説明

シリコーン系グラフト共重合体およびその製造方法

【課題】 シリコーン系重合体部分を疎水性の枝部とし親水性の重合性単量体由来の構造単位を有する重合体を幹部とするシリコーン系グラフト共重合体および製法の提供。
【解決手段】 式;CH2=C(R1)−COO−(R2−O)n−R3(式中R1はH又はメチル、R2はエチレン又はプロピレン基、R3はH又はC1〜6の炭化水素基、nは1〜25、ただし、n=1の場合はR3は1〜6の1価の炭化水素基である)で表される(メタ)アクリル酸エステル、エチレン性不飽和カルボン酸(塩)、Mw=5000〜35000のシリコーン系マクロモノマー及び場合により他の単量体を共重合したシリコーン系グラフト共重合体、当該グラフト共重合体を含む水性被覆用重合体組成物並びに当該グラフト共重合体を(A)群の有機溶媒(ケトン、エーテル、エステル、芳香族炭化水素、塩化芳香族炭化水素、脂肪族炭化水素、塩化脂肪族炭化水素、脂環式炭化水素)と(B)群の有機溶媒(1価又は多価アルコール、グリコールエーテル)の混合溶媒中で前記単量体を共重合させて製造する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコーン系グラフト共重合体およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、分子の末端に重合性基を有するマクロモノマーと他の重合性単量体を共重合させて得られる構造的に制御されたグラフト共重合体が高機能高分子材料として注目され、塗料、接着剤、高分子添加剤、成形材料、シーラントなどに利用されている。
上記グラフト共重合体の中でも、ポリジメチルシロキサンなどのシリコーン系重合体の片末端にラジカル重合性の基を有するシリコーン系マクロモノマーを、他の重合性単量体と共重合させて得られるシリコーン系グラフト共重合体は、枝部を構成しているシリコー系重合体が撥水性、潤滑性、離型性、耐侯性、耐汚染性などの性質を有するため、それらの性質を活かして、各種基材のコーティング剤、塗料用添加剤、シーリング剤、成形用材料などとして好適に使用されている(特許文献1および2を参照)。
そして、それらのシリコーン系グラフト共重合体をコーティング剤などとして用いるに当たっては一般に有機溶媒溶液の形態にして用いられているが、有機溶媒の使用は安全性、環境汚染性などの点で問題があり、安全で環境にもやさしい水溶液の形態で使用できる水性シリコーン系グラフト共重合体が望まれている。
【0003】
一方、有機溶媒中でシリコーン系マクロモノマーとエチレン性不飽和カルボン酸、(メタ)アクリル酸エステルなどの重合性単量体を共重合してシリコーン系グラフト共重合体を製造した後に、当該シリコーン系グラフト共重合体を塩基と反応させて水溶性化してから、有機溶媒を除去してシリコーン系グラフト共重合体を得る方法が提案され(特許文献3および4を参照)、各種用途に用いられている。
【0004】
例えば金属缶用コーティングの分野においては、シリコーン系グラフト共重合体とアミノ樹脂の組み合わせによる水性シリコーン系グラフト共重合体を含む重合体組成物が、製缶加工工程の搬送における搬送速度の向上や金属缶表面の傷付きの低減などの要求性能を満たす、潤滑性、耐傷付き性、密着性に優れたコーティング剤として好適に用いられることが知られている(特許文献5を参照)。
【0005】
また、感熱記録体用背面コーティングの分野においては、カルボキシル基を有するシリコーン系グラフト共重合体の有機アミン中和物を含む水性シリコーン系重合体組成物が耐水性、印刷適性、記録時の走行性に優れたコーティング剤として好適に使用できることが知られている(特許文献6を参照)。
【0006】
他に、親水性重合体セグメントとシリコーン系マクロモノマーに由来する疎水性重合体セグメントを有するグラフト共重合体、ビニルポリマセグメントとシリコーンポリマセグメントを有するブロック共重合体またはグラフト共重合体をインクジェットなどのインク用の添加剤・分散剤として用い、印字物の耐水性、印刷特性を改善することが提案されている(特許文献7および8を参照)。
【0007】
しかしながら、これらの文献に記載されているシリコーン系グラフト共重合体および水性シリコーン系ブロック共重合体は、水溶液にした際の安定性、耐油性、耐侯性などが未だ不十分であり、さらに色材などの顔料を含む塗料・インク用添加剤として用いた際には被膜の潤滑性、耐擦過性、光沢等が悪化し、要求性能を満たすことができないことがあった。
【0008】
【特許文献1】特開昭60−123518号公報
【特許文献2】特開昭63−227670号公報
【特許文献3】特開平4−175309号公報
【特許文献4】特開2000−80135号公報
【特許文献5】特開平8−231925号公報
【特許文献6】特開平9−86047号公報
【特許文献7】特開平9−188732号公報
【特許文献8】特表2000−506198号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、重合中に重合系内に安定に存在し、しかも重合後に塩基などを加えて中和・水溶化することによって安定な水溶液を形成する、シリコーン系重合体に由来する疎水性の枝部と親水性の重合性単量体に由来する構造単位を有する重合体を幹部とするシリコーン系グラフト共重合体を提供し、これを添加剤として用いることで、顔料を含む塗料・インクなどにおいても十分な潤滑性、耐擦過性、光沢を有する被膜を形成することである。
更に、本発明の目的は、前記シリコーン系グラフト共重合体を、高重合率および高収率で円滑に製造する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、前記した目的を達成するために鋭意検討を重ねてきた。その結果、特定の(メタ)アクリル酸エステル、エチレン性不飽和カルボン酸、および所定の分子量を有するシリコーン系マクロモノマーを、場合により更に(メタ)アクリル酸アルキルエステルなどの他の重合性単量体と共に共重合された、特定構造を有する新規なシリコーン系グラフト共重合体が、塩基を用いて中和して水溶化すると安定な水溶液を形成すること、また中和・水溶化した当該シリコーン系グラフト共重合体を用いて水性被覆用重合体組成物を調製すると、当該水性被覆用重合体組成物からは撥水性、潤滑性、耐擦過性、離型性、耐候性、耐汚染性、光沢などの特性に優れる被膜が形成されることを見出し、さらに該組成物を、色材などの顔料を含む塗料・インクに添加して使用した際にもそれらの性能が高い割合で維持されることを見出した。
【0011】
また、本発明者らは、前記シリコーン系グラフト共重合体の製造において、特定の有機溶媒の2種以上を混合してなる混合溶媒中で共重合を行うことで、単量体成分および重合により生成した重合体成分の両方が混合溶媒中に安定に溶解された状態で、重合に用いた単量体の殆どすべてが共重合して、シリコーン系重合体に由来する疎水性の枝部と親水性の重合性単量体に由来する構造単位を有する重合体を幹部とする、共重合組成、分子量分布の狭い新規なシリコーン系グラフト共重合体が高重合率および高収率で円滑に得られることを見出した。
【0012】
さらに、本発明者らは、シリコーン系グラフト共重合体を製造する前記重合工程中に、混合溶媒の混合組成を変化させて重合系に存在する成分の混合溶媒への溶解性を維持しながら共重合を行うと、より分子量分布が狭いシリコーン系グラフト共重合体をより高い収率で製造できることを見出し、それらの知見に基づいて本発明を完成した。
【0013】
すなわち、本発明は、
(1) 下記の一般式(I);

CH2=C(R1)−COO−(R2−O)n−R3 (I)

(式中、R1は水素原子またはメチル基、R2はエチレン基またはプロピレン基、R3は水素原子または炭素数1〜6の1価の炭化水素基を示し、nは1〜25の数である。ただし、n=1のときにR3は1〜6の1価の炭化水素基である。)
で表される(メタ)アクリル酸エステル(I)に由来する構造単位、エチレン性不飽和カルボン酸(II)および/またはその塩に由来する構造単位、並びに重量平均分子量5000〜35000のシリコーン系マクロモノマー(III)に由来する構造単位を有し、前記シリコーン系マクロモノマーに由来するシリコーン系重合体部分が枝部を構成していることを特徴とするシリコーン系グラフト共重合体である。
【0014】
そして、本発明は、
(2) (メタ)アクリル酸エステル(I)以外の(メタ)アクリル酸エステルに由来する構造単位を更に有する前記(1)のシリコーン系グラフト共重合体;
(3) シリコーン系グラフト共重合体を構成する全構造単位の合計質量に基づいて、(メタ)アクリル酸エステル(I)に由来する構造単位の含有割合が10〜70質量%、エチレン性不飽和カルボン酸(II)および/またはその塩に由来する構造単位の含有割合が5〜30質量%、シリコーン系マクロモノマー(III)に由来する構造単位の含有割合が10〜50質量%および(メタ)アクリル酸エステル(I)以外の(メタ)アクリル酸エステルに由来する構造単位の含有割合が0〜70質量%である前記(1)または(2)のシリコーン系グラフト共重合体;
(4) 重量平均分子量が6000〜40000であり、酸価が40〜200mgKOH/gである前記(1)〜(3)のいずれかのシリコーン系グラフト共重合体;
である。
【0015】
さらに、本発明は、
(5) 下記の一般式(I);

CH2=C(R1)−COO−(R2−O)n−R3 (I)

(式中、R1は水素原子またはメチル基、R2はエチレン基またはプロピレン基、R3は水素原子または炭素数1〜6の1価の炭化水素基を示し、nは1〜25の数である。ただし、n=1の場合はR3は1〜6の1価の炭化水素基である。)
で表される(メタ)アクリル酸エステル(I)、エチレン性不飽和カルボン酸(II)および/またはその塩、並びに重量平均分子量5000〜35000のシリコーン系マクロモノマー(III)を、ケトン類、エーテル類、エステル類、芳香族炭化水素類、塩化芳香族炭化水素類、脂肪族炭化水素類、塩化脂肪族炭化水素類および脂環式炭化水素類から選ばれる1種または2種以上の有機溶媒(A)と、1価アルコール、多価アルコールおよびグリコールエーテル類から選ばれる1種または2種以上の有機溶媒(B)とを混合してなる混合溶媒中で共重合することを特徴とする前記(1)のシリコーン系グラフト共重合体の製造方法である。
【0016】
そして、本発明は、
(6) (メタ)アクリル酸エステル(I)以外の他の(メタ)アクリル酸エステルを更に共重合させる前記(5)のシリコーン系グラフト共重合体の製造方法;
(7) 重合中に混合溶媒の混合組成を変化させながら共重合を行うことを特徴とする前記(5)または(6)のシリコーン系グラフト共重合体の製造方法;および、
(8) 混合溶媒中での共重合後に重合体の濃度を40質量%以下にした後に塩基を加えてシリコーン系グラフト共重合体中のカルボキシル基の一部または全部を中和して塩の形態にし、しかる後に混合溶媒を留去して水に置換し水溶液とすることを特徴とする前記した(5)〜(7)のいずれかのシリコーン系グラフト共重合体の製造方法;
である。
【発明の効果】
【0017】
本発明のシリコーン系グラフト共重合体は、シリコーン系マクロモノマーに由来するシリコーン系重合体部分を疎水性の枝部とし、親水性の重合性単量体に由来する構造単位を有する重合体を幹部とするグラフト構造を有しているため、枝部をなすシリコーン系重合体によって、優れた潤滑性能、離型性能、撥水性能、耐擦過性能、耐汚染性能、耐候性能、光沢性能を発揮する。これらの性能は顔料を含む塗料・インクなどにおいても大きく損なわれることはない。
しかも、本発明のシリコーン系グラフト共重合体はその幹部に親水性の構造単位、特にカルボキシル基の一部または全部が塩基によって中和されて塩の形態になっている構造単位を有していることにより水に対する溶解性に優れており、また、(メタ)アクリル酸エステル(I)に由来する構造単位により、低pHあるいは親水性有機溶媒が多く混合された水溶液中でも不溶解成分の発生が起こりにくく、低pHあるいは親水性有機溶媒が多く混合された水系塗料、水系インクなどにも問題なく添加することができる。
また、上記親水構造性の構造単位のため、本発明のシリコーン系グラフト共重合体を水に溶解した重合体水溶液は、保存安定性に優れていて保存時に凝集や重合体の析出がない。
【0018】
本発明のシリコーン系グラフト共重合体、そのうちでもシリコーン系グラフト共重合体中のカルボキシル基の一部または全部を塩基によって中和して水溶化したものは、水性被覆用重合体組成物、シーリング剤、成形用材料などの種々の用途に有効に使用することができる。
特に、水溶性の本発明のシリコーン系グラフト共重合体を水性媒体に溶解した水性被覆用重合体組成物は、水を媒体としていて安全性に優れ、環境にも優しい被覆用材料として、各種基材のコーティング、塗料・インク用添加剤などに有効に使用することができ、被覆後に乾燥することによって潤滑性、離型性、撥水性、耐擦過性、耐汚染性、耐候性、光沢などの特性に優れる皮膜または被膜を形成する。
【0019】
(メタ)アクリル酸エステル(I)、エチレン性不飽和カルボン酸(II)、重量平均分子量が5000〜35000のシリコーン系マクロモノマー(III)および場合により更に他の重合成単量体を、(A)群の有機溶媒(ケトン類、エーテル類、エステル類、芳香族炭化水素類、塩化芳香族炭化水素類、肪族炭化水素類、塩化脂肪族炭化水素類および脂環式炭化水素類)の1種または2種以上と、(B)群の有機溶媒(一価アルコール、多価アルコールおよびグリコールエーテル類)の1種または2種以上を混合してなる混合溶媒中で共重合させてシリコーン系グラフト共重合体を製造する本発明の製造方法による場合は、単量体成分および重合により生成した重合体成分の両方を混合溶媒中に安定に溶解させた状態で、重合に用いた単量体の殆どすべてが残存することなく共重合して、分子量分布、組成分布の狭いシリコーン系グラフト共重合体を高収率で得ることができる。
本発明の前記製造方法において、特に重合中に混合溶媒の混合組成を変化させながら前記した共重合を行った場合には、単量体成分および重合により生成した重合体成分の両方を混合溶媒中に一層安定に溶解させながら、本発明のシリコーン系グラフト共重合体を一層円滑に製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下に本発明について詳細に説明する。
本発明のシリコーン系グラフト共重合体は、下記の一般式(I);

CH2=C(R1)−COO−(R2−O)n−R3 (I)

(式中、R1は水素原子またはメチル基、R2はエチレン基またはプロピレン基、R3は水素原子または炭素数1〜6の1価の炭化水素基を示し、nは1〜25の数である。ただし、n=1のときにR3は1〜6の1価の炭化水素基である。)
で表される(メタ)アクリル酸エステル(I)に由来する構造単位[以下「構造単位(I)」ということがある]、エチレン性不飽和カルボン酸(II)および/またはその塩に由来する構造単位[以下「構造単位(II)」ということがある]並びにシリコーン系マクロモノマー(III)に由来する構造単位[以下「構造単位(III)」ということがある]を必須単位として有し、場合によって更に他の重合性単量体に由来する構造単位を有する。
【0021】
本発明のシリコーン系グラフト共重合体では、その幹部は、構造単位(I)、構造単位(II)およびシリコーン系マクロモノマーが片末端に有する重合性不飽和基に由来する単位を有し、場合によって更に他の重合性単量体に由来する構造単位を有しており、当該幹部に対して、シリコーン系マクロモノマーの本体をなすシリコーン系重合体が枝部として結合している。枝部をなすシリコーン系重合体は、シリコーン系マクロモノマーの共重合部位(すなわちシリコーン系マクロモノマーが片末端に有する重合性不飽和基によって共重合した部分)で、幹部に枝状に結合している。
【0022】
本発明のシリコーン系グラフト共重合体の幹部における構造単位(I)を形成する上記の一般式(I)で表される(メタ)アクリル酸エステル(I)において、R1は水素原子またはメチル基である。R1がメチル基、即ちメタクリル末端であることが、被膜の耐擦過性が高い点、耐候性がよい点から好ましい。
また、(メタ)アクリル酸エステル(I)において、R2はエチレン基またはプロピレン基である。R2がエチレン基であることが、被膜の耐油性、光沢が優れる点から好ましい。
また、(メタ)アクリル酸エステル(I)において、R3は水素原子または炭素数1〜6の1価の炭化水素基である。そのうちでも、R3は炭素数1〜6のアルキル基、特にメチル基またはエチル基であることが、重合時の混合溶媒中への(メタ)アクリル酸エステル(I)の溶解性が良好になって、シリコーン系マクロモノマーとの共重合がより円滑に行われ、しかも得られるシリコーン系グラフト共重合体の水溶液の粘度が低くなる点から好ましい。
また、(メタ)アクリル酸エステル(I)において、nは1〜25の数である。この中でもnは1〜20であることが好ましく、1〜10であることがより好ましく、2〜5であることが特に好ましい。nが小さい場合は重合体水溶液が低pHあるいは親水性有機溶媒が多く混合された場合に重合体水溶液の安定性が劣る傾向にあり、nが25よりも大きい場合には他の単量体との共重合性が悪化し、均一な共重合体が得られなくなる。
【0023】
(メタ)アクリル酸エステル(I)の具体例としては、一般式(I)においてnが1〜10のいずれかの数である、メトキシ(ポリ)エチレングリコール(メタ)アクリレート、エトキシ(ポリ)エチレングリコール(メタ)アクリレート、プロポキシ(ポリ)エチレングリコール(メタ)アクリレート、ブトキシ(ポリ)エチレングリコール(メタ)アクリレート、ペントキシ(ポリ)エチレングリコール(メタ)アクリレート、ヘキソキシ(ポリ)エチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシ(ポリ)プロピレングリコール(メタ)アクリレート、エトキシ(ポリ)プロピレングリコール(メタ)アクリレート、プロポキシ(ポリ)プロピレングリコール(メタ)アクリレート、ブトキシ(ポリ)プロピレングリコール(メタ)アクリレート、ペントキシ(ポリ)プロピレングリコール(メタ)アクリレート、ヘキソキシ(ポリ)プロピレングリコール(メタ)アクリレートなどを挙げることができ、これらの1種または2種以上を用いることができる。
そのうちでも、一般式(I)においてnが1〜10のいずれかの数、特に2〜5のいずれかの数である、メトキシ(ポリ)エチレングリコール(メタ)アクリレートおよび/またはエトキシ(ポリ)エチレングリコール(メタ)アクリレートが、入手容易性、被膜の耐汚染性が優れる点から好ましく用いられ、中でもメタクリル末端のものが被膜の耐擦過性、耐候性の点から好ましい。
(メタ)アクリル酸エステル(I)の市販品としては、新中村化学(株)製「NKエステル Mシリーズ」および「NKエステル AMシリーズ」(商品名)、日本油脂(株)製「ブレンマー PMEシリーズ」および「ブレンマー AMEシリーズ」(商品名)、共栄社化学(株)製「ライトエステルMC」および「ライトエステル130MA」などが知られており、これらの市販品の1種または2種以上を用いてもよい。
【0024】
本発明のシリコーン系グラフト共重合体の幹部分における構造単位(II)を形成するエチレン性不飽和カルボン酸としては、(メタ)アクリル酸エステル(I)およびシリコーン系マクロモノマーと共重合可能であって且つカルボキシル基を1個または2個以上有するエチレン性不飽和カルボン酸のいずれもが使用できる。本発明で用い得るエチレン性不飽和カルボン酸の具体例としては、(メタ)アクリル酸、エタアクリル酸、プロピルアクリル酸、イソプロピルアクリル酸、クロトン酸、イタコン酸、フマル酸、シトラコン酸、マレイン酸、無水マレイン酸、ω−カルボキシポリカプロラクトンモノ(メタ)アクリレート、ω−カルボキシポリアルキレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ω−ヒドロキシモノ(メタ)アクリレートの各種酸無水物付加物、などを挙げることができ、これらの1種または2種以上を用いることができる。そのうちでも、エチレン性不飽和カルボン酸としては、入手容易性、シリコーン系マクロモノマーとの共重合性、カルボン酸導入の効率の良さなどの点から、アクリル酸および/またはメタクリル酸が好ましく、被膜の耐水性の観点からメタクリル酸が特に好ましく用いられる。
【0025】
本発明のシリコーン系グラフト共重合体にシリコーン系重合体よりなる枝部を導入するためのシリコーン系マクロモノマー(III)は、片末端に重合性不飽和基を有する、重量平均分子量が5000〜35000のシリコーン系重合体である。
シリコーン系マクロモノマー(III)としては、潤滑性、離型性、撥水性、耐擦過性、耐汚染性、耐候性、光沢を有する鎖状のシリコーン系重合体であって、その片末端に重合性不飽和基(特に重合性二重結合)を有するシリコーン系マクロモノマーであればいずれを用いてもよい。そのうちでも、シリコーン系マクロモノマー(III)としては、下記の一般式(IIIa);

D−O−[Si(R4)(R5)−O]p−X (IIIa)

[式中、Dは末端に重合性不飽和結合を有する基(重合性不飽和基)、R4およびR5はそれぞれ独立して1価の脂肪族炭化水素基、1価の芳香族炭化水素基または1価のハロゲン化炭化水素基、Xはラジカル重合性を持たない置換基、pは重合度を示す。]
で表されるシリコーン系マクロモノマーが好ましく用いられる。
【0026】
上記の一般式(IIIa)で表されるシリコーン系マクロモノマー、すなわちジオルガノポリシロキサンよりなるシリコーン系重合体の片末端に重合性不飽和基を有するシリコーン系マクロモノマーは、潤滑性、離型性、化学的安定性などの点で優れている。
上記の一般式(IIIa)において、R4およびR5は炭素数1〜3のアルキル基、フェニル基であることが好ましく、潤滑性の点から特にメチル基であることが特に好ましい。
【0027】
シリコーン系マクロモノマー(III)としては、上記の一般式(IIIa)において、R4およびR5の両方がメチル基であって且つ片末端に重合性不飽和基が結合したジメチルポリシロキサン系マクロモノマー、当該ジメチルポリシロキサン系マクロモノマーにおけるR4および/またはR5の一部がエチル基やその他のアルキル基および/またはフェニル基で置き替わったジオルガノポリシロキサン系マクロモノマーがより好ましく用いられ、特にR4およびR5の全てがメチル基であるジメチルポリシロキン系マクロモノマーが更に好ましく用いられる。
【0028】
シリコーン系マクロモノマー(III)の片末端における重合性不飽和基[例えば上記の一般式(IIIa)におけるD]は、(メタ)アクリル酸エステル(I)、エチレン性不飽和カルボン酸(II)、他の重合性単量体と共重合可能な重合性不飽和基であればいずれでもよいが、(メタ)アクリル酸エステル(I)、エチレン性不飽和カルボン酸(II)、他の重合性単量体との共重合性、シリコーン系マクロモノマーの製造の容易性などの点から、(メタ)アクリロイル基を端部に有する重合性不飽和基であることが好ましい。
シリコーン系マクロモノマーの片末端における重合性不飽和基Dの好ましい例としては、例えば下記の一般式(IIId)で表されるものがある。

CH2=C(R6)−COO−(CH2)q−(O)r−(CH2)3−Si(R7) (R8)− (IIId)

(式中、R6は水素原子またはメチル基、R7およびR8は炭素数1〜4のアルキル基、炭素数1〜4のアルコキシ基、アセトキシ基、qはrが0のときに0〜2、rが1のときに2であり、rは0または1である。)
【0029】
シリコーン系マクロモノマー(III)におけるもう一方の端部[一般式(IIIa)におけるX]には、トリアルキルシリル基(例えばトリメチルシリル基、ジメチルエチルシリル基、ジメチルブチルシリル基など)などの化学的に安定な基が結合していることが、シリコーン系マクロモノマー、グラフト共重合体の化学的安定性などの点から好ましい。
シリコーン系マクロモノマー(III)における当該もう一方の端部にシラノール基、ヒドロキシル基、エポキシ基、アミノ基、アルコキシ基などの活性基が結合していると、シリコーン系マクロモノマーの化学的安定性が低下し易い。
【0030】
本発明のシリコーン系グラフト共重合体を構成するシリコーン系マクロモノマー(III)の重量平均分子量は5000〜35000であり、8000〜30000が好ましく、10000〜20000であることが特に好ましい。シリコーン系マクロモノマーの重量平均分子量が前記範囲よりも小さいと、当該シリコーン系マクロモノマーを用いて製造したシリコーン系グラフト共重合体を被覆剤として用いたときに潤滑性、離型性、撥水性、耐擦過性、耐汚染性、耐候性に優れる被膜が形成されなくなる。一方、シリコーン系マクロモノマーの重量平均分子量が前記範囲よりも大きいと、他の単量体との共重合性が悪くなって未反応の単量体(シリコーン系マクロモノマーおよび/またはそれ以外の単量体)が残存したり、得られるシリコーン系グラフト共重合体の水溶化が困難となる。しかも、シリコーン系グラフト共重合体を被覆剤などとして用いたときに基材への密着性が低下して、ハジキなどの問題が発生する。
なお、本明細書における重量平均分子量(シリコーン系マクロモノマー、シリコーン系グラフト共重合体の重量平均分子量)は、ポリスチレンを基準物質とするゲル浸透クロマトグラフによる重量平均分子量をいう。
【0031】
本発明では、シリコーン系マクロモノマー(III)として、1種類のシリコーン系マクロモノマーのみを使用してもよいし、または2種以上のシリコーン系マクロモノマーを使用してもよい。
本発明に使用し得るシリコーン系マクロモノマーは、例えば、東亞合成(株)製「AK−5」、「AK−30」および「AK−32」(商品名)、信越化学工業(株)製「X−22−174DK」、「X−24−8201」および「X−22−2426」(商品名)などとして販売されており、これらの市販品を用いてもよい。
【0032】
シリコーン系マクロモノマーの製法は特に限定されない。シリコーン系マクロモノマーは既知の方法で製造することができ、例えば、(1)リチウムトリアルキルシラノレートを開始剤として環状シロキサンをアニオン重合してリビングポリマーを製造し、それにγ−メタクリロキシプロピルジメチルモノクロロシランを反応させる方法(特許文献6を参照)、末端シラノール基含有シリコーンとγ−メタクリロキシプロピルジメチルモノクロロシランなどの有機ケイ素化合物を縮合反応させる方法(特許文献1)などによって製造することができる。
【0033】
本発明のシリコーン系グラフト共重合体は、上記した(メタ)アクリル酸エステル(I)、エチレン性不飽和カルボン酸(塩)(II)およびシリコーン系マクロモノマー(III)の3者のみを用いて形成されていてもよいし、または(メタ)アクリル酸エステル(I)、エチレン性不飽和カルボン酸(II)およびシリコーン系マクロモノマー(III)と共に更に他の重合性単量体[以下「他の重合性単量体(IV)」ということがある]を用いて形成されていてもよい。
本発明のシリコーン系グラフト共重合体が、他の重合性単量体(IV)を更に用いて形成されている場合は、他の重合性単量体(IV)に由来する構造単位は、一般に幹部を構成する重合体の構造単位をなす。
【0034】
本発明のシリコーン系グラフト共重合体が、他の重合性単量体(IV)に由来する構造単位を有する場合には、当該他の重合性単量体(IV)としては、例えば、(メタ)アクリル酸のアルキルエステル、(メタ)アクリル酸の脂環式炭化水素エステル、(メタ)アクリル酸のヒドロキシアルキルエステル、(メタ)アクリルアミドビニル、(メタ)アクリロニトリル、芳香族ビニル化合物、スルホン酸基含有単量体、酢酸ビニル、N−ビニルピロリドンなどを挙げることができる。本発明のシリコーン系グラフト共重合体は、これらの他の重合性単量体の1種または2種以上に由来する構造単位を有していることができる。
【0035】
他の重合性単量体(IV)として用い得る(メタ)アクリル酸のアルキルエステルの具体例としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸ステアリルなどを挙げることができる。
【0036】
他の重合性単量体(IV)として用い得る(メタ)アクリル酸の脂環式炭化水素エステルの具体例としては、(メタ)アクリル酸シクロペンチル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロオクチル、(メタ)アクリル酸シクロノニル、(メタ)アクリル酸イソボルニル、(メタ)アクリル酸ノルボルニル、(メタ)アクリル酸ジシクロペンタニル、(メタ)アクリル酸ジシクロペンテニル、(メタ)アクリル酸ジシクロペンテニルオキシアルキル、(メタ)アクリル酸アダマンチルなどを挙げることができる。
【0037】
他の重合性単量体(IV)として用い得る(メタ)アクリル酸のヒドロキシアルキルエステルの具体例としては、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸3−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸4−ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸ω−ヒドロキシポリアルキレングリコール(n=2〜25)、(メタ)アクリル酸ω−ヒドロキシポリカプロラクトンなどを挙げることができる。
【0038】
他の重合性単量体(IV)として用い得る芳香族ビニル化合物の具体例としては、スチレン、α−メチルスチレン、m−メチルスチレン、p−メチルスチレン、o−メチルスチレン、p−tert−ブチルスチレンなどを挙げることができる。
【0039】
また、他の重合性単量体(IV)として用い得るスルホン酸基含有単量体の具体例としては、(メタ)アクリル酸2−スルホン酸エチル、スチレンスルホン酸、α−メチルスチレンスルホン酸、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、ビニルスルホン酸、(メタ)アリルスルホン酸、イソプレンスルホン酸、ビニルトルエンスルホン酸、(メタ)アリルオキシベンゼンスルホン酸、(メタ)アリルオキシ2−ヒドロキシプロピルスルホン酸、(メタ)アクリル酸3−スルホプロピル、イタコン酸ビス(3−スルホプロピル)などを挙げることができる。
【0040】
また、本発明のシリコーン系グラフト共重合体は、少量(一般にシリコーン系グラフト共重合体を構成する全部単量体の合計モル数に基づいて2モル%以下、特に0.5モル%以下)であれば、1分子中に2個以上のビニル基を有する単量体に由来する構造単位を他の重合性単量体(IV)由来の構造単位として有していてもよい。
その際の、2個以上のビニル基を有する単量体の具体例としては、メチレンビスアクリルアミド、メチレンビスメタクリルアミド、ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ジ(メタ)アクリロキシエチレンフスフェイト、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート、ジビニルベンゼン、マレイン酸ジアリルエステル、ポリアリルサッカロースなどの架橋性単量体などを挙げることができる。
【0041】
本発明のシリコーン系グラフト共重合体が、他の重合性単量体(IV)に由来する構造単位を有する場合は、上記した重合性単量体のうちでも、(メタ)アクリル酸のアルキルエステル、特にメタクリル酸のアルキルエステルに由来する構造単位を有することが、(メタ)アクリル酸エステル(I)、エチレン性不飽和カルボン酸およびシリコーン系マクロモノマーとの共重合性が良好で、且つ得られるシリコーン系グラフト共重合体の被膜の耐擦過性、耐候性がより優れたものとなる点から好ましい。
その場合の(メタ)アクリル酸のアルキルエステルの好ましい例としては、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸ブチル、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸ブチルなどを挙げることができ、特にメタクリル酸メチルが被膜の耐擦過性に優れる点から好ましい。
特に、(メタ)アクリル酸エステル(I)、エチレン性不飽和カルボン酸(II)およびシリコーン系マクロモノマー(III)と共に、(メタ)アクリル酸のアルキルエステル、特にメタクリル酸メチルを用いて形成した本発明のシリコーン系グラフト共重合体は、分子量分布、重合体水溶液の安定性、被膜の潤滑性、離型性、撥水性、耐擦過性、耐汚染性、耐候性などに優れており、望ましいものである。
【0042】
本発明のシリコーン系グラフト共重合体は、シリコーン系グラフト共重合体を構成する全構造単位の合計質量に基づいて、(メタ)アクリル酸エステル(I)に由来する構造単位(I)を10〜70質量%、エチレン性不飽和カルボン酸(II)および/またはその塩に由来する構造単位(II)を10〜30質量%、シリコーン系マクロモノマー(III)に由来する構造単位(III)を10〜50質量%および他の重合性単量体(IV)に由来する構造単位を0〜70質量%の割合で有することが好ましく、(メタ)アクリル酸エステル(I)に由来する構造単位(I)を20〜60質量%、エチレン性不飽和カルボン酸および/またはその塩に由来する構造単位(II)を10〜20質量%、シリコーン系マクロモノマー(III)に由来する構造単位を15〜40質量%および他の重合性単量体(IV)に由来する構造単位を20〜60質量%の割合で有することがより好ましい。
(メタ)アクリル酸エステル(I)が10質量%より少ない場合は低pHあるいは親水性有機溶媒が多く混合された場合に重合体水溶液の安定性が劣り、70質量%より多い場合は被膜の耐水性、耐擦過性、耐候性が劣る。エチレン性不飽和カルボン酸(II)が5質量%より少ない場合はシリコーン系グラフト共重合体の水溶化が困難となり、35質量%より多い場合は被膜の耐水性が劣る。シリコーン系マクロモノマー(III)が10質量%より少ない場合には被膜の潤滑性、離型性、撥水性、耐擦過性、耐汚染性、耐候性が劣り、50質量%より多い場合はシリコーン系グラフト共重合体の安定な製造が難しくなる。他の重合性単量体(IV)が少ない場合には被膜の耐擦過性不足する傾向にあり、70質量%を超える場合には各種物性のバランスを取るのが困難になる。
各構造単位を前記した範囲で有することによって、シリコーン系グラフト共重合体を製造する際の重合中および重合後の水性媒体中でのシリコーン系グラフト共重合体の安定性が向上し、しかもシリコーン系グラフト共重合体の被膜の潤滑性、離型性、撥水性、耐擦過性、耐汚染性、耐候性、光沢がより優れたものとなる。
【0043】
本発明のシリコーン系グラフト共重合体では、シリコーン系グラフト共重合体の酸価(シリコーン系グラフト共重合体中のカルボキシル基を塩基で中和する前の酸価)が40〜200mgKOH/gの範囲、更には60〜150mgKOH/g、特に80〜120mgKOH/gの範囲になるように、エチレン性不飽和カルボン酸に由来する構造単位(II)の含有割合を調整することが好ましい。
塩基で中和する前のシリコーン系グラフト共重合体の酸価が低過ぎると、塩基で中和してもシリコーン系グラフト共重合体を水溶化することが困難になり、一方シリコーン系グラフト共重合体の酸価が高すぎると、シリコーン系グラフト共重合体の被膜の耐水性が低下する。
【0044】
更に、本発明のシリコーン系グラフト共重合体において、シリコーン系マクロモノマー(III)以外の、幹部を構成する各重合性単量体[(メタ)アクリル酸エステル(I)、エチレン性不飽和カルボン酸(II)、他の重合性単量体(IV)]の組み合わせを、各重合性単量体の単独重合体のガラス転移温度に基づく下記の数式(1)に従って求められるガラス転移温度(Tg)が0℃以上、特に20℃以上になるようにして幹部分を形成すると、本発明のシリコーン系グラフト共重合体を被覆用組成物として用いたときに、柔らかすぎずに適度な硬さを有する被膜を形成することができる。

1/Tg=(W1/Tg1+W2/Tg2+W3/Tg3+・・・・+Wn/Tgn) (1)

式中、
Tg=幹部分のガラス転移温度(K)
Tg1、Tg2、Tg3、・・、Tgn=幹部分を構成する各重合性単量体の単独重合体のガラス転移温度(K)
1、W2、W3、・・、Wn=幹部分を構成する各重合性単量体の質量比
上記単独重合体のガラス転移温度はPOLYMER HANDBOOK(JOHN WILLY&SONNS,INC)に記載の値を採用した。
【0045】
本発明のシリコーン系グラフト共重合体の重量平均分子量は、6000〜40000であることが好ましく、8000〜30000であることがより好ましく、10000〜20000であることが特に好ましい。シリコーン系グラフト共重合体の重量平均分子量が低過ぎると、シリコーン系重合体の特性が十分に発揮されず、被膜の潤滑性、離型性、撥水性、耐擦過性、耐汚染性、耐候性が悪化する。また、シリコーン系グラフト共重合体の重量平均分子量が高すぎると、水溶化が困難になったり、水溶液の粘性が高くなり取り扱いが難しくなる。
また、シリコーン系グラフト共重合体の分子量分布(Mw/Mn)は4.0以下であることが好ましく、3.0以下であることがより好ましく、2.5以下であることが特に好ましい。分子量分布が大きい場合の物性の悪化は組成によって様々だが、重合体水溶液の安定性低下や、被膜の耐擦過性低下が起こることが多い。なお、重合が不安定(均一溶解していない状態で進行)している場合に分子量分布が高くなる傾向がある。
なお、本明細書中のシリコーン系グラフト共重合体の数平均分子量と重量平均分子量は、シリコーン系マクロモノマーと同様に、ポリスチレンを基準物質とするゲル浸透クロマトグラフによる重量平均分子量である。
【0046】
本発明は、カルボキシル基の全てが中和されていないシリコーン系グラフト共重合体、およびカルボキシル基の一部または全てが塩基により中和されて塩の形態になっているシリコーン系グラフト共重合体を包含する。
カルボキシル基の一部または全てが塩基により中和されている本発明のシリコーン系グラフト共重合体は、水への溶解性に優れている。
シリコーン系グラフト共重合体のカルボキシル基の一部または全てが塩基によって中和されて塩の形態になっているものでは、シリコーン系グラフト共重合体が有する全カルボキシル基の50モル%以上、特に75モル%以上が塩の形態になっていること、重合体水溶液の安定性の点から好ましい。
中和に用いる塩基としては、水酸化カリウム、水酸化ナトリウムなどのアルカリ金属水酸化物などの無機アルカリ剤、ジエタノールアミン、トリエタノールアミンなどの有機アミン類などを用いることができる。重合体の水溶性や、水溶化物の保存安定性が強く求められる場合にはアルカリ金属水酸化物を、被膜の耐水性が強く求められる場合にはアンモニアもしくは低沸点の有機アミンを用いることが望ましい。
【0047】
シリコーン系グラフト共重合体の製造方法としては、マクロモノマー法、イオン重合法、高分子反応による側鎖の導入による方法などが知られているが、本発明では、幹部および枝部の重合度の調整が容易で、しかも幹部に枝部を容易に連結(結合)させることができる点から、マクロモノマー法を採用して本発明のシリコーン系グラフト共重合体を製造する。
すなわち、(メタ)アクリル酸エステル(I)、エチレン性不飽和カルボン酸(II)、重量平均分子量5000〜35000のシリコーン系マクロモノマー(III)および場合により他の重合性単量体(IV)を有機溶媒中で共重合することによって本発明のシリコーン系グラフト共重合体を製造する。
重合に当たっては、均一に重合させるために、一般にエチレン性不飽和カルボン酸(II)のカルボキシル基が中和されていない状態で行うことが望ましい。
【0048】
マクロモノマー法によって本発明のシリコーン系グラフト共重合体を製造するに当たっては、有機溶媒として、下記の(A)群から選ばれる1種または2種以上の有機溶媒と、下記の(B)群から選ばれる1種または2種以上の有機溶媒を混合した混合溶媒を用いて溶液重合することが、重合に用いる各単量体成分および重合により生成した重合体成分の両方を混合溶媒中に安定に溶解させた状態で、分子量分布、組成分布の狭いシリコーン系グラフト共重合体を高収率で円滑に製造できる点から好ましい。
(A)群の有機溶媒:ケトン類、エーテル類、エステル類、芳香族炭化水素類、塩化芳香族炭化水素類、肪族炭化水素類、塩化脂肪族炭化水素類、脂環式炭化水素類。
(B)群の有機溶媒:1価アルコール、多価アルコール、グリコールエーテル。
【0049】
重合に用いる(A)群の有機溶媒と(B)群の有機溶媒との混合溶媒の沸点は、共重合時の取扱性、重合後の溶媒の分離・除去の容易性などの点から、100℃以下であることが好ましく、60〜95℃であることがより好ましい。
重合を行う前の時点では、(A)群の有機溶媒または(B)群の有機溶媒から選ばれる単一の有機溶媒中に単量体成分を溶解しておいてもよいが、重合反応中は、(A)群の有機溶媒の少なくとも1種と(B)群の有機溶媒の少なくとも1種からなる混合溶媒を用いることが好ましい。
【0050】
(A)群の有機溶媒として用いる上記したケトン類の具体例としてはアセトン、メチルエチルケトンなどを挙げることができ、エーテル類の具体例としてはジエチルエーテル、テトラヒドロフランなどを挙げることができ、エステル類の具体例としては酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸セロソルブなどを挙げることができ、芳香族炭化水素類の具体例としてはベンゼン、トルエンなどを挙げることができ、塩化芳香族炭化水素類の例としてはクロロベンゼンなどを挙げることができ、脂肪族炭化水素類の具体例としてはヘキサン、ヘプタン、各種パラフィンオイルなどを挙げることができ、塩化脂肪族炭化水素類の具体例としては塩化メチレン、ジクロロエタン、クロロホルム、四塩化炭素などを挙げることができ、脂環式炭化水素類の具体例としてはシクロヘキサン、シクロヘプタンなどを挙げることができる。
そのうちでも、メチルエチルケトンおよびテトラヒドロフランの1種または2種が、シリコーン系マクロモノマーおよび生成したシリコーン系グラフト共重合体の溶解力および取り扱い易さなどの点から、(A)群の有機溶媒として好ましく用いられる。
【0051】
(B)群の有機溶媒として用いる上記した1価アルコールの具体例としては、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、イソプロピルアルコールなどを挙げることができ、多価アルコールの具体例としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレグリコール、グリセリンなどを挙げることができ、グリコールエーテルの具体例としては、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテルなどを挙げることができる。
そのうちでも、エタノールおよびイソプロピルアルコールの1種または2種が、シリコーン系マクロモノマーおよび生成したシリコーン系グラフト共重合体の溶解力および取り扱い易さの点から、(B)群の有機溶媒として好ましく用いられる。
【0052】
特に、本発明のシリコーン系グラフト共重合体の製造に当たっては、重合に用いる各単量体成分および重合により生成した重合体成分が混合溶媒中により安定に溶解して存在する点、各単量体成分の重合率およびシリコーン系グラフト共重合体の収率がより高くなる点、後に重合体を水溶液にする際に除去しやすい点、入手容易性、価格などの点から、メチルエチルケトンとイソプロピルアルコールの混合溶媒、メチルエチルケトンとエタノールの混合溶媒、テトラヒドフランとイソプロピルアルコールの混合溶媒、テトラヒドフランとエタノールの混合溶媒を用いて重合を行うことが好ましく、そのうちでも溶媒の臭気や毒性の問題からメチルエチルケトンとイソプロピルアルコールの混合溶媒またはメチルエチルケトンとエタノールの混合溶媒を用いて重合を行うことがより好ましい。
【0053】
上記した混合溶媒を用いて(メタ)アクリル酸エステル(I)、エチレン性不飽和カルボン酸(II)、重量平均分子量5000〜35000のシリコーン系マクロモノマー(III)および場合により他の重合性単量体(IV)を重合させてシリコーン系グラフト共重合体を製造するに当たっては、重合系に存在する成分の混合溶媒への溶解性が良好に維持されるように、混合溶媒の混合組成[混合溶媒中の(A)群の有機溶媒と(B)群の有機溶媒の含有比率]を、重合の進行と共に変化させながら重合を行うことが、組成分布の整ったシリコーン系グラフト共重合体をより高い重合率および収率でより円滑に製造できる点から好ましい。
その際に、重合反応中の混合溶媒における(A)群の有機溶媒と(B)群の有機溶媒の含有比率は、重合の進行と共に連続的に変化させることがより好ましい。
重合前の単量体成分の溶解に最適な有機溶媒と、重合により生成したシリコーン系グラフト共重合体の溶解に最適な有機溶媒とが一般に異なっているため、重合系に含まれる成分の溶解に好適な混合溶媒の組成が重合反応の進行に伴って連続的に変化させることで、重合反応が効率的に進行する。
【0054】
(A)群の有機溶媒と(B)群の有機溶媒の混合比率(含有比率)を重合の進行に伴って変化させるに当たっては、重合開始時から重合終了時にかけて、[(A)群の有機溶媒]:[(B)群の有機溶媒]の混合比率を質量比で1:5〜5:1の範囲内で連続的に変化させることが好ましく、1:3〜3:1の範囲内で連続的に変化させることがより好ましい。なお、[(A)群の有機溶媒]:[(B)群の有機溶媒」の混合比率が前記範囲を超えるとシリコーン系グラフト共重合体の生産性が低下することがある。
一般的には、混合溶媒中での(B)群の有機溶媒の含有比率を重合の進行に伴って徐々に増加させながら重合を行うことが好ましい。
【0055】
例えば、メチルエチルケトンとイソプロピルアルコールの混合溶媒を使用するか、またはメチルエチルケトンとエタノールの混合溶媒を用いて本発明のシリコーン系グラフト共重合体を製造する場合は、重合開始時におけるメチルエチルケトン:イソプロピルアルコールの質量比またはメチルエチルケトンとエタノールの質量比が2:1〜1:2の範囲内であり、重合終了時におけるメチルエチルケトン:イソプロピルアルコールの質量比またはメチルエチルケトンとエタノールの質量比が1:1〜1:3の範囲内であるようにして、混合溶媒の混合組成を連続的に変化させながら重合を行うと、組成分布の整ったシリコーン系グラフト共重合体をより高い重合率および収率でより円滑に製造することができる。
【0056】
本発明のシリコーン系グラフト共重合体の製造に当たっては、幅広い単量体に適用可能で、かつ重合操作および分子量の調整が容易なことから、ラジカル重合開始剤を用いたラジカル重合が好ましく採用される。
ラジカル重合開始剤の種類は特に制限されないが、シリコーン系グラフト共重合体の分子量の制御が容易である点、分解温度が低く取り扱い性に優れる点から、アゾ系重合開始剤および有機過酸化物系重合開始剤が好ましく用いられ、特にアゾ系重合開始剤がより好ましく用いられる。本発明で好ましく用いられるアゾ系重合開始剤の具体例としては、シアノ系のアゾビスイソブチロニトリル、アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、非シアノ系のジメチル−2,2’−アゾビスイソブチレートなどを挙げることができる。また、本発明で好ましく用いられる有機過酸化物系重合開始剤の具体例としては、パーオキシケタール、ハイドロパーオキサイド、ジアルキルパーオキサイド、ジアシルパーオキサイド、パーオキシジカーボネート、パーオキシエステルなどを挙げることができる。
ラジカル重合開始剤の使用量は、重合に使用する全単量体の総質量に対して、0.1〜15質量%であることが好ましく、0.3〜10質量%であることがより好ましい。
【0057】
また、ポリエチレンオキサイド及び/又はポリジメチルシロキサンの重合体骨格を有するアゾ系のマクロアゾ開始剤の1種以上を用いることも可能である。具体的には、ポリエチレンオキサイド単位を有するマクロアゾ開始剤としては、VPE−0201、VPE−0401、VPE−0601(和光純薬工業(株)製)が挙げられ、ポリジメチルシロキサン単位を有するマクロアゾ開始剤としては、VPS−0501、VPS−1001(和光純薬工業(株)製)が挙げられる。
これらの開始剤を用いた場合には、それぞれポリエチレンオキサイド、ポリジメチルシロキサン骨格を有するブロック共重合体を得ることができる。これらのブロック単位はそれぞれ本発明で用いる(メタ)アクリル酸エステル(I)およびシリコーン系マクロモノマー(III)と同様な効果が発現できるため、本発明の趣旨に合わせそれらマクロアゾ開始剤と(メタ)アクリル酸エステル(I)およびシリコーン系マクロモノマー(III)の使用量を調整すればよい。
【0058】
また、本発明では、シリコーン系グラフト共重合体の分子量を調整するために、必要に応じて連鎖移動剤を適量添加して重合を行ってもよい。本発明で使用し得る連鎖移動剤の具体例としては、メルカプト酢酸、メルカプトプロピオン酸、2−プロパンチオール、2−メルカプタンエタノール、チオフェノール、ドデシルメルカプタン、チオグリセロールなどを挙げることができ、これらの1種または2種以上を用いることができる。
【0059】
シリコーン系グラフト共重合体を製造する際の重合温度は、40〜180℃が好ましく、50〜150℃がより好ましい。重合温度が低過ぎると共重合率の低下、重合開始剤の残存などが生じやすく、一方重合温度が高すぎると、(メタ)アクリル酸エステル(I)の熱分解、生成したシリコーン系グラフト共重合体の熱分解などが生ずる恐れがある。
重合時間は、一般に3〜25時間程度が好ましく、3〜12時間程度がより好ましい。
【0060】
上記の製造工程によって、重量平均分子量が一般に6000〜40000の範囲にある本発明のシリコーン系グラフト共重合体を得ることができる。
上記の製造方法で得られるシリコーン系グラフト共重合体では、シリコーン系グラフト共重合体中に存在するカルボキシル基は、中和されていないカルボキシル基のままの状態になっている。
【0061】
上記で得られたシリコーン系グラフト共重合体中に存在するカルボキシル基の一部または全部を塩基によって中和することによって、水溶化することができる。
シリコーン系グラフト共重合体中のカルボキシル基を塩基で中和してシリコーン系グラフト共重合体を水溶化する際の中和の程度は、上記したように、シリコーン系グラフト共重合体が有するカルボキシル基の50モル%以上、特に70モル%以上が塩の形態になるような中和度に設定することで、シリコーン系グラフト共重合体を安定に水溶化することができる。
中和に用いる塩基としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウムなどのアルカリ金属水酸化物、アンモニア水、ジエタノールアミン、トリエタノールアミンなどの有機アミン類などを挙げることができ、これらのうちでも水酸化ナトリウムおよび/または水酸化カリウムを用いると重合体水溶液の安定性が優れ、アンモニアや低沸点の有機アミンを用いると、乾燥後の被膜の耐水性が優れる。
【0062】
シリコーン系グラフト共重合体の塩基による中和・水溶化は、生成したシリコーン系グラフト共重合体を重合に用いた有機溶媒中に存在させた状態のままで行ってもよいし、または重合系からシリコーン系グラフト共重合体を分離・回収した後に、回収したシリコーン系グラフト共重合体を水に入れ、そこに塩基を加えて中和・水溶化してもよい。
一般的には、重合により生成したシリコーン系グラフト共重合体を含む有機溶媒溶液中に塩基および水を加えて中和・水溶化した後に有機溶媒の全部または一部を蒸留、減圧蒸留、乾燥などの適当な方法で留去する方法が、水溶化したシリコーン系グラフト共重合体を溶解した水溶液を簡単に得ることができ、且つ均一で安定な重合体水溶液を得ることができる点から好ましく採用される。
【0063】
上記により得られる、シリコーン系グラフト共重合体のカルボキシル基の一部または全部を塩基によって塩の形態に変えて水溶化したシリコーン系グラフト共重合体を溶解含有する重合体水溶液は、水性被覆用重合体組成物(水性塗料・水系インクなどへの添加剤としての利用も含む)として特に有用である。したがって本発明は当該水性被覆用重合体組成物を包含する。本発明のシリコーン系グラフト共重合体を含有する水性被覆用重合体組成物からは、潤滑性、離型性、撥水性、耐擦過性、耐汚染性、耐候性、光沢などの特性に優れる被膜が形成される。
【0064】
水溶化したシリコーン系グラフト共重合体を溶解含有する水性被覆用重合体組成物では、媒体をなす水は、イオン交換やその他の処理によってイオン性成分を除去した脱イオン水や蒸留水であることが、水性被覆用重合体組成物の凝集などを防止して長期にわたって安定に保存することがでる点から好ましい。
また、水溶化したシリコーン系グラフト共重合体を溶解含有する水性被覆用重合体組成物中には必要に応じて水と共に水溶性の有機溶媒を含有させることができる。水溶性の有機溶媒を含有させておくことによって水性被覆用重合体組成物の保存時の乾燥の防止、基材への密着性改善などを図ることができる。
【0065】
水性被覆用重合体組成物中に含有させることのできる水溶性の有機溶媒としては、例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブチルアルコール、sec−ブチルアルコール、tert−ブチルアルコールなどの炭素数1〜14のアルキルアルコール類、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミドなどのアミド類、アセトン、ジアセトンアルコールなどのケトンまたはケトアルコール類、テトラヒドロフラン、ジオキサンなどのエーテル類、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールなどのポリアルキレングリコール類、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、トリエチレングリコール、1,2−ヘキサンジオール、1,2,6−ヘキサントリオール、チオジグリコール、ヘキシレングリコール、ジエチレングリコールなどのアルキレン基が2〜6個の炭素水素を含むアルキレングリコール類、グリセリン、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテルなどの多価アルコールの低級アルキルエーテル類、N−メチル−2−ピロリドン、2−ピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノンなどを挙げることができ、これらの1種または2種以上を水性被覆用重合体組成物中に含有させることができる。
これらの中でも、ジエチレングルコールやその他の多価アルコール、トリエチレングリコールモノメチルエーテルなどの多価アルコールの低級アルキルエーテル類が好ましく用いられる。
【0066】
得られた水溶性重合体はそのまま各種塗料、コーティング用、インク用、あるいはそれらの添加剤として使用することが出来るが、高度な耐候性やインクジェット用等の精密材料用途用には、重合体中の微量不純物の悪影響を取り除く為に、液−液分離洗浄、再沈精製法等により精製したものを適用することも出来る。
【0067】
水溶化したシリコーン系グラフト共重合体を溶解含有する水性被覆用重合体組成物は、水性顔料インキに添加される公知慣用の各種添加剤、シリコーン系水性被覆用重合体組成物において従来から用いられている各種添加剤を必要に応じて含有することができる。
そのような添加剤の例としては、界面活性剤、消泡剤、防腐剤、沈降防止剤、キレート剤、増粘剤、酸化防止剤、染顔料などを挙げることができ、これらの1種または2種以上を含有することができる。
【0068】
本発明のシリコーン系グラフト共重合体を含有する水性被覆用重合体組成物中に含有させ得る前記界面活性剤の具体例としては、脂肪酸塩類、高級アルコール硫酸エステル塩類、液体脂肪油硫酸エステル塩類、アルキルアリルスルホン酸塩類などの陰イオン系界面活性剤、ポリオキシエチレンアルキルエーテル類、ポリオキシエチレンアルキルエステル類、ポリオキシエチレンソルビタンアルキルエステル類、アセチレンアルコール、アセチレングリコールなどの非イオン系界面活性剤、アルキルアミン類、第4級アンモニウム塩などの陽イオン系界面活性剤、アルキルベタイン、アルキルアミンオキサイドなどの両性界面活性剤などを挙げることができる。
【0069】
本発明のシリコーン系グラフト共重合体を含有する水性被覆用重合体組成物は、水性被覆用重合体組成物の安定性、被覆する際の取り扱い性、液のレベリング性などの点から、水性被覆用重合体組成物の全質量に基づいて、水溶化した本発明のシリコーン系グラフト共重合体を0.1〜50質量%の割合で含有することが好ましく、0.5〜30質量%の割合で含有することがより好ましい。
水性被覆用重合体組成物における水溶化したシリコーン系グラフト共重合体の含有割合が低すぎると、撥水性、潤滑性、離型性、耐候性、耐擦過性、耐汚染性に優れ、しかも強度や耐久性に優れる被膜を形成することが困難になり、一方水溶化したシリコーン系グラフト共重合体の含有割合が高すぎると、水性被覆用重合体組成物の粘度が高くなり過ぎて被覆時の取り扱い性、レベリング性(均一塗布性)が低下し易くなる。
【0070】
本発明のシリコーン系グラフト共重合体を含有する水性被覆用重合体組成物では、水の含有割合は、水性被覆用重合体組成物の全質量に基づいて、10〜97質量%の範囲であることが好ましく、25〜90質量%の範囲であることがより好ましく、40〜80質量%の範囲であることが更に好ましい。
また、本発明のシリコーン系グラフト共重合体を含有する水性被覆用重合体組成物中に水と共に水溶性の有機溶媒を含有させる場合は、水溶性の有機溶媒の含有割合は、水性被覆用重合体組成物の全質量に基づいて、50質量%以下の範囲であることが好ましく、40質量%以下の範囲であることがより好ましく、30質量%以下の範囲であることが更に好ましい。
【0071】
本発明のシリコーン系グラフト共重合体を含有する水性被覆用重合体組成物のpHは4〜11の範囲であることが好ましく、5〜10の範囲であることがより好ましい。水性被覆用重合体組成物のpHが5以下だと重合体中のカルボキシル基のイオン化率(塩になっている割合)が不足して水溶性が保てなくなり、pHが10を超えると重合体のアルカリ加水分解が促進される。
水性被覆用重合体組成物のpHの調整は、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリ金属水酸化物やその他の無機アルカリ剤、ジメチルエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミンなどの有機アミン類、クエン酸、酒石酸などの有機酸、塩酸、リン酸などの無機酸を用いて行うことができる。
【0072】
また、本発明のシリコーン系グラフト共重合体を含有する水性被覆用重合体組成物は、各種水系架橋剤と組み合わせて使用することができる。使用できる架橋剤としては特に制限されないが、一般にメラミン系架橋剤、オキサゾリン系架橋剤、ブロックイソシアネート架橋剤、エポキシ架橋剤、多価金属架橋剤などが用いられる。
【0073】
本発明のシリコーン系グラフト共重合体を含有する水性被覆用重合体組成物は、その優れた被膜の潤滑性、離型性、撥水性、耐擦過性、耐汚染性、耐候性、光沢などの特性を利用して、各種の材料、例えば、布帛類、紙類、合成樹脂、ゴム、木材、金属、セラミック、前記した材料の1種または2種を用いて形成されている各種製品や半製品、例えば衣類、コート紙などを被覆するための被覆用組成物として有効に使用することができる。
【0074】
本発明のシリコーン系グラフト共重合体を含有する水性被覆用重合体組成物を用いて被覆処理を行う際の被覆方法および被覆装置は特に制限されず、水性被覆用重合体組成物を用いる被覆技術において従来から採用されている被覆方法および被覆装置を用いて実施することができる。例えば、本発明のシリコーン系グラフト共重合体を含有する水性被覆用重合体組成物を用いて、ローラー塗布、スプレー塗布、流延塗布、ブレード塗布、ハケ塗り、浸漬、インクジェットによる塗布などの被覆方式(塗布方式)を用いて被覆することができる。
本発明のシリコーン系グラフト共重合体を含有する水性被覆用重合体組成物は、各種材料または製品や半製品などを被覆した後、常温で乾燥を行っても十分な特性を発揮するが、60℃以上、特に100℃以上で加熱乾燥して、水性被覆用重合体組成物中の水および水溶性の有機溶媒を除去することにより、潤滑性、離型性、撥水性、耐擦過性、耐汚染性、耐候性、光沢などの特性により優れる被膜を形成させることができる。
被膜の厚さは特に制限されず、水性被覆用重合体組成物を被覆する材料の種類、用途、形状などに応じて調整することができる
【実施例】
【0075】
以下に実施例などにより本発明について具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
[1]シリコーン系グラフト共重合体およびそれを含む水性被覆用重合体組成物の製造:
下記手順に従って実施例、比較例に示される水性被覆用重合体組成物を製造した。
【0076】
《実施例1》
(1)シリコーン系グラフト共重合体の製造:
攪拌機、滴下ロート、還流冷却器、窒素ガス導入管および温度計を備えたガラス製フラスコに、単量体として、メトキシジエチレングリコールメタクリレート[新中村化学(株)製「NKエステル M−20G」(商品名)、(メタ)アクリル酸エステル(I)に相当]35g、メタクリル酸15g、シリコーン系マクロモノマー(A)[信越化学工業(株)製「X−22−2426」、重量平均分子量=12,000、片末端メタクリロイル変性ポリジメチルシロキサン]25g、メタクリル酸メチル25g、連鎖移動剤としてドデシルメルカプタン1.8g、重合溶媒としてメチルエチルケトン80gおよびイソプロピルアルコール80gの混合溶液を入れて80℃に加熱し、そこにイソプロピルアルコール80gにアゾビス−2−メチロブチルニトリル(ABN−E)1.5gを溶解させた重合開始剤溶液を3時間かけて添加して、そのまま80℃で合計7時間重合させて、シリコーン系グラフト共重合体溶液を製造した。この重合工程では、混合溶媒におけるメチルエチルケトン:イソプロピルアルコールの含有比率(質量比)を、重合開始時の50:50(80:80=1:1)から重合開始3時間後の33.3:66.7(80:160=1:2)まで徐々に変化させた。
これにより得られたシリコーン系グラフト共重合体の有機溶媒溶液の固形分は30質量%であった。
また、これにより得られたシリコーン系グラフト共重合体の有機溶媒溶液の外観を下記の方法で評価すると共に、当該シリコーン系グラフト共重合体の有機溶媒溶液に含まれているシリコーン系グラフト共重合体の酸価、分子量(重量平均分子量および数平均分子量)および分子量分布を方法で求めたところ、下記の表1に示すとおりであった。
【0077】
(2)水性被覆用重合体組成物の調製:
上記(1)で得られたシリコーン系グラフト共重合体の有機溶媒溶液100gに、中和塩基としてシリコーン系グラフト共重合体中のカルボキシル基に対して90モル%当量の水酸化カリウム(実施例1においては2.7g)をイオン交換水(実施例1においては51.3g)で5%に希釈した水溶液を投入して中和した(中和時の固形分濃度30質量%)後、減圧下で重合に用いた有機溶媒を留去した。これを上記の中和剤でpH8.0に調整した上で、イオン交換水を加えて濃度を調整して、シリコーン系グラフト共重合体の含有率が25質量%のシリコーン系グラフト共重合体水溶液を製造した。この水溶液をポアサイズが5.0μmのメンブランフィルターを用いて濾過したものをシリコーン系グラフト共重合体を含有する水性被覆用重合体組成物(水酸化カリウム中和物)として用い、下記の方法で性能評価を行なった(水性被覆用重合体組成物の一般的な性能評価およびインクジェット吐出型コーティング剤の性能評価)。
また、水酸化カリウムの代わりにジメチルエタノールアミン(実施例1において4.3g)を用い、それ以外は上記と同様にして水性被覆用重合体組成物(ジメチルエタノールアミン中和物)を調製して、下記の方法で性能評価を行なった(金属缶用コーティング剤の性能評価)。
【0078】
《実施例2〜5》
(1) 実施例1の(1)のシリコーン系グラフト共重合体の重合工程において、単量体として下記の表1に記載したものを、表1に記載した割合で用いた以外は実施例1の(1)と同様にしてシリコーン系グラフト共重合体の有機溶媒溶液を製造した。これにより得られたシリコーン系グラフト共重合体の有機溶媒溶液の外観を下記の方法で評価すると共に、当該シリコーン系グラフト共重合体の有機溶媒溶液に含まれているシリコーン系グラフト共重合体の酸価、分子量(重量平均分子量および数平均分子量)および分子量分布を方法で求めたところ、下記の表1に示すとおりであった。
(2) 上記(1)で得られたシリコーン系グラフト共重合体の有機溶媒溶液を用いて、実施例1の(2)と同様にしてシリコーン系グラフト共重合体を含有する水性被覆用重合体組成物(固形分25質量%、pH8.0)を製造して、下記の方法でその性能評価を行なった。その結果を下記の表1に示す。
【0079】
《実施例6》
(1) 実施例1の(1)のシリコーン系グラフト共重合体の重合工程において、重合開始剤溶液としてメチルエチルケトン40gおよびイソプロピルアルコール40gの混合溶媒にアゾビス−2−メチロブチルニトリル(ABN−E)1.5gを溶解させたものを用いた以外は実施例1の(1)と同様にしてシリコーン系グラフト共重合体の有機溶媒溶液を製造した。これにより得られたシリコーン系グラフト共重合体の有機溶媒溶液の外観を下記の方法で評価すると共に、当該シリコーン系グラフト共重合体の有機溶媒溶液に含まれているシリコーン系グラフト共重合体の酸価、分子量(重量平均分子量および数平均分子量)および分子量分布を方法で求めたところ、下記の表1に示すとおりであった。
(2) 上記(1)で得られたシリコーン系グラフト共重合体の有機溶媒溶液を用いて、実施例1の(2)と同様にしてシリコーン系グラフト共重合体を含有する水性被覆用重合体組成物(固形分25質量%、pH8.0)を製造して、下記の方法でその性能評価を行なった。その結果を下記の表1に示す。
【0080】
《実施例7》
(1) 実施例1の(1)のシリコーン系グラフト共重合体の重合工程において、重合開始剤溶液としてメチルエチルケトン80gにアゾビス−2−メチロブチルニトリル(ABN−E)1.5gを溶解させたものを用いた以外は実施例1の(1)と同様にしてシリコーン系グラフト共重合体の有機溶媒溶液を製造した。これにより得られたシリコーン系グラフト共重合体の有機溶媒溶液の外観を下記の方法で評価すると共に、当該シリコーン系グラフト共重合体の有機溶媒溶液に含まれているシリコーン系グラフト共重合体の酸価、分子量(重量平均分子量および数平均分子量)および分子量分布を方法で求めたところ、下記の表1に示すとおりであった。
(2) 上記(1)で得られたシリコーン系グラフト共重合体の有機溶媒溶液を用いて、実施例1の(2)と同様にしてシリコーン系グラフト共重合体を含有する水性被覆用重合体組成物(固形分25質量%、pH8.0)を製造して、下記の方法でその性能評価を行なった。その結果を下記の表1に示す。
【0081】
《実施例8〜14》
(1) 実施例1の(1)のシリコーン系グラフト共重合体の重合工程において、単量体として下記の表2に記載したものを、表2に記載した割合で用いた以外は実施例1の(1)と同様にしてシリコーン系グラフト共重合体の有機溶媒溶液を製造した。これにより得られたシリコーン系グラフト共重合体の有機溶媒溶液の外観を下記の方法で評価すると共に、当該シリコーン系グラフト共重合体の有機溶媒溶液に含まれているシリコーン系グラフト共重合体の酸価、分子量(重量平均分子量および数平均分子量)および分子量分布を方法で求めたところ、下記の表2に示すとおりであった。
(2) 上記(1)で得られたシリコーン系グラフト共重合体の有機溶媒溶液を用いて、実施例1の(2)と同様にしてシリコーン系グラフト共重合体を含有する水性被覆用重合体組成物(固形分25質量%、pH8.0)を製造して、下記の方法でその性能評価を行なった。その結果を下記の表2に示す。
【0082】
《実施例15〜20》
(1) 実施例1の(1)のシリコーン系グラフト共重合体の重合工程において、単量体として下記の表3に記載したものを、表3に記載した割合で用いた以外は実施例1の(1)と同様にしてシリコーン系グラフト共重合体の有機溶媒溶液を製造した。これにより得られたシリコーン系グラフト共重合体の有機溶媒溶液の外観を下記の方法で評価すると共に、当該シリコーン系グラフト共重合体の有機溶媒溶液に含まれているシリコーン系グラフト共重合体の酸価、分子量(重量平均分子量および数平均分子量)および分子量分布を方法で求めたところ、下記の表3に示すとおりであった。
(2) 上記(1)で得られたシリコーン系グラフト共重合体の有機溶媒溶液を用いて、実施例1の(2)と同様にしてシリコーン系グラフト共重合体を含有する水性被覆用重合体組成物(固形分25質量%、pH8.0)を製造して、下記の方法でその性能評価を行なった。その結果を下記の表3に示す。
【0083】
《実施例21〜23》
(1) 実施例1の(1)のシリコーン系グラフト共重合体の重合工程において、連鎖移動剤として、ドデシルメルカプタン1.8gの代わりに、ドデシルメルカプタン0.2g(実施例21)、ドデシルメルカプタン3.0g(実施例22)または3−メルカプトプロピオン酸0.9g(実施例23)を用いた以外は、実施例1の(1)と同様にしてシリコーン系グラフト共重合体の有機溶媒溶液を製造した。これにより得られたシリコーン系グラフト共重合体の有機溶媒溶液の外観を下記の方法で評価すると共に、当該シリコーン系グラフト共重合体の有機溶媒溶液に含まれているシリコーン系グラフト共重合体の酸価、分子量(重量平均分子量および数平均分子量)および分子量分布を方法で求めたところ、下記の表4に示すとおりであった。
(2) 上記(1)で得られたシリコーン系グラフト共重合体の有機溶媒溶液を用いて、実施例1の(2)と同様にしてシリコーン系グラフト共重合体を含有する水性被覆用重合体組成物(固形分25質量%、pH8.0)を製造して、下記の方法でその性能評価を行なった。その結果を下記の表4に示す。
【0084】
《実施例24》
(1) 実施例1の(1)のシリコーン系グラフト共重合体の重合工程において、重合溶媒としてイソプロピルアルコール160gを単独で用いた以外は実施例1の(1)と同様にしてシリコーン系グラフト共重合体の有機溶媒溶液を製造した。これにより得られたシリコーン系グラフト共重合体の有機溶媒溶液の外観を下記の方法で評価すると共に、当該シリコーン系グラフト共重合体の有機溶媒溶液に含まれているシリコーン系グラフト共重合体の酸価、分子量(重量平均分子量および数平均分子量)および分子量分布を方法で求めたところ、下記の表4に示すとおりであった。
(2) 上記(1)で得られたシリコーン系グラフト共重合体の有機溶媒溶液を用いて、実施例1の(2)と同様にしてシリコーン系グラフト共重合体を含有する水性被覆用重合体組成物(固形分25質量%、pH8.0)を製造して、下記の方法でその性能評価を行なった。その結果を下記の表4に示す。
【0085】
《実施例25》
(1) 実施例1の(1)のシリコーン系グラフト共重合体の重合工程において、重合溶媒としてメチルエチルケトン160gを単独で用い、さらに重合開始剤溶液としてメチルエチルケトン80gにアゾビス−2−メチロブチルニトリル(ABN−E)1.5gを溶解させたものを用いた以外は実施例1の(1)と同様にしてシリコーン系グラフト共重合体の有機溶媒溶液を製造した。これにより得られたシリコーン系グラフト共重合体の有機溶媒溶液の外観を下記の方法で評価すると共に、当該シリコーン系グラフト共重合体の有機溶媒溶液に含まれているシリコーン系グラフト共重合体の酸価、分子量(重量平均分子量および数平均分子量)および分子量分布を方法で求めたところ、下記の表4に示すとおりであった。
(2) 上記(1)で得られたシリコーン系グラフト共重合体の有機溶媒溶液を用いて、実施例1の(2)と同様にしてシリコーン系グラフト共重合体を含有する水性被覆用重合体組成物(固形分25質量%、pH8.0)を製造して、下記の方法でその性能評価を行なった。その結果を下記の表4に示す。
【0086】
《実施例26》
実施例1の(2)の水性被覆用重合体組成物の調製工程において、シリコーン系グラフト共重合体の有機溶媒溶液に中和塩基を加える前に、重合で用いた有機溶媒のうち、33g(溶媒全量のうち47質量%)を減圧下で留去し、その後中和塩基を加えた(中和時の固形分濃度45質量%)以外は実施例1の(2)と同様にして、シリコーン系グラフト共重合体を含有する水性被覆用重合体組成物(固形分25質量%、pH8.0)を製造し、下記の方法でその性能評価を行なった。その結果を下記の表4に示す。
【0087】
《比較例1〜6》
(1) 実施例1の(1)のシリコーン系グラフト共重合体の重合工程において、単量体として下記の表5に記載したものを、表5に記載した割合で用いた以外は実施例1の(1)と同様にしてシリコーン系グラフト共重合体の有機溶媒溶液を製造した。これにより得られたシリコーン系グラフト共重合体の有機溶媒溶液の外観を下記の方法で評価すると共に、当該シリコーン系グラフト共重合体の有機溶媒溶液に含まれているシリコーン系グラフト共重合体の酸価、分子量(重量平均分子量および数平均分子量)および分子量分布を方法で求めたところ、下記の表5に示すとおりであった。
(2) 上記(1)で得られたシリコーン系グラフト共重合体の有機溶媒溶液を用いて、実施例1の(2)と同様にしてシリコーン系グラフト共重合体を含有する水性被覆用重合体組成物(固形分25質量%、pH8.0)を製造して、下記の方法でその性能評価を行なった。その結果を下記の表5に示す。
【0088】
《比較例7〜10》
(1) 実施例1の(1)のシリコーン系グラフト共重合体の重合工程において、シリコーン系マクロモノマーを用いずに、下記の表6に記載した単量体および連鎖移動剤を表6に記載した割合で用い、重合溶剤としてイソプロピルアルコール160gを単独で用い、さらに重合開始剤溶液としてイソプロピルアルコール80gにアゾビス−2−メチロブチルニトリル(ABN−E)1.5gを溶解させたものを用いて、実施例1の(1)と同様にして非シリコーン系共重合体の有機溶媒溶液を製造した。これにより得られた非シリコーン系共重合体の有機溶媒溶液の外観を下記の方法で評価すると共に、当該共重合体の有機溶媒溶液に含まれている共重合体の酸価、分子量(重量平均分子量および数平均分子量)および分子量分布を方法で求めたところ、下記の表6に示すとおりであった。
(2) 上記(1)で得られた非シリコーン系共重合体の有機溶媒溶液を用いて、実施例1の(2)と同様にして共重合体を含有する水性被覆用重合体組成物(固形分25質量%、pH8.0)を製造して、下記の方法でその性能評価を行なった。その結果を下記の表6に示す。
【0089】
上記の実施例1〜26および比較例1〜6で得られたシリコーン系グラフト共重合体の有機溶媒溶液並びに比較例7〜10で得られた非シリコーン系共重合体の有機溶媒溶液の外観の評価、当該有機溶媒溶液に含まれているシリコーン系グラフト共重合体または非シリコーン系共重合体の酸価および分子量の測定、上記の実施例1〜26および比較例1〜10で得られた水性被覆用重合体組成物の外観および安定性、当該水性被覆用組成物をコーティング剤として用いた際の性能の評価は以下の方法で行なった。
【0090】
(1)シリコーン系グラフト共重合体または非シリコーン系共重合体の有機溶媒溶液の外観の評価:
シリコーン系グラフト共重合体または非シリコーン系共重合体の有機溶媒溶液の外観を、下記基準に従って目視により判定して、重合安定性の指標とした。
・透明:共重合体の有機溶媒溶液が透明である。
・白色:共重合体の有機溶媒溶液が透明感のある白色を呈している。
・白濁:共重合体の有機溶媒溶液が透明感のない白色を呈してしている(白濁)。
・沈殿物発生:共重合体の有機溶媒溶液中に沈殿物が確認される。
【0091】
(2)シリコーン系グラフト共重合体または非シリコーン系共重合体の酸価:
シリコーン系グラフト共重合体または非シリコーン系共重合体の有機溶媒溶液を0.05MのKOH/エタノール溶液で滴定し、共重合体体固形分当りの酸価[mgKOH/g(重合体固形分)]を算出した。
【0092】
(3)シリコーン系グラフト共重合体または非シリコーン系共重合体の数平均分子量(Mn)と重量平均分子量(Mw)および分子量分布(Mw/Mn):
以下の例で用いたシリコーン系マクロモノマー、実施例および比較例で得られたシリコーン系グラフト共重合体または非シリコーン系共重合体をテトラヒドロフラン(THF)に溶解して濃度0.2質量%の溶液を調製した後、当該溶液100μLを、カラム[東ソー(株)製「TSK−GEL MULTIPORE HXL−M」(4本)]に注入し、カラム温度40℃にて、溶離液(THF)を流速1.0mL/分でカラムに通して、カラムに吸着した成分を溶離させるゲル浸透クロマトグラフ(GPC)法を採用した。
数平均分子量(Mn)と重量平均分子量(Mw)は、分子量が既知のポリスチレンを基準物質として用いて予め作成しておいた検量線から算出した。分子量分布(Mw/Mn)は、前記で得られた重量平均分子量(Mw)を数平均分子量(Mn)で除して求めた。
【0093】
(4)水性被覆用組成物(水酸化カリウム中和物)(シリコーン系グラフト共重合体または非シリコーン系共重合体の水溶液)の外観:
水性被覆用組成物(シリコーン系グラフト共重合体または非シリコーン系共重合体の水溶液)の外観を下記基準に従って目視により判定した。
・透明:水性被覆用組成物(水溶液)が透明である。
・白色:水性被覆用組成物(水溶液)が透明感のある白色を呈している。
・白濁:水性被覆用組成物(水溶液)が透明感のない白色を呈してしている(白濁)。
・沈殿物発生:水性被覆用組成物(水溶液)中に沈殿物が確認される。
【0094】
(5)水性被覆用組成物(水酸化カリウム中和物)(シリコーン系グラフト共重合体または非シリコーン系共重合体の水溶液)の保存安定性:
以下の実施例および比較例で調製した水性被覆用組成物(シリコーン系グラフト共重合体または非シリコーン系共重合体の水溶液)を、温度60℃で3ヶ月保存した後に、目視にて液の状態を観察して、以下の評価基準にしたがって保存安定性を評価した。
◎:試験前後で水性被覆用組成物(水溶液)の透明性および色にほとんど変化がなく、液の二層分離や凝集物も生じておらず、保存安定性が極めて良好である。
○:試験前後で水性被覆用組成物(水溶液)の透明性の悪化および/または着色がやや確認されるが、液の二層分離や凝集物が生じておらず、保存安定性がかなり良好である。
△:水性被覆用組成物(水溶液)中に、微小な凝集物の発生または液の二層分離が僅かながら確認され、保存安定性がやや劣っている。
×:水性被覆用組成物(水溶液)中に、多くの凝集物の発生および/または液の激しい二層分離が確認され、保存安定性に大きく劣っている。
【0095】
[2]水性被覆用重合体組成物の性能評価
実施例1〜26および比較例1〜10で得られた水性被覆用重合体組成物(シリコーン系グラフト共重合体または非シリコーン系共重合体の水溶液)を用いて、金属缶用コーティング剤およびインクジェット吐出型コーティング剤を調製し、それらの性能を下記の方法で評価することで、水性被覆用重合体組成物の性能評価を行なった。
【0096】
(1)金属缶用コーティング剤の調製およびその性能評価:
(i)金属缶用コーティング剤の調製および金属缶へのコーティング:
(a) 攪拌機、滴下ロート、還流冷却器、窒素ガス導入管および温度計を備えたガラス製フラスコに、メタクリル酸メチル10g、アクリル酸エチル10g、アクリル酸ブチル40g、スチレン20g、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル10g、アクリル酸10g、イソプロピルアルコール50gおよびブチルセロソルブ50gを入れて80℃に加熱し、そこに2,2−アゾビスイソブチロニトリル0.5g添加してそのまま80℃で合計4時間重合させて、酸価80mgKOH/g樹脂の共重合体溶液を製造した。得られた共重合体溶液に、ジメチルエタノールアミンの6%水溶液100gを徐々に攪拌しながら加えた後、減圧下温度50℃でイソプロパノールを留去して、固形分40質量%、pH7.8の水性アクリル樹脂溶液を調製した。
(b) 上記(a)で得られた水性アクリル樹脂溶液(固形分40質量%、pH7.8)100質量部に対し、実施例1〜26および比較例1〜10で得られたそれぞれの水性被覆用重合体組成物(ジメチルエタノールアミン中和物)(シリコーン系グラフト共重合体または非シリコーン系共重合体の水溶液、固形分25質量%、pH8.0)の3質量部を加え、さらにジメチルイミノ型ベンゾグアナミン樹脂[三井サイテック(株)製「マイコート106」]20質量部を添加し、さらにイオン交換水を加えて固形分30質量%になるように調整して、金属缶用水性コーティング剤を得た。
(c) 上記(b)で得られた金属缶用水性コーティング剤を、アルミ板上にバーコーターで膜圧5〜6μmとなるように塗布し、温度200℃で10分間加熱硬化させて、塗装されたアルミ板(試験片)を作製し、当該試験片を用いて塗膜の各種性能を以下の方法で評価した。
【0097】
(ii)塗膜のレベリング性:
上記(i)の(c)で作製した試験片(塗装されたアルミ板)の塗膜面を目視によって観察して、以下の基準に従って塗膜のレベリング性を評価した。
○:バーコーターの塗りスジが確認されず、レベリング性に優れている。
△:バーコーターの塗りスジが僅かに確認され、レベリング性にやや劣る。
×:バーコーターの塗りスジが明らかに確認され、レベリング性に劣る。
【0098】
(iii)塗膜の表面動摩擦係数:
上記(i)の(c)で作製した試験片(塗装されたアルミ板)の塗膜綿の表面動摩擦係数を、表面性測定機[新東洋科学(株)製「HEIDON−14」]を使用して、荷重50g、移動速度1000mm/minの条件で測定した。表面動摩擦係数が0.1より小さな値は測定値の再現性に乏しいため「0.1以下」とする。
【0099】
(iv)塗膜の耐擦過性:
上記(i)の(c)で作製した試験片(塗装されたアルミ板)を2枚使用し、試験片における塗膜面同士を接触させ、5kgの荷重を負荷した状態で擦り合わせを行ない、その際の塗膜の傷つきの程度を目視により観察して、以下の基準に従って評価した。
○:塗膜表面に傷が認められない。
△:塗膜表面にある程度の傷が認められる
×:塗膜が剥がれた部分がある。
【0100】
(v)塗膜の耐油性:
上記(i)の(c)で作製した試験片(塗装されたアルミ板)上の塗膜面に、スポイトで大豆油を1滴滴下して1時間放置した後、拭き取って、拭き取り後の塗膜の光沢ムラを目視により観察して、以下の基準に従って評価した。
○:光沢ムラが確認されない。
△:光沢ムラがある程度確認される。
×:光沢ムラが明らかに確認される。
【0101】
(2)インクジェット吐出型コーティング剤の調製およびその性能評価:
(i)インクジェット吐出型コーティング剤および紙への印字:
(a) 市販のインクジェット用顔料インク[キヤノン(株)製「BCI−9BK」]100質量部に対し、実施例1〜26および比較例1〜10で得られたそれぞれの水性被覆用重合体組成物(水酸化カリウム中和物)(シリコーン系グラフト共重合体または非シリコーン系共重合体の水溶液、固形分25質量%、pH8.0)20質量部を加えた後、それを5.0μmのメンブランフィルターを用いて濾過し、インクジェット吐出型コーティング剤(印刷用インク)を調製した。
(b) 上記(a)で得られたインクジェット吐出型コーティング剤(印刷用インク)を、市販のプリンタ[キヤノン(株)製「PIXUS iP4200」]のインクカートリッジに充填し、市販の光沢紙[キヤノン(株)製「フォト光沢紙 GP−301」]にベタ印字を行い、印字時のインクジェット吐出適性を評価すると共に、印字物を室温で24時間乾燥させたものを用いて印字物の各種物性の評価を行なった。
【0102】
(ii)インクジェット吐出適性:
上記(i)の(a)で調製したインクジェット吐出型コーティング剤(印刷用インク)を用いて、上記(i)の(b)の方法で、光沢紙に10枚連続でベタ印字を行い、各紙の印字のカスレを目視により観察して、以下の基準に従って評価した。
◎:10枚の印字物の全てで印字のカスレがなく、インクジェットの吐出性に優れる。
○:10枚の印字物のうちの3枚未満で印字のカスレが僅かにあり、インクジェットの吐出性にやや劣る。
△:10枚の印字物のうちの全てで印字のカスレがかなりあり、インクジェットの吐出性に劣る。
×:インクジェットによる吐出が出来ない。
【0103】
(iii)印字物の表面動摩擦係数:
上記(i)の(b)で得られた印字物の印字部分の表面動摩擦係数を、表面性測定機[新東洋科学(株)製「HEIDON−14」]を使用して、荷重50g、移動速度1000mm/minの条件で測定した。
【0104】
(iv)印字物の耐擦過性:
上記(i)の(b)で得られた印字物の印字部分を指で強く擦って、以下の基準に従って耐擦過性を評価した。
◎:印字の剥がれがほとんどなく、耐擦過性に極めて優れる。
○:印字の剥がれが僅かであり、耐擦過性に優れる。
△:印字の剥がれがある程度認められ、耐擦過性にやや劣る。
×:印字の剥がれが激しくて、基材である紙が露出しており、耐擦過性に劣る。
【0105】
(v)印字物の光沢:
水性被覆用重合体組成物を添加していない通常の顔料インク[キャノン社製「BCI−9BK」]を用いて上記したのと同じプリンタを使用して印刷した印字物を対照として用いて、下記の基準にしたがって光沢を評価した。
○:対照と比較して同等以上の光沢を維持している。
△:対照と比較して光沢がやや低下している。
×:対照と比較して光沢が大きく低下している。
【0106】
(vi)印字物の耐水性:
上記(i)の(b)で得られた印字物の印字部分上に、水または水性混合溶液(水:グリセリン:ジエチレングリコール:2−ピロリドン=78:5:15:2の質量比からなる混合溶液)のそれぞれを、スポイトを用いて1滴滴下して3分間放置した後、拭き取って、拭き取り後のインクの滲み(色ムラ)を以下の基準に基づき評価した。
◎:水および水性混合溶液のいずれでも滲みがなく、耐水性に極めて優れる。
○:水性混合溶液で僅かに滲みがあるが、水では滲みがなく、耐水性に優れる。
△:水および水性混合溶液の両方である程度の滲みがあり、耐水性にやや劣る。
×:水および水性混合溶液の両方で明らかな滲みがあり、耐水性に劣る。
【0107】
(vii)印字物の耐候性:
上記(i)の(b)で得られた印字物を、メタリングウェザーメーター[ダイプラ・ウィンテス(株)製「DAIPLA METAL WEATHER KU−R5NCI−A」]を使用して、水を用いずに、100時間の耐候性試験を行った後、その印字物に対して上記(iv)と同様にして耐擦過性試験を行なって、上記(iv)で行なった耐擦過性試験(メタリングウェザーメーターに曝露する前の耐擦過性試験)の結果と比べて、以下の基準にしたがって耐候性を評価した。
○:耐候性試験後で耐擦過性に差がほとんどなく、耐候性に優れる。
△:耐候性試験後に耐擦過性がやや悪化しており、耐候性にやや劣る。
×:耐候性試験後に耐擦過性が大きく悪化しており、耐候性に劣る。
【0108】
ここで、上記実施例1〜26および比較例1〜10で用いた単量体、連鎖移動剤および有機溶媒の種類並びに略号は以下のとおりである。
【0109】
(メタ)アクリル酸エステル(I)
・(メタ)アクリル酸エステル(I−a):
上記一般式(I)で、R1=メチル基、R2=エチレン基、n=2、R3=メチル基であるメタクリル酸エステル[日本油脂(株)製「ブレンマーPME−100」]
・(メタ)アクリル酸エステル(I−b):
上記一般式(I)で、R1=メチル基、R2=エチレン基、n=2、R3=水素であるメタクリル酸エステル[日本油脂(株)製「ブレンマーPE−90」]
・(メタ)アクリル酸エステル(I−c):
上記一般式(I)で、R1=メチル基、R2=プロピレン基、n≒4〜6、R3=水素であるメタクリル酸エステル[日本油脂(株)製「ブレンマーPP−400」]
・(メタ)アクリル酸エステル(I−d):
上記一般式(I)で、R1=メチル基、R2=エチレン基、n≒23、R3=メチル基であるメタクリル酸エステル[日本油脂(株)製「ブレンマーPME−1000」]
・(メタ)アクリル酸エステル(I−e):
上記一般式(I)で、R1=メチル基、R2=エチレン基、n=1、R3=メチル基であるメタクリル酸エステル[三菱レイヨン(株)製「アクリエステルMT」]
・(メタ)アクリル酸エステル(I−f):
上記一般式(I)で、R1=メチル基、R2=エチレン基とプロピレン基でエチレンオキサイド単位の繰り返し数n≒5、プロピレンオキサイド単位の繰り返し数n≒2、R3=水素であるメタクリル酸エステル[日本油脂(株)製「ブレンマー50PEP−300」]
・(メタ)アクリル酸エステル(I−g):
上記一般式(I)で、R1=メチル基、R2=プロピレン基とブチレン基で、プロピレンオキサイド単位の繰り返し数n≒4、ブチレンオキサイド単位の繰り返し数n≒8、R3=水素であるメタクリル酸エステル[日本油脂(株)製「ブレンマー30PPT−800」]
・(メタ)アクリル酸エステル(I−h):
上記一般式(I)で、R1=メチル基、R2=エチレン基、n≒90、R3=メチル基であるメタクリル酸エステル[日本油脂(株)製「ブレンマーPME−4000」]
・(メタ)アクリル酸エステル(I−i):
上記一般式(I)で、R1=メチル基、R2=エチレン基、n≒4、R3=ラウリル基であるメタクリル酸エステル[日本油脂(株)製「ブレンマーPLE−200」]
【0110】
エチレン性不飽和カルボン酸(II)
・MAA: メタクリル酸
【0111】
シリコーン系マクロモノマー(III)
・シリコーン系マクロモノマー(IIIA):
信越化学工業(株)製「X22−2426」(Mw=12000)
・シリコーン系マクロモノマー(IIIB):
片末端にメタクリロイル機を有し、他方の末端がアルキル基である、Mw20000のジメチルシロキサン系マクロモノマー
・シリコーン系マクロモノマー(IIIC):
東亞合成(株)製「AK−32」(Mw=33000)
・シリコーン系マクロモノマー(IIID):
信越化学工業(株)製「X22−174DX」(Mw=5000)
・シリコーン系マクロモノマー(IIIE):
信越化学工業(株)製「X24−8201」(Mw=2300)
【0112】
他の単量体
・MMA: メタクリル酸メチル
・BMA: メタクリル酸ブチル
・M−5300: 東亞合成(株)製「アロニックスM−5300」(ω−カルボキシポリカプロラクトンモノアクリレート)
・HEMA: 2−ヒドロキシメチルメタクリレート
・St: スチレン
【0113】
連鎖移動剤
・DM: ドデシルメルカプタン
・MP: 3−メルカプトプロピオン酸
【0114】
有機溶媒
・MEK: メチルエチルケトン
・iPA: イソプロピルアルコール
【0115】
【表1】

【0116】
【表2】

【0117】
【表3】

【0118】
【表4】

【0119】
【表5】

【0120】
【表6】

【産業上の利用可能性】
【0121】
本発明のシリコーン系グラフト共重合体は、シリコーン系マクロモノマーに由来するシリコーン系重合体部分を疎水性の枝部とし、親水性の重合性単量体に由来する構造単位を有する重合体を幹部とするグラフト構造を有しているため、枝部をなすシリコーン系重合体によって、優れた撥水性能、潤滑性能、離型性能、耐候性能、耐汚染性能を発揮する。そして、水溶化した当該シリコーン系グラフト共重合体を溶解含有する水性被覆用重合体組成物は、保存安定性に優れており、撥水性、潤滑性、離型性、耐候性、耐汚染性、光沢に優れる被膜を形成するので、本発明のシリコーン系グラフト共重合体およびそれを含む水性被覆用重合体組成物は、水性被覆用重合体組成物として更にはその他の用途に有効に使用することができる。
更に、特定の(A)群の有機溶媒と(B)群の有機溶媒との混合溶媒を用いる本発明の製造方法によって前記したシリコーン系グラフト共重合体を生産性良く円滑に製造することができるため、本発明の方法はシリコーン系グラフト共重合体の製造方法としても有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の一般式(I);

CH2=C(R1)−COO−(R2−O)n−R3 (I)

(式中、R1は水素原子またはメチル基、R2はエチレン基またはプロピレン基、R3は水素原子または炭素数1〜6の1価の炭化水素基を示し、nは1〜25の数である。ただし、n=1のときにR3は1〜6の1価の炭化水素基である。)
で表される(メタ)アクリル酸エステル(I)に由来する構造単位、エチレン性不飽和カルボン酸(II)および/またはその塩に由来する構造単位、並びに重量平均分子量5000〜35000のシリコーン系マクロモノマー(III)に由来する構造単位を有し、前記シリコーン系マクロモノマーに由来するシリコーン系重合体部分が枝部を構成していることを特徴とするシリコーン系グラフト共重合体。
【請求項2】
(メタ)アクリル酸エステル(I)以外の(メタ)アクリル酸エステルに由来する構造単位を更に有する請求項1に記載のシリコーン系グラフト共重合体。
【請求項3】
シリコーン系グラフト共重合体を構成する全構造単位の合計質量に基づいて、(メタ)アクリル酸エステル(I)に由来する構造単位の含有割合が10〜70質量%、エチレン性不飽和カルボン酸(II)および/またはその塩に由来する構造単位の含有割合が5〜30質量%、シリコーン系マクロモノマー(III)に由来する構造単位の含有割合が10〜50質量%および(メタ)アクリル酸エステル(I)以外の(メタ)アクリル酸エステルに由来する構造単位の含有割合が0〜70質量%である請求項1または2に記載のシリコーン系グラフト共重合体。
【請求項4】
重量平均分子量が6000〜40000であり、且つ酸価が40〜200mgKOH/gである請求項1〜3のいずれか1項に記載のシリコーン系グラフト共重合体。
【請求項5】
下記の一般式(I);

CH2=C(R1)−COO−(R2−O)n−R3 (I)

(式中、R1は水素原子またはメチル基、R2はエチレン基またはプロピレン基、R3は水素原子または炭素数1〜6の1価の炭化水素基を示し、nは1〜25の数である。ただし、n=1の場合はR3は1〜6の1価の炭化水素基である。)
で表される(メタ)アクリル酸エステル(I)、エチレン性不飽和カルボン酸(II)および/またはその塩、並びに重量平均分子量5000〜35000のシリコーン系マクロモノマー(III)を、ケトン類、エーテル類、エステル類、芳香族炭化水素類、塩化芳香族炭化水素類、脂肪族炭化水素類、塩化脂肪族炭化水素類および脂環式炭化水素類から選ばれる1種または2種以上の有機溶媒(A)と、1価アルコール、多価アルコールおよびグリコールエーテル類から選ばれる1種または2種以上の有機溶媒(B)とを混合してなる混合溶媒中で共重合することを特徴とする上記請求項1に記載のシリコーン系グラフト共重合体の製造方法。
【請求項6】
(メタ)アクリル酸エステル(I)以外の他の(メタ)アクリル酸エステルを更に共重合させる請求項5に記載のシリコーン系グラフト共重合体の製造方法。
【請求項7】
重合中に混合溶媒の混合組成を変化させながら共重合を行うことを特徴とする請求項5または6に記載のシリコーン系グラフト共重合体の製造方法。
【請求項8】
混合溶媒中での共重合後に重合体の濃度を40質量%以下にした後に塩基を加えてシリコーン系グラフト共重合体中のカルボキシル基の一部または全部を中和して塩の形態にし、しかる後に混合溶媒を留去して水に置換し水溶液とすることを特徴とする請求項5〜7のいずれか1項に記載のシリコーン系グラフト共重合体の製造方法。

【公開番号】特開2009−197042(P2009−197042A)
【公開日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−36877(P2008−36877)
【出願日】平成20年2月19日(2008.2.19)
【出願人】(000003034)東亞合成株式会社 (548)
【Fターム(参考)】