説明

シリコーン樹脂組成物および粘着フィルム

【課題】基材適性および密着性に優れ、かつ再剥離性にも優れるシリコーン樹脂組成物および粘着フィルムを提供する。
【解決手段】シラノールで末端が停止したポリジオルガノシロキサン(シリコーンジオール)をメチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、テトラエトキシシランなどの末端キャッピング剤と反応させることにより合成したアルコール脱離型シリコーン樹脂、硬化触媒、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エ
チルトリアルコキシシラン、酸化合物を含有することを特徴とするシリコーン樹脂組成物、およびこれを塗布した粘着フィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は基材適性および密着性に優れ、かつ再剥離性にも優れるシリコーン樹脂組成物および粘着フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、液晶ディスプレイや有機ELディスプレイなどの薄型表示装置の実用化、低コスト化、高機能化などによって、これらの表示装置はテレビやコンピューターのディスプレイといった据置き型の機器だけでなく、携帯電話、携帯情報端末、携帯音楽プレーヤー、携帯ゲーム機、デジタルカメラ、デジタルビデオなどの携帯機器にも採用されるようになっている。こうした表示装置の表面には、傷付き防止、汚れ防止、帯電防止、防眩、反射防止などを目的とした機能性フィルムが用いられている。また、看板や広告用として、施工や取替えが容易な再剥離性ディスプレイフィルムが使用されている。
【0003】
従来、このようなフィルムの粘着剤としてアクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、シリコーン系樹脂などが用いられてきたが、アクリル系樹脂やウレタン系樹脂は貼り付け時に巻き込まれた泡が抜けにくいという問題があった。機能性フィルムはアフターマーケットで消費者が購入して自ら貼り付けを行うことも多く、貼り付け面とフィルムとの間に気泡が入ってしまった場合、泡抜け性が悪いと何度も剥がして貼り直す必要があるため好ましくなく、粘着層と基材フィルムとの密着性に劣るフィルムは、貼り付けと剥離を繰り返すことで貼り付け面に粘着層が残ってしまうなど、再剥離性に問題のあるケースがあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
シリコーン系樹脂としては付加反応型および過酸化物硬化型が用いられているが(例えば特許文献1、2)、付加反応型は反応時に水、イオウ、チッソ化合物、有機金属塩などが存在すると硬化阻害が生じるおそれがあるため、これらを含有する基材や雰囲気下では使用できなかった。また、過酸化物硬化型は概ね150℃以上の高温条件でなければ硬化しないため、プラスチックフィルムのような耐熱性の低い基材には使用できなかった。
【特許文献1】特開2008−156496号公報
【特許文献2】特開2008−179743号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は基材適性および密着性に優れ、かつ再剥離性にも優れるシリコーン樹脂組成物および粘着フィルムを提供することである。本発明のさらなる課題は、調合後のポットライフが長いシリコーン樹脂組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らが鋭意検討を行った結果、硬化触媒を含有するアルコール脱離型シリコーン樹脂において、さらに2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリアルコキシシランを配合することによって前記課題を解決できることを見出した。
【発明の効果】
【0007】
本発明からなるシリコーン樹脂組成物はアルコール脱離型シリコーン樹脂を主成分とするため、特定の基材に対する硬化阻害や硬化時に高温条件にする必要がなく、幅広い基材に対して使用できる。また、密着性と再剥離性を両立できているため、再剥離型粘着剤として有用である。さらに、調合後のポットライフが長いため、頻繁に調合を行う必要がなく、突発的に製造ラインが停止した際であってもライフ切れとなることなく使用できる。本発明のシリコーン樹脂組成物を塗布したフィルムは優れた再剥離型粘着フィルムとなるため、目的に応じた加工を行うことにより傷付き防止、汚れ防止、帯電防止、防眩、反射防止などを目的とした表示装置用機能性粘着フィルムとして有用である。また、看板や広告として用いられる再剥離性ディスプレイ粘着フィルムとしても有用である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明に用いるアルコール脱離型シリコーン樹脂は、ポリシロキサン構造を骨格として末端にアルコキシシリル基を有し、縮合反応により硬化可能な樹脂である。アルコール脱離型シリコーン樹脂は市販品を用いても良いし、例えば特開平1−113429号公報に開示されるように、シラノールで末端が停止したポリジオルガノシロキサン(シリコーンジオール)をメチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、テトラエトキシシランなどの末端キャッピング剤と反応させることにより合成しても良い。
【0009】
硬化触媒はアルコール脱離型シリコーン樹脂および2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリアルコキシシランの縮合反応を促進するため添加される。具体的には、
有機錫、無機錫、チタン触媒、ビスマス触媒、金属錯体、白金触媒、塩基性物質及び有機燐酸化物等が使用できる。有機錫の具体例としては、ジブチル錫ジラウリレート、ジオクチル錫ジマレート、ジブチル錫フタレート、オクチル酸第一錫、ジブチル錫ジアセテート等が挙げられる。金属錯体としては、テトラブチルチタネート、テトライソプロピルチタネート、トリエタノールアミンチタネート等のチタネート化合物類、オクチル酸鉛、ナフテン酸鉛、ナフテン酸ニッケル、ナフテン酸コバルト等のカルボン酸金属塩、アルミニウムアセチルアセテート錯体等の金属アセチルアセテート錯体、バナジウムアセチルアセトナート錯体等の金属アセチルアセトナート錯体などが挙げられる。通常、シリコーン樹脂組成物固形分に対して1〜2%程度の添加で十分な効果を発現し、用途によって適宜添加量を調整する。組成物の保存性を考慮すると、硬化触媒は組成物の調合時に配合することが好ましい。
【0010】
2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリアルコキシシランは、基材への密
着性向上と、再剥離性を両立させるために使用される。特に2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリエトキシシランは基材への密着性に優れる。添加量はシリコーン
樹脂組成物固形分に対し、3%以上が好ましく、5%以上の添加がより好ましい。また、20%を超えて添加しても密着性の顕著な向上は見られず、経済的に不利である。
【0011】
前記3成分に加えて、さらに酸化合物を配合することにより、硬化性を維持しつつポットライフ延長することができる。具体的には、塩酸、硫酸、硝酸、シュウ酸、ギ酸、酢酸、無水酢酸、プロピオン酸、無水プロピオン酸、酪酸、イソ酪酸、吉草酸、イソ吉草酸、トリメチル酢酸、カプロン酸、2−エチル酪酸、カプリル酸、オクチル酸、オレイン酸、フェノール、クレゾール、パラトルエンスルホン酸などが挙げられる。添加量は0.1%から10%が好ましく、1%から5%がより好ましい。
【0012】
本発明のシリコーン樹脂組成物は前記成分を必須成分とするが、それ以外に公知の添加剤を用いることができる。例えば脱水剤の添加によって組成物の保存性を向上することができ、離型剤の添加によって密着性と再剥離性を調整することができ、溶剤の使用によってフィルムへの塗工性を向上することができる。なお、親水性の溶剤を用いると含有水分の影響により保存性が低下するおそれがあるため、疎水性の溶剤を用いることが好ましい。
【0013】
本発明のシリコーン樹脂組成物を用いて粘着フィルムを作成するには、PETなどの基材に50〜150μm程度の厚みで塗布し、100〜140℃程度、より好ましくは120〜140℃で2〜3分間程度乾燥、硬化させ、離型フィルムを貼り合わせるなどの方法が用いられる。本発明のシリコーン樹脂組成物は100℃程度から硬化可能であるため、PETなどの耐熱性の低い基材に対しても問題なく使用することができる。
【0014】
以下、実施例に基づいて本発明をより具体的に説明する。当然、本発明は実施例に何ら制約されるものではない。
【実施例】
【0015】
アルコール脱離型シリコーン樹脂の製造
末端にシラノール基を導入したジメチルポリシロキサン(粘度20000mPa・s/25℃)600重量部を反応装置に添加し、水分量が100ppm未満となるよう減圧下において100℃で2時間攪拌した。反応装置に窒素を充填し、常圧とした上で末端キャッピング剤としてテトラメトキシシラン(信越化学工業社製、商品名KBM04)40重量部と、末端キャッピング反応触媒としてギ酸(88%水溶液)0.31重量部およびジイソブチルアミン0.78重量部を混合したものを添加して、80℃雰囲気下で2時間反応させた。内容物をサンプリングし、テトラアルチルチタネートを添加してゲル化が起こらないことを確認し、反応完了を確認した。その後、減圧下において110℃で3時間攪拌することによって触媒の分解および除去を行い、室温に冷却後にトルエンを添加して不揮発分を60%に調整した。さらに脱水剤(東レ・ダウコーニング社製、商品名Z−6300)12重量部を添加して15分間以上攪拌を行い、系内を脱水した後に2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリエトキシシラン(ローディア社製、商品名ADD107)30重量部を添加することにより、樹脂組成物1を得た。
【0016】
樹脂組成物1の製造において、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリエトキシシラン30重量部に代えて2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン(信越化学工業社製、商品名KBM−303)30重量部を添加した他は樹脂組成物1と同様に行い、樹脂組成物2を得た。
【0017】
樹脂組成物1の製造において、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリエトキシシラン30重量部に代えて3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン30重量部を添加した他は樹脂組成物1と同様に行い、樹脂組成物3を得た。
【0018】
実施例1
樹脂組成物1 100重量部に対して、硬化触媒としてジオクチル錫ジアセテート(日東化成製、商品名ネオスタンU−820)0.9重量部を添加することにより、実施例1のシリコーン樹脂組成物を得た。厚み100μm、両面易接着コーティング済みのPETフィルムを基材として、マイクロメーター付フィルムアプリケーターを使用し、乾燥後に樹脂厚みが約30μmとなるように実施例1のシリコーン樹脂組成物を塗工した。フィルムを120℃で3分間乾燥し、離型フィルムを貼り合わせることにより、実施例1の粘着フィルムを得た。
【0019】
実施例2
実施例1において、樹脂組成物1に代えて樹脂組成物2を用いた他は実施例1と同様に行い、実施例2の粘着フィルムを得た。
【0020】
実施例3
実施例1において、硬化触媒をジオクチル錫ジアセテート0.9重量部に代えてジブチル錫ビス(トリエトキシシリケート)(日東化成製、商品名ネオスタンU−303)0.9重量部を用いた他は実施例1と同様に行ない、実施例3の粘着フィルムを得た。
【0021】
実施例4
実施例3において、シリコーン樹脂組成物の調合時にさらに酢酸を5重量部配合した他は実施例3と同様に行い、実施例4の粘着フィルムを得た。
【0022】
実施例5
実施例4において、酢酸の配合量を1重量部とした他は実施例4と同様に行い、実施例5の粘着フィルムを得た。
【0023】
実施例6
実施例3において、シリコーン樹脂組成物の調合時にさらにオクチル酸を5重量部配合した他は実施例1と同様に行い、実施例6の粘着フィルムを得た。
【0024】
実施例7
実施例6において、オクチル酸の配合量を1重量部とした他は実施例6と同様に行い、実施例7の粘着フィルムを得た。
【0025】
比較例1
実施例1において、樹脂組成物1に代えて樹脂組成物3を用いた他は実施例1と同様に行い、比較例1の粘着フィルムを得た。
【0026】
試験評価方法
各粘着フィルムについて以下の方法で試験評価を行い、結果を表1にまとめた。
全光線透過率(Tt)の測定
JIS K 7361−1(1997年版)3.2の規定に基づいて行った。測定装置は株式会社東洋精機製作所製のヘイズガードIIを用いた。
ヘーズ(Hz)の測定
JIS K 7136(2000年版)の規定に基づいて行った。測定装置は株式会社東洋精機製作所製のヘイズガードIIを用いた。
PET密着性
粘着フィルムから離型フィルムを剥がした際の粘着層の状態を確認した。
○:離型フィルムへの粘着層の付着なし、 ×:離型フィルムへの粘着層の付着あり
ポットライフ
硬化剤を混合後のゲル化を目視で確認した。
○:12時間以上問題なし、△:6時間以上12時間未満でゲル化、
×:6時間未満でゲル化
耐熱性
ガラス面に粘着フィルムを貼り付け、80℃雰囲気下で7日間放置後に粘着フィルムを剥がした際の粘着層の状態を確認した。
○:被着体への粘着層の付着なし、 ×:被着体への粘着層の付着あり
△:3〜5日間では被着体への粘着層の付着なしだが、7日では付着あり
耐湿熱性
ガラス面に粘着フィルムを貼り付け、60℃、90%RH雰囲気下で7日間放置後に粘着フィルムを剥がした際の粘着層の状態を確認した。
○:被着体への粘着層の付着なし、 ×:被着体への粘着層の付着あり
△:3〜5日間では被着体への粘着層の付着なしだが、7日では付着あり
【0027】
【表1】

【0028】
実施例の各粘着フィルムは離型フィルムからの剥離性が良く、耐熱条件におけるガラスからの再剥離性にも優れていた。2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリアルコキシシランを用いた実施例1は実施例2よりも耐湿熱条件におけるガラスからの再剥離性にも優れていた。また、より活性の高い触媒を用いた実施例3〜7の粘着フィルムは、実施例1よりもさらに耐湿熱性にも優れていた。実施例3については若干のポットライフ低下が見られたが、実用上問題なかった。酸化合物を配合した実施例4〜7のシリコーン樹脂組成物はポットライフが特に長く、作業性に優れており、酸化合物添加による全光線透過率やヘーズの低下はほとんど見られなかった。一方、比較例1の粘着フィルムは離型フィルムを剥がす際に粘着層が離型フィルムへ付着してしまい、PETフィルムとの密着性が十分ではなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルコール脱離型シリコーン樹脂、硬化触媒、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリアルコキシシランを含有することを特徴とするシリコーン樹脂組成物。
【請求項2】
前記2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリアルコキシシランが、2−(
3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリエトキシシランであることを特徴とする請
求項1記載のシリコーン樹脂組成物。
【請求項3】
さらに酸化合物を含有することを特徴とする請求項1または2記載のシリコーン樹脂組成物。
【請求項4】
請求項1〜3いずれかに記載のシリコーン樹脂組成物が塗布されていることを特徴とする粘着フィルム。

【公開番号】特開2010−95699(P2010−95699A)
【公開日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−78319(P2009−78319)
【出願日】平成21年3月27日(2009.3.27)
【出願人】(000100698)アイカ工業株式会社 (566)
【Fターム(参考)】