説明

シリンダヘッドのウォータジャケット構造

【課題】排気マニホールド一体型のシリンダヘッドにおける冷却水の中央側と排気ポート側の温度差を低減できるようにする。
【解決手段】複数気筒Sの排気ポートEPがシリンダヘッド1内で合流した後、気筒配列方向に平行な一側1aに排気口2が開口した排気マニホールド一体型のシリンダヘッド1において、気筒配列方向の一端1bにメイン冷却水入口3を備え、気筒配列方向の他端1c側に冷却水出口4を備え、メイン冷却水入口3と冷却水出口4との間でウォータジャケット5を形成している排気口2側の側壁内面5aに、冷却水6を気筒配列域である中央側に向ける膨出部7を有し、この膨出部7は、少なくとも排気ポートEPの下側に設けたことにより、上記の課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車などのエンジンにおけるシリンダヘッドのウォータジャケット構造、詳しくは、複数気筒からの排気マニホールドを一体に形成したシリンダヘッドのウォータジャケット構造に関する。
【背景技術】
【0002】
このような排気マニホールド一体型のシリンダヘッドは、下記の特許文献1〜4などで知られ、シリンダヘッドに形成されるウォータジャケットによる、排気マニホールドの冷却が図れる。そのために、シリンダヘッドと一体な排気マニホールドのまわりに、冷却水を通すウォータジャケットが形成される。
【0003】
特許文献1、2は、シリンダヘッド内の気筒列上と、排気マニホールドの上および下とにウォータジャケットを設け、これら上下のウォータジャケットを繋ぐウォータジャケットを点火プラグと排気マニホールドとの間で気筒列方向に通じるように設けたウォータジャケット構造を開示している。また、排気マニホールドの、個別な排気バルブ口から1つの排気口に向け延びる排気ポート間の壁部内に、シリンダヘッド締結用ボルトを貫通させるボルト貫通穴と、このボルト貫通穴の排気口側に隣接して動弁室からオイルパンにオイルを戻すオイル戻し通路とを形成している。
【0004】
特許文献3は、まわりにウォータジャケットが形成されている排気マニホールドにおいて、気筒配列方向の中心部に位置する気筒の2個の排気ポートの隔壁を、他の気筒の2個の排気ポート間の隔壁より拡大し、この拡大した隔壁にウォータジャケットとオイル通路とを形成し、隣接する2個の排気ポート間の壁部分にシリンダヘッド締結用ボルトがねじ込まれる雌ネジ部を形成するウォータジャケット構造を開示し、特許文献2に記載の技術に比し、前記合流角を減少して出力性能を向上し、オイル通路と雌ネジ部の距離を大きくしてウォータジャケット形成用中子の強度を確保し、生産性を向上できるとしている。
【0005】
特許文献4は、シリンダヘッド内の、シリンダ配列方向上部を含む排気マニホールドおよび吸気マニホールド接続口の上と、排気マニホールドの下と、吸気マニホールド接続口の下とにウォータジャケットを形成した構造を開示している。特許文献4は、特にシリンダブロックとの接合面の、排気ポート集合部下方に位置する部分に、凹部を設け、シリンダブロックとの接合状態で前記凹部がオイルまたは水を流通させる空間を形成し、シリンダヘッドの製造性の悪化を招くことなく、排気ポート集合部および排気ポート出口部を効果的に冷却できるようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000−161131号公報
【特許文献2】特開2000−161129号公報
【特許文献3】特開2007−162591号公報
【特許文献4】特開2008−267184号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、従来のシリンダヘッドに一体に形成される排気マニホールドは、各シリンダに対応する個別な排気バルブ口から立ち上がった後、シリンダ配列方向に向く一側に開口する1つの排気口に向け延びて合流し、前記排気口に通じている(特許文献1の図1、図2を参照)。このために、各排気ポートの排気バルブ口からの立ち上がり部が、点火プラグ縦通部、排気弁縦通部と共に、それらよりも大径となって中央側の気筒配列域に位置していて、この中央側で流れ抵抗が高く、流れ抵抗の低い排気口側、つまり、前記立ち上がり部から排気口へ延びている排気ポート側に多くが流れてしまい、前記立ち上がり部間を通る冷却水量が少なくなる。この結果、排気ポート側のウォータジャケットと中央側のウォータジャケットとで温度差ができ、中央側の冷却が不足する。このことは、排気ポートの特に高温になる前記立ち上がり部がある下側のウォータジャケットの中央側で著しい。
【0008】
また、特許文献1、2に見られるように、ボルト縦通部の外側、つまり排気口があるシリンダヘッドの一側壁の側にオイル戻し通路を設けると、シリンダヘッドが排気口側に大型化する。また、オイル戻し通路は排気ポートのウォータジャケット側から遠くなり冷却されにくいので、高負荷運転時に熱くなり過ぎてオイルが劣化しやすい。これを、特許文献3に記載のもののように排気ポート間の壁部にウォータジャケットと共にオイル戻し通路を設けて対応しようとすると、これもシリンダヘッド大型化につながる。
【0009】
本発明は、このような問題に鑑み、排気マニホールド一体型のシリンダヘッドにおける冷却水の中央側と排気ポート側の温度差を低減し、高温となる中央側を十分に冷却できるシリンダヘッドのウォータジャケット構造を提供することを主たる課題とし、さらには、シリンダヘッドを大型化することなくオイルの劣化を低減できるオイル戻し通路を設けることをも課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明のシリンダヘッドのウォータジャケット構造は、複数気筒の排気ポートがシリンダヘッド内で合流した後、気筒配列方向に平行な一側に排気口が開口した排気マニホールド一体型のシリンダヘッドのウォータジャケット構造において、気筒配列方向の一端に冷却水入口を備え、気筒配列方向の他端側に冷却水出口を備え、冷却水入口と冷却水出口との間のウォータジャケットを形成している排気口側の側壁内面に、冷却水を気筒配列域である中央側に向ける膨出部を有し、この膨出部は、少なくとも排気ポートの下側に設けたことを特徴とする。
【0011】
このような構成では、冷却水が、シリンダヘッド一端のメイン冷却水入口から下流のウォータジャケットに流れ込んで、シリンダヘッド他端の冷却水出口へと流れ出る。また、気筒配列域である中央側は、点火プラグ縦通部、排気バルブ縦通部、排気ポートの排気バルブ口からの立ち上がり部が集中するので流れ抵抗が高く、そのため流れ抵抗の低い排気ポート側に多く流れようとするが、排気口側の側壁内面の膨出部によって冷却水の流れを中央側に向けることができる。また、中央側での流れ抵抗は、各排気ポートの排気バルブ口からの立ち上がり部のある排気ポート下側で特に高く、排気ポート側により多く流れようとするが、前記膨出部が排気ポートの少なくとも下側にあることによって中央側に積極的に向けることができる。
【0012】
上記において、さらに、前記膨出部の先端は、隣接する2つの排気ポートの間に対応しているものとすることができる。
【0013】
このような構成では、上記に加え、さらに、膨出部が上流からの冷却水の流れを中央側に向けるのに、膨出部の先端が対応している隣接した2つの排気ポートの間に向く流れを作るので、それらの間、熱的負荷の高い排気バルブ間を冷却することができる。特に、排気ポート下では、排気バルブ口からの立ち上がり部の間、隣接する排気ポートの狭い立ち上がり部の間にも冷却水を通して排気バルブ口まわりを含め冷却することができる。従って、膨出部は、排気ポートの隣接組に対応して設けて有効であり、膨出部数は、隣接組数以下とすることができる。また、隣接した2つの排気ポートは、1つの気筒の、2つの排気バルブ口からのものと、隣接する気筒の、1つずつの排気バルブ口からのものとを含む。
【0014】
上記において、さらに、前記膨出部は、少なくとも気筒配列方向の中央に対応して設けるものとすることができる。
【0015】
このような構成では、上記に加え、さらに、気筒の配列数が偶数か奇数かの別なく、気筒配列方向の中央で熱的負荷がいわば累積的に高くなる部分に冷却水を排気ポート側から優先的に通して冷却することができる。
【0016】
上記において、さらに、膨出部は、気筒配列方向に複数設けるものとすることができる。
【0017】
このような構成では、上記に加え、さらに、複数の気筒位置に対応して、冷却水に流れ抵抗を与える点火プラグ縦通部、排気ポートの排気バルブ口からの立ち上がり部が集中し、かつこの集中域が気筒配列方向に隣接していることから、熱的負荷が大きくなる複数の流れ抵抗部間に冷却水を排気ポート側から通せるようになる。
【0018】
上記において、さらに、少なくとも排気ポート下側の膨出部が、排気ポートの合流箇所よりも中央側に延び、かつ、オイル戻し通路が前記膨出部を貫通しているものとすることができる。
【0019】
このような構成では、上記に加え、さらに、少なくとも排気ポート下の膨出部が排気ポートの合流部よりも中央側に延びている分だけ、熱的負荷の高い中央側に向かい、各流れ抵抗部間を通る冷却水の流れを強められるし、オイル戻し通路が、前記中央側へ延びた膨出部に貫通していることで、膨出部に衝突する冷却水によってオイル戻し通路の冷却が図れる。
【0020】
上記において、さらに、ウォータジャケットは、排気ポートの上側ウォータジャケットと下側ウォータジャケットとを備え、上側ウォータジャケットの排気口側側壁内面のうちオイル戻し通路の両側に膨出部を設けたものとすることができる。
【0021】
このような構成では、上記に加え、さらに、オイル戻し通路の熱的負荷の高い排気ポート上側部分で、オイル戻し通路周囲の冷却水の通路を狭めて流速を高めることと、膨出部により冷却水の流れをオイル戻し通路に衝突させることとで、冷却効果を高められる。
【発明の効果】
【0022】
本発明のシリンダヘッドのウォータジャケット構造によれば、ウォータジャケット内の気筒配列域である中央側が、熱的負荷が高いにもかかわらず、点火プラグ縦通部、排気バルブ縦通部、排気ポートの排気バルブ口からの立ち上がり部の集中によって流れ抵抗が高いために、冷却水が流れ抵抗の低い排気ポート側に多く流れようとするのを、排気口側の側壁内面の膨出部によって中央側に向けるので、側壁内面に沿って流れる受熱量の少ない冷却水を熱的負荷の高い中央側の冷却に生かして十分に冷却し、冷却水温度の均一化を達成できる。
【0023】
また、中央側での流れ抵抗は、各排気ポートの排気バルブ口からの立ち上がり部のある排気ポート下側で特に高いことには、前記膨出部が排気ポートの少なくとも下側で、冷却水を中央側に向けることで対応することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の実施の形態に係る3気筒エンジンでの、シリンダブロックのウォータジャケット構造における、代表的な排気ポートの上と下とでの排気口側の側面に中央側に向く膨出部を持った1つの例を平面視して示す模式図。
【図2】同構造を、シリンダヘッドの排気マニホールドの排気口の軸線と、点火プラグ縦通部の軸線とを含む面で断面した断面図。
【図3】図2のIII−III線より見た横断面図。
【図4】図2のIV−IV線より見た横断面図。
【図5】図2のV−V線より見た横断面図。
【図6】図2のVI−VI線より見た横断面図。
【図7】図2のVII−VII線より見た横断面図。
【図8】図2の中央側で対向し合うボルト縦通部の軸線を通る面で断面した(図7のVIII−VIII線から見た)断面図。
【図9】図2のシリンダヘッドの、ウォータジャケット構造の代表的な部分の関係を外部から透視的に見て示す概略斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本実施の形態に係るシリンダヘッドの、ウォータジャケット構造の1つの具体例について、図1〜図9を参照しながら説明し、本発明の理解に供する。
【0026】
本実施の形態の、シリンダヘッドのウォータジャケット構造は、図1(a)に平面視して示すように複数気筒Sの排気ポートEPがシリンダヘッド1内で合流した後、気筒Sの配列方向に平行な一側1aに排気口2が開口した排気マニホールド一体型のシリンダヘッド1のウォータジャケット構造であって、気筒Sの配列方向の一端1bにメイン冷却水入口3を備え、気筒Sの配列方向の他端側に冷却水出口4を備え、メイン冷却水入口3と冷却水出口4との間の、図1(a)〜(c)、図2、図3〜図9に示すウォータジャケット5を形成している排気口2側の側壁図1(b)(c)、図4、図9に示す内面5aに、冷却水6を気筒Sの配列域である中央側に向ける膨出部7を有する。この膨出部7は、図1(b)、図5に示す排気ポートEP上の膨出部7と、図1(c)、図2、図4に示す排気ポート下の膨出部7とを設けた例を示しているが、本発明の基本的な特徴上は、少なくとも排気ポートEPの下側に設ける。
【0027】
これにより、冷却水6が図1(b)(c)に矢印で示すように、シリンダヘッド一端1bのメイン冷却水入口3から下流のウォータジャケット5に流れ込んで、シリンダヘッド他端1cの冷却水出口4へと流れ出る。また、気筒Sの配列域である中央側は、点火プラグ縦通部11、排気バルブ縦通部12、排気ポートEPの排気バルブ口8からの立ち上がり部9の集中によって流れ抵抗が高く、流れ抵抗の低い排気ポートEP側に多く流れようとするのを、排気口2側の側壁内面5aの膨出部7によって、図1(c)に矢印で示すように中央側に向けることができる。
【0028】
ここで、メイン冷却水入口3は図1(b)(c)、図6、図7に示すように、シリンダヘッド1のシリンダブロック22との接合面をなし、ウォータジャケット5の底部をなすデッキ35に形成されている。また、メイン冷却水入口3以外にサブ冷却水入口3aがあってもよい。具体的には、図7に示すように、サブ冷却水入口3aは、メイン冷却水入口2箇所を除く18箇所にある。これらメイン冷却水入口3およびサブ冷却水入口3aへは、シリンダブロックから冷却水6が供給される。シリンダヘッド1とシリンダブロック22との間に介在するガスケットに設けた孔の径により、サブ冷却水入口から供給される冷却水の量が制限される。この結果、80%くらいの量の冷却水6がメイン冷却水入口3から供給される。なお、前記制限のために、前記ガスケットにより完全に塞がれているサブ冷却水入口がある。
【0029】
また、中央側での流れ抵抗は、各排気ポートEPの排気バルブ口8からの立ち上がり部9のある排気ポートEPの下側で特に高く、排気ポートEP側により多く流れようとする冷却水6を、前記膨出部7が、図1(c)、図2、図9に示すように排気ポートEPの少なくとも下側にあることによって中央側に強制的に向けることができる。
【0030】
この結果、本実施の形態の、シリンダヘッドのウォータジャケット構造によれば、ウォータジャケット5内の気筒配列域である中央側が、熱的負荷が高いにもかかわらず、点火プラグ縦通部11、排気バルブ縦通部12、排気ポートEPの排気バルブ口8からの立ち上がり部9の集中によって流れ抵抗が高いために、冷却水6が流れ抵抗の低い排気ポートEP側に多く流れようとするのを、排気口2側の側壁内面5aの膨出部7によって中央側に向けるので、側壁内面に沿って流れる受熱量の少ない冷却水6を中央側の冷却に生かして十分に冷却し、冷却水温度の均一化を達成できる。
【0031】
また、中央側での流れ抵抗は、各排気ポートEPの排気バルブ口8からの立ち上がり部9のある排気ポートEP下側で特に高い。しかし、前記膨出部7が排気ポートEPの少なくとも下側で、冷却水6を中央側に向けるので冷却水を集中させることができ、そこでの冷却と冷却水6の温度の均一化とが十分に図れる。
【0032】
このような、膨出部7による冷却水6の中央側に向けた流れ作りによる、冷却水6の温度の均一化と中央側での十分な冷却の作用は、図1(a)に示す、排気ポートEPの上側の膨出部7にても同様に発揮される。しかし、排気ポートEPの上側では、これらの立ち上がり部9が無いので、中央側への膨出度を下側の膨出度よりも抑えて中央側に向ける冷却水量を下側よりも低減することで、過冷却や、これによる冷却水6の温度の上下での不均一の原因とならないようにできる。
【0033】
また、膨出部7の先端は、特に、図1(c)、図4の中央位置のものが示しているように、隣接する2つの排気ポートEP、EPの間に対応しているものとしている。これにより、膨出部7が上流からの冷却水6の流れを中央側に向けるのに、膨出部7の先端が対応している隣接した2つの排気ポートEP、EPの間に向く流れを作るので、それらの間、熱的負荷の高い排気バルブ口8間、および排気バルブ縦通部12間を冷却することができる。
【0034】
特に、排気ポートEP下では、排気バルブ口8からの立ち上がり部9の間、隣接する排気ポートEPの狭い立ち上がり部9の間にも、冷却水6を通して排気バルブ口8まわりを含め冷却することができる。従って、膨出部7は、排気ポートEPの隣接組に対応して設けて有効であり、膨出部7の数は、隣接組数以下とすることができる。また、隣接した2つの排気ポートEP、EPは、1つの気筒Sの、2つの排気バルブ口8、8からのものと、隣接する気筒Sの1つずつの排気バルブ口8、8からのものとを含み、1つの気筒Sに2つの排気バルブ口8がある場合と、1つの気筒Sに1つの排気バルブ口8がある場合とに対応できる。
【0035】
特に、下側ウォータジャケット52の中央に設けた膨出部7のように、先端に立ち上がり部8、8間などの狭い流れ抵抗部間に向く細い突起7a(図1(c)、図4)を設ければ、膨張部7とそれら流れ抵抗部間との冷却流路を特に狭めるようなことなく、冷却水6が流れ抵抗部間により近づき、冷却水6を狭い流れ抵抗部間にも流量を落すことなく確実に通過させられる。しかも、そこでの流速を上げて冷却効率を高められる。
【0036】
このような隣接する排気バルブ口8、8の間に対応して設ける膨出部7は、少なくとも気筒Sの配列方向の中央に対応して設ける、つまり1つ設けるものとすることができる。このようにすると、気筒Sの配列数が偶数か奇数かの別なく、気筒Sの配列方向の中央で熱的負荷がいわば累積的に高くなる部分に冷却水6を排気ポートEP側から通して冷却することができる。
【0037】
また、図示する例のように、膨出部7は、気筒Sの配列方向に複数設けることができる。これにより、複数の気筒Sの配列位置に対応して、冷却水6に流れ抵抗を与える点火プラグ縦通部11、排気ポートEPの排気バルブ口8からの立ち上がり部9が集中し、かつこの集中域が気筒Sの配列方向に隣接していることから、熱的負荷が大きくなる複数の流れ抵抗部間に冷却水6を排気ポートEP側から、図1(b)(c)に矢印で示すように通すことができる。
【0038】
従って、流れ抵抗が高くかつ熱的負荷の高い中央側を過不足なく冷却でき、冷却水6の温度のさらなる均一化が確保される。この場合、各膨出部7の先端は、上流での流路や膨出部7などにより案内される冷却水6の流れ方向との関係から、冷却水6を向けたい隣接する流れ抵抗部間に対して偏って設けることもある。図示例では、気筒Sの配列方向の中央に位置するもの以外は、下流側に偏った位置としている。
【0039】
下側ウォータジャケット52に膨出部7を冷却水6の流れ方向に複数設けると、熱的負担は、気筒Sの配列方向中央で最も高く一端1b、他端1c側に低くなっていく傾向になる。そこで、中央の膨出部7を最も膨出させ、一端1b、他端1c側の膨出部7の膨出度を小さくし、また、小さくしていくことで、上流、下流間での冷却水6の温度分布を均一化することができる。両側の気筒Sの排気バルブ口8間には、入り口3から排気ポートジャケットへと流れる冷却水6および排気ポートジャケットから出口4へ向けて流れる冷却水6があるが、中央気筒Sの排気バルブ口8間を流れる冷却水6は少ないため、中央気筒Sに対向する膨出部7を大きくしている。
【0040】
また、少なくとも排気ポートEP下側の膨出部7が、図1(c)に示す気筒Sの配列方向中央位置のものを例に示しているように、排気ポートEPの合流箇所Pよりも中央側に延び、かつ、図2、図8に示すシリンダヘッド1の動弁室21からシリンダブロック22を通じて図示しないオイルパンにオイルを戻すオイル戻し通路23が前記中央位置の膨出部7を図2、図4に示すように貫通するようにしている。
【0041】
これにより、少なくとも排気ポートEP下の膨出部7が排気ポートEPの合流部Pよりも中央側に延びている分だけ、熱的負荷の高い中央側に向かい、各流れ抵抗部間を通る冷却水6の流れを高められるし、排気ポートEPの合流部Pの壁部に設けたオイル戻し通路23が、前記中央側へ延びた膨出部7を貫通していることで、膨出部7に衝突する冷却水6によるオイル戻し通路23の冷却が図れる。
【0042】
また、ウォータジャケット5は、図1(b)(c)、図2に示すように、排気ポートEPの上側ウォータジャケット51と下側ウォータジャケット52とを備えるが、上側ウォータジャケット51は、図1(b)、図5に示すようにその一側1aに2つの膨出部7を設けている。つまり、オイル戻し通路23の両側に膨出部7を設けている。これにより、排気バルブ口8から立ち上がり部9を経て排気ポートEPの天井面に沿って高温の排気が流れることで熱的負荷が特に高くなる排気ポートEP上側部分で、オイル戻し通路23周囲の冷却水6の通路を狭めて流速を高めることと、膨出部7により冷却水6の流れをオイル戻し通路23に衝突させることとで、オイル戻し通路の冷却効果を高められる。
【0043】
さらに、図1(b)(c)に示すように、ウォータジャケット5内には、ボルト縦通部24をなすボルトボスが位置し、また部分的に臨んでいるが、排気ポートEP配置域では、ボルト縦通部24をなすボルトボスを前記オイル戻し通路23が位置しない、排気ポートEPの合流点Pの内側壁部に配置し、排気ポートEPの支持に共用している。これによって、ボルト縦通部24とオイル戻し通路23とが排気口2の軸線方向に並ぶのを回避し、シリンダヘッド1が大型化するのを防止できる。また、これらボルト縦通部24をなすボルトボスの中央側ウォータジャケット53への露出部両側を図1(a)〜(c)に示すように平面部5bとしてあり、この平面部5bにて冷却水6の流れを案内して整流するので、平面部5bの対応域では冷却水6を案内する専用のリブを省略することができる。
【0044】
さらに、各気筒Sの吸気バルブ口31から延びる吸気マニホールド接続口32が他側1d側の周壁に設けられ、この周壁の図1(c)、図2、図4、5、6に示す内面5cがウォータジャケット5の他側1d側の内面を形成しており、この周壁内面5cの上部から図1(b)、図9に示すような前記上側ウォータジャケット51の膨出部71が膨出している。また、ウォータジャケット5は吸気マニホールド接続口32まわりにも及んでいるが、吸気マニホールド接続口32まわりとの接触面積は小さく過冷却を防止しつつ、ウォータジャケット5全域での冷却水6の温度の均一化を図っている。
【0045】
また、冷却水出口4は、他側1d側に偏って設け、排気マニホールド側の広域各部の流れを抵抗部間に分流し、各流れ抵抗部まわりを通るような流れを作るようにしてあり、排気マニホールド側各部での上記した冷却効果を高めている。また、図3、図5に示すような縦向きのリブ33を天井壁34から垂下するように設けて、中央側ジャケット53の天井壁に沿って冷却水6が流れ去ってしまわないように、冷却水6を下側へ向けるようにしてある。なお、中央側ウォータジャケット53は図2、図4〜図6、図8に示す吸気バルブ口31側のウォータジャケット54にもつながっている。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明は、シリンダヘッドのウォータジャケットにおいて、流れ抵抗部の影響なしに、熱的負荷の高さに応じた十分な冷却と冷却水の温度の均一化を図るのに実用できる。
【符号の説明】
【0047】
1 シリンダヘッド
2 排気口
3 メイン冷却水入口
4 冷却水出口
5 ウォータジャケット
5a 排気口2側の側壁内面
6 冷却水
7 膨出部
8 排気バルブ口
9 排気バルブ口からの立ち上がり部
11 点火プラグ縦通部
12 排気バルブ縦通部
23 オイル戻し通路
24 ボルト縦通部(ボルトボス)
32 吸気マニホールド接続口
51 排気ポートEPの上側ウォータジャケット
52 排気ポートEPの下側ウォータジャケット
53 ボルトボス中央側ウォータジャケット
71 ウォータジャケット51の膨出部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数気筒の排気ポートがシリンダヘッド内で合流した後、気筒配列方向に平行な一側に排気口が開口した排気マニホールド一体型のシリンダヘッドのウォータジャケット構造において、気筒配列方向の一端側に冷却水入口を備え、気筒配列方向の他端側に冷却水出口を備え、冷却水入口と冷却水出口との間のウォータジャケットを形成している排気口側の側壁内面に、冷却水を気筒配列域である中央側に向ける膨出部を有し、この膨出部は、少なくとも排気ポートの下側に設けたことを特徴とするシリンダヘッドのウォータジャケット構造。
【請求項2】
膨出部の先端は、隣接する2つの排気ポートの間に対応している請求項1に記載のシリンダヘッドのウォータジャケット構造。
【請求項3】
前記膨出部は、少なくとも気筒配列方向の中央に対応して設けた請求項1、2のいずれか1項に記載のシリンダヘッドのウォータジャケット構造。
【請求項4】
少なくとも排気ポート下側の膨出部が、排気ポートの合流箇所よりも中央側に延び、かつ、オイル戻し通路が前記膨出部を貫通している請求項1〜3のいずれか1項に記載のシリンダヘッドのウォータジャケット構造。
【請求項5】
ウォータジャケットは、排気ポートの上側ウォータジャケットと下側ウォータジャケットとを備え、上側ウォータジャケットの排気口側側壁内面のうちオイル戻し通路の両側に膨出部を設けた請求項1に記載のシリンダヘッドのウォータジャケット構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−202578(P2011−202578A)
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−70413(P2010−70413)
【出願日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【出願人】(000002967)ダイハツ工業株式会社 (2,560)
【Fターム(参考)】