説明

シートベルト装置

【課題】
高温になったシートベルトのタングプレートに乗員の手が触れないようにするとともに、ウエビングを引出し易くするシートベルト装置を提供すること。
【解決手段】
シートベルト10のウエビング11に取着され、車両側部材50に固定されたバックル60に係脱自在な金属製のプレート本体21を有するタングプレート20と、タングプレート20に、プレート本体21の表裏面21a,21bを被覆する被覆位置Aと、プレート本体21を露出させ且つプレート本体21から突出する突出位置Bとに変位自在に支持される多機能部材22とを有するシートベルト装置100とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主として車両室内に配設されるシートベルト装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、乗員拘束用ウエビング取付部と、バックルラッチ部とからなるシートベルト用タングプレートにおいて、ウエビング取付部側にその両面を覆う柔軟な材料よりなる第1部材を配し、バックルラッチ部の一方側の面に該面に沿う薄肉部面を配すると共に、バックルラッチ部のバックル側周囲にバックルラッチ部の一方側の面から他方側の面に及ぶ板厚のガイド部を有する柔軟な材料よりなる第2部材を配するシートベルト用タングプレートが開示されている。
【0003】
このシートベルト用タングプレートは、シートベルト用タングプレートをバックルから外した場合、リトラクタの引き込みにより、タングプレートがウインドウパネルに干渉しても、柔軟な材料よりなる第1部材及び第2部材により緩衝されるので、ウインドウパネルに傷が付く恐れが無く、緩衝音が緩和されるものである。
【0004】
特許文献2には、乗用車のシ−トに設けたショルダ−ベルトがピラ−の上部または上下中間部の取出口から取出されて、ショルダ−ベルトにタングプレ−トが装着されている既設のシ−トベルトシステムにあって、可撓性把持部を一体化した板状取付部をもつ合成樹脂製グリップをタングプレ−トに設けた旨が開示されている。
【0005】
このため、グリップはシ−ト横で上部または上下中間部から略水平状にぶらさがった状態となるため、このグリップを掴んでベルト(ウエビング)を引出すことができ、ベルト引出しの操作性が向上する。
【0006】
特許文献3には、基端側にウエビングを通過させる通過孔、先端側にバックルと係合する係合部をそれぞれ設けた金属プレート部と、金属プレート部の基端側をモールドし、金属プレート部の通過孔と合致するウエビングの通過孔を設けた樹脂モールド部とから形成されるタングプレートを備えたシートベルトにおいて、タングプレートに、軟質部材からなるウエビング引出し用指掛部を設けたシートベルトが開示されている。
【0007】
このため、指掛部に指を掛けてベルト(ウエビング)を引出すことができ、ベルト引出しの操作性が向上する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平4−166460号公報
【特許文献2】特許第3702951号公報
【特許文献3】実開昭61−163762号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1に開示されているシートベルトでは、バックルラッチ部の一方側の面にのみ該面に沿う薄肉部面が配され、バックルラッチ部の他方側の面が露出しているため、例えば、直射日光に晒されたタングプレートを直接手でつかむ場合、高温になったバックルラッチ部の他方側の面に手が触れてしまう恐れがある。また、タングプレートを把持してウエビングを引出す必要があり、特許文献2に示されるようなグリップが設けられたものに比べて引出し操作性が悪い。
【0010】
一方、特許文献2および特許文献3に開示されているシートベルトでは、ウエビングの引出し操作性は向上するものの、金属プレート部が全面露出しているため、例えば、直射日光に晒されたタングプレートを乗員が直接手でつかむ場合、高温になった金属プレート部に手が触れてしまう恐れがある。
【0011】
本発明は、上記の問題に鑑みてなされたものであり、高温になったシートベルトのタングプレートに乗員の手が触れないようにするとともに、ウエビングを引出し易くすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の技術的課題を解決するために本発明に講じられた第1の技術的手段は、シートベルトのウエビングに取着され、車両側部材に固定されたバックルに係脱自在な金属製のプレート本体を有するタングプレートと、該タングプレートまたは前記ウエビングに対し、前記プレート本体の表裏面を被覆する被覆位置と、該プレート本体を露出させ且つ該プレート本体から突出する突出位置とに変位自在に支持される多機能部材とを有することを特徴とするシートベルト装置である。
【0013】
第2の技術的手段は、請求項1において、前記多機能部材は、前記被覆位置と前記突出位置とに選択的に保持自在であることである。
【0014】
第3の技術的手段は、請求項1または請求項2において、前記プレート本体の面に対して直交する軸心方向で前記多機能部材を回動自在に支持する支持軸を備えることである。
【0015】
第4の技術的手段は、請求項3において、所定温度に達した際に形状復帰して前記多機能部材を前記被覆位置に移動させる形状記憶合金からなる位置復帰部材をその一端が前記タングプレートに支持され、他端が前記多機能部材に支持されるように配設したことである。
【0016】
第5の技術的手段は、請求項1または請求項2において、前記多機能部材は、所定温度に達した際に該多機能部材を前記被覆位置に形状復帰させる形状記憶合金からなる位置復帰部材を内蔵するとともに、屈曲自在に構成されていることである。
【0017】
第6の技術的手段は、請求項5において、前記多機能部材は、一端が前記タングプレートの表面または前記ウエビングに固定され、屈曲されて他端が前記プレート本体を露出させ且つ該プレート本体から突出し、前記所定温度に達した際に、前記プレート本体の先端部にて折り返されて該プレート本体の表裏面を被覆することである。
【発明の効果】
【0018】
請求項1の発明によると、多機能部材を被覆位置に変位させた際には、タングプレートのプレート本体の表裏面を覆うことができるため、プレート本体が例えば直射日光に晒されて高温になったとしても、プレート本体に乗員の手が触れることを防止することができる。また、多機能部材を突出位置に変位させることにより、多機能部材はプレート本体から突出し、引き取り易くすることができる。
【0019】
請求項2の発明によると、多機能部材を突出位置に保持させることができる一方、多機能部材を被覆位置に保持させることができる。このため、乗員の好みの位置に多機能部材を保持させることができる。
【0020】
請求項3の発明によると、支持軸を軸心として多機能部材を被覆位置と突出位置とに回動により変位させることができる。また、プレート本体の面に対して直交する軸心方向で多機能部材を回動自在とすることにより、プレート本体の表裏面共に多機能部材で被覆することができ、被覆状態におけるプレート本体への乗員の手が触れることをより確実に抑止することができる。
【0021】
請求項4の発明によると、通常の使用状態として多機能部材が突出位置に保持されていても、プレート本体が蓄熱するような高温雰囲気に達した際には、多機能部材が形状記憶合金の形状復帰により自動的に被覆位置に変位することとなる。これにより、プレート本体が高温となっても、プレート本体は多機能部材によって被覆された状態となるため、乗員の手がプレート本体に接触してしまうのを好適に抑止することができる。
【0022】
請求項5の発明によると、多機能部材の屈曲により多機能部材を被覆位置と突出位置とに変位させることができる。また、形状記憶合金の塑性変形により、単一の多機能部材を突出位置に保持させることができる一方、多機能部材を被覆位置に保持させることができる。このため、乗員の好みの位置に多機能部材を保持させることができる。また、通常の使用状態として多機能部材が突出位置に保持されていても、プレート本体が蓄熱するような高温雰囲気に達した際には、多機能部材が自動的に被覆位置に変位することとなる。それゆえ、プレート本体が高温となっても、プレート本体は多機能部材によって被覆された状態となるため、乗員の手がプレート本体に接触してしまうのを好適に抑止することができる。
【0023】
請求項6の発明によると、多機能部材のみの折り返しのみで、プレート本体の表裏面共に多機能部材で被覆することができるとともに、多機能部材のみの屈曲のみで、ウエビングを引出し易くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の第1の実施例に係るシートベルト装置の正面図。
【図2】図1のI‐I断面図。
【図3】本発明の第2の実施例に係るシートベルト装置の正面図。
【図4】本発明の第3の実施例に係るシートベルト装置の分解斜視図。
【図5】(a)は第3の実施例に係るシートベルト装置の斜視図、(b)は(a)のII−II断面図。
【図6】本発明の第3の実施例に係るシートベルト装置の斜視図。
【図7】(a)〜(c)は、本発明の他の実施例に係るシートベルト装置を示す斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の第1の実施例を図1および図2に基づいて説明する。
【0026】
図1は、本発明の第1の実施例を示すシートベルト装置100の正面図であり、図2は、図1のI‐I断面を示す断面図である。
【0027】
シートベルト装置100は、シートベルト10のウエビング11に取着され、車両側部材50に固定されたバックル60に係脱自在な金属製のプレート本体21を有するタングプレート20と、タングプレート20に支持され、プレート本体21と重合し、プレート本体21を被覆する被覆位置Aと、プレート本体21を露出させ且つプレート本体21から突出する図1に破線で示す突出位置Bとに変位自在に装着される多機能部材22とを有する。
【0028】
タングプレート20は、ウエビング11が挿通される孔21cとプレート本体21の表裏面21a,21bに対して直交する軸心方向で多機能部材22を回動自在(変位自在)に支持する支持軸23が貫通する孔21dとが形成される挿通部21e、およびバックル60と係合する係合部21fからなる金属製のプレート本体21を有する。なお、挿通部21cは、一体成形された樹脂材料によって被覆されている。
【0029】
多機能部材22は、軟質性樹脂材料から成形され、図2に示すように断面C字状を呈し、タングプレート20の係合部21fを含む金属露出部位全体が挿入される開口部22aおよび多機能部材22を回動自在に支持する支持軸23が貫通する孔22bが形成されている。
【0030】
より詳しくは、多機能部材22は、タングプレート20の表面(図2における上方側面)を覆う第1被覆部22cと、タングプレート20の裏面(図2における下方側面)を覆う第2被覆部22dと、それら被覆部22c,22dを連結する連結部22eと、これら第1被覆部22c、第2被覆部22d、及び連結部22eに包囲された中空部22fとを有して構成されている。
【0031】
こうした多機能部材22は、タングプレート20に外挿され、そのタングプレート20との間にワッシャ24が介在されるとともに、多機能部材22の孔22b、ワッシャ24の孔24aおよびタングプレート20の孔21dとに支持軸23が貫通され、支持軸23の両端がかしめられることにより、タングプレート20に対して回動自在に支持(装着)される。
【0032】
詳しくは、多機能部材22は、タングプレート20による支持状態にあっては図1に示す矢印F1方向に回動自在となり、タングプレート20のプレート本体21の係合部21fを中空部22f内に格納して該係合部21fの表裏面を被覆する被覆位置Aと、プレート本体21から突出する突出位置Bとに回動(変位)自在となる。
【0033】
なお、多機能部材22の第1被覆部22c及び第2被覆部22dにおける突出位置Bへの回動側側縁(図1に示す右方側縁)は、連結部22eにより連結され、被覆位置Aへの回動側側縁(図1に示す左方側縁)は、連結部22eにより連結されておらず開口するよう形成されている。このため、多機能部材22を被覆位置Aに回動させた際には、該連結部22eがプレート本体21に当接することにより、多機能部材22は該プレート本体21を確実に被覆した位置に位置決めされる。また、上記突出位置Bへの回動側側縁は、必ずしも連結部22eにより連結されている必要はなく、被覆位置Aへの回動側側縁と同様に開口するよう形成されていてもよい。このようにすれば、車両の運転席側と助手席側とで多機能部材22を共用することができる。ちなみに、上記突出位置Bへの回動側側縁を連結部22eにより連結した場合においても、表裏逆にすることにより運転席側と助手席側とで多機能部材22を共用することはできるが、突出位置Bへの回動側側縁も開口するよう形成した場合には、表裏関係なく多機能部材22の共用が可能となり、組付エラーを確実に防止可能となる。
【0034】
また、多機能部材22が軟質性樹脂材料から成形され、タングプレート20の挿通部21cが軟質性樹脂材料で被覆されていることにより、支持軸23の両端をかしめたとき、軟質性樹脂材料の弾性による押圧力が生じ、多機能部材22とワッシャ24との間およびワッシャ24とタングプレート20の挿通部21cとの間に摩擦力が発生する。この摩擦力により、多機能部材22は、タングプレート20に対して、被覆位置Aと突出位置Bとに選択的に保持自在となる。
【0035】
しかも、多機能部材22とタングプレート20との間にワッシャ24が介在し、ワッシャ24の厚みによる隙間Sが存在するため、隙間Sにより、高温になったプレート本体21の熱が多機能部材22に伝わらず多機能部材22が変形することを防止できる。また、隙間Sにより、多機能部材22は熱により変形した場合でも、タングプレート20と干渉することなく円滑に回動することができる。
【0036】
したがって、上記構成によれば、多機能部材22が被覆位置Aに回動(変位)された際には、多機能部材22はタングプレート20のプレート本体21の表裏面21a,21bと重合し、表裏面21a,21b全面を覆う。このように、多機能部材22はタングプレート20のカバー部材として機能することができる。このため、プレート本体21が、例えば直射日光に晒されて高温になってしまっても、プレート本体21に乗員の手等が触れてしまうことを抑止することができるとともに、プレート本体21が直射日光に晒されて高温になってしまうこと自体を抑止することができる。
【0037】
また、多機能部材22を突出位置Bに回動させることにより、プレート本体21の表裏面21a,21bは露出され、多機能部材22はプレート本体から突出する。このため、乗員は、突出した多機能部材22を把持することができ、ウエビング11を引出し易くなる(タングプレート320を引き取り易くなる)。このように、例えば乗員がシートベル10を装着するとき、多機能部材22は、ウエビング11の引出し用把持部であるリーチャ部材として機能する。一方、突出位置Bにおいては、多機能部材22は、図1においてウエビング11またはタングプレート20の幅方向外形線から左右方向(車両前後方向)に突出するため、多機能部材22の突出した部分がウエビング11の引出し用把持部となりリーチャ部材として機能する。
【0038】
このように、多機能部材22のみ(単一の多機能部材22)により高温になったシートベルト10のタングプレート20に乗員の手等が触れないようにするとともに、タングプレート20を引き取り易くすることができる。
【0039】
なお、多機能部材22、ワッシャ24およびタングプレート20とを支持軸23でかしめる際、摩擦力が発生しないようにかしめても良い。このようにすれば、シートベルト装置100の未使用時(タングプレート20をバックル60に装着していない状態)にあっては、ウエビング11は、ほぼ車両上下方向に張られ、プレート本体21も車両上下方向に配置されることから、多機能部材22は、支持軸23から下方向に垂れ、プレート本体21の表裏面21a,21b全面を覆い、タングプレート20のカバー部材として機能する。また、乗員が多機能部材22を把持した場合、多機能部材22は乗員方向に回動してプレート本体21から突出した状態となるため、多機能部材22をリーチャ部材として機能させることができ、ウエビング11の引出し操作性が向上する。
【0040】
なお、上記第1の実施例においては、多機能部材22をタングプレート20に回動自在に支持した形態を示したが、これに限らず、例えば多機能部材22をウエビング11におけるタングプレート20の下方に回動自在に支持させてもよい。
【0041】
次に、本発明の第2の実施例を図3に基づいて説明する。
【0042】
図3は、本発明の第2の実施例を示すシートベルト装置200の正面図である。第2の実施例は、第1の実施例に対して、タングプレート220と多機能部材222との間に、乗員により塑性変形自在であるとともに、所定温度に達した際に該塑性変形前の初期形状に復帰(形状復帰)して多機能部材222を図3に破線で示す被覆位置Bに回動(移動)させる形状記憶合金からなる位置復帰部材210を支持軸223の周りに配設したことが異なる。これ以外については、第1の実施例と同じであるため説明を省略する。
【0043】
位置復帰部材210は、線状の形状記憶合金がコイル状に成形された構成をなし、そのコイルの一端210aがタングプレート220に支持(固定)され、他端210bが多機能部材220に支持(固定)され、コイルの中央孔210cに支持軸223が貫通されている。
【0044】
上記構成によれば、多機能部材220が突出位置Bに保持されていても、プレート本体221が直射日光を受け蓄熱し高温になるなどして形状記憶合金が形状復帰する温度(所定温度)に達した際には、形状記憶合金からなる位置復帰部材210が形状復帰し、多機能部材220が自動的に被覆位置Aに移動する。これにより、プレート本体221が高温となっても、プレート本体221は多機能部材220によって被覆された状態となるため、乗員の手または体の一部がプレート本体221に接触してしまうのを好適に防止することができる。すなわち、乗員が利便性を優先してベルトリーチャとして機能させるべく多機能部材220を突出位置Bに位置保持させていたとしても、プレート本体221の被覆が必要な状況におかれた際には、多機能部材220が自動的に被覆位置Aに変位するため、確実な乗員保護を図りつつ、利便性の向上を図ることができる。
【0045】
なお、本実施例においては、多機能部材220に内蔵された線状の形状記憶合金からなる位置復帰部材210の可塑性によって、多機能部材220を被覆位置Aまたは突出位置Bに保持自在とすることができる。
【0046】
次に、本発明の第3の実施例を図4~図6に基づいて説明する
図4〜図6は、本発明の第3実施例を示すシートベルト装置300の斜視図である。
【0047】
シートベルト装置300は、シートベルト310のウエビング311に取着され、前記車両側部材50に固定された前記バックル60に係脱自在な金属製のプレート本体321を有するタングプレート320と、タングプレート320に支持され、プレート本体321の表裏面321a,321b全体を被覆する被覆位置(被覆状態)Aと、プレート本体321を露出させ且つプレート本体321から突出する図6に破線で示す突出位置(突出状態)Bとに変位自在(屈曲自在:変形自在)に装着される多機能部材322とを有する。
【0048】
タングプレート320は、ウエビング311が挿通される孔321cと多機能部材322を屈曲自在に支持する支持部材323を固定する固定部321dとが形成される挿通部321e、および前記バックル60と係合する係合部321fからなる金属製のプレート本体321を有する。なお、挿通部321eは、一体成形された樹脂材料によって被覆されている。
【0049】
多機能部材322は、乗員により屈曲自在な軟質性樹脂材料によって成形され、形状復帰する温度(所定温度)に達した際に形状復帰する線状の形状記憶合金からなる位置復帰部材330を内蔵し(図5(b)参照)、支持部材323により、一端322aがタングプレート320の表面320aに固定されている。なお、図4及び図5においては、位置復帰部材330が多機能部材322に内蔵されている状態を強調して示すために、多機能部材322の表面に突条322jが形成されている旨を図示しているが、この突条322jは必ずしも形成されている必要はない。また、位置復帰部材330の形状も、所定温度に達した際に多機能部材322を追従させて形状復帰できる形状であれば、必ずしも図4及び図5に示すような略環状をなしている必要はない。
【0050】
多機能部材322は、形状記憶合金からなる位置復帰部材330の可塑性質により、タングプレート320に対して図5(a)に示す2点鎖線で示す折れ線Pまたは折れ線Qの位置で屈曲されることにより、被覆状態A(図示略)と突出状態B(図6)とに選択的に保持自在とされる。
【0051】
なお、本実施形態において位置復帰部材330は、折れ線Pの位置で屈曲された形状が記憶形状に設定されており、他の形状に変形されていても、形状復帰する温度に達すると、該折れ線Pの位置で屈曲された形状に復帰する。
【0052】
上記構成によれば、多機能部材322は、プレート本体321の先端部321gに対向する2点鎖線で示す折れ線Pの位置で折り返され、被覆状態Aに屈曲(変形)される。多機能部材322は、被覆状態Aに屈曲された際には、タングプレート320のプレート本体321の表裏面321a,321bと重合し、表裏面321a,321b全面を覆う。また、多機能部材322が突出位置Bに保持されていても、プレート本体321が直射日光を受けるなどして蓄熱し高温になり、形状記憶合金が形状復帰する温度(所定温度)に達した際には、形状記憶合金からなる位置復帰部材330が形状復帰し、多機能部材322が自動的に被覆位置Aに屈曲される。このように、多機能部材322はタングプレート320のカバー部材として機能することができる。このため、プレート本体321が、例えば直射日光に晒されて高温になってしまっても、プレート本体321に乗員の手等が触れてしまうことを防止することができるとともに、プレート本体321が直射日光に晒されて高温になってしまうことを防止することができる。
【0053】
また、多機能部材322を一点鎖線で示す折れ線Qの位置で折り返し、多機能部材322を突出状態Bに屈曲(変形)させることにより、プレート本体321の表裏面321a,321bは露出され、多機能部材322の他端322bはプレート本体321から突出する。このため、プレート本体321から突出した他端322bを把持でき、ウエビング311を引出しやすくなる(タングプレート320を引き取り易くなる)。このように、例えば乗員がシートベル310を装着するとき、多機能部材322を利用することにより、ウエビング311を容易に引出すことができる。
【0054】
位置復帰部材330をU字状の形状とすることで、折れ線P,Qは位置復帰部材330と交わる。このため、多機能部材322が屈曲した場合、被覆状態Aと突出状態Bとに選択的に保持自在とすることができるとともに、高温時は被覆状態Aにされる。
【0055】
(他の実施例1)
なお、上記第3の実施例に関し、多機能部材322は、必ずしもタングプレート321に固定されている必要はなく、例えば図7に示すように、ウエビング311に固定されてもよい。
【0056】
詳しくは、図7(a)に示すように、多機能部材322の先端322bが車両の進行方向を向くように、支持部材340により多機能部材322をウエビング311に固定する。これにより、図7(b)に示すように、多機能部材322の非屈曲状態にあっては、タングプレート320のプレート本体321が露出し且つ多機能部材322がタングプレート320から突出した突出状態Bとなる。また、同図に示す折れ線Pにて屈曲されて折り返されることにより、多機能部材322は、図7(c)に示すようにプレート本体321の表裏面312a,321b全体を被覆する被覆状態Aとなる。
【0057】
このため、多機能部材322に内蔵された前記位置復帰部材330の記憶形状を図7(c)に示す屈曲形状に設定すれば、タングプレート320の高温状況下にあっては、たとえ多機能部材322が突出位置Bに位置していたとしても、自動的に被覆位置Aに復帰することとなり、上記第3の実施例と同等の作用効果を得ることができる。
【0058】
なお、上記第3の実施例及び上記他の実施例1において、多機能部材322は、必ずしも軟質性樹脂材料によって構成されている必要はなく、例えば布地によって構成されていてもよい。
【0059】
(他の実施例2)
また、上記第2の実施例に関し、位置復帰部材210をコイルバネ等からなる付勢部材に変更してもよい。この場合、多機能部材222が常に被覆状態Aとなるよう付勢されるように付勢部材の付勢方向を設定する。このようにすれば、外力が加わらない状態においては、プレート本体221は多機能部材222によって常に被覆された状態を維持するため、高温になったプレート本体221に乗員が触れてしまうことを抑止できる。また、乗員がウエビング11を引出す際には、多機能部材222を付勢部材の付勢力に抗して回動させて突出状態Bとすることによってリーチャとして機能させることができるため、ウエビング11を容易に引出すことができる。
【0060】
(他の実施例3)
さらに、上記第1及び第2の実施例に関し、多機能部材22,222は、必ずしもタングプレート20に回動自在に支持されている必要はなく、上記他の実施例1と同様にウエビング11に対して回動自在に支持されてもよい。なおこの場合、タングプレート20よりも下方位置に支持軸22,223を配し、多機能部材22,222の先端を上方へ回動させることにより、プレート本体21の表裏面21a,21bを被覆可能とすればよい。
【符号の説明】
【0061】
10、310・・・シートベルト
11、311・・・ウエビング
20、220、320・・・タングプレート
21、321・・・プレート本体
21a・・・表面
21b・・・裏面
22、222、322・・・多機能部材
23、223・・・支持軸
50、350・・・車両側部材
60、360・・・バックル
100、200、300・・・シートベルト装置
210、320・・・位置復帰部材
210a・・・一端
210b・・・他端
A・・・被覆位置
B・・・突出位置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シートベルトのウエビングに取着され、車両側部材に固定されたバックルに係脱自在な金属製のプレート本体を有するタングプレートと、
該タングプレートまたは前記ウエビングに対し、前記プレート本体の表裏面を被覆する被覆位置と、該プレート本体を露出させ且つ該プレート本体から突出する突出位置とに変位自在に支持される多機能部材とを有することを特徴とするシートベルト装置。
【請求項2】
請求項1において、
前記多機能部材は、前記被覆位置と前記突出位置とに選択的に保持自在であることを特徴とするシートベルト装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2において、
前記プレート本体の面に対して直交する軸心方向で前記多機能部材を回動自在に支持する支持軸を備えることを特徴とするシートベルト装置。
【請求項4】
請求項3において、
所定温度に達した際に形状復帰して前記多機能部材を前記被覆位置に移動させる形状記憶合金からなる位置復帰部材をその一端が前記タングプレートに支持され、他端が前記多機能部材に支持されるように配設したことを特徴とするシートベルト装置。
【請求項5】
請求項1または請求項2において、
前記多機能部材は、所定温度に達した際に該多機能部材を前記被覆位置に形状復帰させる形状記憶合金からなる位置復帰部材を内蔵するとともに、屈曲自在に構成されていることを特徴とする記載のシートベルト装置。
【請求項6】
請求項5において、
前記多機能部材は、一端が前記タングプレートの表面または前記ウエビングに固定され、前記所定温度に達した際に、他端が前記プレート本体の先端部にて折り返されて該プレート本体の表裏面を被覆することを特徴とするシートベルト装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−6010(P2011−6010A)
【公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−153234(P2009−153234)
【出願日】平成21年6月29日(2009.6.29)
【出願人】(000000011)アイシン精機株式会社 (5,421)
【Fターム(参考)】