説明

シロスタゾールを含む制御放出製剤及びその製造方法

可溶化剤中に分散されたシロスタゾールまたはその薬学的に許容可能な塩、およびヒドロゲルを形成できる粒子を含む浸食性物質を含有する制御放出製剤は、胃腸に長くとどまる間の徐放によりシロスタゾールの血中濃度を一定レベルに維持させることができ、それにより薬物または可溶化剤の速放による副作用を最小化する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はシロスタゾールの制御放出製剤及び前記製剤の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シロスタゾールは、代表的な細胞内cAMP PDE(環状AMPホスホジエステラーゼ)阻害剤であって、PDE活性の阻害を通じて血小板の凝固を低減させるとともに、血管を拡張させることによって血液凝固抑制、中心血液循環促進、消炎及び抗潰瘍作用、血圧降下、ぜん息及び脳梗塞の予防及び治療、脳循環改善において重要な役割をすると知られている。
【0003】
シロスタゾールは低い水溶解度(1μg/ml以下)を有し、かつ経口投与されたシロスタゾールは主に上部消化管で吸収され、下部消化管に移動するにつれてその吸収が減少すると立証されている。従って、シロスタゾールの通常の制御放出製剤は吸収時間的な制約を伴うため、現在利用可能なシロスタゾール製剤は速放性タブレット剤形態である。しかし、かかるシロスタゾールの速放性製剤は経口投与の際に血中薬物濃度の急激な上昇を誘発して頭痛のような副作用を起こし、一定の薬理活性を維持するためには前記速放性製剤を50〜100mgの範囲の量で1日2回服用しなければならないので、服用が不便である。
従って、前記問題点を解決するシロスタゾールの徐放性又は制御放出製剤を開発するために多数の試みがなされてきた。
【0004】
例えば、特許文献1は、主マトリックスとしてヒドロキシプロピルメチルセルロースを用いてなる少なくとも2個以上の小型タブレット剤を含む多重ユニット形態のシロスタゾールの徐放性製剤を開示しており、特許文献2は、シロスタゾールとエチレンビニルアルコール共重合体を含む直径2,000μm未満の粒径を有する樹脂粒子形態の徐放性製剤を開示している。しかし、かかる徐放性製剤は、制限された吸収部位を有する難溶性シロスタゾールが非常に緩慢に放出されるため、低い薬物吸収度を示す。
【0005】
このような問題を解決するために、特許文献3及び特許文献4は外層部とコアーとを含む形態を提示しており、前記外層部は上部消化管(小腸)で薬物を徐放し、コアーは小腸下部及び大腸で薬物を速放する。また、特許文献5はシロスタゾールを有機溶媒に溶解させ、微結晶セルロース、ラクトース、マンニトール及びクロスカルメロースナトリウムのような添加剤とともに多孔性不活性担体の表面上にシロスタゾールを吸着させた後、得られた産物と徐放性高分子とを混合することによって得られたシロスタゾール徐放性製剤を提示している。しかし、これらの製剤は製造工程が非常に複雑で、患者の1日服用量が非常にかさばるため、服用し難いという問題点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際特許公開第WO 97/48382号
【特許文献2】国際特許公開第WO 96/21448号
【特許文献3】国際特許公開第WO 00/57881号
【特許文献4】米国特許公開第2002/0058066号
【特許文献5】国際特許公開第WO 2005/023225号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って、本発明の目的はシロスタゾールまたはその薬学的に許容可能な塩を含む改善された制御放出製剤を提供することである。
本発明の他の目的は前記製剤の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様により、本発明は、
(A)可溶化剤中に均一に分散されたシロスタゾールまたはその薬学的に許容可能な塩を含む粒子、及び、
(B)前記粒子が分散されているヒドロゲル形成用浸食性物質、
を含む、シロスタゾールの制御放出製剤を提供する。
【0009】
本発明の別の態様により、本発明は、
(1)シロスタゾールまたはその薬学的に許容可能な塩を可溶化剤と混合し、その結果得られた混合物を固体分散法を用いて顆粒化して粒子を製造する工程、及び、
(2)前記工程(1)で得た粒子にヒドロゲル形成用浸食性物質を添加し、得られた混合物を顆粒化して前記粒子を含む顆粒を製造する工程、
を含む、シロスタゾールの制御放出製剤の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の制御放出製剤は、胃腸に長くとどまる間の徐放によりシロスタゾールの血中濃度を一定レベルに維持させることで、薬物または可溶化剤の速放による副作用を最小化し、患者のコンプライアンスを向上させるので、シロスタゾール徐放性製剤として有用である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の制御放出製剤はシロスタゾールまたはその薬学的に許容可能な塩、可溶化剤及びヒドロゲル形成用浸食性物質を、製剤全重量を基準としてそれぞれ10〜80重量%、0.1〜50重量%、及び5〜80重量%の量で含むことができる。
【0012】
次に、本発明の制御放出製剤の製造方法及び成分について詳細に説明する。
【0013】
工程(1):薬物粒子の製造
本発明による工程(1)では、シロスタゾールまたはその薬学的に許容可能な塩及び可溶化剤を混合し、その結果得られた混合物を固体分散法を用いて粒子内に薬物が均一に分散している粒子を製造する。
前記固体分散法は従来の溶融法または溶媒法のいずれでもよい。溶融法を用いる場合、可溶化した薬物顆粒は、シロスタゾールを可溶化剤と混合し、前記混合物をシロスタゾールまたは可溶化剤が溶けない温度に加熱してシロスタゾール及び可溶化剤の分子レベルの混合を誘導し、前記混合物を徐々に冷却して固形塊を形成させ、前記固形塊を所望の粒径にすることによって製造され得る。また、溶媒法を用いる場合、シロスタゾール−含有粒子の表面は可溶化剤によって改変され得、これは、シロスタゾール及び可溶化剤を共溶媒に溶かした後、前記溶液を乾燥させるか、あるいは、シロスタゾールを溶媒中に溶解または分散された可溶化剤と共に高速回転式混合機または流動層造粒機で混合することによって製造することができる。
【0014】
1.活性成分(シロスタゾール)
本発明の制御放出製剤において、シロスタゾール又はその薬剤学的に許容される塩が活性成分として用いられる。シロスタゾールは制御放出製剤の総重量を基準として10〜80重量%、好ましくは30〜50重量%の量で用いられ得る。前記含量が10重量%未満であれば、シロスタゾールの1日勧奨服用量である200mgを含む製剤の大きさがかさばり過ぎて患者が服用し難く、80重量%を超過すれば、前記薬物の制御された放出を達成できない。
【0015】
2.可溶化剤
1μg/ml以下の低い溶解度を有するシロスタゾールの放出速度を効果的に調節するため、シロスタゾールを可溶化剤と組み合わせて固体分散法を行い、濡れ特性が増大した薬物顆粒を製造する。
前記可溶化剤は、ポリビニルピロリドン、コポビドン、ポリエチレングリコール、ヒドロキシアルキルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポロキサマー、ポリビニルアルコール、シクロデキストリン及び界面活性剤からなる群から選ばれる少なくとも一つ以上の成分であってもよい。前記界面活性剤は陰イオン界面活性剤、非イオン界面活性剤、両性界面活性剤およびこれらの混合物、好ましくはポリ(オキシエチレン)ソルビタン脂肪酸エステル、ステアリン酸ポリ(オキシエチレン)、ポリ(オキシエチレン)アルキルエーテル、ポリグリコール化グリセリド、ポリ(オキシエチレン)ヒマシ油、ソルビタン脂肪酸エステル、ポロキサマー、脂肪酸塩、肝汁酸塩、アルキル硫酸塩、レシチン、肝汁酸塩とレシチンとの混合ミセル、糖エステル、ビタミンE(ポリエチレングリコール1000)コハク酸(TPGS)、ラウリル硫酸ナトリウム、及びこれらの混合物からなる群から選ばれる少なくとも一つ以上の成分であってもよいが、これに制限されない。
前記可溶化剤は本発明の制御放出製剤の総重量を基準として0.1〜50重量%、好ましくは5〜20重量%の範囲の量で用いられ得る。
【0016】
3.溶媒
固体分散法において溶媒法を選ぶ場合、水または有機溶媒を適量で用いることができる。前記有機溶媒はメタノール、エタノール、イソプロパノール、アセトン、クロロホルム、ジクロロメタン、またはそれらの混合物である。
【0017】
工程(2):最終顆粒化
本発明による段階(2)では、工程(1)で得た可溶化剤を含む薬物粒子とヒドロゲル形成用浸食性物質とを混合し、その結果得られた混合物を顆粒化する。前記顆粒化工程は、乾式造粒、湿式造粒、溶融造粒、流動層造粒の工程を含む通常的な造粒法、直接圧縮成形、及び押出成形などの方法によって行うことができ、好ましくは、流動層造粒、湿式造粒、溶融造粒、乾式造粒、またはこれらの組み合わせによって行うことができる
工程(2)で得た顆粒はカプセルまたは錠剤の形態で製造することができる。
【0018】
4.ヒドロゲル形成用浸食性物質
ヒドロゲル形成用浸食性物質が外部流体と接触すると、本発明による製剤の表面にヒドロゲル層を形成する。前記ヒドロゲル層の形成は本発明の製剤に次のような3つの特別な物性を持たせる:即ち、本発明の製剤は、コアー部、中間層及び最外層から成り、前記コアー部は外部流体の浸透による影響を受けず、中間層はゴム状の高分子形態を成し、最外層は外部流体に露出される。コアー部と中間層との間の境界を“膨潤面(swelling front)”、中間層と最外層との間の境界を“拡散面(diffusion front)”、そして、最外層と外部流体との境界を“浸食面(erosion front)”と言う。
【0019】
シロスタゾールまたはその薬学的に許容可能な塩を含む製剤が従来の方法によって製造される場合、中心部及び中間層の体積が浸食層に比べて大きくなり、薬物が十分に溶解されないまま放出されることがあり得る。これに対し、固体分散法を用いた本発明は難溶性薬物の濡れ特性を大きく向上させ、本発明の製剤は拡散面と浸食面との間に配置された浸食層において著しい変化をもたらし、浸食層から分離した薬物が速く溶解する。
【0020】
ヒドロゲル形成用浸食性物質の代表的な例としては、ポリエチレンオキシド、ヒドロキシアルキルセルロース、ヒドロキシプロピルアルキルセルロース、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、カルボキシメチルセルロースナトリウム、アルギン酸プロピレングリコール、カルボポール、アルギン酸ナトリウム、キサンタンガム、ローカストビーンガム、セルロースガム、ジェランガム、トラガカントガム、カラヤガム、グアーガム、アカシアガム、及びこれらの混合物を含む。前記ポリエチレンオキシドは、分子量が1,000,000〜7,000,000であることが好ましく、前記ヒドロキシアルキルセルロースとしてはヒドロキシエチルセルロースまたはヒドロキシプロピルセルロースが特に好ましい。前記ヒドロキシプロピルアルキルセルロースとしてはヒドロキシプロピルメチルセルロースが好ましい。
【0021】
前記ヒドロゲル形成用浸食性物質は25℃の室温で、50〜15,000センチポイズ(cps)、好ましくは50〜4,000cps、より好ましくは50〜400cpsの粘度を有する。前記粘度は所望の薬物放出速度を考慮して前記範囲内で適切に調節することができる。
【0022】
前記ヒドロゲル形成用浸食性物質は製剤全重量を基準として5〜80重量%、好ましくは10〜50重量%で用いることができる。
【0023】
また、本発明の製剤は、工程(1)または(2)を行う前の混合物に、または工程(2)を行ってから得た顆粒に、結合剤、希釈剤、膨潤剤、及び潤滑剤のような薬学的に許容可能な添加剤をさらに添加することができる。
【0024】
また、前記工程(2)で得た顆粒は、本発明の製剤が色相、安定性、制御放出、過剰放出抑制及び味の隠蔽といった好ましい特性を得るように、コーティング剤(coating agent)、可塑剤(plasticizer)、着色剤、抗酸化剤、タルク、二酸化チタン、香味剤、またはこれらの混合物でコーティングされ得る。
前記コーティング剤及び結合剤は水または有機溶媒の溶液として用いることができ、前記有機溶媒はメタノール、エタノール、イソプロパノール、アセトン、クロロホルム、ジクロロメタン、またはこれらの混合物を用いることができる。
【0025】
5.希釈剤
希釈剤の例としては、ラクトース、デキストリン、マンニトール、ソルビトール、でんぷん、微結晶セルロース、リン酸水素カルシウム、無水リン酸水素カルシウム、炭酸カルシウム、糖類、及びこれらの混合物が挙げられる。
【0026】
6.結合剤
結合剤の例としては、ポリビニルピロリドン、コポビドン、ゼラチン、でんぷん、スクロース、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルアルキルセルロース、及びこれらの混合物が挙げられる。
【0027】
7.膨潤剤
膨潤剤の例としては、架橋ポリビニルピロリドン、架橋カルボキシメチルセルロースナトリウム、架橋カルボキシメチルセルロースカルシウム、架橋カルボキシメチルセルロース、でんぷんグリコール酸ナトリウム、カルボキシメチルでんぷん、カルボキシメチルでんぷんナトリウム、メタクリル酸カリウム−ジビニルベンゼン共重合体、アミロース、架橋アミロース、でんぷん誘導体、微結晶セルロース、セルロース誘導体、シクロデキストリン、デキストリン誘導体、又はその混合物が挙げられる。
【0028】
8.潤滑剤
潤滑剤の例としては、ステアリン酸、ステアリン酸塩、タルク、コーンスターチ、カルナウバワックス、軽質無水ケイ酸、ケイ酸マグネシウム、合成ケイ酸アルミニウム、硬化油、白鉛、酸化チタン、微結晶セルロース、マクロゴール4000または6000、ミリスチン酸イソプロピル、リン酸水素カルシウム、及びこれらの混合物が挙げられる。
【0029】
9.コーティング剤
コーティング剤の例としては、エチルセルロース、セラック、アンモニオメタクリル酸塩共重合体、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシブチルセルロース、ヒドロキシペンチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルブチルセルロース、ヒドロキシプロピルペンチルセルロース、フタル酸ヒドロキシアルキルセルロース、酢酸フタル酸セルロースナトリウム、アセチルフタル酸セルロース、フタル酸セルロースエーテル、メタクリル酸及びメタクリル酸メチル又はエチルエステルとの陰イオン性共重合体、フタル酸ヒドロキシプロピルメチルセルロース、アセチルコハク酸ヒドロキシプロピルメチルセルロース、アセチルフタル酸セルロース、及びオパドライ(商標)(カラコン社製)からなる群から選ばれる少なくとも一つ以上の成分を含み、アンモニオメタクリル酸塩共重合体の例としては、ユードラジッド(Eudragit)RS(商標)又はユードラジッドRL(商標)を含み得る。
【0030】
10.可塑剤
可塑剤の例としては、ヒマシ油、脂肪酸、置換されたトリグリセリド及びグリセリド、クエン酸トリエチル、300〜50,000の分子量を有するポリエチレングリコール、及びその誘導体からなる群から選ばれる少なくとも一つ以上の成分を含む。
【0031】
本発明の方法によれば、シロスタゾール及び可溶化剤を含む可溶化した薬物顆粒は固体分散法によって形成され、これをヒドロゲル形成用浸食性物質中に均一に分散されるようにすることによって、薬物粒子周辺の外部流体の浸入を増進させ、また、マイクロ環境下で濡れ特性を向上させることによって、薬物放出及び吸収速度を都合良く調節することができる。従って、本発明の制御放出製剤は、胃腸に長くとどまる間の徐放によりシロスタゾールの血中濃度を一定レベルに維持させ、薬物または可溶化剤の速放による副作用を最小化し、患者のコンプライアンスを向上させるという利点がある。
【0032】
以下、本発明を実施例によって詳細に説明する。但し、下記実施例は本発明を例示するものであって、これらによって本発明が限定されることではない。
【実施例】
【0033】
実施例1〜9:シロスタゾールを含む錠剤の製造−(1)
シロスタゾールを高速回転式混合機に入れた後、エタノールに溶解させたラウリル硫酸ナトリウムとヒドロキシプロピルセルロース−Lとを、高速回転しているシロスタゾールに添加して粒子を得た。次いで、得られた粒子にヒドロキシプロピルメチルセルロース、架橋カルボキシメチルセルロースナトリウムまたは架橋ポリビニルピロリドン、ラクトース、微結晶セルロース、及びリン酸水素カルシウムと混合し、この混合物に、エタノールに溶解させたヒドロキシプロピルセルロース−Lをさらに添加した。その結果得られた混合物を洗浄し、14メッシュの篩を通過した粒子を得、これを乾燥し、18メッシュの篩にさらに通過させた後、ステアリン酸マグネシウム潤滑剤を添加し、生成した混合物を圧縮して錠剤を製造した。用いられた成分の量を表1に示す。
表1
【表1】

【0034】
試験例1:溶出試験−(1)
前記実施例1〜9で得た錠剤を、それぞれUSP溶出試験装置を用いて薬物溶出試験を行った。薬物溶出速度の時間依存的な変化を、0.5%ラウリル硫酸ナトリウム及び0.71%塩化ナトリウムを含む溶液を用いて50rpm/900mlで実施されるパドル法により測定した。その結果を表2に示す。
表2
【表2】

前記表2からわかるように、溶出速度はヒドロゲル形成用として用いられたヒドロキシプロピルメチルセルロースの量によって主に影響を受ける;ヒドロキシプロピルメチルセルロースの量の増加につれて溶出速度が低下する。また、実施例2、5及び8から得た結果から、溶出速度がヒドロゲル形成用として用いられた物質の粘度によって大きな影響を受けることが分かる。従って、本発明のシロスタゾール錠剤の薬物放出時間は、ヒドロゲル形成用として用いられる物質の量及び粘度をコントロールすることにより、6時間〜16時間の範囲内で好適に調節することができる。また、in vitro放出パターンにおける時間依存的な変化はゼロ次反応速度(zero order kinetics)に従うことがわかる。
【0035】
比較例1:シロスタゾールを含む錠剤の製造−(2)
シロスタゾール、ラウリル硫酸ナトリウム、微結晶セルロース及びアルギン酸プロピレングリコールを混合し、この混合物にエタノールに溶解させたヒドロキシプロピルセルロース−Lをさらに添加した。その結果得られた混合物を洗浄し、14メッシュの篩を通過した粒子を得、これを乾燥し、18メッシュの篩にさらに通過させた後、ステアリン酸マグネシウム潤滑剤を添加した。次いで、その結果得られた混合物を圧縮して錠剤を製造した。
【0036】
実施例10:シロスタゾールを含む錠剤の製造−(3)
シロスタゾール及びエタノールに溶解させたラウリル硫酸ナトリウムを混合した後、前記混合物を乾燥して固形塊を形成させた。前記塊を粉砕し、20メッシュの篩を通過した粒子を得た。次いで、前記粒子を微結晶セルロース及びアルギン酸プロピレングリコールと混合し、エタノールに溶解させたヒドロキシプロピルセルロース−Lをさらに添加した。その結果得られた混合物を洗浄し、14メッシュの篩を通過した顆粒を得、これを乾燥し、18メッシュの篩にさらに通過させた後、ステアリン酸マグネシウム潤滑剤を添加し、その結果得られた混合物を圧縮して錠剤を製造した。用いられた成分の量を表3に示す。
表3
【表3】

【0037】
試験例2:溶出試験−(2)
前記比較例1及び実施例10で得た錠剤を、それぞれUSP溶出試験装置を用いて薬物溶出試験を行った。薬物溶出速度の時間による変化を、0.5%ラウリル硫酸ナトリウムを含む溶液を用いて50rpm/900mlで実施されるパドル法により測定した。その結果を表4に示す。
表4
【表4】

前記表4からわかるように、8時間後に、実施例10の錠剤は100%に近い溶出速度を示したのに対し、比較例1の錠剤は約67%のかなり低い溶出速度を示した。この結果は、比較例1の錠剤の放出速度が、ヒドロゲル形成用物質の量または特異的な物性ではなく、用いられた薬物の溶出速度によって左右され得ることを示唆する。
【0038】
実施例11〜19:シロスタゾールを含む錠剤の製造−(4)
シロスタゾールを高速回転式混合機に入れた後、ラウリル硫酸ナトリウム及びエタノールに溶解させたヒドロキシプロピルセルロース−Lを前記高速回転しているシロスタゾールに徐々に添加して粒子を得た。次いで、得られた粒子をヒドロキシプロピルメチルセルロース及び微結晶セルロースと混合し、エタノールに溶解させたヒドロキシプロピルセルロース−Lをさらに添加した。その結果得られた混合物を洗浄し、14メッシュの篩を通過した粒子を得、これを乾燥し、18メッシュの篩にさらに通過させた後、軽質無水ケイ酸及びステアリン酸マグネシウム潤滑剤を添加し、生成した混合物を圧縮して錠剤を製造した。この時、用いられた成分の量を下記表5に示した。
表5
【表5】

:A−ヒドロキシプロピルメチルセルロース2910
B−ヒドロキシプロピルメチルセルロース2208
【0039】
試験例3:溶出試験−(3)
前記実施例11〜19で得た錠剤を、USP溶出試験装置を用いて薬物放出試験を行った。薬物溶出速度の時間による変化を、0.5%ラウリル硫酸ナトリウム及び0.71%塩化ナトリウムを含む溶液を用いて50rpm/900mlで実施されるパドル法により測定した。その結果を表6に示す。
表6
【表6】

前記表6からわかるように、実施例11〜19の錠剤は16時間〜24時間の間ゼロ次反応速度に相応するin vitro放出パターンにおいて時間依存的な変化を示した。言い換えると、このような結果から、本発明により、薬物溶出速度を増大させた製剤は可溶化剤及びヒドロゲル形成用物質を最小含量で用いて得ることができ、これによって製剤の大きさの増大、ならびに体内における製剤の早期の崩壊を抑制することができることがわかる。
また、前記のような結果から、相異なる粘度を有する2種以上のヒドロゲル形成物質を一緒に用いて放出速度を都合良く調節することができることがわかる。
【0040】
実施例20〜21:シロスタゾールを含むコーティングされた錠剤の製造−(5)
前記実施例11及び19で製造された錠剤をそれぞれオパドライ(商標)(カラコン社製)と表7で示す量の精製水との混合物を用いてパンコーターでスプレーコーティングした。
表7
【表7】

:製造過程中に除去される。
【0041】
試験例4:吸収試験(Absorption test)
制御放出製剤に含まれるシロスタゾールの生物学的利用率を測定するため、実施例21及び比較例2(プレタール(商標)(シロスタゾール100mg、大塚製薬社製))の錠剤をそれぞれビーグル犬(Beijing Marshall Biotechnology Co.Ltd.、雄、5.5週齢、6.94〜8.88kg)に投与した。比較例2の錠剤は6時間後に追加投与した。投与後、一定時間間隔で犬から血液試料を採取し、血中薬物濃度の時間依存的な変化を分析した。分析結果によれば、各錠剤の最高血中濃度(Cmax)、最高血中濃度に到達するまでの時間(Tmax)及び血漿中濃度曲線下面積(AUC)を計算した。その結果を表8に示す。
表8
【表8】

前記表8からわかるように、1回投与された実施例21の錠剤は6時間間隔で2回投与された比較例2の錠剤と等しい水準のCmax及びAUC値を示しており、これによって本発明の製剤は好ましい徐放パターンを示すことがわかる。このことから、本発明の制御放出製剤は1日単回投与だけでも所望のシロスタゾールの有効血中濃度を維持することができ、患者のコンプライアンスを増進させ得ることが分かる。
上述したように、本発明の制御放出製剤は胃腸に長くとどまる間の徐放によりシロスタゾールの血中濃度を一定レベルに維持させることで、薬物または可溶化剤の速放による副作用を最小化し、患者の服用コンプライアンスを向上させる。
【0042】
以上、本発明を前記実施例により説明したが、添付の特許請求の範囲によって定められる本発明の範疇内で技術分野における通常の知識を有する者なら多様な改変及び変更ができることは自明である。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明の制御放出製剤は胃腸に長くとどまる間の徐放によりシロスタゾールの血中濃度を一定レベルに維持させることで、薬物または可溶化剤の速放による副作用を最小化し、患者のコンプライアンスを向上させるので、シロスタゾール徐放性製剤として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)可溶化剤中に均一に分散されたシロスタゾールまたはその薬学的に許容可能な塩を含む粒子、及び、
(B)前記粒子が分散されているヒドロゲル形成用浸食性物質、
を含むシロスタゾールの制御放出製剤。
【請求項2】
製剤全重量を基準として10〜80重量%のシロスタゾールまたはその薬学的に許容可能な塩、0.1〜50重量%の可溶化剤、及び5〜80重量%のヒドロゲル形成用浸食性物質を含む、請求項1に記載の制御放出製剤。
【請求項3】
前記可溶化剤が、ポリビニルピロリドン、コポビドン、ポリエチレングリコール、ヒドロキシアルキルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポロキサマー、ポリビニルアルコール、シクロデキストリン、界面活性剤、及びこれらの混合物からなる群から選ばれる、請求項1に記載の制御放出製剤。
【請求項4】
前記界面活性剤が、ポリ(オキシエチレン)ソルビタン脂肪酸エステル、ステアリン酸ポリ(オキシエチレン)、ポリ(オキシエチレン)アルキルエーテル、ポリグリコール化グリセリド、ポリ(オキシエチレン)ヒマシ油、ソルビタン脂肪酸エステル、ポロキサマー、脂肪酸塩、肝汁酸塩、アルキル硫酸塩、レシチン、肝汁酸塩とレシチンとの混合ミセル、糖エステル、ビタミンE(ポリエチレングリコール1000)コハク酸(TPGS)、ラウリル硫酸ナトリウム、及びこれらの混合物からなる群から選ばれる、請求項3に記載の制御放出製剤。
【請求項5】
前記ヒドロゲル形成用浸食性物質が、ポリエチレンオキシド、ヒドロキシアルキルセルロース、ヒドロキシプロピルアルキルセルロース、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、カルボキシメチルセルロースナトリウム、アルギン酸プロピレングリコール、カルボポール、アルギン酸ナトリウム、キサンタンガム、ローカストビーンガム、セルロースガム、ジェランガム、トラガカントガム、カラヤガム、グアーガム、アカシアガム及びこれらの混合物からなる群から選ばれる、請求項1に記載の制御放出製剤。
【請求項6】
前記製剤が薬学的に許容可能な添加剤をさらに含む、請求項1に記載の制御放出製剤。
【請求項7】
前記薬学的に許容可能な添加剤が、希釈剤、結合剤、膨潤剤、潤滑剤、及びこれらの混合物からなる群から選ばれる、請求項6に記載の制御放出製剤。
【請求項8】
前記希釈剤が、ラクトース、デキストリン、マンニトール、ソルビトール、でんぷん、微結晶セルロース、リン酸水素カルシウム、無水リン酸水素カルシウム、炭酸カルシウム、糖類、及びこれらの混合物からなる群から選ばれる、請求項7に記載の制御放出製剤。
【請求項9】
前記結合剤が、ポリビニルピロリドン、コポビドン、ゼラチン、でんぷん、スクロース、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルアルキルセルロース、及びこれらの混合物からなる群から選ばれる、請求項7に記載の制御放出製剤。
【請求項10】
前記膨潤剤が、架橋ポリビニルピロリドン、架橋カルボキシメチルセルロースナトリウム、架橋カルボキシメチルセルロースカルシウム、架橋カルボキシメチルセルロース、でんぷんグリコール酸ナトリウム、カルボキシメチルでんぷん、カルボキシメチルでんぷんナトリウム、メタクリル酸カリウム−ジビニルベンゼン共重合体、アミロース、架橋アミロース、でんぷん誘導体、微結晶セルロース、セルロース誘導体、シクロデキストリン、デキストリン誘導体、及びこれらの混合物からなる群から選ばれる、請求項7に記載の制御放出製剤。
【請求項11】
前記潤滑剤が、ステアリン酸、ステアリン酸塩、タルク、コーンスターチ、カルナウバワックス、軽質無水ケイ酸、ケイ酸マグネシウム、合成ケイ酸アルミニウム、硬化油、白鉛、酸化チタン、微結晶セルロース、マクロゴール4000及びマクロゴール6000、ミリスチン酸イソプロピル、リン酸水素カルシウム、及びこれらの混合物からなる群から選ばれる、請求項7に記載の制御放出製剤。
【請求項12】
前記製剤がコーティング剤を含むコーティング層をさらに含む、請求項1に記載の制御放出製剤。
【請求項13】
前記コーティング剤が、エチルセルロース、セラック、アンモニオメタクリル酸塩共重合体、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシブチルセルロース、ヒドロキシペンチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルブチルセルロース、ヒドロキシプロピルペンチルセルロース、フタル酸ヒドロキシアルキルセルロース、酢酸フタル酸セルロースナトリウム、アセチルフタル酸セルロース、フタル酸セルロースエーテル、メタクリル酸とメタクリル酸メチル又はエチルエステルとの陰イオン性共重合体、フタル酸ヒドロキシプロピルメチルセルロース、アセチルコハク酸ヒドロキシプロピルメチルセルロース、アセチルフタル酸セルロース、オパドライ、及びこれらの混合物からなる群から選ばれる、請求項12に記載の制御放出製剤。
【請求項14】
(1)シロスタゾールまたはその薬学的に許容可能な塩を可溶化剤と混合し、その結果得られた混合物を固体分散法を用いて顆粒化して粒子を製造する工程、及び、
(2)前記工程(1)で得た粒子にヒドロゲル形成用浸食性物質を添加し、得られた混合物を顆粒化して前記粒子が含まれた顆粒を製造する工程、
を含む、請求項1に記載のシロスタゾールの制御放出製剤の製造方法。
【請求項15】
前記シロスタゾールまたはその薬学的に許容可能な塩が製剤全重量を基準として10〜80重量%の量で用いられる、請求項14に記載の製造方法。
【請求項16】
前記可溶化剤が製剤全重量を基準として0.1〜50重量%の量で用いられる、請求項14に記載の製造方法。
【請求項17】
前記ヒドロゲル形成用浸食性物質が製剤全重量を基準として5〜80重量%の量で用いられる、請求項14に記載の製造方法。
【請求項18】
前記工程(1)もしくは(2)を行う前の混合物、または工程(2)で得た顆粒に薬学的に許容可能な添加剤を添加することをさらに含む、請求項14に記載の製造方法。
【請求項19】
前記薬学的に許容可能な添加剤が、希釈剤、結合剤、膨潤剤、潤滑剤、及びこれらの混合物からなる群から選ばれる、請求項18に記載の製造方法。
【請求項20】
前記工程(2)で得た顆粒をコーティング剤でコーティングする工程をさらに含む、請求項14に記載の製造方法。

【公表番号】特表2010−519200(P2010−519200A)
【公表日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−549532(P2009−549532)
【出願日】平成20年2月15日(2008.2.15)
【国際出願番号】PCT/KR2008/000901
【国際公開番号】WO2008/100106
【国際公開日】平成20年8月21日(2008.8.21)
【出願人】(505118718)アモーレパシフィック コーポレイション (21)
【氏名又は名称原語表記】AMOREPACIFIC CORPORATION
【出願人】(509231086)パシフィック ファーマシューティカル カンパニー リミテッド (2)
【氏名又は名称原語表記】PACIFIC PHARMACEUTICAL CO., LTD.
【Fターム(参考)】