説明

シリンダヘッドガスケット

【解決手段】 シリンダヘッドガスケット1は、複数の燃焼室孔7と、シリンダブロックに形成された冷却液通路3bの位置にあわせて形成した水孔9と、上記燃焼室孔を囲繞するフルビード4a,5aとを有するガスケット基板4、5を備えている。
隣接する上記フルビードは相互に離隔した位置に形成され、さらに隣接する燃焼室孔の中心同士を結んだ中心線を挟んだ位置には、一方のフルビードから分岐して他方のフルビードに合流し、かつ上記フルビードと同じ方向に突出する2つの連結ビード4b、5bを設けている。
そして上記水孔は上記フルビードおよび連結ビードによって囲繞された領域の外側に位置している。
【効果】 隣接するフルビードが離隔している場合に、フルビードの間に形成された領域への冷却液の流入を阻止することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はシリンダヘッドガスケットに関し、詳しくは複数の燃焼室孔および該燃焼室孔を囲繞するフルビードを備えたガスケット基板を有するシリンダヘッドガスケットに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、シリンダヘッドとシリンダブロックとの間に挟持され、シリンダボア内の燃焼ガスをシールするシリンダヘッドガスケットが知られ、シリンダブロックに形成されたシリンダボアの位置にあわせて形成した複数の燃焼室孔と、シリンダブロックに形成された冷却液通路の位置にあわせて形成した水孔と、上記燃焼室孔を囲繞するフルビードとを有するガスケット基板を有するものが知られている(特許文献1)。
そしてこのようなシリンダヘッドガスケットは装着されるエンジンによって上記燃焼室孔の位置が離隔している場合があり、その際燃焼室孔を囲繞するフルビードとフルビードとは相互に離隔した位置に形成されることとなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開2008−084718号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1のように、フルビードとフルビードとが相互に離隔している場合、シリンダヘッドガスケットをシリンダヘッドとシリンダブロックとによって挟持すると、フルビードとフルビードとの間の面圧が十分に得られないことがある。
その場合、上記水孔よりシリンダヘッドとシリンダブロックとの間に流入した冷却液がフルビードとフルビードとの間に流入し、上記シリンダボアからの伝熱によって蒸発すると、上記ガスケット基板に塗布したコーティングが損傷してしまうという問題があった。
このような問題に鑑み、本発明はフルビードとフルビードとが相互に離隔している場合において、これらフルビードとフルビードとの間への冷却液の流入を阻止することが可能なシリンダヘッドガスケットを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
すなわち請求項1おけるシリンダヘッドガスケットは、シリンダブロックに形成されたシリンダボアの位置にあわせて形成した複数の燃焼室孔と、シリンダブロックに形成された冷却液通路の位置にあわせて形成した水孔と、上記燃焼室孔を囲繞するフルビードとを有するガスケット基板を備え、
隣接する上記フルビードとフルビードとを相互に離隔した位置に形成したシリンダヘッドガスケットにおいて、
隣接するフルビードとフルビードとが接近し、かつ隣接する燃焼室孔の中心同士を結んだ中心線を挟んだ位置に、一方のフルビードから分岐して他方のフルビードに合流し、かつ上記フルビードと同じ方向に突出する2つの連結ビードを設け、
さらに、上記水孔が上記フルビードおよび連結ビードによって囲繞された領域の外側に位置するように上記連結ビードを設けたことを特徴としている。
【発明の効果】
【0006】
上記請求項1のシリンダヘッドガスケットによれば、フルビードとフルビードとの間の領域を上記連結ビードによって区画し、さらに上記水孔はこの領域の外側に位置することから、冷却液が上記領域に流入することを阻止して、冷却液の蒸発によるコーティングの損傷を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】第1実施例を示すシリンダヘッドガスケットの平面図。
【図2】図1におけるII―II部の拡大断面図。
【図3】図1におけるIII―III部の拡大断面図。
【図4】図1における要部拡大図。
【図5】第2実施例を示すシリンダヘッドガスケットの要部拡大図。
【図6】第3実施例を示すシリンダヘッドガスケットの要部拡大図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下図示実施例について説明すると、図1ないし図4は第1実施例にかかるシリンダヘッドガスケット1を示し、図1はシリンダヘッドガスケット1の平面図を、図2は図1におけるII―II部の断面図を、図3は図1におけるIII―III部の断面図を、図4はシリンダヘッドガスケット1の平面図における要部拡大図をそれぞれ示している。
上記シリンダヘッドガスケット1は、シリンダヘッド2およびシリンダブロック3に当接する1対のガスケット基板4,5と、該一対のガスケット基板4,5の間に介装された中間板6とを備えている。
これらガスケット基板4,5および中間板6はSUS301−Hにより製造され、これらの板厚は同一に設定され、本実施例ではそれぞれ約0.2mmの板厚となっている。また上記ガスケット基板4,5の上面と下面の全域には、ヘタリ防止やシール性向上のため、フッ素、ニトリル系等のゴムからなる約25μmのコーティングが施されている(図示せず)。
【0009】
また図1に示すように、上記ガスケット基板4,5および中間板6には、シリンダブロック3に形成されたシリンダボア3aの位置に形成された燃焼室孔7と、図示しない締結ボルトを挿通するための複数のボルト孔8と、冷却液を流通させるための複数の水孔9と、潤滑油を流通させるための油孔10とが穿設されている。
上記水孔9のうち、隣接する燃焼室孔7と燃焼室孔7との間に位置する2つの水孔9は、隣接するシリンダボア3aの中心とシリンダボア3aの中心とを結んだ中心線Cに対して直交する方向に整列するように形成されている。
そしてシリンダヘッド2およびシリンダブロック3には、この2つの水孔9に対応する位置に、冷却液を流通させる冷却液通路2a、3bがそれぞれ形成されており、シリンダヘッド2側の冷却液通路2aは、該シリンダヘッド2の下面に水孔9よりも若干大径の開口部を有し、シリンダブロック3側の冷却液通路3bはシリンダブロック3の上面にシリンダヘッド2側の冷却液通路2aよりもさらに大径の開口部を有している(図3、図4参照)。
なお図1には上記燃焼室孔7と燃焼室孔7との間に設けられた2つの水孔9に対応する冷却液通路2a、3bのみを図示しているが、その他の水孔9に対応する位置にもそれぞれ図示しない冷却液通路が形成されている。
【0010】
次に、上記一対のガスケット基板4,5には、それぞれ各燃焼室孔7を無端状に囲繞する環状のフルビード4a、5aと、隣接するフルビード4a,5aとフルビード4a,5aとを連結する2つの連結ビード4b、5bと、ガスケット基板4,5の外縁部に沿って形成されたハーフビード4c、5cとが形成されている。なお図1において、上記フルビード4a,5aおよび連結ビード4b、5bを示す実線は、それぞれ各ビードの頂部の稜線を示している。
上記フルビード4a,5aは、上記ガスケット基板4、5よりそれぞれ上記中間板6に向けて突出するように形成され、本実施例のエンジンにおいては、隣接するシリンダボア3aの距離が離れていることから、フルビード4a,5aとフルビード4a,5aとの間には平坦部4d、5dが形成されている。
【0011】
次に、上記連結ビード4b、5bについて説明するが、ここではシリンダヘッド2側のガスケット基板4に設けた連結ビード4bについて説明し、同じ構成を有するシリンダブロック3側のガスケット基板5に設けた連結ビード5bの説明を省略する。
まず、上記連結ビード4bは、フルビード4aとフルビード4aとが接近し、かつ上記中心線Cを挟んだ位置に設けられており、一方のフルビード4aから分岐して他方のフルビード4aに合流するように設けられている。
また上記連結ビード4bは、図3に示すように上記ガスケット基板4より上記フルビード4aと同じ方向に突出しており、またフルビード4aと同じ高さに形成されている。
さらに上記連結ビード4bは、一方のフルビード4aから接線方向に分岐して他方のフルビード4aに合流するように設けられており、フルビード4aとフルビード4aとを滑らかに連結するよう、円弧状に形成されている。
そして、連結ビード4bは上記燃焼室孔7と燃焼室孔7との間に位置する2つの水孔9の間に設けられており、さらにはシリンダヘッド2およびシリンダブロック3に設けた冷却液通路2a、3bと重ならないような位置に設けられている。
なお図4では、フルビード4aおよび連結ビード4bの頂部の稜線を1点鎖線で示すとともにこれらの基部を実線にて示し、フルビード4aおよび連結ビード4bの基部は滑らかに接続されている。
【0012】
次に、上記ハーフビード4c、5cはガスケット基板4,5の外縁部に沿って形成されており、該ハーフビード4c、5cの外周縁は中間板6に向けて突出して、それぞれシリンダヘッド2およびシリンダブロック3に当接するようになっている。
詳しくは図1に示すように上記フルビード4a,5aの周囲に配置された水孔10を囲繞するように形成され、かつ水孔10と上記ボルト孔9との間を通過するように形成されている。
そしてこのハーフビード4c、5cを設けることにより、上記水孔10を流通する冷却液がシリンダヘッド2とシリンダブロック3との間から外部に漏出してしまうのを防止するようになっている。
【0013】
次に、上記中間板6は平板状に形成され、上記ガスケット基板4,5と平面形状が同形に形成され、上記水孔9や油孔10等が穿設されるものの、下記フルビード、連結ビード、ハーフビードは形成されていない。
図2に示すように、中間板6における燃焼室孔7の位置には、該燃焼室孔7を囲繞するように、材料の内周縁を上記燃焼室孔7の外側に向けて折り返した折り返し部6aが形成され、この折り返し部6aの外周側の端部はフルビード4a,5aの内側の基部よりも内周に位置している。
なおこの折り返し部6aに代えて、薄板状のシムを中間板6の表面に固定する構成としてもよい。
【0014】
上記構成を有するシリンダヘッドガスケット1をシリンダヘッド2とシリンダブロック3とによって挟持すると、上記ガスケット基板4,5のフルビード4a,5aが弾性変形しながら圧縮され、これにより燃焼室孔7からの排気ガスの漏出を防止するようになっている。
また燃焼室孔7を囲繞するように上記中間板6には折り返し部6aが形成されていることから、燃焼室孔7の周辺の荷重が大きくすることができ、該燃焼室孔7周辺のシール性能を良好にするようになっている。
そして、本実施例のシリンダヘッドガスケット1は、燃焼室孔7を囲繞するフルビード4a,5aとフルビード4a,5aとを、2つの上記連結ビード4b、5bによって連結した構成を有している。
このような連結ビード4b、5bを設けることにより、上記ガスケット基板4、5に形成された平坦部4d、5dを、2つのフルビード4a,5aと2つの連結ビード4b、5bとによって囲繞することができる。
このように2つのフルビード4a,5aと2つの連結ビード4b、5bとによって囲繞された領域には、上記ガスケット基板4の上記平坦部4dとシリンダヘッド2との間に空間S1が形成され、ガスケット基板5の平坦部5dとシリンダブロック3との間には空間S2が形成されることとなる。
【0015】
一方、連結ビード4b、5bは上記水孔9に対して中心線C側に形成され、水孔9が上記平坦部4d、5dよりも外側に位置していることから、この水孔9を介してシリンダヘッド2とシリンダブロック3との間に流入した冷却液は、2つのフルビード4a,5aと2つの連結ビード4b、5bとによって上記空間S1,S2への流入が阻止される。
特に、連結ビード4b、5bはシリンダヘッド2およびシリンダブロック3に形成された冷却液通路2a、3bの開口部と重ならないように設けられているため、上記空間S1,S2への冷却液の流入が阻止されるようになっている。
このように、上記連結ビード4b、5bによって上記空間S1,S2への冷却液の流入を防止することにより、隣接する燃焼室孔7と燃焼室孔7との間に位置する上記平坦部4d、5dに塗布されたコーティングの損傷を防止することが可能となっている。
つまり、従来のフルビードとフルビードとが離隔したシリンダヘッドガスケットでは、上記平坦部の面圧が低くなるため、当該平坦部に上記水孔から冷却液が入り込みやすい状態となっていた。
その結果、シリンダボア3aでの爆発によって燃焼室孔7周辺のガスケット基板4、5が加熱され、伝熱により平坦部に達した冷却液が蒸発し、その蒸気によって上記コーティングが損傷され、はく離してしまうという問題があった。
【0016】
また、上記連結ビード4b、5bはフルビード4a,5aより接戦方向に分岐していることから、これらの結合部分における面圧が一定となり、面圧の調整を容易に行うことが可能となっている。
さらに、本実施例では特に燃焼室孔7と燃焼室孔7とを結ぶ中心線Cに向けて分岐するように形成することで、上記シリンダブロック3に形成した冷却液通路3bの開口部に沿って連結ビード4b、5bを形成することができ、さらには連結ビード4b、5bにおける頂部から水孔側の基部までの幅を一定として、連結ビード4b、5bとフルビード4a,5aとにおける水孔10側の面圧を安定させることができる。
【0017】
図5、図6は第2、第3実施例におけるシリンダヘッドガスケット1の要部拡大図を示している。なお、第1実施例と共通する部材については同じ符号を用いて説明するものとし、共通する部分についての説明を省略する。
図5に示す第2実施例のシリンダヘッドガスケット1は、上記連結ビード4b、5bがフルビード4a,5aに対して接線方向に分岐するものの、燃焼室孔7と燃焼室孔7とを結ぶ中心線Cより離隔する方向に分岐するように形成されている。
この第2実施例のシリンダヘッドガスケット1によれば、連結ビード4b、5bにおける頂部から上記空間S1,S2側の基部までの幅を一定とすることができることから、連結ビード4b、5bとフルビード4a,5aとにおける平坦面4d、5d側の面圧を安定させることができる。
また図6に示す第3実施例のシリンダヘッドガスケット1は、上記連結ビード4b、5bがフルビード4a,5aとフルビード4a,5aとを直線状に連結するように分岐するように形成されている。
このような第2、第3実施例におけるシリンダヘッド2においても、燃焼室孔7と燃焼室孔7との間に形成された平坦部4d、5dにおける面圧を高くすることができるため、高いシール性を得ることが可能となっている。
【符号の説明】
【0018】
1 シリンダヘッドガスケット 2 シリンダヘッド
3 シリンダブロック 4,5 ガスケット基板
4a,5a フルビード 4b,5b 連結ビード
4d、5d 平坦部(領域) S1,S2 空間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダブロックに形成されたシリンダボアの位置にあわせて形成した複数の燃焼室孔と、シリンダブロックに形成された冷却液通路の位置にあわせて形成した水孔と、上記燃焼室孔を囲繞するフルビードとを有するガスケット基板を備え、
隣接する上記フルビードとフルビードとを相互に離隔した位置に形成したシリンダヘッドガスケットにおいて、
隣接するフルビードとフルビードとが接近し、かつ隣接する燃焼室孔の中心同士を結んだ中心線を挟んだ位置に、一方のフルビードから分岐して他方のフルビードに合流し、かつ上記フルビードと同じ方向に突出する2つの連結ビードを設け、
さらに、上記水孔が上記フルビードおよび連結ビードによって囲繞された領域の外側に位置するように上記連結ビードを設けたことを特徴とするシリンダヘッドガスケット。
【請求項2】
上記連結ビードは、円弧状のフルビードから接線方向に分岐し、かつフルビードとフルビードとを滑らかに連結することを特徴とする請求項1に記載のシリンダヘッドガスケット。
【請求項3】
上記連結ビードは、円弧状のフルビードから上記中心線に向けて接線方向に分岐することを特徴とする請求項2に記載のシリンダヘッドガスケット。
【請求項4】
燃焼室孔と燃焼室孔との間に、燃焼室孔の整列方向に直交する方向に整列した複数の水孔を設け、
上記連結ビードを上記水孔と水孔との間に形成したことを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれかに記載のシリンダヘッドガスケット。
【請求項5】
上記連結ビードを、シリンダブロックの表面に開口するとともに上記水孔と連通する冷却液通路と重ならない位置に設けたことを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれかに記載のシリンダヘッドガスケット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−92877(P2012−92877A)
【公開日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−239509(P2010−239509)
【出願日】平成22年10月26日(2010.10.26)
【出願人】(000228383)日本ガスケット株式会社 (43)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】