説明

シワ改善剤及び皮膚外用組成物

【目的】 光老化により出現するシワの改善効果に優れたシワ改善剤を提供する。
【構成】 胆汁酸又はそれらの生理的に許容される塩からなる群より選ばれる1種以上、特に下記化学式(1)で示されるコール酸又はその塩を配合することを特徴とするシワ改善剤。
【化1】


(但し、Mは水素原子又は塩形成が可能な陽イオンを表す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、老化に伴い、特に露光部位に発生するシワの改善効果に優れ、皮膚を皮膚科学的および美容的に健やかな状態に保つ効果を有するシワ改善剤に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒトをはじめとするすべての生物の臓器は、誕生して成長した後、加齢と伴に徐々に衰え、やがて機能停止し、機能停止した部分がある一定以上になると死に至る。その機能が徐々に衰えて行く状態を老化と呼んでいる。皮膚は、まわりの環境から直接影響を受けており、生体内部の環境を維持する重要な機能を持っているため全てが機能停止に至ることはあまりないが、シワ、シミ、くすみ、タルミなど老化徴候が顕在化しやすい臓器であり、日光に暴露される露光部位では特に顕著である。
【0003】
皮膚の老化が進行すると、酸化ストレスなどの刺激に対する防御が弱まり、皮膚内部環境を乱す原因となり、さらに老化を進める。特に、露光部位では紫外線照射などが原因となる強い酸化ストレスに常に曝されていることから、老化の進行が顕著である。このような皮膚の変化を光老化と呼んでおり、そのような皮膚では、真皮の大多数を占める構成成分であるコラーゲンが減少することにより、皮膚表面でシワが深く大きくなるなど美容上も好ましくない状態となる。
【0004】
光老化が進行した結果生じるシワに対して改善効果を有する物質として、米国ではレチノイン酸が処方箋薬として用いられているが、副作用が強く安全性にも問題があるため、我が国では承認に至っていない。また、体内に吸収された後レチノイン酸に転換され効果を発揮すると言われているレチノール(ビタミンA)や抗酸化およびコラーゲン合成促進効果を持つアスコルビン酸(ビタミンC)、抗酸化効果の強いトコフェロール(ビタミンE)などシワ改善物質として提案されているが、これらは十分に満足する効果が得られない欠点があった。また、医薬品・医薬部外品・化粧品に使用されている抗酸化剤や抗炎症剤などは、シワを改善するのには、十分な効果が得られなかった。つまり、これまでにシワを改善する物質として、十分に満足する効果を有し、安全性も有するものはなかった。
【0005】
また、従来のシワ改善剤は、化学合成によるものが多く、安全性の面からも多くの問題があった。一方、安全性の問題の生じにくい天然物質については、ビタミンを除きほとんど知られておらず、しかも充分に効果を発揮するものは得られていなかった。さらに、レチノールなどの天然のシワ改善剤は、光安定性に著しく欠けるものが多く、たとえ効果を有していても、製剤中で速やかに分解されるなど、製剤への配合が困難な物質がほとんどであった。
【0006】
胆汁酸は、哺乳類、鳥類などの胆汁中に広く見出される4環構造のステロイドであり、コレステロールから生成され、脂質の消化・吸収などに役立っている。コール酸は、胆汁酸に含まれる既知物質である(非特許文献1)。また、胆汁酸は、漢方として使用される「牛黄」にも多量に含まれていることが公知である(非特許文献2)。胆汁酸及びその塩に関しては、口腔衛生増進剤としての提案(特許文献1)や津液改善用皮膚外用剤の提案(特許文献2)や殺菌洗浄剤としての提案(特許文献3)はなされているが、シワ改善効果についての検討はなんらなされていなかった。
【0007】
【特許文献1】特開平10−45550号公報
【特許文献2】特開平10−120579号公報
【特許文献3】特開2000−198998号公報
【非特許文献1】生化学辞典(第2版)、東京化学同人
【非特許文献2】刈米達夫、「和漢生薬」、p327、1971年、廣川書店
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、老化により、特に露光部位で顕著に顕在化するシワの改善効果に優れ、美容的にも健やかな皮膚に保つ効果に優れ、安全性や安定性にも優れたシワ改善剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記のようなことから鑑みて鋭意研究を行った結果、胆汁酸が老化により、特に露光部位で顕著に出現するシワを改善し、美容的にも皮膚を健やかに保つ効果を有し、且つ安全性、安定性にも優れることを確認して本発明を完成するに至った。すなわち、本願第1の発明は、胆汁酸又はそれらの生理的に許容される塩からなる群より選ばれる1種以上を配合することを特徴とするシワ改善剤にある。また本願第2の発明は、選ばれる胆汁酸又はそれらの生理的に許容される塩のひとつが、下記化学式(1)で表されるコール酸又はその塩であることを特徴とする上記のシワ改善剤にある。さらに本願第3の発明は、上記シワ改善剤を配合することを特徴とする皮膚外用組成物にある。
【化1】

(但し、Mは水素原子又は塩形成が可能な陽イオンを表す。)
【発明の効果】
【0010】
本発明は、加齢に伴い特に露光部位に発生するシワの改善効果に優れ、皮膚を皮膚科学的および美容的に健やかな状態に保つシワ改善剤を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明を詳説する。上述したように、胆汁酸は胆汁に含まれ、コール酸は胆汁酸として知られている成分の一つである。また、漢方薬として使用される牛黄にも含まれていることが公知である。従って、本発明で用いられる胆汁酸又はその塩、コール酸又は塩は、胆汁や牛黄から公知の方法により抽出することができる。例えば、上記の漢方薬などから有機溶媒、例えばメタノール、エタノール、プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、ブタノール等の低級アルコールおよび含水低級アルコール或いは、1,3−ブチレングリコールなどの多価アルコール等および含水多価アルコール、或いはアセトン、酢酸エチル、ヘキサン等の各種有機溶媒または、水により抽出可能である。抽出物は必要に応じて、公知の手法にて精製することも可能である。また、精製品が市販されているので、それらを利用してもよい。
【0012】
本発明で使用される胆汁酸及びコール酸、若しくはそれら塩は、包接体となっていも構わない。また細菌等により2次代謝を受けた胆汁酸も本願発明の胆汁酸に含まれる。さら
に胆汁酸から誘導される各種誘導体も、胆汁酸に準ずるものとして使用が可能である。その誘導体の範囲としては、アシル化、エステル化、配糖体化等の誘導体が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0013】
本発明で使用される胆汁酸やコール酸の生理的に許容される塩としては、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、有機アンモニウム塩等が挙げられる。有機アンモニウムとしては、メチルアンモニウム、ジメチルアンモニウム、トリメチルアンモニウム、エチルアンモニウム、モノエタノールアンモニウム、ジエタノールアンモニウム、トリエタノールアンモニウム、モノプロパノールアンモニウム、ジイソプロピルアンモニウム等が挙げられる。
【0014】
本発明における胆汁酸若しくはそれらの塩、及びコール酸若しくはその塩は、シワ改善効果を有し、これらからなる群より選ばれる1種以上を配合した製剤は、シワ改善剤としての機能を発揮する。本発明のシワ改善剤におけるこれら有効成分の配合量は、シワ改善剤の総量を基準として0.001〜20.0質量%(以下、単に%と記する)が好ましく、特に好ましくは、0.5〜5.0%である。前記下限未満の配合量では、本発明の目的とする効果が十分でなく、一方、前記上限を越えて配合しても、その増加分に見合った効果の向上がなく好ましくない。
【0015】
本発明のシワ改善剤は、皮膚化粧料はもとより、医薬品や入浴剤等の皮膚外用組成物に配合することが可能である。配合量としては、有効成分である胆汁酸、コール酸及びそれらの塩の配合量が、皮膚外用組成物を基準として上記の範囲となるようにすると、シワ改善効果に優れるため好ましい。皮膚外用組成物の剤型としては、例えばローション類、乳液類、クリーム類、パック類等を挙げることができる。尚、本発明の皮膚外用組成物には、本発明のシワ改善剤の他に、一般的に使用される各種の成分、例えば色素、香料、防腐剤、界面活性剤、顔料、抗酸化剤等を、本発明の目的を達成する範囲内で適宜配合することができる。
【実施例】
【0016】
以下、実施例を挙げて、本願発明を詳説するが、これらに限定されるものではない。尚、実施例における%は全て質量%である。
【0017】
実施例1(コール酸配合製剤)
コール酸を1.0%配合したシワ改善剤を皮膚に適用した場合の効果を、光老化させた皮膚における真皮コラーゲン含有量の減少に対する効果として評価した。尚、コール酸は東京化成工業社製試薬(純度98%以上)を使用した。
【0018】
(試験方法)
1.試験動物
試験開始時10週齢のヘアレスマウス1群10匹を用いた。
【0019】
2.真皮コラーゲン減少に対する効果の評価方法
2−1.光老化条件
光老化は、UVAとUVBを1日1回、週5回、8週間照射することで誘発させた。照射量は、UVAが20J/cm、25J/cm、30J/cm、UVBが20mJ/cm、30mJ/cm、40mJ/cmと、1週ごとに照射量を増量し、3週目以降は最大量を照射した。
【0020】
2−2.評価方法
真皮コラ−ゲン量:全層皮膚を採取してポリトロンホモジナイザー(KINEMATI
CA社製)で破砕後、コラーゲン画分を抽出して酸加水分解後、ヒドロキシプロリン含有量をアミノ酸分析装置(日本分光製)を用いて定量した。1cm当たりのヒドロキシプロリン量を真皮コラーゲン量の相対的指標とした。
【0021】
3.試験操作
50%エタノール水溶液を基剤として、コール酸を1.0%配合した試料を調製した(実施例1)。一方、基剤のみの試料を比較例1とした。評価試料0.1mlをヘアレスマウスの背部皮膚(直径約2.5cm)に1日1回、1週間に5回の頻度で、UV照射開始後5週目から照射終了後4週目まで塗布した。最終塗布終了後、屠殺し、皮膚を採取して真皮コラーゲン含有量(1cm当たりのヒドロキシプロリン量)を測定した。
【0022】
4.試験結果(真皮コラーゲン含有量測定結果)
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
群 ヒドロキシプロリン量(平均値±SE) 有意差
(μmol/cm) (対基剤)
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
実施例1(コール酸配合) 8.07 ± 0.76 あり(p<0.01)
比較例1(基剤のみ) 5.69 ± 0.28
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
【0023】
コール酸を配合した実施例1塗布群は、基剤のみの比較例1と比較して、有意に高いコラーゲン含有量(ヒドロキシプロリン量)を示し、光老化により減少する真皮コラーゲン量に対し、コール酸が有効であることを示した。
【0024】
本試験の結果から実施例1のコール酸配合製剤が、シワを改善するシワ改善剤としての効果に優れていることが示された。
【0025】
実施例2、比較例2(スキンローション)
下記組成のスキンローション(実施例2)を常法に従って調製し、それを試料として次の操作によって、シワ改善効果を評価した。尚、成分(7)のコール酸を配合しないものを比較例2とした。10名の目尻にシワのある健常人(女性、40〜70歳)を被験者として、実施例2及び比較例2のスキンローションそれぞれを、左右のどちらかに決めて、朝洗顔後及び夕方入浴後の1日2回、2ヵ月間(60日)連続で目尻のシワの部分(目尻を中心に約4cm、2×2cm)に約0.2mlずつ塗布してもらった。そして最終塗布後に左右の目尻部分の皮膚(シワ)の状態に関しアンケートに答えてもらった。
【0026】
(組成)
原 料 成 分 配合量(%)
(1)ブチレングリコール 30.0
(2)モノラウリン酸 0.5
ポリオキシエチレン(20)ソルビタン
(3)プロピレングリコール 20.0
(4)グリセリン 10.0
(5)メチルパラベン 0.1
(6)エタノール 7.0
(7)コール酸 1.0
(8)精製水 残 量
【0027】
アンケート結果をもとに、皮膚(シワ)の状態に関する各項目において、比較例2より実施例2のスキンローションのほうが有効であると回答した人数を以下に示す。
【0028】
―――――――――――――――――
項 目 人数(名)
―――――――――――――――――
シワが目立たなくなった 6
皮膚が柔らかくなった 4
皮膚にハリがでた 6
皮膚につやがでた 3
皮膚があかるくなった 3
―――――――――――――――――
【0029】
本試験結果から実施例2のスキンローションは、比較例2と比較して明らかにシワを改善しており、さらに光老化により悪化する柔軟性や色調までもが改善されたことが分かる。ヒトの顔面に形成されるシワは、炎症を惹起しない程度の紫外線に繰り返し長期間にわたり暴露された結果出現するもので、単なる抗炎症作用ではシワを改善することは不可能であると考えられる。また、本発明のスキンローションによる刺激や痒み等の皮膚の異常は認められなかった。
【0030】
実施例3(スキンクリーム)
下記組成のコール酸配合したスキンクリームを常法により調製し、事前アンケートで目尻のシワを肌悩みとして挙げた20名の健常人(女性、50〜55歳)に1週間以上使用してもらい、アンケート調査を行った。
【0031】
(組成)
原 料 成 分 配合量(%)
(1) 蜜ロウ 2.0
(2) ステアリン酸 5.0
(3) ステアリルアルコール 5.0
(4) 還元ラノリン 2.0
(5) スクワレン 20.0
(6) モノステアリン酸ソルビタン 3.0
(7) モノステアリン酸 3.0
ポリオキシエチレン(20)ソルビタン
(8) プロピレングリコ−ル 5.0
(9) メチルパラベン 0.2
(10)精製水 残 量
(11)コール酸ナトリウム 1.0
(12)香料 適 量
【0032】
実施例3のスキンクリームを使用してもらい、アンケート調査を実施した。その結果を以下に示す。尚、結果は、各項目ごとに使用前と比較して使用後にそう思うと回答した人数で示した。
【0033】
―――――――――――――――――
項 目 人数(名)
―――――――――――――――――
シワが目立たなくなった 15
シワの大きさが減少した 16
シワの数が減少した 7
シワが増えた 0
―――――――――――――――――
【0034】
本試験結果から実施例3のスキンクリームは、使用前と比較してシワが目立たなくなったと実感しているヒトがほぼ全員で、その要因としてシワの数よりもシワの大きさを軽減することで、光老化によるシワを改善したことが分かる。また、本発明のスキンクリームによる刺激や痒み等の皮膚の異常は認められなかった。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本願発明に係わる、胆汁酸又はそれらの塩から選ばれる1種以上、特にコール酸又はその塩を配合したシワ改善剤は、皮膚化粧料の他、皮膚外用組成物として医薬品や入浴剤等に適用でき、剤型的には例えばロ−ション類、乳液類、クリ−ム類、パック類等とすることができ、皮膚の美容の面から非常に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
胆汁酸又はそれらの生理的に許容される塩からなる群より選ばれる1種以上を配合することを特徴とするシワ改善剤。
【請求項2】
選ばれる胆汁酸又はそれらの生理的に許容される塩のひとつが、下記化学式(1)で表されるコール酸又はその塩であることを特徴とする、請求項1に記載のシワ改善剤。
【化1】

(但し、Mは水素原子又は塩形成が可能な陽イオンを表す。)
【請求項3】
請求項1又は2に記載のシワ改善剤を配合することを特徴とする皮膚外用組成物。

【公開番号】特開2006−248953(P2006−248953A)
【公開日】平成18年9月21日(2006.9.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−66530(P2005−66530)
【出願日】平成17年3月10日(2005.3.10)
【出願人】(504180206)株式会社カネボウ化粧品 (125)
【Fターム(参考)】