説明

シリコーン潤滑剤組成物

【課題】常温で固体で優れた潤滑性を示し、塗布面からオイル成分が経時的にブリードアウトして潤滑性が低下することがないシリコーン潤滑剤組成物を提供する。
【解決手段】このシリコーン潤滑剤組成物は、摺動部の基材表面に塗布される常温で固体の潤滑剤であり、(A)1分子中にケイ素原子に結合した炭素数18〜54の長鎖アルキル基を2個以上有し、40〜100℃の融点を有するシリコーンワックスの1種または2種以上5〜95質量%と、(B)ケイ素原子に結合した炭素数6以上18未満のアルキル基を有し、常温で液状のシリコーンオイルの1種または2種以上95〜5質量%とをそれぞれ含有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、摺動部の基材表面に使用されるシリコーン潤滑剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
摺動部の各種の基材表面には、摩擦や磨耗を防ぐために潤滑剤が使用されている。シリコーンオイルは、他の有機材料に比べて、潤滑性、耐熱・耐寒性および粘度の温度特性に優れており、そのままで潤滑油として用いられたり、あるいは潤滑性を必要とする各種材料 (グリース状、固形など)のベース油として用いられたりと、様々な使用方法が採られている。
【0003】
代表的な液体潤滑剤であるジメチルシリコーンオイルは、粘度の温度依存性が小さく、耐熱性および耐酸化性に優れているが、油膜強度が小さいため、樹脂材料間などの軽潤滑には適しているものの、金属間例えば鋼対鋼の潤滑、特に極圧状態の潤滑には適していない。極圧状態の潤滑では、油性向上剤の添加、もしくは高級脂肪酸基の極性官能基や、アルキル基、アラルキル基等の若干極性を有する基を分子中に導入することにより、金属間の極圧潤滑性を改善することできる。しかし、液体潤滑剤は、優れた潤滑性を発揮するものの、液だれ等が問題になる用途では、作業性の低下、液だまりの発生等が懸念され、使用が好ましくない場合が多々ある。
【0004】
シリコーングリースは、シリコーンオイル(基油)に金属石けんなどの増稠剤や各種添加剤を配合してなり、粘稠性のあるグリース状を有している。広い温度範囲に亘って熱酸化安定性、耐水性などに優れ、潤滑用途に幅広く使用されている。しかし、このようなグリース状潤滑剤は、液体潤滑剤と比べて液だれ等の懸念はないが流動性が低いため、塗布時の作業性は良好とはいえず、例えば、液体潤滑剤では可能なスプレー塗布もグリース状潤滑剤では難しかった。
【0005】
さらに、常温でワックス状(固形)の化合物とオイル状の化合物(シリコーン成分を含む)とをブレンドした常温で固体の主成分を含有する潤滑剤が、従来から提案されている(例えば、特許文献1、特許文献2、特許文献3参照)。
【0006】
しかし、これらの潤滑剤では、ワックス状の化合物とオイル状の化合物との親和性が十分に高くないものもあり、その場合には、融解させて塗布する際に成分同士が分離するおそれがあった。また、摺動面に塗布した後、オイル成分が経時的に塗布面からブリードアウトし、液だれが生じたり潤滑性能が低下するなどの懸念があった。さらに、摺動部の基材表面と親和性の高い非シリコーン系の原料を使用した場合には、塗布後に基材表面に強く親和し、基材本来の物理特性を低下させるおそれもあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004−43537公報
【特許文献2】特開2005−325182公報
【特許文献3】特開2006−282945公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、これらの問題を解決するためになされたもので、常温で固体で優れた潤滑性を示し、塗布面からオイル成分が経時的にブリードアウトして潤滑性が低下することがないシリコーン潤滑剤組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のシリコーン潤滑剤組成物は、摺動部の基材表面に塗布される常温で固体の潤滑剤であり、(A)1分子中にケイ素原子に結合した炭素数18〜54の長鎖アルキル基を2個以上有し、40〜100℃の融点を有するシリコーンワックスの1種または2種以上5〜95質量%と、(B)ケイ素原子に結合した炭素数6以上18未満のアルキル基を有し、常温で液状のシリコーンオイルの1種または2種以上95〜5質量%とをそれぞれ含有することを特徴とする。
【0010】
なお、「常温」とは一年を通した外気温を示す。日本工業規格において、「常温」は20℃±10℃(5〜35℃)の範囲として規定されているが、本発明においては、この潤滑剤組成物が使用される環境が若干高温になる場合を考慮して、5℃以上40℃未満の温度を示すものとする。
【発明の効果】
【0011】
本発明のシリコーン潤滑剤組成物は、常温において固体で優れた潤滑性を示すうえに、塗布面から経時的にオイル成分がブリードアウトすることなく固体形状を維持し、潤滑性能が低下することがない。また、融点以上の温度では十分な流動性を有する液状を呈するので、塗布等の作業性も良好である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について説明する。本発明の実施形態のシリコーン潤滑剤組成物は、(A)40〜100℃の融点を有するシリコーンワックスと、(B)常温で液状のシリコーンオイルとから構成される常温で固体の組成物である。以下、各成分について詳細に説明する。
【0013】
(A)成分であるシリコーンワックスは、1分子のシロキサン骨格中にケイ素原子に結合した炭素数18〜54の長鎖アルキル基を2個以上有し、40〜100℃の融点を有するポリオルガノシロキサンである。炭素数18〜54の長鎖アルキル基は、分岐を含まない直鎖状のものが好ましい。この(A)シリコーンワックスにおいて、炭素数18〜54の長鎖アルキル基以外のケイ素原子に結合した有機基としては、炭素数が18未満のアルキル基例えばメチル基、フェニル基のようなアリール基、アラルキル基、フルオロ基、ポリエーテル基、フェノール基、アルコール基、アミノ基、エポキシ基、カルボキシル基、アルコキシ基、メタクリレート基、長鎖脂肪酸エステル基などを挙げることができる。得られたシリコーン潤滑剤組成物を、(A)成分であるシリコーンワックスの融点以上の温度で塗布することを考慮すると、耐熱性で非反応性の有機基であるフェニル基、アラルキル基、フルオロ基などが望ましい。
【0014】
(A)成分であるシリコーンワックスの融点が40℃未満の場合には、得られる潤滑剤組成物が夏場に液状化し、液ダレが生じるおそれがある。また融点が100℃を超えると、(A)シリコーンワックスを融解させるために特殊な装置を必要とし、(B)成分との混合および塗布の作業性が著しく低下する。
【0015】
(A)成分であるシリコーンワックスは、常温での固形化剤の役割を果たすとともに、後述する(B)シリコーンオイルを吸収保持する担体としての役割を果たす。
【0016】
(A)シリコーンワックスとしては、平均重合度は300未満で、直鎖状のシロキサン骨格を有するポリオルガノシロキサンが好ましい。若干の分岐を有していてもよいが、分子全体が直鎖状のシロキサン骨格を有するものが好ましい。平均重合度が300以上になると、あるいは分岐が増えると、(A)成分であるシリコーンワックスの融解時の粘度が高くなるため、潤滑剤組成物全体としての融解時の粘度が高くなる。そのため、塗布時の作業性が著しく低下し、好ましくない。
【0017】
(A)成分であるシリコーンワックスとしては、式(1)
【化1】

………(1)
または式(2)
【化2】

………(2)
で表される直鎖状ポリオルガノシロキサンを使用することが好ましい。
【0018】
式(1)において、Rは炭素数18〜28のアルキル基を示し、nは5〜60の整数である。複数のRは同一でも異なっていてもよい。また、式(2)において、Rは炭素数24〜54のアルキル基を示し、mは10〜30の整数である。2個のRは同一でも異なっていてもよい。
【0019】
(B)成分であるシリコーンオイルは、ケイ素原子に結合した炭素数6〜18のアルキル基を有し、常温で液状のポリオルガノシロキサンである。(B)成分であるシリコーンオイルは、潤滑剤としての役割を果たし、組成物全体の潤滑性向上に寄与する。また前記(A)シリコーンワックスとの親和性が良好であるので、(B)成分を比較的多量に配合しても(A)成分に吸収保持される結果、組成物全体として(A)シリコーンワックスの融点が維持される。
【0020】
(B)成分であるシリコーンオイルにおいて、炭素数6〜18のアルキル基以外のケイ素原子に結合した有機基としては、メチル基のような炭素数が6未満のアルキル基、フェニル基のようなアリール基、アラルキル基、フルオロ基、ポリエーテル基、フェノール基、アルコール基、アミノ基、エポキシ基、カルボキシル基、アルコキシ基、メタクリレート基、長鎖脂肪酸エステル基などを挙げることができる。得られたシリコーン潤滑剤組成物を、(A)成分であるシリコーンワックスの融点以上の温度で塗布することを考慮すると、耐熱性で非反応性の有機基であるフェニル基、アラルキル基、フルオロ基などが望ましい。
【0021】
(B)成分であるシリコーンオイルとしては、平均重合度は300未満で、直鎖状のシロキサン骨格を有するポリオルガノシロキサンが好ましい。若干の分岐を有していてもよいが、分子全体が直鎖状のシロキサン骨格を有するものが好ましい。平均重合度が300以上になると、あるいは分岐が増えると、(B)シリコーンオイルの粘度が高くなりすぎるため、潤滑剤組成物全体としての融解時の粘度が高くなる。そのため、塗布時の作業性が著しく低下し、好ましくない。
【0022】
このような(B)シリコーンオイルとしては、式(3)
【化3】

………(3)
で表される直鎖状ポリオルガノシロキサンを使用することが好ましい。式(3)において、Rは炭素数6以上18未満のアルキル基を示し、Rは置換基を有するアルキル基を示す。この置換基含有アルキル基の全炭素数は6以上18以下である。複数のRおよびRは同一でも異なっていてもよい。また、kは5〜60の整数であり、lは0〜15の整数である。
【0023】
(A)シリコーンワックスおよび(B)シリコーンオイルの配合割合は、(A)シリコーンワックスを組成物全体の5〜95質量%、好ましくは10〜80質量%、さらに好ましくは20〜70質量%とし、(B)シリコーンオイルを95〜5質量%、好ましくは90〜20質量%、さらに好ましくは80〜30質量%とする。(A)シリコーンワックスの配合割合が5質量%未満であり、(B)シリコーンオイルの配合割合が95質量%を超える場合は、得られるシリコーン潤滑剤組成物が常温で固形状を維持することが難しい。また、(A)シリコーンワックスの配合割合が95質量%を超え、(B)シリコーンオイルの配合割合が5質量%未満の場合には、得られるシリコーン潤滑剤組成物に所望の潤滑性を付与することができない。
【0024】
本発明のシリコーン潤滑剤組成物の調製方法は特に限定されない。例えば、メチル水素ポリシロキサン(ポリメチルハイドロジェンシロキサン)を塩化白金酸などのヒドロシリル化反応触媒の存在化にα−オレフィン(CH=CH(CHCH)(nは3〜51の整数。)、α−メチルスチレンなどと混合し、あるいは順次配合して付加反応させることにより、(A)成分であるシリコーンワックスおよび(B)成分であるシリコーンオイルを合成した後、(A)シリコーンワックスをその融点以上の温度に加熱して融解し、これに(B)シリコーンオイルを加えて撹拌・混合することにより、容易に調製することができる。
【0025】
こうして得られる本発明の実施形態のシリコーン潤滑剤組成物には、その他の添加剤を含有してもよい。添加剤としては、耐熱性向上剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤などを挙げることができる。本発明のシリコーン潤滑剤組成物に均一に分散して経時的にブリードアウトすることがなく、かつ潤滑性能や融解時の流動性を低下させることがないものを使用することが好ましい。したがって、テトラフルオロエチレン樹脂粉体のような固体潤滑剤の添加は好ましくない。
【0026】
本発明の実施形態のシリコーン潤滑剤組成物は、摺動部において、樹脂またはゴムからなる成形体、あるいは樹脂またはゴムと繊維強化材料とを含む積層体からなる基材の表面に、刷毛やブラシを用いて、またはスプレーにより、あるいは該潤滑剤組成物中への浸漬によって塗布することができ、塗布層は、そのまま常温に保持されることによって固形状の潤滑性被膜となる。より具体的には、ポリオレフィン波付電線保護管の内面潤滑など、スプレー塗布が可能で液だれが問題となる用途での使用が期待される。
【実施例】
【0027】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0028】
なお、実施例および比較例において、シリコーンワックス(A)としては、ポリメチルハイドロジェンシロキサンと1−オクタデセン(リニアレン18;出光興産株式会社製)とをヒドロシリル化反応触媒の存在化に反応させて得られた、以下に示す化学構造式を有するものを使用した。
【化4】

【0029】
シリコーンワックス(B)としては、ポリメチルハイドロジェンシロキサンと1−オクタデセン(リニアレン18;出光興産株式会社製)とをヒドロシリル化反応触媒の存在化に反応させて得られた、以下に示す化学構造式を有するものを使用した。
【化5】

【0030】
シリコーンワックス(C)としては、ポリメチルハイドロジェンシロキサンと炭素数20〜28のα−オレフィンの混合物(ダイアレン208;三菱化学株式会社製)とをヒドロシリル化反応触媒の存在化に反応させて得られた、以下に示す化学構造式を有するものを使用した。
【化6】

(式中、Rは、20〜28のいずれかの炭素数を有するアルキル基である。Rの炭素数の分布は出発材料であるα−オレフィンの混合物における炭素数の分布と等しくなっている。)
【0031】
シリコーンワックス(D)としては、ポリメチルハイドロジェンシロキサンと炭素数24〜54のα−オレフィンの混合物(Alpha Olefin C30+;Chevron Phillips社製)とをヒドロシリル化反応触媒の存在化に反応させて得られた、以下に示す化学構造式を有するものを使用した。
【化7】

(式中、Rは、24〜54のいずれかの炭素数を有するアルキル基である。Rの炭素数の分布は出発材料であるα−オレフィンの混合物における炭素数の分布と等しくなっている。)
【0032】
シリコーンオイル(E)としては、ポリメチルハイドロジェンシロキサンと1−ヘキセン(リニアレン6;出光興産株式会社製)とをヒドロシリル化反応触媒の存在化に反応させて得られた、以下に示す化学構造式を有するものを使用した。
【化8】

【0033】
シリコーンオイル(F)としては、ポリメチルハイドロジェンシロキサンと1−デセン(リニアレン10;出光興産株式会社製)とをヒドロシリル化反応触媒の存在化に反応させて得られた、以下に示す化学構造式を有するものを使用した。
【化9】

【0034】
シリコーンオイル(G)としては、ポリメチルハイドロジェンシロキサンに1−ドデセン(リニアレン12;出光興産株式会社製)およびα−メチルスチレン(三井化学株式会社製)をヒドロシリル化反応触媒の存在化に反応させて得られた、以下に示す化学構造式を有するものを使用した。
【化10】

【0035】
さらに、シリコーンオイル(H)〜(J)としては、以下に示す市販のものを使用した。
・[シリコーンオイル(H)]
ジメチルシリコーンオイル………TSF451−350(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社製)
・[シリコーンオイル(I)]
メチルフェニルシリコーンオイル………TSF433(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社製)
・[シリコーンオイル(J)]
ポリエーテル変性シリコーンオイル………TSF4452(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社製)
【0036】
前記シリコーンワックス(A)〜(D)の常温での形状はいずれも固形である。これらのシリコーンワックス(A)〜(D)の融点は、表1および表2に示す。シリコーンオイル(H)〜(J)の常温での形状はいずれも液状である。
【0037】
実施例1
シリコーンワックス(A)10g(50質量%)とシリコーンオイル(E)10g(50質量%)をガラス瓶に仕込み、シリコーンワックス(A)を融点(42℃)以上の温度に加熱して融解しながらシリコーンオイル(E)と均一に混合し、シリコーン潤滑剤組成物を得た。
【0038】
実施例2
シリコーンワックス(A)8g(40質量%)とシリコーンオイル(F)12g(60質量%)をガラス瓶に仕込み、シリコーンワックス(A)を融点(42℃)以上の温度に加熱して融解しながらシリコーンオイル(F)と均一に混合し、シリコーン潤滑剤組成物を得た。
【0039】
実施例3〜6
シリコーンワックス(A]〜シリコーンワックス(D)とシリコーンオイル(E)〜シリコーンオイル(G)を表1に示す組成で仕込み、実施例1と同様にしてシリコーン潤滑剤組成物を調製した。
【0040】
比較例1〜7
比較例1〜3においては、シリコーンワックス(A)〜シリコーンワックス(C)とシリコーンオイル(H)〜シリコーンオイル(J)を表2に示す組成で仕込み、実施例1と同様にしてシリコーン潤滑剤組成物を調製した。また、比較例4〜7においては、表2に示すように、シリコーンワックス(A)、シリコーンワックス(C)、シリコーンワックス(D)およびシリコーンオイル(F)を、それぞれ他のシリコーンワックスおよびシリコーンオイルと混合することなく、そのまま使用した。
【0041】
次に、実施例1〜6および比較例1〜7でそれぞれ得られたシリコーン潤滑剤組成物について、融点および粘度を測定した。結果を表1および表2に示す。なお、粘度はE型粘度計を使用し、JIS Z8803に拠り組成物の融点以上の所定の温度(表1および表2に示す。)で測定した。また、潤滑性、潤滑剤塗布面の形状、塗布面のブリードアウト性およびオイル分離性を、それぞれ下記の方法により測定・評価した。これらの結果を表1および表2に示す。
【0042】
[潤滑性]
縦6cm、横2.5cm、厚さ1mmのポリエチレン製基材(塗布基材)の片面全体に、融点以上の温度に加熱して融解させたシリコーン潤滑剤組成物を薄く均一に塗布した。次いで、シリコーン潤滑剤組成物が塗布された基材をトライボギアに設置し、塗布面に滑り基材を以下の試験条件で片道だけ滑らせ、動摩擦係数(μk)を測定した。なお、オイル分離性試験において2層分離した比較例1〜3のシリコーン潤滑剤組成物については、測定を省略した。
試験条件:滑り速度900mm/min.
滑り幅30mm
滑り基材の荷重200g
【0043】
[塗布面の形状]
前記潤滑性試験と同様に、ポリエチレン製基材(塗布基材)の片面全体に、融点以上の温度に加熱して融解させたシリコーン潤滑剤組成物を薄く均一に塗布した。次いで、35℃における塗布面の形状(液状あるいは固形状)を目視でしらべた。
【0044】
[塗布面のブリードアウト性]
シリコーン潤滑剤組成物が片面に塗布されたポリエチレン製基材を35℃で1ヶ月間静置し、塗布面からのシリコーンオイルのブリードアウトの有無を目視で調べた。
【0045】
[オイル分離性]
シリコーン潤滑剤組成物をガラス瓶に入れて80℃で3日間静置し、シリコーンワックス成分とシリコーンオイル成分の分離の有無を調べた。
【0046】
【表1】

【0047】
【表2】

【0048】
表1および表2から明らかなように、実施例1〜6で得られたシリコーン潤滑剤組成物は、いずれも常温で固形状であり、優れた潤滑性を示した。また、塗布面から経時的にオイルがブリードアウトすることがなかった。さらに、シリコーンワックスとシリコーンオイルが均一に混合されており、保存中も層分離が生じることがなかった。
【産業上の利用可能性】
【0049】
以上説明したように、本発明のシリコーン潤滑剤組成物によれば、塗布作業性が良好であり、かつ常温において固体で優れた潤滑性を示す潤滑性被膜が形成される。また、塗布面から経時的にオイル成分がブリードアウトすることがなく、潤滑性の低下が生じない。したがって、電線保護管の内面潤滑など、スプレー塗布が可能で液だれが問題となる用途で好適に使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
摺動部の基材表面に塗布される常温で固体の潤滑剤であり、
(A)1分子中にケイ素原子に結合した炭素数18〜54の長鎖アルキル基を2個以上有し、40〜100℃の融点を有するシリコーンワックスの1種または2種以上5〜95質量%と、
(B)ケイ素原子に結合した炭素数6以上18未満のアルキル基を有し、常温で液状のシリコーンオイルの1種または2種以上95〜5質量%と
をそれぞれ含有することを特徴とするシリコーン潤滑剤組成物。
【請求項2】
前記(A)成分であるシリコーンワックスの1種または2種以上を20〜70質量%と、前記(B)成分であるシリコーンオイルの1種または2種以上を80〜30質量%と
からなることを特徴とする請求項1記載のシリコーン潤滑剤組成物。
【請求項3】
前記(A)成分であるシリコーンワックスは、一般式(1)
【化1】

………(1)
(式中、Rは炭素数18〜28のアルキル基を示す。nは5〜60の整数である。)
または一般式(2)
【化2】

………(2)
(式中、Rは炭素数24〜54のアルキル基を示す。mは10〜30の整数である。)
で表される直鎖状ポリオルガノシロキサンであることを特徴とする請求項1または2記載のシリコーン潤滑剤組成物。
【請求項4】
前記(B)成分であるシリコーンオイルは、一般式(3)
【化3】

………(3)
(式中、Rは炭素数6以上18未満のアルキル基、Rは置換基を有するアルキル基(全炭素数6以上18以下)を示す。kは5〜60の整数であり、lは0〜15の整数である。)
で表される直鎖状ポリオルガノシロキサンであることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項記載のシリコーン潤滑剤組成物。
【請求項5】
前記基材の少なくとも一つが、樹脂またはゴムからなる成形体、あるいは樹脂またはゴムと繊維強化材料とを含む積層体であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項記載のシリコーン潤滑剤組成物。

【公開番号】特開2011−111524(P2011−111524A)
【公開日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−268729(P2009−268729)
【出願日】平成21年11月26日(2009.11.26)
【出願人】(000221111)モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社 (257)
【Fターム(参考)】