説明

シートキー用金属シート及びその製造方法

【課題】金属の質感を高めて斬新な装飾感を得ることができると共に、その装飾感を容易に変化させることができるシートキー用金属シート及びその製造方法を提供する。
【解決手段】シートキー用金属シート11は、金属製のシート本体12に貫通孔13及び非貫通孔を設けることによりシート本体12に対して可動に構成した操作キー14を複数備えている。該操作キー14上には金属のメッキ層16が形成されている。該メッキ層16の周縁部16aは曲面状に形成されている。シートキー用金属シート11を製造するには、シート本体12の表面の貫通孔13及び非貫通孔以外の部分にエッチング用マスキング層19を形成した後全エッチングを施して貫通孔13を形成すると共に、部分エッチングを施して非貫通孔13aを形成する。次いで、メッキを施さない部分をメッキ用マスキング層20で被覆した後メッキを施すことにより得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば携帯電話機用のシートキー等として用いられ、メッキによる金属光沢等の優れた装飾感や質感が得られるシートキー用金属シート及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、携帯電話機用のシートキーとしては、一般にそのシート本体が合成樹脂で形成され、シート本体に貫通孔を開けることによりシート本体から分離された操作キーを複数設けた構造を有している。例えば、高分子化合物からなるベース基材と、このベース基材の接着面に裏面が接着される樹脂製のキートップとを含んでいる押釦スイッチの構造体が知られている(例えば、特許文献1を参照)。係る押釦スイッチでは、ベース基材の接着面に紫外線を照射して洗浄処理し、キートップの表裏両面の少なくとも一方に紫外線硬化型インキで模様が印刷されている。
【0003】
ところが、係る特許文献1に記載されているような従来のシートキーは、シート本体及び操作キーの部分が合成樹脂で形成されている。このため、シートキーの外観について装飾感に乏しく、紫外線硬化型インキで印刷される模様も合成樹脂であることから、全体として装飾感及び質感に欠けるものであった。
【0004】
そこで、装飾感や質感を高めるために、合成樹脂製のキートップ部材の外表面にアルミニウム粉が配合された塗料で形成された遮光性のあるメタリック色調層を有する押釦スイッチ用部材が知られている(例えば、特許文献2を参照)。そして、前記メタリック色調層の前記キートップ部材の天面部に対応する箇所に、レーザーを照射してアルミニウム粉を酸化させてなる透光性の文字や符号等の表示部パターンを有するようになっている。
【特許文献1】特開2001−312934号公報(第2頁及び第6頁)
【特許文献2】特開2003−242853号公報(第2頁及び第4頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献2に記載されている押釦スイッチ用部材は、キートップ部材が合成樹脂であることから、その表面にアルミニウム粉を塗布したときの密着性が十分ではなく、また塗布厚も一定にすることが難しく、従って金属調の質感の良い塗膜として満足できるものではなかった。
【0006】
本発明は、このような従来技術の問題点に着目してなされたものであり、その目的とするところは、金属の質感を高めて斬新な装飾感を得ることができると共に、その装飾感を容易に変化させることができるシートキー用金属シート及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するために、請求項1のシートキー用金属シートは、金属製のシート本体に貫通孔又は貫通孔及び非貫通孔を設けることによりシート本体に対して可動に構成した操作キーを複数備えるシートキー用金属シートであって、前記操作キー上又は操作キー以外の領域上には金属のメッキ層が形成されていることを特徴とするものである。
【0008】
請求項2のシートキー用金属シートは、請求項1に係る発明において、前記メッキ層の周縁部は曲面状に形成されていることを特徴とするものである。
請求項3のシートキー用金属シートは、請求項1又は請求項2に係る発明において、前記シート本体を形成する金属はステンレス鋼であることを特徴とするものである。
【0009】
請求項4のシートキー用金属シートは、請求項1から請求項3のいずれか1項に係る発明において、前記操作キー上に金属のメッキ層が形成される場合には操作キー以外の領域上には塗装膜が形成され、操作キー以外の領域上に金属のメッキ層が形成される場合には操作キー上には塗装膜が形成されることを特徴とするものである。
【0010】
請求項5のシートキー用金属シートは、請求項4に係る発明において、前記塗装膜は、電着塗装による塗装膜であることを特徴とするものである。
請求項6のシートキー用金属シートの製造方法は、金属製のシート本体に貫通孔及び非貫通孔を設けることによりシート本体に対して可動に構成した操作キーを複数備え、該操作キー上又は操作キー以外の領域上には金属のメッキ層が形成されているシートキー用金属シートの製造方法である。そして、前記シート本体の表面には前記貫通孔及び非貫通孔以外の部分にエッチング用マスキング層を形成した後全エッチングを施して貫通孔を形成すると共に、部分エッチングを施して非貫通孔を形成し、次いでエッチング用マスキング層を剥がし、メッキを施さない部分をメッキ用マスキング層で被覆した後メッキを施し、その後メッキ用マスキング層を剥がすことを特徴とするものである。
【0011】
請求項7のシートキー用金属シートの製造方法は、金属製のシート本体に貫通孔を設けることによりシート本体に対して可動に構成した操作キーを複数備え、該操作キー上又は操作キー以外の領域上には金属のメッキ層が形成されているシートキー用金属シートの製造方法である。そして、前記シート本体の裏面には一体化シートを貼着すると共に、表面には前記貫通孔以外の部分にエッチング用マスキング層を形成した後全エッチングを施して貫通孔を形成し、次いでエッチング用マスキング層を剥がし、メッキを施さない部分をメッキ用マスキング層で被覆した後メッキを施し、その後メッキ用マスキング層を剥がすことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、次のような効果を発揮することができる。
請求項1のシートキー用金属シートにおいては、金属製のシート本体に貫通孔又は貫通孔及び非貫通孔を設けることによりシート本体に対して可動に構成した操作キーを複数備え、該操作キー上又は操作キー以外の領域上には金属のメッキ層が形成されている。このように、シート本体及び操作キーが共に金属で形成されているため金属の質感を高めて斬新な装飾感を得ることができると共に、その装飾感をシート本体やメッキによって容易に変化させることができる。
【0013】
請求項2のシートキー用金属シートでは、メッキ層の周縁部は曲面状に形成されていることから、請求項1に係る発明の効果に加え、シートキー用金属シートの取扱いを向上させることができると共に、操作キーの周縁部における外観を良好にすることができる。
【0014】
請求項3のシートキー用金属シートでは、シート本体を形成する金属はステンレス鋼であることから、請求項1又は請求項2に係る発明の効果に加え、金属の重厚な質感を醸し出すことができる。
【0015】
請求項4のシートキー用金属シートでは、操作キー上に金属のメッキ層が形成される場合には操作キー以外の領域上には塗装膜が形成され、操作キー以外の領域上に金属のメッキ層が形成される場合には操作キー上には塗装膜が形成される。従って、請求項1から請求項3のいずれかに係る発明の効果に加えて、メッキ層による金属感と塗装膜による樹脂の質感とが相俟って外観を一層向上させることができる。
【0016】
請求項5のシートキー用金属シートでは、塗装膜は電着塗装による塗装膜であることから、請求項4に係る発明の効果に加えて、塗装膜を微細な部分に精度良く形成することができる。
【0017】
請求項6のシートキー用金属シートの製造方法では、シート本体の表面には前記貫通孔及び非貫通孔以外の部分にエッチング用マスキング層を形成した後全エッチングを施して貫通孔を形成すると共に、部分エッチングを施して非貫通孔を形成し、次いでエッチング用マスキング層を剥がし、メッキを施さない部分をメッキ用マスキング層で被覆した後メッキを施し、その後メッキ用マスキング層を剥がすことにより行われる。従って、金属の質感を高めて斬新な装飾感を得ることができると共に、その装飾感を容易に変化させることができるシートキー用金属シートを、全エッチング、部分エッチングとメッキとの組合せで容易に製造することができる。
【0018】
請求項7のシートキー用金属シートの製造方法では、シート本体の裏面には一体化シートを貼着すると共に、表面には前記貫通孔以外の部分にエッチング用マスキング層を形成した後全エッチングを施して貫通孔を形成し、次いでエッチング用マスキング層を剥がし、メッキを施さない部分をメッキ用マスキング層で被覆した後メッキを施し、その後メッキ用マスキング層を剥がすものである。従って、金属の質感を高めて斬新な装飾感を得ることができると共に、その装飾感を容易に変化させることができるシートキー用金属シートを、全エッチングとメッキとの組合せで容易に製造することができると共に、エッチング操作を簡易化することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の最良と思われる実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
(第1実施形態)
第1実施形態では、シートキー用金属シートを一体化する手段として、部分エッチングを用いる実施形態を示す。図1(e)、図2及び図4に示すように、本実施形態における携帯電話に用いられるシートキー用金属シート11は、金属としてのステンレス鋼製のシート本体12に貫通孔13及び非貫通孔13aを開けることによりシート本体12から一部分離されて可動に構成された操作キー14が複数設けられて構成されている。貫通孔13は四角形状をなす操作キー14の3辺に設けられ、1辺(図4の上辺)は図2に示すように部分エッチングによって非貫通孔13aが形成され、残った連結部15で連結されている。係る操作キー14の表面には金属のメッキ層16が形成されている。シート本体12を構成する金属としては、ステンレス鋼以外にチタン、ニッケル等であってもよい。また、メッキ層16を構成する金属としては、金、銅、ニッケル、亜鉛、クロム等が用いられる。
【0020】
図4に示すように、メッキ層16の部分にはひらがなやアルファベット等の文字17又は数字、略号等の記号18が打ち抜かれ、文字17又は記号18の部分を光が透過できるようになっている。そして、バックライトの光によって文字17又は記号18を認識できるように構成されている。図1(f)に示すように、メッキ層16の周縁部16aは滑らかな曲面状に形成され、角がなくて取扱性が良く、操作キー14の周縁部においても金属光沢を発揮できるようになっている。
【0021】
図1(a)〜(f)は本実施形態のシートキー用金属シート11の製造工程を順に説明するための断面図である。図1(a)はシート本体12の表面にエッチング用マスキング層19を形成した状態を示す断面図、図1(b)はエッチングを施して貫通孔13及び非貫通孔13aを形成した状態を示す断面図である。図1(c)はエッチング用マスキング層19を剥がし、メッキ用マスキング層20を形成した状態を示す断面図、図1(d)はメッキを施してメッキ層16を形成した状態を示す断面図、図1(e)はメッキ用マスキング層20を除去した状態を示す断面図である。図1(f)は、メッキ層16の周縁部16aを示す断面図である。尚、図1(a)〜(f)に示す各断面図において、シート本体12及び両マスキング層19、20の厚さは理解を容易にするために誇張して厚く描かれている。
【0022】
シート本体12の厚さは、用途により適宜定められるが、好ましくは0.1〜1mm、より好ましくは0.1〜0.5mmに設定される。シート本体12の厚さが0.1mmより薄い場合、シート本体12の曲げ強度などの物性が低下し、シートキーが弱いものになって好ましくない。その一方、1mmを超える場合、シート本体12が厚くなり過ぎて弾力性が低下し、作業性が悪くなると共に、シートキーの薄型化を図ることができなくなる。
【0023】
シート本体12の表面には、操作キー14の周囲及びその中の文字17又は記号18以外の部分にマスキング材によってエッチング用マスキング層19が形成される。マスキング材としては、例えば紫外線硬化型アクリル樹脂等のレジスト材料が用いられる。係るエッチング用マスキング層19の厚さは、20〜100μm程度である。
【0024】
その後、図1(b)に示すように、シート本体12の表面からシート本体12の厚さ方向に貫通孔13が貫通形成されるように全エッチング及び非貫通孔13aにより連結部15が残るように部分エッチング(ハーフエッチングともいう)を行なう。全エッチングは操作キー14の3辺の周囲と文字17及び記号18の部分に施され、部分エッチングは操作キー14の1辺(上辺)に施される。ここで、全エッチングとはシート本体12の厚さ方向全体にエッチングを行って除去することをいい、部分エッチングとはエッチングをシート本体12の厚さの途中まで、通常は中ほどまで行うことをいう。部分エッチングはエッチングの条件を緩和することにより行われる。全エッチングの場合には貫通孔13が形成されるため、その部分に光を透過させることができ、部分エッチングの場合にはその部分にさらにメッキを施すことができるため、金属感を発現させることができる。
【0025】
このエッチングは、エッチング材をシート本体12の表面にスプレー法、浸漬法等の方法により作用させることによって行われる侵食法(腐食法)である。エッチング材としては、塩化第二鉄、リン酸、硫酸、塩酸等が用いられる。このエッチングにより、エッチング用マスキング層19で被覆されていないシート本体12の部分が溶解(侵食又は腐食)され、操作キー14の3辺の周囲及び文字17、記号18の部分が除去され貫通孔13が形成される。さらに、操作キーの1辺の外側がシート本体12の厚さの中ほど(半分)まで除去されて非貫通孔13aが形成されることにより、連結部15が設けられる。
【0026】
次いで、図1(c)に示すように、メッキを施す操作キー14以外の領域26上にメッキ用マスキング層20を形成した後、シート本体12の表面にメッキを施こしてメッキ層16を形成する。メッキ用マスキング層20の厚さは、5〜50μmであることが好ましい。このマスキング層20の厚さが5μmより薄い場合、メッキ層16の厚さが薄くなり過ぎる傾向を示し、メッキ層16による金属光沢が得られ難くなって好ましくない。その一方、50μmを超える場合、メッキ層16の鮮明さに欠けようになると共に、シートキーの薄膜化が難しくなる。
【0027】
図4に示すように、メッキを行う場合には、矩形状をなすシートキー用金属シート11の四隅部の近傍位置に4つの電極(マイナス電極)21を設けると共に、シートキー用金属シート11の周囲に沿うように、四角環状に形成された電流集中緩和リング22がシートキー用金属シート11の周縁部から一定の距離をおいて配設されている。メッキを施す場合、一般に電極21近傍、メッキ層16の端部、鋭角部などでは電流が集中し、メッキの付きが良くなってメッキ層16の厚さが厚くなるのに対して、それ以外の部分はメッキの付きが悪くなってメッキ層16の厚さが薄くなる傾向がある。このため、上記のような電流集中緩和リング22を設けることにより、そのような事態を回避してメッキ層16の厚さを全体として均一にすることができる。
【0028】
尚、シートキー用金属シート11は縦横に多数個並べて同時に製造されるが、説明の都合上1つのシートキー用金属シート11について説明する。また、0、8、6等の数字(記号)はエッチングにより貫通孔13が設けられると中心部は支持されなくなるため、それぞれ2箇所に部分エッチングによって連結部15が設けられている。
【0029】
メッキはメッキ用マスキング層20が形成されていない部分に施され、シート本体12の表面及び側面(周面)にメッキ層16が形成される。このメッキとしては、例えば電解メッキ又は無電解メッキによる金メッキ、ニッケルメッキ等が採用される。また、メッキとしては、光沢のあるメッキ、艶消しのメッキ等適宜選択することができる。
【0030】
電解メッキについては、例えば次に示す(a)下地メッキ工程、(b)銅メッキ工程、(c)ニッケルメッキ工程及び(d)金メッキ工程の4工程により行われる。
(a)下地メッキ工程
塩酸(HCl)と塩化ニッケル(NiCl)とより構成される電解液中にシート本体12を浸漬し、電流密度5〜10A/dmで20〜60秒間通電することによりニッケルメッキを施す。この下地メッキ処理により、シート本体12の表面に厚さ0.1〜0.2μm程度の下地メッキ層が形成される。
(b)銅メッキ工程
硫酸銅(CuSO)及び硫酸よりなる電解液(硫酸銅メッキ液)中に、下地メッキを施したシート本体12を浸漬し、電流密度1〜5A/dmで30〜120分間通電することにより銅メッキ処理を行い、下地メッキ層上に厚さ5〜80μmの銅メッキ層が肉厚に形成される。硫酸銅メッキ液の濃度は通常よりも低く設定し、130〜150g/lであることが好ましい。この濃度が130g/lよりも低い場合には、銅メッキ層の細かい部分における厚さが不均一になる傾向を示し、また銅メッキ処理が長時間を要するようになって好ましくない。その一方、150g/lよりも高い場合には、銅メッキ層の厚さが厚くなる傾向を示し、特に銅メッキ層の細かい部分における厚さが不均一になりやすい。
【0031】
また、電流密度は細かい部分に精度良くメッキを行うために上記のような範囲に下げることが好ましい。電流密度が1A/dmより低い場合には、銅メッキ層を十分な厚さに形成することが難しくなって好ましくない。その一方、5A/dmより高い場合には、細かい部分における銅メッキ層の厚さが厚くなりやすく、また不均一になる傾向を示して好ましくない。
(c)ニッケルメッキ工程
塩化ニッケル、硫酸ニッケル(NiSO)及びホウ酸(HBO)よりなる電解液中に、銅メッキを施したシート本体12が浸漬され、電流密度1〜12A/dmで3〜5分間通電することによりニッケルメッキが行われる。このニッケルメッキにより、銅メッキ層上に厚さ2〜3μm程度のニッケルメッキ層が形成される。
(d)金メッキ工程
金メッキ処理は、電解液としてシアン化金酸カリウム「K〔Au(CN)〕」、コバルトを含有する建浴液、同じくコバルトを含有する補給液の水溶液を用い、電流密度0.2〜0.5A/dmで1.5〜2.5分間通電することにより行われる。この金メッキ処理により、ニッケルメッキ層上に厚さ0.1μm程度の金メッキ層が形成され、前記メッキ層16が得られる。得られるメッキ層16の厚さは、10〜100μm(0.05〜0.1mm)に設定され、操作キー14の手触り感が良く、押圧による操作性を向上させることができる。
【0032】
その後、図1(e)に示すように、前記メッキ用マスキング層20を剥がすことにより、操作キー14の部分にメッキ層16が形成され、目的とするシートキー用金属シート11が製造される。この場合、操作キー14以外の領域26は、シート本体12を構成するステンレス鋼が露出している。図4の二点鎖線に示す位置で切断することにより、シートキー用金属シート11が製作される。図3に示すように、シートキー用金属シート11はその裏面に、ゴム層、例えばシリコーンゴム層23が設けられる。尚、図3では図1に対して上下逆に配置されている。この場合、シリコーンゴム層23の表面(貫通孔13に入り込んだ部分)は、メッキ層16の面より突出しないようにして、ステンレス鋼の質感を損なわないようにすることが望ましい。そのため、貫通孔13の幅をできるだけ狭く、例えば0.20mm程度にすることが望ましい。
【0033】
シートキーは、上記のようにして製造されるシートキー用金属シート11を用い、電極、接続線、その他の電子部品などを組付けることにより製作される。そのようにして得られたシートキーは、携帯電話機の本体に装着されるようになっている。
【0034】
さて、本実施形態の作用を説明すると、シートキー用金属シート11は例えば次のようにして製造される。まず、ステンレス鋼製のシート本体12の表面における操作キー14周囲の貫通孔13及び文字17又は記号18以外の部分にエッチング用マスキング層19を形成する。その状態で、エッチング材によりエッチングを施した後、エッチング用マスキング層19を剥がす。続いて、メッキを施さない部分にメッキ用マスキング層20を形成した後、電解メッキを施し、最上層に金メッキ層を形成する。その後、メッキ用マスキング層20を剥がすことにより、目的とするシートキー用金属シート11が得られる。
【0035】
得られたシートキー用金属シート11は、シート本体12がステンレス鋼で形成され、メッキ層16が金メッキ層で形成されていることから、ステンレス鋼による重厚な金属光沢(濃灰色)が発現されると同時に、メッキ層16が華やかな金色を呈し、双方の金属感とコントラストにより、優れた外観を発揮することができる。
【0036】
以上詳述した第1実施形態によれば、次のような効果が発揮される。
・ 本実施形態におけるシートキー用金属シート11においては、金属製のシート本体12に貫通孔13及び非貫通孔13aを設けることによりシート本体12に対して可動に構成した操作キー14を複数備え、該操作キー14上には金属のメッキ層16が形成されている。このため、シートキー用金属シート11は、金属の質感を高めて斬新な装飾感を発揮することができると共に、その装飾感をシート本体12の材質やメッキ層16の構成によって容易に変化させることができる。従って、薄型で高品位のシートキー用金属シート11、さらにはそれを用いたシートキーを提供することができる。
【0037】
・ メッキ層16の周縁部16aが曲面状に形成されることにより、メッキ層16の周縁部16aで引っ掛かることがなく、シートキー用金属シート11の取扱いを向上させることができると共に、操作キー14の周縁部における外観を良好にすることができる。
【0038】
・ シート本体12を形成する金属がステンレス鋼であることにより、ステンレス鋼のもつ重厚な質感を醸し出すことができると共に、アルミニウムなどに比べてシート本体12の強度を高めることができる。
【0039】
・ シートキー用金属シート11の製造方法においては、シート本体12の表面には貫通孔13及び非貫通孔13a以外の部分にエッチング用マスキング層19を形成した後全エッチングを施して貫通孔13を形成すると共に、部分エッチングを施して非貫通孔13aを形成する。次いで、エッチング用マスキング層19を剥がし、メッキを施さない部分をメッキ用マスキング層20で被覆した後メッキを施し、その後メッキ用マスキング層20を剥がすことにより行われる。従って、金属の質感を高めて斬新な装飾感を発揮でき、その装飾感を容易に変化させることができるシートキー用金属シート11を、全エッチング、部分エッチングとメッキとの組合せで容易に製造することができる。
(第2実施形態)
次に、第2実施形態では、シートキー用金属シート11を一体化する手段として、一体化シートを用いる実施形態を示し、その他の部分は第1実施形態と同様に実施した。従って、この第2実施形態では第1実施形態と異なる部分について主に説明し、同じ部分についてはその説明を省略する。
【0040】
図5(a)に示すように、矩形シート状をなすステンレス鋼製のシート本体12の裏面には一体化シート24を設けると共に、表面にはエッチング用マスキング層19を形成する。一体化シート24を設けることにより、シート本体12の全体がエッチング後にも一体化されるようになっている。このため、第1実施形態のような部分エッチングを行う必要がなく、全て全エッチングを同一条件で行うことができ、エッチング操作を容易にすることができる。
【0041】
一体化シート24はポリ塩化ビニル樹脂、ポリエチレン(PE)樹脂、ポリプロピレン(PP)樹脂、ポリカーボネート樹脂等の合成樹脂により形成され、透明又は半透明で透光性を有している。一体化シート24の厚さは、100〜150μmであることが好ましい。この厚さが100μmより薄い場合には外部からの衝撃によりクラック等が発生することがあり、その一方150μmより厚い場合には透光性が悪くなって好ましくない。
【0042】
図5(b)に示すように、図5(a)の状態で全エッチングを施すことにより、エッチング用マスキング層19以外の部分に貫通孔13が形成される。その後、第1実施形態と同様に操作することにより、図5(c)に示すようなシートキー用金属シート11が製作される。すなわち、シート本体12の裏面側に一体化シート24が設けられると共に、表面側に操作キー14を覆うメッキ層16が形成され、操作キー14の周囲などに貫通孔13が形成される。
(第3実施形態)
次に、第3実施形態では、シートキー用金属シート11の操作キー14上に塗装膜を形成し、操作キー14以外の領域上にメッキ層16を形成した実施形態を示し、その他の部分は第1実施形態と同様に実施した。従って、この第3実施形態では第1実施形態と異なる部分について主に説明し、同じ部分についてはその説明を省略する。
【0043】
第3実施形態のシートキー用金属シート11を製造する場合には、図6(a)に示すように、操作キー14以外の領域26上に第1実施形態に示したメッキ用マスキング層20を形成した(図1(c))後、操作キー14部分に相当するシート本体12上に電着塗装を施し、膜厚10μmの塗装膜25を形成した。この塗装膜25は、シート本体12の側面にも連続して形成され、その周縁部25aは曲面状に形成されている。
【0044】
電着塗装は、アニオン系の熱硬化型アクリル樹脂系塗料((株)シミズ製、商品名AM−1)を用い、電着電圧50Vで2分間電着処理することにより行った。その後、180℃で30分間乾燥した。電着塗装用の塗料としてはアクリル樹脂系塗料以外にエポキシ樹脂系塗料等を用いることができ、アニオン系のほかカチオン系であってもよい。電着塗装の条件としては、電着電圧が50〜150V、電着時間が1〜3分間の条件で行われる。電着塗装による塗装膜25の膜厚は、5〜20μmの範囲に調整される。
【0045】
その後、図6(b)に示すように、メッキ用マスキング層20を剥離する。続いて、図6(c)に示すように、メッキ用マスキング層20を剥離した部分に、第1実施形態に示した電解メッキを施すことにより、操作キー14以外の領域26上にメッキ層16が形成される。このようにして、操作キー14上に塗装膜25が形成され、操作キー14以外の領域26上にメッキ層16が形成されたシートキー用金属シート11が得られる。
【0046】
この第3実施形態によれば、操作キー14上には塗装膜25が形成されると共に、操作キー14以外の領域26上にメッキ層16が形成されているため、シート本体12上には塗装膜25及びメッキ層16のいずれかが形成され、シート本体12を構成するステンレス鋼は露出していない。そして、塗装膜25によるアクリル樹脂の質感とメッキ層16による金属感とが相俟って優れた装飾感が発現され、外観を一層向上させることができる。また、塗装膜25は電着塗装により形成されていることから、該塗装膜25を微細な部分に精度良く形成することができる。その上、塗装膜25の周縁部25aがメッキ層16の周縁部16aと同様に曲面状に形成されているため、当該部分における光の反射により外観を向上させることができると同時に、操作キー14の操作時などにおける取扱いを良好にすることができる。
【0047】
尚、前記実施形態を次のように変更して具体化することも可能である。
・ 図7に示すように、前記記号18を形成する連結部15を等間隔に設けられた多数の細い部分で構成することもできる。この場合、シートキー用金属シート11からシートキーを製作したとき、連結部15を2箇所にした場合に比べて連結部15を視認し難くすることができ、記号18の視認性を向上させることができる。
【0048】
・ 図8に示すように、前記第3実施形態とは逆に、操作キー14上にメッキ用マスキング層20を形成し、操作キー14以外の領域26上に塗装膜25を形成し、操作キー14上にメッキ層16を形成することもできる。この場合、第3実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0049】
・ 前記メッキ工程において、メッキを行う金属の種類を変更したり、工程を一部省略したりすることもできる。
・ 第1実施形態及び第2実施形態において、メッキ層16を操作キー14以外の領域26上に設けることも可能である。
【0050】
・ 第1実施形態において、部分エッチングを行わず、非貫通孔13aを省略することも可能である。
・ シート本体12、ひいてはシートキー用金属シート11の形状を六角シート状、八角シート状等の多角シート状、楕円シート状、その他の異形シート状に形成することも可能である。
【0051】
次に、前記実施形態から把握できる技術的思想について以下に記載する。
・ 前記シート本体の周囲には電流集中緩和リングを設けた状態でメッキを施すことを特徴とする請求項6又は請求項7に記載のシートキー用金属シートの製造方法。このように構成した場合、請求項6又は請求項7に係る発明の効果に加え、局部的な電流集中を回避することができ、微細なパターンの部分についても均一な厚さのメッキ層を形成することができる。
【0052】
・ 前記メッキ層の部分には文字又は記号が形成され、該文字又は記号の部分は部分エッチングが施され、該部分エッチングされた部分にもメッキが施されることを特徴とする請求項6に記載のシートキー用金属シートの製造方法。この場合、請求項6に係る発明の効果に加え、文字又は記号の部分も金属光沢を発現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】第1実施形態における携帯電話のシートキー用金属シートの製造工程を示し、図4の1−1線における概略断面図であって、(a)はシート本体の表面にエッチング用マスキング層を形成した状態を示す断面図、(b)はエッチングを施した後の状態を示す断面図、(c)はメッキ用マスキング層を形成した状態を示す断面図、(d)はメッキ層を形成した状態を示す断面図、(e)はメッキ用マスキング層を除去した状態を示す断面図及び(f)はメッキ層を拡大して示す部分拡大断面図。
【図2】図4の2−2線における概略断面図であり、全エッチング及び部分エッチングを施した後の状態を示す断面図。
【図3】シート本体の裏面にシリコーンゴム層を設けた状態を示す断面図。
【図4】携帯電話のシートキー用金属シートをメッキにより製造する工程を示す概略平面図。
【図5】第2実施形態における携帯電話のシートキー用金属シートの製造工程を示し、図4の1−1線における概略断面図であって、(a)はシート本体の裏面に一体化シートを設けると共に、表面にエッチング用マスキング層を形成した状態を示す断面図、(b)はエッチングを施した後の状態を示す断面図、(c)はメッキ層を形成した状態を示す断面図。
【図6】第3実施形態における携帯電話のシートキー用金属シートの製造工程を示し、図4の1−1線における概略断面図であって、(a)はメッキ用マスキング層を形成した後、メッキ層を形成した状態を示す断面図、(b)はメッキ用マスキング層を剥がした状態を示す断面図、(c)はメッキ用マスキング層を剥がした部分にメッキ層を形成した状態を示す断面図。
【図7】操作キー上の文字を形成する別例を示す部分平面図。
【図8】操作キー上にメッキ層を形成し、操作キー以外の領域上に塗装膜を形成した状態を示す断面図。
【符号の説明】
【0054】
11…シートキー用金属シート、12…シート本体、13…貫通孔、13a…非貫通孔、14…操作キー、16…メッキ層、16a…周縁部、19…エッチング用マスキング層、20…メッキ用マスキング層、25…塗装膜、25a…周縁部、26…操作キー以外の領域。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属製のシート本体に貫通孔又は貫通孔及び非貫通孔を設けることによりシート本体に対して可動に構成した操作キーを複数備えるシートキー用金属シートであって、前記操作キー上又は操作キー以外の領域上には金属のメッキ層が形成されていることを特徴とするシートキー用金属シート。
【請求項2】
前記メッキ層の周縁部は曲面状に形成されていることを特徴とする請求項1に記載のシートキー用金属シート。
【請求項3】
前記シート本体を形成する金属はステンレス鋼であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のシートキー用金属シート。
【請求項4】
前記操作キー上に金属のメッキ層が形成される場合には操作キー以外の領域上には塗装膜が形成され、操作キー以外の領域上に金属のメッキ層が形成される場合には操作キー上には塗装膜が形成されることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のシートキー用金属シート。
【請求項5】
前記塗装膜は、電着塗装による塗装膜であることを特徴とする請求項4に記載のシートキー用金属シート。
【請求項6】
金属製のシート本体に貫通孔及び非貫通孔を設けることによりシート本体に対して可動に構成した操作キーを複数備え、該操作キー上又は操作キー以外の領域上には金属のメッキ層が形成されているシートキー用金属シートの製造方法であって、
前記シート本体の表面には前記貫通孔及び非貫通孔以外の部分にエッチング用マスキング層を形成した後全エッチングを施して貫通孔を形成すると共に、部分エッチングを施して非貫通孔を形成し、次いでエッチング用マスキング層を剥がし、メッキを施さない部分をメッキ用マスキング層で被覆した後メッキを施し、その後メッキ用マスキング層を剥がすことを特徴とするシートキー用金属シートの製造方法。
【請求項7】
金属製のシート本体に貫通孔を設けることによりシート本体に対して可動に構成した操作キーを複数備え、該操作キー上又は操作キー以外の領域上には金属のメッキ層が形成されているシートキー用金属シートの製造方法であって、
前記シート本体の裏面には一体化シートを貼着すると共に、表面には前記貫通孔以外の部分にエッチング用マスキング層を形成した後全エッチングを施して貫通孔を形成し、次いでエッチング用マスキング層を剥がし、メッキを施さない部分をメッキ用マスキング層で被覆した後メッキを施し、その後メッキ用マスキング層を剥がすことを特徴とするシートキー用金属シートの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−235234(P2008−235234A)
【公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−120657(P2007−120657)
【出願日】平成19年5月1日(2007.5.1)
【出願人】(592118583)華陽技研工業株式会社 (3)
【Fターム(参考)】