説明

シリコーン樹脂シートの打ち抜き加工方法

【課題】シリコーン樹脂シートに対して、切断面におけるマイクロクラックの発生やそれによる曲げ強度の低下を十分に防止しつつ打ち抜き加工することを可能にする。
【解決手段】シリコーン樹脂組成物から形成されたシリコーン樹脂シート21の打ち抜き加工方法であって、下方に向って被切断形状に配設された切断刃3とその内側及び外側に沿ってそれより高く敷設された弾性材4とを備えた上型1、2を配置すると共に、上型の下に上型の切断刃と対向するように上方に向って被切断形状に配設された切断刃13とその内側及び外側に沿ってそれより高く敷設された弾性材14とを備えた下型11、12を配置し、上型と下型との間にシリコーン樹脂シートを移送して位置決めし、上型及び/又は下型を両者の接近方向に、各切断刃の刃先がシリコーン樹脂シートにその上面及び下面から各々打ち込まれるように押圧する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコーン樹脂シートを所望の形状に切断する際の打ち抜き加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
透明な樹脂シートは、光学特性に優れ且つガラスに比べ割れにくいという特性を有していることから、近年、従来はガラスが使用されていた分野にも広く使用されるようになってきている。このような透明樹脂シートは、熱可塑性シートと熱又は光による硬化性シートとに大別されるが、硬化性シートは耐熱性が高いことから電子機器等の新たな利用分野に適用されることが期待されている。特に、電子機器等の小型化に伴い、硬化性シートからなる薄型の透明樹脂シートの開発が望まれていた。
【0003】
このような状況の下、特開2004−123936号公報(特許文献1)には、耐熱性及び可視光線の透過率が優れており、吸水率が低く且つ高い寸法安定性と高い成形性とを有している透明樹脂シートを提供することができるシリコーン樹脂組成物として、特定のポリオルガノシルセスキオキサンを主成分とするシリコーン樹脂と特定の脂環式不飽和化合物と特定の非脂環式不飽和化合物とからなるシリコーン樹脂組成物が開示されている。
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載のシリコーン樹脂組成物から形成されたシリコーン樹脂シートにおいては、従来から樹脂シートの切断方法として用いられる打ち抜き加工等の機械的な切断方法で切断すると切断面にマイクロクラックが入ってしまい、曲げ強度の低下を招くという問題があった。そのため、このようなシリコーン樹脂シートを所定形状に切断する際には、レーザー、ルータ、丸鋸等を用いて切断する必要があったが、これらの切断方法は切断速度が遅いため切断効率の向上に限界があり、また切断精度の向上にも限界があった。さらに、レーザーを用いた切断方法の場合はその切削部に局所熱がかかって歪が残るという問題もあり、ルータや丸鋸を用いた切断方法の場合は切り屑が多量に発生するという問題もあった。
【0005】
一方、特開平7−285099号公報(特許文献2)には、耐衝撃性に劣るアクリル樹脂等からなる樹脂板を高制度且つ高速度で切断することができる樹脂板の打ち抜き方法として以下の方法が開示されている。すなわち、下方に向って被切断形状に配設された切断刃とその内側及び外側に沿ってそれより高く敷設された弾性材とを備えた上型を配置すると共に上型の下に上型の切断刃と対向するように上方に向って被切断形状に配設された切断刃とその内側及び外側に沿ってそれより高く敷設された弾性材とを備えた下型を配置し、前記上型と前記下型の間に被切断体(樹脂板)を移送して位置決めし、上型又は下型を両者の接近方向に、各切断刃の刃先が被切断体にその上面及び下面から各々打ち込まれるように押圧することを特徴とする樹脂板の打ち抜き方法である。
【0006】
しかしながら、特許文献2においては、被切断体に関して前記のようなシリコーン樹脂シートは何ら開示されておらず、切断面におけるマイクロクラックの発生防止やそれによる曲げ強度の低下防止といった効果についても何ら開示も示唆もされていなかった。
【特許文献1】特開2004−123936号公報
【特許文献2】特開平7−285099号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、従来は打ち抜き加工等の機械的な切断方法で切断すると切断面にマイクロクラックが入ってしまい、曲げ強度の低下を招くという問題があったシリコーン樹脂シートに対して、切断面におけるマイクロクラックの発生やそれによる曲げ強度の低下を十分に防止しつつ打ち抜き加工することが可能となり、それによって切断効率及び切断精度を向上させることができ、さらに切削部にかかる局所熱による歪の発生や切り屑の多量発生といった問題も解決できるシリコーン樹脂シートの打ち抜き加工方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、従来は打ち抜き加工等の機械的な切断方法で切断すると切断面にマイクロクラックが入ってしまい、曲げ強度の低下を招くという問題があったシリコーン樹脂シートに対しても特許文献2に記載の打ち抜き方法は有効であり、特許文献2に記載の打ち抜き方法を応用して上記シリコーン樹脂シートを打ち抜き加工することによって、切断面におけるマイクロクラックの発生やそれによる曲げ強度の低下を十分に防止され、それによって切断効率及び切断精度の向上が可能となり、さらに切削部にかかる局所熱による歪の発生や切り屑の多量発生といった問題も解決されることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明のシリコーン樹脂シートの打ち抜き加工方法は、一般式(1):
[RSiO3/2 (1)
(式中、Rは炭素数1〜6のアルキル基又はフェニル基を示し、nは繰り返し数を示す。)
で表され、構造単位中に篭型構造を有するポリオルガノシルセスキオキサンを主成分とするシリコーン樹脂であって、前記ポリオルガノシルセスキオキサンのシロキシ基(SiO−)の少なくとも一部に、下記一般式(2):
【0010】
【化1】

【0011】
{式中、Xは−R−OCO−CR=CH、−R−CR=CH又は−CH=CH(Rはアルキレン基、アルキリデン基又はフェニレン基を示し、Rは水素原子又はアルキル基を示す。)で表される反応性官能基を示す。}
で表されるトリオルガノシリル基が結合しているシリコーン樹脂(A)と、下記一般式(3):
【0012】
【化2】

【0013】
(式中、Zは下記式(4)又は(5):
【0014】
【化3】

【0015】
で表される基を示し、Rは水素原子又はメチル基を示す。)
で表される脂環式不飽和化合物(B)と、分子中に−R−CR=CH又は−CR=CH(Rはアルキレン基、アルキリデン基又は−OCO−を示し、Rは水素原子又はアルキル基を示す。)で表される不飽和基を少なくとも1個含み、前記シリコーン樹脂とラジカル共重合が可能な非脂環式不飽和化合物(C)とを、(A):(C):(B)=5〜80:0〜80:10〜50となる割合(質量基準)で配合したシリコーン樹脂組成物から形成されたシリコーン樹脂シートの打ち抜き加工方法であって、
下方に向って被切断形状に配設された切断刃とその内側及び外側に沿ってそれより高く敷設された弾性材とを備えた上型を配置すると共に、前記上型の下に該上型の切断刃と対向するように上方に向って被切断形状に配設された切断刃とその内側及び外側に沿ってそれより高く敷設された弾性材とを備えた下型を配置し、前記上型と前記下型との間に前記シリコーン樹脂シートを移送して位置決めし、前記上型及び/又は前記下型を両者の接近方向に、各切断刃の刃先が前記シリコーン樹脂シートにその上面及び下面から各々打ち込まれるように押圧することを特徴とする方法である。
【0016】
本発明のシリコーン樹脂シートの打ち抜き加工方法においては、用いる前記各切断刃の刃先角度が15〜45度であることが好ましく、前記各切断刃の刃先のロックウェル硬度が50〜80度であることが好ましく、前記各切断刃の刃先材質が高速度工具鋼であることが好ましい。
【0017】
上記本発明のシリコーン樹脂シートの打ち抜き加工方法においては、上型及び/又は下型が両者の接近方向に押圧されると、上型及び下型の各弾性材がシリコーン樹脂シートを弾性的に挟圧すると共にその挟圧状態下に各切断刃の刃先がシリコーン樹脂シートにその上面及び下面から打ち込まれ、次の瞬間にシリコーン樹脂シートの両打ち込み口間に破断が厚さ方向に伝わり、シリコーン樹脂シートは内側と外側に分断されると共に被切断形状の打ち抜き加工が行われる。その後、上型と下型とが離反させられると、打ち抜かれた内側のシリコーン樹脂シートが各弾性材の反発力によって各切断刃の刃先から離脱する。このような本発明の方法においては、一連の打ち抜き加工の工程において、シリコーン樹脂シートの切断部周辺にずれや歪みが発生することなく上下の切断刃によって同時にシリコーン樹脂シートの上下面から中心に向かって破断されるため、切断面におけるマイクロクラックの発生が十分に防止され、したがってかかるマイクロクラックの発生に起因する曲げ強度の低下が防止される。また、被切断形状が複雑な場合であっても本発明の打ち抜き加工方法によれば上下の型を接近方向に1回押圧するという動作で切断を完了することができるため、レーザー、ルータ、丸鋸等を用いた従来の切断方法に比べて切断効率や切断精度が飛躍的に向上し、さらに切削部にかかる局所熱による歪の発生や切り屑の多量発生といった問題も発生しないこととなる。
【発明の効果】
【0018】
このように本発明のシリコーン樹脂シートの打ち抜き加工方法によれば、従来は打ち抜き加工等の機械的な切断方法で切断すると切断面にマイクロクラックが入ってしまい、曲げ強度の低下を招くという問題があったシリコーン樹脂シートに対して、切断面におけるマイクロクラックの発生やそれによる曲げ強度の低下を十分に防止しつつ打ち抜き加工することが可能となり、それによって切断効率及び切断精度を向上させることができ、さらに切削部にかかる局所熱による歪の発生や切り屑の多量発生といった問題も解決することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、必要に応じて図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、以下の説明及び図面中、同一又は相当する要素には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
【0020】
先ず、本発明において打ち抜き加工の対象とするシリコーン樹脂シートについて説明する。本発明にかかるシリコーン樹脂シートは、以下に詳述する特定のポリオルガノシルセスキオキサンを主成分とするシリコーン樹脂(A)と、特定の脂環式不飽和化合物(B)とを必須成分とし、更に特定の非脂環式不飽和化合物(C)が含有されていてもよいシリコーン樹脂組成物から形成されたものである。
【0021】
本発明にかかるシリコーン樹脂(A)は、一般式(1):
[RSiO3/2 (1)
(式中、Rは炭素数1〜6のアルキル基又はフェニル基を示し、nは繰り返し数を示す。)
で表され、構造単位中に篭型構造を有するポリオルガノシルセスキオキサン(篭型ポリオルガノシルセスキオキサンともいう)を主成分とするシリコーン樹脂であって、前記ポリオルガノシルセスキオキサンのシロキシ基(SiO−)の少なくとも一部に、下記一般式(2):
【0022】
【化4】

【0023】
{式中、Xは−R−OCO−CR=CH、−R−CR=CH又は−CH=CH(Rはアルキレン基(好ましくは炭素数1〜6の低級アルキレン基)、アルキリデン基(好ましくは炭素数1〜6の低級アルキリデン基)又はフェニレン基を示し、Rは水素原子又はアルキル基(好ましくは炭素数1〜6の低級アルキル基)を示す。)で表される反応性官能基を示す。}
で表されるトリオルガノシリル基が結合しているものである。
【0024】
このような本発明にかかるシリコーン樹脂(A)としては、GPCにより測定されるポリスチレン換算の重量平均分子量Mwが800〜100,000程度のものが好ましく、800〜5,000程度のものがより好ましい。また、本発明にかかる前記篭型ポリオルガノシルセスキオキサンは、前記反応性官能基を一分子中に1〜4個を有することが好ましく、架橋構造の共重合体を得るためには1.1個以上有することが好ましい。
【0025】
本発明にかかる篭型ポリオルガノシルセスキオキサンとしては、下記構造式(6)に示した篭型構造体や、下記構造式(7)に示した片末端が篭状に閉じたラダー構造体が挙げられる。なお、下記式(6)及び(7)中、Yの少なくとも一部(好ましくは全部)は前記一般式(2)で表されるトリオルガノシリル基を示し、Yの残部は水素原子、アルキル基又はトリアルキルシリル基を示し、nは繰り返し数を示す。
【0026】
【化5】

【0027】
【化6】

【0028】
本発明に用いられるシリコーン樹脂(A)は、上記の篭型ポリオルガノシルセスキオキサンを必須とし、その割合は50質量%以上が好ましく、70質量%以上がより好ましい。シリコーン樹脂(A)に好適に含有されるその他のシリコーン樹脂としては、下記構造式(8)に示したラダー構造体が挙げられる。このようなラダー構造体の含有割合は50質量未満であることが好ましい。なお、下記式(8)中、Yの少なくとも一部(好ましくは全部)は前記一般式(2)で表されるトリオルガノシリル基を示し、Yの残部は水素原子、アルキル基又はトリアルキルシリル基を示し、nは繰り返し数を示す。
【0029】
【化7】

【0030】
本発明にかかるシリコーン樹脂組成物において、前記シリコーン樹脂(A)と共に使用される不飽和化合物は、少なくとも下記一般式(3):
【0031】
【化8】

【0032】
(式中、Zは下記式(4)又は(5):
【0033】
【化9】

【0034】
で表される基を示し、Rは水素原子又はメチル基を示す。)
で表される脂環式不飽和化合物(B)を含むことが必要である。なお、本発明にかかる不飽和化合物としては、1分子中に不飽和基を2〜5個有するモノマー又はオリゴマーを含有しており、1分子当たり平均1.1個以上の不飽和基を有するものが好ましい。
【0035】
本発明にかかる脂環式不飽和化合物(B)としては、Zが前記式(4)で表される基であり且つRが水素であるジシクロペンタニルジアクリレート(=トリシクロ[5.2.1.02,6]デカンジアクリレート)、Zが前記式(5)で表される基であり且つRが水素であるペンタシクロ[6.5.1.13,6.02,7.09,13]ペンタデカンジアクリレートが好ましいものとして挙げられる。
【0036】
また、本発明にかかるシリコーン樹脂組成物において、前記シリコーン樹脂(A)と共に使用される不飽和化合物は、上記脂環式不飽和化合物(B)と共に、分子中に−R−CR=CH又は−CR=CH(Rはアルキレン基(好ましくは炭素数1〜6の低級アルキレン基)、アルキリデン基(好ましくは炭素数1〜6の低級アルキリデン基)又は−OCO−を示し、Rは水素原子又はアルキル基(好ましくはメチル基)を示す。)で表される不飽和基を少なくとも1個含み、前記シリコーン樹脂とラジカル共重合が可能な非脂環式不飽和化合物(C)を含むことが好ましい。ここで、非脂環式不飽和化合物(C)としては、鎖式不飽和化合物や芳香族不飽和化合物が好ましい。また、前記不飽和基としては、アクリロイル基、メタクリロイル基、アリル基及びビニル基からなる群から選ばれる少なくとも1種が好ましい。
【0037】
非脂環式不飽和化合物(C)の好適なものは、構造単位の繰り返し数が2〜20程度の重合体である反応性オリゴマーと、低分子量、低粘度の反応性モノマーとに大別される。また、不飽和基を1個有する単官能不飽和化合物と2個以上有する多官能不飽和化合物に大別される。良好な3次元架橋体を得るためには、多官能不飽和化合物を極少量(1質量%以下程度)含むことが好ましい。
【0038】
このような反応性オリゴマーとしては、エポキシアクリレート、エポキシ化油アクリレート、ウレタンアクリレート、不飽和ポリエステル、ポリエステルアクリレート、ポリエーテルアクリレート、ビニルアクリレート、ポリエン/チオール、シリコーンアクリレート、ポリブタジエン、ポリスチリルエチルメタクリレート等を例示することができる。これらには、単官能不飽和化合物と多官能不飽和化合物がある。
【0039】
また、反応性の単官能モノマーとしては、スチレン、酢酸ビニル、N−ビニルピロリドン、ブチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、n−ヘキシルアクリレート、シクロヘキシルアクリレート、n−デシルアクリレート、イソボニルアクリレート、ジシクロペンテニロキシエチルアクリレート、フェノキシエチルアクリレート、トリフルオロエチルメタクリレート等を例示することができる。
【0040】
このような反応性の多官能モノマーとしては、前記一般式(3)で表される化合物以外の不飽和化合物であるトリプロピレングリコールジアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、ビスフェノールAジグリシジルエーテルジアクリレート、テトラエチレングリコールジアクリレート、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールジアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート等を例示することができる。
【0041】
本発明にかかるシリコーン樹脂組成物は、前記シリコーン樹脂(A)と前記不飽和化合物を配合してなる。ここで、不飽和化合物の全部が前記脂環式不飽和化合物(B)であってもよいが、前記非脂環式不飽和化合物(C)を含むことが好ましい。この場合の重量配合割合は、シリコーン樹脂(A):非脂環式不飽和化合物(C):脂環式不飽和化合物(B)=5〜80:0〜80:10〜50の範囲にある必要があり、10〜60:10〜70:10〜50の範囲にあることがより好ましい。
【0042】
本発明にかかるシリコーン樹脂組成物には、本発明の目的から外れない範囲で各種添加剤を添加することができる。各種添加剤として有機/無機フィラー、可塑剤、難燃剤、熱安定剤、酸化防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤、滑剤、帯電防止剤、離型剤、発泡剤、核剤、着色剤、架橋剤、分散助剤等を例示することができるが、これらに何ら制限されるものではない。
【0043】
また、本発明において打ち抜き加工する対象とするシリコーン樹脂シートは、上記のシリコーン樹脂組成物を成形してなるものであり、その成形方法は特に制限されないが、例えば以下の方法が挙げられる。すなわち、上記のシリコーン樹脂組成物を2枚の支持体で挟持し、その片面又は両面から活性エネルギー線を照射して硬化せしめてシリコーン樹脂シートを形成した後、前記支持体からシリコーン樹脂シートを回収する方法である。
【0044】
次に、本発明のシリコーン樹脂シートの打ち抜き加工方法について説明する。
【0045】
図1は、本発明のシリコーン樹脂シートの打ち抜き加工方法に用いる打ち抜き装置の概略断面図であり、(a)は打ち抜き直前の状態、(b)は打ち抜き中の状態、(c)は打ち抜き直後の状態を示す。
【0046】
同図(a)において、プレス上部1に上型2が固定され、上型2は、下方に向って被切断形状に配設された切断刃3とその内側及び外側に沿ってそれより高く敷設された弾性材4とを備える。また、プレス下部11には下型12が固定され、下型12は、上型2の切断刃3と対向するように上方に向って被切断形状に配設された切断刃13とその内側及び外側に沿ってそれより高く敷設された弾性材14とを備え、下型12上の所定位置にシリコーン樹脂シートからなる被切断体21が移送される。前記切断刃3、13の刃先角度は切断条件に応じて15〜45度の範囲であることが好ましい。また、本発明で用いる弾性材4、14はプラスチック素材からなり、ゴム、ウレタン等からなるスポンジ形状体であることが好ましく、このような弾性材4、14としては、ガラス転移温度が0℃以下を有する材料からなるものが好ましい。
【0047】
本発明のシリコーン樹脂シートの打ち抜き加工方法においては、用いる前記各切断刃の刃先角度が15〜45度であることが好ましい。
【0048】
このように、上記本発明のシリコーン樹脂シートの打ち抜き加工に際しては、刃先角度が15度より小さいときは刃先強度が著しく低下して刃先の破損を招き易く、また刃先角度が45度より大きいときは切断面におけるマイクロクラックの発生が十分に防止されなくなる傾向にある。
【0049】
本発明に用いられる前記各切断刃の刃先のロックウェル硬度は50〜80度であることが好ましい。刃先のロックウェル硬度が50度より小さい場合は刃先硬度の不足により、刃先の変形を招き易く、また、刃先のロックウェル硬度が80度より大きい場合は刃先の欠け等が発生しやすくなる傾向にある。
【0050】
また、本発明に用いられる前記各切断刃の刃先材質が高速度工具鋼であることが好ましい。このような前記各切断刃の刃先材質については、一般的にはSK材と呼ばれる工具用炭素鋼が使用されることが多いが、上記本発明においては耐久性の面で問題があるため高速度工具鋼(ハイスピード鋼)が使用されることが好ましい。
【0051】
次に、同図(b)に示すように、プレス上部1を下降させると、上型2及び下型12の各弾性材4、14がシリコーン樹脂シート21を弾性的に挟圧すると共にその挟圧状態下に各切断刃3、13の刃先がシリコーン樹脂シート21にその上面及び下面から打ち込まれ、次の瞬間にシリコーン樹脂シート21の両打ち込み口間に破断が厚さ方向に伝わり、被切断形状の打ち抜き加工が行われる。なお、前記上型2と下型12との間の正確な位置合わせは、例えば公知のガイドポスト及びそれに摺接されたガイドブッシュ等(何れも図示を省略する)により行われることが好ましい。
【0052】
本発明において、シリコーン樹脂シートを切断する際の条件としては、以下の条件を満たすことが好ましい。
<切断条件>
切断刃速度としては、0.05〜30mm/secであることが好ましい。切断刃速度が0.05mm/secより小さいと切断効率の低下を招き、好ましくない。一方、切断刃速度が30mm/secより大きいと刃の損傷等の問題を生ずる可能性がある。
【0053】
切断圧力としては、切断形状等により、一義的に決定できるものではないが、A4サイズの基板の打ち抜き加工を例に取ると、0.05〜10tであることが好ましい。この例で切断圧力が0.05tより小さいと打ち抜き不良が生じやすく、一方、10tより大きいと装置的に大きくなり、フットプリント等の問題が生じる。
【0054】
このような一連の打ち抜き加工の工程において、シリコーン樹脂シートの切断部周辺にずれや歪みが発生することなく上下の切断刃によって同時にシリコーン樹脂シートの上下面から中心に向かって破断される。そのため、切断面におけるマイクロクラックの発生が十分に防止され、したがってかかるマイクロクラックの発生に起因する曲げ強度の低下が防止される。
【0055】
最後に、同図(c)に示すように、前記打ち抜き後にプレス上部1を上昇させると、上型2と下型12とが離反させられ、打ち抜かれたシリコーン樹脂シート21が各弾性材4、14の反発力によって各切断刃3、13の刃先から離脱すると共に下型12の弾性材14上に配置され、次工程に排出可能となる。
【0056】
以上説明した本発明のシリコーン樹脂シートの打ち抜き加工方法においては、切断形状が複雑な場合であっても本発明の打ち抜き加工方法によれば上下の型を接近方向に1回押圧するという動作で切断を完了することができるため、レーザー、ルータ、丸鋸等を用いた従来の切断方法に比べて切断効率や切断精度が飛躍的に向上し、さらに切削部にかかる局所熱による歪の発生や切り屑の多量発生といった問題も発生しないこととなる。
【0057】
以上、本発明のシリコーン樹脂シートの打ち抜き加工方法の好適な実施形態について説明したが、本発明のシリコーン樹脂シートの打ち抜き加工方法は上記実施形態に限定されるものではない。例えば、本実施形態においてプレス上部1を下降させることによりシリコーン樹脂シートの打ち抜き加工が行われているが、プレス下部11を上昇させることにより又はプレス上部1とプレス下部11の両者を接近方向に移動させるようにしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0058】
以上説明したように、本発明のシリコーン樹脂シートの打ち抜き加工方法によれば、従来は打ち抜き加工等の機械的な切断方法で切断すると切断面にマイクロクラックが入ってしまい、曲げ強度の低下を招くという問題があったシリコーン樹脂シートに対して、切断面におけるマイクロクラックの発生やそれによる曲げ強度の低下を十分に防止しつつ打ち抜き加工することが可能となり、それによって切断効率及び切断精度を向上させることができ、さらに切削部にかかる局所熱による歪の発生や切り屑の多量発生といった問題も解決することが可能となる。
【0059】
したがって、本発明のシリコーン樹脂シートの打ち抜き加工方法は、打ち抜き加工等の機械的な切断方法で切断すると切断面にマイクロクラックが入ってしまうため従来はレーザー、ルータ、丸鋸等を用いて切断せざるを得なかったシリコーン樹脂シートの打ち抜き加工方法として非常に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】本発明のシリコーン樹脂シートの打ち抜き加工方法に用いる打ち抜き加工装置の概略断面図であり、(a)は打ち抜き直前、(b)は打ち抜き中、(c)は打ち抜き直後における各状態を示す。
【符号の説明】
【0061】
1、2…上型、3…切断刃、4…弾性材、11、12…下型、13…切断刃、14…弾性材、21…シリコーン樹脂シート。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1):
[RSiO3/2 (1)
(式中、Rは炭素数1〜6のアルキル基又はフェニル基を示し、nは繰り返し数を示す。)
で表され、構造単位中に篭型構造を有するポリオルガノシルセスキオキサンを主成分とするシリコーン樹脂であって、前記ポリオルガノシルセスキオキサンのシロキシ基(SiO−)の少なくとも一部に、下記一般式(2):
【化1】

{式中、Xは−R−OCO−CR=CH、−R−CR=CH又は−CH=CH(Rはアルキレン基、アルキリデン基又はフェニレン基を示し、Rは水素原子又はアルキル基を示す。)で表される反応性官能基を示す。}
で表されるトリオルガノシリル基が結合しているシリコーン樹脂(A)と、下記一般式(3):
【化2】

(式中、Zは下記式(4)又は(5):
【化3】

で表される基を示し、Rは水素原子又はメチル基を示す。)
で表される脂環式不飽和化合物(B)と、分子中に−R−CR=CH又は−CR=CH(Rはアルキレン基、アルキリデン基又は−OCO−を示し、Rは水素原子又はアルキル基を示す。)で表される不飽和基を少なくとも1個含み、前記シリコーン樹脂とラジカル共重合が可能な非脂環式不飽和化合物(C)とを、(A):(C):(B)=5〜80:0〜80:10〜50となる割合(質量基準)で配合したシリコーン樹脂組成物から形成されたシリコーン樹脂シートの打ち抜き加工方法であって、
下方に向って被切断形状に配設された切断刃とその内側及び外側に沿ってそれより高く敷設された弾性材とを備えた上型を配置すると共に、前記上型の下に該上型の切断刃と対向するように上方に向って被切断形状に配設された切断刃とその内側及び外側に沿ってそれより高く敷設された弾性材とを備えた下型を配置し、前記上型と前記下型との間に前記シリコーン樹脂シートを移送して位置決めし、前記上型及び/又は前記下型を両者の接近方向に、各切断刃の刃先が前記シリコーン樹脂シートにその上面及び下面から各々打ち込まれるように押圧することを特徴とするシリコーン樹脂シートの打ち抜き加工方法。
【請求項2】
前記各切断刃の刃先角度が15〜45度であることを特徴とする請求項1に記載のシリコーン樹脂シートの打ち抜き加工方法。
【請求項3】
前記各切断刃の刃先のロックウェル硬度が50〜80度であることを特徴とする請求項1又は2に記載のシリコーン樹脂シートの打ち抜き加工方法。
【請求項4】
前記各切断刃の刃先材質が高速度工具鋼であることを特徴とする請求項1〜3のうちのいずれか一項に記載のシリコーン樹脂シートの打ち抜き加工方法。

【図1】
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【公開番号】特開2008−238368(P2008−238368A)
【公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−85178(P2007−85178)
【出願日】平成19年3月28日(2007.3.28)
【出願人】(000006644)新日鐵化学株式会社 (747)
【出願人】(594082822)株式会社ダイテックス (3)
【Fターム(参考)】