場合は、トウ(糸条束)をギロチンカッターを用いてカットするとよい。
【0034】
本発明のショートカット複合繊維は、フロック加工製品のフロッキーパイルとして用いることに好適である。本発明のショートカット複合繊維を、接着剤を塗布した基材(織編物、不織布、木材、金属、プラスチック等)上に、散布,吹付,振動あるいは高電圧の静電気を利用して固着させる。高電圧の静電気を利用して電気植毛(電着)による方法が好ましい。本発明のショートカット複合繊維は、前述したように硬くなく柔軟性を有するため、得られるフロック加工製品は、表面がビロード調もしくは皮革調の肌触りおよび風合いの良好な製品が得られる。本発明のショートカット複合繊維をフロッキーパイルとして使用する場合、一旦水中に分散させたり、染色液中で100℃程度以下の低温で処理して所望の色に染色すると同時にフロッキーパイル1本1本をバラバラにしてから乾燥、梱包して出荷するとよい。
【0035】
また、本発明のショートカット複合繊維は、湿式抄紙により湿式シートを得る際の構成繊維として用いることに好適である。前述したように、本発明のショートカット複合繊維は実質的にパイル曲がりがないため、湿式抄紙法によって水中に繊維を分散させるが、水中に均一に繊維が分散し、斑のない品質の高い湿式シートを得ることができる。湿式シートを得る際には、シートを構成する繊維として本発明のショートカット複合繊維のみを用いてもよいが、他の繊維を混合してもよい。ショートカット複合繊維を用いて得られる湿式シートは、ヒートシール加工を施すことにより袋状にして用いることができる。ヒートシール部は、硬くかつ脆くならず、実用的な引裂強力が保持できる。
【発明の効果】
【0036】
本発明は、芯成分がポリ乳酸で構成され、鞘成分がポリアルキレンサクシネートに特定量の乳酸が共重合してなるポリマーにより構成される芯鞘型複合繊維によって構成されるショートカットポリエステル複合繊維であり、使用後に焼却した場合に、大気汚染が無く、環境への影響が少ない素材である。また、かつ、実用的な強力を有しながらも、風合いがソフトで、柔軟性を有する。したがって、本発明のショートカットポリエステル複合繊維は、フロック加工製品のフロッキーパイルとして好適に用いることができ、表面がビロード調もしくは皮革調の品位が高く、肌触りおよび風合いの良好なフロック加工製品を得ることができる。また、本発明のショートカットポリエステル複合繊維は、湿式抄紙法により湿式シートを得るための繊維材料として好適に用いることができ、柔軟性を有し、かつ良好にヒートシール加工が可能な湿式シートを得ることができる。
【実施例】
【0037】
以下、実施例によって本発明を詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、実施例における特性値等の測定法は、次の通りである。また、MFRの測定法は上記したとおりである。
【0038】
(1)融点(℃)
パーキンエルマ社製の示差走査型熱量計DSC−2型を用い、昇温速度20℃/分の条件で測定し、得られた融解吸熱曲線において極値を与える温度を融点とした。
【0039】
(2)単糸繊度(dtex)
JIS L−1015 8.5.1 正量繊度のA法により測定した。
【0040】
(3)湿式シートの引張強力(cN/25mm幅)
シートを幅25mm、長さ150mmの短冊状に切断し、試料を作成した。この試料を定速伸張型引張試験機(オリエンテック社製 テンシロン UTM−4型)を用いて、つかみ間隔100mm、引張速度100mm/分の条件で伸長切断し、最大強力を読み取った。本発明においては、引張強力1000cN以上を実用的な強力を有するものとした。
【0041】
(4)湿式シートの剛軟度(cm)
JIS L−1096記載の45度カンチレバー法に基づき、試料の先端が45度の斜面に接触するまでの移動距離(cm)を測定した。本発明においては剛軟度(移動距離)が10cm未満を柔軟性が良好とした。
【0042】
(5)湿式シートの風合い
湿式シートを10人のパネラーによる手触り試験により、風合いのソフト性を官能評価した。10人中9人以上が風合いがソフトであると評価した場合は○、5〜8人が風合いがソフトであると評価した場合は△、同じく4人以下である場合は×とした。
【0043】
(6)耐摩耗性(回)
得られた湿式シートを用いて、JIS L1018 8.18.1 磨耗強さのA法 により測定した。なお、試料を試料取付台に取り付けた後に試料片に与える張力は(11.1N)の引張荷重とし、摩擦子の押圧荷重は(22.3N)とした。
【0044】
(7)ヒートシール強力(cN)
シートを幅25mm、長さ150mmの短冊状に切断して得た試料2枚を重ね、ヒートシーラーを用いて処理温度140℃にて、重ねた試料の中央部付近(端部より75mm辺り)をヒートシールした。ヒートシール部分の巾は10mmとした。定速伸張型引張試験機(オリエンテック社製 テンシロン UTM−4型)を用いて、それぞれ試料の端部をチャックでつかんで、つかみ間隔10cmとしてチャック間の中央部にヒートシール部分がくるようにセットし、引張速度10cm/分として剥離させ、剥離するときに示す極大値の大きいものより3個、極小値の小さいものより3個をとり、合計6個の平均値をヒートシール強力とした。
【0045】
実施例1
ポリ乳酸(MFR21g/10分、D−乳酸/L乳酸の共重合比=1.3/98.7、融点170℃)を芯成分とし、L−乳酸を3.0モル%共重合したポリブチレンサクシネート(MFR32g/10分、融点109℃)を鞘成分とし、孔数560孔、円形断面芯鞘複合紡糸口金を用い、芯鞘比率が溶融容積比として芯:鞘=50:50となるように計量し、紡糸温度230℃、紡糸速度800m/分で、芯成分と鞘成分とが同心となるように溶融紡糸し、ポリ乳酸系複合繊維の未延伸糸を得た。次いで、得られた未延伸糸を延伸温度60℃、延伸倍率3.5倍で延伸し、仕上げ油剤を付与後に70℃で乾燥させ、機械捲縮を付与することなく長さ10mmに切断し、芯成分と鞘成分とが略同心に配された芯鞘型のショートカット複合繊維を得た。得られたショートカット複合繊維は、単糸繊度が2.4dtex、パイル曲がり度合いが3.0%であった。
【0046】
得られたショートカット複合繊維40質量%と、湿式抄紙用ポリ乳酸繊維(ユニチカファイバー社製<PL01> 単糸繊度2.2dtex×繊維長5mm)60質量%とを混合し、紙料濃度0.1%、界面活性剤濃度0.02%として水中に分散させたところ均一に分散した。これを25cm四方の角型シートマシンを用いて湿式抄紙を行ったところ、地合の良好なシートが得られた。得られたシートを110℃のヤンキードライヤーを通して乾燥させて余分な水分を除去し、さらに110℃の熱ローラーに通して熱圧着処理を施し、目付35g/m2の本発明の湿式シートを得た。
【0047】
得られた湿式シートの評価結果を表1に示す。
【0048】
実施例2〜3、比較例1
芯鞘型複合繊維の鞘成分のポリマーとして、ポリブチレンサクシネートに共重合する乳酸の共重合量を表1に示すものを用いたこと以外は、実施例1と同様にして実施した結果を表1に示す。
【0049】
実施例4
鞘成分のポリマーとして、L−乳酸を3.0モル%共重合したポリエチレンサクシネート(MFR29g/10分、融点101℃)を用いたこと以外、実施例1と同様にしてショートカット複合繊維および湿式シートを得た。結果を表1に示す。
【0050】
比較例2
鞘成分のポリマーとして、L−乳酸/D−乳酸の共重合比8.8/91.2(MFR=24/10分、融点130℃)を用いたこと以外、実施例1と同様にしてショートカット複合繊維および湿式シートを得た。結果を表1に示す。
【0051】
【表1】

表1より、明らかなように、本発明の要件を満たす実施例1〜4の湿式シートは、実用的な強力を有し、また、風合いも非常にソフトであり、耐摩耗性も良好であった。また、ヒートシール強力も非常に高く、ヒートシール性に優れたものであった。
【0052】
一方、比較例1は、鞘成分のポリマーにおける乳酸の共重合量が少なく、芯成分のポリ乳酸との相溶性が十分ではないため、接着性が悪くなり、湿式シートの強力は劣るものであった。また、ヒートシール強力も実施例を比較すると非常に値が小さいものであり、ヒートシール部は脆くて硬いものであった。
【0053】
鞘成分に低融点のポリ乳酸を用いた比較例2は、湿式シートの強力は高いが、剛性が高く、ソフト性に欠けるものであった。また、ヒートシール強力も実施例を比較すると非常に値が小さいものであり、ヒートシール部は脆くて硬いものであった。
【0054】
実施例5
実施例1において、長さ1mmに切断した略同心に配された芯鞘型のショートカット複合繊維を得た。
【0055】
得られたショートカット複合繊維をコロイダルシリカを少量加えた水中に入れて撹拌、分散させた後、乾燥し、一本一本をバラバラにして粉末状繊維(フロッキーパイル)とした。この粉末状繊維を高電圧のかかった電界の一方に供給して荷電させた。電界の他方にはポリウレタン系接着剤を塗布した83dtex/36fのポリエステル糸使用したタフタ織物を放置し、粉末状繊維をタフタ織物に向けて加速し、投錨させた。得られた電着フロック加工品を150℃で2分間熱処理したところ、柔らかみのある皮革様の風合いのフロック加工製品が得られた。
【0056】
比較例3
比較例2において得られた複合繊維を、長さ1mmに切断して略同心に配された芯鞘型のショートカット複合繊維を得、これを用いて、実施例5と同様にして、フロック加工製品を得た。得られた製品は、実施例5で得られたフロック加工製品に比べ、粗硬感が強く、風合いに劣るものであった。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリ乳酸が芯成分、ポリアルキレンサクシネートに乳酸が1〜10モル%共重合したポリマーが鞘成分に配された芯鞘型複合繊維であり、前記複合繊維の横断面において芯成分が一つの場合は芯成分と鞘成分とは略同心に配置されており、芯成分が2個以上の場合は鞘成分中に略均等に配置されており、
前記複合繊維の繊維長が25mm以下、複合繊維には機械捲縮が付与されてないことを特徴とするショートカットポリエステル複合繊維。
【請求項2】
請求項1記載の芯鞘型複合繊維が、実質的にパイル曲がりがないことを特徴とする請求項1記載のショートカットポリエステル複合繊維。
【請求項3】
請求項1または2記載のショートカットポリエステル複合繊維からなるフロッキーパイルが、基材に植毛されて固着していることを特徴とするフロック加工製品。
【請求項4】
請求項1または2記載のショートカットポリエステル複合繊維を用いて湿式抄紙法により得られることを特徴とする湿式シート。


【公開番号】特開2008−303488(P2008−303488A)
【公開日】平成20年12月18日(2008.12.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−150869(P2007−150869)
【出願日】平成19年6月6日(2007.6.6)
【出願人】(399065497)ユニチカファイバー株式会社 (190)
【Fターム(参考)】