説明

シリコン単結晶ウェーハの評価方法

【課題】 本発明では、シリコン単結晶ウェーハの評価方法において、5nm以上の比較的厚い酸化珪素膜をシリコン単結晶ウェーハの表面に容易に形成することができ、かつ安定してC−V特性を測定することのできるシリコン単結晶ウェーハの評価方法を提供する。
【解決手段】 シリコン単結晶ウェーハの表面に酸化珪素膜を堆積させ、該酸化珪素膜上に水銀電極を接合してC−V特性を測定することを特徴とするシリコン単結晶ウェーハの評価方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はシリコン単結晶ウェーハの評価方法に関し、より詳しくは、水銀電極を用いてn型シリコン単結晶ウェーハのC−V測定を行う方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、シリコン単結晶ウェーハの抵抗率を測定する方法として、C−V(capacitance−voltage)特性を測定する方法が知られている。C−V特性を測定するには、試料となるシリコン単結晶ウェーハの表面にショットキー接合を形成し、逆バイアス電圧を連続的に変化させながら印加することによりシリコン単結晶ウェーハの内部に空乏層を拡げて容量を変化させる。シリコン単結晶ウェーハの表面にショットキー接合を形成するために、例えば水銀電極が用いられる。
【0003】
試料となるシリコン単結晶ウェーハがn型の場合、予めシリコン単結晶ウェーハの表面に薄い酸化珪素膜を形成させ、この酸化珪素膜上に水銀電極を接合すると、安定してC−V特性を測定することができる。
【0004】
シリコン単結晶ウェーハの表面への薄い酸化珪素膜の形成法としては、過酸化水素などの酸化剤を含有する溶液にシリコン単結晶ウェーハを数分間浸漬させた後に、リンスと乾燥を行う方法が知られている(非特許文献1)。しかし、この方法では酸化処理から乾燥までに約20分間かかるので、時間の短縮が必要である。
【0005】
そこで、シリコン単結晶ウェーハを酸素含有雰囲気中で紫外光に曝すことによって、シリコン単結晶ウェーハの表面を酸化する方法が提案されている(特許文献1)。しかし、この方法では紫外光照射時間等の酸化条件を適切に設定しなければ、安定したC−V特性を得ることができない。
【0006】
また、安定してC−V特性を測定するためには酸化珪素膜は5nm以上の比較的厚い酸化珪素膜であることが望ましい。しかし、非特許文献1および特許文献1の酸化珪素膜形成方法では、1〜2nm程度の薄い酸化膜を形成する手段としては好適であるが、5nm以上の比較的厚い酸化珪素膜を形成する手段としては適していない。その他、熱酸化によればシリコン単結晶ウェーハの表面に厚い酸化珪素膜を形成することができるが、酸化工程に長時間が必要である上、少なくとも800℃以上に加熱する必要があるためドーパントが拡散し、その濃度分布が変化してしまう。そのため、シリコン単結晶ウェーハの評価方法において、5nm以上の比較的厚い酸化珪素膜を容易に形成することができる方法が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特表2002−516486号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】ASTM Standards F1392−02
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は上記課題を解決するために為されたものであり、5nm以上の比較的厚い酸化珪素膜をC−V特性を測定されるシリコン単結晶ウェーハの表面に容易に形成することができ、かつ安定してC−V特性を測定することのできるシリコン単結晶ウェーハの評価方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明では、
シリコン単結晶ウェーハの表面に酸化珪素膜を堆積させ、該酸化珪素膜上に水銀電極を接合してC−V特性を測定することを特徴とするシリコン単結晶ウェーハの評価方法を提供する。
【0011】
このようにシリコン単結晶ウェーハの表面に酸化珪素膜を堆積させることで、5nm以上の比較的厚い酸化珪素膜をシリコン単結晶ウェーハの表面に容易に形成することができる。その後前記酸化珪素膜上に水銀電極を接合してC−V特性を測定することで、安定してC−V特性を測定することのできるシリコン単結晶ウェーハの評価方法となる。
【0012】
また、前記酸化珪素膜としてシリカガラスを堆積させることが好ましい。
【0013】
このように、シリカガラスであれば、5nm以上の比較的厚い酸化珪素膜を容易に堆積して形成することができるため好ましい。
【0014】
さらに、前記シリカガラスの堆積を、前記シリコン単結晶ウェーハの表面にパーヒドロポリシラザンを塗布し、該パーヒドロポリシラザンを転化反応させることにより行うことが好ましい。
【0015】
このような方法で前記シリカガラスを堆積すれば、5nm以上の比較的厚い酸化珪素膜をより容易に形成することができるため好ましい。
【0016】
また、前記酸化珪素膜の堆積をCVD法により行うことが好ましい。
【0017】
このように、CVD法であれば、5nm以上の比較的厚い酸化珪素膜を容易に形成することができるため好ましい。
【0018】
さらに、前記酸化珪素膜の厚さが5nm以上50nm以下となるように堆積することが好ましい。
【0019】
このような厚さの酸化珪素膜であれば、安定してC−V特性を測定することができるため好ましい。
【0020】
前記シリコン単結晶ウェーハとして、n型シリコン単結晶ウェーハを用いることが好ましい。
【0021】
このように、本発明により評価するウェーハをn型シリコン単結晶ウェーハとすれば、特に有効にC−V特性を安定して測定できるため好ましい。
【発明の効果】
【0022】
以上説明したように本発明によれば、シリコン単結晶ウェーハの表面を酸化しなくても、容易に5nm以上の比較的厚い酸化珪素膜をシリコン単結晶ウェーハの表面に堆積することができるので、C−V特性を安定して測定することができるシリコン単結晶ウェーハの評価方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明のシリコン単結晶ウェーハの評価方法の一例を示す概略工程図である。
【図2】本発明のシリコン単結晶ウェーハの評価方法において酸化珪素膜としてシリカガラスを堆積させた場合のC−V特性の測定結果の一例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明のシリコン単結晶ウェーハの評価方法の好適な実施形態について図面を参照して説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
前述のように、シリコン単結晶ウェーハの評価方法において、5nm以上の比較的厚い酸化珪素膜を容易に形成することができる方法が望まれていた。
【0025】
本発明者らは、鋭意検討を重ねたところ、シリコン単結晶ウェーハの表面を酸化しなくても、酸化珪素膜をシリコン単結晶ウェーハの表面に堆積する方法であれば容易に5nm以上の比較的厚い酸化珪素膜を形成することができることを見出し、C−V特性を安定して測定することができるシリコン単結晶ウェーハの評価方法となることを見出して本発明を完成させるに至った。
【0026】
本発明は、シリコン単結晶ウェーハの表面に酸化珪素膜を堆積させ、該酸化珪素膜上に水銀電極を接合してC−V特性を測定することを特徴とするシリコン単結晶ウェーハの評価方法を提供する。
【0027】
[シリコン単結晶ウェーハの表面に酸化珪素膜を堆積させる工程]
本発明では、C−V特性を測定する前にシリコン単結晶ウェーハの表面に酸化珪素膜を堆積させる。堆積方法としては特に制限されないが、前記酸化珪素膜としてシリカガラスを堆積させる方法、又はCVD法により前記酸化珪素膜を堆積させる方法が好ましい。
【0028】
ここで評価するシリコン単結晶ウェーハとしては特に限定されないが、C−V特性の評価を安定させるために酸化膜の形成が必要なn型のシリコン単結晶ウェーハの評価において本発明は特に有効である。n型シリコン単結晶ウェーハには、通常の鏡面研磨ウェーハに限られず、n型エピタキシャルウエーハも含まれる。
【0029】
・酸化珪素膜としてシリカガラスを堆積させる方法
以下に、本発明のシリコン単結晶ウェーハの評価方法の一実施形態として前記シリカガラスを堆積させる方法を図面に基づいて説明する。図1は、本発明のシリコン単結晶ウェーハの評価方法の一例を示す概略工程図である。まず、シリコン単結晶ウェーハの表面をキシレンあるいはジブチルエーテル等の有機溶剤を用いて脱脂することで、続く図1工程bにおけるシリコン単結晶ウェーハとパーヒドロポリシラザンの密着性を担保する(図1工程a)。
【0030】
続いて、前記シリコン単結晶ウェーハの表面にパーヒドロポリシラザン(Perhydropolysirazane(式1)、例えばクラリアント社のアクアミカ。アクアミカはクラリアントジャパン社の商標名。)を有機溶剤とともに塗布する(図1工程b)。塗布には、例えばスプレーあるいはスピンコーターを用いることができる。
−(SiHNH)− (式1)
(式中、nは1以上の整数である。)
【0031】
有機溶剤が揮発した後、シリコン単結晶ウェーハの表面に塗布されたパーヒドロポリシラザンは大気中の水分と反応し、酸化珪素膜の一種であるシリカガラスに転化する(図1工程c)。シリカガラスに転化するまでの時間は気温や湿度等の環境に左右される。
【0032】
・CVD法により酸化珪素膜を堆積させる方法
以下に、CVD法により酸化珪素膜を堆積させる方法を説明する。前記酸化珪素膜は、CVD法を用いてもシリコン単結晶ウェーハの表面に堆積することができる。例えばキャリアガスとして窒素ガスを用い、これにモノシランと酸素を混合した反応ガス雰囲気中でシリコン単結晶ウェーハを約400℃に加熱すると、当該シリコン単結晶ウェーハの表面上に酸化珪素膜が堆積する。
【0033】
[酸化珪素膜の厚み]
本発明に係るシリコン単結晶ウェーハの表面上に堆積させる酸化珪素膜の厚さが、5nm以上50nm以下となるように堆積することが望ましい。酸化珪素膜の厚さが5nm以上となるように堆積すれば酸化珪素膜を均一に形成することができるため好ましい。また、酸化珪素膜の厚さが50nm以下となるように堆積すれば酸化膜の絶縁性の影響は少なく、C−V特性を安定して測定することができるため好ましい。
【0034】
[酸化珪素膜上に水銀電極を接合してC−V特性を測定する工程]
本発明では、前記堆積させた酸化珪素膜上に水銀電極を接合してC−V特性を測定することによりシリコン単結晶ウェーハを評価する。シリコン単結晶ウェーハの表面に前記酸化珪素膜を形成した後、該酸化珪素膜を介してシリコン単結晶ウェーハの表面にバイアス電圧を印加し、C−V特性の測定を行う(例えば、図1工程d)。これにより、C−V特性を安定して測定することができる。
【実施例】
【0035】
以下、実施例、比較例を示し、本発明をより具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
【0036】
[実施例1]
面方位(100)、直径200mm、抵抗率0.0015Ω・cmのn型シリコン単結晶基板上に厚さ4μm、抵抗率0.2Ω・cmのn型シリコンエピタキシャル層を形成したシリコンエピタキシャルウェーハを準備した。
【0037】
まず、ジブチルエーテルを用いてシリコンエピタキシャルウェーハの表面を十分に洗浄し、ウェーハの表面を脱脂した。ウェーハが乾燥した後、ウェーハの表面にジブチルエーテルで0.1%に希釈したパーヒドロポリシラザンをスピンコーターで塗布した。
【0038】
次に、パーヒドロポリシラザンを塗布したシリコンエピタキシャルウェーハを350℃で1時間熱処理し、パーヒドロポリシラザンをシリカガラスに転化することでウェーハ上に酸化珪素膜を堆積した。その後、前記酸化珪素膜上に水銀電極を接合してC−V特性を評価した。熱処理後のシリカガラスの厚さをエリプソメータで測定した値は、10.1nmであった。
【0039】
C−V特性評価の際、シリコンエピタキシャル層の表面に堆積したシリカガラス(酸化珪素膜)上に水銀電極を接合し、バイアス電圧を0.5V間隔で20Vまで掛けた。得られたバイアス電圧と空乏層容量の関係から空乏層幅と不純物濃度を算出し、その関係を図2に示した。空乏層幅0.5μmにおける不純物濃度を10回繰り返し測定したところ、その標準偏差値を平均値で除して得られる繰り返し測定精度は、1.5%であった。
【0040】
以上より、本発明のシリコン単結晶ウェーハの評価方法によれば、5nm以上の比較的厚い酸化珪素膜をシリコン単結晶ウェーハの表面に容易に形成することができ、かつ安定してC−V特性を測定することのできることが示された。
【0041】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は、例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコン単結晶ウェーハの表面に酸化珪素膜を堆積させ、該酸化珪素膜上に水銀電極を接合してC−V特性を測定することを特徴とするシリコン単結晶ウェーハの評価方法。
【請求項2】
前記酸化珪素膜としてシリカガラスを堆積させることを特徴とする請求項1に記載のシリコン単結晶ウェーハの評価方法。
【請求項3】
前記シリカガラスの堆積を、前記シリコン単結晶ウェーハの表面にパーヒドロポリシラザンを塗布し、該パーヒドロポリシラザンを転化反応させることにより行うことを特徴とする請求項2に記載のシリコン単結晶ウェーハの評価方法。
【請求項4】
前記酸化珪素膜の堆積をCVD法により行うことを特徴とする請求項1に記載のシリコン単結晶ウェーハの評価方法。
【請求項5】
前記酸化珪素膜の厚さが5nm以上50nm以下となるように堆積することを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載のシリコン単結晶ウェーハの評価方法。
【請求項6】
前記シリコン単結晶ウェーハとして、n型シリコン単結晶ウェーハを用いることを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載のシリコン単結晶ウェーハの評価方法。



【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−138463(P2012−138463A)
【公開日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−289732(P2010−289732)
【出願日】平成22年12月27日(2010.12.27)
【出願人】(000190149)信越半導体株式会社 (867)
【Fターム(参考)】