説明

シリンダカバー用反転装置

【課題】エンジンのシリンダカバーを安全にかつ人手を要することなく180°上下に反転させることができるシリンダカバー用反転装置を提供する。
【解決手段】フレーム11には、油圧ジャッキによって上下方向へ位置調節される可動部材を設ける。この可動部材には、回転手段40によって回転させられる回転部材31を設ける。回転部材31には、シリンダカバー2が載置される載置部33を設ける。載置部33には、シリンダカバー2を上下に貫通するロッド挿通孔及びボルト挿通孔に挿通される固定ロッド35a,35b,35cを立設する。シリンダカバー2から上方へ突出した固定ロッド35a,35b,35cの上端部には、固定ナット37を螺合させる。この固定ナット37を締め付けることにより、シリンダカバー2を載置部33に押圧固定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、エンジンのシリンダカバー、特に大型のエンジンのシリンダカバーの上下を反転させるための反転装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、エンジンは、シリンダブロック及びシリンダカバー(シリンダヘッド)を有している。そのようなエンジンの一例を図1に示す。図1において、符号1はシリンダブロックの一部をなすシリンダライナーである。このシリンダライナー1の上面には、シリンダカバー2が載置固定されている。シリンダカバー2には、パイロット燃料インジェクタ等の棒状をなす各種の部材3A〜3Eが設けられており、各部材3A〜3Eは、シリンダーカバー2の上面から上方に向かって起立している。シリンダカバー2の上面には、カバーケース4が固定されている。このカバーケース4により、シリンダーカバー2の上面の大部分及び部材3A〜3Eが覆われている。
【0003】
ところで、シリンダカバー2は、エンジンの定期的なメンテナンス時や故障時には、シリンライナー1から取り外される。そして、シリンダーカバー2の下部、特にシリンダライナー1と対向する下部を検査し、あるいはパッキン等の部品を交換するために、シリンダーカバー2が上下に反転される。つまり、シリンダカバー2は、その下面が上方を向くように180°回転させられる。
【0004】
従来、シリンダカバー2の反転は、チェーンブロック等を用いて行われていた。すなわち、シリンダカバー2の適宜の複数箇所にワイヤを取り付け、このワイヤーをチェーンブロックで持ち上げる。それにより、シリンダーカバー2をシリンダライナー1から上方へ取り外す。その後、シリンダカバー2を床面まで降ろす。このとき、シリンダカバー2を人手によって上下方向へ若干回転させ、シリンダカバー2の下面と一側面との交差部を床面に載置する。そして、ワイヤーを降ろしながら交差部を中心としてシリンダカバー2を回転(横転)させる。シリンダカバー2の側面全体が床面に接したら、ワイヤをシリンダカバー2から取り外し、他の適宜の箇所に取り付ける。その後、ワイヤを持ち上げて、シリンダカバー2の上面と側面との交差部を中心としてシリンダカバー2を回転させつつ持ち上げる。そして、シリンダカバー2の下面が真上を向くまで回転させる。これによってシリンダカバー2の反転が終了する。反転されたシリンダカバー2は、検査等のために、部材3A〜3Eが邪魔にならないように専用の製作された作業面上に降ろされる。
【0005】
なお、下記特許文献1には、シリンダヘッドの反転装置が開示されているが、この反転装置は、この出願の発明に係る反転装置とは構造が全く異なるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000−141148号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
チェーンブロック及びワイヤを用いた反転作業は、人手を必要とする。ところが、大型のエンジンのシリンダカバー2は、大重量であるため、シリンダカバー2がワイヤによって吊り下げられているとはいえ、その作業には多大の労力を有する。しかも、危険性を伴うという問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明は、上記の問題を解決するために、軸線を上下方向に向けた複数の貫通孔を有するシリンダヘッドの上下を反転させるための反転装置であって、フレームと、このフレームに水平な軸線を中心として支持位置と反転位置との間をほぼ180°回転可能に支持された回転部材と、上記フレームに設けられ、上記回転部材を回転させる回転手段とを備え、上記回転部材には、この回転部材が上記支持位置に位置しているときに上記シリンダヘッドがその貫通孔の軸線を上下方向に向けた状態で載置される載置部が設けられ、上記載置部には、上記シリンダヘッドの上記貫通孔にそれぞれ貫通状態で挿通される複数の固定ロッドが立設され、固定ロッドの上記貫通孔から突出した先端部には、上記回転部材が反転位置に回転したときに上記シリンダヘッドを支持する支持部材が設けられ、上記固定ロッドが上記載置部に着脱可能に設けられることと、上記支持部材が上記固定ロッドに着脱可能に設けられることとのいずれか一方が採用されていることを特徴としている。
この場合、上記フレームには、可動部材が上下方向へ位置調節可能に設けられるとともに、この可動部材を上下方向へ移動させる移動手段が設けられ、上記回転部材及び上記回転手段が上記可動部材に設けられていることが望ましい。
上記固定ロッドを上記貫通孔からその軸線方向へ抜き出すことができるよう、上記固定ロッドが上記載置部に上記固定ロッドの軸線方向へ着脱可能に設けられていることが望ましい。
床面に立設され、上記シリンダヘッドが反転されているときに、上記シリンダヘッドの上記貫通孔のうちの上記固定ロッドが挿通されていない他の貫通孔にその上端開口部から挿入される複数の支持ロッドをさらに備え、上記支持ロッドの上下方向の中間部には反転された上記シリンダヘッドの上面に突き当たることによって上記シリンダヘッドを支持する当接が設けられ、上記フレームには、このフレームが上記床面上を走行することができるよう、走行車輪が設けられ、上記フレームには、上記支持ロッドが上記他の貫通孔に挿入可能な位置まで上記反転された上記シリンダヘッドの下側に入り込むことができるよう、走行方向前方側の端部が開放された導入空間が形成されていることが望ましい。
【発明の効果】
【0009】
この発明によれば、作業者がシリンダカバーに直接触れることなくシリンダカバーを反転させることができる。したがって、反転作業に要する労力を軽減することができるとともに、危険性を無くすことができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】図1は、この発明に係るシリンダカバー用反転装置の反転対象たるシリンダカバーを有するエンジンの要部の一部を切り欠いて示す正面図である
【図2】図2は、図1に示すエンジンのシリンダカバーの平面図である。
【図3】図3は、同シリンダカバーの正面図である。
【図4】図4は、同シリンダカバーの側面図である。
【図5】図5は、この発明に係るシリンダカバー用反転装置の一実施の形態を示す正面図である。
【図6】図6は、同実施の形態の平面図である。
【図7】図7は、同実施の形態の一部を切り欠いて示す側面図である。
【図8】図8は、同実施の形態の背面図である。
【図9】図9は、同実施の形態を、支持部材を反転させた状態で示す側面図である。
【図10】図10は、同実施の形態の支持部材にシリンダカバーを載置する直前の状態を示す側面図である。
【図11】図11は、同実施の形態の支持部材にシリンダカバーを載置固定した状態を示す側面図である。
【図12】図12は、同実施の形態の支持部材及びシリンダカバーを反転させた状態を示す側面図である。
【図13】図13は、支持部材及びシリンダカバーが反転された同実施の形態を所定の作業場に移動させた状態で示す側面図である。
【図14】図14は、支持部材及びシリンダカバーを所定の位置まで下方へ移動させてシリンダカバーを作業場に立設された支持ロッドに載置した状態で示す同実施の形態の側面図である。
【図15】図15は、同実施の形態の固定ロッドを反転されたシリンダカバーから下方へ抜き出した状態を示す側面図である。
【図16】図16は、同実施の形態の支持部材を所定距離だけ上方へ移動させた状態を示す側面図である。
【図17】図17は、同実施の形態を作業場から離間移動させた状態を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、この発明を実施するための最良の形態を、図面を参照して説明する。
図5〜図9は、この発明の一実施の形態を示す。この実施の形態のシリンダカバー用反転装置10は、図1に示すエンジンのシリンダカバー2の上下を反転させるためのものである。そこで、まず上下反転対象たるシリンダカバー2についてより詳細に説明する。
【0012】
図2〜図4に示すように、シリンダカバー2は、水平な上面2a及び下面2bを有している。上面2a及び下面2bは、位置決め等のための段差や突出部を有していてもよい。シリンダカバー2には、複数の(この実施の形態では5つの)ボルト挿通孔(貫通孔)2c,2d,2e,2f,2gが形成されている。各ボルト挿通孔2c〜2gは、その軸線を上下方向に向けて配置されており、シリンダカバー2の上面2aから下面2bまで延びている。つまり、シリンダカバー2を上下方向に貫通している。シリンダカバー2の一側面の上端部には、水平方向に突出する突出部2hが形成されている。この突出部2hには、これを上下に貫通するロッド挿通孔(貫通孔)2i,2jが形成されている。各ロッド挿通孔2i,2jには、給排気弁の開閉に用いられるプッシュロッド(いずれも図示せず)が挿通される。シリンダカバー2の上面2aには、複数の(この実施の形態では4つの)ねじ孔2kが形成されている。このねじ孔2kには、カバーケース4を貫通したボルト(図示せず)が螺合されている。そして、ボルトを締め付けることにより、カバーケース4がシリンダカバー2の上面2aに着脱可能に取り付けられている。
【0013】
次に、上記シリンダカバー2を反転させるためのシリンダカバー用反転装置10を説明する。図5〜図9に示すように、反転装置10は、フレーム11を有している。フレーム11は、一対の基材12,12を有している。一対の基材12,12は、断面四角形の中空の角材からなるものであり、水平に、しかも互いに平行に配置されている。一対の基材12,12は、それぞれの中間部より若干後方(図6において右方)に寄った箇所が連結部材13によって連結されている。これにより、一対の基材12,12が一体化され、一体に挙動するようになっている。基材12の前後の両端部には、車輪14がそれぞれ設けられている。これにより、反転装置10が床面F上を走行可能になっている。
【0014】
基材12の連結材13が連結された箇所には、支柱部材15が立設固定されている。支柱部材15,15の上端部間には、上連結部材16が掛け渡されている。この上連結 部材16、上記連結部材13及び上記支柱部15,15により、四角形の枠状体が構成されている。なお、支柱部材15には、反転装置10を移動させる際に作業者が押し引き操作するための取手17が設けられている。なお、車輪14は、モータ等の回転駆動源(図示せず)によって回転させてもよい。
【0015】
二つの支柱部15,15間には、可動部材21がローラ22を介して上下方向へ移動可能には設けられている。この可動部材21と連結部材13との間には、油圧ジャッキ(移動手段)23が設けられている。この油圧ジャッキ23により、可動部材21が上下方向へ移動させられて、その上下方向の位置が適宜に調節される。可動部材21を上下方向へ移動させてその位置を調節するための移動手段としては、油圧ジャッキ23以外の公知のもの、例えば電動ジャッキや手動ジャッキ、あるいは油圧シリンダ等を用いてもよい。
【0016】
可動部材21の前側には、回転部材31が配置されている、回転部材31は、図7に示すように、側面視略L字状をなしており、上下に立設された鉛直部32と、この鉛直部32の下端部から水平方向前方へ延びる載置部33とを有している。鉛直部32は、可動部材21に軸受34を介して回転可能に支持されている。鉛直部32の回転軸線は、基材12と平行に配置されている。つまり、鉛直部32は、前後方向へ水平に延びる回転軸線を中心として回転可能になっている。
【0017】
可動部材21の背面部には、回転手段40が設けられている。回転手段40は、ウォーム歯車機構(図示せず)を内蔵しており、ハンドル41を回すと、ウォームが回転し、ウォームと噛み合う歯車が回転する。この歯車は、鉛直部32に連結されている。したがって、ハンドル41を回すと、回転部材31が回転する。回転手段40は、手動でなく、電動式のものを用いてもよい。また、ウォーム歯車機構に代えて他の回転機構を内蔵したものを用いてもよい。
【0018】
載置部33は、シリンダカバー2を支持するためのものであり、その上面33aにシリンダカバー2が載置される。載置部33は、鉛直部32が回転することにより、少なくとも図7に示す載置位置と図9に示す反転位置との間を180°回転可能である。載置部33が載置位置に位置したときには、その上面33aが鉛直上方を向き、反転位置に位置したときには、上面33aが鉛直下方を向く。
【0019】
載置部33には、複数の(この実施の形態では三つの)固定ロッド35a,35b,35cが上下に立設されている。各固定ロッド35a〜35cの下端部は、載置部33を貫通しており、そこにはナット36がそれぞれ螺合されている。このナット36を締め付けることにより、固定ロッド35a〜35cが載置部33にそれぞれ固定されている。ナット36を固定ロッド35a〜35cから取り外すと、各固定ロッド35a〜35cは、載置部33から上方へ取り外すことができる。勿論、載置部33が反転位置に位置しているときには、各固定ロッド35a〜35cが載置部33から下方へ取り外される。
【0020】
固定ロッド35a,35b,35cは、上方から見たとき、シリンダカバー2のロッド挿通孔2i,2j及びボルト挿通孔2eと同一の位置関係をもって配置されている。したがって、固定ロッド35a,35b,35cは、ロッド挿通孔2i,2j及びボルト挿通孔2eにそれらの下端開口部からそれぞれ挿通することができる。固定ロッド35a〜35cは、必ずしもロッド挿通孔2i,2j及びボルト挿通孔2eに挿通する必要はなく、他のボルト挿通孔2c,2d,2f,2gのいずれか三つのボルト挿通孔に挿通するようにしてもよい。この場合、固定ロッド35a〜35cは、載置部33を反転位置に回転させたときにシリンダカバー2を安定して支持することができるよう、ボルト挿通孔2c,2d,2gあるいは2f又はボルト挿通孔2f,2g,2cあるいは2dに挿通することが望ましい。また、固定ロッドは4つ設けてもよい。
【0021】
固定ロッド35a,35b,35cは、シリンダカバー2が載置部33の上面33aに載置されたとき、固定ロッド35a〜35cの各上端部がロッド挿通孔2i,2j及びボルト挿通孔2eを貫通してシリンダカバー2の上面2aから上方へ突出するように、その長さが設定されている。そして、シリンダカバー2から上方と突出した固定ロッド35a〜35cの各上端部には、固定ナット(支持部材)37が螺合されている。この固定ナット37を締め付けると、シリンダカバー2が載置部33に押圧固定される。その状態で回転部材31を180°反転させると、シリンダカバー2が固定ナット37及び固定ロッド35a,35b,35cを介して載置部33に支持される。
【0022】
このように、載置部33に載置されたシリンダカバー2は、固定ロッド35a〜35cと固定ナット37とによって構成されるねじ機構によって載置部33に押圧固定されている。しかし、必ずしもねじ機構によって押圧固定する必要はなく、他の機構、例えばバヨネット機構によって押圧固定してもよい。また、固定ナット37は、必ずしもシリンダカバー2を載置部33に押圧固定する必要がなく、載置部33を反転位置に回転させたときに、シリンダカバー2の上面2aに突き当たることにより、シリンダカバー2を支持することができるものであればよい。
【0023】
回転部材31が載置位置に位置しているときには、一対の基材12,12、連結部材13及び載置部33によって導入空間51が区画される。この導入空間51は、一対の基材12,12が水平方向へ離れているので、前方に向かって開放されている。
【0024】
次に、上記構成の反転装置10を用いてシリンダカバー2を反転させる場合について図10〜図17を参照して説明する。まず、カバーケース4を固定しているボルトを緩めてねじ孔2kから抜き取り、カバーケース4をシリンダカバー2から取り外す。その後、図10に示すように、各ねじ孔2kにアイボルトAを螺合固定する。そして、アイボルトAにワイヤBを挿通し、ワイヤBの上端部をチェーンブロック、その他の支持移動手段(図示せず)によって支持する。このとき、ワイヤBは、若干張った状態にしておくことが望ましい。
【0025】
次に、プッシュロッドをロッド挿通孔2i,2jから抜き出すとともに、シリンダカバー2をシリンダライナー1に固定しているボルトをボルト挿通孔2c〜2gから抜き取る。そして、図10に示すように、シリンダカバー2をチェーンブロックによりワイヤBを介して吊り上げる。その後、チェーンブロックを移動させ、載置部33の上方へ位置させる。その後、シリンダカバー2及び/又は反転装置10の位置を微調整し、固定ロッド35a〜35cとロッド挿通孔2i,2j及びボルト挿通孔2eとをそれらの軸線がほぼ一致するように位置合わせをする。勿論、このときには、回転部材31を載置位置に位置させておくとともに、固定ナット37を固定ロッド35a〜35cから取り外しておく。次に、シリンダカバー2を下方へ移動させ、固定ロッド35a〜35cをロッド挿通孔2i,2j及びボルト挿通孔2eにそれぞれの下端開口部から挿入する。このとき、固定ロッド35a〜35cの各先端部に先細りのテーパ部が形成されているので、固定ロッド35a〜35cとロッド挿通孔2i,2j及びボルト挿通孔2eとの軸線が若干ずれていたとしても、固定ロッド35a〜35cをロッド挿通孔2i,2j及びボルト挿通孔2eにそれぞれ挿入すると、それに伴ってシリンダカバー2及び/又は反転装置10が軸線のずれを解消するように自動的に移動する。したがって、固定ロッド35a〜35cをロッド挿通孔2i,2j及びボルト挿通孔2eに容易に挿入することができる。
【0026】
シリンダカバー2を下方へ移動させて載置部33に載置すると、固定ロッド35a〜35cの上端部がシリンダカバー2の上面2aから上方へ突出する。そこで、図11に示すように、各固定ロッド35a〜35cに固定ナット37をそれぞれ螺合して締め付ける。これにより、シリンダカバー2を載置部33に固定する。
【0027】
次に、回転手段40のハンドル41を回し、図12に示すように、回転部材31を載置位置から反転位置まで回転させる。この状態では、シリンダカバー3が固定ナット37及び固定ロッド35a〜35cを介して載置部33に支持される。
【0028】
次に、図13に示すように、反転装置10を移動させてシリンダカバー3の点検作業場まで移動させる。点検作業場の床Fには、複数の(この実施の形態では四つの)支持ロッド61が立設固定されている。支持ロッド61は、ロッド挿通孔2i,2j及びボルト挿通孔2e以外の貫通孔であるボルト挿通孔2c,2d,2f,2gと水平方向において同一の位置関係に配置されている。したがって、反転装置10を適宜に移動させることにより、ボルト挿通孔2c,2d,2f,2gと4本の支持ロッド61とをそれぞれ上下に対向させることができる。ここで、4本の支持ロッド61は、ボルト挿通孔2c,2d,2f,2gへの挿入時には、導入空間51内に入り込むことになるが、導入空間51の前端部が開放されているから、つまり一対の基材12,12の前端部どうしが互いに離れているから、反転装置10を基材12の長手方向へ前進させることにより、4本の支持ロッド61を導入空間51内に問題なく入り込ませることができる。
【0029】
その後、図14に示すように、油圧ジャッキ23により可動部材21を下方へ移動させ、回転部材31及びシリンダカバー2を下方へ移動させる。そして、4本の支持ロッド61の各上端部をボルト挿通孔2c,2d,2f,2gにその上端開口部(反転した状態では下端開口部)から挿入する。各支持ロッド61の中間部外周面には、環状突出部(当接部)61aが形成されている。シリンダカバー2の上面2aが各支持ロッド61の環状突出部61aの上面に突き当たったら、油圧ジャッキ23による可動部材21の下方への移動を停止する。このとき、床Fから環状突出部61aの上面までの距離が、部材3A〜3Eのシリンダカバー2からの突出量より長いので、部材3A〜3Eが床Fに突き当たることはない。
【0030】
次に、図15に示すように、ナット36を各固定ロッド35a〜35cから取り外す。この状態では、シリンダカバー2が支持ロッド61によって支持される。その後、各固定ロッド35a〜35cをロッド挿通孔2i,2j及びボルト挿通孔2eから下方へ抜き出す。次に、図16に示すように、油圧ジャッキ23により可動部材21及び回転部材31を適宜の位置まで上方へ移動させ、載置部33をシリンダカバー2から上方へ離す。その後、図17に示すように、反転装置10を後方へ移動させ、反転装置10全体をシリンダカバー2から離す。この結果、シリンダカバー2の下部が上方に露出する。よって、シリンダカバー2の下部の保守点検を行うことができる。
【0031】
上記の手順を逆に行うことにより、反転したシリンダカバー2をシリンダライナー1の上の固定することができる。すなわち、反転装置10を図16に示す位置まで移動させた後、図15及び図14に示すように、固定ロッド35a〜35cをロッド挿通孔2i,2j及びボルト挿通孔2eにそれぞれの下端開口部(上面2aにおける開口部)から挿入する。次に、各固定ロッド35a〜35cをナット36によって載置部33に固定する。これにより、シリンダカバー2を載置部33に固定する。その後、図13に示すように、可動部材21を上方へ移動させ、支持ロッド61をボルト挿通孔2c,2d,2f,2gから抜き出す。次に、図12及び図11に示すように、回転部材31を反転させ、シリンダカバー2の上下方向を元の上下方向に戻す。その後、固定ナット37を固定ボルト35a〜35cから取り外す。そして、図10に示すように、ワイヤB及びチェーンブロックによってシリンダカバー2を載置部33から持ち上げ、シリンダライナー1の上に載せて固定する。
【0032】
このように、上記の反転装置10によれば、シリンダカバー2の反転時には、シリンダカバー2に触れる必要が全くない。したがって、反転作業に要する労力をほとんど無くすことができるのみならず、しかも作業者に対する危険性を無くすことができるという効果が得られる。
【0033】
なお、この発明は、上記の実施の形態に限定されるものでなく、その要旨を逸脱しない範囲において各種の変形例を採用可能である。
例えば、上記の実施の形態においては、フレーム11を一対の基材12、連結部材13、一対の支持部材15及び上連結部材16によって構成しているが、フレーム11は他の構造にすることも可能である。
また、上記の実施の形態においては、反転させたシリンダカバー2を支持ロッド61に支持させるために、可動部材21を設けて回転部材31を上下方向へ移動させるようにしているが、反転させたカバー2をフォークリフト等によって支持する場合には、回転部材31を上下方向へ移動させる必要がない。したがって、そのような場合には、可動部材21及び油圧ジャッキ(移動手段)27が不要になる。
また、上記の実施の形態においては、固定ロッド35a〜35cが載置部33に着脱可能に設けられるとともに、固定ナット37が固定ロッド35a〜35cに着脱可能に設けられているが、固定ロッド35a〜35cが載置部33に着脱可能に設けられる場合には、固定ナット37を固定ロッド35a〜35cに着脱不能に設けてもよく、逆に固定ナット37が固定ロッド35a〜35cに着脱可能に設けられる場合には、固定ロッド35a〜35cを載置部33に着脱不能に設けてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0034】
この発明に係るシリンダカバーの反転装置は、大型のエンジンのシリンダカバーを180°上下に反転させるために用いることができる。
【符号の説明】
【0035】
2 シリンダヘッド
2c ボルト挿通孔(貫通孔)
2d ボルト挿通孔(貫通孔)
2e ボルト挿通孔(貫通孔)
2f ボルト挿通孔(貫通孔)
2g ボルト挿通孔(貫通孔)
2i ロッド挿通孔(貫通孔)
2j ロッド挿通孔(貫通孔)
10 シリンダヘッド用反転装置
11 フレーム
21 可動部材
23 油圧ジャッキ(移動手段)
31 回転部材
33 載置部
35a 固定ロッド
35b 固定ロッド
35c 固定ロッド
37 固定ナット(支持部材)
40 回転手段
51 導入空間
61 支持ロッド
61a 環状突出部(当接部)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸線を上下方向に向けた複数の貫通孔を有するシリンダヘッドの上下を反転させるための反転装置であって、
フレームと、このフレームに水平な軸線を中心として支持位置と反転位置との間をほぼ180°回転可能に支持された回転部材と、上記フレームに設けられ、上記回転部材を回転させる回転手段とを備え、上記回転部材には、この回転部材が上記支持位置に位置しているときに上記シリンダヘッドがその貫通孔の軸線を上下方向に向けた状態で載置される載置部が設けられ、上記載置部には、上記シリンダヘッドの上記貫通孔にそれぞれ貫通状態で挿通される複数の固定ロッドが立設され、固定ロッドの上記貫通孔から突出した先端部には、上記回転部材が反転位置に回転したときに上記シリンダヘッドを支持する支持部材が設けられ、上記固定ロッドが上記載置部に着脱可能に設けられることと、上記支持部材が上記固定ロッドに着脱可能に設けられることとのいずれか一方が採用されていることを特徴とするシリンダヘッド用反転装置。
【請求項2】
上記フレームには、可動部材が上下方向へ位置調節可能に設けられるとともに、この可動部材を上下方向へ移動させる移動手段が設けられ、上記回転部材及び上記回転手段が上記可動部材に設けられていることを特徴とするシリンダヘッド用反転装置。
【請求項3】
上記固定ロッドを上記貫通孔からその軸線方向へ抜き出すことができるよう、上記固定ロッドが上記載置部に上記固定ロッドの軸線方向へ着脱可能に設けられていることを特徴とする請求項2に記載のシリンダヘッド用反転装置。
【請求項4】
床面に立設され、上記シリンダヘッドが反転されているときに、上記シリンダヘッドの上記貫通孔のうちの上記固定ロッドが挿通されていない他の貫通孔にその上端開口部から挿入される複数の支持ロッドをさらに備え、上記支持ロッドの上下方向の中間部には反転された上記シリンダヘッドの上面に突き当たることによって上記シリンダヘッドを支持する当接が設けられ、
上記フレームには、このフレームが上記床面上を走行することができるよう、走行車輪が設けられ、上記フレームには、上記支持ロッドが上記他の貫通孔に挿入可能な位置まで上記反転された上記シリンダヘッドの下側に入り込むことができるよう、走行方向前方側の端部が開放された導入空間が形成されていることを特徴とする請求項2又は3に記載のシリンダヘッド用反転装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2011−58453(P2011−58453A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−210535(P2009−210535)
【出願日】平成21年9月11日(2009.9.11)
【出願人】(391037814)株式会社東京エネシス (24)
【Fターム(参考)】