説明

シリコン製ノズル基板の製造方法、液滴吐出ヘッドの製造方法、及びシリコン製ノズル基板

【課題】多段形状や円錐台形状などのノズル孔を容易に形成して、大幅な工程短縮が可能になり、コストも低減させ、さらに飛行精度も向上させることができるシリコン製ノズル基板の製造方法等を提供する。
【解決手段】ノズル形成部120を有するニッケル製の金型Aに、使用ガスをSiH4 及びPH3 、反応圧を20Pa〜200Paとし、成長温度を550℃〜650℃とした減圧CVD法によって、リンをドープしたポリシリコンBを蒸着してノズル孔110を有するノズル基材100を作製する工程と、ノズル基材100を金型Aから除去してノズル基板1を作製する工程とを有する。上記の条件下において、成長温度を300℃〜400℃とした場合は、リンをドープしたアモルファスシリコンCを蒸着して、ノズル孔110を有するノズル基材100が作製される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコン製ノズル基板の製造方法、液滴吐出ヘッドの製造方法、及びシリコン製ノズル基板に関する。
【背景技術】
【0002】
液滴を吐出するための液滴吐出ヘッドとして、例えばインクジェット記録装置に搭載されるインクジェットヘッドが知られている。インクジェットヘッドは、一般に、インク滴を吐出するための複数のノズル孔が形成されたノズル基板と、このノズル基板に接合されノズル基板との間で上記ノズル孔に連通する吐出室、リザーバ等のインク流路が形成されたキャビティ基板とを備え、駆動部により吐出室に圧力を加えることによって、インク液を選択されたノズル孔から吐出するように構成されている。
【0003】
近年、インクジェットヘッドに対して、印刷速度の高速化及びカラー化を目的としてノズル列を複数有する構造が求められており、さらに加えて、ノズルは高密度化するとともに1列あたりのノズル数が増加して長尺化しており、インクジェットヘッド内のアクチュエータ数は益々増加している。そして、ノズル密度が高く、長尺かつ多数のノズル列を有する、小型で吐出特性に優れたインクジェットヘッドを、低コストで容易に提供することが要求され、従来から様々な工夫、提案がなされている。
【0004】
インクジェットヘッドのノズル基板にノズル孔を形成するには、従来は、シリコン単結晶基材の表面に異方性ウェットエッチングを施してテーパ状のノズル部分を形成し、次に、前記基材の反対側の表面に凹部を形成し、この凹部表面から異方性ドライエッチングを施して、円筒状のノズル部分を形成していた(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
【特許文献1】特開平10−315461号公報(第4頁、図2)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1記載の技術では、形成されるノズル孔の形状が限定され、工程が多くなり、コストもかかる。
【0007】
本発明は上記のような課題を解決するためになされたもので、多段形状や円錐台形状などのノズル孔を容易に形成して大幅な工程短縮が可能になり、コストも低減され、さらに飛行精度も向上させることができる、シリコン製ノズル基板の製造方法、液滴吐出ヘッドの製造方法、及びシリコン製ノズル基板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係るシリコン製ノズル基板の製造方法は、ノズル形成部を有するニッケル製の金型に、使用ガスをSiH4 及びPH3 、反応圧を20Pa〜200Paとし、成長温度を550℃〜650℃とした減圧CVD法によって、リンをドープしたポリシリコンを蒸着してノズル孔を有するノズル基材を作製する工程と、ノズル基材を金型から除去してノズル基板を作製する工程とを備えたものである。
【0009】
ノズル形成部を有するニッケル製の金型にリンをドープしたポリシリコンを蒸着するようにしたので、多段形状や円錐台形状(断面テーパ形状)などのノズル孔を有するシリコン製のノズル基板を容易に作製することができ、製造工程を大幅に短縮することができる。また、ドープしたリンによって応力を低減することができるので、厚みのあるノズル基板を作製することができる。
また、金型をニッケル製として形状変更を容易にできるようにしたため、多段形状のみならず円錐台形状なども比較的簡単に作製することができる。また、金型をニッケル製としたので、精度の良いノズル形成部を作製することができ、これに対応してノズル基板のノズル孔も高精度に形成され、液滴の飛行精度が向上する。さらに、金型はマスタからのコピーを使用することができるため、コストを下げることができる。
【0010】
また、本発明に係るシリコン製ノズル基板の製造方法は、ノズル形成部を有するニッケル製の金型に、使用ガスをSiH4 及びPH3 、反応圧を20Pa〜200Paとし、成長温度を300℃〜400℃とした減圧CVD法によって、リンをドープしたアモルファスシリコンを蒸着してノズル孔を有するノズル基材を作製する工程と、ノズル基材を金型から除去してノズル基板を作製する工程とを備えたものである。
【0011】
ノズル形成部を有するニッケル製の金型によってリンをドープしたアモルファスシリコンを蒸着するようにしたので、多段形状や円錐台形状(断面テーパ形状)などのノズル孔を有するシリコン製のノズル基板を容易に作製することができ、製造工程を大幅に短縮することができる。また、ドープしたリンによって応力を低減することができるので、厚みのあるノズル基板を作製することができる。
また、金型をニッケル製として形状変更を容易にできるようにしたため、多段形状のみならず円錐台形状なども比較的簡単に作製することができる。また、金型をニッケル製としたので、精度の良いノズル形成部を作製することができ、これに対応してノズル基板のノズル孔も高精度に形成され、液滴の飛行精度が向上する。さらに、金型はマスタからのコピーを使用することができるため、コストを下げることができる。
【0012】
また、本発明に係るシリコン製ノズル基板の製造方法は、リンをドープしたポリシリコンまたはアモルファスシリコンの厚みを50μm〜60μmとしたものである。
ドープしたリンによって応力を低減したので、50μm〜60μmの厚みのあるノズル基板を作製することができる。
【0013】
また、本発明に係るシリコン製ノズル基板の製造方法は、リンをドープしたポリシリコンまたはアモルファスシリコンを蒸着する前に、金型に離型材を塗布するものである。
金型に離型材を塗布したので、金型からノズル基材を容易に除去することができる。
【0014】
また、本発明に係るシリコン製ノズル基板の製造方法は、離型剤をシランカップリング材とし、塗布方法をディップ方式としたものである。
金型にシランカップリング材からなる離型材を塗布したので、金型からノズル基材を容易に除去することができる。
【0015】
また、本発明に係るシリコン製ノズル基板の製造方法は、ノズル基材の金型からの除去を、ノズル基材の表面にサポート基板を貼り付けて行うものである。
ノズル基材を金型から除去する際に、サポート基材によってノズル基材が保護され、割れなどが生じることがない。
【0016】
本発明に係る液滴吐出ヘッドの製造方法は、上記のいずれかのシリコン製ノズル基板の製造方法を適用して、液滴吐出ヘッドのシリコン製ノズル基板を製造するものである。
短縮した工程で、多段形状や円錐台形状などのノズル孔を有する厚みのあるノズル基板を低コストで容易に作製することができる。かかる製造方法によって作製された液滴吐出ヘッドは、液滴の飛行精度に優れる。
【0017】
本発明に係るシリコン製ノズル基板は、液滴を吐出するノズル孔を有するノズル基板であって、ノズル基板が、リンをドープしたポリシリコンからなるものである。
リンをドープしたポリシリコンよりなるノズル基板は、少ない工程数で簡易に製造でき、高精度で、液滴の飛行精度に優れる。
【0018】
本発明に係るシリコン製ノズル基板は、液滴を吐出するノズル孔を有するノズル基板であって、ノズル基板が、リンをドープしたアモルファスシリコンからなるものである。
リンをドープしたアモルファスシリコンよりなるノズル基板は、少ない工程数で簡易に製造でき、高精度で、液滴の飛行精度に優れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
実施の形態1.
図1は本実施の形態1に係るインクジェットヘッド(液滴吐出ヘッドの一例)の一部を断面で示した分解斜視図、図2は図1を組立てた状態の要部を示す縦断面図、図3は図2のノズル孔の近傍を拡大して示した縦断面図である。
インクジェットヘッド10は、図1および図2に示すように、複数のノズル孔11が所定のピッチで設けられたノズル基板1と、各ノズル孔11に対して独立にインク供給路が設けられたキャビティ基板2と、キャビティ基板2の振動板22に対峙して個別電極31が配設された電極基板3とを貼り合わせることにより構成されている。
【0020】
ノズル基板1は、リン(P)をドープしたポリシリコン(ドープドPoly−Si)よりなるノズル基材から作製されている。その厚みは、例えば50μm〜60μmである。
ノズル基板1にはインク滴を吐出するためのノズル孔11が開口されており、各ノズル孔11は、図3に示すように、径の異なる2段の円筒状に形成されたノズル孔部分、すなわち、液滴吐出面1a側(液滴吐出側の面)に位置して先端が液滴吐出面1aに開口する径の小さい吐出部(第1のノズル孔部)11aと、キャビティ基板2と接合する接合面1b側に位置して後端が接合面1bに開口する径の大きい導入部(第2のノズル孔部)11bとから構成され、基板面に対して垂直にかつ同軸上に形成されている。
ノズル孔11の液滴吐出面1a側は撥水処理されており、例えばフッ素(F)原子を含む撥水性を持った材料からなる撥水膜14が形成されている。また、ノズル孔11の内壁11cから接合面1bにかけては親水処理されており、親水膜13が形成されている。
【0021】
キャビティ基板2は、シリコン単結晶のキャビティ基材から作製されている。そして、キャビティ基材に異方性ウェットエッチングを施し、インク流路の吐出室24、リザーバ25をそれぞれ構成するための凹部240、250、及びオリフィス23を構成するための凹部230が形成される。
凹部240はノズル孔11に対応する位置に独立に複数形成される。したがって、ノズル基板1とキャビティ基板2を接合した際、各凹部240は吐出室24を構成し、それぞれがノズル孔11に連通し、またインク供給口であるオリフィス23ともそれぞれ連通している。そして、吐出室24(凹部240)の底壁が振動板22となっている。
【0022】
他方の凹部250は、液状のインクを貯留するためのものであり、各吐出室24に共通のリザーバ(共通インク室)25を構成する。そして、リザーバ25(凹部250)はそれぞれオリフィス23を介して全ての吐出室24に連通している。また、リザーバ25の底部には後述する電極基板3を貫通する孔が設けられており、この孔で形成されたインク供給孔34を通じて図示しないインクカートリッジからインクが供給されるようになっている。
また、キャビティ基板2の全面、もしくは少なくとも電極基板3との対向面には、シリコン酸化膜等からなる絶縁膜26が形成されており、この絶縁膜26は、インクジェットヘッドを駆動させたときに、絶縁破壊や短絡を防止する。
【0023】
電極基板3は、ガラス基材から作製されている。このガラス基材は、キャビティ基板2のシリコン基材と熱膨張係数の近い硼珪酸系の耐熱硬質ガラスを用いるのが好ましい。これは、電極基板3とキャビティ基板2とを陽極接合する際、両基板3、2の熱膨張係数が近いため、電極基板3とキャビティ基板2との間に生じる応力を低減することができ、その結果、剥離等の問題を生じることなく電極基板3とキャビティ基板2とを強固に接合することができるからである。
【0024】
電極基板3のキャビティ基板2と対向する面には、キャビティ基板2の各振動板22に対向する位置にそれぞれ凹部32が設けられている。そして、各凹部32内には、一般に、ITO(Indium Tin Oxide:インジウム錫酸化物)からなる個別電極31が形成されており、振動板22と個別電極31との間に形成されるギャップ(空隙)Gは、インクジェットヘッドの吐出特性に大きく影響する。なお、個別電極31の材料にはクロム等の金属等を用いてもよいが、ITOは透明であるので放電したかどうかの確認が行いやすいため、一般にITOが用いられている。
【0025】
個別電極31は、リード部31aと、フレキシブル配線基板(図示せず)に接続される端子部31bとを有する。端子部31bは、図2に示すように、配線のためにキャビティ基板2の末端部が開口された電極取り出し部29内に露出している。
【0026】
上述したノズル基板1、キャビティ基板2、及び電極基板3は、一般に個別に作製され、これらを図2に示すように貼り合わせることにより、インクジェットヘッド10の本体部が作製される。すなわち、キャビティ基板2と電極基板3は例えば陽極接合により接合され、そのキャビティ基板2の上面(図2の上面)にはノズル基板1が接着剤等により接合される。さらに、振動板22と個別電極31との間に形成されるギャップGの開放端部は、エポキシ等の樹脂による封止材27で封止されている。これにより、湿気や塵埃等がギャップG内へ侵入するのを防止することができる。
【0027】
そして、図2に示すように、ICドライバ等の駆動制御回路4が、各個別電極31の端子部31bと、キャビティ基板2上に設けられた共通電極28とに、フレキシブル配線基板(図示せず)を介して接続されている。
【0028】
上記のように構成されたインクジェットヘッド10において、駆動制御回路4によりキャビティ基板2と個別電極31との間にパルス電圧が印加されると、振動板22と個別電極31との間に静電気力が発生し、その吸引作用により振動板22が個別電極31側に引き寄せられて撓み、吐出室24の容積が拡大する。これにより、リザーバ25の内部に溜まっていたインクがオリフィス23を通じて吐出室24に流れ込む。次に、個別電極31への電圧の印加を停止すると、静電吸引力が消滅して振動板22が復元し、吐出室24の容積が急激に収縮する。これにより、吐出室24内の圧力が急激に上昇し、この吐出室24に連通しているノズル孔11からインク液滴が吐出される。
【0029】
次に、インクジェットヘッド10の製造方法について、図4〜図9を用いて説明する。図4は本発明の実施の形態1に係るノズル基板1を示す上面図、図5〜図7はノズル基板1の製造工程を示す断面図(図4をイ−イ線で切断した断面図)である。図8、図9はキャビティ基板2と電極基板3との接合工程を示す断面図であり、ここでは、主に、電極基板3にキャビティ基材200を接合した後に、キャビティ基板2を製造する方法を示す。
まず、最初に、図5〜図7により、ノズル基板1の製造方法を説明する。なお、以下に記載の数値はその一例を示すもので、これに限定するものではない。
【0030】
(a) 図5(a)に示すように、例えばニッケル(Ni)を材質とし、スタンパ技術を用いてマスタからコピーされた金型Aを用意する。金型Aは、径の異なる2段の円筒状に形成されたノズル凸部(ノズル形成部)120を備えており、径の大きい第2のノズル凸部120bと、その上部に位置する径の小さい第1のノズル凸部120aとからなり、その高さtは、例えば50μm〜60μmである。
【0031】
(b) 図5(b)に示すように、シランカップリング材よりなる離型材15を、金型Aの表面121a(ノズル凸部120の表面も含む)に、例えばディップ方式により塗布する。
【0032】
(c) 図5(c)に示すように、減圧CVD(Chemical Vapor Deposition )により、金型Aの表面121aに、リンをドープしたポリシリコン(ドープドPoly−Si)Bを蒸着する。この際、SiH4 及びPH3 をガスとして使用し、反応圧を20Pa〜200Paとし、成長温度を550℃〜650℃とする。
リンをドープしたポリシリコンBが、金型Aのノズル凸部120の高さtと同じ高さになったとき、ポリシリコンBの蒸着を停止する。なお、ポリシリコンBの側面100cは垂直面となるようにする。
【0033】
こうして、厚みが金型Aのノズル凸部120の高さtと同じ50μm〜60μmであり、幅が金型Aの幅lと同じである、リンをドープしたポリシリコンBよりなるノズル基材100が作製される。そして、このノズル基材100には、金型Aのノズル凸部120に対応してノズル凹部110が形成される。すなわち、金型Aの第1のノズル凸部120aに対応して第1のノズル凹部110aが形成され、金型Aの第2のノズル凸部120bに対応して第2のノズル凹部110bが形成される。
【0034】
(d) 図6(d)に示すように、液滴突出側の面100aを、ガラス製のサポート基板50によって支持する。このとき、液滴突出側の面100aとサポート基板50との間には、液滴突出側の面100aに紫外線により自己発泡して接着力が低下する自己剥離層61を有する、両面テープである接着テープ60(セルファ)が設けられる。
【0035】
(e) 図6(e)に示すように、サポート基板50の上面50aと金型Aの裏面121bとをVAC吸着して、金型Aをノズル基材100から除去する。
次に、ノズル基材100のノズル凹部110の内壁110cから接合面100bにかけて残留する離型材15を除去する。
【0036】
(f) 図7(f)に示すように、ノズル基材100のノズル凹部110の内壁110c及び接合面100bを親水化処理して、親水膜12を形成する。この成膜は、ディップ法、スパッタ法、CVD法、熱酸化法等による。
【0037】
(g) 図7(g)に示すように、サポート基板50の表面に紫外線(UV)を照射して、接着テープ60の自己剥離層61をノズル基材100から剥離させる。この際、サポート基板50を固定しておくと、ノズル基材100は自然落下する。
【0038】
(h) 図7(h)に示すように、ノズル基材100のインク吐出側の面100aを撥水処理して、フッ素(F)含有有機化合物からなる撥水膜13を形成する。成膜は、CF4 を用いたプラズマ処理による。
こうして、ノズル凹部110の第1のノズル凹部110a及び第2のノズル凹部110bは、それぞれノズル孔11の第1のノズル孔部11a及び第2のノズル孔部11bとなり、ノズル基材100からノズル基板1が完成する。
【0039】
実施の形態1に係るノズル基板1およびその製造方法によれば、ニッケル製の金型Aに、リンをドープしたポリシリコンBを蒸着するようにしたので、ドープされたリンによってポリシリコンBの応力が低減され、一定の厚み(例えば50μm〜60μm)を持ったシリコン製のノズル基材100の製造が可能になる。また、リンをドープしたポリシリコンBよりなるノズル基材100を金型Aから除去する際に、金型Aにはあらかじめ離型材15を塗布してあるので、ノズル基材100を容易に除去することができる。さらに、ノズル基材100の金型Aからの除去をノズル基材100の表面にサポート基板50を貼り付けて行うようにしたので、ノズル基材100を金型Aから除去する際に、割れなどが生じることがない。
【0040】
また、金型Aはニッケル製であり形状変更が容易であるため、多段形状などの様々な形状を容易に作製することができる。多段形状の金型Aを用いた場合は、ノズル基板1の作製工程を大幅に短縮することができる。さらに、金型Aはニッケル製なので精度が良く、それに対応してノズル基板1にも精度の良いノズル孔11が形成され、これによって液滴の飛行精度が向上する。また、金型Aはマスタからのコピーを使用して形成されるため、コストを下げることができる。
【0041】
次に、キャビティ基板2および電極基板3の製造方法について説明する。
ここでは、電極基板3にシリコン製のキャビティ基材200を接合した後、そのキャビティ基材200からキャビティ基板2を製造する方法について、図8、図9を用いて説明する。
【0042】
(a) 図8(a)に示すように、硼珪酸ガラス等からなるガラス基材300に、例えば金・クロムのエッチングマスクを使用してフッ酸によりエッチングして、凹部32を形成する。この凹部32は個別電極31の形状より少し大きめの溝状であり、個別電極31ごとに複数形成される。そして、凹部32の底部に、例えばスパッタによりITO(Indium Tin Oxide)からなる個別電極31を形成する。その後、ドリル等によってインク供給孔34となる孔部34aを形成することにより、電極基板3が作製される。
【0043】
(b) 図8(b)に示すように、シリコン製のキャビティ基材200の両面を鏡面研磨した後、キャビティ基材200の片面に、プラズマCVDによってTEOS(TetraEthyl Ortho Silicate)からなるシリコン酸化膜(絶縁膜)26を形成する。なお、シリコン基材200を形成する前に、エッチングストップ技術を利用し、振動板22の厚みを高精度に形成するためのボロンドープ層を形成するようにしてもよい。エッチングストップとはエッチング面から発生する気泡が停止した状態と定義し、実際のウェットエッチングにおいては、気泡の発生の停止をもってエッチングがストップしたものと判断する。
【0044】
(c) このキャビティ基材200と、図8(a)のようにして作製された電極基板3とを、図8(c)に示すように、例えば360℃に加熱して、キャビティ基材200に陽極を、電極基板3に陰極を接続し、800V程度の電圧を印加して陽極接合により接合する。
【0045】
(d) キャビティ基材200と電極基板3とを陽極接合した後に、水酸化カリウム水溶液等で接合状態のキャビティ基材200をエッチングし、図8(d)に示すように、キャビティ基材200を薄板化する。
【0046】
(e) 次に、キャビティ基材200の上面(電極基板3が接合されている面と反対側の面)の全面にプラズマCVDによって、シリコン酸化膜201(図9(e)参照)を形成する。そして、このシリコン酸化膜201に、吐出室24となる凹部240、オリフィス23となる凹部230、及びリザーバ25となる凹部250等を形成するためのレジストをパターニングし、これらの部分のシリコン酸化膜201をエッチング除去する。
その後、シリコン基材200を水酸化カリウム水溶液等でエッチングして、図9(e)に示すように、吐出室24となる凹部240、オリフィス23となる凹部230、及びリザーバ25となる凹部250を形成する。このとき、配線のための電極取り出し部となる部分29aもエッチングして薄板化しておく。なお、図9(e)のウェットエッチングの工程では、例えば初めに35重量%の水酸化カリウム水溶液を使用し、その後、3重量%の水酸化カリウム水溶液を使用することができる。これにより、振動板22の面荒れを抑制することができる。
【0047】
(f) キャビティ基材200のエッチングが終了した後に、図9(f)に示すように、フッ酸水溶液でエッチングして、キャビティ基材200の上面に形成されているシリコン酸化膜201を除去する。
【0048】
(g) キャビティ基材200の吐出室24となる凹部240等が形成された面に、図9(g)に示すように、プラズマCVDによりシリコン酸化膜(絶縁膜)26を形成する。
【0049】
(h) 図9(h)に示すように、RIE等によって電極取り出し部29を開放する。また、電極基板3のインク供給孔34となる孔部34aからレーザ加工を施して、キャビティ基材200のリザーバ25となる凹部250の底部を貫通させ、インク供給孔34を形成する。また、振動板22と個別電極31との間のギャップGの開放端部にエポキシ樹脂等の封止材27を充填して封止を行う。また、図2に示した共通電極28を、スパッタにより、キャビティ基材200の上面(ノズル基板1との接合側の面)の端部に形成する。
【0050】
以上により、電極基板3に接合した状態のキャビティ基材200からキャビティ基板2が作製される。
そして最後に、このキャビティ基板2に、前述のようにして作製されたノズル基板1を接着剤等により接合することにより、図2に示したインクジェットヘッド10の本体部が作製される。
【0051】
本実施の形態1に係るキャビティ基板2および電極基板3の製造方法によれば、キャビティ基板2を、予め作製された電極基板3に接合した状態のキャビティ基材200から作製するので、電極基板3によりキャビティ基材200を支持した状態となり、キャビティ基材200を薄板化しても割れたり欠けたりすることがなく、ハンドリングが容易となる。したがって、キャビティ基板2を単独で製造する場合よりも歩留まりが向上する。
【0052】
実施の形態2.
実施の形態1ではノズル基板1はリンをドープしたポリシリコン(ドープドPoly−Si)Bから作製したが、本実施の形態2ではノズル基板1はリンをドープしたアモルファスシリコン(ドープドa−Si)Cから作製したものである(図10参照)。
このため、実施の形態1では、リンをドープしたポリシリコンBを作製する際に減圧CVDによって行い、この際、SiH4 及びPH3 をガスとして使用し、反応圧を20Pa〜200Paとし、成長温度を550℃〜650℃としたが、本実施の形態2では、リンをドープしたアモルファスシリコンCを作成する際に減圧CVDによって行い、この際、SiH4 及びPH3 をガスとして使用し、反応圧を20Pa〜200Paとし、成長温度を300℃〜400℃としたものである。リンをドープしたポリシリコンBとの違いは、成長温度(本実施の形態2に係るリンをドープしたアモルファスシリコンCでは、成長温度が300℃〜400℃)である。
その他の、構成、作用及び効果は、実施の形態1で示した場合と実質的に同様なので、説明を省略する。
【0053】
実施の形態3.
図10は本発明の実施の形態3に係るインクジェットヘッド(液滴吐出ヘッドの一例)のノズル基板のノズル孔の近傍を拡大して示した縦断面図である。
実施の形態1及び2では、ノズル基板1の各ノズル孔11は、径の異なる2段の円筒状に形成されたノズル孔部分、すなわち第1のノズル孔部11a及び第2のノズル孔部11bによって構成したが、本実施の形態3では、図10に示すように、液滴吐出側の面1aに向かって縮径された円錐台形状(断面テーパ形状)に構成している。
そして、ノズル孔11の液滴吐出側の面1aは撥水処理されており、例えばフッ素(F)原子を含む撥水性を持った材料からなる撥水膜14が形成されている。また、ノズル孔11の内壁11cから接合面1bにかけては親水処理されており、親水膜13が形成されている。
【0054】
また、実施の形態1及び2では、ニッケル製の金型Aは、径の異なる2段の円筒状に形成されたノズル凸部120を備えているが、本実施の形態3では、図11に示すように、上方向に向かって縮径して円錐台形状(断面テーパ形状)に形成されたノズル凸部120を備えている。
その他の、構成、作用及び効果については、実施の形態1及び2に示した場合と同様なので、説明を省略する。
【0055】
実施の形態4.
図12は、実施の形態1、2、3のいずれかに係るインクジェットヘッド10を搭載したインクジェット記録装置を示す斜視図である。図12に示すインクジェット記録装置400は、インクジェットプリンタであり、実施の形態1、2、3のいずれかのインクジェットヘッド10を搭載しているため、液滴吐出が良好な液滴吐出ヘッドを搭載した高品質の液滴吐出装置を提供することができる。
なお、実施の形態1、2、3に係るインクジェットヘッド10は、図12に示すインクジェットプリンタの他に、液滴を種々変更することで、液晶ディスプレイのカラーフィルタの製造、有機EL表示装置の発光部分の形成、遺伝子検査等に用いられる生体分子溶液のマイクロアレイの製造など様々な用途の液滴吐出装置として利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】本発明の実施の形態1に係る液滴吐出ヘッドの分解斜視図。
【図2】図1のインクジェットヘッドを組立てた状態の要部の縦断面図。
【図3】図2のノズル孔部分を拡大した縦断面図。
【図4】図1のノズル基板の上面図。
【図5】ノズル基板の製造方法を示す製造工程の断面図。
【図6】図5に続くノズル基板の製造工程の断面図。
【図7】図6に続くノズル基板の製造工程の断面図。
【図8】キャビティ基板および電極基板の製造方法を示す製造工程の断面図。
【図9】図8に続く製造工程の断面図。
【図10】本発明の実施の形態3に係る液滴吐出ヘッドのノズル孔部分を拡大した縦断面図。
【図11】図10のノズル孔を形成するための金型の要部の縦断面図。
【図12】インクジェット記録装置を示す斜視図。
【符号の説明】
【0057】
1 ノズル基板、1a 液滴吐出面(液滴吐出側の面)、1b 接合面、2 キャビティ基板、3 電極基板、10 インクジェットヘッド(液滴吐出ヘッド)、11 ノズル孔、11a 第1のノズル孔部、11b 第2のノズル孔部、11c ノズル孔の内壁、13 親水膜、14 撥水膜、22 振動板、23 オリフィス、24 吐出室、25 リザーバ、31 個別電極、32 凹部、 34 インク供給孔、50 サポート基板、60 接着テープ、100 ノズル基材、100a 液滴吐出面(液滴吐出側の面)、100b 接合面、110 ノズル凹部、110a 第1のノズル凹部、110b 第2のノズル凹部、120 ノズル凸部(ノズル形成部)、120a 第1のノズル凸部、120b 第2のノズル凸部、400 インクジェット記録装置、A 金型、B リンをドープしたポリシリコン、C リンをドープしたアモルファスシリコン。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ノズル形成部を有するニッケル製の金型に、使用ガスをSiH4 及びPH3 、反応圧を20Pa〜200Paとし、成長温度を550℃〜650℃とした減圧CVD法によって、リンをドープしたポリシリコンを蒸着してノズル孔を有するノズル基材を作製する工程と、
前記ノズル基材を前記金型から除去してノズル基板を作製する工程とを、
備えたことを特徴とするシリコン製ノズル基板の製造方法。
【請求項2】
ノズル形成部を有するニッケル製の金型に、使用ガスをSiH4 及びPH3 、反応圧を20Pa〜200Paとし、成長温度を300℃〜400℃とした減圧CVD法によって、リンをドープしたアモルファスシリコンを蒸着してノズル孔を有するノズル基材を作製する工程と、
前記ノズル基材を前記金型から除去してノズル基板を作製する工程とを、
備えたことを特徴とするシリコン製ノズル基板の製造方法。
【請求項3】
前記リンをドープしたポリシリコンまたはアモルファスシリコンの厚みを50μm〜60μmとしたことを特徴とする請求項1または2記載のシリコン製ノズル基板の製造方法。
【請求項4】
前記リンをドープしたポリシリコンまたはアモルファスシリコンを蒸着する前に、前記金型に離型材を塗布することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のシリコン製ノズル基板の製造方法。
【請求項5】
前記離型剤はシランカップリング材であり、塗布方法はディップ方式であることを特徴とする請求項4記載のシリコン製ノズル基板の製造方法。
【請求項6】
前記ノズル基材の前記金型からの除去は、前記ノズル基材の表面にサポート基板を貼り付けて行うことを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のシリコン製ノズル基板の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載のシリコン製ノズル基板の製造方法を適用して液滴吐出ヘッドのシリコン製ノズル基板を製造することを特徴とする液滴吐出ヘッドの製造方法。
【請求項8】
液滴を吐出するノズル孔を有するノズル基板であって、
前記ノズル基板が、リンをドープしたポリシリコンからなることを特徴とするシリコン製ノズル基板。
【請求項9】
液滴を吐出するノズル孔を有するノズル基板であって、
前記ノズル基板が、リンをドープしたアモルファスシリコンからなることを特徴とするシリコン製ノズル基板。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2009−196140(P2009−196140A)
【公開日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−38373(P2008−38373)
【出願日】平成20年2月20日(2008.2.20)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】