説明

シランで修飾した重合体

本発明は、加水分解性シラン基をポリオレフィンにグラフト化する方法であって、ポリオレフィンと、オレフィン−C=C−結合又はアセチレン−C≡C−結合を含有し、かつSiに結合した少なくとも1つの加水分解性基を有する不飽和シラン、又はその加水分解生成物とを重合体中にフリーラジカル部位を生成し得る手段の存在下で反応させることを含む、方法に関する。不飽和シランは、芳香環又はさらなるオレフィン二重結合若しくはアセチレン不飽和を含有し、その芳香環又はさらなるオレフィン二重結合若しくはアセチレン不飽和は不飽和シランのオレフィン−C=C−不飽和又はアセチレン−C≡C−不飽和と共役する。不飽和シランは、オレフィン−C=C−結合又はアセチレン−C≡C−結合に対する電子求引部分も含有し得る。本発明により、鎖切断による重合体の分解を制限/防止しながら高いグラフト化効率を有するシラン修飾ポリオレフィンを提供することができる。シラン修飾ポリオレフィンをさらに、極性表面、フィラー若しくは極性重合体と反応させるか、又は自己反応させて、ポリオレフィンを架橋し、それから製造される複合材料の物性を高めることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加水分解性基及び架橋性基を重合体にグラフト化する方法並びに製造したグラフト重合体、並びにグラフト化重合体を架橋する方法に関する。本発明は特に、加水分解性シラン基をポリオレフィンにグラフト化する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリオレフィンは極性が低く、これは多くの用途にとって重要な利点である。しかしながら、場合によっては、ポリオレフィンの非極性な特質が不利点となり、様々な最終用途においてその用途を制限する可能性がある。例えば、ポリオレフィンは化学的に不活性であるために、ポリオレフィンを官能化及び架橋することは困難である。高分子骨格に特定の化合物をグラフト化してポリオレフィン樹脂を修飾すると性質が向上することが知られている。特許文献1及び特許文献2には、無水マレイン酸とポリプロピレンとを反応させる方法が記載されている。特許文献3には、溶融条件下及び過酸化物の存在下で、環状エチレン性不飽和カルボン酸及び無水物をポリエチレンにグラフト化することが記載されている。これらのタイプの単量体は高分子鎖に極性を付与するものであるが、架橋の機会はもたらさない。
【0003】
これらの特許に記載されている技術は、ポリエチレンを官能化及び架橋するのに効率的なものである。しかしながら、上記技術を用いてポリプロピレンを官能化しようとすると、グラフト化はβ位での鎖切断、すなわち、いわゆるβ切断による重合体の分解を伴う。かかる分解の結果、加工する材料の粘度が低下する。さらに、この分解により、出発原料と比較して性能の劣る重合体が生じる。
【0004】
特許文献4には、高分子鎖の切断を防止する芳香族化合物等の架橋助剤の存在下で過酸化物を用いた、ビニル単量体による修飾ポリオレフィンの製造が記載されている。ビニルシランをポリエチレンと共に用いることが記載されている。しかしながら、無水マレイン酸がポリプロピレンと共に用いるのに好ましい単量体であることが記載されている。また、特許文献5には、重合体の分解を防止するためにスチレンと非シラン単量体とを併用することが記載されている。特許文献6には、ポリプロピレンと、不飽和エポキシ化合物、スチレン及び過酸化物とを加熱混合することによって、単量体をポリプロピレンにグラフト化することが記載されている。
【0005】
「シラングラフト化湿分架橋ポリプロピレンの性質に対するグラフト化処方及び加工条件の影響(Influences of grafting formulations and processing conditions on properties of silane grafted moisture crosslinked polypropylenes)」と題する非特許文献1の論文には、ポリプロピレンと不飽和シランとのグラフト化及び達成される架橋度(ゲル分率(gel percentage))及びポリプロピレン分解度が記載されている。記載されている不飽和シランは、メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン及びビニルトリエトキシシランである。「シラングラフト化ポリプロピレンの性質に対するグラフト化処方及び押出条件の影響(Influences of grafting formulations and extrusion conditions on properties of silane grafted polypropylenes)」と題する非特許文献2の論文には、二軸押出機を用いた同様なグラフト化方法が記載されている。「ポリプロピレンへのシラングラフトの加水分解架橋(Hydrolytic crosslinking of silane graft onto polypropylene)」と題する非特許文献3の論文も同様である。「シラングラフト化及び架橋ポリプロピレンを調製する一段階法の機構(Mechanism of a one-step method for preparing silane grafting and crosslinking polypropylene)」と題する非特許文献4の論文には、二軸反応押出機における一段階法でのシラングラフト化及び架橋が記載されている。スチレン等の架橋助剤をシランと併用すると重合体の分解が阻害されるが、依然としてシランのグラフト化効率を向上させる必要がある。
【0006】
特許文献7には、ポリオレフィン、特にポリエチレンと不飽和加水分解性シランとを、ポリオレフィン中にフリーラジカル部位を生成し得る化合物の存在下、140℃を上回る温度で反応させる(グラフト化する)ことによって、ポリオレフィンを架橋することが記載されている。引き続いて反応生成物を水分及びシラノール縮合触媒に曝すことにより、架橋が起こる。この方法は商業的に広く用いられている。特許文献8、特許文献9、特許文献10、特許文献11、特許文献12、特許文献13、特許文献14及び特許文献15は、用いる不飽和加水分解性シランが概してビニルトリメトキシシランである同様なグラフト化及び架橋方法について記載する特許のさらなる例である。特許文献16には、共役炭化水素及び/又は一般式R−Xn−C(R)=C(R)−C(R)=C(R)−Xn−Si(R1)m(OR2)(3−m)の少なくとも1つの有機官能シランであり得る化合物(iii)と呼ばれる少量のさらなる化合物を添加することによってスコーチ性能を向上させることが教示されている。R基は同一であるか又は異なり、Rは水素原子又は炭素数1〜3のアルキル基又はアリール基又はアラルキル基、好ましくはメチル基又はフェニル基であり、R(1)は炭素数1〜4の直鎖又は分枝アルキル基であり、R(2)は炭素数1〜8の直鎖、分枝又は環状アルキル基、好ましくはメチル基、エチル基、n−プロピル基又はイソプロピル基であり、X基は同一であるか又は異なり、Xは系列−CH2−、−(CH2)2−、−(CH2)3−、−O(O)C(CH2)3−及び−C(O)O−(CH2)3−から選択される基であり、nは0又は1であり、mは0、1、2又は3である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】ベルギー特許出願公開第652324号明細書
【特許文献2】米国特許第3414551号明細書
【特許文献3】米国特許第3873643号明細書
【特許文献4】特開平6−172459号公報
【特許文献5】欧州特許出願公開第225186号明細書
【特許文献6】米国特許第6028146号明細書
【特許文献7】米国特許第3646155号明細書
【特許文献8】欧州特許第809672号明細書
【特許文献9】欧州特許出願公開第1323779号明細書
【特許文献10】特開2008−097868号公報
【特許文献11】特開2007−329069号公報
【特許文献12】米国特許出願公開第2005/0272867号明細書
【特許文献13】米国特許出願公開第2005/0269737号明細書
【特許文献14】米国特許第3075948号明細書
【特許文献15】米国特許第7041744号明細書
【特許文献16】米国特許第6864323号明細書
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Liu, Yao and Huang in Polymer 41, 4537-4542 (2000)
【非特許文献2】Huang, Lu and Liu in J. Applied Polymer Science 78, 1233-1238 (2000)
【非特許文献3】Lu and Liu in China Plastics Industry, Vol. 27, No. 3, 27-29 (1999)
【非特許文献4】Yang, Song, Zhao, Yang and She in Polymer Engineering and Science, 1004-1008 (2007)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、鎖切断による重合体の分解を制限/防止しながら高いグラフト化効率を有するシラン修飾ポリオレフィンを提供することである。本願中の実施例を通じて示されるように、シラン修飾ポリオレフィンをさらにフィラー表面に存在する極性基と反応させるか、又は別の重合体に付加させるか、又は自己反応させて、シラン修飾ポリオレフィンを架橋し、性質が向上した複合材料を形成することができる。代替的には、フィラーを初めにシランを用いて処理することができ、次いで処理したフィラーを重合体へのグラフト化に用いる。
【課題を解決するための手段】
【0010】
加水分解性シラン基をポリオレフィンにグラフト化する本発明による方法は、ポリオレフィンと、オレフィン−CH=CH−結合若しくはアセチレン−C≡C−結合を含有し、かつSiに結合した少なくとも1つの加水分解性基を有する不飽和シラン、又はその加水分解生成物とを、ポリオレフィン中にフリーラジカル部位を生成する手段の存在下で反応させることを含み、不飽和シランが芳香環又はさらなるオレフィン二重結合若しくはアセチレン不飽和を含有し、該芳香環又はさらなるオレフィン結合若しくはアセチレン結合が、不飽和シランのオレフィン−CH=CH−不飽和又はアセチレン−C≡C−不飽和と共役することを特徴とする。
【0011】
ポリオレフィン中にフリーラジカル部位を生成する手段は概して、フリーラジカルを生成し得る、したがってポリオレフィン中にフリーラジカル部位を生成し得る化合物を含む。他の手段としては、剪断又は電子線を適用することが挙げられる。
【0012】
本明細書中における芳香環とは、不飽和であり、かつ幾らかの芳香族性又はπ結合性を示す、任意の環状部分を意味する。芳香環はベンゼン環若しくはシクロペンタジエン環等の炭素環又はフラン環、チオフェン環、ピロール環若しくはピリジン環等の複素環であってもよく、また、単環又はナフタレン部分、キノリン部分若しくはインドール部分等の縮合環系であってもよい。
【0013】
本発明によれば、ポリオレフィンと、
1.Siに結合した少なくとも1つの加水分解性基
2.オレフィン結合又はアセチレン結合及び
3.オレフィン結合又はアセチレン結合と共役した芳香環又はさらなる不飽和
を同時に有する特定のシランとを反応させることによって、加水分解性シラン基をポリオレフィンにグラフト化する。
【0014】
本発明者らは、ポリオレフィンに対するグラフト化反応を行う際に、加水分解性不飽和シランのオレフィン−C=C−不飽和又はアセチレン−C≡C−不飽和と共役した芳香環又はさらなるオレフィン結合を含有する加水分解性不飽和シランを用いると、芳香環又はさらなるオレフィン結合を含有しない不飽和シランをグラフト化する場合と比較してグラフト化収率が高まり、及び/又は重合体の分解がより少なくなることを本発明により見い出した。スチレン等の架橋助剤又は不飽和非加水分解性シラン(すなわち、Siに結合した加水分解性基を有しない不飽和シラン)と、不飽和加水分解性シランとの併用には、架橋助剤のグラフト化と加水分解性不飽和シランのグラフト化との間に競争反応が起こるため、幾つかの制限がある。非加水分解性シラン又はスチレン架橋助剤は有用な官能化又は架橋性基をもたらさない。本発明の方法は、単一分子で鎖切断を防止しながら高いグラフト化効率を提供する。シラン基をポリオレフィンにグラフト化する単量体と、分解を阻害する単量体との間に競争反応が存在しないため、本発明は、より効率的な反応を提供する。グラフト化反応を行う際に、不飽和シランのオレフィン−CH=CH−不飽和又はアセチレン−C≡C−不飽和と共役したさらなるオレフィン二重結合又はアセチレン不飽和を含有する不飽和シランを用いると、芳香環を含有する不飽和シランで得られたのと同様な利点が得られる。芳香族含有物質は生態毒性の点で不利点を有する場合がある。
【0015】
本発明は、上記方法によって製造した、加水分解性シラン基をグラフト化したポリオレフィンを含む。シラン修飾ポリオレフィンをさらに極性表面、フィラー、極性重合体と反応させるか、又は自己反応させて重合体を架橋することができる。
【0016】
したがって、本発明は、上記のように製造したグラフト化ポリオレフィンをシラノール縮合触媒の存在下又は非存在下で水分に曝すことを特徴とする、ポリオレフィンを架橋する方法も含む。
【0017】
ポリオレフィン出発原料は、例えば、炭素数2〜18のオレフィン、特に式CH2=CHQ(式中、Qは水素又は炭素数の1〜8の直鎖若しくは分枝アルキル基である)のα−オレフィンの重合体であり得る。ポリオレフィンはポリエチレン又はエチレン共重合体であり得るが、ポリエチレン中にフリーラジカル部位が生成する場合、ポリエチレン及び主にエチレン単位から成る重合体は通常は分解しない。炭素数3以上のオレフィンの多くの重合体、例えばポリプロピレンは、ポリオレフィン中にフリーラジカル部位が生成する場合、鎖β切断による重合体の分解を受ける。本発明の方法は、特にかかるポリオレフィンに有用であるが、これはポリオレフィンの分解を阻害しながらグラフト化を達成するためである。
【0018】
ポリオレフィンは、例えばエテン(エチレン)、プロペン(プロピレン)、ブテン又は2−メチル−プロペン−1(イソブチレン)、へキセン、ヘプテン、オクテン、スチレンの重合体であり得る。プロピレン及びエチレンの重合体類、特にポリプロピレン及びポリエチレンは重要な重合体群である。ポリプロピレンは広範に利用可能であり、かつコストの低い汎用重合体である。ポリプロピレンは密度が低く、加工が容易であり、万能性である。ほとんどの市販されているポリプロピレンはアイソタクチックポリプロピレンであるが、本発明の方法はアイソタクチックポリプロピレンだけでなくアタクチック及びシンジオタクチックポリプロピレンにも適用可能である。アイソタクチックポリプロピレンは例えばチーグラー・ナッタ触媒又はクロム触媒又はメタロセン触媒を用いてプロペンを重合することによって調製される。本発明は汎用ポリプロピレンよりも性質の向上した架橋ポリプロピレンを提供することができる。ポリエチレンは、例えば密度が0.955g/cm3〜0.97g/cm3の高密度ポリエチレン、密度が0.935g/cm3〜0.955g/cm3の中密度ポリエチレン(MDPE)若しくは密度が0.918g/cm3〜0.935g/cm3の低密度ポリエチレン(LDPE)(超低密度ポリエチレン、高圧低密度ポリエチレン及び低圧低密度ポリエチレンを含む)又は微孔性ポリエチレンであり得る。ポリエチレンは例えばチーグラー・ナッタ触媒、クロム触媒又はメタロセン触媒を用いて製造することができる。ポリオレフィンは、代替的にはジエン、例えば炭素数が4〜18であり、かつ少なくとも1つの末端二重結合を有するジエン、例えばブタジエン又はイソプレンの重合体であり得る。ポリオレフィンは、共重合体又は三元重合体、例えばプロピレンとエチレンとの共重合体、又はプロピレン若しくはエチレンと炭素数4〜18のα−オレフィンとの共重合体、又はエチレン若しくはプロピレンと、アクリル単量体、例えばアクリル酸、メタクリル酸、アクリロニトロル、メタクリロニトリル若しくはアクリル酸若しくはメタクリル酸と炭素数1〜16のアルキル基若しくは置換アルキル基とのエステル、例えばエチルアクリレート、メチルアクリレート若しくはブチルアクリレートとの共重合体、又は酢酸ビニルとの共重合体であり得る。ポリオレフィンは三元重合体、例えばプロピレンエチレンジエン三元重合体であってもよい。代替的には、ポリオレフィンはジエン重合体、例えばポリブタジエン、ポリイソプレン、又はブタジエンとスチレンとの共重合体、又はブタジエンとエチレン及びスチレンとの、若しくはアクリロニトリル及びスチレンとの三元重合体であり得る。ポリオレフィンは異相性(heterophasic)、例えばプロピレンエチレンブロック共重合体であってもよい。
【0019】
異なるポリオレフィンの混合物を用いることができる。不飽和シラン及びポリオレフィン中にフリーラジカル部位を生成し得る化合物は、或るタイプのポリオレフィンと混合してマスターバッチを形成することができ、これを引き続いて異なるタイプのポリオレフィンと混合することができる。例えば微孔性ポリプロピレンは液体添加剤と混合してマスターバッチを形成する際に非常に有効であり、これは塊状重合体と混合することができる。微孔性ポリエチレン又はエチレン酢酸ビニル共重合体も液体添加剤と混合してマスターバッチを形成する際に非常に有効であり、かかるマスターバッチはポリプロピレン等の重合体と混合することができる。
【0020】
シランの加水分解性基は好ましくは式−SiRaR’(3−a)(式中、Rは加水分解性基を表し、R’は炭素数1〜6のヒドロカルビル基を表し、aは1以上3以下の範囲の値を表す)を有する。−SiRaR’(3−a)基中の各加水分解性基Rは好ましくはアルコキシ基であるが、代替的な加水分解性基、例えばアセトキシ基等のアシルオキシ基、メチルエチルケトキシム基等のケトキシム基、エチルラクテート基等のアルキルラクテート基、アミノ基、アミド基、アミノキシ基又はアルケニルオキシ基等を用いることができる。アルコキシ基Rは概してそれぞれ炭素数1〜6の直鎖又は分枝アルキル鎖を有し、最も好ましくはメトキシ基又はエトキシ基である。aの値は例えば3であり得、例えばシランはトリメトキシシランであり得、これにより最大数の架橋性部位がもたらされる。しかしながら、各アルコキシ基は加水分解されると揮発性の有機アルコールを生成するため、架橋の際に生じる揮発性有機物質を最小限にするためにaの値は2ひいては1が好ましい場合がある。R’基は存在する場合、好ましくはメチル基又はエチル基である。
【0021】
不飽和シランは部分的に加水分解され、シロキサン連結を含有するオリゴマーに縮合され得るが、かかるオリゴマーは依然として不飽和シラン単量体単位1個当たりSiに結合した加水分解性基を少なくとも1つ含有するため、グラフト重合体は自己に対して又は極性のある表面及び物質に対して十分な反応性がある。グラフト化重合体を架橋しようとする場合、通常、グラフト化前のシランの加水分解を最小限にすることが好ましい。
【0022】
好ましくは、不飽和シランはオレフィン−C=C−結合又はアセチレン−C≡C−結合に対する電子求引部分を含有する。電子求引部分は反応中心から電子を引き離す化学基である。電子求引部分は概してMichael B. Smith及びJerry March著「マーチ有機化学(March's Advanced Organic Chemistry)」第5版、John Wiley & Sons、New York(2001)、15−58章(1062頁)に求ジエン体として列記された基のうち任意のものであり得る(但し、これらの基は−SiRaR’(3-a)基で置換され得る)。その部分はとりわけC(=O)R*部分、C(=O)OR*部分、OC(=O)R*部分、C(=O)Ar部分(ここで、Arは−SiRaR’(3-a)基で置換されたアリーレンを表し、R*は−SiRaR’(3-a)基で置換された炭化水素部分を表す)であり得る。ZはC(=O)−NH−R*部分でもあり得る。好ましいシランは、式R’’−CH=CH−X−Y−SiRaR’(3-a)(III)又は式R’’−C≡C−X−Y−SiRaR’(3-a)(IV)(式中、Xは−CH=CH−結合又は−C≡C−結合に対して電子求引効果を有する化学連結、例えばカルボキシル連結、カルボニル連結又はアミド連結等を表し、Yは連結XとSi原子とを隔離する少なくとも1つの炭素原子を含む二価の有機スペーサー連結を表す)のものを含む。電子供与基、例えばアルコール基又はアミノ基は電子求引効果を減少させる可能性がある。一実施の形態において、不飽和シランはかかる基を有しない。立体効果、例えばメチル基等の末端アルキル基の立体障害は、オレフィン結合又はアセチレン結合の反応性に影響を及ぼす可能性がある。一実施の形態において、不飽和シランはかかる立体障害基を有しない。グラフト化反応の際に形成されるラジカルの安定性を高める基、例えばシランの不飽和と共役した二重結合又は芳香族基が不飽和シラン中に存在する。後者の基は−CH=CH−結合又は−C≡C−結合に対して活性化効果を有する。
【0023】
不飽和シランは例えば、式CH2=CH−C6H4−A−SiRaR’(3−a)(I)又は式CH≡C−C6H4−A−SiRaR’(3−a)(II)(式中、Aは直接結合又はスペーサー基を表す)を有し得る。
【0024】
AがCH2=CH−C6H4−A−SiRaR’(3−a)(I)において直接結合を表す場合、シランはトリメトキシシリルスチレン、例えば4−(トリメトキシシリル)スチレンである。4−(トリメトキシシリル)スチレンは、欧州特許第1318153号明細書に記載されているマグネシウム存在下でのテトラメトキシシランとの、又はテトラクロロシランとの4−ブロモスチレン及び/又は4−クロロスチレンのいわゆるグリニャール反応並びに引き続くアルコキシ化によって調製することができる。
【0025】
Aがスペーサー基を表す場合、Aは有機基、例えば少なくとも1つの炭素原子を含む二価の有機基、例えばメチレン基、エチレン基若しくはプロピレン基等のアルキレン基、又はアリーレン基、又はポリエチレングリコール若しくはポリプロピレングリコール等のポリエーテル鎖等であり得る。Aは例えば炭素数1〜4の直鎖又は分枝アルキレン基でありえ、例えばシランは2−スチリル−エチルトリメトキシシラン又は3−スチリル−プロピルトリメトキシシランであり得る。スチリルエチルトリメトキシシランは、例えばα及びβ異性体だけでなくメタ及びパラの混合物としてGelest, Incから市販されている。
【0026】
代替的には、スペーサー基Aはヘテロ原子連結基、特に酸素、イオウ又は窒素ヘテロ原子を含み得る。好ましくは、ヘテロ原子連結基は−O−、−S−、−NH−から成る群から選択され、メルカプト(−S−)基が好ましい。このタイプの不飽和シラン及びそれらの合成(例えばビニルベンジルクロリド及びシリルチオレート又はアミノシランからの合成)の例については、国際公開第2006/015010号に記載されている。好ましいシランはビニルフェニルメチルチオプロピルトリメトキシシランである。
【0027】
本発明者らは、ポリオレフィンに対するグラフト化反応を行う際に、式CH2=CH−C6H4−A−SiRaR’(3−a)(I)又は式CH≡C−C6H4−A−SiRaR’(3−a)(II)の不飽和シランを用いると、ビニル芳香族基を含有しないビニルトリメトキシシラン等のオレフィン性不飽和シランをグラフト化する場合と比較して重合体の分解を防止しながら効率的なグラフト化を提供することができることを本発明により見い出した。より効率的なグラフト化はビニルトリメトキシシラン+スチレン等の架橋助剤との比較においても観察される。グラフト化の亢進によって、水分及び場合によってはシラノール縮合触媒の存在下でより短時間のうちにポリオレフィンの架橋を亢進させることができる。
【0028】
グラフト化ポリオレフィンは、例えば式PP−CH(CH3)−C6H4−A−SiRaR’(3−a)のグラフト化部分及び/又は式PP−CH2−CH2−C6H4−A−SiRaR’(3−a)のグラフト化部分(式中、Aは直接結合又は炭素数1〜12の二価の有機基を表し、Rは加水分解性基を表し、R’は炭素数1〜6のヒドロカルビル基を表し、aは1以上3以下の範囲の値を表し、PPはポリオレフィン鎖を表す)を含有し得る。
【0029】
不飽和シランは、代替的には式R’’−CH=CH−A−SiRaR’(3−a)(III)、式R’’−C≡C−A−SiRaR’(3−a)(IV)又は式R’’−C(=CH2)−A−SiRaR’(3−a)(V)(式中、R’’はC=C又はC≡Cと共役した芳香環又はC=C結合を含有する部分を表し、Aは直接結合又は炭素数1〜12の二価の有機連結を表す)のものであり得る。
【0030】
R’’が芳香環である場合、不飽和シランは例えばシス/トランスβ−(トリメトキシシリル)スチレン又はα−(トリメトキシシリル)スチレンであり得る。
【0031】
【化1】

【0032】
オレフィン炭素原子の位置で置換されたスチレン分子は、例えばポーランド特許第188756号又はM. Chauhan, P. Boudjouk et al., J. Organomet.Chem. 645 (1-2), 2002, 1-13に記載されているように、有機金属又は金属触媒の存在下、フェニルアセチレンのヒドロシリル化反応によって調製することができる。ビニルアルコキシシランとアリールブロミド又はクロリドとの間のクロスカップリング反応である代替的な経路は、例えばE. Alacid et al., Advanced Synthesis & Catalysis 348(15), 2006, 2085-2091に記載されている。
【0033】
幾つかの実施の形態において、R’’は、C=C結合又はC≡C結合と共役した芳香環又はC=C結合の他に、−CH=CH−結合又は−C≡C−結合に対して電子求引効果を有する部分を含有する。
【0034】
好ましい不飽和シランの一タイプにおいて、Aは−CH=CH−結合又は−C≡C−結合に対して電子求引効果を有する有機連結A’を表す。電子求引連結は、電子求引部分を含有しないビニルトリメトキシシラン等のオレフィン性不飽和シランと比較してポリオレフィンへのグラフト化を亢進することができる。電子求引連結は電子求引部分に由来する。好ましい電子求引連結はC(=O)O、OC(=O)、C(=O)C(=O)−NH−である。
【0035】
不飽和シランは、代替的には式R’’’−CH=CH−A−SiRaR’(3−a)、R’’’−C≡C−A−SiRaR’(3−a)(IV)又はR’’−C(=CH2)−A−SiRaR’(3−a)(V)(式中、R’’’はC=C又はC≡Cと共役した芳香環又はC=C結合を含有する部分を表し、Aは直接結合又は炭素数1〜12の二価の有機連結を表す)のものであり得る。
【0036】
したがって、加水分解性シラン基をグラフト化したポリオレフィンは、式R’’−CH(PP)−CH2−A’−SiRaR’(3−a)のグラフト化部分及び/又は式R’’−CH2−CH(PP)−A’−SiRaR’(3−a)のグラフト化部分(式中、Rは加水分解性基を表し、R’は炭素数1〜6のヒドロカルビル基を表し、aは1以上3以下の範囲の値を表し、A’は電子求引効果を有する化学連結を表し、R’’は芳香環又はC=C結合を含む基を表し、PPはポリオレフィン鎖を表す)を含有し得る。
【0037】
式R’’−CH=CH−X−Y−SiRaR’(3−a)(VI)又は式R’’−C≡C−X−Y−SiRaR’(3−a)(VII)の不飽和シランにおいて、電子求引連結Xは好ましくはカルボキシル連結である。したがって、好ましいシランは式R’’−CH=CH−C(=O)O−Y−SiRaR’(3−a)(VIII)を有する。R’’基がフェニルを表す場合、不飽和シラン(VIII)中のR’’−CH=CH−C(=O)O−Y−部分はシンナミルオキシアルキル基である。不飽和シランは例えば3−シンナミルオキシプロピルトリメトキシシラン、すなわち、
【0038】
【化2】

【0039】
であり得、その調製については米国特許第3179612号に記載されている。好ましくは、R’’基はフリル基、例えば2−フリル基であり得、シランは3−(2−フリル)アクリル酸のアルコキシシリルアルキルエステル、すなわち、
【0040】
【化3】

【0041】
である。
【0042】
代替的な好ましい不飽和シランは式R2−CH=CH−CH=CH−A’−SiRaR’(3−a)(式中、R2は水素又は炭素数1〜12のヒドロカルビル基を表し、A’は隣接する−CH=CH−結合に対して電子求引効果を有する有機連結を表す)を有する。連結A’は例えばカルボニルオキシアルキル連結であり得る。不飽和シランはソルビルオキシアルキルシラン、例えば3−ソルビルオキシプロピルトリメトキシシランCH3−CH=CH−CH=CH−C(=O)O−(CH2)3−Si(OCH3)3、すなわち、
【0043】
【化4】

【0044】
等であり得る。
【0045】
他の好ましい不飽和シランは式A”−CH=CH−CH=CH−A−SiRaR’(3−a)(式中、A”は隣接する−CH=CH−結合に対して電子求引効果を有する有機部分を表し、Aは直接結合又は炭素数1〜12の二価の有機連結を表す)を有する。
【0046】
概して、不飽和酸のシリルアルキルエステルである不飽和シランはすべて、不飽和酸、例えばアクリル酸、マレイン酸、フマル酸、ソルビン酸又はケイ皮酸、プロピン酸又はブチン二酸から、対応するカルボン酸塩と対応するクロロアルキルアルコキシシランとの反応によって調製することができる。第1の工程では、例えば米国特許第4946977号に記載されている、カルボン酸とアルカリアルコキシド(アルコール溶液)との反応、又は例えば国際公開第2005/103061号に記載されている、カルボン酸と塩基水溶液との反応及び引き続く共沸蒸留による水の除去のいずれかによって、カルボン酸のアルカリ塩を形成する。カルボン酸のトリアルキルアンモニウム塩は、米国特許第3258477号又は米国特許第3179612号に記載されている、遊離カルボン酸と、トリアルキルアミン、優先的にはトリブチルアミン又はトリエチルアミンとの直接反応によって形成することができる。第2の工程では、カルボン酸塩を次いで、クロロアルキルアルコキシシランを用いた求核置換反応によって、副生成物としてアルカリクロリド又はトリアルキルアンモニウムクロリドを形成させながら反応させる。この反応は、クロロアルキルアルコキシシランを用いて、ニート条件下又は溶媒、例えばベンゼン、トルエン、キシレン若しくは同様な芳香族溶媒並びにメタノール、エタノール若しくは別のアルコール系溶媒等の中で行うことができる。30℃〜180℃の範囲内、好ましくは100℃〜160℃の範囲内の反応温度を有することが好ましい。この置換反応の速度を上げるために、様々な種類の相間移動触媒を用いることができる。好ましい相間移動触媒は以下の通りである:テトラブチルアンモニウムブロミド(TBAB)、トリオクチルメチルアンモニウムクロリド、Aliquat(登録商標)336(Cognis GmbH)若しくは同様な第四級アンモニウム塩(例えば米国特許第4946977号にて使用)、トリブチルホスホニウムクロリド(例えば米国特許第6841694号にて使用)、グアニジニウム塩(例えば欧州特許第0900801号にて使用)又は1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ−7−エン(DBU、例えば国際公開第2005/103061号にて使用)等の環状不飽和アミン。必要であれば、以下の重合阻害剤を調製工程及び/又は精製工程を通じて用いることができる:ヒドロキノン、フェノール化合物、例えばメトキシフェノール及び2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール等、フェノチアジン、p−ニトロソフェノール、アミン系化合物、例えば、N,N’−ジフェニル−p−フェニレンジアミン等又はイオウ含有化合物(上記引用特許に記載されているものであるが、これらに限定されない)。
【0047】
加水分解性不飽和シランの配合物を用いることができる。例えば、式CH2=CH−C6H4−A−SiRaR’(3−a)(I)又はCH≡C−C6H4−A−SiRaR’(3−a)(II)の不飽和シラン及び式R’’−CH=CH−A−SiRaR’(3−a)(III)、式R’’−C≡C−A−SiRaR’(3−a)(IV)又は式R’’−C(=CH2)−A−SiRaR’(3−a)(V)の不飽和シランを一緒に用いることができる。代替的には、重合体は、不飽和シランのオレフィン−C=C−不飽和又はアセチレン−C≡C−不飽和と共役した芳香環を含有する不飽和シランと、オレフィン−C=C−結合又はアセチレン−C≡C−結合を含有し、かつSiに結合した少なくとも1つの加水分解性基を有するが、芳香環を含有しない別の不飽和シラン、例えばビニルトリメトキシシランとの混合物と反応させることができる。
【0048】
不飽和シランはシラン基をポリオレフィンにグラフト化するのに十分な量で存在するものとする。実施の形態によっては、他のシラン化合物を例えば接着促進を目的として添加するが、プロセスの際に存在するシラン化合物の主要部は、効率的なグラフト化が達成されるように不飽和シラン(I)又は不飽和シラン(II)であることが好ましい。好ましくは、不飽和シラン(I)又は不飽和シラン(II)はプロセス中に存在するシラン化合物の少なくとも50重量%、好ましくは少なくとも60重量%を占める。
【0049】
重合体中にフリーラジカル部位を生成し得る化合物は好ましくは有機過酸化物であるが、アゾ化合物等の他のフリーラジカル開始剤を用いることができる。好ましくは、フリーラジカル開始剤の分解によって形成されるラジカルは酸素系フリーラジカルである。ヒドロペルオキシド、カルボン酸ペルオキシエステル、ペルオキシケタール、ジアルキルペルオキシド及びジアシルペルオキシド、ケトンペルオキシド、ジアリールペルオキシド、アリール−アルキルペルオキシド、ペルオキシジカーボネート、ペルオキシ酸、アシルアルキルスルフィニルペルオキシド及びアルキルモノペルオキシジカーボネートを用いることがより好ましい。好ましい過酸化物の例としては、ジクミルペルオキシド、2,5−ジメチル−2,5−ジ−(tert−ブチルペルオキシ)ヘキサン、ジ−tert−ブチルペルオキシド、2,5−ジメチル−2,5−ジ−(tert−ブチルペルオキシ)へキシン−3、3,6,9−トリエチル−3,6,9−トリメチル−1,4,7−トリペルオキソナン、ベンゾイルペルオキシド、2,4−ジクロロベンゾイルペルオキシド、tert−ブチルペルオキシアセテート、tert−ブチルペルオキシベンゾエート、tert−アミルペルオキシ−2−エチルヘキシルカーボネート、tert−ブチルペルオキシ−3,5,5−トリメチルヘキサノエート、2,2−ジ(tert−ブチルペルオキシ)ブタン、tert−ブチルペルオキシイソプロピルカーボネート、tert−ブチルペルオキシ−2−エチルヘキシルカーボネート、ブチル−4,4−ジ(tert−ブチルペルオキシ)バレレート、ジ−tert−アミルペルオキシド、tert−ブチルペルオキシピバレート、tert−ブチル−ペルオキシ−2−エチルヘキサノエート、ジ(tert−ブチルペルオキシ)シクロヘキサン、tert−ブチルペルオキシ−3,5,5−トリメチルヘキサノエート、ジ(tert−ブチルペルオキシイソプロピル)ベンゼン、クメンヒドロペルオキシド、tert−ブチルペルオクトエート、メチルエチルケトンペルオキシド、tert−ブチルα−クミルペルオキシド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(ペルオキシベンゾエート)へキシン−3、1,3−又は1,4−ビス(t−ブチルペルオキシイソプロピル)ベンゼン、ラウロイルペルオキシド、tert−ブチルペルアセテート及びtert−ブチルペルベンゾエートが挙げられる。アゾ化合物の例はアゾビスイソブチロニトリル及びジメチルアゾジイソブチレートである。上記ラジカル開始剤は、単独で用いてもよく、又は少なくとも2つを組み合わせて用いてもよい。
【0050】
ポリオレフィンと不飽和シランとを、ポリオレフィン中にフリーラジカル部位を生成し得る化合物の存在下で反応させる温度は、概して120℃を上回り、通常140℃を上回り、ポリオレフィンを溶融し、かつフリーラジカル開始剤を分解するには十分に高い。ポリプロピレンに関しては、通常170℃〜220℃の範囲の温度が好ましい。ポリオレフィン中にフリーラジカル部位を生成し得る過酸化物又は他の化合物の分解温度は、120℃〜220℃、最も好ましくは160℃〜190℃の範囲であることが好ましい。
【0051】
グラフト化反応の際に存在する不飽和シランの量は概して、全組成に対して少なくとも0.2重量%であり、最大で20重量%以上であり得る。本明細書中における全組成とは、反応混合物を形成するために一纏めにされる、すべての成分、例えば重合体、シラン、フィラー、触媒等を含有する出発組成を意味する。好ましくは、不飽和シランは全組成に対して0.5重量%〜20.0重量%存在する。最も好ましくは、不飽和シランは全組成に対して0.5重量%〜15.0重量%存在する。
【0052】
ポリオレフィン中にフリーラジカル部位を生成し得る化合物は概して、全組成に対して少なくとも0.001重量%の量で存在し、最大で5重量%又は10重量%の量で存在し得る。有機過酸化物は例えば全組成に対して0.01重量%〜2重量%存在することが好ましい。有機過酸化物は全組成に対して0.01重量%〜0.5重量%存在することが最も好ましい。
【0053】
本発明による不飽和シランは架橋助剤の存在をなくすことが可能である。好ましい実施の形態において、組成物は架橋助剤を有しない。しかしながら、他の実施の形態では、β切断による重合体の分解を阻害する架橋助剤が通常は少量存在する。炭素数3以上のα−オレフィンの多くの重合体、例えばポリプロピレンは、三級炭素の存在によりポリオレフィン中にフリーラジカル部位が生成されると、鎖β切断による重合体の分解を受ける。一方、コーティングにおける接着性能の増大といった幾つかの用途については、かかる分解は重要でない可能性があるが、ほとんどの場合、特にグラフト化が機械的性質の向上が意図されるフィラー入りポリオレフィン組成物又は架橋ポリオレフィンの調製の第一段階である場合には、鎖β切断による重合体の分解を阻害する、ひいては最小限にすることが望ましい。
【0054】
重合体の分解を阻害する架橋助剤は、好ましくはオレフィン−C=C−不飽和結合又はアセチレン−C≡C−不飽和結合と共役した芳香環を含有する化合物である。本明細書中における芳香環とは、不飽和であり、かつ幾らかの芳香族性又はπ結合性を示す、任意の環状部分を意味する。芳香環はベンゼン環若しくはシクロペンタジエン環等の炭素環又はフラン環、チオフェン環、ピロール環若しくはピリジン環等の複素環であってもよく、また、単環又はナフタレン部分、キノリン部分若しくはインドール部分等の縮合環系であってもよい。最も好ましくは、架橋助剤はビニル芳香族化合物又はアセチレン芳香族化合物、例えばスチレン、α−メチルスチレン、β−メチルスチレン、ビニルトルエン、ビニルピリジン、2,4−ビフェニル−4−メチル−1−ペンテン、フェニルアセチレン、2,4−ジ(3−イソプロピルフェニル)−4−メチル−1−ペンテン、2,4−ジ(4−イソプロピルフェニル)−4−メチル−1−ペンテン、2,4−ジ(3−メチルフェニル)−4−メチル−1−ペンテン、2,4−ジ(4−メチルフェニル)−4−メチル−1−ペンテン等であり、2つ以上のビニル基を含有してもよく(例えばジビニルベンゼン、o−、m−又はp−ジイソプロペニルベンゼン、1,2,4−又は1,3,5−トリイソプロペニルベンゼン、5−イソプロピル−m−ジイソプロペニルベンゼン、2−イソプロピル−p−ジイソプロペニルベンゼン)、2つ以上の芳香環を含有してもよい(例えばトランス−及びシス−スチルベン、1,1−ジフェニルエチレン又は1,2−ジフェニルアセチレン、ジフェニルイミダゾール、ジフェニルフルベン、1,4−ジフェニル−1,3−ブタジエン、1,6−ジフェニル−1,3,5−ヘキサトリエン、ジシンナマルアセトン、フェニルインデノン)。架橋助剤は、代替的には2−ビニルフラン等のフラン誘導体であり得る。好ましい架橋助剤はスチレンである。
【0055】
重合体の分解を阻害する架橋助剤は、代替的にはオレフィン−C=C−不飽和結合又はアセチレン−C≡C−不飽和結合と共役したオレフィン−C=C−不飽和結合又はアセチレン−C≡C−不飽和結合を含有する化合物であり得る。例えばソルビン酸エステル、又は2,4−ペンタジエノエート、又はそれらの環状誘導体である。好ましい架橋助剤は下記式のソルビン酸エチルである:
【0056】
【化5】

【0057】
重合体の分解を阻害する架橋助剤は、代替的には多官能性アクリレート、例えばトリメチロールプロパントリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ジエチレングリコールジアクリレート、ジプロピレングリコールジアクリレート、又はエチレングリコールジメタクリレート、又はラウリル及びステアリルアクリレート等であり得る。
【0058】
ポリオレフィン中にフリーラジカル部位を生成する手段は代替的には電子線であり得る。電子線を用いる場合、フリーラジカルを生成し得る過酸化物等の化合物は必要でない。不飽和シランの存在下でポリオレフィンに少なくとも5MeVのエネルギーを有する電子線を照射する。好ましくは、電子線の加速電位又はエネルギーは5MeV〜100MeV、より好ましくは10MeV〜25MeVである。電子線発生器の出力は、好ましくは50kW〜500kW、より好ましくは120kW〜250kWである。ポリプロピレン/グラフト化剤混合物が受ける放射線量は、好ましくは0.5Mrad〜10Mradである。ポリオレフィンと不飽和シランとの混合物は、混合物に放射線照射する電子線発生器の下を通るエンドレスベルト等の連続移動コンベヤー上に置くことができる。所望の放射線照射量を達成するためにコンベヤー速度を調整する。
【0059】
ポリオレフィンと不飽和シランとの間のグラフト化反応は、任意の好適な装置を用いて、バッチプロセスとして又は連続プロセスとして行うことができる。ポリオレフィンは、例えばペレット若しくは粉末形態で又はそれらの混合物として添加することができる。ポリオレフィンは加熱しながら機械的加工に付すことが好ましい。バッチプロセスは例えば、インターナルミキサ、例えば、ローラーブレードを備えたBrabender製のPlastograph(商標)350Sミキサ、又はバンバリーミキサ内で行うことができる。ロールミルはバッチ加工又は連続加工のいずれにも用いることができる。バッチプロセスでは、概して、ポリオレフィン、不飽和シラン及びポリオレフィン中にフリーラジカル部位を生成し得る化合物をポリオレフィンの融点を上回る温度で少なくとも1分間混合し、最大で30分間混合することができるが、高温での混合時間は概して3分〜15分である。不飽和シラン及び過酸化物は順に添加してもよいが、過酸化物をシランと共に添加することが好ましい。高温混合は、用いるポリオレフィンの融解温度と分解温度との間の温度で行われ、この温度は概して120℃を上回る。ポリプロピレンについては、混合温度は好ましくは170℃を上回る。反応混合物を混合後にさらに例えば1分〜20分の間、140℃を上回る温度に保持して、グラフト化反応を継続してもよい。
【0060】
概して連続加工が好ましく、好ましい容器は、機械的作動、すなわち、内部を通過する材料の混練又は調合に適応した押出機、例えば二軸押出機である。好適な押出機の一例は商標ZSKでCoperion Werner Pfleiderer GmbH & Co KGから販売されているものである。
【0061】
押出機は、いかなる未反応シランも除去するために、押出ダイのすぐ前に真空ポートを備えることが好ましい。押出機又は他の連続反応器内で120℃超で一緒にしたポリオレフィン、不飽和シラン及びポリオレフィン中にフリーラジカル部位を生成し得る化合物の滞留時間は概して、少なくとも0.5分、好ましくは少なくとも1分であり、最大で15分であり得る。滞留時間は1分〜5分であることがより好ましい。ポリオレフィンの全部又は一部は、押出機に供給する前に、不飽和シラン及び/又はポリオレフィン中にフリーラジカル部位を生成し得る化合物と予混合してもよいが、かかる予混合は概して120℃未満、例えば周囲温度で行われる。
【0062】
ポリオレフィンにグラフト化したシラン部分に存在する加水分解性基、例えばシリル−アルコキシ基は、水分の存在下で、多くのフィラー及び基材、例えば鉱物及び天然物の表面上に存在するヒドロキシル基と反応する。水分は周囲水分であってもよく、又は水和塩を添加してもよい。本発明によるポリオレフィンと不飽和シランとのグラフト化を用いて、ポリオレフィンとフィラーとの相溶性を向上させることができる。加水分解性基をグラフト化したポリオレフィンは、フィラー/重合体接着を向上させるカップリング剤として用いることができ、例えば、本発明によりグラフト化したポリプロピレンは、フィラー入り組成物中の未修飾ポリプロピレン用のカップリング剤として用いることができる。加水分解性基をグラフト化したポリオレフィンは、表面へのポリプロピレン等の低極性重合体の接着を向上させる接着促進剤又は接着中間層として使用してもよい。加水分解性基はまた、水分の存在下で互いに反応して高分子鎖間にSi−O−Si連結を形成し得る。加水分解性基をグラフト化したポリオレフィンは、発泡剤の存在下で水分との反応によって発泡させることができる。
【0063】
加水分解性基、例えばシリル−アルコキシ基は、周囲温度であっても触媒なしに水分の存在下で互いに反応して高分子鎖間にSi−O−Si連結を形成するが、シロキサン縮合触媒の存在下ではるかに急速に反応する。したがって、グラフト化ポリオレフィンをシラノール縮合触媒の存在下で水分に曝すことによって架橋することができる。グラフト化ポリオレフィンは発泡剤、水分及び縮合触媒を添加することによって発泡させることができる。任意の好適な縮合触媒を利用することができる。これらはプロトン酸、ルイス酸、有機塩基及び無機塩基、遷移金属化合物、金属塩並びに有機金属錯体を含む。
【0064】
好ましい触媒は、有機スズ化合物、特に有機スズ塩、とりわけジ有機スズ(diorganotin)ジカルボキシレート化合物、例えばジブチルスズジラウレート、ジオクチルスズジラウレート、ジメチルスズジブチレート、ジブチルスズジメトキシド、ジブチルスズジアセテート、ジメチルスズビスネオデカノエート、ジブチルスズジベンゾエート、ジメチルスズジネオデコノエート又はジブチルスズジオクトエート等を含む。代替的な有機スズ触媒は、トリエチルスズタートレート、スズ(II)オクトエート、スズオレエート、スズナフテート、ブチルスズトリ−2−エチルヘキソエート、スズブチレート、カルボメトキシフェニルスズトリスベレート及びイソブチルスズトリセロエートを含む。代替的には、有機化合物、特に他の金属、例えば鉛、アンチモン、鉄、カドミウム、バリウム、マンガン、亜鉛、クロム、コバルト、ニッケル、アルミニウム、ガリウム又はゲルマニウム等のカルボキシレート(カルボン酸塩)を用いることができる。
【0065】
縮合触媒は代替的にはチタン、ジルコニウム及びハフニウムから選択される遷移金属の化合物、例えば一般式Ti[OR5]4のチタネートエステルとしても知られるチタンアルコキシド及び/又は一般式Zr[OR5]4のジルコネートエステル(式中、各R5は同一であっても又は異なっていてもよく、直鎖又は分枝であり得る炭素数1〜10の一価の第一級、第二級又は第三級脂肪族炭化水素基を表す)であり得る。R5の好ましい例としては、イソプロピル基、ターシャリーブチル基、及び2,4−ジメチル−3−ペンチル基等の分枝第二級アルキル基が挙げられる。代替的には、チタネートは、任意の好適なキレート剤、例えばアセチルアセトン又はメチル若しくはエチルアセトアセテート等でキレート化してもよい(例えばジイソプロピルビス(アセチルアセトニル)チタネート又はジイソプロピルビス(エチルアセトアセチル)チタネート)。
【0066】
縮合触媒は代替的にはプロトン酸触媒又はルイス酸触媒であり得る。好適なプロトン酸触媒の例としては、酢酸等のカルボン酸及びスルホン酸、特にドデシルベンゼンスルホン酸等のアリールスルホン酸が挙げられる。「ルイス酸」は電子対を受容して共有結合を形成する任意の物質、例えば、三フッ化ホウ素、三フッ化ホウ素モノエチルアミン錯体、三フッ化ホウ素メタノール錯体、FeCl3、AlCl3、ZnCl2、ZnBr2又は式MR4fXg(式中、MはB、Al、Ga、In又はTlであり、各R4は独立して同一であるか又は異なり、炭素数6〜14の一価の芳香族炭化水素ラジカル(好ましくは少なくとも1つの電子求引元素若しくは電子求引基、例えば−CF3、−NO2若しくは−CN等を有するか、又は少なくとも2つのハロゲン原子で置換される一価の芳香族炭化水素ラジカル)を表し、Xはハロゲン原子であり、fは1、2又は3であり、gは0、1又は2である(但しf+g=3))の触媒である。かかる触媒の一例はB(C6F5)3である。
【0067】
塩基性触媒の例は、アミン又はテトラメチルアンモニウムヒドロキシド等の第四級アンモニウム化合物又はアミノシランである。ラウリルアミン等のアミン触媒は、単独で用いてもよく、又は別の触媒、例えばスズカルボキシレート又は有機スズカルボキシレート等と組み合わせて用いてもよい。
【0068】
シラン縮合触媒は典型的には全組成に対して0.005重量%〜1.0重量%で用いられる。例えば、ジ有機スズジカルボキシレートは全組成に対して0.01重量%〜0.1重量%で用いることが好ましい。
【0069】
グラフト化ポリオレフィンは、1つ又は複数の有機又は無機フィラー及び/又は繊維を含有することができる。本発明の一態様によれば、ポリオレフィンのグラフト化を用いて、ポリオレフィンとフィラー及び繊維強化材との相溶性を向上させることができる。ポリプロピレン等のポリオレフィンとフィラー又は繊維との相溶性を向上させることにより、グラフト化ポリオレフィンを引き続いてシラノール縮合触媒を用いて架橋するか否かに関わらず、性質が向上したフィラー入り重合体組成物を得ることができる。かかる性質の向上は、例えば強化用フィラー若しくは繊維に由来する物性の向上、又はフィラーに由来する他の性質の向上、例えば顔料による着色の向上であり得る。フィラー及び/又は繊維は、グラフト化反応の際に不飽和シラン及び有機過酸化物と共にポリオレフィン中に便宜上混合することができ、又は引き続いてグラフト化ポリオレフィンと混合することができる。
【0070】
一実施の形態において、フィラーの処理及びポリオレフィンへのグラフト化はin situで一工程で行われる。成分(フィラー、シラン、用いる場合は過酸化物)を一斉に又は別個に反応容器に添加することができる。
【0071】
代替的な方法では、フィラーを初めに不飽和シランで処理し、次いでポリオレフィンマトリクスに添加してもよい。ポリオレフィン中にフリーラジカル部位が生成する場合、フィラーの表面にあるシランが続いてポリオレフィンマトリクスと反応する。
【0072】
ポリオレフィンを高温で高剪断にかける場合、例えばポリオレフィンを二軸押出機で加工する場合、幾つかのフリーラジカル部位が生成するが、これはフィラーとポリオレフィンとの間の結合を亢進させるのに十分なものであり得る。フリーラジカル部位は電子線によっても生成し得る。フリーラジカル部位は、過酸化物を任意選択でβ切断による重合体の分解を阻害する架橋助剤と共に添加し、高温で加工することによっても生成し得る。
【0073】
フィラー入り重合体組成物を形成する場合、グラフト化ポリオレフィンは組成物中の唯一の重合体であってもよく、又は未修飾ポリオレフィン等の低極性重合体をさらに含むフィラー入り重合体組成物中のカップリング剤として用いてもよい。したがって、グラフト化ポリオレフィンは、フィラー入り組成物の重合体含量の1重量%又は10重量%〜最大で100重量%であり得る。水分及び任意選択でシラノール縮合触媒を組成物に添加して、フィラーとシラングラフト化重合体との間の結合を促進してもよい。好ましくは、グラフト化重合体はフィラー入り重合体組成物の2重量%〜最大で10重量%であり得る。
【0074】
代替的な方法では、フィラーを初めに不飽和シラン、例えば式(I)〜式(V)のいずれかを有する不飽和シランで処理し、次いでポリオレフィンマトリクスに添加してもよい。ポリオレフィン中にフリーラジカル部位が生成する場合、フィラーの表面にあるシランが続いてポリオレフィンマトリクスと反応する。ポリオレフィンを高温で高剪断にかける場合、例えばポリオレフィンを二軸押出機で加工する場合、幾つかのフリーラジカル部位が生成するが、これはフィラーとポリオレフィンとの間の結合を亢進させるのに十分であり得る。フリーラジカル部位は、過酸化物を任意選択でβ切断による重合体の分解を阻害する架橋助剤と共に添加し、高温で加工することによっても生成し得る。
【0075】
グラフト化ポリオレフィン中に含入することができる無機フィラー又は顔料の例としては、二酸化チタン、水酸化アルミニウム(aluminium trihydroxide)、水酸化マグネシウム(magnesium dihydroxide)、マイカ、カオリン、炭酸カルシウム、水和していない、部分的に水和した又は水和した、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム及びバリウムのフッ化物、塩化物、臭化物、ヨウ化物、クロム酸塩、炭酸塩、水酸化物、リン酸塩、リン酸水素塩、硝酸塩、酸化物、硝酸塩及び硫酸塩;酸化亜鉛、酸化アルミニウム、五酸化アンチモン、三酸化アンチモン、酸化ベリリウム、酸化クロム、酸化鉄、リトポン、ホウ酸又はホウ酸亜鉛、メタホウ酸バリウム若しくはホウ酸アルミニウム等のホウ酸塩、アルミノケイ酸塩等の混合金属酸化物、バーミキュライト、ヒュームドシリカ、溶融シリカ、沈降シリカ、石英、ケイ砂(sand)及びシリカゲルを含むシリカ;籾殻灰、セラミック及びガラスビーズ、ゼオライト、金属、例えばアルミニウムフレーク若しくは粉末、ブロンズ粉末、銅、金、モリブデン、ニッケル、銀粉末若しくはフレーク、ステンレス鋼粉末、タングステン等、含水ケイ酸カルシウム、チタン酸バリウム、シリカ−カーボンブラック複合材料、官能化カーボンナノチューブ、セメント、フライアッシュ、スレート粉、ベントナイト、クレイ、タルク、アンスラサイト、アパタイト、アタパルジャイト、窒化ホウ素、クリストバライト、珪藻土、ドロマイト、フェライト、長石、グラファイト、焼成カオリン、二硫化モリブデン、パーライト、軽石、パイロフィライト、セピオライト、スズ酸亜鉛、硫化亜鉛又はウォラストナイトが挙げられる。繊維の例としては、木粉、木質繊維、綿繊維等の天然繊維、麦わら、麻、亜麻、ケナフ、パンヤ、ジュート、ラミー、サイザル麻、ヘネッケン繊維、トウモロコシ繊維若しくはコイア、又は堅果殻若しくは籾殻等のセルロース系繊維若しくは農業用繊維(agricultural fibres)、又はポリエステル繊維、アラミド繊維、ナイロン繊維若しくはガラス繊維等の合成繊維が挙げられる。有機フィラーの例としてはリグニン、でんぷん又はセルロース及びセルロース含有製品、又はポリテトラフルオロエチレン若しくはポリエチレンのプラスチックミクロスフェアが挙げられる。フィラーはアゾ染料、インジゴイド染料、トリフェニルメタン染料、アントラキノン染料、ヒドロキノン染料又はキサンチン染料が含入されているような固体有機顔料であり得る。
【0076】
かかるフィラー入り組成物中のフィラー又は顔料の濃度は大きく変動する可能性があり、例えば、フィラー又は顔料は全組成に対して1重量%又は2重量%〜最大で50重量%又は70重量%を占める可能性がある。
【0077】
本発明のグラフト化ポリオレフィンを用いて、ポリプロピレン等の低極性重合体と極性重合体との相溶性を向上させることもできる。低極性重合体、極性重合体及びグラフト化ポリオレフィンを含む組成物は、フィラーを入れてもよく、及び/又は繊維強化してもよく、又はフィラーを入れなくてもよい。
【0078】
本発明のグラフト化ポリオレフィンはまた、ポリオレフィン系材料と、表面エネルギーのより高い重合体(典型的にはインク、塗料、接着剤及びコーティングに用いられる)、例えばエポキシ、ポリウレタン、アクリル及びシリコーンとのカップリング又は接着をさらに向上させる目的で、ポリオレフィンの表面エネルギーを増大させるために用いることができる。
【0079】
架橋重合体物品を形成する場合、グラフト化ポリオレフィンは物品に成形し、引き続いて水分で架橋することが好ましい。好ましい一手順では、シラノール縮合触媒はグラフト化ポリオレフィンの架橋に用いる水に溶解させることができる。例えば、成形又は押出によってグラフト化ポリオレフィンから熱成形した物品は、酢酸等のカルボン酸触媒を含有するか、又はジ有機ズズカルボキシレートを含有する水中で硬化させることができる。
【0080】
代替的又は追加的に、シラノール縮合触媒は、グラフト化ポリオレフィンを物品に成形する前にグラフト化重合体に含入することができる。成形した物品を引き続いて水分で架橋することができる。触媒はグラフト化反応の前、グラフト化反応の際、又はグラフト化反応の後にポリオレフィンと混合することができる。
【0081】
好ましい一手順では、二軸押出機で120℃超でポリオレフィン、不飽和シラン及びポリオレフィン中にフリーラジカル部位を生成し得る化合物を混合することにより、シランをポリオレフィンにグラフト化し、得られたグラフト化ポリオレフィンとシラノール縮合触媒とを引き続く混合工程で混合する。触媒との混合は例えば、押出機(上記二軸押出機等の、内部を通過する材料の混練又は配合に適応した押出機であってもよく、又は単軸押出機等の、より単純な押出機であってもよい)で連続的に行うことができる。グラフト化ポリオレフィンはかかる第2の押出機でポリオレフィンの融点を上回る温度に加熱されるため、この第2の押出機でグラフト化反応が継続し得る。
【0082】
代替的な好ましい手順において、シラノール縮合触媒はポリオレフィンの一部と予混合することができ、不飽和シランはポリオレフィンの別の部分と予混合することができ、2つの予混合物を、グラフト化反応を行うために用いたミキサ又は押出機で任意選択でさらなる重合体と接触させることができる。ほとんどの不飽和シラン及び好ましい縮合触媒、例えばジ有機スズジカルボキシレート等は液体であるため、押出機でポリプロピレン又は他のポリオレフィンの大部分と混合する前に別途微孔性ポリエチレン又はポリプロピレン等の微孔性ポリオレフィンにそれぞれ吸収させることが好ましい場合がある。
【0083】
フィラー及び/又は強化用繊維は、シラノール縮合触媒をグラフト化ポリオレフィンに添加する場合、架橋ポリオレフィンを形成する別個の後続工程でシラノール縮合触媒と共に重合体組成物に含入することができる。
【0084】
グラフト化重合体への触媒の添加に用いる混合手順が何であれ、架橋重合体物品を形成する際に、シラン及び触媒が共に水分に曝されないように、又はシラングラフト化重合体及び触媒の組成物が所望の物品に最終的に成形される前に水分に曝されないように注意を払わなければならない。
【0085】
他の好ましい実施の形態では、シラノール縮合触媒非存在下で架橋を行う。これは、シラノール縮合触媒(とりわけスズに基づくもの)の使用に関連する、必要反応剤数、コスト及び汚染リスクの低減を可能にするため、有利である。米国特許第7015297号は硬化に際して架橋するだけでなく重合体の鎖延長をもたらすアルコキシシラン末端重合体系を提供する。ジアルコキシα−シランを含入することにより、かかる組成物の反応性も十分に高くなり、概してスズを含有する比較的多量の触媒を使用することなく組成物を製造することができると言われている。米国特許出願公開第20050119436号明細書は、欧州特許出願公開第372561号明細書に、シラン縮合触媒を用いて又は用いずに加硫処理されてから水分を排除して保存しなければならないシラン架橋性ポリエーテルの調製についての記載があることを報告している。本発明による方法では、γSTMシラン及びαSTMシランがいずれもポリプロピレン樹脂のグラフト化に効率的であり、たとえDOTDL触媒を組成物に添加しなくても材料中で極めて高い架橋度を達成できることが観察された。
【0086】
他方、本発明によりグラフト化ポリオレフィンから発泡体を製造する場合、加水分解及び縮合反応はシラノール縮合触媒と混合した時点ですぐに起こることが好ましい。これによって確実に発泡体中の重合体の溶融強度がより高いものになる。加水分解性基をグラフト化したポリオレフィンは、発泡剤、水分及び縮合触媒を共にグラフト化重合体組成物に添加することによって発泡させることが好ましい。発泡剤は分解によってガスを発生する化学的発泡剤、例えばアゾジカルボンアミド、又は組成物が大気圧下に放出されると膨張する、加圧下で注入された蒸気又はガスである物理的発泡剤であり得る。
【0087】
多くの用途では、グラフト化又は架橋ポリオレフィンは少なくとも1つの酸化防止剤を含有することが好ましい。好適な酸化防止剤の例としては、商標Ciba Irgafos(登録商標)168で市販されているトリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト、商標Ciba lrganox(登録商標)1010で市販されているテトラキス[メチレン−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル−プロピオネート)]メタン加工安定剤及び商標Ciba lrganox(登録商標)1330で市販されている1.3.5−トリメチル−2.4.6−トリス(3.5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼンが挙げられる。架橋重合体が4−置換−1,2,2,6,6−ペンタメチルピペリジン等のヒンダードアミン系光安定剤、例えば、商標Tinuvin 770、Tinuvin 622、Uvasil 299、Chimassorb 944及びChimassorb 119で販売されているもの等を含有することが望ましい場合もある。酸化防止剤及び/又はヒンダードアミン系光安定剤は便宜上、グラフト化反応の際に不飽和シラン及び有機過酸化物と共に、又はこれを別個の後続工程でグラフト化重合体に添加する場合にはシラノール縮合触媒と共に、重合体に含入することができる。架橋ポリオレフィン中の酸化防止剤及び光安定剤の全濃度は、典型的には全組成に対して0.02重量%〜0.20重量%の範囲である。
【0088】
本発明のグラフト化又は架橋ポリオレフィンは、染料又は加工助剤等の他の添加剤をさらに含有してもよい。
【0089】
本発明の重合体組成物、特にフィラー入りグラフト化ポリオレフィン組成物及び/又は架橋ポリオレフィンは多種多様な製品で用いることができる。グラフト化重合体はブロー成形又は回転成形して、瓶、缶若しくは他の液体容器、液体供給部、通風部、タンク(燃料タンクを含む)、波形ベローズ、カバー、ケース、チューブ、管、管継ぎ手又は輸送トランクにすることができる。グラフト化重合体は押し出して、管、波形管、シート、繊維、プレート、コーティング、フィルム(シュリンク包装フィルムを含む)、プロファイル、床材、チューブ、導管若しくはスリーブにしてもよく、又は電気絶縁層としてワイヤ若しくはケーブル上に押し出してもよい。グラフト化重合体は射出成形して、チューブ及び管継ぎ手、包装、ガスケット並びにパネルにしてもよい。グラフト化重合体は発泡させるか、又は熱成形してもよい。それぞれの場合において、成形した物品はシラノール縮合触媒の存在下で水分に曝すことによって架橋することができる。
【0090】
本発明により製造した架橋ポリオレフィン物品は、グラフト化又は架橋を行わない同様のポリオレフィンから形成された物品と比較して、機械的強度、溶融強度、耐熱性、耐薬品性及び耐油性、耐クリープ性及び/又は環境応力割れ耐性が向上している。
【実施例】
【0091】
本発明を以下の実施例によって説明する。
【0092】
原料
重合体は以下のものを用いた:
PP=Borealis(登録商標)からHB 205 TFとして供給されているアイソタクチックポリプロピレンホモ重合体(メルトフローインデックス(melt flow index)MFR 1g/10分(230℃/2.16kgでISO1133に準拠して測定));
PPH=Total Petrochemicals(登録商標)によってPPH 7060として販売されているポリプロピレンホモ重合体(MFR 12g/10分(230℃/2.16kg))。
【0093】
多孔性PPはMembranaからAccurel(登録商標)XP100として供給されている微孔性ポリプロピレンであった。この微孔性ポリプロピレンは液体成分の吸収に用いた。Accurel(登録商標)XP100の特性はMFR(2.16kg/230℃)が2.1g/10分(ISO1133法)、融解温度(DSC)が156℃である。
【0094】
過酸化物は以下のものを用いた:
DHBPはArkemaからLuperox(登録商標)101過酸化物として供給されている2,5−ジメチル−2,5−ジ−(tert−ブチルペルオキシ)ヘキサンペルオキシドであった。
【0095】
シランは以下の系列を試験した:
ビニルトリメトキシシラン(VTM)はDow Corning(登録商標)Z6300であった;
スチリルシランはABCR GmbH & Co. KGから92%純度で供給されているスチリルエチルトリメトキシシランであった;
シリルスチレンは欧州特許出願公開第1318153号明細書に記載の通りに調製することができる4−(トリメトキシシリル)スチレンであった;
γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(γ−MTM)はDow Corning(登録商標)Z6030であった;
γ−ソルビルオキシプロピルトリメトキシシラン(γ−STM)、すなわち、2,4−ヘキサジエン酸トリメトキシシリル−□−プロピルエステルは米国特許第4946977号に記載されている対応するカルボン酸塩とクロロプロピルトリメトキシシランの求核置換反応によって調製した;
フランアクリロキシシラン、すなわち、3−(2’−フラン)アクリル酸トリメトキシシリル−□−プロピルエステルは米国特許第4946977号明細書に記載の手順に従って同様に調製した;
シロキシブタジエン、すなわち、1−(トリメチルシロキシ)−1,3−ブタジエンはABCR(登録商標)から供給された(整理番号AB111504);
α−ソルビルオキシメチルトリメトキシシラン(α−STM)は米国特許第4946977号に記載の方法に従って対応するカルボン酸塩及びクロロメチルトリメトキシシランの求核置換反応によって調製した。
【0096】
他の原料は以下のものを用いた:
木粉=粒度が200μm〜500μmの範囲である、マツから得られる粉末形態のS.P.P.S.(登録商標)によって販売されているF530/200セルロース系添加剤。
MAg−PP=Arkema(登録商標)によって販売されているOrevac(登録商標)CA 100無水マレイン酸グラフト化PP(MFR 150g〜200g/10分(230℃/2.16kg))。
ナフテン系加工油は粘度が104cSt(40℃、ASTM D445法)、比重が0.892g/cm3(ASTM D4052法)である、Nynasによって販売されているNyflex(登録商標)222Bであった。
スチレンはSigma-Aldrich Reagent Plus(登録商標)から供給されている純度99%以上のものであった(整理番号S4972)。
【0097】
縮合触媒は以下のものを用いた:
成形又は射出した試料を水中で硬化させる水で希釈した1%酢酸;
複合材料に調合する、粘度が104cSt(40℃、ASTM D445法)、比重が0.892g/cm3(ASTM D4052法)である、Nynasによって販売されているナフテン系加工油Nyflex(登録商標)222Bで希釈した、ABCR(登録商標)から供給されているジオクチルスズジラウレート(DOTDL)(整理番号AB106609)。
【0098】
酸化防止剤は以下のものを用いた:
Irgafos 168は、CibaからIrgafos(登録商標)168として供給されているトリス−(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト酸化防止剤であった;
Irganox 1010は、CibaからIrganox(登録商標)1010として供給されているテトラキス[メチレン−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル−プロピオネート)]メタンフェノール系酸化防止剤であった。
【0099】
実施例1
多孔性PPペレット10重量部と、スチリルエチルトリメトキシシラン10.5重量部及びDHBP0.2部とを、液体試薬がポリプロピレンにより吸収されるまでタンブル混合(tumbled)して、シランマスターバッチを形成した。
【0100】
Borealis(登録商標)製のHB 205 TFポリプロピレンペレット100重量部を、ローラーブレードを備えたBrabender(登録商標)製のPlastograph 350Eミキサに投入し、そこで調合を行った。充填率は0.7に設定した。回転速度は50rpmとし、チャンバーの温度は190℃に維持した。溶融物のトルク及び温度をモニタリングして成分の反応加工を制御した。PPを3回に分けて投入し、各添加後に1分間融合/混合した。次いで、シランマスターバッチを添加し、4分間混合して、グラフト化反応を開始した。次いで、Irganox 1010酸化防止剤0.5重量部及びIrgafos 168酸化防止剤0.5重量部を添加し、さらに1分間混合したが、この際、グラフト化は継続した。次いで、溶融物をミキサから落とし、周囲温度に冷ました。得られたグラフト化ポリプロピレンを、210℃で5分間Agila(登録商標)PE30プレス上で2mm厚シートに成形した後、さらにプレスしながら15℃/分で周囲温度に冷ました。
【0101】
2mmシートのサンプルを1%酢酸を触媒として含有する水浴中で、90℃で24時間硬化させた。
【0102】
実施例2及び実施例3並びに比較例C1〜比較例C5
表1に示すように、スチリルシランを等モル量の4−(トリメトキシシリル)スチレン又はγ−STMで置き換えて実施例1を繰り返した。
【0103】
各実施例では、調合時のトルク及び24時間硬化後の架橋ポリプロピレンのずれ弾性率G’を測定した。これらを表1に記録する。
【0104】
加工トルクは、50rpmの混合速度を維持するためにPlastograph 350Eミキサのモータによって加えられるニュートン・メートル(N・m)単位のトルクの大きさである。報告した値は、混合終了時のプラトーなトルクレベル値である。
【0105】
トルクが低いほど、重合体粘度が低くなる。したがって、混合段階終了時のトルクレベルは混合時の重合体の分解を象徴している。
【0106】
ずれ弾性率(G’)は、Advanced Polymer Analyzer APA2000(登録商標)で測定した。試料3.5gを、その融点を上回る180℃の温度で分析した。ずれ弾性率(G’)は、定振動条件(0.5Hz)下での歪み掃引に対して記録した。1%〜610%の様々な歪みに対するずれ弾性率(G’)、ずれ粘性率(G’’)及びTanDの記録にはおよそ8分かかる。歪み%の関数であるG’の各種プロットから、12%歪みでの値はすべて線形粘弾性領域にあった。したがって、実施例に記載の試料の硬化時間の関数であるずれ弾性率の増加をフォローするために12%歪みでのG’の値を選択した。
【0107】
24時間硬化後のポリプロピレンシートのゲル含量を測定し、表1に記録した。ゲル含量は、ISO 10147法「架橋ポリエチレン(PE−X)から成る管及び継手−ゲル含量の定量による架橋度の推定(Pipes and fittings made of crosslinked polyethylene (PE-X) - Estimation of the degree of crosslinking by determination of the gel content)」を用いて求めた。この試験の本質は、成形部から採取した試験片の質量を、該試験片を溶媒中に(例えば還流キシレン中に8時間)浸漬させた前後に測定することにある。架橋度は不溶性物質の質量%で表す。
【0108】
比較例C1では、スチリルエチルトリメトキシシランを省いて実施例1を繰り返した。比較例C2では、2−スチリルエチルトリメトキシシラン及び過酸化物を省いた。比較例C3及び比較例C4では、スチリルエチルトリメトキシシランを等モル量のビニルトリメトキシシラン又はγ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシランでそれぞれ置き換えた。比較例C5では、実施例1のスチリルエチルトリメトキシシランを、β切断によるポリプロピレンの分解を阻害する既知の架橋助剤であるスチレンと共に等モル量のビニルトリメトキシシランで置き換えた。
【0109】
【表1】

【0110】
実施例1、実施例2及び実施例3と比較例C1、比較例C3及び比較例C4とを比較すると、本発明のシランが、いかなるシランも存在しない場合、又はビニルトリメトキシシラン及びγ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシランを用いる場合と比較して、ポリプロピレンの分解を防止する有意な効果を有することを観察することができる。実施例1、実施例2及び実施例3は比較例C1、比較例C3及び比較例C4よりも高いトルク値を示し、過酸化物を用いない比較例C2のPPのトルク値に近づいている。実施例1、実施例2及び実施例3はまた、1%酢酸を含有する水浴中で24時間硬化させた後に得られるG’及びゲル含量の値の高さが示すように相当量の架橋を示すが、これはポリプロピレン樹脂に対する本発明のシランの良好なグラフト化効率によるものである。
【0111】
実施例1〜実施例3と比較例C5とを比較することで、表1のトルク、G’及びゲル含量の値の差が示すように、本発明による不飽和シランを単独で用いる実施例1、実施例2及び実施例3が、既知の不飽和シランと、重合体の分解を阻害する既知の架橋助剤とを併用する場合と比較してグラフト化収率に優れ、重合体の分解が低いことも明確に実証される。
【0112】
実施例4及び実施例5
実施例1の手順に従って、スチリルエチルトリメトキシシランの代わりに以下に列記するシランを用い、表2に示す試薬量を用いてグラフト化及び架橋ポリプロピレンサンプルを作製した。実施例4及び実施例5におけるシラン量は互いに等モルである。生成物を実施例1に記載の通りに試験した。結果を表2に示す。
γ−ソルビルオキシプロピルトリメトキシシラン(γ−STM)=2,4−ヘキサジエン酸トリメトキシシリル−γ−プロピルエステル;
フランアクリロキシシラン=3−(2’−フラン)アクリル酸トリメトキシシリル−γ−プロピルエステル。
【0113】
【表2】

【0114】
実施例4と実施例5と比較例C1とを比較することにより、分解防止効果を観察することができる。実施例4及び実施例5は比較例C1よりも高いトルク値を示し、過酸化物を用いない比較例C2のPPのトルク値に近づいた。実施例4及び実施例5はまた、G’及びゲル含量の値の高さが示すように、高架橋度を示したが、これは良好なグラフト化効率によるものである。
【0115】
実施例6及び実施例7並びに比較例C6〜比較例C10
特許文献16(米国特許第6864323号明細書)との比較検討を行った。Brabender(登録商標)製のPlastograph 350Eミキサを用い、表3に列記した試薬量を用いて特許文献16の実施例1の手順に従って比較例C6〜比較例C10を調製した。表3に記載の比較例C6〜比較例C10は、ビニルトリメトキシシランとスチレン架橋助剤又はシロキシブタジエン架橋助剤又はスチリルシラン架橋助剤のいずれかとを特許文献16に記載されているそれぞれの量で併用して調製した。
【0116】
生成物を実施例1に記載の通りに試験した。結果を表3に示す。
【0117】
【表3】

【0118】
表3のトルクの結果から、比較例の処方ではポリプロピレンの分解を適切に防止することができない(スチレンがこの分解の防止に寄与する比較例C6を除く)ことが示された。反対に、各シランを適切な濃度で用いた実施例6及び実施例7のトルクの値からは、スチリルシラン及びシロキシブタジエンが共にポリプロピレン樹脂の分解の防止に寄与し得ることが確認された。
【0119】
表3のG’及びゲル含量の値から、G’及びゲル含量が表1の比較例C2の基準PPよりもはるかに高いことから、実施例6及び実施例7のシラン修飾ポリプロピレン樹脂は高い架橋密度まで硬化していると結論付けることができる。他方、比較例C6〜比較例C10はかなり低いG’及びゲル含量の値を示し、特許文献16に記載の条件ではVTMシランがポリプロピレンに効果的にグラフト化していないためほぼ完全に架橋が存在しないことを反映している。
【0120】
これら後者の結果から、特許文献16に記載の方法は、本発明とは反対に、β切断によるポリプロピレン樹脂の分解を防止するのに適切でなく、ポリプロピレン樹脂を修飾する価値ある手段を何ら提供しないことが確認された。
【0121】
実施例8及び実施例9並びに比較例C11及び比較例C12
実施例1の手順に従って、グラフト化及び架橋ポリプロピレンサンプルを40重量%の木粉及び表4に示す重量%の試薬量を用いて作製した。
【0122】
実施例8では、5重量%の事前にグラフト化したポリプロピレン化合物を、スクリュー径20mm、L/D=40のBrabender(登録商標)製のDSE 20/40共回転二軸押出機を用いて連続プロセスに従って調製した。スクリューの回転速度は250rpmとし、6つの加熱帯の温度プロファイルは以下の通りとした:
T1=190℃;
T2=200℃;
T3=210℃;
T4=210℃;
T5=210℃;
T6=210℃。
【0123】
得られた化合物、γ−STMグラフト化PPを、表4に示すレシピに従って、木粉とポリプロピレンとの間のカップリング剤として添加した。
【0124】
実施例9では、木粉をポリプロピレンに調合した際に木粉とポリプロピレンとの間のカップリング反応がin−situで起こった。
【0125】
生成物のトルク及びずれ弾性率(G’)を実施例1に記載の通りに試験した。結果を表4に示す。
【0126】
得られた化合物を、210℃で5分間Agila(登録商標)PE30プレス上で圧縮成形して4mm厚のプレートに成形した後、さらにプレスしながら15℃/分で周囲温度に冷ました。ISO−527タイプ1Bに準拠した引張試料を、Ray-Ran(登録商標)製のPolytest CNCカッティングミルを用いて成形シートから切り取った。この4mm厚の多目的サンプルは試験前に硬化させなかった。各化合物の機械的性能をISO−527に準拠したこれらの試料の引張試験によって評価した。得られた結果を表4に示す。
【0127】
【表4】

【0128】
表4のG’値から、実施例8及び実施例9の複合材料は、G’値が比較例C11の基準カップリング剤技術MAg−PPよりも優れているため、より高い架橋密度まで硬化していると結論付けることができる。
【0129】
表4の引張強度、引張歪み及び引張率の値から、実施例8及び実施例9の複合材料は、比較例C11の基準カップリング剤技術MAg−PPと機械的性質が同様であるか又はそれよりも良好であり(similar to better)、比較例C12のようなカップリング剤を全く用いない複合材料よりも機械的性質がはるかに良好であると結論付けることができる。
【0130】
吸水試験は、試料を室温で脱塩水中に浸漬させて行った。吸水率は、初期重量に対する所与の水中浸漬期間後のサンプル重量と水中浸漬前の初期重量との間の差の比率として計算し、%単位で表した。
【0131】
表4の吸水値から、実施例8及び実施例9の複合材料は、比較例C11の基準カップリング剤技術MAg−PP及び比較例C12のようなカップリング剤を全く用いない複合材料よりも吸水耐性がはるかに良好であると結論付けることができる。
【0132】
実施例10並びに比較例C13及び比較例C14
グラフト化及び架橋ポリプロピレンサンプルを30重量%の木粉及び表5に示す試薬量を用いて連続押出プロセスに従って作製した。ポリプロピレンは、先の実施例で用いたPP(MFI 1)の代わりに上記原料の部に記載したPPH(MFI 12)を用いた。木粉とポリプロピレンとの間のカップリングは、実施例9に用いた手順と同様にin−situで行った。スクリュー径20mm、L/D=40のBrabender(登録商標)製のDSE 20/40共回転二軸押出機上で連続プロセスを行った。
【0133】
次いで、得られた化合物を、ISO−294に準拠した射出成形によって、ISO−3167に準拠した4mm厚の多目的試料に成形した。各化合物の機械的性能をISO−527に準拠したこれら未硬化試料の引張試験によって評価した。ノッチなし試料に対するシャルピー法ISO 179−2に準拠してこれら未硬化試料について衝撃強度も測定した。得られた結果を表5に示す。
【0134】
【表5】

【0135】
表5の引張強度、引張率及び引張歪みの値から、実施例10の複合材料は、基準として試験した比較例C13のMAg−PPカップリング剤と機械的性質がほぼ同様であり、比較例C14のようなカップリング剤を全く用いない複合材料よりも機械的性質が良好であると結論付けた。
【0136】
表5の衝撃強度値から、実施例10の複合材料は、基準として試験した比較例C13のMAg−PPカップリング剤及び比較例C14のようなカップリング剤を全く用いない複合材料と衝撃耐性が同様であると結論付けた。
【0137】
表5の吸水値から、実施例10の複合材料は、基準として試験した比較例C13のMAg−PPカップリング剤と吸水耐性がほぼ同様であり、比較例C14のようなカップリング剤を全く用いない複合材料よりも吸水耐性が有意に良好であると結論付けた。
【0138】
実施例11〜実施例14
実施例1の手順に従い、表6に示す試薬量を用いて、ローラーブレードミキサにおける混合工程終了時にジオクチルスズジラウレート(DOTDL)触媒を添加するか、又は添加せずに、グラフト化及び架橋ポリプロピレンサンプルを調製した。
【0139】
先の実施例1とは反対に、水浴中に希釈したさらなる架橋触媒が全く存在しない95℃の水中で硬化を実行した。したがって、材料自体のDOTDL触媒添加の効果を評価した。
【0140】
【表6】

【0141】
表6に示した実施例11〜実施例14のトルク値は、先の実施例とほぼ全く同一及び一致し、γSTMシラン及びαSTMシランが共にポリプロピレン樹脂に良好な効率でグラフト化することが確認された。実施例11及び実施例12のトルク値は実施例3で得られたトルク値(表1)よりも劣っており、これらの各実施例で用いたγSTMシラン濃度の差に一致する。
【0142】
表6に示す実施例11〜実施例14のずれ弾性率(G’)及びゲル含量の値の分析から、組成物中へのDOTDL触媒の添加の有無とは関係なく、材料において極めて高い架橋度を達成することができることが示唆される。表6における結果からは、比較例C3及び比較例C5(表1)で用いたVTMとは反対に、本発明のγSTMシラン及びαSTMシランがいずれも効果的にラジカル開始剤の存在下で調合する際のβ切断の発生を防止しながらポリプロピレン樹脂にグラフト化できることが確認された。
【0143】
実施例11及び実施例12と実施例13及び14とを比較するのは一筋縄ではいかない。実際、実施例11及び実施例12で用いたγSTMのモル量は、実施例13及び実施例14で用いたαSTMシランのモル量に対応していない。そうは言うものの、実施例13及び実施例14では、実施例11及び実施例12と比較してシランを約3分の2のモル量しか用いていないという事実にもかかわらず、達成された架橋度はほぼ同様であり、むしろより高かった。この後者の観察結果から、αSTMグラフト化ポリプロピレンが材料中の完全架橋の達成に縮合触媒(例えばDOTDL)の使用を必要としないことが確認される。
【0144】
実施例3(表1)に対する実施例11及び実施例12のG’及びゲル含量の値の差も、これら各実施例で用いたγSTM濃度の差に完全に合致する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
加水分解性シラン基をポリオレフィンにグラフト化する方法であって、該ポリオレフィンと、オレフィン−C=C−結合又はアセチレン−C≡C−結合を含有し、かつSiに結合した少なくとも1つの加水分解性基を有する不飽和シランとを、該重合体中にフリーラジカル部位を生成し得る手段の存在下で反応させることを含み、前記不飽和シランが、芳香環又はさらなるオレフィン二重結合若しくはアセチレン不飽和を含有し、該芳香環又は該さらなる該オレフィン二重結合若しくはアセチレン不飽和が、不飽和シランのオレフィン−C=C−不飽和又はアセチレン−C≡C−不飽和と共役することを特徴とする、方法。
【請求項2】
前記ポリオレフィンが少なくとも50重量%単位の炭素数3〜8のα−オレフィンを含むことを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ポリオレフィンがポリプロピレンであることを特徴とする、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記不飽和シランが前記オレフィン−C=C−結合又は前記アセチレン−C≡C−結合に対する電子求引部分を含有することを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記不飽和シランの前記加水分解性基が式−SiRaR’(3−a)(式中、Rは加水分解性基、好ましくはアルコキシ基を表し、R’は炭素数1〜6のヒドロカルビル基を表し、aは1以上3以下の範囲の値を有する)を有することを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記不飽和シランを部分的に加水分解し、オリゴマーに縮合する、請求項4に記載の方法。
【請求項7】
前記不飽和シランが式CH2=CH−C6H4−A−SiRaR’(3−a)(I)又は式CH≡C−C6H4−A−SiRaR’(3−a)(II)(式中、Aは直接結合、炭素数1〜12の二価の有機基又は−O−、−S−及び−NH−から選ばれる二価のヘテロ原子連結基を含有するスペーサー基を表す)を有することを特徴とする、請求項4〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記不飽和シランが式R2−CH=CH−CH=CH−A’−SiRaR’(3−a)(式中、R2は水素又は炭素数1〜12のヒドロカルビル基を表し、A’は隣接する−CH=CH−結合に対して電子求引効果を有する有機連結を表す)を有することを特徴とする、請求項4〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記不飽和シランがソルビルオキシアルキルシラン、好ましくは3−ソルビルオキシプロピルトリメトキシシランである、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記不飽和シランが、全組成に対して0.5重量%〜20.0重量%存在することを特徴とする、請求項1〜9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記重合体中にフリーラジカル部位を生成し得る有機過酸化物化合物が、全組成に対して0.01重量%〜2重量%の量で組成中に存在することを特徴とする、請求項1〜9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
加水分解性シラン基をポリオレフィンにグラフト化する方法であって、該ポリオレフィンを、オレフィン−C=C−結合又はアセチレン−C≡C−結合を含有し、かつSiに結合した少なくとも1つの加水分解性基を有する不飽和シランの存在下で電子線処理することを含み、前記不飽和シランが、芳香環又はさらなるオレフィン二重結合若しくはアセチレン不飽和を含有し、該芳香環またはさらなるオレフィン二重結合若しくはアセチレン不飽和が、該不飽和シランのオレフィン−CH=CH−不飽和又はアセチレン−C≡C−不飽和と共役することを特徴とする、方法。
【請求項13】
前記不飽和シラン(I)又は前記不飽和シラン(II)を、前記重合体と反応させる前にフィラーに付着させることを特徴とする、請求項1〜12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記重合体、前記不飽和シラン(I)又は前記不飽和シラン(II)及び前記フィラーをin situで反応させることを特徴とする、請求項1〜12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
加水分解性シラン基をグラフト化したグラフト化ポリオレフィンであって、式PP−CH(CH3)−C6H4−A−SiRaR’(3−a)のグラフト化部分及び/又は式PP−CH2−CH2−C6H4−A−SiRaR’(3−a)のグラフト化部分(式中、Aは直接結合又は炭素数1〜12の二価の有機基を表し、Rは加水分解性基を表し、R’は炭素数1〜6のヒドロカルビル基を表し、aは1以上3以下の範囲の値を有し、PPはポリオレフィン鎖を表す)を含有することを特徴とする、グラフト化ポリオレフィン。
【請求項16】
加水分解性シラン基をグラフト化したグラフト化ポリオレフィンであって、式R’’−CH(PP)−CH2−A’−SiRaR’(3−a)のグラフト化部分及び/又は式R’’−CH2−CH(PP)−A’−SiRaR’(3−a)のグラフト化部分(式中、Rは加水分解性基を表し、R’は炭素数1〜6のヒドロカルビル基を表し、aは1以上3以下の範囲の値であり、A’は電子求引効果を有する化学連結を表す、R’’は芳香環を含む基を表し、PPはポリオレフィン鎖を表す)を含有することを特徴とする、グラフト化ポリオレフィン。
【請求項17】
加水分解性シラン基を重合体にグラフト化する際に、芳香環を含有しない不飽和シランをグラフト化する場合と比較してグラフト化を亢進し、及び/又は該重合体の分解をより少なくする不飽和シランの使用であって、該不飽和シランはオレフィン−C=C−結合又はアセチレン−C≡C−結合を含有し、かつSiに結合した少なくとも1つの加水分解性基を有し、かつ芳香環又はさらなるオレフィン二重結合若しくはアセチレン不飽和を含有し、該芳香環またはさらなるオレフィン二重結合若しくはアセチレン不飽和が、該不飽和シランのオレフィン−C=C−不飽和又はアセチレン−C≡C−不飽和と共役する、不飽和シランの使用。
【請求項18】
請求項15若しくは16に記載のグラフト化重合体又は請求項1〜14のいずれか一項に記載の方法によって製造したグラフト化重合体を、任意選択でシラノール縮合触媒の存在下又は非存在下で水分に曝すことを特徴とする、重合体を架橋する方法。
【請求項19】
前記グラフト化重合体を物品に成形し、引き続いて水分に曝すことにより架橋することを特徴とする、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
フィラー又は基材に対する低極性の重合体の接着を向上させる接着促進剤又はカップリング剤としての、請求項15若しくは16に記載のグラフト化重合体又は請求項1〜14のいずれか一項に記載の方法によって製造したグラフト化重合体の使用。
【請求項21】
低極性の重合体とより高い極性を有する重合体との相溶性を向上させ、新合金を形成する相溶化剤としての、請求項15若しくは16に記載のグラフト化重合体又は請求項1〜14のいずれか一項に記載の方法によって製造したグラフト化重合体の使用。
【請求項22】
発泡剤、水分及び縮合触媒を共に、請求項15若しくは16に記載のグラフト化重合体又は請求項1〜14のいずれか一項に記載の方法によって製造したグラフト化重合体に添加することを特徴とする、発泡重合体を形成する方法。

【公表番号】特表2011−526313(P2011−526313A)
【公表日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−515242(P2011−515242)
【出願日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【国際出願番号】PCT/EP2009/004799
【国際公開番号】WO2010/000479
【国際公開日】平成22年1月7日(2010.1.7)
【出願人】(596012272)ダウ・コーニング・コーポレイション (347)
【Fターム(参考)】