説明

シート材情報検知装置、ならびにシート材処理装置

【課題】 シート材の屈曲と圧縮の動的挙動に関わる機械特性の情報を検知して、解析によりそれぞれを出力することができるシート材情報検知装置を提供する。
【解決手段】 シート材の情報を検知して出力するシート材情報検知装置であって、シート材の一部に接触し圧力を付与する先端部材と、シート材の一部を支持することにより該先端部材による圧力で屈曲変位を生じさせるとともに該屈曲領域を制限する制限部材と、屈曲したシート材をさらに挟み圧縮するために先端部材と対向してシート材の圧縮領域を形成する対向部材と、先端部材によるシート材への圧力の付与を駆動する駆動機構と、シート材に付与される圧力を制御する押し圧機構と、対向部材もしくは先端部材に伝わる応力を検知する検知部を有し、該屈曲領域と圧縮領域との比が異なる少なくとも複数回の変位の際に検知部より得られる信号より、シート材の情報を検知する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、画像形成用メディアなどのシート材の属性情報を検知するシート材情報検知装置に関する。さらに本発明は、前記シート材の属性情報に基づきシート材の処理を制御するシート材処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、画像形成装置(LBP、複写機、インクジェットプリンタ、など)に代表されるシート材処理においては、高品質化(高画質化・処理の高速化など)の要求が高まっている。反面、使用される紙などのシート材の種類は装置を使用するユーザーや使用環境に応じて多様化している。シート材処理装置はこれらシート材に対応しなければならない。
【0003】
従来、シート材の物性や種類などの属性を決定し、当該属性に基づいて、プリンタにおける動作設定を調整する事が知られている。また、当該シート材の物性を計測する検知装置として、シート材に衝撃を加え圧縮特性より物性を計測するものが知られている(例えば特許文献1参照)。また、2つのロール間を走行するシート材に負荷を与えてこの負荷に対応する信号からシート材の弾性率等を計測するシステムが知られている(例えば特許文献2参照)。さらに、通過するシート材に接触させた部材の変位を計測してシート材の特性を検知するものが知られている(例えば特許文献2参照)。
【特許文献1】特開2002−310866号公報
【特許文献2】特開昭62−011162号公報
【特許文献3】特開平10−152245号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
複写機に代表されるシート材処理装置においては、シート材の搬送と色材定着など複数の工程が存在する。シート材の搬送では、ローラー等でシート材に搬送方向への力を与えるが、さらに搬送方向をコントロールするためにシート材を所定方向へ屈曲させる力を同時に与えている。また、色材定着では、色材(トナー)の転写されたシート材を加熱しながら両面より圧縮する。すなわち、シート材処理の制御のためには、少なくともシート材の屈曲の際の機械特性と、シート材の圧縮の際の機械特性が共に必要である。さらに近年、処理高速化の要請から、このシート材に対する機械的操作も高速化している。このような機械的操作の動作設定を調整して最適化するためには、シート材の屈曲と圧縮の複合的な機械特性を、短時間で検知する必要がある。しかしながら、上記従来例では、このようなシート材の屈曲と圧縮の動的挙動に関わる機械特性の情報を、短時間に得ることはできなかった。
【0005】
そこで本発明は、シート材の屈曲と圧縮の動的挙動に関わる機械特性の情報を検知して、解析によりそれぞれを出力することができるシート材情報検知装置を提供することを目的とするものである。さらに本発明は、該シート材情報検知装置の情報に基づき、適切なシート材処理を行うことのできるシート材処理装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上述した事情に鑑みなされたものであり、シート材の情報を検知して出力するシート材情報検知装置であって、シート材の一部に接触し圧力を付与する先端部材と、シート材の一部を支持することにより該先端部材による圧力で屈曲変位を生じさせるとともに該屈曲領域を制限する制限部材と、屈曲したシート材をさらに挟み圧縮するために先端部材と対向してシート材の圧縮領域を形成する対向部材と、先端部材によるシート材への圧力の付与を駆動する駆動機構と、シート材に付与される圧力を制御する押し圧機構と、対向部材もしくは先端部材に伝わる応力を検知する検知部を有し、該屈曲領域と圧縮領域との比が異なる少なくとも複数回の変位の際に検知部より得られる信号より、シート材の情報を検知することを特徴とする、シート材情報検知装置である。
【0007】
さらに本発明は、前記シート材情報検知装置を有し、該シート材情報検知装置からのシート材情報に基づいてシート材処理条件を決定する、シート材処理装置である。
【発明の効果】
【0008】
以上本発明によれば、シート材の屈曲と圧縮の動的挙動に関わる機械特性の情報を検知して、解析によりそれぞれを出力することができるシート材情報検知装置を提供することができる。さらに本発明によれば、該シート材情報検知装置の情報に基づき、適切なシート材処理を行うことのできるシート材処理装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
第一に、本発明のシート材情報検知装置について説明する。
【0010】
本発明のシート材情報検知装置は、先端部材によりシート材に屈曲と圧縮の変位を与え、この変位の際に検知部に伝わる応力よりシート材の機械特性に関する情報を得るものである。さらに本発明は、屈曲と圧縮の変位について、シート材でそれぞれの変位が起こる領域を規定する。そして、屈曲領域と圧縮領域との比が異なる少なくとも複数回の変位の際に検知部より得られる信号より、シート材の情報を検知する。
【0011】
図1に本発明のシート材情報検知装置の説明図を示す。さらに図2および図3に、本発明のシート材情報検知装置の主要部の、シート材検知動作時の挙動を工程順に示す。図2は、図1に記した径の大きな第一の先端部材1がシート材に屈曲と圧縮の変位を与えている様子である。図3は、図1に記した径の小さな第一の先端部材1がシート材に屈曲と圧縮の変位を与えている様子である。
【0012】
図2および図3において、工程1はシート材に先端部材による圧力の作用による屈曲の変位を与えている様子であり、領域Sはシート材が支持される支持領域、領域B−1と領域B−2はシート材が屈曲する屈曲領域である。さらに両図において、工程2は屈曲させたシート材にさらに先端部材による圧力の作用による圧縮の変位を与えている様子であり、領域Pはシート材が圧縮される圧縮領域である。また、実際にシート材に対して作用される力は、先端部材1による圧力と、押し圧機構(ばね)13により図下方から付与される押し圧とのバランスによって決定されるものである。
【0013】
図2および図3において、工程2では検知部に伝わる応力に対応した出力を得る。先端部材より検知部に伝わる応力は、シート材の屈曲および圧縮の変位過程において減衰を受けるため、シート材の屈曲および圧縮の機械特性を反映したものとなる。例えば、シート材の屈曲のばね定数が大きい場合は減衰が大きいため出力は小さくなる。これは、同一のシート材の場合、シート材の均一性にもよるが、例えば屈曲する長さが小さい程ばね定数は大きくなるので減衰は大きくなり、対応して出力は小さくなる。
【0014】
本発明では、同一シート材に対して、この屈曲領域と圧縮領域との比が異なる少なくとも複数回の変位を行う。屈曲領域と圧縮領域との比とは、それぞれの大きさの比のことである。このことにより、最終的に検知部に伝わる応力の減衰量に対して、屈曲の寄与する比率を変えた複数の出力を得ることができる。この複数の出力より、例えば重回帰法分析などを利用した信号処理によって、シート材の複数の特性を推算することができるものである。特に好ましくは、シート材の屈曲に関する機械特性と、圧縮に関する機械特性を推算して、シート材情報として出力するものである。また、このような動的挙動の情報を処理して、シート材の撓みや圧縮のばね定数などの機械的定数や、ヤング率などの物性値を求めることもできる。さらに、これらと相関の高いシート材の種類や状態などの諸情報を導出して出力することも好ましい。
【0015】
屈曲領域と圧縮領域との比が異なる複数回の変位をシート材に与える手段としては、いずれの領域を変えて比をコントロールしても良い。特に比較的単純で安定な構成としては、以下のような手段があげられる。
(1)屈曲領域のみを変えて変位を与える
図4、および図5に示すように、先端部材により、シート材の支持領域から先端部材による圧力の作用点までの距離の異なる圧力の付与を行う手段により、屈曲領域の幅を変えた変位を与えることができる。そして屈曲領域の幅を変えた変位は複数回与えることもできる。この手段によれば、屈曲領域の大きさのみを異ならせて、出力に対する屈曲領域の寄与する量のみを変えることができるので、後段の信号処理が比較的簡便である。
(2)屈曲領域と圧縮領域との比率を変えて変位を与える
図2、および図3に示すように、複数設けた支持領域による多点支持として、寸法の異なる先端部材よりシート材の多点支持の内側部分に変位を与える手段を用いることができる。そしてこのような手段により、屈曲領域の幅を変えた複数回の変位を与えることができる。この手段によれば、屈曲と圧縮の変位が発生する領域を、多点支持の内側の領域とすることができる。このためシート材の自由端が実質的になくなり、不要なばたつきを抑制して変位を安定化させることができるため、より高精度の検知が可能である。
【0016】
本発明のシート材情報検知装置の各構成要素について、図1の例を元に概要を説明する。尚、図1ではシート材は不図示としたが、搬送経路18内を搬送され、本発明のシート材情報検知装置の位置を通過するものである。
【0017】
先端部材は、シート材の一部に接触し圧力を付与する。先端部材としては圧力付与に際しての変形やガタがないものを用いる。先端部材の材質や形状は、シート材との衝突や付随する接触による磨耗や、塑性変形や弾性変形変形が最小限であり、じん性が高くクラックの発生がないものが好ましい。具体的には、材質としてはステンレスなどの金属材料を用いる。形状としては球状もしくは円柱形などの棒状で、シート材に接触する先端部は平面もしくはゆるい曲率をもつ曲面とするものが好ましい。また、シート材への圧力付与に際して、シート材に先端部のエッジ部が擦れる可能性がある場合などは、該エッジ部に曲面などの面取りを施す。このようにすることで、圧力の付与に際して先端部材もしくはシート材の振動により、衝突角度が変動した場合でも安定した衝撃印加が可能であり、磨耗も局所的なものは少なくなり平準化される。
【0018】
制限部材は、シート材の一部を支持することにより該先端部材による圧力で屈曲変位を生じさせるとともに該屈曲領域を制限する。制限部材は、シート材の一部と接触して支持し、この支持部を実質的な固定端とする機能を有するものである。さらに制限部材は、シート材を該先端部材による圧力で屈曲変位可能に支持する。具体的に例をあげると、凸部と凹部よりなる溝構造を持つ高い剛性を有する部材である。そして機能としては、前記凸部とシート材を接触させて摩擦力により支持し、先端部材との衝突によりシート材を凹部内部へと撓み変形させる。また、必要であれば、前記支持部においてシート材を挟持し、より強固に支持するために、支持部に対してシート材を押さえるサポート部材を別途設けても良い。支持方法としては、シート材を片端で支持してシート材の自由端側に先端部材から圧力を付与する片持ち方式が挙げられる。さらに、シート材を両端で支持し二つの支持部の間に先端部材から圧力を付与する両持ち式は好ましい態様である。さらに、より好ましくは、複数の支持部もしくは周状に支持してその内側に先端部材から圧力を付与する。本発明では、特にシート材として紙を用いる場合などに顕著であるが、シート材の漉き目(所謂“縦目”“横目”)などに起因する特性の異方性の影響を受ける。これを回避するためには、特に屈曲変位が先端部材に対して等方的に生じるように、支持部材や先端部材の配置を決定する。また、制限部材として機能させることができる構成としては、他には、例えばローラーなどでシート材の一部を挟み持つ手段等も用いることができる。
【0019】
対向部材は、屈曲したシート材をさらに挟み圧縮するために先端部材と対向してシート材の圧縮領域を形成するものである。圧縮とは、本発明ではシート材の厚み方向に加えた力による、同じ厚み方向の変形を指す。対向部材は、具体的には、先端部材と対向する方向に平面もしくは緩やかな曲面を持ち高い剛性を有する部材である。また、前項で説明した制限部材の一部を対向部材としても良く、例えば前記溝構造の凹部を対向部材として用いても良い。
【0020】
駆動機構は、先端部材によるシート材への圧力の付与のための駆動を行う。具体的には、図2乃至図5に示したように、先端部材と制限部材とで支持されたシート材との相対的な距離を近づける。そして、さらにシート材を屈曲させ、シート材を圧縮するための運動を与える機構である。また言うまでもなく、任意の位置から駆動を開始し、さらに駆動終了後は任意の位置に停止させる機能も有する。駆動機構は、先端部材と制限部材のいずれか、もしくは両方を動かす。好ましい例として、制限部材は静止状態に保持し、複数の寸法の異なる先端部材が順々にシート材に圧力を付与する機構が挙げられる。また、駆動機構には、シート材の支持領域から先端部材による圧力の作用点までの距離を変える手段を併設することも好ましい。
【0021】
押し圧機構は、シート材に付与される圧力を制御する。具体的には、ばねや磁力、重力などを用いて、シート材と接触する先端部材もしくは制限部材に対して所定の圧力を加える機構である。圧力の値は、先端部材がシート材に圧痕等を残さない範囲で、シート材の剛性を鑑みて適宜決定される。また、シート材に対してなるべく安定に圧力を付与するために、シート材への圧力が作用する近傍においては、先端部材とシート材との距離変動などによって圧力が大きく変わらないことが好ましい。これは、シート材の厚みばらつきや、シート材情報検知装置の固定精度などに起因して先端部材の圧力の付与までの運動距離が変動した場合でも、安定した圧力の付与を可能とするためである。好ましい範囲としては、検知対象となるシート材の厚み範囲に対して、変動が5%以内、より好ましくは1%以内がよい。
【0022】
検知部は、対向部材もしくは先端部材に伝わる応力を検知する。伝わる応力とは、先端部材より付与された圧力が、シート材を介して伝播された力である。検知部は、力もしくはその力によって生じる現象を検知する。例えば、圧電素子や静電式などの圧力センサや加速度センサ、光学式などで部材の運動を検知する速度センサ等が好ましい。
【0023】
以上述べた機構による圧力の付与は、シート材の複数の個所に同時、あるいは時間差を設けて行うこともよい。シート材の複数の個所から情報を検知することで、同一個所に複数回の圧力が加わることを回避し、初回の圧力によるシート材の変形の影響を回避できる。
【0024】
本発明において、シート材とは、紙(普通紙、光沢紙、コート紙、再生紙、など)、樹脂等のフィルム、OHTシートなどであり、シート状になった画像記録メディアを主に対象とする。所定寸法にカットされたもの(カット紙)、ロール状に巻かれたもの(ロール紙)など、形態は問わない。また、一枚の物であっても、二枚以上が重なって貼り合わされたものでもよい。尚、以下本明細書中では、特に断りのない限り所定寸法にカットされたシート材を例として説明する。
【0025】
本発明において、シート材情報とは、シート材処理において必要となるシート材に関する情報の全てが含まれる。特に重要なものは、主に物理的な性質や形状およびそれに関連する諸情報である。このような情報の例を列挙すると、シート材の厚み、密度、弾性率、粘性、振動特性、凹凸、表面粗さ、状態、変形状態、強度、弾性変形/塑性変形のしやすさ、伸び量、色味、変色、反射率などが挙げられる。さらに、変形(伸び、屈曲、つぶれ、破断、折れ曲がりなど)、透過率、カールの状態、気体や液体の透過性、熱拡散率や熱容量などの熱物性、などである。また、紙の場合、繊維、填量、コート層などのむらに関する情報も含まれる。また、含水率は、シート材の物理的な性質や形状に大きな影響を与えるので、とりわけ重要な属性である。シート材情報として、他に重要なものは、前記物性に影響を与える埋設物の情報である。埋設物の例を列挙すると、IDタグ等の素子類、押し花や木の葉などの自然物などである。他には、既に形成された画像、異物の付着、汚れ、メディアのサイズや形状、端部などの折れ曲がり、切断や穴あけなどの加工状態、ラミネートやコーティング、ステイプルなどの付着である。また、面内方向に何枚かのメディアが貼りあわされていたり、2枚以上が全部又は一部重なっているかどうかなども重要な情報である。
【0026】
第二に、本発明のシート材処理装置について説明する。
【0027】
本発明におけるシート材処理装置とは、一例として、シート材に対して、文字や映像等を記録する装置である。さらに、現在の代表的な画像形成装置である、複写機、レーザービームプリンタ、インクジェットプリンタにおいては、工程の一環としてカール補正や、スタック、製本のためのソート、パンチ穴あけ、ステイプル、等が行われる装置も一般的である。以上述べたように、セットされるメディアが画像形成装置より排出されるまでの全プロセスを対象とする。また、本発明におけるシート材処理の他の例としては、シート材に記録された内容を読み取ることである。シート材に記録された内容とは、画像や文字、刻印、磁気記録されたデータ類、埋設された素子類に記録されたデータなど、種類や形態を問わない。
【0028】
また、本発明のシート材処理装置の例としては、シート材を搬送してシート材に記録された情報を読み取る装置(所謂ドキュメントスキャナーなど)、紙幣や切符等の繰り出し装置、シート材の折り畳みや穴あけなどの加工を行う装置装置などがある。
【0029】
本発明のシート材処理装置では、前記シート材情報検知装置で得られたシート材情報に基づき、シート材の処理条件を変更、調整もしくは制御するものである。特に、本発明で得られるシート材の屈曲や圧縮の機械特性に関する情報は、シート材に対する同様の荷重印加を伴う機械的操作が行われるシート材の搬送や色材定着時の加圧などの工程の処理条件制御に有効に用いられる。
【0030】
また、以上のようなシート材の特性の情報は、紙の様々の属性と深い関連性をもつため、他にも好適に制御できる処理条件は多数ある。処理条件の一例としては、電子写真におけるトナー、インクジェットプリンタにおけるインクを主とする、色材のメディアへの転写に関わる画像形成条件である。すなわち、シート材情報に対応して画像形成条件を変える、または画像形成の制御条件を変えるなどして、画像形成条件調整を行うものである。例を挙げると、シート材の撓みやすさから厚みを推算して導出し、厚みが小さいシート材には薄い紙に適したモードで画像を形成し、厚みが大きいシート材には厚い紙に適したモードで、それぞれ画像形成を行う。画像形成条件として制御する好ましいものとしては、第一に、色材の転写量の調整である。たとえば、メディアに対するトナーの供給量、インクの付着量などである。第二に、色材の定着条件の調整である。たとえば、定着温度、定着圧力などである。ただし、シート材処理条件に関しては、以上述べてきた条件に限るものではない。
【0031】
以上のようなシート材処理条件の決定は、入力されるデータを処理してシート材処理装置の動作を決定するプロセッサにて行われる。当該プロセッサは、本発明の装置内に設けても良いし、外部コンピュータ等に機能を預託しても構わない。
【0032】
本発明のシート材処理装置では、以上のようにして決定されたシート材処理条件にて、シート材処理を行うものである。
【0033】
尚、本発明のシート材情報検知装置において、出力される値が一定の閾値範囲を超えるなどして異常と判断される場合は、これを示す異状信号を出力することも好ましい。この場合は、シート材処理装置のほかのセンサ類の出力やユーザーの入力値などを参照し、後の処理を決定する。例えば、異状が軽微と判断される場合は、適当なシート材処理の標準条件をあらかじめ決定しておき、この条件でシート材処理を行うのが好ましい。また、異状が重篤と判断される場合、シート材の処理を休止もしくは停止することもできる。いずれの場合でも、警報の発令、修理に関する情報を表示するなど、使用者に適切な情報を提供することが好ましい。
【実施例1】
【0034】
実施例1として、本発明のシート材情報検知装置の例を示す。
【0035】
図1に、本実施例のシート材情報検知装置の構成図を示す。また、図2及び図3に、屈曲領域と圧縮領域との比が異なる複数回の変位をシート材に与える手段の詳細を示す。
【0036】
図1の各構成要素について概要を説明する。
【0037】
シート材の一部に接触し圧力を付与する先端部材は複数設けた。図1には第一の先端部材1、第二の先端部材2、第三の先端部材3として記した。本実施例では、複数の先端部材は、シート材への圧力付与の際の中心軸を同一として、寸法を異なるものとしている。これら先端部材は、円盤状のプレート4の外周上にそれぞれ外向きに固定され、モーター5の回転によって順にシート材と接触して圧力を付与する構成である。本実施例では、このプレート4とモーター5が駆動機構となる。駆動機構には、モーター回転の角度調整に用いる位置だし機構が設けられ、モーター5の軸に固定された位置だしホイール6と、位置検知用の貫通口7、フォトインタラプタ8より構成される。また、モーター5には、配線19とコネクタ20を介して、不図示の制御回路より制御信号と駆動電力が供給される。制限部材9は、平面状の凸部である支持部10と、シート材をその中に屈曲変位させることができる凹部11をもって構成される。凹部11は、シート材の変位領域を規定するものである。制限部材9の凹部11の、先端部材と対向する位置には、対向部材12が接合される。また、この対向部材12には、検知部として後述する圧電素子を埋設している。さらに、制限部材9は、押し圧機構である圧縮コイルばね13により図上方に所定の圧力が加えられている。また、制限部材9には位置決め用のストッパー部14が設けられる。これら制限部材と押し圧機構は、第一のハウジング15に組み込まれる。さらに、第一のハウジング15には、前記押し圧機構による図上方への圧力を、制限部材9のストッパー14より受け止めて、位置決めする押し圧受け部16を設けている。また、先端部材や駆動機構は、第二のハウジング17に組み込まれる。第一のハウジング15と第二のハウジング17の間にシート材の搬送経路18が設けられる。シート材は搬送経路18内を搬送され、シート材情報検知が行われる。
【0038】
以下、本実施例のシート材情報検知装置の構成について詳細を説明する。以下の説明では、図1と、図2および図3を用いる。
【0039】
先端部材はステンレス材にて構成し、所定の外径の略円柱型の形状とした。また、シート材との接触面22にはごく緩やかな球面加工を施した。この接触面22は、通常の紙などの屈曲と圧縮の変形が可能なシート材であれば、圧力を付与する際にわずかにシート材の表面から没入して、全面がシート材に接触する。さらに、この接触面22の外周部には、R状の面取りを施した。尚、先端部材の寸法は、第一の先端部材1は、外径が10mmの円柱型、接触面が直径8mmの円形である。第二の先端部材2は、外径が5mmの円柱型、接触面が直径3mmの円形である。第三の先端部材3は、外径が3mmの円柱型、接触面が直径1mmの円形である。また、これら先端部材は、円盤状のプレート4の外周上に、それぞれ接触面22を外向きに固定される。この接触面22は、駆動機構による回転によってシート材に屈曲と圧縮の変位を与えることができる位置に設定される。本実施例では、モーター5の回転中心からそれぞれの先端部材の接触面の中心までの距離(以下、回転半径)が同一となるようにした。また、この先端部材の接触面の中心は、それぞれが制限部材9の凹部の中心と合致する位置に配した。そのため、本実施例では、モーター5の回転軸中心とプレート4の回転軸中心を一致させ、なおかつ各先端部材の中心軸の延長がこれら回転軸中心と直角に交わる構成とした。また、シート材がない場合でも、同様の動作で対向部材12と接触することができる配置とした。
【0040】
駆動手段を構成するモーター5はステッピングモーターを用い、停止位置より回転する過程で、前記複数の先端部材を順にシート材に接触させ、シート材に圧力を付与して屈曲と圧縮の変位を生じせしめ、再度停止位置に復帰するように制御する。圧力を付与する速度は、このモーターの回転速度で決定されるが、検知対象のシート材と、後述する制御対象であるシート材処理における荷重印加速度などを鑑みて適宜決定される。すなわち、シート材情報検知の際の圧力付与速度を、シート材処理における荷重印加の速度に近いものにしておくことで、シート材の当該速度領域における機械特性をよりよく検知できる。その結果、シート材処理にとって有益な情報となる。また、本実施例では、加速手段には、モーター回転の角度調整に用いる位置だし機構が設けている。モーター5の他方の軸に固定された位置だしホイール6には、位置検知用の貫通口7を設け、ホイール回転が停止位置にきた際に、フォトインタラプタ8が貫通口7を検知するように構成している。また、前記停止位置は、回転において、もっとも先端部材の接触面がシート材より遠くなる位置とした。本実施例では、停止位置より先端部材を取り付けたホイール4を回転させ、第一の先端部材1、第二の先端部材2、第三の先端部材3が順にシート材に圧力を付与する。次いで、再度停止位置で停止するまでのサイクルを持って、一回のシート材情報検知を行う。該一回のサイクルの所要時間は、0.2秒となるように設計した。該サイクルのスタートは不図示のシート材通過検知センサーの信号を受けて、所定時間後に開始されるようにした。また、モーター5には、配線19とコネクタ20を介して、不図示の制御回路より制御信号と駆動電力が供給される。
【0041】
制限部材9は、平面状の凸部である支持部10と、シート材をその中に屈曲変位させることができる凹部11をもって構成される。制限部材9は、全体を剛性の高い樹脂で構成し、シート材と接触する支持部10には一部にステンレス板を貼っている。また、シート材の搬送方向に向き合い、搬送されてくるシート材の先端側と接触する部分にはなだらかな曲面を設けている。凹部11は、その開口部が一辺が15mmの正方形とした。制限部材9の凹部11の、先端部材と対向する位置には、対向部材12が接合される。また、この対向部材12はステンレス板よりなり、検知部として圧電素子21を埋設している。対向部材12の表面は、支持部10の表面に対してやや低くして、シート材を屈曲させるための段差構造を形成している。該段差は、0.5mmとした。凹部11は、シート材の変位領域を規定するものであり、先端部材との相対形状でシート材の変位における屈曲領域と圧縮領域が決定される。すなわち、図2に示したように、径の大きな先端部材(例えば本実施例の第一の先端部材1)による圧力の付与が行われる際には、屈曲領域が小さくなり、圧縮領域が相対的に大きくなる。逆に、図3に示したように、径の小さな先端部材(例えば本実施例の第三の先端部材3)による圧力の付与が行われる際には、屈曲領域が大きくなり、圧縮領域が相対的に小さくなる。本実施例では、このような手段で、シート材に対して該屈曲領域と圧縮領域との比が異なる複数回の変位を与えるものである。また、制限部材9は、押し圧機構である圧縮コイルばね13により図上方に所定の圧力が加えられている。本実施例では、この圧力を200gfとなるように圧縮コイルばね13を設定した。
【0042】
検知部は、前述のように、対向部材に埋設した圧電素子により構成される。先端部材より検知部に伝わる応力は、シート材の屈曲および圧縮の変位過程において減衰を受けるため、シート材の屈曲および圧縮の機械特性を反映したものとなる。以下、シート材の機械特性としてばね定数を例にあげて説明する。但し、紙などのシート材の多くは粘弾性的性質を有するので、必ずしも完全にはフックの法則に従わないケースもあるが、ここでは説明の簡単のためにばね定数として記述する。シート材の屈曲のばね定数が大きい場合は減衰が大きいため出力は小さくなる。これは、同一のシート材の場合、シート材の均一性にもよるが、例えば屈曲する長さが小さい程ばね定数は大きくなるので減衰は大きくなり、対応して出力は小さくなる。また、同じように、シート材の圧縮のばね定数が大きい場合(すなわちシート材が硬い場合)は逆に応力が検知部へ伝播しやすくなるため出力は大きくなる。検知部からの出力はこのようないくつかのシート材の特性を合わせて反映することになる。本実施例では、該屈曲領域と圧縮領域との比が異なる複数回の変位の際に検知部より得られる信号を取得することで、これを解析処理することによりシート材の屈曲の特性と圧縮の特性などを分離することができる。
【0043】
尚、シート材情報検知における圧力付与等の過程は、高速度カメラ(例えば、株式会社フォトロン FASTCAM−512PCI型)にて観察することで容易に検証できる。
【0044】
以上本実施例に拠れば、シート材の屈曲と圧縮の動的挙動に関わる機械特性の情報を検知して、解析によりそれぞれを出力することができるシート材情報検知装置を提供することができる。
【実施例2】
【0045】
実施例2として、本発明のシート材情報検知装置の別の例について説明する。本実施例は、図4および図5に示すように、先端部材により、シート材の支持領域から先端部材による圧力の作用点までの距離の異なる圧力の付与を行う手段を使用する。そして、屈曲領域の幅を変えた複数回の変位を与えるものである。
【0046】
本実施例のシート材情報検知装置の構成は、例えば図1に示した実施例1の装置に対して以下の点を変更することで実現できる。第一に、支持部材を図4及び図5に示した片持ちの形式に変更する。第二に、複数設けた先端部材の形状を同一とし、接触面の中心を制限部材の支持領域からの距離を異ならせるように配した。例えば、モーター5の回転軸中心とプレート4の回転軸中心を一致させ、なおかつ各先端部材の中心軸の延長がこれら回転軸中心に対して所定のオフセットを有する配置とする構成とすることで実現できる。
【0047】
また、他の例としては、所定質量の先端部材に対して圧縮コイルばねやソレノイドなどで直線的な運動を与え、これをシート材に接触させることにより圧力を付与する機構を用いることができる。この場合は、シート材の支持領域から先端部材による圧力の作用点までの距離を変えるため、先端部材を圧力の付与を行う毎に当該方向にシフトさせる移動機構を設ける。もちろん、複数の先端部材を当該方向に並べ、順に圧力の付与を行う構成でも良い。
【0048】
以上本実施例に拠れば、シート材の屈曲と圧縮の動的挙動に関わる機械特性の情報を検知して、解析によりそれぞれを出力することができるシート材情報検知装置を提供することができる。また、本実施例では、屈曲領域の大きさのみを異ならせて出力に対する屈曲領域の寄与する量のみを変えることができるので、後段の信号処理が比較的簡便である。
【実施例3】
【0049】
実施例3として、本発明のシート材処理装置の例について説明する。図6に、本実施例のシート材処理装置の動作フローを示す。
【0050】
まず、シート材処理動作をスタートし、シート材の搬送を開始する。シート材処理動作のスタートは、シート材処理装置のオペレーターが、機械本体のスタートボタンを押す、あるいは接続された外部コンピュータやカメラなどの周辺機器から処理命令を送るなどして開始される。
【0051】
続いて、シート材情報検知装置の動作がスタートする。該スタートは、本実施例のシート材情報検知装置を搭載するシート材処理装置において、シート材処理の動作が開始したことを受けて行われる。
【0052】
続いて、シート材情報検知装置の制御回路に、シート材搬送情報が入力される。該シート材搬送情報とは、シート材の位置や速度に関する情報である。すなわち、該搬送情報とは、シート材がシート材情報検知装置の位置を通過するタイミングを意味する。該搬送情報に対応してシート材情報検知装置の駆動(外力印加等)のタイミングが決定される。前記シート材搬送情報は、例えばシート材処理装置のシート材通過センサの信号や、シート材処理装置の動作開始などの情報を処理したものである。
【0053】
続いて、前記シート材搬送情報を受けて、シート材情報検知の動作を開始する。
【0054】
シート材情報検知動作開始後、検知部からの出力が適正か否かで、以下のフローは異なる。
【0055】
出力が適正でなかった場合(NO)について説明する。出力が適正でない場合とは、例えば動作開始後所定の時間内に一定レベル範囲の出力が無い場合などである。この場合、後過程の中止、もしくは後過程で得られた情報のキャンセルを行う。さらに、シート材情報検知装置が異常であるという異常情報出力を行う。
【0056】
異状が軽微と判断される場合は、必ずしもシート材処理を中止する必要は無く、例えばシート材情報検知装置の動作を停止した上で、デフォルト条件にてシート材処理を行ってもよい。異状が軽微であるという判断は、例えばシート材の搬送が正常に行われていることが確認できた場合や、繰り返しのシート材処理において低確率で突発的に異常が発生した場合などである。しかし、該異常が及ぼす影響が甚大と考えられる場合は、シート材処理を中止する。シート材処理の中止は、搬送停止または排紙し、シート材処理装置の異常表示や適宜復帰指示を行う。また、必要に応じて次のシート材処理への影響を判断し、適切な処理を行う。以上の処理をもって動作終了する。
【0057】
次に、出力が適正であった場合(YES)について説明する。本発明のシート材情報検知装置により、シート材情報の検知を行う。続いて、該シート材情報に基づき、シート材処理条件が決定される。続いて、決定されたシート材処理条件に基づき、画像形成などのシート材処理が行われる。本実施例のシート材処理装置においては、シート材情報に基づいて処理プロセスが決定され、処理の各工程において必要な制御が行われる。本実施例のシート材処理装置で、特に重要な制御は、シート材の搬送に関わる制御である。例えば、剛度の高いシート材に対しては搬送ローラーの荷重の値を大きくする。また、シート材の機械特性の速度依存性を考慮し適切な荷重印加速度を決定するものである。以上の処理をもって動作終了する。
【0058】
以上、本実施例のシート材処理装置によれば、シート材情報検知装置からのシート材の屈曲と圧縮の動的挙動に関わる機械特性の情報に基づき、適切なシート材処理を行うことのできるシート材処理装置を提供することができる。特に、シート材の搬送などの機械処理にとって適切な処理条件の決定が可能となり、シート材の詰まりなどのトラブルを低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本発明のシート材情報検知装置の構成例
【図2】本発明のシート材情報検知装置におけるシート材への圧力付与の過程例
【図3】本発明のシート材情報検知装置におけるシート材への圧力付与の過程例
【図4】本発明のシート材情報検知装置におけるシート材への圧力付与の過程例
【図5】本発明のシート材情報検知装置におけるシート材への圧力付与の過程例
【図6】本発明のシート材処理装置の動作フロー例
【符号の説明】
【0060】
1 第一の先端部材
2 第二の先端部材
3 第三の先端部材
4 プレート
5 モーター
6 位置だしホイール
7 貫通口
8 フォトインタラプタ
9 制限部材
10 支持部
11 凹部
12 対向部材
13 圧縮コイルばね
14 ストッパー部
15 第一のハウジング15
16 押し圧受け部
17 第二のハウジング
18 シート材の搬送経路
19 配線
20 コネクタ20
21 検知部(圧電素子)
22 接触面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シート材の情報を検知して出力するシート材情報検知装置であって、シート材の一部に接触し圧力を付与する先端部材と、シート材の一部を支持することにより該先端部材による圧力で屈曲変位を生じさせるとともに該屈曲領域を制限する制限部材と、屈曲したシート材をさらに挟み圧縮するために先端部材と対向してシート材の圧縮領域を形成する対向部材と、先端部材によるシート材への圧力の付与を駆動する駆動機構と、シート材に付与される圧力を制御する押し圧機構と、対向部材もしくは先端部材に伝わる応力を検知する検知部を有し、該屈曲領域と圧縮領域との比が異なる少なくとも複数回の変位の際に検知部より得られる信号より、シート材の情報を検知することを特徴とする、シート材情報検知装置。
【請求項2】
請求項1のシート材情報検知装置を有し、該シート材情報検知装置からのシート材情報に基づいてシート材処理条件を決定することを特徴とする、シート材処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−151592(P2008−151592A)
【公開日】平成20年7月3日(2008.7.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−338676(P2006−338676)
【出願日】平成18年12月15日(2006.12.15)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】