シロキサンポリマー架橋硬化物
【課題】シルセスキオキサン骨格をケイ素系ポリマーの主鎖に含み、かつ耐熱性に優れるだけではなく、常温域で線膨張係数の非常に低い架橋シリコーン硬化物を提供すること。
【解決手段】式(1)で表されるケイ素化合物と、式(2)で表される架橋性ケイ素化合物及び式(2)で表される架橋性ケイ素化合物のオリゴマーからなる群より選ばれる一以上から得られる、ガラス転移点が30℃以下、かつ線膨張率が10ppm以下である、シロキサンポリマー架橋硬化物による。
(式(1)中、mは、独立して4〜30の整数を表し;nは、重量平均分子量2,000〜10,000,000を満たす数字を表すR3−Si(R4)3(2)
【解決手段】式(1)で表されるケイ素化合物と、式(2)で表される架橋性ケイ素化合物及び式(2)で表される架橋性ケイ素化合物のオリゴマーからなる群より選ばれる一以上から得られる、ガラス転移点が30℃以下、かつ線膨張率が10ppm以下である、シロキサンポリマー架橋硬化物による。
(式(1)中、mは、独立して4〜30の整数を表し;nは、重量平均分子量2,000〜10,000,000を満たす数字を表すR3−Si(R4)3(2)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シルセスキオキサン骨格を含むシロキサンポリマーの架橋性組成物から得られる、シロキサンポリマー架橋硬化物に関する。
【背景技術】
【0002】
シルセスキオキサン骨格を含むポリマーは、特異な構造を有し、またそれによる特異な効果が期待されるため、様々な分野から注目されている。このようなシルセスキオキサン骨格を含むポリマーには、シルセスキオキサン骨格を主鎖に含むケイ素系重合体が知られている(例えば、特許文献1参照。)。このケイ素系重合体は、透明性、皮膜形成性等に優れることから、フィルム、シート及び成形体に使用することができる。しかしながら前記ケイ素系重合体は、熱可塑性を有することから、成形体に耐熱性を要求される分野への応用が制限される。このように前記ケイ素系重合体には、成形体の耐熱性において検討の余地が残されている。
そこで、架橋性ケイ素化合物を反応させて架橋性組成物とし、シロキサンポリマーで形成されるシロキサンポリマー架橋硬化物を形成し、成形体の耐熱性を上げる検討がなされている(例えば、特許文献2参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−22207号公報
【特許文献2】特開2008−280420号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、通常知られているケイ素系の重合体からなる材料は、線膨張係数が金属や通常の樹脂材料と比べても高く、このことが、フィルムや成形体へ応用する際に、寸法安定性あるいは樹脂との接着界面における応力集中といった点で問題となっていた。
【0005】
本発明は、シルセスキオキサン骨格をケイ素系ポリマーの主鎖に含み、かつ耐熱性に優れるだけではなく、常温域で線膨張係数が非常に低い架橋シリコーン硬化物を提供することを課題とする。
特許文献1,2では本願明細書の式(1)で表されるケイ素化合物を用いたポリマーが開示されている。しかしながら、前記ポリマーに関しては、シルセスキオキサン骨格間のシロキサン鎖を短くして、耐熱性に優れる硬いフィルムを得るという目的で開発されたため、mが3以下のポリマーしか合成されておらず、ポリマーのガラス転移点や線膨張係数については、検討されていない。一方、本発明はこれとは逆の目的で開発されており、シロキサン鎖を長くし、フレキシブルな部分を持たせつつ、架橋硬化物の線膨張率が非常に低いという、相反する特性を両立させたことに特徴がある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、ケイ素系ポリマーの主鎖に含むシルセスキオキサン骨格間のシロキサン鎖を長くする(mを4以上にする)ことにより、常温(30℃)以下で線膨張係数が非常に低いという特性を発現することを見出し、この知見に基づいて、シルセスキオキサン骨格を主鎖に含むシロキサンポリマー末端の水酸基と、この水酸基に対する結合性を有する3官能以上の架橋性ケイ素化合物とを反応させてなる、シロキサンポリマー架橋硬化物を完成させた。
【0007】
すなわち本発明は下記[1]〜[11]で表される発明を提供する。
[1] 式(1)で表されるケイ素化合物と、式(2)で表される架橋性ケイ素化合物及び式(2)で表される架橋性ケイ素化合物のオリゴマーからなる群から選ばれる一以上とから得られる、シロキサンポリマー架橋硬化物。
【化1】
(式(1)中、mは、独立して4〜30の整数を表し;nは、重量平均分子量2,000〜10,000,000を満たす数字を表し;R0は、独立して、フェニル又はシクロヘキシルを表し;R1及びR2は、独立してフェニル、シクロヘキシル又は炭素数1〜5のアルキルを表し、前記フェニル及びシクロヘキシルは、任意の水素が独立してハロゲン又は炭素数1〜20のアルキルで置き換えられてもよく、前記炭素数1〜5のアルキルは、任意の水素が独立してフッ素で置き換えられてもよく、任意の−CH2−が独立して−O−又は炭素数5〜20のシクロアルキレンで置き換えられてもよい。)
R3−Si(R4)3 (2)
(式(2)中、R3は炭素数1〜20のアルキル又は炭素数6〜30のアリールを表し、R4は、独立して、ハロゲン、炭素数1〜15のアシル、炭素数1〜15のアルコキシル、炭素数1〜15のオキシム、炭素数1〜15の置換基を有していてもよいアミノ、炭素数1〜15の置換基を有していてもよいアミド、炭素数1〜15の置換基を有していてもよいアミノキシ、又は炭素数1〜15の置換基を有していてもよいビニルアルコール残基を表す。)
[2] mが、4〜12の整数である、[1]記載のシロキサンポリマー架橋硬化物。
[3] mが、4である、[1]記載のシロキサンポリマー架橋硬化物。
[4] 式(2)で表される架橋性ケイ素化合物が、メチルトリメトキシシラン、メチルトリス(メチルエチルケトキシム)シラン又はメチルトリアセトキシシランであることを特徴とする[1]〜[3]のいずれかに記載のシロキサンポリマー架橋硬化物。
[5] R0がフェニルであり、R1及びR2がそれぞれ独立して、メチル又はフェニルであることを特徴とする[1]〜[4]のいずれかに記載のシロキサンポリマー架橋硬化物。[6] R0がフェニルであり、R1及びR2がメチルであることを特徴とする[5]記載のシロキサンポリマー架橋硬化物。
[7] [1]〜[6]のいずれかに記載のシロキサンポリマー架橋硬化物からなる光学材料。
[8] 式(1)で表されるケイ素化合物と、式(2)で表される架橋性ケイ素化合物及び式(2)で表される架橋性ケイ素化合物のオリゴマーからなる群から選ばれる一以上とを反応させる工程を含む、シロキサンポリマー架橋硬化物の製造方法。
【化2】
(式(1)中、mは、独立して4〜30の整数を表し;nは、重量平均分子量2,000〜10,000,000を満たす数字を表し;R0は、独立して、フェニル又はシクロヘキシルを表し;R1及びR2は、独立してフェニル、シクロヘキシル又は炭素数1〜5のアルキルを表し、前記フェニル及びシクロヘキシルは、任意の水素が独立してハロゲン又は炭素数1〜20のアルキルで置き換えられてもよく、前記炭素数1〜5のアルキルは、任意の水素が独立してフッ素で置き換えられてもよく、任意の−CH2−が独立して−O−又は炭素数5〜20のシクロアルキレンで置き換えられてもよい。)
R3−Si(R4)3 (2)
(式(2)中、R3は炭素数1〜20のアルキル又は炭素数6〜30のアリールを表し、R4は、独立して、ハロゲン、炭素数1〜15のアシル、炭素数1〜15のアルコキシル、炭素数1〜15のオキシム、炭素数1〜15の置換基を有していてもよいアミノ、炭素数1〜15の置換基を有していてもよいアミド、炭素数1〜15の置換基を有していてもよいアミノキシ、又は炭素数1〜15の置換基を有していてもよいビニルアルコール残基を表す。)
[9] 式(3)で表されるシルセスキオキサンと、式(4’)で表される化合物とを反応させて式(6)の化合物を得た後、前記式(6)の化合物と式(4'')で表される化合物とをさらに反応させることにより、式(1)で表されるケイ素化合物を得る工程を含む、[8]記載のシロキサンポリマー架橋硬化物の製造方法。
【化3】
(式(3)、(4')、(6)、(4'')中、R0、R1及びR2は式(1)におけるR0、R1及びR2と同様に定義される基であり、Xはハロゲンであり、mは4〜30の整数であり、lは0〜14の整数であり、lはmより小さい整数であってm−(l×2)−2>0である。)
[10] 式(3)で表されるシルセスキオキサンを、式(5)で表される化合物と反応させることにより、式(1)で表されるケイ素化合物を得る工程を含む、[8]記載のシロキサンポリマー架橋硬化物の製造方法。
【化4】
(式(3)中、R0、R1は式(1)におけるR0、R1と同様に定義される基である。)
【化5】
(式(5)中、R2は式(1)におけるR2と同様に定義される基であり、hは3〜6の整数である。)
[11] 式(3)で表されるシルセスキオキサンと、式(4’)で表される化合物とを反応させて式(6)の化合物を得た後、式(6)の化合物と式(5)で表される化合物とをさらに反応させることにより、式(1)で表されるケイ素化合物を得る工程を含む、[8]記載のシロキサンポリマー架橋硬化物の製造方法。
【化6】
(式(3)、(4')、(5)、(6)中、R0、R1及びR2は式(1)におけるR0、R1及びR2と同様に定義される基であり、Xはハロゲンであり、mは4〜30の整数であり、lは0〜12の整数であり、lはmより小さい整数であってm−(l×2)−2>0であり、hは3〜6の整数である。)
【発明の効果】
【0008】
本発明では、式(1)で表されるケイ素化合物と式(2)で表される架橋性ケイ素化合物又はそのオリゴマーとを反応させてなる、常温域で線膨張係数の非常に低い架橋シリコーン硬化物を製造する技術を提供することができる。
通常知られているケイ素系の重合体からなる材料と比較すると、常温域の線膨張係数が1/100以下のレベルである。したがって、金属や樹脂材料との接着界面の応力集中が低く、封止材や接着フィルムといった光学材料に非常に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】式(11)で表される化合物のNMRチャート
【図2】式(12)で表される化合物のNMRチャート
【図3】式(13)で表される化合物のNMRチャート
【図4】式(13)で表される化合物のGPCチャート
【図5】式(14)で表される化合物のNMRチャート
【図6】式(14)で表される化合物のGPCチャート
【図7】式(15)で表される化合物のGPCチャート
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明のシロキサンポリマー架橋硬化物は、式(1)で表されるケイ素化合物と、式(2)で表される架橋性ケイ素化合物とから得られる。前記架橋性ケイ素化合物は一種でも二種以上でもよく、オリゴマーでもよく、これらの混合物でもよい。
【0011】
【化7】
R3−Si(R4)3 (2)
【0012】
式(1)中、R0は独立してフェニル又はシクロアルキルを表す。R0のフェニル及びシクロアルキルは、任意の水素が独立してハロゲン又は炭素数1〜20のアルキルで置き換えられてもよい。また、式(1)中、R1及びR2は独立してフェニル、シクロヘキシル、又は炭素数1〜5のアルキルを表す。R1及びR2における炭素数1〜5のアルキルは、任意の水素が独立してフッ素で置き換えられてもよく、任意の−CH2−が独立して−O−又は炭素数5〜20のシクロアルキレンで置き換えられてもよい。
【0013】
R1及びR2におけるフェニル及びシクロヘキシルは、任意の水素が独立してハロゲン又は炭素数1〜20のアルキルで置き換えられてもよい。
【0014】
R1及びR2におけるフェニル及びシクロヘキシルの置換基である炭素数1〜20のアルキルは、任意の水素が独立してフッ素で置き換えられてもよく、任意の−CH2−が独立して−O−、炭素数5〜20のシクロアルキレン又はフェニレンで置き換えられてもよい。
【0015】
具体的には、R0がフェニルで、R1及びR2が独立してメチル又はフェニルであることが好ましい。光学特性等の諸特性を得る観点、及び合成の容易性の観点から、R0はフェニルであり、R1及びR2はメチルであることが特に好ましい。
【0016】
式(1)中、mは独立して4〜30の整数を表し、nは重量平均分子量2,000〜10,000,000を満たす数字を表す。mは、得られるシロキサンポリマー架橋硬化物の物性、ガラス転移点が30℃以下、かつ線膨張率が10ppm以下、を実現するために4〜30である必要がある。またnは、合成の容易さ、得られるシロキサンポリマー架橋硬化物の物性等の観点から重量平均分子量5,000〜2,000,000を満たす数字であることが好ましく、重量平均分子量7,000〜1,000,000を満たす数字であることがより好ましい。
【0017】
重量平均分子量は、後述の実施例に記載されるように、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)にて得られたクロマトグラムを、分子量標準サンプルにて得られた検量線により計算して求める。
【0018】
ケイ素化合物(1)は、特許文献1に記載されているように、式(3)で表されるシルセスキオキサンと式(4)で表される鎖状シロキサンとをトリエチルアミン等の塩基の存在下で反応させることによって得られる。式(1)中のmは、前記鎖状シロキサンの種類によって決めることができる。式(1)中のnは、反応条件(温度、式(4)で表される鎖状シロキサンの濃度等)によって調整される。なお、式(4)においてXはハロゲンを示し、塩素が好ましい。
【0019】
【化8】
【0020】
また、式(3)で表されるシルセスキオキサンと、例えば式(4')の化合物と反応させて式(6)の化合物を得て、これを中間体とし、式(4'')の化合物と反応させて式(1)の化合物を合成してもよい。なお、式(4')及び(4'')においてXはハロゲンを示し、塩素が好ましい。
【化9】
ここで、lは独立して0〜14でmより小さい整数であってm−(l×2)−2>0である。このうちlは0〜3の整数であることが好ましい。
【0021】
また、式(1)のシロキサンポリマーは、以下の式で表される方法でも合成できる。
【化10】
【0022】
上式中、hは3〜6の整数である。このうち、hは3又は4が好ましい。
【0023】
なお、式(3)で表されるシルセスキオキサンと、式(4')の化合物とを反応させて式(6)の化合物を得て、これを中間体とし、式(5)の化合物と反応させて式(1)の化合物を合成してもよい。
【0024】
上記の反応は平衡化反応と呼ばれる反応であり、触媒として強酸もしくは強塩基が通常用いられる。シルセスキオキサンの反応中の安定性を考慮すると、触媒としては強酸の方が好ましい。このような触媒として、塩酸、硫酸、フルオロ硫酸、トリフルオロメタンスルホン酸、活性白土、スルホン酸系イオン交換樹脂が挙げられる。このうち、トリフルオロメタンスルホン酸、活性白土、スルホン酸系イオン交換樹脂がより好ましい。
【0025】
上記の反応において、溶媒を用いて行うことは好ましい。溶媒として、上式中の反応式左側に表される化合物を溶解し得る溶剤であって触媒として用いる酸、塩基化合物と反応しない溶媒であれば何でもよく、例えばヘキサンやヘプタン等の炭化水素系溶媒、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶媒、ジエチルエーテル、テトラハイドロフラン(THF)、ジオキサン、シクロペンチルメチルエーテル等のエーテル系溶媒、塩化メチレン、四塩化炭素等のハロゲン化炭化水素系溶媒などが挙げられる。溶媒は、一種類でも、二種類以上の混合物であってもよい。
【0026】
上記2つの式で記載される反応で得られる、式(1)のシロキサンポリマーにおいて、式中のmは単一ではなく複数の整数を与えることがある。この場合、mは4以上の整数を持つポリマーの混合物であればよい。
【0027】
なお、式(3)で表されるシルセスキオキサンも、特許文献1に記載されているように、式(7)で表される化合物と、式(8)で表される化合物を反応させ、加水分解することによって得られる。ここで、Xはハロゲン又は水素を表す。そして式(7)で表される化合物も、特許文献1に記載されているように、式(9)で表される化合物を、水酸化ナトリウム及び水の存在下で加水分解、縮重合することによって得られる。このときの反応は有機溶剤の存在下であっても非存在下であってもよい。
【0028】
【化11】
【0029】
架橋性ケイ素化合物は、得られるシロキサンポリマー架橋硬化物の硬度、耐熱性の向上、化合物の入手の容易さの観点から、ケイ素化合物中の水酸基と反応する基又は原子(以下「架橋性官能基」とも言う)を3以上有する、式(2)で表される化合物、及びそのオリゴマーからなる群から選ばれる一以上を用いる。架橋性ケイ素化合物は、一種類でも、二種以上の混合物であってもよい。
【0030】
R3−Si(R4)3 (2)
式(2)中、R3は炭素数1〜20のアルキル、又は炭素数6〜30のアリールを表し、R4は、独立して、ハロゲン、炭素数1〜15のアシル、炭素数1〜15のアルコキシル、炭素数1〜15のオキシム、炭素数1〜15の置換基を有していてもよいアミノ、炭素数1〜15の置換基を有していてもよいアミド、炭素数1〜15の置換基を有していてもよいアミノキシ、及び炭素数1〜15の置換基を有していてもよいビニルアルコール残基を表す。ハロゲンとしては、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素が例示できる。また、炭素数1〜15のアシルとしては、アセチルが例示できる。また、炭素数1〜15のアルコキシルとしては、メトキシ、エトキシが例示できる。また、炭素数1〜15のオキシムとしては、エチルメチルオキシムが例示できる。また、炭素数1〜15の置換基を有していてもよいアミノとしては、シクロヘキシルアミノが例示できる。また、炭素数1〜15の置換基を有していてもよいアミドとしては、N−メチルアセトアミドが例示できる。また、炭素数1〜15の置換基を有していてもよいアミノキシとしては、ジエチルアミノキシが例示できる。また、炭素数1〜15の置換基を有していてもよいビニルアルコール残基としては、1−メチルビニルアルコール残基が例示できる。
【0031】
式(2)で表される架橋性化合物の3つのR4は、独立してアルコキシ、アセトキシ、又はオキシムであることが好ましい。
【0032】
式(2)で表される架橋性ケイ素化合物としては、例えば、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、メチルトリス(メチルエチルケトキシム)シラン、メチルトリアセトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、p−スチリルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−フェニル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−ウレイドプロピルトリエトキシシラン、3−クロロプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、3−イソシアネートプロピルトリエトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン、ビニルトリス(メトキシエトキシ)シラン、ビニルトリイソプロポキシシラン、及びアリルトリメトキシシランが挙げられる。このうち、メチルトリメトキシシラン、メチルトリス(メチルエチルケトキシム)シラン又はメチルトリアセトキシシランが好ましい。
【0033】
式(2)で表される架橋性ケイ素化合物のオリゴマーは、入手のしやすさの観点から、構成単位の繰り返しの数(重合度)が2〜20のオリゴマーが好ましく、2〜15であることがより好ましく、4〜10であることがさらに好ましい。オリゴマーとしては、例えば、コルコート(株)製のメチルシリケート51(テトラメトキシシラン4量体)、メチルシリケート53(テトラメトキシシラン7量体)、エチルシリケート40(テトラエトキシシラン5量体)、エチルシリケート48(テトラエトキシシラン10量体)が挙げられる。架橋性ケイ素化合物のオリゴマーは、多摩化学工業(株)等からも入手できる。
【0034】
特に、架橋性ケイ素化合物は、テトラエトキシシラン、そのオリゴマー、メチルトリメトキシシランオリゴマー、ビニルトリメトキシシラン、3−プロピルトリメトキシシラン、及び3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシランからなる群から選ばれる一以上であることが、入手のしやすさ、及び架橋剤として用いた場合の効果の観点から好ましい。
【0035】
式(1)で表されるケイ素化合物と、式(2)で表される架橋性ケイ素化合物又はそのオリゴマーとの架橋は、架橋性ケイ素化合物が有する、式(1)で表されるケイ素化合物中の水酸基と反応する架橋性の官能基の種類に基づいて、両ケイ素化合物を適切な条件下で共存させることによって行われる。
ケイ素化合物と架橋性ケイ素化合物又はそのオリゴマーとの反応は、必要に応じて、触媒の存在下で行うことができる。触媒としては、例えば、酢酸、塩酸等の酸触媒、及び有機錫系触媒が挙げられる。触媒の種類及び使用量は、架橋性官能基の種類に応じて決めることができ、例えば架橋性の官能基がエトキシである場合では、例えば触媒にはラウリン酸ジブチル錫が、架橋性ケイ素化合物100重量部に対して0.01〜5重量部で使用される。
【0036】
シロキサンポリマー架橋硬化物が生成できているかどうかについては、式(1)で表されるケイ素化合物と、式(2)で表される架橋性ケイ素化合物又はそのオリゴマーとの生成物の耐熱性や溶剤に対する溶解性の変化によって確認することができる。例えば、120℃に加熱したときに、生成物が融解しなくなることによってシロキサンポリマー架橋硬化物が生成されたことを確認することができる。また、生成物がアセトンに対して不溶であることによってシロキサンポリマー架橋硬化物が生成されたことを確認することができる。
【0037】
本発明における、架橋前の式(1)で表されるケイ素化合物と、式(2)で表される架橋性ケイ素化合物又はそのオリゴマーとの混合物(以下、シロキサンポリマー組成物ということがある。)における式(2)で表される架橋性ケイ素化合物又はそのオリゴマーの含有量は、硬化物の熱特性等の向上の観点から、式(1)で表されるケイ素化合物100重量部に対して0.1〜50重量部であることが好ましく、1〜20重量部であることがより好ましく、5〜10重量部であることがさらに好ましい。
【0038】
架橋前のシロキサンポリマー組成物は、本発明の効果が得られる範囲において、式(1)で表されるケイ素化合物及び式(2)で表される架橋性ケイ素化合物又はそのオリゴマー以外の他の成分をさらに含有していてもよい。このような他の成分としては、例えば溶剤、触媒、本発明のシロキサンポリマー架橋硬化物以外の他のポリマー、及び各種の添加剤が挙げられる。触媒には、本発明のシロキサンポリマー架橋硬化物の説明で前述した触媒を用いることができる。
【0039】
溶剤は、ケイ素化合物及び架橋性ケイ素化合物又はそのオリゴマーを含む含有成分を溶解する溶剤であることが好ましく、また含有成分に対して反応性を有さない溶剤であることが好ましい。溶剤は、一種でも二種以上の混合物でもよい。このような溶剤としては、例えば、ヘキサンやヘプタン等の炭化水素系溶剤、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶剤、ジエチルエーテル、テトラハイドロフラン(THF)、ジオキサン等のエーテル系溶剤、塩化メチレン、四塩化炭素等のハロゲン化炭化水素系溶剤、及び酢酸エチル等のエステル系溶剤が挙げられる。
【0040】
添加剤は、シロキサンポリマー架橋硬化物への所望の特性の付与や向上の観点から、公知の各種添加剤を利用することができる。このような添加剤としては、例えば、界面活性剤、シリカ、マイカ等の充填剤等が挙げられる。
【0041】
架橋前のシロキサンポリマー組成物における溶剤の含有量は、架橋性組成物の塗布性を高める観点から、架橋性組成物に配合される固形の成分の含有量が架橋性組成物において、10〜90重量%となる量であることが好ましく、30〜70重量%となる量であることがより好ましく、40〜60重量%となる量であることがさらに好ましい。
【0042】
架橋前のシロキサンポリマー組成物における触媒の含有量は、概ね、架橋性ケイ素化合物100重量部に対して0.1〜10重量部であることが好ましく、0.5〜5重量部であることがより好ましく、0.5〜2重量部であることがさらに好ましい。
【0043】
架橋前のシロキサンポリマー組成物における他のポリマーの含有量は、他のポリマーの添加によるシロキサンポリマー架橋硬化物の特性の向上の観点から任意に決めることができる。
【0044】
架橋前のシロキサンポリマー組成物における添加剤の含有量は、添加剤の添加による効果を得る観点から、0.1〜40重量%であることが好ましく、0.5〜20重量%であることがより好ましく、1〜10重量%であることがさらに好ましい。
【0045】
添加剤としては、アクリル系、スチレン系、ポリエチレンイミン系もしくはウレタン系の高分子分散剤;アニオン系、カチオン系、ノニオン系もしくはフッ素系の界面活性剤;シリコン系樹脂等の塗布性向上剤;シランカップリング剤等の密着性向上剤;フェノール系、硫黄系、およびリン系等の酸化防止剤;アルコキシベンゾフェノン類等の紫外線吸収剤;ポリアクリル酸ナトリウム等の凝集防止剤;エポキシ化合物、メラミン化合物もしくはビスアジド化合物等の熱架橋剤;有機カルボン酸等のアルカリ溶解性促進剤;二酸化チタン、モリブデン赤、紺青、群青、カドミウム黄、カドミウム赤および有機色素等の着色剤;三酸化アンチモン、ブロム化合物およびリン化合物等の難燃剤;金属酸化物、シリカ、ガラスビーズ、金属水酸化物等の粉末状の補強剤や充填剤等が利用できる。
【0046】
架橋前のシロキサンポリマー組成物の未硬化の膜は、基板やフィルムに架橋前のシロキサンポリマー組成物を、ディップ法や、バーコーター、アプリケーター等で塗布する方法等で塗布することによって形成することができる。
【0047】
前記の架橋前シロキサンポリマー組成物の硬化は、架橋性官能基の種類に応じて、含水気体の雰囲気中への放置、加熱や光照射等の、本発明のシロキサンポリマーを生成する前述した条件に基づいて処理することによって行うことができる。例えば架橋前シロキサンポリマー組成物の硬化は、湿度50%程度の通常の空気中へ放置することにより、気中の水分による加水分解によって硬化する。この硬化の速度は、前記の架橋前シロキサンポリマー組成物中への触媒の配合によって増加し、また組成物を加熱することによっても増加する。
【0048】
本発明のシロキサンポリマー架橋硬化物は、シロキサン鎖とシルセスキオキサンとが架橋性ケイ素化合物を介して交互に配列し、かつ架橋性ケイ素化合物によって架橋してなる、主にシラノールから形成される主鎖の架橋物によって構成される。本発明のシロキサンポリマー架橋硬化物は、ケイ素化合物に特有の溶解性、耐熱性、及び難燃性等の特性、シルセスキオキサンに特有のガス透過性、光透過性、及び低誘電率等の特性及び架橋構造による機械的強度等の特性に優れることが期待される。
また、本発明のシロキサンポリマー架橋硬化物は、ガラス転移点が常温30℃以下、かつ線膨張率が10ppm以下である、という特性から、このような幅広い用途への利用が期待される。
【0049】
本発明のシロキサンポリマー架橋硬化物の用途としては、例えば、光学材料が挙げられるが、より具体的には、金属溶出防止膜、ガスバリア膜、反射防止膜等の基板用コーティング剤、液状封止剤、層間絶縁膜、汚れ防止用コーティング剤、マイクロレンズ、導光板、光導波路材料等の光学素子、LED封止材料、光透過性接着剤、ディスプレイ基板及びプリント配線用基板等の電気、電子材料への用途が挙げられる。
【実施例】
【0050】
GPC測定の測定条件を以下に示す。
<測定条件>
カラム:Shodex KF−806M 300×8.0mm
移動相:THF
流速:1.0ml/min
温度:35℃
検出器:UV(256nm)
分子量標準サンプル:分子量既知のポリスチレン
熱特性はTG−DTA(熱重量−示差熱分析)によって評価した。TG−DTA測定の条件を以下に示す。
<測定条件>
測定装置:示差熱熱重量同時測定装置EXSTAR6000 TG/DTA6300(セイコーインスツル株式会社製)
パン:Pt
標準試料:酸化アルミニウム(10mg)
サンプル質量:約10mg
温度プログラム:25〜800℃
昇温速度:10℃/min
雰囲気:窒素
【0051】
[実施例1](シルセスキオキサンの合成:DDMe−SiOH)
1Lフラスコに、サンプリング管、撹拌シール、温度計保護管、滴下ロートを取り付けた。フラスコ内部を窒素置換した後、THF 500mL、トリエチルアミン6.30g(62.3mmol)をフラスコ内に入れ、これに攪拌しながら式(10)で表される化合物30.20g(25.3mmol)を入れた。フラスコを冷却し、これにジメチルジクロロシラン7.83g(60.7mmol)を内温が5℃を超えないように滴下した。滴下終了後、冷却下で2時間攪拌し、その後、室温(25℃)にて攪拌を行った。一夜室温にて攪拌後、純水を加えて反応を停止した。純水を加えて攪拌後、下層を抜き出した。この水洗操作を6回行った。
上層を抜き出し、エバポレーターにより濃縮して白色ペースト状の粗生成物を得た。これにヘキサンを加えて攪拌を30分間行い、不溶分をろ別回収し、50℃で、減圧乾燥を行い、無色の粉末22.8gを得た。1H−NMR及びGPC分析より、式(11)で表される化合物(シルセスキオキサン)が95%の純度で得られていることを確認した。
【化12】
【0052】
[実施例2](シルセスキオキサンの合成:DDMe−SiOH)
上記実施例1のうち、THFをシクロペンチルメチルエーテルに変更した以外は同様にして合成した。同様に式(11)で表される化合物(シルセスキオキサン)を合成した。化合物は95%の純度で得られた。NMRチャートを図1に示す。
【0053】
[実施例3](シルセスキオキサンの合成:DDMe−Si2OH)
500mLフラスコに、サンプリング管、撹拌シール、温度計保護管、滴下ロートを取り付けた。フラスコ内部を窒素置換した後、シクロペンチルメチルエーテル100mL、トリエチルアミン3.63g(0.0355mol)、1,3−ジクロロテトラメチルジシロキサン12.72g(60.7mmol)をフラスコ内に入れた。フラスコを内温5℃以下に冷却し、これに攪拌しながら式(10)で表される化合物15g(12.6mmol)を内温が5℃を超えないように入れた。滴下終了後、冷却下で2時間攪拌し、その後室温にて攪拌を行った。一夜室温にて攪拌後、純水を加えて反応を停止した。
この後は上記実施例1と同様に操作を行い、収率18.0%で白色粉末3.3gを得た。1H−NMR、GPC分析、及びTOF/MSより、式(12)で表される化合物(シルセスキオキサン)が95%の純度で得られた。
【化13】
NMRチャートを図2に示す。
【0054】
[実施例4](ケイ素化合物の合成:DDMe−Si5)
500mLフラスコ内部を窒素置換した後、式(11)で表される化合物15.0g(11.2mmol)、トリエチルアミン2.3g(22.5mmol)、シクロペンチルメチルエーテル150mLを入れた。内温を約0℃に保ち、攪拌しながら、1,5−ジクロロヘキサメチルトリシロキサン3.2g(11.5mmol)を滴下した。−5℃にて24時間攪拌を継続し、純水100mLを加えて反応を停止させた。純水にて8回水洗を行った後、上層を抜き出し、エバポレーターにより溶媒を留去することによりアメ状物質28.6gを得た。NMR分析より、得られた固体は式(13)で表されるケイ素化合物であることがわかった。得られたシロキサンポリマー(ケイ素化合物)をGPCで測定したところ、重量平均分子量Mwは5,900であった。
【化14】
【0055】
[実施例5](ケイ素化合物の合成:DDMe−Si5)
300mLフラスコ内部を窒素置換した後、式(11)で表される化合物15.0g(11.2mmol)、トリエチルアミン10.7g(106mmol)、脱水トルエン100mLを入れた。内温を約5℃に保ち、攪拌しながら、1,5−ジクロロヘキサメチルトリシロキサン3.1g(11.2mmol)を滴下した。5℃にて20時間攪拌を継続し、純水50mLを加えて反応を停止させた。純水1.1L、0.48M塩酸水溶液150mL、トルエン50mLを加えて洗浄、中性となったことを確認した後、上層を抜き出し、エバポレーターにより溶媒を留去することにより白色オイル状物質を得た。これを少量のトルエンに溶解後、冷却したヘキサンを滴下し、0℃で1時間攪拌後、上澄みを除去、残ったオイル状物質を減圧乾燥して、式(13)で表される透明なポリマー(ケイ素化合物)を約40%の収率で得た。
2回合成を実施した。1回目は、GPC分析より数平均分子量Mn=23,800、重量平均分子量Mw=74,200であり、シルセスキオキサン部分(式(13)の繰り返し部分n)が平均47ユニット(n=47)存在することがわかった。2回目は、GPC分析より数平均分子量Mn=40,300、重量平均分子量Mw=111,000であり、シルセスキオキサン部分が平均70ユニット存在することがわかった。合成2回目のNMRチャートを図3に示す。また、合成2回目のGPCチャートを図4に示す。
【0056】
[実施例6](ケイ素化合物の合成:DDMe−Si6)
50mLフラスコ内部を窒素置換した後、式(11)で表される化合物2.94g(2.2mmol)、トリエチルアミン2.23g(22mmol)、脱水トルエン20mLを入れた。内温を約5℃に保ち、攪拌しながら、1,7−ジクロロオクタメチルテトラシロキサン0.77g(2.2mmol)を加えた。その後は実施例4と同様に操作を行い、式(14)で表される透明なポリマー(ケイ素化合物)を約30%の収率で得た。
【化15】
GPC分析より数平均分子量Mn=22,600、重量平均分子量Mw=37,800であった。NMRチャートを図5に示す。また、GPCチャートを図6に示す。
【0057】
[実施例7](ケイ素化合物の合成:DDMe−Si8)
50mLフラスコ内部を窒素置換した後、式(12)で表される化合物3.0g(2.2mmol)、トリエチルアミン2.23g(22mmol)、脱水トルエン15mLを入れた。内温を約5℃に保ち、攪拌しながら、1,7−ジクロロヘキサメチルテトラシロキサン0.77g(2.2mmol)を加えた。5℃にて20時間攪拌を継続し、純水20mLを加えて反応を停止させた。白濁した有機層を分液し、その後は実施例4と同様に操作を行い、式(15)で表される透明なポリマー(ケイ素化合物)を約30%の収率で得た。
【化16】
GPC分析より数平均分子量Mn=43,800、重量平均分子量Mw=79,600であった。
GPCチャートを図7に示す。
【0058】
[実施例8]
(架橋硬化性組成物の作製)
表1の通り、実施例1〜7で得られたシルセスキオキサン及びケイ素化合物を用い、架橋剤としてメチルトリス(メチルエチルケトキシム)シラン、溶媒としてトルエンを用いてよく混合することにより、架橋硬化性のシロキサンポリマー組成物を作製した。
なお、表1のポリマーでPDMSとあるのは、式(16)で表される両末端にシラノール基を有するポリジメチルシロキサンであり、例えば、Gelest社製DMS−32(MW=36,000)(組成物5に使用)として入手できる。組成物6のPDMSは1,5−ジクロロヘキサメチルトリシロキサンを加水分解して両末端を水酸基に変換することにより得られる。
DD(Me)−Si3は、下記式(17)で表されるケイ素化合物であり、式(10)で表される化合物と、1,5−ジクロロヘキサメチルトリシロキサンとを反応させることにより得られる。また、DD(Me)−Si4は、下記式(18)で表されるケイ素化合物であり、式(10)で表される化合物と、1,7−ジクロロオクタメチルテトラシロキサンとを反応させることにより得られる。
【化17】
【0059】
【表1】
【0060】
表1において平均シルセスキオキサンユニット数は重量平均分子量(Mw)を各繰り返しユニット(ここで繰り返しユニットとは、上記実施例4〜8に記載の化学式において、[ ]nの中に表される部分をいう。)の化学式から算出した分子量で割ることにより算出された値である。
【0061】
[実施例9](シロキサンポリマー架橋硬化物の作製)
実施例8で得られたシロキサンポリマー組成物を、15分間攪拌、脱泡後、テフロン(登録商標)製の型に入れ、10分間風乾させた。オーブン中で80℃、1時間加熱し、さらに120℃、2時間加熱することにより硬化させ、得られた架橋硬化物を取り出した。結果、透明な架橋硬化物が得られた。
表2に、それぞれの架橋硬化物(硬化フィルム)、及び用いたシロキサンポリマー組成物、硬化物のTg、5%重量減少温度(Td5)、線膨張係数を記載する。
なお、線膨張係数の測定条件は以下の通り。
測定装置:熱応力歪測定装置TMA/SS100(SEIKO)、昇温レート:0.5(℃/min)、荷重:90(mN)
測定硬化物フィルム:長さ1cm、幅3mm
【0062】
【表2】
【0063】
上記の表の通り、シロキサン鎖が5(m=4)以上の架橋硬化物(フィルム)は常温(30℃)以下のTgを持ち、線膨張係数が1ppm/Kの特徴を持つことがわかる。一方、シロキサン鎖が短い(m=1〜3)とTgが常温以上となるため、常温で線膨張係数が低い架橋フィルムは得られない。
またポリシルセスキオキサン部分がないポリシロキサン(PDMS)からなる架橋硬化物(フィルム)は、常温以下のTgを持つが、線膨張係数は通常のシロキサン硬化物と同様の数字であり、やはり常温で線膨張係数が低い架橋フィルムは得られない。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明によれば、液状の組成物の塗布とその硬化という簡易な方法によって、高い硬度と耐熱性に加えて、高い光透過性を有するシロキサンポリマー架橋硬化物を得ることができる。また本発明によれば、液状の組成物の硬化によって本発明のシロキサンポリマー架橋硬化物が得られることから、適当な型を用いることによって、種々の形状の本発明のシロキサンポリマー架橋硬化物の形成が可能である。
本発明シロキサンポリマー架橋硬化物は、フレキシブルな部分を持たせつつ架橋硬化物の線膨張率が非常に低いという、相反する特性を両立させたことに特徴があり、したがって、各種表示素子における各種層を形成するための電気、電子材料を始め、レンズ等の光学材料への適用や、他の種々の技術分野への利用が可能である。
【技術分野】
【0001】
本発明は、シルセスキオキサン骨格を含むシロキサンポリマーの架橋性組成物から得られる、シロキサンポリマー架橋硬化物に関する。
【背景技術】
【0002】
シルセスキオキサン骨格を含むポリマーは、特異な構造を有し、またそれによる特異な効果が期待されるため、様々な分野から注目されている。このようなシルセスキオキサン骨格を含むポリマーには、シルセスキオキサン骨格を主鎖に含むケイ素系重合体が知られている(例えば、特許文献1参照。)。このケイ素系重合体は、透明性、皮膜形成性等に優れることから、フィルム、シート及び成形体に使用することができる。しかしながら前記ケイ素系重合体は、熱可塑性を有することから、成形体に耐熱性を要求される分野への応用が制限される。このように前記ケイ素系重合体には、成形体の耐熱性において検討の余地が残されている。
そこで、架橋性ケイ素化合物を反応させて架橋性組成物とし、シロキサンポリマーで形成されるシロキサンポリマー架橋硬化物を形成し、成形体の耐熱性を上げる検討がなされている(例えば、特許文献2参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−22207号公報
【特許文献2】特開2008−280420号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、通常知られているケイ素系の重合体からなる材料は、線膨張係数が金属や通常の樹脂材料と比べても高く、このことが、フィルムや成形体へ応用する際に、寸法安定性あるいは樹脂との接着界面における応力集中といった点で問題となっていた。
【0005】
本発明は、シルセスキオキサン骨格をケイ素系ポリマーの主鎖に含み、かつ耐熱性に優れるだけではなく、常温域で線膨張係数が非常に低い架橋シリコーン硬化物を提供することを課題とする。
特許文献1,2では本願明細書の式(1)で表されるケイ素化合物を用いたポリマーが開示されている。しかしながら、前記ポリマーに関しては、シルセスキオキサン骨格間のシロキサン鎖を短くして、耐熱性に優れる硬いフィルムを得るという目的で開発されたため、mが3以下のポリマーしか合成されておらず、ポリマーのガラス転移点や線膨張係数については、検討されていない。一方、本発明はこれとは逆の目的で開発されており、シロキサン鎖を長くし、フレキシブルな部分を持たせつつ、架橋硬化物の線膨張率が非常に低いという、相反する特性を両立させたことに特徴がある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、ケイ素系ポリマーの主鎖に含むシルセスキオキサン骨格間のシロキサン鎖を長くする(mを4以上にする)ことにより、常温(30℃)以下で線膨張係数が非常に低いという特性を発現することを見出し、この知見に基づいて、シルセスキオキサン骨格を主鎖に含むシロキサンポリマー末端の水酸基と、この水酸基に対する結合性を有する3官能以上の架橋性ケイ素化合物とを反応させてなる、シロキサンポリマー架橋硬化物を完成させた。
【0007】
すなわち本発明は下記[1]〜[11]で表される発明を提供する。
[1] 式(1)で表されるケイ素化合物と、式(2)で表される架橋性ケイ素化合物及び式(2)で表される架橋性ケイ素化合物のオリゴマーからなる群から選ばれる一以上とから得られる、シロキサンポリマー架橋硬化物。
【化1】
(式(1)中、mは、独立して4〜30の整数を表し;nは、重量平均分子量2,000〜10,000,000を満たす数字を表し;R0は、独立して、フェニル又はシクロヘキシルを表し;R1及びR2は、独立してフェニル、シクロヘキシル又は炭素数1〜5のアルキルを表し、前記フェニル及びシクロヘキシルは、任意の水素が独立してハロゲン又は炭素数1〜20のアルキルで置き換えられてもよく、前記炭素数1〜5のアルキルは、任意の水素が独立してフッ素で置き換えられてもよく、任意の−CH2−が独立して−O−又は炭素数5〜20のシクロアルキレンで置き換えられてもよい。)
R3−Si(R4)3 (2)
(式(2)中、R3は炭素数1〜20のアルキル又は炭素数6〜30のアリールを表し、R4は、独立して、ハロゲン、炭素数1〜15のアシル、炭素数1〜15のアルコキシル、炭素数1〜15のオキシム、炭素数1〜15の置換基を有していてもよいアミノ、炭素数1〜15の置換基を有していてもよいアミド、炭素数1〜15の置換基を有していてもよいアミノキシ、又は炭素数1〜15の置換基を有していてもよいビニルアルコール残基を表す。)
[2] mが、4〜12の整数である、[1]記載のシロキサンポリマー架橋硬化物。
[3] mが、4である、[1]記載のシロキサンポリマー架橋硬化物。
[4] 式(2)で表される架橋性ケイ素化合物が、メチルトリメトキシシラン、メチルトリス(メチルエチルケトキシム)シラン又はメチルトリアセトキシシランであることを特徴とする[1]〜[3]のいずれかに記載のシロキサンポリマー架橋硬化物。
[5] R0がフェニルであり、R1及びR2がそれぞれ独立して、メチル又はフェニルであることを特徴とする[1]〜[4]のいずれかに記載のシロキサンポリマー架橋硬化物。[6] R0がフェニルであり、R1及びR2がメチルであることを特徴とする[5]記載のシロキサンポリマー架橋硬化物。
[7] [1]〜[6]のいずれかに記載のシロキサンポリマー架橋硬化物からなる光学材料。
[8] 式(1)で表されるケイ素化合物と、式(2)で表される架橋性ケイ素化合物及び式(2)で表される架橋性ケイ素化合物のオリゴマーからなる群から選ばれる一以上とを反応させる工程を含む、シロキサンポリマー架橋硬化物の製造方法。
【化2】
(式(1)中、mは、独立して4〜30の整数を表し;nは、重量平均分子量2,000〜10,000,000を満たす数字を表し;R0は、独立して、フェニル又はシクロヘキシルを表し;R1及びR2は、独立してフェニル、シクロヘキシル又は炭素数1〜5のアルキルを表し、前記フェニル及びシクロヘキシルは、任意の水素が独立してハロゲン又は炭素数1〜20のアルキルで置き換えられてもよく、前記炭素数1〜5のアルキルは、任意の水素が独立してフッ素で置き換えられてもよく、任意の−CH2−が独立して−O−又は炭素数5〜20のシクロアルキレンで置き換えられてもよい。)
R3−Si(R4)3 (2)
(式(2)中、R3は炭素数1〜20のアルキル又は炭素数6〜30のアリールを表し、R4は、独立して、ハロゲン、炭素数1〜15のアシル、炭素数1〜15のアルコキシル、炭素数1〜15のオキシム、炭素数1〜15の置換基を有していてもよいアミノ、炭素数1〜15の置換基を有していてもよいアミド、炭素数1〜15の置換基を有していてもよいアミノキシ、又は炭素数1〜15の置換基を有していてもよいビニルアルコール残基を表す。)
[9] 式(3)で表されるシルセスキオキサンと、式(4’)で表される化合物とを反応させて式(6)の化合物を得た後、前記式(6)の化合物と式(4'')で表される化合物とをさらに反応させることにより、式(1)で表されるケイ素化合物を得る工程を含む、[8]記載のシロキサンポリマー架橋硬化物の製造方法。
【化3】
(式(3)、(4')、(6)、(4'')中、R0、R1及びR2は式(1)におけるR0、R1及びR2と同様に定義される基であり、Xはハロゲンであり、mは4〜30の整数であり、lは0〜14の整数であり、lはmより小さい整数であってm−(l×2)−2>0である。)
[10] 式(3)で表されるシルセスキオキサンを、式(5)で表される化合物と反応させることにより、式(1)で表されるケイ素化合物を得る工程を含む、[8]記載のシロキサンポリマー架橋硬化物の製造方法。
【化4】
(式(3)中、R0、R1は式(1)におけるR0、R1と同様に定義される基である。)
【化5】
(式(5)中、R2は式(1)におけるR2と同様に定義される基であり、hは3〜6の整数である。)
[11] 式(3)で表されるシルセスキオキサンと、式(4’)で表される化合物とを反応させて式(6)の化合物を得た後、式(6)の化合物と式(5)で表される化合物とをさらに反応させることにより、式(1)で表されるケイ素化合物を得る工程を含む、[8]記載のシロキサンポリマー架橋硬化物の製造方法。
【化6】
(式(3)、(4')、(5)、(6)中、R0、R1及びR2は式(1)におけるR0、R1及びR2と同様に定義される基であり、Xはハロゲンであり、mは4〜30の整数であり、lは0〜12の整数であり、lはmより小さい整数であってm−(l×2)−2>0であり、hは3〜6の整数である。)
【発明の効果】
【0008】
本発明では、式(1)で表されるケイ素化合物と式(2)で表される架橋性ケイ素化合物又はそのオリゴマーとを反応させてなる、常温域で線膨張係数の非常に低い架橋シリコーン硬化物を製造する技術を提供することができる。
通常知られているケイ素系の重合体からなる材料と比較すると、常温域の線膨張係数が1/100以下のレベルである。したがって、金属や樹脂材料との接着界面の応力集中が低く、封止材や接着フィルムといった光学材料に非常に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】式(11)で表される化合物のNMRチャート
【図2】式(12)で表される化合物のNMRチャート
【図3】式(13)で表される化合物のNMRチャート
【図4】式(13)で表される化合物のGPCチャート
【図5】式(14)で表される化合物のNMRチャート
【図6】式(14)で表される化合物のGPCチャート
【図7】式(15)で表される化合物のGPCチャート
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明のシロキサンポリマー架橋硬化物は、式(1)で表されるケイ素化合物と、式(2)で表される架橋性ケイ素化合物とから得られる。前記架橋性ケイ素化合物は一種でも二種以上でもよく、オリゴマーでもよく、これらの混合物でもよい。
【0011】
【化7】
R3−Si(R4)3 (2)
【0012】
式(1)中、R0は独立してフェニル又はシクロアルキルを表す。R0のフェニル及びシクロアルキルは、任意の水素が独立してハロゲン又は炭素数1〜20のアルキルで置き換えられてもよい。また、式(1)中、R1及びR2は独立してフェニル、シクロヘキシル、又は炭素数1〜5のアルキルを表す。R1及びR2における炭素数1〜5のアルキルは、任意の水素が独立してフッ素で置き換えられてもよく、任意の−CH2−が独立して−O−又は炭素数5〜20のシクロアルキレンで置き換えられてもよい。
【0013】
R1及びR2におけるフェニル及びシクロヘキシルは、任意の水素が独立してハロゲン又は炭素数1〜20のアルキルで置き換えられてもよい。
【0014】
R1及びR2におけるフェニル及びシクロヘキシルの置換基である炭素数1〜20のアルキルは、任意の水素が独立してフッ素で置き換えられてもよく、任意の−CH2−が独立して−O−、炭素数5〜20のシクロアルキレン又はフェニレンで置き換えられてもよい。
【0015】
具体的には、R0がフェニルで、R1及びR2が独立してメチル又はフェニルであることが好ましい。光学特性等の諸特性を得る観点、及び合成の容易性の観点から、R0はフェニルであり、R1及びR2はメチルであることが特に好ましい。
【0016】
式(1)中、mは独立して4〜30の整数を表し、nは重量平均分子量2,000〜10,000,000を満たす数字を表す。mは、得られるシロキサンポリマー架橋硬化物の物性、ガラス転移点が30℃以下、かつ線膨張率が10ppm以下、を実現するために4〜30である必要がある。またnは、合成の容易さ、得られるシロキサンポリマー架橋硬化物の物性等の観点から重量平均分子量5,000〜2,000,000を満たす数字であることが好ましく、重量平均分子量7,000〜1,000,000を満たす数字であることがより好ましい。
【0017】
重量平均分子量は、後述の実施例に記載されるように、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)にて得られたクロマトグラムを、分子量標準サンプルにて得られた検量線により計算して求める。
【0018】
ケイ素化合物(1)は、特許文献1に記載されているように、式(3)で表されるシルセスキオキサンと式(4)で表される鎖状シロキサンとをトリエチルアミン等の塩基の存在下で反応させることによって得られる。式(1)中のmは、前記鎖状シロキサンの種類によって決めることができる。式(1)中のnは、反応条件(温度、式(4)で表される鎖状シロキサンの濃度等)によって調整される。なお、式(4)においてXはハロゲンを示し、塩素が好ましい。
【0019】
【化8】
【0020】
また、式(3)で表されるシルセスキオキサンと、例えば式(4')の化合物と反応させて式(6)の化合物を得て、これを中間体とし、式(4'')の化合物と反応させて式(1)の化合物を合成してもよい。なお、式(4')及び(4'')においてXはハロゲンを示し、塩素が好ましい。
【化9】
ここで、lは独立して0〜14でmより小さい整数であってm−(l×2)−2>0である。このうちlは0〜3の整数であることが好ましい。
【0021】
また、式(1)のシロキサンポリマーは、以下の式で表される方法でも合成できる。
【化10】
【0022】
上式中、hは3〜6の整数である。このうち、hは3又は4が好ましい。
【0023】
なお、式(3)で表されるシルセスキオキサンと、式(4')の化合物とを反応させて式(6)の化合物を得て、これを中間体とし、式(5)の化合物と反応させて式(1)の化合物を合成してもよい。
【0024】
上記の反応は平衡化反応と呼ばれる反応であり、触媒として強酸もしくは強塩基が通常用いられる。シルセスキオキサンの反応中の安定性を考慮すると、触媒としては強酸の方が好ましい。このような触媒として、塩酸、硫酸、フルオロ硫酸、トリフルオロメタンスルホン酸、活性白土、スルホン酸系イオン交換樹脂が挙げられる。このうち、トリフルオロメタンスルホン酸、活性白土、スルホン酸系イオン交換樹脂がより好ましい。
【0025】
上記の反応において、溶媒を用いて行うことは好ましい。溶媒として、上式中の反応式左側に表される化合物を溶解し得る溶剤であって触媒として用いる酸、塩基化合物と反応しない溶媒であれば何でもよく、例えばヘキサンやヘプタン等の炭化水素系溶媒、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶媒、ジエチルエーテル、テトラハイドロフラン(THF)、ジオキサン、シクロペンチルメチルエーテル等のエーテル系溶媒、塩化メチレン、四塩化炭素等のハロゲン化炭化水素系溶媒などが挙げられる。溶媒は、一種類でも、二種類以上の混合物であってもよい。
【0026】
上記2つの式で記載される反応で得られる、式(1)のシロキサンポリマーにおいて、式中のmは単一ではなく複数の整数を与えることがある。この場合、mは4以上の整数を持つポリマーの混合物であればよい。
【0027】
なお、式(3)で表されるシルセスキオキサンも、特許文献1に記載されているように、式(7)で表される化合物と、式(8)で表される化合物を反応させ、加水分解することによって得られる。ここで、Xはハロゲン又は水素を表す。そして式(7)で表される化合物も、特許文献1に記載されているように、式(9)で表される化合物を、水酸化ナトリウム及び水の存在下で加水分解、縮重合することによって得られる。このときの反応は有機溶剤の存在下であっても非存在下であってもよい。
【0028】
【化11】
【0029】
架橋性ケイ素化合物は、得られるシロキサンポリマー架橋硬化物の硬度、耐熱性の向上、化合物の入手の容易さの観点から、ケイ素化合物中の水酸基と反応する基又は原子(以下「架橋性官能基」とも言う)を3以上有する、式(2)で表される化合物、及びそのオリゴマーからなる群から選ばれる一以上を用いる。架橋性ケイ素化合物は、一種類でも、二種以上の混合物であってもよい。
【0030】
R3−Si(R4)3 (2)
式(2)中、R3は炭素数1〜20のアルキル、又は炭素数6〜30のアリールを表し、R4は、独立して、ハロゲン、炭素数1〜15のアシル、炭素数1〜15のアルコキシル、炭素数1〜15のオキシム、炭素数1〜15の置換基を有していてもよいアミノ、炭素数1〜15の置換基を有していてもよいアミド、炭素数1〜15の置換基を有していてもよいアミノキシ、及び炭素数1〜15の置換基を有していてもよいビニルアルコール残基を表す。ハロゲンとしては、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素が例示できる。また、炭素数1〜15のアシルとしては、アセチルが例示できる。また、炭素数1〜15のアルコキシルとしては、メトキシ、エトキシが例示できる。また、炭素数1〜15のオキシムとしては、エチルメチルオキシムが例示できる。また、炭素数1〜15の置換基を有していてもよいアミノとしては、シクロヘキシルアミノが例示できる。また、炭素数1〜15の置換基を有していてもよいアミドとしては、N−メチルアセトアミドが例示できる。また、炭素数1〜15の置換基を有していてもよいアミノキシとしては、ジエチルアミノキシが例示できる。また、炭素数1〜15の置換基を有していてもよいビニルアルコール残基としては、1−メチルビニルアルコール残基が例示できる。
【0031】
式(2)で表される架橋性化合物の3つのR4は、独立してアルコキシ、アセトキシ、又はオキシムであることが好ましい。
【0032】
式(2)で表される架橋性ケイ素化合物としては、例えば、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、メチルトリス(メチルエチルケトキシム)シラン、メチルトリアセトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、p−スチリルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−フェニル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−ウレイドプロピルトリエトキシシラン、3−クロロプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、3−イソシアネートプロピルトリエトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン、ビニルトリス(メトキシエトキシ)シラン、ビニルトリイソプロポキシシラン、及びアリルトリメトキシシランが挙げられる。このうち、メチルトリメトキシシラン、メチルトリス(メチルエチルケトキシム)シラン又はメチルトリアセトキシシランが好ましい。
【0033】
式(2)で表される架橋性ケイ素化合物のオリゴマーは、入手のしやすさの観点から、構成単位の繰り返しの数(重合度)が2〜20のオリゴマーが好ましく、2〜15であることがより好ましく、4〜10であることがさらに好ましい。オリゴマーとしては、例えば、コルコート(株)製のメチルシリケート51(テトラメトキシシラン4量体)、メチルシリケート53(テトラメトキシシラン7量体)、エチルシリケート40(テトラエトキシシラン5量体)、エチルシリケート48(テトラエトキシシラン10量体)が挙げられる。架橋性ケイ素化合物のオリゴマーは、多摩化学工業(株)等からも入手できる。
【0034】
特に、架橋性ケイ素化合物は、テトラエトキシシラン、そのオリゴマー、メチルトリメトキシシランオリゴマー、ビニルトリメトキシシラン、3−プロピルトリメトキシシラン、及び3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシランからなる群から選ばれる一以上であることが、入手のしやすさ、及び架橋剤として用いた場合の効果の観点から好ましい。
【0035】
式(1)で表されるケイ素化合物と、式(2)で表される架橋性ケイ素化合物又はそのオリゴマーとの架橋は、架橋性ケイ素化合物が有する、式(1)で表されるケイ素化合物中の水酸基と反応する架橋性の官能基の種類に基づいて、両ケイ素化合物を適切な条件下で共存させることによって行われる。
ケイ素化合物と架橋性ケイ素化合物又はそのオリゴマーとの反応は、必要に応じて、触媒の存在下で行うことができる。触媒としては、例えば、酢酸、塩酸等の酸触媒、及び有機錫系触媒が挙げられる。触媒の種類及び使用量は、架橋性官能基の種類に応じて決めることができ、例えば架橋性の官能基がエトキシである場合では、例えば触媒にはラウリン酸ジブチル錫が、架橋性ケイ素化合物100重量部に対して0.01〜5重量部で使用される。
【0036】
シロキサンポリマー架橋硬化物が生成できているかどうかについては、式(1)で表されるケイ素化合物と、式(2)で表される架橋性ケイ素化合物又はそのオリゴマーとの生成物の耐熱性や溶剤に対する溶解性の変化によって確認することができる。例えば、120℃に加熱したときに、生成物が融解しなくなることによってシロキサンポリマー架橋硬化物が生成されたことを確認することができる。また、生成物がアセトンに対して不溶であることによってシロキサンポリマー架橋硬化物が生成されたことを確認することができる。
【0037】
本発明における、架橋前の式(1)で表されるケイ素化合物と、式(2)で表される架橋性ケイ素化合物又はそのオリゴマーとの混合物(以下、シロキサンポリマー組成物ということがある。)における式(2)で表される架橋性ケイ素化合物又はそのオリゴマーの含有量は、硬化物の熱特性等の向上の観点から、式(1)で表されるケイ素化合物100重量部に対して0.1〜50重量部であることが好ましく、1〜20重量部であることがより好ましく、5〜10重量部であることがさらに好ましい。
【0038】
架橋前のシロキサンポリマー組成物は、本発明の効果が得られる範囲において、式(1)で表されるケイ素化合物及び式(2)で表される架橋性ケイ素化合物又はそのオリゴマー以外の他の成分をさらに含有していてもよい。このような他の成分としては、例えば溶剤、触媒、本発明のシロキサンポリマー架橋硬化物以外の他のポリマー、及び各種の添加剤が挙げられる。触媒には、本発明のシロキサンポリマー架橋硬化物の説明で前述した触媒を用いることができる。
【0039】
溶剤は、ケイ素化合物及び架橋性ケイ素化合物又はそのオリゴマーを含む含有成分を溶解する溶剤であることが好ましく、また含有成分に対して反応性を有さない溶剤であることが好ましい。溶剤は、一種でも二種以上の混合物でもよい。このような溶剤としては、例えば、ヘキサンやヘプタン等の炭化水素系溶剤、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶剤、ジエチルエーテル、テトラハイドロフラン(THF)、ジオキサン等のエーテル系溶剤、塩化メチレン、四塩化炭素等のハロゲン化炭化水素系溶剤、及び酢酸エチル等のエステル系溶剤が挙げられる。
【0040】
添加剤は、シロキサンポリマー架橋硬化物への所望の特性の付与や向上の観点から、公知の各種添加剤を利用することができる。このような添加剤としては、例えば、界面活性剤、シリカ、マイカ等の充填剤等が挙げられる。
【0041】
架橋前のシロキサンポリマー組成物における溶剤の含有量は、架橋性組成物の塗布性を高める観点から、架橋性組成物に配合される固形の成分の含有量が架橋性組成物において、10〜90重量%となる量であることが好ましく、30〜70重量%となる量であることがより好ましく、40〜60重量%となる量であることがさらに好ましい。
【0042】
架橋前のシロキサンポリマー組成物における触媒の含有量は、概ね、架橋性ケイ素化合物100重量部に対して0.1〜10重量部であることが好ましく、0.5〜5重量部であることがより好ましく、0.5〜2重量部であることがさらに好ましい。
【0043】
架橋前のシロキサンポリマー組成物における他のポリマーの含有量は、他のポリマーの添加によるシロキサンポリマー架橋硬化物の特性の向上の観点から任意に決めることができる。
【0044】
架橋前のシロキサンポリマー組成物における添加剤の含有量は、添加剤の添加による効果を得る観点から、0.1〜40重量%であることが好ましく、0.5〜20重量%であることがより好ましく、1〜10重量%であることがさらに好ましい。
【0045】
添加剤としては、アクリル系、スチレン系、ポリエチレンイミン系もしくはウレタン系の高分子分散剤;アニオン系、カチオン系、ノニオン系もしくはフッ素系の界面活性剤;シリコン系樹脂等の塗布性向上剤;シランカップリング剤等の密着性向上剤;フェノール系、硫黄系、およびリン系等の酸化防止剤;アルコキシベンゾフェノン類等の紫外線吸収剤;ポリアクリル酸ナトリウム等の凝集防止剤;エポキシ化合物、メラミン化合物もしくはビスアジド化合物等の熱架橋剤;有機カルボン酸等のアルカリ溶解性促進剤;二酸化チタン、モリブデン赤、紺青、群青、カドミウム黄、カドミウム赤および有機色素等の着色剤;三酸化アンチモン、ブロム化合物およびリン化合物等の難燃剤;金属酸化物、シリカ、ガラスビーズ、金属水酸化物等の粉末状の補強剤や充填剤等が利用できる。
【0046】
架橋前のシロキサンポリマー組成物の未硬化の膜は、基板やフィルムに架橋前のシロキサンポリマー組成物を、ディップ法や、バーコーター、アプリケーター等で塗布する方法等で塗布することによって形成することができる。
【0047】
前記の架橋前シロキサンポリマー組成物の硬化は、架橋性官能基の種類に応じて、含水気体の雰囲気中への放置、加熱や光照射等の、本発明のシロキサンポリマーを生成する前述した条件に基づいて処理することによって行うことができる。例えば架橋前シロキサンポリマー組成物の硬化は、湿度50%程度の通常の空気中へ放置することにより、気中の水分による加水分解によって硬化する。この硬化の速度は、前記の架橋前シロキサンポリマー組成物中への触媒の配合によって増加し、また組成物を加熱することによっても増加する。
【0048】
本発明のシロキサンポリマー架橋硬化物は、シロキサン鎖とシルセスキオキサンとが架橋性ケイ素化合物を介して交互に配列し、かつ架橋性ケイ素化合物によって架橋してなる、主にシラノールから形成される主鎖の架橋物によって構成される。本発明のシロキサンポリマー架橋硬化物は、ケイ素化合物に特有の溶解性、耐熱性、及び難燃性等の特性、シルセスキオキサンに特有のガス透過性、光透過性、及び低誘電率等の特性及び架橋構造による機械的強度等の特性に優れることが期待される。
また、本発明のシロキサンポリマー架橋硬化物は、ガラス転移点が常温30℃以下、かつ線膨張率が10ppm以下である、という特性から、このような幅広い用途への利用が期待される。
【0049】
本発明のシロキサンポリマー架橋硬化物の用途としては、例えば、光学材料が挙げられるが、より具体的には、金属溶出防止膜、ガスバリア膜、反射防止膜等の基板用コーティング剤、液状封止剤、層間絶縁膜、汚れ防止用コーティング剤、マイクロレンズ、導光板、光導波路材料等の光学素子、LED封止材料、光透過性接着剤、ディスプレイ基板及びプリント配線用基板等の電気、電子材料への用途が挙げられる。
【実施例】
【0050】
GPC測定の測定条件を以下に示す。
<測定条件>
カラム:Shodex KF−806M 300×8.0mm
移動相:THF
流速:1.0ml/min
温度:35℃
検出器:UV(256nm)
分子量標準サンプル:分子量既知のポリスチレン
熱特性はTG−DTA(熱重量−示差熱分析)によって評価した。TG−DTA測定の条件を以下に示す。
<測定条件>
測定装置:示差熱熱重量同時測定装置EXSTAR6000 TG/DTA6300(セイコーインスツル株式会社製)
パン:Pt
標準試料:酸化アルミニウム(10mg)
サンプル質量:約10mg
温度プログラム:25〜800℃
昇温速度:10℃/min
雰囲気:窒素
【0051】
[実施例1](シルセスキオキサンの合成:DDMe−SiOH)
1Lフラスコに、サンプリング管、撹拌シール、温度計保護管、滴下ロートを取り付けた。フラスコ内部を窒素置換した後、THF 500mL、トリエチルアミン6.30g(62.3mmol)をフラスコ内に入れ、これに攪拌しながら式(10)で表される化合物30.20g(25.3mmol)を入れた。フラスコを冷却し、これにジメチルジクロロシラン7.83g(60.7mmol)を内温が5℃を超えないように滴下した。滴下終了後、冷却下で2時間攪拌し、その後、室温(25℃)にて攪拌を行った。一夜室温にて攪拌後、純水を加えて反応を停止した。純水を加えて攪拌後、下層を抜き出した。この水洗操作を6回行った。
上層を抜き出し、エバポレーターにより濃縮して白色ペースト状の粗生成物を得た。これにヘキサンを加えて攪拌を30分間行い、不溶分をろ別回収し、50℃で、減圧乾燥を行い、無色の粉末22.8gを得た。1H−NMR及びGPC分析より、式(11)で表される化合物(シルセスキオキサン)が95%の純度で得られていることを確認した。
【化12】
【0052】
[実施例2](シルセスキオキサンの合成:DDMe−SiOH)
上記実施例1のうち、THFをシクロペンチルメチルエーテルに変更した以外は同様にして合成した。同様に式(11)で表される化合物(シルセスキオキサン)を合成した。化合物は95%の純度で得られた。NMRチャートを図1に示す。
【0053】
[実施例3](シルセスキオキサンの合成:DDMe−Si2OH)
500mLフラスコに、サンプリング管、撹拌シール、温度計保護管、滴下ロートを取り付けた。フラスコ内部を窒素置換した後、シクロペンチルメチルエーテル100mL、トリエチルアミン3.63g(0.0355mol)、1,3−ジクロロテトラメチルジシロキサン12.72g(60.7mmol)をフラスコ内に入れた。フラスコを内温5℃以下に冷却し、これに攪拌しながら式(10)で表される化合物15g(12.6mmol)を内温が5℃を超えないように入れた。滴下終了後、冷却下で2時間攪拌し、その後室温にて攪拌を行った。一夜室温にて攪拌後、純水を加えて反応を停止した。
この後は上記実施例1と同様に操作を行い、収率18.0%で白色粉末3.3gを得た。1H−NMR、GPC分析、及びTOF/MSより、式(12)で表される化合物(シルセスキオキサン)が95%の純度で得られた。
【化13】
NMRチャートを図2に示す。
【0054】
[実施例4](ケイ素化合物の合成:DDMe−Si5)
500mLフラスコ内部を窒素置換した後、式(11)で表される化合物15.0g(11.2mmol)、トリエチルアミン2.3g(22.5mmol)、シクロペンチルメチルエーテル150mLを入れた。内温を約0℃に保ち、攪拌しながら、1,5−ジクロロヘキサメチルトリシロキサン3.2g(11.5mmol)を滴下した。−5℃にて24時間攪拌を継続し、純水100mLを加えて反応を停止させた。純水にて8回水洗を行った後、上層を抜き出し、エバポレーターにより溶媒を留去することによりアメ状物質28.6gを得た。NMR分析より、得られた固体は式(13)で表されるケイ素化合物であることがわかった。得られたシロキサンポリマー(ケイ素化合物)をGPCで測定したところ、重量平均分子量Mwは5,900であった。
【化14】
【0055】
[実施例5](ケイ素化合物の合成:DDMe−Si5)
300mLフラスコ内部を窒素置換した後、式(11)で表される化合物15.0g(11.2mmol)、トリエチルアミン10.7g(106mmol)、脱水トルエン100mLを入れた。内温を約5℃に保ち、攪拌しながら、1,5−ジクロロヘキサメチルトリシロキサン3.1g(11.2mmol)を滴下した。5℃にて20時間攪拌を継続し、純水50mLを加えて反応を停止させた。純水1.1L、0.48M塩酸水溶液150mL、トルエン50mLを加えて洗浄、中性となったことを確認した後、上層を抜き出し、エバポレーターにより溶媒を留去することにより白色オイル状物質を得た。これを少量のトルエンに溶解後、冷却したヘキサンを滴下し、0℃で1時間攪拌後、上澄みを除去、残ったオイル状物質を減圧乾燥して、式(13)で表される透明なポリマー(ケイ素化合物)を約40%の収率で得た。
2回合成を実施した。1回目は、GPC分析より数平均分子量Mn=23,800、重量平均分子量Mw=74,200であり、シルセスキオキサン部分(式(13)の繰り返し部分n)が平均47ユニット(n=47)存在することがわかった。2回目は、GPC分析より数平均分子量Mn=40,300、重量平均分子量Mw=111,000であり、シルセスキオキサン部分が平均70ユニット存在することがわかった。合成2回目のNMRチャートを図3に示す。また、合成2回目のGPCチャートを図4に示す。
【0056】
[実施例6](ケイ素化合物の合成:DDMe−Si6)
50mLフラスコ内部を窒素置換した後、式(11)で表される化合物2.94g(2.2mmol)、トリエチルアミン2.23g(22mmol)、脱水トルエン20mLを入れた。内温を約5℃に保ち、攪拌しながら、1,7−ジクロロオクタメチルテトラシロキサン0.77g(2.2mmol)を加えた。その後は実施例4と同様に操作を行い、式(14)で表される透明なポリマー(ケイ素化合物)を約30%の収率で得た。
【化15】
GPC分析より数平均分子量Mn=22,600、重量平均分子量Mw=37,800であった。NMRチャートを図5に示す。また、GPCチャートを図6に示す。
【0057】
[実施例7](ケイ素化合物の合成:DDMe−Si8)
50mLフラスコ内部を窒素置換した後、式(12)で表される化合物3.0g(2.2mmol)、トリエチルアミン2.23g(22mmol)、脱水トルエン15mLを入れた。内温を約5℃に保ち、攪拌しながら、1,7−ジクロロヘキサメチルテトラシロキサン0.77g(2.2mmol)を加えた。5℃にて20時間攪拌を継続し、純水20mLを加えて反応を停止させた。白濁した有機層を分液し、その後は実施例4と同様に操作を行い、式(15)で表される透明なポリマー(ケイ素化合物)を約30%の収率で得た。
【化16】
GPC分析より数平均分子量Mn=43,800、重量平均分子量Mw=79,600であった。
GPCチャートを図7に示す。
【0058】
[実施例8]
(架橋硬化性組成物の作製)
表1の通り、実施例1〜7で得られたシルセスキオキサン及びケイ素化合物を用い、架橋剤としてメチルトリス(メチルエチルケトキシム)シラン、溶媒としてトルエンを用いてよく混合することにより、架橋硬化性のシロキサンポリマー組成物を作製した。
なお、表1のポリマーでPDMSとあるのは、式(16)で表される両末端にシラノール基を有するポリジメチルシロキサンであり、例えば、Gelest社製DMS−32(MW=36,000)(組成物5に使用)として入手できる。組成物6のPDMSは1,5−ジクロロヘキサメチルトリシロキサンを加水分解して両末端を水酸基に変換することにより得られる。
DD(Me)−Si3は、下記式(17)で表されるケイ素化合物であり、式(10)で表される化合物と、1,5−ジクロロヘキサメチルトリシロキサンとを反応させることにより得られる。また、DD(Me)−Si4は、下記式(18)で表されるケイ素化合物であり、式(10)で表される化合物と、1,7−ジクロロオクタメチルテトラシロキサンとを反応させることにより得られる。
【化17】
【0059】
【表1】
【0060】
表1において平均シルセスキオキサンユニット数は重量平均分子量(Mw)を各繰り返しユニット(ここで繰り返しユニットとは、上記実施例4〜8に記載の化学式において、[ ]nの中に表される部分をいう。)の化学式から算出した分子量で割ることにより算出された値である。
【0061】
[実施例9](シロキサンポリマー架橋硬化物の作製)
実施例8で得られたシロキサンポリマー組成物を、15分間攪拌、脱泡後、テフロン(登録商標)製の型に入れ、10分間風乾させた。オーブン中で80℃、1時間加熱し、さらに120℃、2時間加熱することにより硬化させ、得られた架橋硬化物を取り出した。結果、透明な架橋硬化物が得られた。
表2に、それぞれの架橋硬化物(硬化フィルム)、及び用いたシロキサンポリマー組成物、硬化物のTg、5%重量減少温度(Td5)、線膨張係数を記載する。
なお、線膨張係数の測定条件は以下の通り。
測定装置:熱応力歪測定装置TMA/SS100(SEIKO)、昇温レート:0.5(℃/min)、荷重:90(mN)
測定硬化物フィルム:長さ1cm、幅3mm
【0062】
【表2】
【0063】
上記の表の通り、シロキサン鎖が5(m=4)以上の架橋硬化物(フィルム)は常温(30℃)以下のTgを持ち、線膨張係数が1ppm/Kの特徴を持つことがわかる。一方、シロキサン鎖が短い(m=1〜3)とTgが常温以上となるため、常温で線膨張係数が低い架橋フィルムは得られない。
またポリシルセスキオキサン部分がないポリシロキサン(PDMS)からなる架橋硬化物(フィルム)は、常温以下のTgを持つが、線膨張係数は通常のシロキサン硬化物と同様の数字であり、やはり常温で線膨張係数が低い架橋フィルムは得られない。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明によれば、液状の組成物の塗布とその硬化という簡易な方法によって、高い硬度と耐熱性に加えて、高い光透過性を有するシロキサンポリマー架橋硬化物を得ることができる。また本発明によれば、液状の組成物の硬化によって本発明のシロキサンポリマー架橋硬化物が得られることから、適当な型を用いることによって、種々の形状の本発明のシロキサンポリマー架橋硬化物の形成が可能である。
本発明シロキサンポリマー架橋硬化物は、フレキシブルな部分を持たせつつ架橋硬化物の線膨張率が非常に低いという、相反する特性を両立させたことに特徴があり、したがって、各種表示素子における各種層を形成するための電気、電子材料を始め、レンズ等の光学材料への適用や、他の種々の技術分野への利用が可能である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1)で表されるケイ素化合物と、式(2)で表される架橋性ケイ素化合物及び式(2)で表される架橋性ケイ素化合物のオリゴマーからなる群から選ばれる一以上とから得られる、シロキサンポリマー架橋硬化物。
【化1】
(式(1)中、mは、独立して4〜30の整数を表し;nは、重量平均分子量2,000〜10,000,000を満たす数字を表し;R0は、独立して、フェニル又はシクロヘキシルを表し;R1及びR2は、独立してフェニル、シクロヘキシル又は炭素数1〜5のアルキルを表し、前記フェニル及びシクロヘキシルは、任意の水素が独立してハロゲン又は炭素数1〜20のアルキルで置き換えられてもよく、前記炭素数1〜5のアルキルは、任意の水素が独立してフッ素で置き換えられてもよく、任意の−CH2−が独立して−O−又は炭素数5〜20のシクロアルキレンで置き換えられてもよい。)
R3−Si(R4)3 (2)
(式(2)中、R3は炭素数1〜20のアルキル又は炭素数6〜30のアリールを表し、R4は、独立して、ハロゲン、炭素数1〜15のアシル、炭素数1〜15のアルコキシル、炭素数1〜15のオキシム、炭素数1〜15の置換基を有していてもよいアミノ、炭素数1〜15の置換基を有していてもよいアミド、炭素数1〜15の置換基を有していてもよいアミノキシ、又は炭素数1〜15の置換基を有していてもよいビニルアルコール残基を表す。)
【請求項2】
mが、4〜12の整数である、請求項1記載のシロキサンポリマー架橋硬化物。
【請求項3】
mが、4である、請求項2記載のシロキサンポリマー架橋硬化物。
【請求項4】
式(2)で表される架橋性ケイ素化合物が、メチルトリメトキシシラン、メチルトリス(メチルエチルケトキシム)シラン又はメチルトリアセトキシシランであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載のシロキサンポリマー架橋硬化物。
【請求項5】
R0がフェニルであり、R1及びR2がそれぞれ独立して、メチル又はフェニルであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載のシロキサンポリマー架橋硬化物。
【請求項6】
R0がフェニルであり、R1及びR2がメチルであることを特徴とする請求項5記載のシロキサンポリマー架橋硬化物。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一項に記載のシロキサンポリマー架橋硬化物からなる光学材料。
【請求項8】
式(1)で表されるケイ素化合物と、式(2)で表される架橋性ケイ素化合物及び式(2)で表される架橋性ケイ素化合物のオリゴマーからなる群から選ばれる一以上とを反応させる工程を含む、シロキサンポリマー架橋硬化物の製造方法。
【化2】
(式(1)中、mは、独立して4〜30の整数を表し;nは、重量平均分子量2,000〜10,000,000を満たす数字を表し;R0は、独立して、フェニル又はシクロヘキシルを表し;R1及びR2は、独立してフェニル、シクロヘキシル又は炭素数1〜5のアルキルを表し、前記フェニル及びシクロヘキシルは、任意の水素が独立してハロゲン又は炭素数1〜20のアルキルで置き換えられてもよく、前記炭素数1〜5のアルキルは、任意の水素が独立してフッ素で置き換えられてもよく、任意の−CH2−が独立して−O−又は炭素数5〜20のシクロアルキレンで置き換えられてもよい。)
R3−Si(R4)3 (2)
(式(2)中、R3は炭素数1〜20のアルキル又は炭素数6〜30のアリールを表し、R4は、独立して、ハロゲン、炭素数1〜15のアシル、炭素数1〜15のアルコキシル、炭素数1〜15のオキシム、炭素数1〜15の置換基を有していてもよいアミノ、炭素数1〜15の置換基を有していてもよいアミド、炭素数1〜15の置換基を有していてもよいアミノキシ、又は炭素数1〜15の置換基を有していてもよいビニルアルコール残基を表す。)
【請求項9】
式(3)で表されるシルセスキオキサンと、式(4’)で表される化合物とを反応させて式(6)の化合物を得た後、前記式(6)の化合物と式(4'')で表される化合物とをさらに反応させることにより、式(1)で表されるケイ素化合物を得る工程を含む、請求項8記載のシロキサンポリマー架橋硬化物の製造方法。
【化3】
(式(3)、(4')、(6)、(4'')中、R0、R1及びR2は式(1)におけるR0、R1及びR2と同様に定義される基であり、Xはハロゲンであり、mは4〜30の整数であり、lは0〜14の整数であり、lはmより小さい整数であってm−(l×2)−2>0である。)
【請求項10】
式(3)で表されるシルセスキオキサンを、式(5)で表される化合物と反応させることにより、式(1)で表されるケイ素化合物を得る工程を含む、請求項8記載のシロキサンポリマー架橋硬化物の製造方法。
【化4】
(式(3)中、R0、R1は式(1)におけるR0、R1と同様に定義される基である。)
【化5】
(式(5)中、R2は式(1)におけるR2と同様に定義される基であり、hは3〜6の整数である。)
【請求項11】
式(3)で表されるシルセスキオキサンと、式(4’)で表される化合物とを反応させて、式(6)の化合物を得た後、式(6)の化合物と式(5)で表される化合物とをさらに反応させることにより、式(1)で表されるケイ素化合物を得る工程を含む、請求項8記載のシロキサンポリマー架橋硬化物の製造方法。
【化6】
(式(3)、(4')、(5)、(6)中、R0、R1及びR2は式(1)におけるR0、R1及びR2と同様に定義される基であり、Xはハロゲンであり、mは4〜30の整数であり、lは0〜12の整数であり、lはmより小さい整数であってm−(l×2)−2>0であり、hは3〜6の整数である。)
【請求項1】
式(1)で表されるケイ素化合物と、式(2)で表される架橋性ケイ素化合物及び式(2)で表される架橋性ケイ素化合物のオリゴマーからなる群から選ばれる一以上とから得られる、シロキサンポリマー架橋硬化物。
【化1】
(式(1)中、mは、独立して4〜30の整数を表し;nは、重量平均分子量2,000〜10,000,000を満たす数字を表し;R0は、独立して、フェニル又はシクロヘキシルを表し;R1及びR2は、独立してフェニル、シクロヘキシル又は炭素数1〜5のアルキルを表し、前記フェニル及びシクロヘキシルは、任意の水素が独立してハロゲン又は炭素数1〜20のアルキルで置き換えられてもよく、前記炭素数1〜5のアルキルは、任意の水素が独立してフッ素で置き換えられてもよく、任意の−CH2−が独立して−O−又は炭素数5〜20のシクロアルキレンで置き換えられてもよい。)
R3−Si(R4)3 (2)
(式(2)中、R3は炭素数1〜20のアルキル又は炭素数6〜30のアリールを表し、R4は、独立して、ハロゲン、炭素数1〜15のアシル、炭素数1〜15のアルコキシル、炭素数1〜15のオキシム、炭素数1〜15の置換基を有していてもよいアミノ、炭素数1〜15の置換基を有していてもよいアミド、炭素数1〜15の置換基を有していてもよいアミノキシ、又は炭素数1〜15の置換基を有していてもよいビニルアルコール残基を表す。)
【請求項2】
mが、4〜12の整数である、請求項1記載のシロキサンポリマー架橋硬化物。
【請求項3】
mが、4である、請求項2記載のシロキサンポリマー架橋硬化物。
【請求項4】
式(2)で表される架橋性ケイ素化合物が、メチルトリメトキシシラン、メチルトリス(メチルエチルケトキシム)シラン又はメチルトリアセトキシシランであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載のシロキサンポリマー架橋硬化物。
【請求項5】
R0がフェニルであり、R1及びR2がそれぞれ独立して、メチル又はフェニルであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載のシロキサンポリマー架橋硬化物。
【請求項6】
R0がフェニルであり、R1及びR2がメチルであることを特徴とする請求項5記載のシロキサンポリマー架橋硬化物。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一項に記載のシロキサンポリマー架橋硬化物からなる光学材料。
【請求項8】
式(1)で表されるケイ素化合物と、式(2)で表される架橋性ケイ素化合物及び式(2)で表される架橋性ケイ素化合物のオリゴマーからなる群から選ばれる一以上とを反応させる工程を含む、シロキサンポリマー架橋硬化物の製造方法。
【化2】
(式(1)中、mは、独立して4〜30の整数を表し;nは、重量平均分子量2,000〜10,000,000を満たす数字を表し;R0は、独立して、フェニル又はシクロヘキシルを表し;R1及びR2は、独立してフェニル、シクロヘキシル又は炭素数1〜5のアルキルを表し、前記フェニル及びシクロヘキシルは、任意の水素が独立してハロゲン又は炭素数1〜20のアルキルで置き換えられてもよく、前記炭素数1〜5のアルキルは、任意の水素が独立してフッ素で置き換えられてもよく、任意の−CH2−が独立して−O−又は炭素数5〜20のシクロアルキレンで置き換えられてもよい。)
R3−Si(R4)3 (2)
(式(2)中、R3は炭素数1〜20のアルキル又は炭素数6〜30のアリールを表し、R4は、独立して、ハロゲン、炭素数1〜15のアシル、炭素数1〜15のアルコキシル、炭素数1〜15のオキシム、炭素数1〜15の置換基を有していてもよいアミノ、炭素数1〜15の置換基を有していてもよいアミド、炭素数1〜15の置換基を有していてもよいアミノキシ、又は炭素数1〜15の置換基を有していてもよいビニルアルコール残基を表す。)
【請求項9】
式(3)で表されるシルセスキオキサンと、式(4’)で表される化合物とを反応させて式(6)の化合物を得た後、前記式(6)の化合物と式(4'')で表される化合物とをさらに反応させることにより、式(1)で表されるケイ素化合物を得る工程を含む、請求項8記載のシロキサンポリマー架橋硬化物の製造方法。
【化3】
(式(3)、(4')、(6)、(4'')中、R0、R1及びR2は式(1)におけるR0、R1及びR2と同様に定義される基であり、Xはハロゲンであり、mは4〜30の整数であり、lは0〜14の整数であり、lはmより小さい整数であってm−(l×2)−2>0である。)
【請求項10】
式(3)で表されるシルセスキオキサンを、式(5)で表される化合物と反応させることにより、式(1)で表されるケイ素化合物を得る工程を含む、請求項8記載のシロキサンポリマー架橋硬化物の製造方法。
【化4】
(式(3)中、R0、R1は式(1)におけるR0、R1と同様に定義される基である。)
【化5】
(式(5)中、R2は式(1)におけるR2と同様に定義される基であり、hは3〜6の整数である。)
【請求項11】
式(3)で表されるシルセスキオキサンと、式(4’)で表される化合物とを反応させて、式(6)の化合物を得た後、式(6)の化合物と式(5)で表される化合物とをさらに反応させることにより、式(1)で表されるケイ素化合物を得る工程を含む、請求項8記載のシロキサンポリマー架橋硬化物の製造方法。
【化6】
(式(3)、(4')、(5)、(6)中、R0、R1及びR2は式(1)におけるR0、R1及びR2と同様に定義される基であり、Xはハロゲンであり、mは4〜30の整数であり、lは0〜12の整数であり、lはmより小さい整数であってm−(l×2)−2>0であり、hは3〜6の整数である。)
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【公開番号】特開2011−190413(P2011−190413A)
【公開日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−59937(P2010−59937)
【出願日】平成22年3月16日(2010.3.16)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 研究集会名 第58回 高分子討論会 主催者 社団法人高分子学会長 澤本光男 公開日 平成21年9月16日 研究集会名 第58回 高分子討論会 主催者 社団法人高分子学会長 澤本光男 公開日 平成21年9月18日
【出願人】(504159235)国立大学法人 熊本大学 (314)
【出願人】(311002067)JNC株式会社 (208)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年3月16日(2010.3.16)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 研究集会名 第58回 高分子討論会 主催者 社団法人高分子学会長 澤本光男 公開日 平成21年9月16日 研究集会名 第58回 高分子討論会 主催者 社団法人高分子学会長 澤本光男 公開日 平成21年9月18日
【出願人】(504159235)国立大学法人 熊本大学 (314)
【出願人】(311002067)JNC株式会社 (208)
【Fターム(参考)】
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