説明

シリコーン化合物の製造方法およびシリコーン剤

【課題】 純度の高い前記式(c)および/または(c’)で表されるシリコーン化合物の精製方法を提供することを目的と、また、該化合物を主剤とするシリコーン剤の提供を目的とする。
【解決手段】 下記式(c)および/または(c’)
【化1】


で表されるシリコーン化合物を合成する工程、該化合物の粗体に対して重量比で2倍以上のシリカゲルを用いたカラムに該化合物の粗体を通じて精製する精製工程を有することを特徴とするシリコーン化合物の製造方法を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンタクトレンズ、眼内レンズ、人工角膜などの眼用レンズの原料として特に好適に用いられるシリコーン化合物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、眼用レンズ用モノマーとして、ケイ素基を有する化合物が知られており、そのような化合物の一つとして、式(c)ないし(c’)で表される化合物が知られている(例えば、特許文献1)。
【0003】
【化1】

【0004】
この化合物は分子内に水酸基を有することから親水性モノマーとの相溶性が得やすいという特長を有するが、この化合物を重合して得られるポリマーをコンタクトレンズとして用いようとすると、眼に刺激があるという欠点があった。その原因の究明にコンタクトレンズをイソプロパノールで抽出し、その溶出物を調べたところ、下記式(d)
【0005】
【化2】

【0006】
で表される化合物が含まれていることが判った。この式(d)で表される化合物は上記式(c)または(c’)で表される化合物を上記特許文献1記載の方法で合成したときに生成しやすい副生成物である。この式(d)で表される化合物は分子内に重合性置換基を有していないことから重合してもポリマー主鎖に結合されず、装用時にしみ出てきて装用感の悪化を招いているものと考えられる。
【0007】
この式(d)で表される化合物は分子内に2つの水酸基を有していることから極性が高く、シリカゲルカラム精製により比較的容易に除去できる。精製条件について検討を重ねたところ、式(c)、(c’)で表されるシリコーン化合物の粗体に対して約1.5倍量のシリカゲルを用いると、式(d)で表される化合物の含有量が低く、かつ収量やコスト面においてもバランスよく式(c)、(c’)で表されるシリコーン化合物が得られることがわかった。しかし、このシリコーン化合物を重合させて得られたポリマーをコンタクトレンズとして用いると、従来よりも改善されているものの、眼への刺激は依然として感じられるという問題があった。
【特許文献1】特開昭56−22325号公報 実施例4
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、純度の高い前記式(c)および/または(c’)で表されるシリコーン化合物の精製方法を提供することを目的とし、また、該化合物を主剤とするシリコーン剤の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するために、本発明は下記の構成を有する。
【0010】
(1) 下記式(c)および/または(c’)
【0011】
【化3】

【0012】
で表されるシリコーン化合物を合成する工程、該化合物の粗体に対して重量比で2倍以上のシリカゲルを用いたカラムに該化合物の粗体を通じて精製する精製工程を有することを特徴とするシリコーン化合物の製造方法。
(2) 前記精製工程において、溶出液として酢酸エチル比率が10〜35%(v/v)の酢酸エチル/ヘキサン溶液を用いることを特徴とする前記(1)記載のシリコーン化合物の製造方法。
(3) 下記式(c)および/または(c’)で表される化合物を主成分とするシリコーン剤中、下記式(c1)で表される成分の含有量が300ppm以下であることを特徴とするシリコーン剤。
【0013】
【化4】

【0014】
【化5】

【発明の効果】
【0015】
本発明により、コンタクトレンズとした時の刺激の原因と考えられる前記式(c1)で表される化合物等の含有量が少ない前記(c)および/または(c’)で表される化合物を主成分とするシリコーン剤を得ることができ、コンタクトレンズなどの眼用レンズの製造に好適に用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明は前記の式(c)および/または(c’)で表される化合物を合成する工程と該化合物を精製する工程の少なくとも2つの工程を有している。
【0017】
式(c)および/または(c’)で表される化合物を合成する工程として如何なる工程を用いるかは特に制限はないが、例えば、次のような方法を挙げることができる。
【0018】
すなわち、式(c1)
【0019】
【化6】

【0020】
で表されるエポキシシランを原料としてメタクリル酸をメタクリル酸アルカリ金属塩存在下で反応させて合成することができる。
【0021】
合成時のメタクリル酸の量は、原料のエポキシシランに対して1〜50当量が好ましく、エポキシシランの残存量を少なくするためには1.5〜40当量がより好ましく、2〜30当量加えるのが最も好ましい。
【0022】
合成時の触媒であるメタアクリル酸アルカリ金属塩の添加量は、少なすぎると反応が遅くなってエポキシシランの残量が多くなり、多すぎると反応液に溶解せずに析出してくることから、原料のエポキシシランに対して0.001〜5当量が好ましく、0.005〜3当量がより好ましく、0.01〜1当量が最も好ましい。
【0023】
また、合成反応中にシリコーン化合物が重合してしまうのを防ぐため重合禁止剤を加えてもよい。重合禁止剤の具体例としてはハイドロキノン、ハイドロキノンモノメチルエーテル、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール、N−ニトロソフェニルヒドロキシルアミンアルミニウムなどを挙げることができる。また、重合禁止剤を用いる場合の添加量は(メタ)アクリル酸量に対して0.0005〜5重量%が好ましく、0.001〜3重量%がより好ましく、0.005〜1重量%が最も好ましい。
【0024】
合成時の反応温度は低すぎると反応時間が長くなり過ぎ、高すぎると合成反応中にシリコーン化合物が重合してしまう危険性があることから、50〜180℃が好ましく、60〜170℃がより好ましく、70〜160℃が最も好ましい。
【0025】
このように合成反応を行ったのち、無機物や不純物を除くために必要により溶媒を添加して該溶液を水洗し、次いで、溶媒を添加した場合はこれを留去して、シリコーン化合物の粗体を得る。添加する溶媒としては、炭素数5〜10程度の脂肪族炭化水素あるいはエーテルが好ましい。
【0026】
本発明は合成された上記シリコーン化合物の粗体をシリカゲルカラムを用いて精製する。この精製工程で用いられるシリカゲルの使用量は該シリコーン化合物の粗体重量に対して2倍以上用いるが、多すぎるとコストが高くなることから2〜10倍量が好ましく、2.3〜8倍量がより好ましく、2.5〜5倍量が最も好ましい。
【0027】
このシリカゲルカラムを用いて精製を行うときの溶出液としては、酢酸エチルのヘキサン溶液を用いることが好ましく、その濃度としては、酢酸エチル比率(酢酸エチル/(酢酸エチル+ヘキサン):体積分率)で表すと、酢酸エチルの濃度が高すぎるとエポキシシランが十分に除去されず、濃度が低すぎると溶出に時間がかかって溶媒の使用量が増えることから、10〜35%(v/v)が好ましく、15〜30%(v/v)がより好ましい。該精製工程の後、溶出液は必要により留去する。
【0028】
本発明においては、適宜重合禁止剤や溶媒を添加して、前記式(c)および/または(c’)で表される化合物を主成分とするシリコーン剤として調製することができる。ここでいう主成分とは、なるだけ前記式(c)および/または(c’)で表される化合物の分量が多い状態をいい、濃度は高い方が好ましいが、実質的には、好ましく90重量%以上、より好ましくは95重量%以上、特に好ましくは98重量%以上である。ここで「実質的に」というのは、性状に影響させることなく留去可能な溶媒(例えば、大気圧下での沸点が120℃以下の溶媒)や濾別して除去できる成分を除いた状態での濃度の意である。
【0029】
本発明のシリコーン剤中に含まれる式(c1)で表される化合物の含有量は、300ppm以下である。かかる化合物の存在量としては、なるだけ低濃度であることが望ましいが、更に染みにくい眼用レンズの原料として好適なポリマーが得られるため200ppm以下が好ましく、また、染みにくいソフトコンタクトレンズの原料として好適なポリマーが得られるため100ppm以下が好ましい。
【0030】
本発明に係るシリコーン剤は、従来公知の方法を用いて重合することができる。この場合、前記シリコーン化合物、すなわち式(c)および/または(c’)で表される化合物、以外の成分を用いて共重合することは差し支えない。
【実施例】
【0031】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれによって限定されるものではない。
【0032】
<測定方法>
ガスクロマトグラフ(GC)測定
GC測定は本体に島津製作所製GC−18A(FID検出器)、キャピラリーカラムにJ&W社DB−5(0.25mm×30m×1μm)を用いた。キャリアガスはヘリウム(138kPa)、注入口温度280℃、検出器温度280℃、昇温プログラムは60℃(5分)→10℃/分→325℃(19分)で測定した。サンプルは測定試料100μLをイソプロピルアルコール1mlに溶解して調製し、1μL注入した。
【0033】
合成例
300mlのナスフラスコに下式(c1)
【0034】
【化7】

【0035】
で表されるエポキシシラン100g(0.3mol)、メタクリル酸103.4g(1.2mol)、メタクリル酸ナトリウム4.8g(0.05mol)、p−メトキシフェノール5.5g(0.04mol)を加え、空気雰囲気下で100℃に加熱して撹拌した。GCでエポキシシラン(c1)の面積%が0.1%以下になるのを確認した後、反応液を室温まで冷却した。反応液にヘキサン150mlを加え、0.5N水酸化ナトリウム水溶液250mlで3回、2.6%食塩水175mlで3回洗浄し、有機層に硫酸ナトリウムを加えて乾燥し、ろ過してエバポレータで溶媒を留去した。得られた液体のGCを測定したところ、表1に示す結果が得られた。(なお、表1中(c1)の濃度は「エポキシ残量」として表記している。以下同じ。)
実施例1
上記合成例で得られた式(c)および(c’)で表されるシリコーン化合物の粗体20gを、シリカゲル(関東化学製、球状、中性、40〜50μm)40g、内径26mmのカラムを用い、溶出液にはヘキサン/酢酸エチル=4/1の混合溶媒を用いてカラム精製した。5mlごとに分取した各フラクションについてGC測定し、GC純度80%以上の条件を満たすフラクションのみ回収してエバポレータで溶媒を留去した。得られたシリコーン化合物のGC測定結果は表1のとおりであった。
【0036】
実施例2
シリカゲルの量を60gにする以外は実施例1と同様の方法で実験を行った。GC測定結果は表1のとおりであった。
【0037】
比較例1
シリカゲルの量を30gにする以外は実施例1と同様の方法で実験を行った。GC測定結果は表1のとおりであった。
【0038】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(c)および/または(c’)
【化1】

で表されるシリコーン化合物を合成する工程、該化合物の粗体に対して重量比で2倍以上のシリカゲルを用いたカラムに該化合物の粗体を通じて精製する精製工程を有することを特徴とするシリコーン化合物の製造方法。
【請求項2】
前記精製工程において、溶出液として酢酸エチル比率が10〜35%(v/v)の酢酸エチル/ヘキサン溶液を用いることを特徴とする請求項1記載のシリコーン化合物の精製方法。
【請求項3】
下記式(c)および/または(c’)で表される化合物を主成分とするシリコーン剤中、下記式(c1)で表される成分の含有量が300ppm以下であることを特徴とするシリコーン剤。
【化2】

【化3】


【公開番号】特開2006−169140(P2006−169140A)
【公開日】平成18年6月29日(2006.6.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−361052(P2004−361052)
【出願日】平成16年12月14日(2004.12.14)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】