説明

シラン化合物、その製造方法、及び表面改質剤

【課題】新規なシラン化合物、及びその製造方法、並びに親水性、耐久性に優れた表面改質剤を提供する。
【解決手段】構造式(1)であわされるシラン化合物。


前記構造式(1)において、R1は、アルキル基を表す。R2は、直鎖又は分岐のアルキレン基を表す。Xは、酸素原子、及びNR3のいずれかを表す。R3は、水素原子、及びアルキル基のいずれかを表す。Yは、アニオン性官能基、及びその塩を表す。nの値は、1〜6を表す。mの値は、0〜1を表す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なシラン化合物、その製造方法、及び前記シラン化合物、若しくはその加水分解物のいずれかを含有する表面改質剤、例えば、防曇り剤、防汚物質剤等に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等の窓ガラス、浴室や洗面所の鏡、眼鏡レンズ等は、よく曇ることがある。物品表面が曇る現象は、表面に微小な水滴が付着、結露し、この微小水滴が光を乱散乱するために生じる。こうした透明材料の曇りを防止する方法として、基材表面を撥水性にし、水滴をその自重によって落下させる方法がとられている(特許文献1参照)。
ところが、この場合、極微小な水滴は自重が不十分であり、自然脱落しないため、曇りを防止できないという問題がある。
【0003】
また、建物及び塗装の分野においては、環境汚染に伴い、建物外装材料や塗膜等の汚れが問題となっている。こうした建物外装等の汚れ防止にも、表面に撥水性のコーティングを施すことが検討されてきた。
しかしながら、撥水性のコーティングを施した場合、近年では親油性成分を多く含む都市煤塵が増えたため、汚れが目立つという問題がある。
【0004】
そこで、近年では、物質表面を親水性にすることにより、防曇性及び防汚染性が発揮できると考えられている(非特許文献1〜2参照)。
【0005】
表面物質の親水性を上げるために、シロキサンポリマーと加水分解性シラン誘導体モノマー、シロキサンオリゴマー、シリケートオリゴマーのいずれかで被覆された光触媒粒子からなるコーティング組成物の開発が試みられている(特許文献2)。
しかしながら、この場合、室内や暗所など紫外線の弱い状況においては光触媒粒子の効果が十分に発揮されないという問題がある。
【0006】
また、表面物質の親水性を上げるために、スルホン酸型両性界面活性剤と、その無機塩及び酢酸塩のいずれかとの混合物からなる界面活性剤を塗布する持続性防曇組成物の開発が試みられている(特許文献3参照)。
しかしながら、この場合、界面活性剤は水溶性であるため、水洗すると容易に脱落し、短時間にその効果が失われてしまうという問題がある。
そこで、前記特許文献3で問題になっている耐久性を改善するために、シラン化合物の利用したコーティング用樹脂組成物が提案されている(特許文献4参照)。
しかしながら、この場合、親水性が不十分であるという問題がある。
【0007】
【特許文献1】特開平10−45429号公報
【特許文献2】特開平09−227831号公報
【特許文献3】特開昭53−058492号公報
【特許文献4】特開平11−335625号公報
【非特許文献1】高分子,44(5),307(1995)
【非特許文献2】ぬれ技術ハンドブック,テクノシステム出版,2001年
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、従来における前記問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。即ち、本発明は、新規なシラン化合物、その製造方法、及び親水性、耐久性に優れた表面改質剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するために、本発明者らが検討を行った結果、新規なシラン化合物が親水性及び耐久性を発揮することを知見した。
本発明は、本発明者らの前記知見に基づくものであり、前記課題を解決するための手段としては、以下の通りである。即ち、
<1> 下記構造式(1)で表されることを特徴とするシラン化合物である。
【化1】


前記構造式(1)において、R1は、アルキル基を表す。R2は、直鎖又は分岐のアルキレン基を表す。Xは、酸素原子、及びNR3のいずれかを表す。R3は、水素原子、及びアルキル基のいずれかを表す。Yは、アニオン性官能基、及びその塩を表す。nの値は、1〜6を表す。mの値は、0〜1を表す。
<2> 構造式(1)中のYがスルホン酸、及びこの塩のいずれかを表す前記<1>に記載のシラン化合物である。
<3> 構造式(1)中のnの値が2〜3のいずれかを表す前記<1>から<2>のいずれに記載のシラン化合物である。
<4> 構造式(2)で表されるメルカプト基含有アルコキシシランと、構造式(3)で表されるアニオン性ビニル単量体とを、反応させることを特徴とする構造式(1)で表されるシラン化合物の製造方法である。
【化2】

前記構造式(2)において、R1は、アルキル基を表す。nの値は、1〜6を表す。
【化3】

前記構造式(3)において、R2は、直鎖又は分岐のアルキレン基を表す。Xは、酸素原子、及びNR3のいずれかを表す。R3は、水素原子、及びアルキル基のいずれかを表す。Yは、アニオン性官能基を表す。
<5> 前記<1>から<3>のいずれかに記載のシラン化合物、及びその加水分解物のいずれかを含有することを特徴とする表面改質剤である。
<6> アルコキシシリル基、及びシラノール基のいずれかと反応する官能基を有する基材に塗布する前記<5>に記載の表面改質剤である。
<7> 前記<5>から<6>のいずれかに記載の表面処理剤を、基材に塗布後、0〜300℃で乾燥させることを特徴とする表面改質層形成法である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によると、従来における問題を解決でき、親水性と耐久性に優れた新規なシラン化合物、該シラン化合物を効率よく製造できる製造方法、及び該シラン化合物、若しくはその加水分解物を用い、防曇性、防汚染性等に優れた表面改質剤を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
(シラン化合物及びその製造方法)
本発明のシラン化合物は、下記構造式(1)で表される。
【化4】


前記構造式(1)において、R1は、アルキル基を表す。R2は、直鎖又は分岐のアルキレン基を表す。Xは、酸素原子、及びNR3のいずれかを表す。R3は、水素原子、及びアルキル基のいずれかを表す。Yは、アニオン性官能基、及びその塩を表す。nの値は、1〜6を表す。mの値は、0〜1を表す。
【0012】
前記R1は、アルキル基を表す。前記アルキル基としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、炭素数1〜6の直鎖又は分岐のアルキル基が挙げられる。これらの中でも、メチル基、エチル基であることが好ましい。
前記R2は、アルキレン基を表す。前記アルキレン基としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、炭素数1〜6の直鎖又は分岐のアルキレン基が挙げられる。これらの中でも、炭素数1〜4の直鎖又は分岐のアルキレン基であることが好ましく、炭素数2〜4の直鎖又は分岐のアルキレン基であることがより好ましい。
前記Xは、酸素原子、及びNR3のいずれかを表す。
前記R3は、水素原子、及びアルキル基のいずれかを表す。前記アルキル基としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、炭素数1〜6の直鎖又は分岐のアルキル基が挙げられる。これらの中でも、メチル基、エチル基であることが好ましい。
前記nの値は、1〜6を表す。前記nの値は、2〜5であることが好ましく、2〜3がより好ましい。
【0013】
前記Yは、アニオン性官能基を表す。前記アニオン性官能基としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、スルホン酸基が好ましい。前記スルホン酸基は、親水性が比較的高いことから、前記構造式(1)で表されるシラン化合物に優れた親水性を付与することができる。
前記アニオン性官能基の塩は、前記アニオン性官能基と、対イオン(カチオン)とからなる。
前記対イオン(カチオン)としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ナトリウムイオン、カリウムイオン、アンモニウムイオン等が挙げられる。
前記アニオン官能基の塩としては、スルホン酸のナトリウム塩、スルホン酸のカリウム塩、スルホン酸のアンモニウム塩が好ましい。
【0014】
前記シラン化合物の製造方法は、下記構造式(2)で表されるメルカプト基含有アルコキシシランと、下記構造式(3)で表されるアニオン性ビニル単量体とを、反応させる。
【化5】

前記構造式(2)において、R1は、アルキル基を表す。nの値は、1〜6を表す。
【化6】

前記構造式(3)において、R2は、直鎖又は分岐のアルキレン基を表す。Xは、酸素原子、及びNR3のいずれかを表す。R3は、水素原子、及びアルキル基のいずれかを表す。Yは、アニオン性官能基を表す。
【0015】
前記構造式(2)中のR1、nは、前記構造式(1)中のR1、nと同様の内容である。
前記構造式(3)中のR2、X、R3、Yは、前記構造式(1)中のR2、X、R3、Yと同様の内容である。
【0016】
本発明のシラン化合物、及び前記シラン化合物の製造原料は、以下の方法により、製造することができる。
【0017】
前記メルカプト基含有アルコキシシランとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、γ−メルカプトブチルトリメトキシシラン、γ−メルカプトブチルトリエトキシシラン、γ−メルカプトエチルトリメトキシシラン、γ−メルカプトエチルトリエトキシシラン等が挙げられる。
【0018】
前記メルカプト基含有アルコキシシランとしては、適宜合成したものを使用してもよいし、市販品を使用してもよい。
前記市販品は、例えば、信越化学工業株式会社より「KBM−803」の商品名で市販されている3−メルカプトプロピルトリメトキシシランが挙げられる。
【0019】
前記アニオン性ビニル化合物としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、アクリル酸−3−スルホプロピル、アクリル酸−2−スルホエチル、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、2−アクリルアミド−プロパンスルホン酸、アクリルアミドプロパンスルホン酸、2−アクリル(N−メチル)アミド−2−メチルプロパンスルホン酸等が挙げられる。これらの中でも、親水性が優れているアクリル酸−3−スルホプロピル、アクリル酸−2−スルホエチル、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、2−アクリルアミド−プロパンスルホン酸、アクリルアミドプロパンスルホン酸、2−アクリル(N−メチル)アミド−2−メチルプロパンスルホン酸が好ましい。
前記アニオン性ビニル化合物中のYは、対イオン(カチオン)と塩を形成したものでもよい。
前記対イオンは、前記Yの説明における対イオンと同様の内容である。
【0020】
前記アニオン性ビニル化合物は、適宜合成したものを使用してもよいし、市販品を使用してもよい。
前記市販品は、例えば、東亞合成株式会社より「ATBS」の商品名で市販されている2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸等が挙げられる。
【0021】
前記シラン化合物は、適当な有機溶媒中で、前記構造式(2)で表されるメルカプト基含有アルコキシシラン化合物と、前記構造式(3)で表されるアニオン性ビニル化合物とを、マイケル付加反応させることにより製造することが好ましい。
【0022】
前記有機溶媒は、前記シラン化合物の製造原料を溶解するものであり、かつ前記シラン化合物の製造原料に対して不活性であるものであればよく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、アルコール類、ケトン類、エステル類、芳香族系炭化水素類、エーテル類、ハロゲン炭化水素類等が挙げられる。
前記アルコール類としては、メタノール、エタノール等が挙げられる。
前記ケトン類としては、アセトン、メチルエチルケトン等が挙げられる。
前記エステル類としては、酢酸エチル、酢酸メチル等が挙げられる。
前記芳香族系炭化水素類としては、トルエン、キシレン等が挙げられる。
前記エーテル類としては、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル等が挙げられる。
前記ハロゲン化炭化水素類としては、1,2−ジクロロエタン、クロロホルム等が挙げられる。
前記有機溶媒の添加量は、特に制限はなく、本発明のシラン化合物の製造原料を溶解する量であり、本発明のシラン化合物の製造原料の有機溶媒に対する溶解度により選択される任意の量である。
【0023】
前記マイケル付加反応は、触媒の存在下でも行うことができ、触媒の非存在下でも行うことができる。
前記触媒としては、例えば、アミン化合物、スズ化合物、リン化合物等が挙げられる。これらの中でも、トリフェニルホスフィンが好ましい。
前記触媒の添加量は、本発明のシラン化合物の製造原料の全量に対し、0.01質量%〜10質量%が好ましく、0.1質量%〜5質量%がより好ましい。
【0024】
前記マイケル付加反応の反応温度は、前記マイケル付加反応に使用する有機溶媒の沸点以下であることが好ましい。
前記有機溶媒としてメタノールを使用する場合は、0℃〜70℃が好ましく、20℃〜70℃がより好ましい。
前記マイケル付加反応の反応時間は、特に制限はなく、反応温度、触媒の種類等の諸条件により、任意で選択できるが、30分間〜100時間が好ましい。
【0025】
前記シラン化合物は、前記アニオン性ビニル化合物中のYがアニオン性官能基であるものを用いた場合は、前記マイケル付加反応後に、前記対イオンと塩を形成してもよい。前記対イオンは、前記Yの説明における対イオンと同様の内容である。
【0026】
(表面改質剤)
本発明の表面改質剤は、前記シラン化合物、及びその加水分解物のいずれかを含有してなる。前記表面改質剤は、親水性、及び耐久性に優れた表面改質層を形成することができる。
【0027】
前記シラン化合物の加水分解物の方法としては、特に制限はなく、公知の方法が挙げられる。
前記シラン化合物の加水分解物を得るための加水分解反応の添加物としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、水、酸触媒、希釈用溶剤等挙げられる。
前記酸触媒としては、例えば、無機酸、有機酸等が挙げられる。前記無機酸としては、例えば、硫酸、硝酸、塩酸等が挙げられる。前記有機酸としては、例えば、酢酸、蟻酸等が挙げられる。
前記希釈用溶剤としては、例えば、本発明のシラン化合物の製造に用いた有機溶媒が挙げられる。
前記希釈用溶剤の添加量は、特に制限はなく、目的に応じた任意の量である。
前記シラン化合物及びその加水分解物全体量の濃度は、表面改質剤の全量に対し、0.01質量%〜80質量%が好ましく、0.02質量%〜50質量%がより好ましい。
【0028】
前記表面改質剤は、前記シラン化合物、及びその加水分解物のいずれかを有機溶媒に溶解したものが好ましい。
前記有機溶媒としては、前記シラン化合物、及びその加水分解物を溶解可能なものであればよく、例えば、アルコール類、ケトン類、エステル類、芳香族系炭化水素類、エーテル類、ハロゲン炭化水素類等が挙げられる。
前記アルコール類としては、メタノール、エタノール等が挙げられる。
前記ケトン類としては、アセトン、メチルエチルケトン等が挙げられる。
前記エステル類としては、酢酸エチル、酢酸メチル等が挙げられる。
前記芳香族系炭化水素類としては、トルエン、キシレン等が挙げられる。
前記エーテル類としては、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル等が挙げられる。
前記ハロゲン化炭化水素類としては、1,2−ジクロロエタン、クロロホルム等が挙げられる。
これらの中でも、前記シラン化合物を合成するときに用いる有機溶媒を使用することが好ましい。
これらは1種単独で使用してもよいし、又は2種以上で併用してもよい。
【0029】
前記表面改質剤としては、前記表面改質剤に用いる有機溶媒が前記シラン化合物を合成するときに用いる有機溶媒と同じものである場合は、前記シラン化合物の合成反応溶液をそのまま用いることができ、また、前記シラン化合物の合成反応溶液を希釈液で希釈して用いることができる。前記希釈液は、例えば、本発明のシラン化合物の製造に用いた有機溶媒が挙げられる。
また、前記表面改質剤としては、前記表面改質剤に用いる有機溶媒が前記シラン化合物を合成するときに用いる有機溶媒と異なる場合は、前記シラン化合物の合成反応溶液に用いた有機溶媒を除去した後、前記表面改質剤に用いる有機溶媒を添加することができる。前記除去の方法としては、特に制限はなく、公知の手段が挙げられる。
【0030】
前記表面改質剤は、基材に塗布して、その後、乾燥して表面改質層を形成することができる。
前記塗布の方法としては、公知の方法を用いることができ、特に制限はなく、例えば、ディップ法、スプレー法、フロートコート法、スピンコート法、刷毛やスポンジなどに表面改質剤を含浸させて塗る方法等が挙げられる。
【0031】
前記基材としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、無機材料、有機材料、無機・有機複合材料等が挙げられる。
これらの中でも、前記シラン化合物のアルコキシシリル基、及び前記シラン化合物加水分解物のシラノール基のいずれかと反応する官能基を有する基材が好ましい。
前記アルコキシシリル基、及びシラノール基のいずれかと反応する官能基としては、シラノール基、水酸基、カルボキシル基等が挙げられる。
前記アルコキシシリル基、及びシラノール基のいずれかと反応する官能基を有する基材としては、例えば、無機材料、有機材料、金属、紙等が挙げられる。
前記無機材料としては、例えば、ガラス、セラミック、コンクリート、シリカ、アルミナ、酸化セリウム等が挙げられる。
前記有機材料としては、例えば、繊維、プラスチック等が挙げられる。
【0032】
前記乾燥としては、乾燥温度を0℃〜300℃にすることが好ましい。前記乾燥温度が、0℃未満になると、前記アルコキシシリル基、及び前記シラノール基のいずれかと、前記基材の官能基との反応が不十分になることがあり、前記乾燥温度が、300℃を超えると、本発明の表面改質剤が分解することがある。
前記乾燥の乾燥時間としては、特に制限はなく、前記アルコキシシリル基、及び前記シラノール基のいずれかと、前記基材の官能基との反応に応じて、任意に選択できるが、30分間〜100時間が好ましい。
【0033】
前記表面改質剤より得られた表面改質層は、そのまま使用してもよいし、余分なシラン化合物を拭き取って使用してもよい。
前記拭き取りに用いる溶媒としては、前記シラン化合物の加水分解反応で用いた希釈用溶剤から適宜選択して用いることができる。
【0034】
前記表面改質剤の剤型は、例えば、エタノール溶液、エマルジョン、サスペンジョン、ゲル、固型、エアゾール、粉末剤等が挙げられる。
前記表面改質剤は、例えば、防曇剤、防汚染剤、水滴の形成・付着防止剤等に用いることができる。
前記防曇剤は、水滴による曇りを防ぐものであり、例えば、鏡、ガラス、ショーケース、レンズ、フィルム等に用いられる。
前記鏡としては、例えば、道路、化粧、浴室、洗面等に用いられる鏡が挙げられる。前記ガラスとしては、例えば、自動車、建物等に用いられるガラスが挙げられる。前記ショーケースとしては、例えば、冷凍、冷蔵等に用いるショーケース等が挙げられる。前記レンズとしては、例えば、眼鏡、機械等に用いられるレンズが挙げられる。前記フィルムとしては、例えば、鏡、ガラス、ショーケース、レンズ等に用いるフィルムが挙げられる。
前記防汚染剤は、ほこりや油性の汚れの付着を防ぐものであり、例えば、ガラス、壁材、内装資材、外装資材、道路資材、日用品等に用いられる。
前記ガラスとしては、例えば、自動車、建物等に用いられるガラスが挙げられる。前記壁材としては、例えば、道路、建物等に用いられる壁材が挙げられる。前記内装資材としては、例えば、台所、浴室等の内装資材が挙げられる。前記外装資材としては、例えば、網戸、門扉、屋根、ベランダ等の外装資材資材が挙げられる。前記道路資材としては、標識、照明、フェンス、トンネル等が挙げられる。前記日用品としては、例えば、食器、調理器具等の日用品が挙げられる。
前記水滴の形成・付着防止剤は、結露を防ぐことにより水滴の形成・付着を防止し、電気機器の漏電や、熱交換部品における熱交換の低効率化を防ぐものであり、例えば、エアコンの部材、高圧電線等に用いることができる。
【0035】
前記表面改質剤の親水性としては、前記表面改質剤を処理した基材の水接触角が50°以下であることが好ましい。前記水接触角が50°を超えると、防汚染性を十分に発揮できず、ほこり等により基材が汚染されることがあり、さらに防曇性も十分に発揮できないことがある。したがって、前記水接触角は30°以下であることがより好ましく、20°以下であることがより好ましい。
【実施例】
【0036】
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明は、これらの実施例に
何ら限定されるものではない。
【0037】
(実施例1)
−シラン化合物の合成―
2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸(東亞合成株式会社製、ATBS)20.73(0.10mol)をメタノール354gに溶解し、その後、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業株式会社製、KBM−803)19.64g(0.10mol)及びトリフェニルホスフィン0.50質量%含有するメタノール溶液40.37gをさらに添加し、65℃で5時間反応させて、本発明のシラン化合物を得た。
【0038】
−表面改質剤の調製及び表面改質層の形成―
本発明のシラン化合物が含まれたメタノール溶液に、水を、本発明のシラン化合物の全量に対し、13質量%になるように添加し、その後、本発明のシラン化合物の固形分が0.5質量%となるようにメタノールで希釈し、1時間撹拌を行い、本発明の表面改質剤を調整した。
得られた本発明の表面改質剤をディップ法によりスライドガラス(松浪硝子工業株式会社製、76mm×26mm)に塗布し、120℃で2時間乾燥を行い、本発明の表面改質層を形成した。
【0039】
−シラン化合物の分析―
前記シラン化合物の合成で得られた本発明のシラン化合物について、NMR測定を行った。
H−NMR測定の結果より、ビニル基(δ=5.6−6.5ppm)の消失と、スルフィド結合(δ=2.5−2.8ppm)が観察され、マイケル付加反応の進行を確認した。得られた結果を図1に示す。
29Si−NMR測定の結果より、シラン化合物のモノマー(δ=−41.1ppm)とダイマー(δ=−49.5ppm)のピークが観察され、モノマーの比率は17(area%)であり、ダイマーの比率は83(area%)であることがわかった。得られた結果を図2に示す。
【0040】
(実施例2)
―シラン化合物の合成―
2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸20.73g(0.10mol)をメタノール341gに溶解し、その後、ナトリウムメトキシド28質量%含有するメタノール溶液(純正化学株式会社製)17.36gを撹拌しながら添加した。得られた溶液に、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業株式会社製、KBM−803)19.64g(0.10mol)及びトリフェニルホスフィン0.50質量%含有するメタノール溶液40.37gを添加し、65℃で5時間反応させて、本発明のシラン化合物を得た。
【0041】
−表面改質剤の調製及び表面改質層の形成―
実施例2の表面改質剤の調製及び表面改質層の形成は、実施例2で得られた本発明のシラン化合物を用いた以外は、実施例1と同様の方法で表面改質剤を調整し、表面改質層を形成した。
【0042】
―シラン化合物の分析―
前記シラン化合物の合成で得られた本発明のシラン化合物についてNMR測定を行った。
H−NMR測定の結果より、ビニル基(δ=5.6−6.5ppm)の消失と、スルフィド結合(δ=2.5−2.8ppm)が観察されたことからマイケル付加反応の進行を確認した。得られた結果を図3に示す。
29Si−NMR測定の結果より、シラン化合物のモノマー(−41.1ppm)とダイマー(−49.5ppm)のピークが観察され、モノマーの比率は64(area%)であり、ダイマーの比率は36(area%)であることがわかった。得られた結果を図4に示す。
【0043】
(比較例1)
比較例1は、実施例1の表面改質剤の調製に用いる本発明のシラン化合物の代わりに、水を用いた以外は、実施例1と同様にして、表面改質剤を調整し、表面改質層を形成した。
【0044】
(比較例2)
比較例2は、実施例1のシラン化合物の合成において、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸の代わりに、メタノールを用いた以外は、実施例1と同様にして、シラン化合物を合成し、表面改質剤を調整し、表面改質層を形成した。
【0045】
(性能評価)
―耐水試験―
実施例1〜2、及び比較例1〜2の表面改質層を流水下で、スポンジ(住友スリーエム株式会社製、スコッチブライト)を用いて300回擦り洗いを行った。
【0046】
―耐摩擦試験―
実施例1〜2、及び比較例1〜2の表面改質層を布(東レ株式会社製、トレシー)で50回乾拭きを行った。
【0047】
―親水性評価―
実施例1〜2、及び比較例1〜2の表面改質層の水に対する静的接触角を、接触角計CA−X(協和界面科学株式会社製)を用いて測定した。
また、実施例1〜2、及び比較例1〜2の表面改質層を、前記耐水性試験、又は前記耐摩耗性試験を行った後で、静的接触角を、接触角計CA−X(協和界面科学株式会社製)を用いて測定した。得られた結果を表1に示す。
なお、前記静的接触角の測定は、イオン交換水を0.4μl用いて、温度25℃の条件で測定した。
【0048】
―防曇性評価―
実施例1〜2、及び比較例1〜2の表面改質層に息を2秒間吹きかけたときの、曇りの状態を観察し、下記基準で評価を行った。
また、実施例1〜2、及び比較例1〜2の表面改質層を、前記耐水性試験、又は前記耐摩耗性試験を行った後で、息を2秒間吹きかけたときの、曇りの状態を観察し、下記評価基準で評価を行った。得られた結果を表1に示す。
なお、防曇性評価は、温度が25℃、湿度が60%の条件で評価した。
【0049】
―評価基準―
◎:全く曇らない
○:わずかに、一瞬だけ曇る
△:薄い曇りが確認される
×:曇る
【表1】

【0050】
得られた結果より、実施例1〜2の表面改質層は、優れた親水性、及び防曇性を初期、耐水性試験後、及び耐摩擦性試験後においても発揮していることがわかった。また、比較例1〜2の表面改質層は、親水性、及び防曇性を初期、耐水性試験後、及び耐摩擦性試験後においても十分に発揮することができないことがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明の新規なシラン化合物は、親水性及び耐久性に優れているため、ガラスやセラミック等の基材の表面に防曇性や防汚染性を付与することができる。さらに、本発明のシラン化合物の製造方法によれば、効率よく前記シラン化合物を製造することができる。
また、本発明の表面改質剤は、ガラスや鏡等の基材の表面に防曇性や防汚染性を付与することができ、剤型や種類に関らず、例えば、防曇剤、防汚染剤、水滴の形成・付着防止剤等に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】図1は、実施例1のシラン化合物のH−NMR図である。
【図2】図2は、実施例1のシラン化合物の29Si−NMR図である。
【図3】図3は、実施例2のシラン化合物のH−NMR図である。
【図4】図4は、実施例2のシラン化合物の29Si−NMR図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記構造式(1)で表されること特徴とするシラン化合物。
【化1】


前記構造式(1)において、R1は、アルキル基を表す。R2は、直鎖又は分岐のアルキレン基を表す。Xは、酸素原子、及びNR3のいずれかを表す。R3は、水素原子、及びアルキル基のいずれかを表す。Yは、アニオン性官能基、及びその塩を表す。nの値は、1〜6を表す。mの値は、0〜1を表す。
【請求項2】
構造式(1)中のYがスルホン酸、及びこの塩のいずれかを表す請求項1に記載のシラン化合物。
【請求項3】
構造式(2)で表されるメルカプト基含有アルコキシシランと、構造式(3)で表されるアニオン性ビニル単量体とを、反応させることを特徴とする構造式(1)で表されるシラン化合物の製造方法。
【化2】

前記構造式(2)において、R1は、アルキル基を表す。nの値は、1〜6を表す。
【化3】

前記構造式(3)において、R2は、直鎖又は分岐のアルキレン基を表す。Xは、酸素原子、及びNR3のいずれかを表す。R3は、水素原子、及びアルキル基のいずれかを表す。Yは、アニオン性官能基を表す。
【請求項4】
請求項1から2のいずれかに記載のシラン化合物、及びその加水分解物のいずれかを含有することを特徴とする表面改質剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−1959(P2007−1959A)
【公開日】平成19年1月11日(2007.1.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−187400(P2005−187400)
【出願日】平成17年6月27日(2005.6.27)
【出願人】(000006769)ライオン株式会社 (1,816)
【Fターム(参考)】