説明

シンチレータパネル

【課題】生産適正に優れ、シンチレータの発光取り出し効率、鮮鋭性が高く、平面受光素子面間での鮮鋭性の劣化が少ないシンチレータパネル及びそれを用いた放射線FPDを提供する。
【解決手段】基板上に蒸着法によって作製された蛍光体層と、該蛍光体層の側に配置した第1保護フィルムと該基板の側に配置した第2保護フィルムとにより封止したシンチレータパネルにおいて、該基板の蛍光体層が配置される面の端部辺が角を持たないことを特徴とするシンチレータパネル。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シンチレータパネルに関する。
【背景技術】
【0002】
X線画像のような放射線画像は医療現場において病状の診断に広く用いられている。近年では、放射線検出器を用いた放射線イメージングシステムが普及してきている。このシステムは、放射線検出器による2次元の放射線による画像データを電気信号として取得し、この信号を処理することでモニタ上へ表示させる。
【0003】
シンチレータパネルは、基板側から入射した放射線を光に変換する役割を果たす。1990年代に放射線画像の撮影装置として開発されたFPD(Flat Panel Detector)は、シンチレータパネルと撮像素子を組み合わせた放射線検出器である。この時シンチレータの材料としては、ヨウ化セシウム(CsI)がよく用いられる。CsIはX線から可視光への変換率が比較的高く、蒸着によって容易に柱状結晶構造を形成できるため、光ガイド効果により発光光の散乱が抑えることができる。
【0004】
しかしながらCsIのみでは発光効率が低いため、CsIとヨウ化ナトリウム(NaI)を任意のモル比で混合したものを、蒸着を用いて基板上にナトリウム賦活ヨウ化セシウム(CsI:Na)として堆積させ、後工程としてアニールを行うことで可視変換効率を向上させ、X線蛍光体として使用して(例えば、特許文献1参照)いる。
【0005】
また最近では、インジウム(In)、タリウム(Tl)、リチウム(Li)、カリウム(K)、ルビジウム(Rb)、ナトリウム(Na)等の賦活物質をスパッタで形成するX線蛍光体作製方法等が提案されている。しかしながらCsIをベースとしたシンチレータは潮解性があり、経時で特性が劣化するという欠点がある。この様な経時劣化を防止するために、CsIシンチレータの表面に防湿性保護層を形成することが提案されて(例えば、特許文献2参照)いる。
【0006】
従来、気体層法によるシンチレータの製造方法としては、アルミやアモルファスカーボンなど剛直な基板上に蛍光体層を形成し、その上にシンチレータの表面全体を保護膜で被覆させることが一般的(例えば、特許文献3参照)である。しかしながら、自由に曲げることのできないこれらの基板上に蛍光体層を形成した場合、シンチレータパネルと平面受光素子面を貼り合せる際に、基板の変形や蒸着時の反りなどの影響を受け、FPDの受光面内で均一な画質特性が得られないという欠点がある。また、基板が金属の場合には、X吸収が大きく、特に低被爆を進める点で問題となっていた。一方、近年使用され始めたアモルファスカーボン類は、X線吸収が低い点は有用であるものの、大サイズ化の汎用品が無いことと、非常に高価である等、未だ実用的な生産に適しているとは言い難かった。従って、このような問題は、近年のFPDの大型化に伴い深刻化してきている。
【0007】
この問題を回避するために平面受光素子面(撮像素子上)に直接、蒸着でシンチレータを形成する方法や、鮮鋭性は低いが、可とう性を有する医用増感紙などをシンチレータパネルの代用として用いることが一般的に行われている。また、保護層としてポリパラキシリレン等の柔軟な保護層を使用した例が示されて(例えば、特許文献4参照)いる。
【0008】
しかしながら、平面受光素子に直接蒸着したシンチレータ材料は画像特性が高いものの、蒸着の不良品発生時に高価な受光素子を無駄にするコスト的な欠点と熱処理によりシンチレータ材料の画像特性向上が図れるにも拘わらず受光素子が熱に弱いため処理温度に制約がある。又は、熱処理プロセス上に受光素子の冷却を組み込む必要があるなどの煩雑さが有り問題であった。
【0009】
したがって、上述した様な問題がある状況を改善すべく、生産適正に優れ、シンチレータ(蛍光体)層の経時での特性劣化を防止し、シンチレータ(蛍光体)層を化学的な変質あるいは物理的な衝撃から保護し、シンチレータパネルと平面受光素子面間での鮮鋭性の劣化が少なく、均一な画質特性が得られる放射線FPDを開発することが強く望まれている。
【特許文献1】特公昭54−35060号公報
【特許文献2】特開2001−59899号公報
【特許文献3】特許第3566926号公報
【特許文献4】特開2002−116258号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、生産適正に優れ、シンチレータの発光取り出し効率、鮮鋭性が高く、平面受光素子面間での鮮鋭性の劣化が少ないシンチレータパネル及びそれを用いた放射線FPDを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の上記目的は、以下の構成により達成することができる。
【0012】
1.基板上に蒸着法によって作製された蛍光体層と、該蛍光体層の側に配置した第1保護フィルムと該基板の側に配置した第2保護フィルムとにより封止したシンチレータパネルにおいて、該基板の蛍光体層が配置される面の端部辺が角を持たないことを特徴とするシンチレータパネル。
【0013】
2.前記基板がポリイミド(PI)またはポリエチレンナフタレート(PEN)フィルムであることを特徴とする前記1に記載のシンチレータパネル。
【0014】
3.前記第1及び第2保護フィルムの厚さがそれぞれ10〜100μmであることを特徴とする前記1又は2に記載のシンチレータパネル。
【0015】
4.前記第1及び第2保護フィルムの透湿度がそれぞれ50g/m2・day以下であることを特徴とする前記1〜3のいずれか1項に記載のシンチレータパネル。
【0016】
5.前記蛍光体層がCsI(ヨウ化セシウム)であることを特徴とする前記1〜4のいずれか1項に記載のシンチレータパネル。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、生産適正に優れ、シンチレータの発光取り出し効率、鮮鋭性が高く、平面受光素子面間での鮮鋭性の劣化が少ないシンチレータパネル及びそれを用いた放射線FPDを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明を更に詳しく説明する。
【0019】
(蛍光体層)
本発明において、蛍光体層が配置される面の端部辺が角を持たないことを、図1(c)を用いて説明する。図1は、シンチレータパネル10の概略構成を示す断面図である。図1(a)は面の端部辺が角を持つもので、図1(b)は本発明の端部辺に角を持たないものである。図1(c)は蛍光体層が配置される面の端部辺の拡大図である。図1において、基板1に反射層3を設け、その上に蛍光体層2が設けられる。場合により、基板1と反射層3の間、又は反射層3と蛍光体層2の間、或いはその両方に下引層(図示せず)を設ける。
【0020】
図1(c)において、補助線C1は端部の切線を示す。補助線C2は蛍光体層2の上面の延長線であり、補助線C3は蛍光体層2の垂直面の延長線である。αは補助線C2と補助線C3から補助線C1への垂線の距離を表す。本発明において、αは蛍光体層2の厚さの1/10〜1/1000であり、好ましくは1/100〜1/1000である。
【0021】
図1(a)のシンチレータパネルは抜型プレスカッターなどで切断したもので、蛍光体層の端部はほぼ直角である。一方、図1(b)のシンチレータパネルをペーパーカッター等で切断、或いは図1(a)のシンチレータパネルの端部の角をサンドペーパーなどで擦り落としたものである。シンチレータパネルをペーパーカッター等で切断すると蛍光体層2の角が少し剥がれ、本発明の形状になる。
【0022】
蛍光体層を形成する材料としては、種々の公知の蛍光体材料を使用することができるが、X線から可視光に対する変更率が比較的高く、蒸着によって容易に蛍光体を柱状結晶構造に形成出来るため、光ガイド効果により結晶内での発光光の散乱が抑えられ、蛍光体層の厚さを厚くすることが可能であることから、ヨウ化セシウム(CsI)が好ましい。
【0023】
但し、CsIのみでは発光効率が低いために、各種の賦活剤が添加される。例えば、特公昭54−35060号の如く、CsIとヨウ化ナトリウム(NaI)を任意のモル比で混合したものが挙げられる。また、例えば特開2001−59899号公報に開示されているようなCsIを蒸着で、インジウム(In)、タリウム(Tl)、リチウム(Li)、カリウム(K)、ルビジウム(Rb)、ナトリウム(Na)などの賦活物質を含有するCsIが好ましい。特に好ましい蛍光体賦活剤として、TlI、TlBr、EuIを挙げることができる。
【0024】
なお、本発明においては、特に、1種類以上のタリウム化合物を含む添加剤とヨウ化セシウムとを原材料とすることが好ましい。すなわち、タリリウム賦活ヨウ化セシウム(CsI:Tl)は400nmから750nmまでの広い発光波長をもつことから好ましい。
【0025】
本発明に係る1種類以上のタリウム化合物を含有する添加剤のタリウム化合物としては、種々のタリウム化合物(+Iと+IIIの酸化数の化合物)を使用することができる。
【0026】
本発明において、好ましいタリウム化合物は、臭化タリウム(TlBr)、塩化タリウム(TlCl)、又はフッ化タリウム(TlF,TlF3)等である。
【0027】
また、本発明に係るタリウム化合物の融点は、400〜700℃の範囲内にあることが好ましい。700℃以内を超えると、柱状結晶内での添加剤が不均一に存在してしまい、発光効率が低下する。なお、本発明での融点とは、常温常圧下における融点である。
【0028】
また、タリウム化合物の分子量は206〜300の範囲内にあることが好ましい。
【0029】
本発明の蛍光体層において、当該添加剤の含有量は目的性能等に応じて、最適量にすることが望ましいが、ヨウ化セシウムの含有量に対して、0.001mol%〜50mol%、更に0.1〜10.0mol%であることが好ましい。
【0030】
ここで、ヨウ化セシウムに対し、添加剤が0.001mol%未満であると、ヨウ化セシウム単独使用で得られる発光輝度と大差なく、目的とする発光輝度を得ることができない。また、50mol%を超えるとヨウ化セシウムの性質・機能を保持することができない。
【0031】
(保護フィルム)
本発明に係る保護フィルムは、蛍光体層の保護を主眼とするものである。すなわち、ヨウ化セシウム(CsI)は、吸湿性が高く露出したままにしておくと空気中の水蒸気を吸湿して潮解してしまうため、これを防止することを主眼とする。当該保護フィルムは、種々の材料を用いて形成することができ、例えば、蛍光体層上に高分子保護フィルムを設ける。
【0032】
上記高分子保護フィルムの厚さは、空隙部の形成性、蛍光体層の保護性、鮮鋭性、防湿性、作業性等を考慮し、12μm以上、60μm以下が好ましく、更には20μm以上、40μm以下が好ましい。また、ヘイズ率が、鮮鋭性、放射線画像ムラ、製造安定性、作業性等を考慮し、3%以上40%以下が好ましく、更には3%以上、10%以下が好ましい。ヘイズ率は、日本電色工業株式会社NDH 5000Wにより測定した値を示す。必要とするヘイズ率は、市販されている高分子フィルムから適宜選択し、容易に入手することが可能である。
【0033】
保護フィルムの光透過率は、光電変換効率、シンチレータ発光波長等を考慮し、550nmで70%以上あることが好ましいが、99%以上の光透過率のフィルムは工業的に入手が困難であるため実質的に99%〜70%が好ましい。
【0034】
保護フィルムの透湿度は、蛍光体層の保護性、潮解性等を考慮し50g/m2・day(40℃・90%RH)(JIS Z0208に準じて測定)以下が好ましく、更には10g/m2・day(40℃・90%RH)(JIS Z0208に準じて測定)以下が好ましいが、0.01g/m2・day(40℃・90%RH)以下の透湿度のフィルムは工業的に入手が困難であるため実質的に、0.01g/m2・day(40℃・90%RH)以上、50g/m2・day(40℃・90%RH)(JIS Z0208に準じて測定)以下が好ましく、更には0.1g/m2・day(40℃・90%RH)以上、10g/m2・day(40℃・90%RH)(JIS Z0208に準じて測定)以下が好ましい。
【0035】
(基板)
本発明のシンチレータパネルの基板は、放射線透過性と光透過性と蛍光体層の屈折率より小さい屈折率とをもった誘電体である。従って、セルロースアセテートフィルム、ポリエステルフィルム、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリエチレンナフタレートフィルム、ポリアミドフィルム、ポリイミドフィルム、トリアセテートフィルム、ポリカーボネートフィルム等の高分子フィルムを用いることができる。
【0036】
特に、ポリイミド又はポリエチレンナフタレートを含有する高分子フィルム等が、ヨウ化セシウムを原材料として気相法にて柱状シンチレータを形成する場合に、好適である。特に基板が厚さ50〜500μmの可とう性を有する高分子フィルムであることが好ましい。
【0037】
ここで、「可とう性を有する基板」とは、120℃での弾性率(E120)が1000〜6000N/mm2である基板をいい、かかる基板としてポリイミド又はポリエチレンナフタレートを含有する高分子フィルムが好ましい。
【0038】
なお、「弾性率」とは、引張試験機を用い、JIS−C2318に準拠したサンプルの標線が示すひずみと、それに対応する応力が直線的な関係を示す領域において、ひずみ量に対する応力の傾きを求めたものである。これがヤング率と呼ばれる値であり、本発明では、かかるヤング率を弾性率と定義する。
【0039】
本発明に用いられる基板は、上記のように120℃での弾性率(E120)が1000N/mm2〜6000N/mm2であることが好ましい。より好ましくは1200N/mm2〜5000N/mm2である。
【0040】
具体的には、ポリエチレンナフタレート(E120=4100N/mm2)、ポリエチレンテレフタレート(E120=1500N/mm2)、ポリブチレンナフタレート(E120=1600N/mm2)、ポリカーボネート(E120=1700N/mm2)、シンジオタクチックポリスチレン(E120=2200N/mm2)、ポリエーテルイミド(E120=1900N/mm2)、ポリアリレート(E120=1700N/mm2)、ポリスルホン(E120=1800N/mm2)、ポリエーテルスルホン(E120=1700N/mm2)等からなる高分子フィルムが挙げられる。
【0041】
これらは単独で用いてもよく積層あるいは混合して用いてもよい。中でも、特に好ましい高分子フィルムとしては、上述のように、ポリイミド又はポリエチレンナフタレートを含有する高分子フィルムが好ましい。
【0042】
なお、シンチレータパネルと平面受光素子面を貼り合せる際に、基板の変形や蒸着時の反りなどの影響を受け、フラットパネルデテイクタの受光面内で均一な画質特性が得られないという点に関して、該基板を、厚さ50μm以上500μm以下の高分子フィルムとすることでシンチレータパネルが平面受光素子面形状に合った形状に変形し、フラットパネルデテイクタの受光面全体で均一な鮮鋭性が得られる。
【0043】
(シンチレータパネルの作製方法)
本発明のシンチレータパネルの作製方法の典型的例について、図を参照しながら説明する。図2は、シンチレータパネルを保護フィルムにより封止した場合の断面図である。なお、図3は、蒸着装置61の概略構成を示す図面である。
【0044】
図2において、蛍光体層2面側の第1保護フィルム4及び基板1側の第2保護フィルム5で封止されるが、封止位置は基板1寄りが好ましい。図2(a)は図1(a)のシンチレータパネルを用いたものである。その結果、封止の際、端部に力が集中し、保護フィルム又は蛍光体層が壊れる。一方、図2(a)は図1(b)のシンチレータパネルを用いたもので、封止の際、端部に力が集中せず、保護フィルム及び蛍光体層が保持される。
【0045】
〈蒸着装置〉
図3に示す通り、蒸着装置61は箱状の真空容器62を有しており、真空容器62の内部には真空蒸着用の抵抗加熱ルツボ63が配されている。抵抗加熱ルツボ63は蒸着源の被充填部材であり、当該抵抗加熱ルツボ63には電極が接続されている。当該電極を通じて抵抗加熱ルツボ63に電流が流れると、抵抗加熱ルツボ63がジュール熱で発熱するようになっている。シンチレータパネル10の製造時においては、ヨウ化セシウムと賦活剤化合物とを含む混合物が抵抗加熱ルツボ63に充填され、その抵抗加熱ルツボ63に電流が流れることで、上記混合物を加熱・蒸発させることができるようになっている。
【0046】
なお、被充填部材として、ヒータを巻回したアルミナ製のルツボを適用してもよいし、高融点金属製のヒータを適用してもよい。
【0047】
真空容器62の内部であって抵抗加熱ルツボ63の直上には基板1を保持するホルダ64が配されている。ホルダ64にはヒータ(図示略)が配されており、当該ヒータを作動させることでホルダ64に装着した基板1を加熱することができるようになっている。基板1を加熱した場合には、基板1の表面の吸着物を離脱・除去したり、基板1とその表面に形成される蛍光体層との間に不純物層が形成されるのを防止したり、基板1とその表面に形成される蛍光体層との密着性を強化したり、基板1の表面に形成される蛍光体層の膜質の調整をおこなったりすることができるようになっている。
【0048】
ホルダ64には当該ホルダ64を回転させる回転機構65が配されている。回転機構65は、ホルダ64に接続された回転軸65aとその駆動源となるモータ(図示略)から構成されたもので、当該モータを駆動させると、回転軸65aが回転してホルダ64を抵抗加熱ルツボ63に対向させた状態で回転させることができるようになっている。
【0049】
蒸着装置61では、上記構成の他に、真空容器62に真空ポンプ66が配されている。真空ポンプ66は、真空容器62の内部の排気と真空容器62の内部へのガスの導入とをおこなうもので、当該真空ポンプ66を作動させることにより、真空容器62の内部を一定圧力のガス雰囲気下に維持することができるようになっている。
【0050】
《蛍光体層の形成》
上記のように反射層を設けた基板1をホルダ64に取り付けるとともに、抵抗加熱ルツボ63にヨウ化セシウムとヨウ化タリウムとを含む粉末状の混合物を充填する(準備工程)。この場合、抵抗加熱ルツボ63と基板1との間隔を100〜1500mmに設定し、その設定値の範囲内のままで後述の蒸着工程の処理をおこなうのが好ましい。
【0051】
準備工程の処理を終えたら、真空ポンプ66を作動させて真空容器62の内部を排気し、真空容器62の内部を0.1Pa以下の真空雰囲気下にする(真空雰囲気形成工程)。ここでいう「真空雰囲気下」とは、100Pa以下の圧力雰囲気下のことを意味し、0.1Pa以下の圧力雰囲気下であるのが好適である。
【0052】
その後、アルゴン等の不活性ガスを真空容器62の内部に導入し、当該真空容器62の内部を0.1Pa以下の真空雰囲気下に維持する。次に、ホルダ64のヒータと回転機構65のモータとを駆動させ、ホルダ64に取付け済みの基板1を抵抗加熱ルツボ63に対向させた状態で加熱しながら回転させる。
【0053】
この状態において、電極から抵抗加熱ルツボ63に電流を流し、ヨウ化セシウムとヨウ化タリウムとを含む混合物を700℃〜800℃程度で所定時間加熱してその混合物を蒸発させる。その結果、基板1の表面に無数の柱状結晶体が順次成長して所望の厚さの蛍光体層が形成される(蒸着工程)。これにより、本発明に係るシンチレータパネルを製造することができる。
【0054】
本発明のシンチレータパネルとして、基板上に下記に示す導電性金属反射層、更にその上に保護層を設け、その上に蒸着により蛍光体層を設けることもできる。
【0055】
《反射層の形成》
基板1の一方の表面に反射層としての金属薄膜(Al膜、Ag膜等)をスパッタ法により形成する。また高分子フィルム上にAl膜をスパッタ蒸着したフィルムは、各種の品種が市場で流通しており、これらを本発明の基板として使用することも可能である。
【0056】
《保護層》
保護層は溶剤に溶解した樹脂を塗布、乾燥して形成することが好ましい。ガラス転位点が30〜100℃のポリマーであることが蒸着結晶と基板との膜付の点で好ましく、具体的には、ポリウレタン樹脂、塩化ビニル共重合体、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル−塩化ビニリデン共重合体、塩化ビニル−アクリロニトリル共重合体、ブタジエン−アクリロニトリル共重合体、ポリアミド樹脂、ポリビニルブチラール、ポリエステル樹脂、セルロース誘導体(ニトロセルロース等)、スチレン−ブタジエン共重合体、各種の合成ゴム系樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、フェノキシ樹脂、シリコン樹脂、アクリル系樹脂、尿素ホルムアミド樹脂等が挙げられるが、特にポリエステル樹脂であることが好ましい。
【0057】
保護層の膜厚としては接着性の点で0.1μm以上が好ましく、保護層表面の平滑性確保の点で3.0μm以下が好ましい。より好ましくは保護層の厚さが0.2〜2.5μmの範囲である。
【0058】
保護層作製に用いる溶剤としては、メタノール、エタノール、n−プロパノール、n−ブタノールなどの低級アルコール、メチレンクロライド、エチレンクロライドなどの塩素原子含有炭化水素、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン、トルエン、ベンゼン、シクロヘキサン、シクロヘキサノン、キシレンなどの芳香族化合物、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチルなどの低級脂肪酸と低級アルコールとのエステル、ジオキサン、エチレングリコールモノエチルエステル、エチレングリコールモノメチルエステルなどのエーテル及びそれらの混合物を挙げることができる。
【実施例】
【0059】
以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
【0060】
実施例1
(シンチレータパネルの作製)
(基板の準備)
基板として、厚さ0.125mmのポリイミドフィルム(90mm×90mm)を準備した。
【0061】
(反射層の形成)
ポリイミド(PI)フィルム基板に関しては、片方の面にアルミニウムをスパッタにより2000Å(0.2μm)の厚さに設置した。
【0062】
(保護層の形成)
保護層塗布液処方
バイロン630(東洋紡社製:高分子ポリエステル樹脂) 100質量部
メチルエチルケトン(MEK) 100質量部
トルエン 100質量部
上記処方を混合し、ビーズミルにて15時間分散し、保護層塗設用の塗布液を得た。この塗布液を上記基板の反射層の上に乾燥膜厚が1.0μmになるようにバーコーターで塗布したのち100℃で8時間乾燥することで保護層を作製した。
【0063】
(蛍光体層の形成)
図3に示す蒸着装置を使用して、準備した基板の保護層の上に蛍光体(CsI:0.003Tl)を蒸着させ蛍光体層を形成し、シンチレータパネルを作製した。
【0064】
蛍光体原料(CsI:0.003Tl)を抵抗加熱ルツボに充填し、支持体ホルダに基板を設置し、抵抗加熱ルツボと基板との間隔を400mmに調節した。続いて蒸着装置内を一旦排気し、Arガスを導入して0.5Paに真空度を調整した後、10rpmの速度で基板を回転しながら基板の温度を140℃に保持した。次いで、抵抗加熱ルツボを加熱して蛍光体を蒸着し蛍光体層の膜厚が600μmとなったところで蒸着を終了し、シンチレータパネルを得た。
【0065】
(シンチレータパネルの切断)
得られたシンチレータパネルについて、
形状(A):サンプルを抜型プレスカッターで切断したもの(図1(a))、
形状(B):大島工業(株)製のKWペーパーカッターを用い、蛍光体層側面を断裁し、面の端部辺が角を持たない形状としたもの(図1(b))、の2種を作製した。
【0066】
(保護フィルムの準備)
蛍光体層面側の保護フィルム(第1保護フィルム)として、ラミネート層付のバリアフィルムである“バリアロックス”(コート有り)1011HG−CW(#12)東レフィルム加工(株)を用いた。
【0067】
シンチレータパネルの基板側の保護フィルム(第2保護フィルム)は、蛍光体層面側の保護フィルムと同じものを使用した。
【0068】
(シンチレータパネルの作製)
切断した2種のシンチレータパネルを、準備した保護フィルムを使用し、図2に示す形態に封止しシンチレータパネルを作製した。図2(a)は比較の形状(A)を封止したシンチレータパネル断面図で、図2(b)が本発明の形状(B)を封止したシンチレータパネル断面図である。
【0069】
尚、封止は、減圧1000Pa条件下で、融着部からシンチレータシートの周縁部までの距離は1mmとなるように融着した。融着に使用したインパルスシーラーのヒータは3mm幅のものを使用した。
【0070】
(発光輝度の測定)
シンチレータパネルを、10cm×10cmの大きさのCMOSフラットパネル(ラドアイコン社製X線CMOSカメラシステムShad−o−Box 4KEV)にセットし、管電圧80kVpのX線を各試料の裏面(シンチレータ蛍光体層が形成されていない面)から照射し、測定カウント値を発光輝度(感度)とした。ただし、比較例のシンチレータパネルの発光輝度を1.0とする相対値で表す。
【0071】
(耐湿試験)
20℃5.5時間→昇温0.5時間→30℃80%RH5時間→降温1時間→20℃の加湿サイクル強制劣化試験を7日を行い、このサンプルの鮮鋭性の劣化率を測定した(鮮鋭性評価方法は以下の方法による。)。
【0072】
鮮鋭性の劣化率={1−(試験後の鮮鋭性/初期の鮮鋭性)}×100%
鮮鋭性の劣化率から下記のように評価した。
【0073】
◎ 0〜5%未満
○ 5〜20%未満
△ 20〜30%未満
× 30%以上。
【0074】
(鮮鋭性評価)
各試料を縦10cm×横10cmのCMOSフラットパネル(ラドアイコン社製X線CMOSカメラシステムShad−o−Box 4KEV)にセットし、12bitの出力データよりMTFを試料ごとに測定・算出する。
【0075】
具体的には、鉛製のMTFチャートを通して管電圧80kVpのX線を各試料の裏面(蛍光体層が形成されていない面)から照射し、画像データをCMOSフラットパネルで検出してハードディスクに記録した。その後、ハードディスク上の記録をコンピュータで分析して当該ハードディスクに記録されたX線像の変調伝達関数(MTF(Modulation Transfer Function))を算出した。その算出結果(空間周波数1サイクル/mmにおけるMTF値(%))を求めた。
【0076】
(耐湿試験での特異的な故障発生率)
上記の耐湿試験を1000サンプル行った場合の特異的な故障発生率を以下のように算出した。
【0077】
尚、特異的な故障発生とは上記の◎、○、△、×を4つのランクとして平均値から2ランク下がる評価サンプルを意味する。
【0078】
また、特異的な故障発生サンプルの発生率を特異的な故障発生率(式1)とする。
【0079】
特異的な故障発生率=(特異的な故障発生サンプル枚数/評価サンプル1000枚)×100%・・・(式1)
上記の特異的な故障発生率から下記のように評価した。
【0080】
◎ 0%
○ 5%未満
△ 5〜20%未満
× 20%以上。
【0081】
(画像ムラ、線状ノイズの評価)
各試料を、10cm×10cmの大きさのCMOSフラットパネル(ラドアイコン社製 X線CMOSカメラシステムShad−o−Box 4KEV)にセットし、管電圧80kVpのX線を各試料の裏面(シンチレータ蛍光体層が形成されていない面)から照射し、ベタ画像を撮影した。これを画像再生装置によって画像として再生し出力装置より2倍に拡大してプリントアウトし、得られたプリント画像を目視により観察して画像ムラや線状ノイズの出現を評価した。画像ムラ及び線状ノイズそれぞれについて下記のように評価し表1に示した。
【0082】
◎ 画像ムラや線状ノイズが全くない
○ 面内の1〜2ヵ所未満に淡い画像ムラや線状ノイズが見られる
△ 面内の2〜4ヵ所未満に淡い画像ムラや線状ノイズが見られる
× 面内の4ヵ所以上に画像ムラや線状ノイズが見られる
以上の評価結果を表1にまとめて示す。
【0083】
【表1】

【0084】
表1に示した結果から明らかなように、本発明に係る実施例においては、発光輝度を維持した状態で、耐湿試験での鮮鋭性の劣化率及び特異的な故障発生率が低く、画像ムラ及び線状ノイズが顕著に少ないことが分かる。
【図面の簡単な説明】
【0085】
【図1】シンチレータパネルの概略構成を示す断面図である。
【図2】保護層により封止した封止したシンチレータパネルの断面図である。
【図3】蒸着装置の概略構成を示す図である。
【符号の説明】
【0086】
1 基板
2 蛍光体層
3 反射層
4 第1保護フィルム
5 第2保護フィルム
10 シンチレータパネル
61 蒸着装置
62 真空容器
63 抵抗加熱ルツボ
64 ホルダ
65 回転機構
66 真空ポンプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に蒸着法によって作製された蛍光体層と、該蛍光体層の側に配置した第1保護フィルムと該基板の側に配置した第2保護フィルムとにより封止したシンチレータパネルにおいて、該基板の蛍光体層が配置される面の端部辺が角を持たないことを特徴とするシンチレータパネル。
【請求項2】
前記基板がポリイミド(PI)またはポリエチレンナフタレート(PEN)フィルムであることを特徴とする請求項1に記載のシンチレータパネル。
【請求項3】
前記第1及び第2保護フィルムの厚さがそれぞれ10〜100μmであることを特徴とする請求項1又は2に記載のシンチレータパネル。
【請求項4】
前記第1及び第2保護フィルムの透湿度がそれぞれ50g/m2・day以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のシンチレータパネル。
【請求項5】
前記蛍光体層がCsI(ヨウ化セシウム)であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のシンチレータパネル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−224422(P2008−224422A)
【公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−63230(P2007−63230)
【出願日】平成19年3月13日(2007.3.13)
【出願人】(303000420)コニカミノルタエムジー株式会社 (2,950)
【Fターム(参考)】