シート材巻き付け具及びシート材の保管方法
【課題】多大な製造コストをかけずにシート状プラスチック基板等のシート材を水分吸収を抑制しつつ保管するシート材巻き付け具を提供する。
【解決手段】プラスチック基板保管装置1は、シート材を巻き付ける芯部材2と、芯部材2のシート材巻き付け部分の両側のそれぞれに軸方向に可動に設けられ、内側のシート材巻物端面当接部分が水分非透過性材料で形成されたフランジ部材3,3’と、フランジ部材3,3’をシート材巻物端面に押圧するように内向きに付勢する付勢部材6,6’と、を備える。
【解決手段】プラスチック基板保管装置1は、シート材を巻き付ける芯部材2と、芯部材2のシート材巻き付け部分の両側のそれぞれに軸方向に可動に設けられ、内側のシート材巻物端面当接部分が水分非透過性材料で形成されたフランジ部材3,3’と、フランジ部材3,3’をシート材巻物端面に押圧するように内向きに付勢する付勢部材6,6’と、を備える。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体装置に用いられるシート状プラスチック基板等のシート材を巻き付けて保管等するためのシート材巻き付け具及びシート材の保管方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話機やPDA(personal digital assistant)などの発達に伴い、モバイル機器に用いられる液晶ディスプレイや集積回路等の半導体素子に対してフレキシブル性や耐衝撃性等への要求が高まっている。そこで、ガラス基板やシリコンウェハ等の硬い基板に代わり、プラスチック基板のようなフレキシブル性及び耐衝撃性に富んだ基板を用いた半導体素子の研究が盛んになされている。このようなフレキシブル性に富んだプラスチック基板は、製造工程での基板搬送に巻物状(ロール状)から巻物状へ搬送するロールツウロール搬送を行うことができる。このため、これまでの枚葉式もしくはバッチ式搬送に比べて搬送スピードを大幅に向上することができるという製造技術における利点もある。
【0003】
しかし、一般的に、プラスチック基板はガラス基板やシリコンウェハに比べて水分を吸収しやすい。そのため、基板膨張が非常に大きいという最大の欠点がある。水分吸収による基板膨張が起こると、基板が反ったりマスクアライメントずれが生じる。従って、このようなプラスチック基板の水分吸収は、高い精度を必要とする半導体素子製造工程においての大きな問題になっている。
【0004】
そこで、このような水分を吸収したプラスチック基板の使用を避けるため、真空雰囲気下等で基板を保管するもの、又は、使用前にプラスチック基板を熱処理することで吸収した水分を蒸発させるものが知られている。
【0005】
また、特許文献1には、プラスチック基板の片面に高分子皮膜からなるガスバリア層を介して架橋樹脂層を有し、そのプラスチック基板の他面に基板に隣接して無機酸化物層を有する透明な液晶表示素子用基板が開示されている。そして、これによれば、プラスチック基板表裏での吸水度の対称性が維持されて湾曲化が防止され、従来のガラス基板と同様に処理作業できてガラス基板に匹敵する良好な画質を長期に維持し、耐久性に優れる液晶セルが得られる、と記載されている。
【0006】
さらに、特許文献2には、樹脂製基板の上に予め所定の厚みのSiO2の層を形成し、1000〜1500Wの範囲内の所定の電力の高周波電源を印加してC3F6のプラズマを生成するとともに、基板を配置した電極に所定のバイアス電力を印加してC3F6をSiO2の層の上に堆積することが開示されている。そして、これによれば、樹脂材料で形成された基材を透過して水分が他の部材に浸入することを確実に防止することができる新規な成膜部材を提供することができる、と記載されている。
【特許文献1】特開平10-206835号公報
【特許文献2】特開2004-050672号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記のような真空雰囲気下等で基板を保管するもの又は基板を熱処理することで吸収した水分を蒸発させるものは、基板を真空中で保管するための巨大で高価な真空設備が必要であったり、基板から水分を蒸発させるためのオーブンによる長期のべーク工程が必要であったりするので、多大な製造コストがかかるという問題がある。
【0008】
また、上記特許文献1に示されるように、無機膜や有機膜等のベースコートを基板に成膜して水分吸収を抑制する手段では、ロールツウロール方式で基板を搬送させながら、酸化膜やメタル等の水分を通しにくい材料を基板にスパッタ法や蒸着法でベースコート形成している。すると、基板の長さ方向では連続的に成膜されるが、基板の幅方向では両端部に成膜されない領域が生じる。従って、この成膜されていない領域から水分を吸収してしまうという問題がある。
【0009】
また、上記特許文献2に開示されているように、積層構造にしたベースコートでプラスチック基板の全面を成膜するものは、基板表面からの水分の吸収は抑制されるが、基板端面からの水分の吸収は抑制し難いという問題がある。
【0010】
本発明は、斯かる諸点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、多大な製造コストをかけずにシート状プラスチック基板等のシート材の水分吸収を抑制しつつ保管するシート材巻き付け具を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係るシート材巻き付け具は、シート材を巻き付ける芯部材と、芯部材のシート材巻き付け部分の両側のそれぞれに軸方向に可動に設けられ、内側のシート材巻物端面当接部分が水分非透過性材料で形成された一対のフランジ部材と、一対のフランジ部材のそれぞれをシート材巻物端面に押圧するように内向きに付勢する付勢部材と、を備えたことを特徴とするものである。
【0012】
上記の構成によれば、シート状プラスチック基板等のシート材を巻物にして保管する間、巻物端面を常に水分非透過性材料で形成されたフランジ部材で押圧することにより、ベースコートによる成膜が形成されていない巻物端面からの水分の吸収を抑制することが可能となる。
【0013】
本発明に係るシート材巻き付け具は、付勢部材が一対の両フランジ部材間に架けられたバネ部材であってもよい。
【0014】
上記の構成によれば、極めて簡単な構成により、フランジ部材をシート材巻物端面に押圧するように内向きに付勢することができる。
【0015】
本発明に係るシート材巻き付け具は、芯部材の内側に軸方向に延びるように巻き付け具取付軸挿通孔が形成されていてもよい。
【0016】
上記の構成によれば、芯部材の巻き付け具取付軸挿通孔に巻き付け具取付軸を挿通させて、巻き付け具取付軸を回転させることにより、容易にシート状プラスチック基板等のシート材をシート材巻き付け具に巻き付けることができる。また、芯部材の巻き付け具取付軸挿通孔に巻き付け具取付軸を挿通させたシート材巻き付け具を一対用意することにより、巻き付け具取付軸の回転で一方のシート材巻き付け具から取り出したシート状プラスチック基板等のシート材を途中で例えばアニール等の処理をした後、他方のシート材巻き付け具に巻き付けることができる。従って、シート材巻き付け具がシート状プラスチック基板等のシート材を処理する際の搬送用治具としても用いることができる。
【0017】
本発明に係るシート材巻き付け具は、一対のフランジ部材のそれぞれのシート材巻物端面当接部分が弾性を有する材料で形成されていてもよい。
【0018】
上記の構成によれば、フランジ部材がシート材巻物の端面に押圧する際に、シート材巻物の端部が破損するのを抑制することができる。また、シート材巻物端面が弾性を有するシート材巻物端面当接部分にめり込むことにより、ベースコートによる成膜がされていないシート表面の端部が覆われるため、シート材巻物の端部からの水分の吸収を抑制することができる。
【0019】
本発明に係るシート材の保管方法は、シート材巻物の両端面のそれぞれに水分侵入規制部材を当接させ、それらの両水分侵入規制部材間に、両水分侵入規制部材のそれぞれをシート材巻物端面に押圧させるように内向きに付勢する付勢部材を架けることを特徴とする。
【0020】
上記の構成によれば、シート状プラスチック基板等のシート材を巻物にして保管する間、巻物端面を常に水分非透過性材料で形成されたフランジ部材で押圧することにより、ベースコートによる成膜が形成されていない巻物端面からの水分の吸収を抑制することが可能となる。
【発明の効果】
【0021】
以上説明したように、本発明によれば、多大な製造コストをかけずにシート状プラスチック基板等のシート材を水分吸収を抑制しつつ保管するシート材巻き付け具を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態に係るシート材巻き付け具を図面に基づいて詳細に説明する。
【0023】
また、本実施形態では、シート状のプラスチック基板を巻き付けて保管する形態について説明する。
【0024】
尚、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではない。
【0025】
(シート材巻き付け具の構成)
図1は、本発明の実施形態に係るシート材巻き付け具1の概略図を示す。このシート材巻き付け具1は、芯部材2、フランジ部材3,3’及びバネ部材6,6’(付勢部材)で構成されている。シート材巻き付け具1は、その芯部材2の両端にフランジ部材3,3’が嵌め込まれており、この両端のフランジ部材3.3’間にバネ部材6,6’が架けられて構成されている。
【0026】
芯部材2は、その内直径が例えば4〜15cmの細長円筒状に形成されている。芯部材2はステンレス製材料等で形成されている。芯部材2は、鏡面処理が施されその表面が平坦となっている。芯部材2は、シート材巻き付け具1の上下方向の中心に水平に設けられている。また、芯部材2は、ステンレス製材料に限らずセラミック等で形成されていてもよいし、表面の鏡面処理はなくてもよい。
【0027】
フランジ部材3,3’は、シート材巻き付け具1の両側端部に設けられている。フランジ部材3,3’は、円盤状に形成されている。フランジ部材3,3’は、ステンレス製材料の水分非透過性材料で形成されている。フランジ部材3,3’は、その内側表面に鏡面処理が施され平坦となっている。フランジ部材3,3’は、その円盤表面の大きさが直径20〜100cmであり、シート状のプラスチック基板を芯部材2に巻き付けてなるシート状巻物の端面より大きく形成されている。フランジ部材3,3’は、その円盤中心にそれぞれ直径5〜16cm程度の円孔4,4’が形成されている。円孔4,4’は、その直径が芯部材2の外直径と略同一となるように形成されている。フランジ部材3,3’は、その円孔4,4’に芯部材2の両端を嵌め込むことにより、芯部材2のシート材を巻き付ける部分の両側のそれぞれに軸方向に可動に設けられている。すなわち、プラスチック基板20を巻き付けて保管するときはプラスチック基板20を内側に押圧する図2のような位置に、また、プラスチック基板20を取り出すときは図3のような位置に設けられる。また、フランジ部材3,3’は、円盤状に限らず、長方形の板状等に形成されていてもよい。さらに、フランジ部材3,3’は、ステンレス製材料に限らず、水分を透過させないようなものであれば何でもよく、例えばセラミック等を用いてもよい。また、フランジ部材3,3’は、その表面が鏡面処理されていなくてもよい。
【0028】
フランジ部材3,3’は、それらのシート状のプラスチック基板の巻物端面に対向する面が、弾性体5,5’で形成されている。すなわち、弾性体5,5’は、フランジ部材3,3’がシート状のプラスチック基板を巻物にして押圧したときに当接する部分(シート材巻物端面当接部分)にそれぞれ形成されている。弾性体5,5’は、例えば、シリコンゴム、熱可塑性エラストマー及びその他の合成ゴム等の任意の弾性ゴム材等で形成されている。弾性体5,5’は、例えば、厚さ0.5〜数cmの円盤状に形成されている。弾性体5,5’は、例えば、直径15〜80cmの大きさに形成されている。また、弾性体5,5’は、このようにフランジ部材3,3’の内側の表面から突出するように形成されていてもよいし、フランジ部材3,3’の内側の表面に埋め込まれるように形成されていてもよい。
【0029】
バネ部材6,6’は、フランジ部材3,3’間に架けられている。すなわち、それぞれその一端がフランジ部材3の内側表面端部に、且つ、他端がフランジ部材3’の内側表面端部に取り付けられている。バネ部材6,6’は、その両端にフックが形成されている。バネ部材6,6’は、フランジ部材3,3’に、図4のようにフックで係合することにより取り付けられている。バネ部材6,6’は、それぞれ互いに芯部材2と平行となるように水平に設けられている。バネ部材6,6’は、それぞれ互いにフランジ部材3,3’の中心から対象な位置に取り付けられている。バネ部材6,6’は、その自然長が、プラスチック基板の巻物の幅より所定長さだけ短いものが用いられている。この自然長は、巻き付けるプラスチック基板の幅により選択される。また、バネ部材6,6’は、2つでなく、それ以上備えていてもよい。さらに、本実施形態では付勢部材をバネ部材6,6’としているが、これに限定されず、シリコンゴム等の合成ゴム等の弾性を有したゴム材料等を使用して構成することもできる。
【0030】
(シート材の保管方法)
次に、シート材巻き付け具1を用いてシート状のプラスチック基板20を巻き取って保管する方法について説明する。
【0031】
まず、図5に示すようなシート材巻き付け具回転装置10を用意する。ここで、シート材巻き付け具回転装置10は円盤状部材11、その円表面中心に取り付けられ且つ表面に複数の孔が形成された内空部を有する円柱状の巻き付け具取付軸12、巻き付け具取付軸12を回転させる不図示の回転駆動部及び巻き付け具取付軸12の内空部を真空引きする真空ポンプで構成されている。
【0032】
次いで、巻き付け具取付軸12をシート材巻き付け具1の芯部材2の円筒内部、すなわち、巻き付け具取付軸挿通孔13に挿入する。
【0033】
次に、図6に示すように、バネ部材6,6’をフランジ部材3,3’から取り外した後、シート材巻き付け具1の両側端部に嵌め込まれているフランジ部材3,3’の間隔を所定位置まで拡げる。このとき、フランジ部材3,3’の間隔は巻き付けるプラスチック基板20の幅に、例えば、5〜10cm加えた長さが好適であるが、巻き付ける際にプラスチック基板20がフランジ部材3,3’にぶつからない程度に開いていればいくらであってもよい。また、フランジ部材3,3’は、芯部材2から取り外してもよい。
【0034】
続いて、フランジ部材3,3’の間隔を所定位置まで拡げた状態で、真空ポンプにより巻き付け具取付軸12の内空部を真空引きする。このとき、巻き付け具取付軸12の表面に複数の孔が形成されているため、その複数の孔から真空引きによる負圧が巻き付け具取付軸12表面に接する芯部材2にかかる。この負圧により、巻き付け具取付軸12の回転の際に芯部材2が動かないように固定する。
【0035】
次に、図7に示すように、シート状のプラスチック基板20の幅方向の一端を芯部材2に巻き付ける。このとき、プラスチック基板20を正確に巻き取るために、初めに巻き付けたプラスチック基板20の一端を芯部材2にシール等で固定しておく。
【0036】
続いて、プラスチック基板20の一端を芯部材2に巻き付けた状態で、シート材巻き付け具回転装置10の巻き付け具取付軸12を回転駆動部によりプラスチック基板を巻き付ける方向に回転させる。このとき、巻き付け具取付軸12の回転速度は、0.01〜1.0rpmであるが、プラスチック基板20を安定して正確に巻き付けることができればいくらでもよい。
【0037】
プラスチック基板20を最後まで巻き付けた後、回転駆動部による巻き付け具取付軸12の回転を停止する。巻き付け具取付軸12の回転が完全に停止したら、真空ポンプによる巻き付け具取付軸12の内空部の真空引きを停止する。
【0038】
次に、図8(a)及び(b)のように、フランジ部材3,3’をプラスチック基板20の巻物の両端面のそれぞれに当接させる。このとき、フランジ部材3,3’の内側には弾性体5,5’が形成されているため、この部分がプラスチック基板20の巻物の両端面の全域に当接することで、フランジ部材3,3’はプラスチック基板20の水分吸収を抑制させる水分侵入規制部材を構成している。
【0039】
続いて、フランジ部材3,3’の内側表面端部にそれぞれバネ部材6,6’をフックにより係合させる。このとき、バネ部材6,6’は、その自然長より延びている状態であるため、自然長に縮もうとする弾性力をフランジ部材3,3’にかける。この弾性力により、フランジ部材3,3’をその内側へ引っ張るような付勢が働く。このため、図9に示すように、フランジ部材3,3’の内側に形成した弾性体5,5’がプラスチック基板20の巻物両端面に当接したままで安定する。このとき、図10のように、プラスチック基板20の巻物両端部は、弾性体5,5’にめり込んでいる。このため、プラスチック基板20の巻物両端側面及び両端部外表面が弾性体5,5’で覆われる。このようにして、巻物状にしたプラスチック基板20をシート材巻き付け具1により保管する。
【0040】
ここで、本実施形態では、シート材巻き付け具回転装置10について、その巻き付け具取付軸12が横型のものを用いたが、巻き付け具取付軸12が縦型のシート材巻き付け具回転装置10を用いてプラスチック基板20を巻き付けてもよい。
【0041】
(プラスチック基板の搬送方法)
次に、シート材巻き付け具1を用いたシート状のプラスチック基板20の搬送方法について説明する。また、この実施形態では、シート材巻き付け具1を用いて、保管しているプラスチック基板20を、そのままロールツウロール式で基板加工処理領域へ搬送する方法について説明する。
【0042】
まず、図11に示すように、シート材巻き付け具回転装置10及びその巻き付け具取付軸12を芯部材2の巻き付け具取付軸挿通孔13に挿入することにより取り付けたシート材巻き付け具1を液処理等を施す基板処理装置21の両サイドにそれぞれ載置する。ここで、図の右から左へ向かう方向が基板の搬送方向である。また、図11の右側に載置しているシート材巻き付け具1は、巻物状にプラスチック基板20を備えており、左側に載置しているシート材巻き付け具1は、プラスチック基板20を備えていない。
【0043】
続いて、シート材巻き付け具1からバネ部材6,6’を取り外す。
【0044】
次に、右側のシート材巻き付け具1の両側部にあるフランジ部材3,3’を所定間隔だけ拡げる。そして、真空ポンプを作動させて巻き付け具取付軸12の内空部を真空引きし、巻き付け具取付軸12の複数の孔からの負圧を与えることによって芯部材2を固定する。また、左側のシート材巻き付け具1も同様に、そのフランジ部材3,3’を拡げ且つ巻き付け具取付軸12の内空部の真空引きにより芯部材2を固定する。
【0045】
続いて、右側のシート材巻き付け具1のプラスチック基板20の一端を取り出し、処理装置21上の処理区域22内を通って左側のシート材巻き付け具1の芯部材2に巻き付ける。このとき、プラスチック基板20を正確に巻き取るために、巻き付けたプラスチック基板20の一端を芯部材2にシール等で固定しておくとよい。
【0046】
続いて、プラスチック基板20の一端を巻き付けた状態で、左側のシート材巻き付け具回転装置10の巻き付け具取付軸12を回転駆動部によりプラスチック基板20を巻き付ける方向に回転させる。このとき、巻き付け具取付軸12の回転速度は、処理装置21の処理操作により適当な速度を選択する。
【0047】
このようにして、処理装置21に対して次々にプラスチック基板20を搬送する。
【0048】
そして、処理装置21によるプラスチック基板20の処理操作が終了すると、一旦、回転駆動部による巻き付け具取付軸12の回転を停止する。次に、処理基板と未処理基板とを分けるため、その境界でプラスチック基板20を幅方向に切断する。切断が完了したら、再度回転駆動部による巻き付け具取付軸12の回転を始める。ここで、右側のシート材巻き付け具回転装置10も作動させ、未処理基板を巻き取る方向に巻き付け具取付軸12を回転する。左側及び右側のシート材巻き付け具1がプラスチック基板20を最後まで巻き取った後、それぞれのシート材巻き付け具回転装置10による巻き付け具取付軸12の回転を停止する。巻き付け具取付軸12の回転が完全に停止したら、真空ポンプによる巻き付け具取付軸12の内空部の真空引きを停止する。
【0049】
次に、フランジ部材3,3’をプラスチック基板20の巻物端面に当接させ、バネ部材6,6’をフランジ部材3,3’間に架ける。このとき、バネ部材6,6’による弾性力により、フランジ部材3,3’の巻物端面当接部に形成された弾性体5,5’が巻物状にしたプラスチック基板20の巻物端面に当接した状態が保持される。このため、巻物状にしたプラスチック基板20の巻物端面及び巻物端部外表面が弾性体5,5’で覆われる。このようにして、搬送を終えたプラスチック基板20をシート材巻き付け具1により再度保管する。
【0050】
ここで、本実施形態では、シート材巻き付け具回転装置10の巻き付け具取付軸12が横型のものを用いたが、巻き付け具取付軸12が縦型のシート材巻き付け具回転装置を用いてもよい。
【0051】
また、本実施形態では、芯部材2が一体の円筒形部材を用いたが、図12(a)及び(b)のように、二体の大小の円筒形部材41,41’で構成される芯部材40を用いてもよい。この場合、一方の部材41’が他方の部材41へ嵌め込まれる構造となっている。
【0052】
さらに、芯部材として、図13(a)及び(b)のように、三体の円筒形部材51,51’及び52で構成される芯部材50を用いてもよい。この場合、中心に円筒形部材52があり、その両端からそれぞれ円筒形部材52の外直径とほぼ同じ大きさの内直径を備える円筒形部材51,51’が嵌め込まれた構造となっている。
【0053】
また、芯部材として、図14に示すように、二体の円筒形部材61,61’を備え、一方の円筒形部材61は、内表面にネジ孔が形成され、且つ、他方の円筒形部材61’の外表面にはネジが形成された芯部材60を用いてもよい。この場合、円筒形部材61のネジ孔に円筒形部材61’のネジが螺合するような構造となっている。
【実施例】
【0054】
(試験評価)
プラスチック基板を室内で所定時間放置した後の水分の吸収による基板の幅方向の寸法変化率を調べるための評価試験を行った。
【0055】
(試験評価サンプル)
プラスチック基板の試験評価サンプルを以下に示す通り作製した。
【0056】
−発明例−
まず、プラスチック基板を保管するにあたり、本実施形態に係るシート材巻き付け具1と同一タイプのものを用いた。このシート材巻き付け具のフランジ部材は、直径が300mm程度のステンレス製のものである。また、このステンレス製のフランジ部材は、粒子間の隙間を減らすために、その表面が鏡面処理されている。さらに、付勢部材として、長さが500mmのばねが上下に2箇所形成されている。また、芯部材は長さが600mm、外直径100mmのステンレス製のものである。このシート材巻き付け具に、シート材巻き付け具回転装置を用いて、厚さ0.2mmのプラスチック基板を巻き付けた。プラスチック基板としては、一般的なものである表面に傷等を防止するためのハードコートが形成されているPES(ポリエーテルスルホン)基板を用いた。このプラスチック基板に対して、ロールツウロール方式で搬送させながら、基板両面にベースコートとしてスパッタ法によりSiNx膜を2000Åだけ成膜した。ここで、巻き付けたプラスチック基板は直径が300mm程度の巻物状になっている。さらに、プラスチック基板の両側のフランジ部材を基板端面に押圧させ、それにバネ部材による付勢をかけた状態でプラスチック基板を室内で15日間自然放置(温度25℃、湿度60%)した。このように保管したプラスチック基板を発明例とした。
【0057】
−比較例1−
両面にベースコートを形成していないプラスチック基板を用いた。また、このとき、プラスチック基板は芯部材に巻き付けられており、直径が300mm程度の巻物状になっている。さらに、このプラスチック基板の両側は発明例のような水分侵入規制部材が備えられておらず、外側に露出した状態となっている。このような状態で、このプラスチック基板を室温で15日間自然放置(温度25℃、湿度60%)する。このように保管したプラスチック基板を比較例1とした。
【0058】
−比較例2−
芯部材に、厚さ0.2mmのプラスチック基板を巻き取る。プラスチック基板としては、発明例と同様に、表面に傷等を防止するためのハードコートが形成されているPES(ポリエーテルスルホン)基板を用いた。このプラスチック基板に対して、ロールツウロール方式で搬送させながら、基板両面にベースコートとしてスパッタ法によりSiNx膜を2000Åだけ成膜した。このとき、芯部材に巻き付けられたプラスチック基板は、直径が300mm程度の円柱状になっている。さらに、このプラスチック基板の両側は、発明例のような水分侵入規制部材が備えられておらず、外側に露出した状態となっている。このような状態で、このプラスチック基板を室温で15日間自然放置(温度25℃、湿度60%)した。このように保管したプラスチック基板を比較例2とした。
【0059】
−比較例3−
両面にベースコートを形成していないプラスチック基板を用いた。また、このとき、プラスチック基板は芯部材に巻き付けられており、直径が300mm程度の巻物状になっている。さらに、このプラスチック基板の両側は発明例のような水分侵入規制部材が備えられておらず、外側に露出した状態となっている。このような状態で、このプラスチック基板を真空槽内に放置し真空雰囲気下で15日間保管した。このように保管したプラスチック基板を比較例3とした。
【0060】
〈試験評価方法〉
−プラスチック基板寸法変化率測定試験−
保管前と保管後のプラスチック基板の幅方向の寸法を測定した。さらに、これらの寸法から、以下の式により、プラスチック基板寸法変化率を求めた。
【0061】
プラスチック基板寸法変化率(ppm〔parts per million〕)=(保管後の幅方向の寸法ー保管前の幅方向の寸法)÷保管前の幅方向の寸法×1,000,000
〈試験評価結果〉
試験評価結果に基づいて作製したグラフを図15(比較例1及び2)及び図16(発明例及び比較例3)に示す。
【0062】
図15によれば、比較例1は、基板保管1日目ですでに基板寸法変化率が200ppmを越えている。これは、プラスチック基板の表面にベースコートを形成せずに且つ室内で自然放置したものであるため、水分吸収を抑制するものが存在せず、あらゆる方向から水分を吸収してしまった結果であると考えられる。
【0063】
また、比較例2は、保管1日目は基板寸法変化率は10ppm以下であり、水分をほとんど吸収していない。しかし、保管期間が長くなるに従って水分吸収が多くなり、保管15日目で基板寸法変化率が50ppmとなっている。このように基板寸法が50ppmも変化すると、高精度を要する半導体装置等に使用することが困難となる。このような結果は、基板表面にはベースコートが形成されているが、基板の端面には水分吸収を抑制するものが備わっていなかったことが原因で、端面から水分を吸収してしまったことにより生じたものと考えられる。
【0064】
図16によれば、発明例及び比較例3は、基板保管1日目から15日目に亘りほぼ同程度の基板寸法変化率を示している。また、それらの値はすべて10ppm以下であり、ほとんど水分を吸収していない。従って、発明例は、真空槽による基板の保管と同程度の水分吸収抑制効果を発揮することがわかる。
【0065】
以上の検討より、プラスチック基板は、その端面から水分を吸収し、長期間に亘る保管ではその影響で基板の寸法が大きく変化してくること、さらに、本発明に係るプラスチック基板保管装置を用いてその端面を水分侵入規制部材で覆って保管すると、高価な真空槽と同様に長期に亘り水分吸収を抑制することが可能となることがわかる。
【0066】
(作用効果)
次に、作用効果について説明する。
【0067】
以上の構成のシート材巻き付け具1によれば、シート材を巻き付ける芯部材2と、芯部材2のシート材巻き付け部分の両側のそれぞれに軸方向に可動に設けられ、内側のシート材巻物端面当接部分が水分非透過性材料で形成された一対のフランジ部材3,3’と、一対のフランジ部材3,3’のそれぞれをシート材巻物端面に押圧するように内向きに付勢するバネ部材6,6’とを備えているため、シート状プラスチック基板20等を巻物にして保管する間、巻物端面を常に水分非透過性材料で形成されたフランジ部材3,3’で押圧することにより、ベースコートによる成膜が形成されていない巻物端面からの水分の吸収を抑制することが可能となる。また、極めて簡単な構成により、フランジ部材3,3’をシート材巻物端面に押圧するように内向きに付勢することができる。
【0068】
さらに、シート材巻き付け具1は、芯部材2の内側に軸方向に延びるように巻き付け具取付軸挿通孔13が形成されていてもよい。
【0069】
上記の構成によれば、芯部材2の巻き付け具取付軸挿通孔13に巻き付け具取付軸12を挿通させて、巻き付け具取付軸12を回転させることにより、容易にシート状プラスチック基板20等をシート材巻き付け具1に巻き付けることができる。また、芯部材2の巻き付け具取付軸挿通孔13に巻き付け具取付軸12を挿通させたシート材巻き付け具1を一対用意することにより、巻き付け具取付軸12の回転で一方のシート材巻き付け具1から取り出したシート状プラスチック基板20等を途中で例えばアニール等の処理をした後、他方のシート材巻き付け具1に巻き付けることができる。従って、シート材巻き付け具1がシート状プラスチック基板20等を処理する際の搬送用治具としても用いることができる。
【0070】
また、シート材巻き付け具1は、一対のフランジ部材3,3’のそれぞれのシート材巻物端面当接部分が弾性体5,5’で形成されているため、フランジ部材3,3’がシート材巻物の端面に押圧する際に、シート材巻物の端部が破損するのを抑制することができる。また、シート材巻物端面が弾性を有するシート材巻物端面当接部分にめり込むことにより、ベースコートによる成膜がされていないシート表面の端部が覆われるため、シート材巻物の端部からの水分の吸収を抑制することができる。
【0071】
シート材の保管方法は、シート材巻物の両端面のそれぞれにフランジ部材3,3’を当接させ、それらの両フランジ部材3,3’間に、両フランジ部材3,3’のそれぞれをシート材巻物端面に押圧させるように内向きに付勢するバネ部材6,6’を架けることを特徴とする。
【0072】
上記の構成によれば、シート状プラスチック基板20等を巻物にして保管する間、巻物端面を常に水分非透過性材料で形成されたフランジ部材3,3’で押圧することにより、ベースコートによる成膜が形成されていない巻物端面からの水分の吸収を抑制することが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0073】
以上説明したように、本発明は、半導体装置に用いられるシート状プラスチック基板等のシート材を巻き付けて保管等するためのシート材巻き付け具及びシート材の保管方法について有用である。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】本発明の実施形態に係るシート材巻き付け具1の概略図である。
【図2】本発明の実施形態に係るフランジ部材3,3’がプラスチック基板20を押圧する状態を示す概略図である。
【図3】本発明の実施形態に係るフランジ部材3,3’がプラスチック基板20の押圧を解いた状態を示す概略図である。
【図4】本発明の実施形態に係るバネ部材6,6’を示す概略図である。
【図5】シート材巻き付け具回転装置10に取り付けた状態を示すシート材巻き付け具1の斜視図である。
【図6】バネ部材6,6’を外し且つフランジ部材3,3’を拡げた状態を示すシート材巻き付け具1の斜視図である。
【図7】芯部材2にプラスチック基板20を巻き付ける様子を示すシート材巻き付け具1の斜視図である。
【図8】(a)は、プラスチック基板20の巻き付けを完了した状態を示すシート材巻き付け具1の斜視図であり、(b)は、プラスチック基板20の巻き付けを完了した状態を示すシート材巻き付け具1の正面図である。
【図9】巻き付けたプラスチック基板20の巻物端面にフランジ部材3,3’を当接させて、バネ部材6,6’を架けた状態を示すシート材巻き付け具1の斜視図である。
【図10】プラスチック基板20の巻物端部を覆う様子を示す弾性部材5,5’の正面図である。
【図11】プラスチック基板20を搬送する様子を示すシート材巻き付け具1の斜視図である。
【図12】(a)は、二体構造となっている芯部材40を備えたシート材巻き付け具のフランジ部材を互いに拡げた状態を示すシート材巻き付け具の斜視図である。(b)は、二体構造となっている芯部材40を備えたシート材巻き付け具のフランジ部材を互いに接近させた状態を示すシート材巻き付け具の斜視図である。
【図13】(a)は、三体構造となっている芯部材50を備えたシート材巻き付け具のフランジ部材を互いに拡げた状態を示すシート材巻き付け具の斜視図である。(b)は、三体構造となっている芯部材50を備えたシート材巻き付け具のフランジ部材を互いに接近させた状態を示すシート材巻き付け具の斜視図である。
【図14】螺合構造となっている芯部材60を備えたシート材巻き付け具のフランジ部材を互いに拡げた状態を示すシート材巻き付け具の斜視図である。
【図15】比較例1及び2についてのプラスチック基板寸法変化率測定試験の試験結果を示すグラフである。
【図16】発明例及び比較例3についてのプラスチック基板寸法変化率測定試験の試験結果を示すグラフである。
【符号の説明】
【0075】
1 シート材巻き付け具
2 芯部材
3,3’ フランジ部材
4,4’ 円孔
5,5’ 弾性体
6,6’ バネ部材
10 シート材巻き付け具回転装置
11 円盤状部材
12 巻き付け具取付軸
13 巻き付け具取付軸挿通孔
20 プラスチック基板
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体装置に用いられるシート状プラスチック基板等のシート材を巻き付けて保管等するためのシート材巻き付け具及びシート材の保管方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話機やPDA(personal digital assistant)などの発達に伴い、モバイル機器に用いられる液晶ディスプレイや集積回路等の半導体素子に対してフレキシブル性や耐衝撃性等への要求が高まっている。そこで、ガラス基板やシリコンウェハ等の硬い基板に代わり、プラスチック基板のようなフレキシブル性及び耐衝撃性に富んだ基板を用いた半導体素子の研究が盛んになされている。このようなフレキシブル性に富んだプラスチック基板は、製造工程での基板搬送に巻物状(ロール状)から巻物状へ搬送するロールツウロール搬送を行うことができる。このため、これまでの枚葉式もしくはバッチ式搬送に比べて搬送スピードを大幅に向上することができるという製造技術における利点もある。
【0003】
しかし、一般的に、プラスチック基板はガラス基板やシリコンウェハに比べて水分を吸収しやすい。そのため、基板膨張が非常に大きいという最大の欠点がある。水分吸収による基板膨張が起こると、基板が反ったりマスクアライメントずれが生じる。従って、このようなプラスチック基板の水分吸収は、高い精度を必要とする半導体素子製造工程においての大きな問題になっている。
【0004】
そこで、このような水分を吸収したプラスチック基板の使用を避けるため、真空雰囲気下等で基板を保管するもの、又は、使用前にプラスチック基板を熱処理することで吸収した水分を蒸発させるものが知られている。
【0005】
また、特許文献1には、プラスチック基板の片面に高分子皮膜からなるガスバリア層を介して架橋樹脂層を有し、そのプラスチック基板の他面に基板に隣接して無機酸化物層を有する透明な液晶表示素子用基板が開示されている。そして、これによれば、プラスチック基板表裏での吸水度の対称性が維持されて湾曲化が防止され、従来のガラス基板と同様に処理作業できてガラス基板に匹敵する良好な画質を長期に維持し、耐久性に優れる液晶セルが得られる、と記載されている。
【0006】
さらに、特許文献2には、樹脂製基板の上に予め所定の厚みのSiO2の層を形成し、1000〜1500Wの範囲内の所定の電力の高周波電源を印加してC3F6のプラズマを生成するとともに、基板を配置した電極に所定のバイアス電力を印加してC3F6をSiO2の層の上に堆積することが開示されている。そして、これによれば、樹脂材料で形成された基材を透過して水分が他の部材に浸入することを確実に防止することができる新規な成膜部材を提供することができる、と記載されている。
【特許文献1】特開平10-206835号公報
【特許文献2】特開2004-050672号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記のような真空雰囲気下等で基板を保管するもの又は基板を熱処理することで吸収した水分を蒸発させるものは、基板を真空中で保管するための巨大で高価な真空設備が必要であったり、基板から水分を蒸発させるためのオーブンによる長期のべーク工程が必要であったりするので、多大な製造コストがかかるという問題がある。
【0008】
また、上記特許文献1に示されるように、無機膜や有機膜等のベースコートを基板に成膜して水分吸収を抑制する手段では、ロールツウロール方式で基板を搬送させながら、酸化膜やメタル等の水分を通しにくい材料を基板にスパッタ法や蒸着法でベースコート形成している。すると、基板の長さ方向では連続的に成膜されるが、基板の幅方向では両端部に成膜されない領域が生じる。従って、この成膜されていない領域から水分を吸収してしまうという問題がある。
【0009】
また、上記特許文献2に開示されているように、積層構造にしたベースコートでプラスチック基板の全面を成膜するものは、基板表面からの水分の吸収は抑制されるが、基板端面からの水分の吸収は抑制し難いという問題がある。
【0010】
本発明は、斯かる諸点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、多大な製造コストをかけずにシート状プラスチック基板等のシート材の水分吸収を抑制しつつ保管するシート材巻き付け具を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係るシート材巻き付け具は、シート材を巻き付ける芯部材と、芯部材のシート材巻き付け部分の両側のそれぞれに軸方向に可動に設けられ、内側のシート材巻物端面当接部分が水分非透過性材料で形成された一対のフランジ部材と、一対のフランジ部材のそれぞれをシート材巻物端面に押圧するように内向きに付勢する付勢部材と、を備えたことを特徴とするものである。
【0012】
上記の構成によれば、シート状プラスチック基板等のシート材を巻物にして保管する間、巻物端面を常に水分非透過性材料で形成されたフランジ部材で押圧することにより、ベースコートによる成膜が形成されていない巻物端面からの水分の吸収を抑制することが可能となる。
【0013】
本発明に係るシート材巻き付け具は、付勢部材が一対の両フランジ部材間に架けられたバネ部材であってもよい。
【0014】
上記の構成によれば、極めて簡単な構成により、フランジ部材をシート材巻物端面に押圧するように内向きに付勢することができる。
【0015】
本発明に係るシート材巻き付け具は、芯部材の内側に軸方向に延びるように巻き付け具取付軸挿通孔が形成されていてもよい。
【0016】
上記の構成によれば、芯部材の巻き付け具取付軸挿通孔に巻き付け具取付軸を挿通させて、巻き付け具取付軸を回転させることにより、容易にシート状プラスチック基板等のシート材をシート材巻き付け具に巻き付けることができる。また、芯部材の巻き付け具取付軸挿通孔に巻き付け具取付軸を挿通させたシート材巻き付け具を一対用意することにより、巻き付け具取付軸の回転で一方のシート材巻き付け具から取り出したシート状プラスチック基板等のシート材を途中で例えばアニール等の処理をした後、他方のシート材巻き付け具に巻き付けることができる。従って、シート材巻き付け具がシート状プラスチック基板等のシート材を処理する際の搬送用治具としても用いることができる。
【0017】
本発明に係るシート材巻き付け具は、一対のフランジ部材のそれぞれのシート材巻物端面当接部分が弾性を有する材料で形成されていてもよい。
【0018】
上記の構成によれば、フランジ部材がシート材巻物の端面に押圧する際に、シート材巻物の端部が破損するのを抑制することができる。また、シート材巻物端面が弾性を有するシート材巻物端面当接部分にめり込むことにより、ベースコートによる成膜がされていないシート表面の端部が覆われるため、シート材巻物の端部からの水分の吸収を抑制することができる。
【0019】
本発明に係るシート材の保管方法は、シート材巻物の両端面のそれぞれに水分侵入規制部材を当接させ、それらの両水分侵入規制部材間に、両水分侵入規制部材のそれぞれをシート材巻物端面に押圧させるように内向きに付勢する付勢部材を架けることを特徴とする。
【0020】
上記の構成によれば、シート状プラスチック基板等のシート材を巻物にして保管する間、巻物端面を常に水分非透過性材料で形成されたフランジ部材で押圧することにより、ベースコートによる成膜が形成されていない巻物端面からの水分の吸収を抑制することが可能となる。
【発明の効果】
【0021】
以上説明したように、本発明によれば、多大な製造コストをかけずにシート状プラスチック基板等のシート材を水分吸収を抑制しつつ保管するシート材巻き付け具を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態に係るシート材巻き付け具を図面に基づいて詳細に説明する。
【0023】
また、本実施形態では、シート状のプラスチック基板を巻き付けて保管する形態について説明する。
【0024】
尚、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではない。
【0025】
(シート材巻き付け具の構成)
図1は、本発明の実施形態に係るシート材巻き付け具1の概略図を示す。このシート材巻き付け具1は、芯部材2、フランジ部材3,3’及びバネ部材6,6’(付勢部材)で構成されている。シート材巻き付け具1は、その芯部材2の両端にフランジ部材3,3’が嵌め込まれており、この両端のフランジ部材3.3’間にバネ部材6,6’が架けられて構成されている。
【0026】
芯部材2は、その内直径が例えば4〜15cmの細長円筒状に形成されている。芯部材2はステンレス製材料等で形成されている。芯部材2は、鏡面処理が施されその表面が平坦となっている。芯部材2は、シート材巻き付け具1の上下方向の中心に水平に設けられている。また、芯部材2は、ステンレス製材料に限らずセラミック等で形成されていてもよいし、表面の鏡面処理はなくてもよい。
【0027】
フランジ部材3,3’は、シート材巻き付け具1の両側端部に設けられている。フランジ部材3,3’は、円盤状に形成されている。フランジ部材3,3’は、ステンレス製材料の水分非透過性材料で形成されている。フランジ部材3,3’は、その内側表面に鏡面処理が施され平坦となっている。フランジ部材3,3’は、その円盤表面の大きさが直径20〜100cmであり、シート状のプラスチック基板を芯部材2に巻き付けてなるシート状巻物の端面より大きく形成されている。フランジ部材3,3’は、その円盤中心にそれぞれ直径5〜16cm程度の円孔4,4’が形成されている。円孔4,4’は、その直径が芯部材2の外直径と略同一となるように形成されている。フランジ部材3,3’は、その円孔4,4’に芯部材2の両端を嵌め込むことにより、芯部材2のシート材を巻き付ける部分の両側のそれぞれに軸方向に可動に設けられている。すなわち、プラスチック基板20を巻き付けて保管するときはプラスチック基板20を内側に押圧する図2のような位置に、また、プラスチック基板20を取り出すときは図3のような位置に設けられる。また、フランジ部材3,3’は、円盤状に限らず、長方形の板状等に形成されていてもよい。さらに、フランジ部材3,3’は、ステンレス製材料に限らず、水分を透過させないようなものであれば何でもよく、例えばセラミック等を用いてもよい。また、フランジ部材3,3’は、その表面が鏡面処理されていなくてもよい。
【0028】
フランジ部材3,3’は、それらのシート状のプラスチック基板の巻物端面に対向する面が、弾性体5,5’で形成されている。すなわち、弾性体5,5’は、フランジ部材3,3’がシート状のプラスチック基板を巻物にして押圧したときに当接する部分(シート材巻物端面当接部分)にそれぞれ形成されている。弾性体5,5’は、例えば、シリコンゴム、熱可塑性エラストマー及びその他の合成ゴム等の任意の弾性ゴム材等で形成されている。弾性体5,5’は、例えば、厚さ0.5〜数cmの円盤状に形成されている。弾性体5,5’は、例えば、直径15〜80cmの大きさに形成されている。また、弾性体5,5’は、このようにフランジ部材3,3’の内側の表面から突出するように形成されていてもよいし、フランジ部材3,3’の内側の表面に埋め込まれるように形成されていてもよい。
【0029】
バネ部材6,6’は、フランジ部材3,3’間に架けられている。すなわち、それぞれその一端がフランジ部材3の内側表面端部に、且つ、他端がフランジ部材3’の内側表面端部に取り付けられている。バネ部材6,6’は、その両端にフックが形成されている。バネ部材6,6’は、フランジ部材3,3’に、図4のようにフックで係合することにより取り付けられている。バネ部材6,6’は、それぞれ互いに芯部材2と平行となるように水平に設けられている。バネ部材6,6’は、それぞれ互いにフランジ部材3,3’の中心から対象な位置に取り付けられている。バネ部材6,6’は、その自然長が、プラスチック基板の巻物の幅より所定長さだけ短いものが用いられている。この自然長は、巻き付けるプラスチック基板の幅により選択される。また、バネ部材6,6’は、2つでなく、それ以上備えていてもよい。さらに、本実施形態では付勢部材をバネ部材6,6’としているが、これに限定されず、シリコンゴム等の合成ゴム等の弾性を有したゴム材料等を使用して構成することもできる。
【0030】
(シート材の保管方法)
次に、シート材巻き付け具1を用いてシート状のプラスチック基板20を巻き取って保管する方法について説明する。
【0031】
まず、図5に示すようなシート材巻き付け具回転装置10を用意する。ここで、シート材巻き付け具回転装置10は円盤状部材11、その円表面中心に取り付けられ且つ表面に複数の孔が形成された内空部を有する円柱状の巻き付け具取付軸12、巻き付け具取付軸12を回転させる不図示の回転駆動部及び巻き付け具取付軸12の内空部を真空引きする真空ポンプで構成されている。
【0032】
次いで、巻き付け具取付軸12をシート材巻き付け具1の芯部材2の円筒内部、すなわち、巻き付け具取付軸挿通孔13に挿入する。
【0033】
次に、図6に示すように、バネ部材6,6’をフランジ部材3,3’から取り外した後、シート材巻き付け具1の両側端部に嵌め込まれているフランジ部材3,3’の間隔を所定位置まで拡げる。このとき、フランジ部材3,3’の間隔は巻き付けるプラスチック基板20の幅に、例えば、5〜10cm加えた長さが好適であるが、巻き付ける際にプラスチック基板20がフランジ部材3,3’にぶつからない程度に開いていればいくらであってもよい。また、フランジ部材3,3’は、芯部材2から取り外してもよい。
【0034】
続いて、フランジ部材3,3’の間隔を所定位置まで拡げた状態で、真空ポンプにより巻き付け具取付軸12の内空部を真空引きする。このとき、巻き付け具取付軸12の表面に複数の孔が形成されているため、その複数の孔から真空引きによる負圧が巻き付け具取付軸12表面に接する芯部材2にかかる。この負圧により、巻き付け具取付軸12の回転の際に芯部材2が動かないように固定する。
【0035】
次に、図7に示すように、シート状のプラスチック基板20の幅方向の一端を芯部材2に巻き付ける。このとき、プラスチック基板20を正確に巻き取るために、初めに巻き付けたプラスチック基板20の一端を芯部材2にシール等で固定しておく。
【0036】
続いて、プラスチック基板20の一端を芯部材2に巻き付けた状態で、シート材巻き付け具回転装置10の巻き付け具取付軸12を回転駆動部によりプラスチック基板を巻き付ける方向に回転させる。このとき、巻き付け具取付軸12の回転速度は、0.01〜1.0rpmであるが、プラスチック基板20を安定して正確に巻き付けることができればいくらでもよい。
【0037】
プラスチック基板20を最後まで巻き付けた後、回転駆動部による巻き付け具取付軸12の回転を停止する。巻き付け具取付軸12の回転が完全に停止したら、真空ポンプによる巻き付け具取付軸12の内空部の真空引きを停止する。
【0038】
次に、図8(a)及び(b)のように、フランジ部材3,3’をプラスチック基板20の巻物の両端面のそれぞれに当接させる。このとき、フランジ部材3,3’の内側には弾性体5,5’が形成されているため、この部分がプラスチック基板20の巻物の両端面の全域に当接することで、フランジ部材3,3’はプラスチック基板20の水分吸収を抑制させる水分侵入規制部材を構成している。
【0039】
続いて、フランジ部材3,3’の内側表面端部にそれぞれバネ部材6,6’をフックにより係合させる。このとき、バネ部材6,6’は、その自然長より延びている状態であるため、自然長に縮もうとする弾性力をフランジ部材3,3’にかける。この弾性力により、フランジ部材3,3’をその内側へ引っ張るような付勢が働く。このため、図9に示すように、フランジ部材3,3’の内側に形成した弾性体5,5’がプラスチック基板20の巻物両端面に当接したままで安定する。このとき、図10のように、プラスチック基板20の巻物両端部は、弾性体5,5’にめり込んでいる。このため、プラスチック基板20の巻物両端側面及び両端部外表面が弾性体5,5’で覆われる。このようにして、巻物状にしたプラスチック基板20をシート材巻き付け具1により保管する。
【0040】
ここで、本実施形態では、シート材巻き付け具回転装置10について、その巻き付け具取付軸12が横型のものを用いたが、巻き付け具取付軸12が縦型のシート材巻き付け具回転装置10を用いてプラスチック基板20を巻き付けてもよい。
【0041】
(プラスチック基板の搬送方法)
次に、シート材巻き付け具1を用いたシート状のプラスチック基板20の搬送方法について説明する。また、この実施形態では、シート材巻き付け具1を用いて、保管しているプラスチック基板20を、そのままロールツウロール式で基板加工処理領域へ搬送する方法について説明する。
【0042】
まず、図11に示すように、シート材巻き付け具回転装置10及びその巻き付け具取付軸12を芯部材2の巻き付け具取付軸挿通孔13に挿入することにより取り付けたシート材巻き付け具1を液処理等を施す基板処理装置21の両サイドにそれぞれ載置する。ここで、図の右から左へ向かう方向が基板の搬送方向である。また、図11の右側に載置しているシート材巻き付け具1は、巻物状にプラスチック基板20を備えており、左側に載置しているシート材巻き付け具1は、プラスチック基板20を備えていない。
【0043】
続いて、シート材巻き付け具1からバネ部材6,6’を取り外す。
【0044】
次に、右側のシート材巻き付け具1の両側部にあるフランジ部材3,3’を所定間隔だけ拡げる。そして、真空ポンプを作動させて巻き付け具取付軸12の内空部を真空引きし、巻き付け具取付軸12の複数の孔からの負圧を与えることによって芯部材2を固定する。また、左側のシート材巻き付け具1も同様に、そのフランジ部材3,3’を拡げ且つ巻き付け具取付軸12の内空部の真空引きにより芯部材2を固定する。
【0045】
続いて、右側のシート材巻き付け具1のプラスチック基板20の一端を取り出し、処理装置21上の処理区域22内を通って左側のシート材巻き付け具1の芯部材2に巻き付ける。このとき、プラスチック基板20を正確に巻き取るために、巻き付けたプラスチック基板20の一端を芯部材2にシール等で固定しておくとよい。
【0046】
続いて、プラスチック基板20の一端を巻き付けた状態で、左側のシート材巻き付け具回転装置10の巻き付け具取付軸12を回転駆動部によりプラスチック基板20を巻き付ける方向に回転させる。このとき、巻き付け具取付軸12の回転速度は、処理装置21の処理操作により適当な速度を選択する。
【0047】
このようにして、処理装置21に対して次々にプラスチック基板20を搬送する。
【0048】
そして、処理装置21によるプラスチック基板20の処理操作が終了すると、一旦、回転駆動部による巻き付け具取付軸12の回転を停止する。次に、処理基板と未処理基板とを分けるため、その境界でプラスチック基板20を幅方向に切断する。切断が完了したら、再度回転駆動部による巻き付け具取付軸12の回転を始める。ここで、右側のシート材巻き付け具回転装置10も作動させ、未処理基板を巻き取る方向に巻き付け具取付軸12を回転する。左側及び右側のシート材巻き付け具1がプラスチック基板20を最後まで巻き取った後、それぞれのシート材巻き付け具回転装置10による巻き付け具取付軸12の回転を停止する。巻き付け具取付軸12の回転が完全に停止したら、真空ポンプによる巻き付け具取付軸12の内空部の真空引きを停止する。
【0049】
次に、フランジ部材3,3’をプラスチック基板20の巻物端面に当接させ、バネ部材6,6’をフランジ部材3,3’間に架ける。このとき、バネ部材6,6’による弾性力により、フランジ部材3,3’の巻物端面当接部に形成された弾性体5,5’が巻物状にしたプラスチック基板20の巻物端面に当接した状態が保持される。このため、巻物状にしたプラスチック基板20の巻物端面及び巻物端部外表面が弾性体5,5’で覆われる。このようにして、搬送を終えたプラスチック基板20をシート材巻き付け具1により再度保管する。
【0050】
ここで、本実施形態では、シート材巻き付け具回転装置10の巻き付け具取付軸12が横型のものを用いたが、巻き付け具取付軸12が縦型のシート材巻き付け具回転装置を用いてもよい。
【0051】
また、本実施形態では、芯部材2が一体の円筒形部材を用いたが、図12(a)及び(b)のように、二体の大小の円筒形部材41,41’で構成される芯部材40を用いてもよい。この場合、一方の部材41’が他方の部材41へ嵌め込まれる構造となっている。
【0052】
さらに、芯部材として、図13(a)及び(b)のように、三体の円筒形部材51,51’及び52で構成される芯部材50を用いてもよい。この場合、中心に円筒形部材52があり、その両端からそれぞれ円筒形部材52の外直径とほぼ同じ大きさの内直径を備える円筒形部材51,51’が嵌め込まれた構造となっている。
【0053】
また、芯部材として、図14に示すように、二体の円筒形部材61,61’を備え、一方の円筒形部材61は、内表面にネジ孔が形成され、且つ、他方の円筒形部材61’の外表面にはネジが形成された芯部材60を用いてもよい。この場合、円筒形部材61のネジ孔に円筒形部材61’のネジが螺合するような構造となっている。
【実施例】
【0054】
(試験評価)
プラスチック基板を室内で所定時間放置した後の水分の吸収による基板の幅方向の寸法変化率を調べるための評価試験を行った。
【0055】
(試験評価サンプル)
プラスチック基板の試験評価サンプルを以下に示す通り作製した。
【0056】
−発明例−
まず、プラスチック基板を保管するにあたり、本実施形態に係るシート材巻き付け具1と同一タイプのものを用いた。このシート材巻き付け具のフランジ部材は、直径が300mm程度のステンレス製のものである。また、このステンレス製のフランジ部材は、粒子間の隙間を減らすために、その表面が鏡面処理されている。さらに、付勢部材として、長さが500mmのばねが上下に2箇所形成されている。また、芯部材は長さが600mm、外直径100mmのステンレス製のものである。このシート材巻き付け具に、シート材巻き付け具回転装置を用いて、厚さ0.2mmのプラスチック基板を巻き付けた。プラスチック基板としては、一般的なものである表面に傷等を防止するためのハードコートが形成されているPES(ポリエーテルスルホン)基板を用いた。このプラスチック基板に対して、ロールツウロール方式で搬送させながら、基板両面にベースコートとしてスパッタ法によりSiNx膜を2000Åだけ成膜した。ここで、巻き付けたプラスチック基板は直径が300mm程度の巻物状になっている。さらに、プラスチック基板の両側のフランジ部材を基板端面に押圧させ、それにバネ部材による付勢をかけた状態でプラスチック基板を室内で15日間自然放置(温度25℃、湿度60%)した。このように保管したプラスチック基板を発明例とした。
【0057】
−比較例1−
両面にベースコートを形成していないプラスチック基板を用いた。また、このとき、プラスチック基板は芯部材に巻き付けられており、直径が300mm程度の巻物状になっている。さらに、このプラスチック基板の両側は発明例のような水分侵入規制部材が備えられておらず、外側に露出した状態となっている。このような状態で、このプラスチック基板を室温で15日間自然放置(温度25℃、湿度60%)する。このように保管したプラスチック基板を比較例1とした。
【0058】
−比較例2−
芯部材に、厚さ0.2mmのプラスチック基板を巻き取る。プラスチック基板としては、発明例と同様に、表面に傷等を防止するためのハードコートが形成されているPES(ポリエーテルスルホン)基板を用いた。このプラスチック基板に対して、ロールツウロール方式で搬送させながら、基板両面にベースコートとしてスパッタ法によりSiNx膜を2000Åだけ成膜した。このとき、芯部材に巻き付けられたプラスチック基板は、直径が300mm程度の円柱状になっている。さらに、このプラスチック基板の両側は、発明例のような水分侵入規制部材が備えられておらず、外側に露出した状態となっている。このような状態で、このプラスチック基板を室温で15日間自然放置(温度25℃、湿度60%)した。このように保管したプラスチック基板を比較例2とした。
【0059】
−比較例3−
両面にベースコートを形成していないプラスチック基板を用いた。また、このとき、プラスチック基板は芯部材に巻き付けられており、直径が300mm程度の巻物状になっている。さらに、このプラスチック基板の両側は発明例のような水分侵入規制部材が備えられておらず、外側に露出した状態となっている。このような状態で、このプラスチック基板を真空槽内に放置し真空雰囲気下で15日間保管した。このように保管したプラスチック基板を比較例3とした。
【0060】
〈試験評価方法〉
−プラスチック基板寸法変化率測定試験−
保管前と保管後のプラスチック基板の幅方向の寸法を測定した。さらに、これらの寸法から、以下の式により、プラスチック基板寸法変化率を求めた。
【0061】
プラスチック基板寸法変化率(ppm〔parts per million〕)=(保管後の幅方向の寸法ー保管前の幅方向の寸法)÷保管前の幅方向の寸法×1,000,000
〈試験評価結果〉
試験評価結果に基づいて作製したグラフを図15(比較例1及び2)及び図16(発明例及び比較例3)に示す。
【0062】
図15によれば、比較例1は、基板保管1日目ですでに基板寸法変化率が200ppmを越えている。これは、プラスチック基板の表面にベースコートを形成せずに且つ室内で自然放置したものであるため、水分吸収を抑制するものが存在せず、あらゆる方向から水分を吸収してしまった結果であると考えられる。
【0063】
また、比較例2は、保管1日目は基板寸法変化率は10ppm以下であり、水分をほとんど吸収していない。しかし、保管期間が長くなるに従って水分吸収が多くなり、保管15日目で基板寸法変化率が50ppmとなっている。このように基板寸法が50ppmも変化すると、高精度を要する半導体装置等に使用することが困難となる。このような結果は、基板表面にはベースコートが形成されているが、基板の端面には水分吸収を抑制するものが備わっていなかったことが原因で、端面から水分を吸収してしまったことにより生じたものと考えられる。
【0064】
図16によれば、発明例及び比較例3は、基板保管1日目から15日目に亘りほぼ同程度の基板寸法変化率を示している。また、それらの値はすべて10ppm以下であり、ほとんど水分を吸収していない。従って、発明例は、真空槽による基板の保管と同程度の水分吸収抑制効果を発揮することがわかる。
【0065】
以上の検討より、プラスチック基板は、その端面から水分を吸収し、長期間に亘る保管ではその影響で基板の寸法が大きく変化してくること、さらに、本発明に係るプラスチック基板保管装置を用いてその端面を水分侵入規制部材で覆って保管すると、高価な真空槽と同様に長期に亘り水分吸収を抑制することが可能となることがわかる。
【0066】
(作用効果)
次に、作用効果について説明する。
【0067】
以上の構成のシート材巻き付け具1によれば、シート材を巻き付ける芯部材2と、芯部材2のシート材巻き付け部分の両側のそれぞれに軸方向に可動に設けられ、内側のシート材巻物端面当接部分が水分非透過性材料で形成された一対のフランジ部材3,3’と、一対のフランジ部材3,3’のそれぞれをシート材巻物端面に押圧するように内向きに付勢するバネ部材6,6’とを備えているため、シート状プラスチック基板20等を巻物にして保管する間、巻物端面を常に水分非透過性材料で形成されたフランジ部材3,3’で押圧することにより、ベースコートによる成膜が形成されていない巻物端面からの水分の吸収を抑制することが可能となる。また、極めて簡単な構成により、フランジ部材3,3’をシート材巻物端面に押圧するように内向きに付勢することができる。
【0068】
さらに、シート材巻き付け具1は、芯部材2の内側に軸方向に延びるように巻き付け具取付軸挿通孔13が形成されていてもよい。
【0069】
上記の構成によれば、芯部材2の巻き付け具取付軸挿通孔13に巻き付け具取付軸12を挿通させて、巻き付け具取付軸12を回転させることにより、容易にシート状プラスチック基板20等をシート材巻き付け具1に巻き付けることができる。また、芯部材2の巻き付け具取付軸挿通孔13に巻き付け具取付軸12を挿通させたシート材巻き付け具1を一対用意することにより、巻き付け具取付軸12の回転で一方のシート材巻き付け具1から取り出したシート状プラスチック基板20等を途中で例えばアニール等の処理をした後、他方のシート材巻き付け具1に巻き付けることができる。従って、シート材巻き付け具1がシート状プラスチック基板20等を処理する際の搬送用治具としても用いることができる。
【0070】
また、シート材巻き付け具1は、一対のフランジ部材3,3’のそれぞれのシート材巻物端面当接部分が弾性体5,5’で形成されているため、フランジ部材3,3’がシート材巻物の端面に押圧する際に、シート材巻物の端部が破損するのを抑制することができる。また、シート材巻物端面が弾性を有するシート材巻物端面当接部分にめり込むことにより、ベースコートによる成膜がされていないシート表面の端部が覆われるため、シート材巻物の端部からの水分の吸収を抑制することができる。
【0071】
シート材の保管方法は、シート材巻物の両端面のそれぞれにフランジ部材3,3’を当接させ、それらの両フランジ部材3,3’間に、両フランジ部材3,3’のそれぞれをシート材巻物端面に押圧させるように内向きに付勢するバネ部材6,6’を架けることを特徴とする。
【0072】
上記の構成によれば、シート状プラスチック基板20等を巻物にして保管する間、巻物端面を常に水分非透過性材料で形成されたフランジ部材3,3’で押圧することにより、ベースコートによる成膜が形成されていない巻物端面からの水分の吸収を抑制することが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0073】
以上説明したように、本発明は、半導体装置に用いられるシート状プラスチック基板等のシート材を巻き付けて保管等するためのシート材巻き付け具及びシート材の保管方法について有用である。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】本発明の実施形態に係るシート材巻き付け具1の概略図である。
【図2】本発明の実施形態に係るフランジ部材3,3’がプラスチック基板20を押圧する状態を示す概略図である。
【図3】本発明の実施形態に係るフランジ部材3,3’がプラスチック基板20の押圧を解いた状態を示す概略図である。
【図4】本発明の実施形態に係るバネ部材6,6’を示す概略図である。
【図5】シート材巻き付け具回転装置10に取り付けた状態を示すシート材巻き付け具1の斜視図である。
【図6】バネ部材6,6’を外し且つフランジ部材3,3’を拡げた状態を示すシート材巻き付け具1の斜視図である。
【図7】芯部材2にプラスチック基板20を巻き付ける様子を示すシート材巻き付け具1の斜視図である。
【図8】(a)は、プラスチック基板20の巻き付けを完了した状態を示すシート材巻き付け具1の斜視図であり、(b)は、プラスチック基板20の巻き付けを完了した状態を示すシート材巻き付け具1の正面図である。
【図9】巻き付けたプラスチック基板20の巻物端面にフランジ部材3,3’を当接させて、バネ部材6,6’を架けた状態を示すシート材巻き付け具1の斜視図である。
【図10】プラスチック基板20の巻物端部を覆う様子を示す弾性部材5,5’の正面図である。
【図11】プラスチック基板20を搬送する様子を示すシート材巻き付け具1の斜視図である。
【図12】(a)は、二体構造となっている芯部材40を備えたシート材巻き付け具のフランジ部材を互いに拡げた状態を示すシート材巻き付け具の斜視図である。(b)は、二体構造となっている芯部材40を備えたシート材巻き付け具のフランジ部材を互いに接近させた状態を示すシート材巻き付け具の斜視図である。
【図13】(a)は、三体構造となっている芯部材50を備えたシート材巻き付け具のフランジ部材を互いに拡げた状態を示すシート材巻き付け具の斜視図である。(b)は、三体構造となっている芯部材50を備えたシート材巻き付け具のフランジ部材を互いに接近させた状態を示すシート材巻き付け具の斜視図である。
【図14】螺合構造となっている芯部材60を備えたシート材巻き付け具のフランジ部材を互いに拡げた状態を示すシート材巻き付け具の斜視図である。
【図15】比較例1及び2についてのプラスチック基板寸法変化率測定試験の試験結果を示すグラフである。
【図16】発明例及び比較例3についてのプラスチック基板寸法変化率測定試験の試験結果を示すグラフである。
【符号の説明】
【0075】
1 シート材巻き付け具
2 芯部材
3,3’ フランジ部材
4,4’ 円孔
5,5’ 弾性体
6,6’ バネ部材
10 シート材巻き付け具回転装置
11 円盤状部材
12 巻き付け具取付軸
13 巻き付け具取付軸挿通孔
20 プラスチック基板
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シート材を巻き付ける芯部材と、
上記芯部材のシート材巻き付け部分の両側のそれぞれに軸方向に可動に設けられ、内側のシート材巻物端面当接部分が水分非透過性材料で形成された一対のフランジ部材と、
上記一対のフランジ部材のそれぞれをシート材巻物端面に押圧するように内向きに付勢する付勢部材と、
を備えたシート材巻き付け具。
【請求項2】
請求項1に記載されたシート材巻き付け具において、
上記付勢部材が上記一対のフランジ部材間に架けられたバネ部材であるシート材巻き付け具。
【請求項3】
請求項1に記載されたシート材巻き付け具において、
上記芯部材の内側に軸方向に延びるように巻き付け具取付軸挿通孔が形成されているシート材巻き付け具。
【請求項4】
請求項1に記載されたシート材巻き付け具において、
上記一対のフランジ部材のそれぞれのシート材巻物端面当接部分が弾性を有する材料で形成されているシート材巻き付け具。
【請求項5】
シート材巻物の両端面のそれぞれに水分侵入規制部材を当接させ、それらの両水分侵入規制部材間に、該両水分侵入規制部材のそれぞれをシート材巻物端面に押圧させるように内向きに付勢する付勢部材を架ける、シート材の保管方法。
【請求項1】
シート材を巻き付ける芯部材と、
上記芯部材のシート材巻き付け部分の両側のそれぞれに軸方向に可動に設けられ、内側のシート材巻物端面当接部分が水分非透過性材料で形成された一対のフランジ部材と、
上記一対のフランジ部材のそれぞれをシート材巻物端面に押圧するように内向きに付勢する付勢部材と、
を備えたシート材巻き付け具。
【請求項2】
請求項1に記載されたシート材巻き付け具において、
上記付勢部材が上記一対のフランジ部材間に架けられたバネ部材であるシート材巻き付け具。
【請求項3】
請求項1に記載されたシート材巻き付け具において、
上記芯部材の内側に軸方向に延びるように巻き付け具取付軸挿通孔が形成されているシート材巻き付け具。
【請求項4】
請求項1に記載されたシート材巻き付け具において、
上記一対のフランジ部材のそれぞれのシート材巻物端面当接部分が弾性を有する材料で形成されているシート材巻き付け具。
【請求項5】
シート材巻物の両端面のそれぞれに水分侵入規制部材を当接させ、それらの両水分侵入規制部材間に、該両水分侵入規制部材のそれぞれをシート材巻物端面に押圧させるように内向きに付勢する付勢部材を架ける、シート材の保管方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【公開番号】特開2006−327784(P2006−327784A)
【公開日】平成18年12月7日(2006.12.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−155675(P2005−155675)
【出願日】平成17年5月27日(2005.5.27)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年12月7日(2006.12.7)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年5月27日(2005.5.27)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】
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