説明

シンチレータプレートの製造方法及びシンチレータプレート

【課題】本発明の目的は、設備投資費や原材料費に対して十分に発光機能を発揮し、かつ、原材料の使用効率も高いシンチレータプレートの製造方法を提供することにある。
【解決手段】蛍光体原料を水に分散させてスラリーを調製する調製工程と、
前記調製工程の後に、前記スラリーを受光素子に塗設して前記受光素子を冷却し、前記スラリーを凍結させる凍結工程と、
前記凍結工程の後に、前記スラリーを真空凍結乾燥させる凍結乾燥工程と、
前記凍結乾燥工程の後に、前記スラリーを加熱する加熱工程と、
から蛍光体層を作製してなるシンチレータプレートの製造方法において、
受光素子上に、直に蛍光体層を形成することを特徴とするシンチレータプレートの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シンチレータプレートの製造方法とその製造方法で製造されたシンチレータプレートとに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、X線画像のような放射線画像は医療現場において病状の診断に広く用いられている。特に、増感紙−フィルム系による放射線画像は、長い歴史のなかで高感度化と高画質化が図られた結果、高い信頼性と優れたコストパフォーマンスを併せ持った撮像システムとして、いまなお、世界中の医療現場で用いられている。近年では、フラットパネル型放射線ディテクタ(FPD(Flat Panel Detecter))等に代表されるデジタル方式の放射線画像検出器も登場しており、放射線画像をデジタル情報として取得して自由に画像処理をおこなったり、瞬時に画像情報を伝送したりすることが可能となっている。
【0003】
ところで、当該検出器は、放射線を受けて可視光(蛍光)を発光する蛍光体層で構成されたシンチレータプレートを有しており、当該蛍光体層の発光効率を向上させることが被写体の放射線撮影において鮮鋭性に優れた放射線画像を得るのに非常に重要となっている。
【0004】
上記蛍光体層は、塗布法、蒸着法やスパッタ法等の気相堆積法で形成可能なものであり、特にヨウ化セシウムを主成分とする原材料が気相堆積法で形成される場合には柱状結晶構造(無数の柱状結晶体が集合した構造)を有している。例えば、当該蛍光体層を蒸着法で形成する場合には、蛍光体原料から構成された蒸着源を抵抗加熱器や電子線照射等により加熱してその蒸着源を蒸発させ、基板の表面にその蒸発物を堆積させることで、柱状結晶構造を有する蛍光体層を形成することができる。
【0005】
気相堆積法により形成された蛍光体層は、蛍光体のみから構成されるものであって結合剤を含有せず、一の柱状結晶体と他の柱状結晶体との間に微小な空隙が存在している。そのため、各柱状結晶体の内部で発光した光が当該柱状結晶体と空隙との境界部分で反射を繰り返して、その光の平面方向の散乱が抑えられ、その結果、発光光の取出し効率が向上して鮮鋭性に優れた放射線画像を得ることができるようになっている。
【0006】
例えば、気相堆積法により蛍光体層を形成した一適用例が開示されている(特許文献1参照)。具体的には、基板に対してヨウ化セシウムを蒸着するとともに、その蒸着と同時にインジウム等の他の物質をスパッタして蛍光体層を形成し、発光光率を更に向上させようとしている。
【特許文献1】特開2001−59899号公報(0041)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、気相堆積法で柱状結晶を成長させて蛍光体層中に空隙を形成しようとする場合には、高価な装置が必要であり、更に蛍光体原料も対象基板に高効率で付着する訳ではなくそのほとんどが対象基板以外の部分に向けて分散するため、蛍光体層の形成効率(原材料の使用効率)も5〜20%と低い。つまり、気相堆積法により蛍光体層を形成する方法は、設備投資費が高額であるにもかかわらず、その設備投資費に見合ったシンチレータプレートを製造しているとは言い難かった。また、気相堆積法にてシンチレータプレートを製造する場合は基板が必要となるので裏照射に伴う輝度低下の回避が困難である。また、シンチレータプレートと受光素子とのオプティカルコンタクト面でMTF低下の回避が困難である。これらを解決する手段として、受光素子上への直接蒸着が挙げられるが、前記原材料の使用効率が著しく低い点や蒸着不良による不良品が出た場合に高価な受光素子を無駄にするなどの問題をかかえていた。
【0008】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、本発明の目的は、設備投資費や原材料費に対して十分に発光機能を発揮し、かつ、原材料の使用効率も高いシンチレータプレートの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の上記目的は、下記の構成により達成される。
【0010】
1.蛍光体原料を水に分散させてスラリーを調製する調製工程と、
前記調製工程の後に、前記スラリーを受光素子に塗設して前記受光素子を冷却し、前記スラリーを凍結させる凍結工程と、
前記凍結工程の後に、前記スラリーを真空凍結乾燥させる凍結乾燥工程と、
前記凍結乾燥工程の後に、前記スラリーを加熱する加熱工程と、
から蛍光体層を作製してなるシンチレータプレートの製造方法において、
受光素子上に、直に蛍光体層を形成することを特徴とするシンチレータプレートの製造方法。
【0011】
2.前記蛍光体層にはその表面から前記受光素子に至るマイクロ孔が形成されることを成し、その加熱後の最終生産物を「試料1」とした。試料1において蛍光体層の層厚は500μmであり、当該試料1には、蛍光体層の表面から受光素子まで貫通した約5〜10μm径のマイクロ孔が多数観察された(空隙率約20%)。
(1.2)試料2の作製
試料1の比較試料として、蛍光体材料(CsI)に賦活剤材料(TlI)を0.3mol%添加した原料粉末を0.5mm厚のアルミ基板の片面に蒸着させて蛍光体層を形成し、これを「試料2」とした。詳しくは、上記原料粉末を蒸着材料として蒸着装置の抵抗加熱ルツボに充填するとともに、同蒸着装置の基板ホルダに0.5mm厚のアルミ基板を設置し、抵抗加熱ルツボとアルミ基板との間隔を400mmに調節した。
【0012】
続いて、蒸着装置の真空容器の内部を一旦排気し、真空容器の内部にアルゴンを導入して当該真空容器の内部を0.1Paの真空度に調整した。その後、基板ホルダを回転・加熱して、アルミ基板を10rpmの速度で回転させながら当該アルミ基板を120℃に加熱した。この状態で、抵抗加熱ルツボを加熱して上記原料粉末を蒸発させ、アルミ基板上に上記原料粉末を蒸着源とした蛍光体層を形成した。そして当該蛍光体層の層厚が500μmに達した時点でアルミ基板への蒸着を終了させ、その最終生産物を「試料2」とした。なお、試料2の蛍光体層の空隙率は約20%であった。
(2)試料の評価
各試料1、2を縦10cm×横10cmのFPDにセットし、12bitの出力データより発光輝度とMTFとを試料1、2ごとに測定・算出した。
(2.1)発光輝度の測定
管電圧80kVpのX線を照射し、蛍光体層から放射された光の発光量をFPDで検出・測定し、その測定値を「発光輝度(感度)」とした。各試料1、,2の測定結果を下記表1に示す。ただし、表1中、各試料1、2の発光輝度を示す値は、試料2の発光輝度を1.0としたときの相対値である。
(2.2)MTFの算出
鉛製のMTFチャートを通して管電圧80kVpのX線を各試料1、2に照射し、画像データをFPDで検出してハードディスクに記録した。その後、ハードディスク上の記録をコンピュータで分析して当該ハードディスクに記録されたX線像の変調伝達関数(MTF(Modulation Transfer Function))を算出した。その算出結果(空間周波数1サイクル/mmにおけるMTF値(%))を下記表1に示す。表1中の調査結果において、MTF値が高いほど鮮鋭性に優れている。
【0013】
【表1】

【0014】
表1に示す通り、試料1と試料2との比較から、試料1は発光輝度及びMTF値が試料2のそれより優れ、かつ、蛍光体原材料の使用効率が圧倒的に高い。したがって、蛍光体原料のスラリーを凍結・凍結乾燥・焼成して蛍光体層を形成する製造方法が、気相堆積法で蛍光体層を形成する場合に比べて有用であることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】シンチレータプレート10の概略構成を示す断面図である。
【図2】蛍光体層2を示す(a)拡大平面図(b)拡大断面図である。
【図3】シンチレータプレート10の製造方法を模式的に示す図面であって、(a)凍結工程(b)凍結乾燥工程の各工程の説明図である。
【符号の説明】
【0016】
1 受光素子
2 蛍光体層
2a 結晶壁
2b マイクロ孔
10 シンチレータプレート
20 冷却板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
蛍光体原料を水に分散させてスラリーを調製する調製工程と、
前記調製工程の後に、前記スラリーを受光素子に塗設して前記受光素子を冷却し、前記スラリーを凍結させる凍結工程と、
前記凍結工程の後に、前記スラリーを真空凍結乾燥させる凍結乾燥工程と、
前記凍結乾燥工程の後に、前記スラリーを加熱する加熱工程と、
から蛍光体層を作製してなるシンチレータプレートの製造方法において、
受光素子上に、直に蛍光体層を形成することを特徴とするシンチレータプレートの製造方法。
【請求項2】
前記蛍光体層にはその表面から前記受光素子に至るマイクロ孔が形成されることを特徴とする請求項1に記載のシンチレータプレートの製造方法。
【請求項3】
前記加熱工程の加熱温度が100〜300℃であることを特徴とする請求項1又は2に記載のシンチレータプレートの製造方法。
【請求項4】
前記蛍光体原料がヨウ化セシウムと賦活剤とを有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載のシンチレータプレートの製造方法。
【請求項5】
前記賦活剤が、インジウム、タリウム、リチウム、カリウム、ルビジウム、ナトリウムおよびユーロピウムから選ばれる少なくとも1つの元素を含む化合物であることを特徴とする請求項4に記載のシンチレータプレートの製造方法。
【請求項6】
前記賦活剤が、TlI、TlClおよびTlBrから選ばれる少なくとも1種の化合物であることを特徴とする請求項5に記載のシンチレータプレートの製造方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一項に記載のシンチレータプレートの製造方法に従って製造されていることを特徴とするシンチレータプレート。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−14808(P2008−14808A)
【公開日】平成20年1月24日(2008.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−186483(P2006−186483)
【出願日】平成18年7月6日(2006.7.6)
【出願人】(303000420)コニカミノルタエムジー株式会社 (2,950)
【Fターム(参考)】