説明

シート材

【課題】絶縁性と共に、難燃性、寸法安定性をバランス良く有するシート材の提供を目的とする。
【解決手段】本発明は、天然繊維素材を基材主原料としたシート材であって、上記基材は難燃剤を含有し、上記難燃剤が主成分としてスルファミン酸塩及びポリホウ酸塩を含有し、上記スルファミン酸塩及びポリホウ酸塩の合計量に対するスルファミン酸塩の配合率が5質量%以上40質量%以下であることを特徴とするシート材である。上記難燃剤の含有量が上記基材質量に対し10質量%以上40質量%以下であること、上記基材密度が0.5g/cm以上1.2g/cm以下であることが好ましい。また、本発明のシート材は、上記天然繊維素材が天然パルプであり、副原料が熱可塑性合成繊維及び/又は非熱可塑性化学繊維であるという構成を採用することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、絶縁性と共に、難燃性、寸法安定性をバランス良く有するシート材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電気機器や自動車用リチウムイオン電池等を保護するために用いる絶縁シートは、絶縁性に加え、機械的強度が必要とされる。従来より、絶縁性と共に機械的強度を付与するために、紙素材を基材とした絶縁シートとしては、バルカナイズドファイバーが広く使用されている。このバルカナイズドファイバーは、木材パルプやリンターパルプ等を原料とするものであり、機械的強度及び電気絶縁性を発揮する素材である。
【0003】
近年、このようなシート材は、上述の絶縁性や機械的強度に加えて、難燃性、寸法安定性等が求められている。かかるシート材に難燃性を付与する方策としては、シート材に対して、塩素系やアンチモン系の難燃剤を含有させる手段が広く使用されている。
【0004】
しかしながら、上記従来の塩素系やアンチモン系の難燃剤は、絶縁シートの焼却時においてダイオキシンが発生し、さらに、発ガン性物質であるという不都合がある。
【0005】
そこで、塩素系やアンチモン系の難燃剤を使用することなく、木材パルプを主体とする紙基材に難燃性を持たせる手段として、ポリリン酸メラミン粒子、リン酸メラミン粒子及び硫酸メラミン粒子からなる群から選択される少なくとも1種の難燃剤を含有し、難燃性と電気絶縁性とを有する難燃絶縁紙が提供されている(特開2001−155547号公報)。しかしながら基材原料として多用される従来のバルカナイズドファイバーは、吸湿時における寸法安定性が悪く、例えば、高温高湿下で変形し、反り、歪み、波打ち等が発生し、絶縁シートとして使用することが困難となる不都合が生じ、難燃性、寸法安定性のそれぞれを満足するシート材の開発が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001−155547号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、これらの不都合に鑑みてなされたものであり、絶縁性、機械的強度、に加え難燃性、耐熱性及び寸法安定性をバランス良く発揮するシート材の提供を目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
天然繊維素材を基材主原料としたシート材であって、
上記基材は難燃剤を含有し、
上記難燃剤が主成分としてスルファミン酸塩及びポリホウ酸塩を含有し、
上記スルファミン酸塩及びポリホウ酸塩の合計量に対するスルファミン酸塩の配合率が5質量%以上40質量%以下であることを特徴とするシート材である。
【0009】
当該シート材は、天然繊維基材を主原料とすることで、軽量性、柔軟性及び剛性をバランス良く発揮しつつ、加工等の取扱いの容易性を向上することができる。また、当該シート材は、主成分としてスルファミン酸塩及びポリホウ酸塩を含有する難燃剤を含有させたものとすることで、絶縁性、難燃性及び耐熱性をバランス良く発揮することができる。具体的には、スルファミン酸塩を含有させることで、当該シート材に対して難燃性や耐熱性のみならず、柔軟性や湿気等に対する寸法安定性をもバランス良く付与することができる。また、ポリホウ酸塩をスルファミン酸塩と組み合わせ、当該シート材に含有させることで、当該シート材の難燃性や耐熱性を向上しつつ、高い絶縁性をも付与することができる。つまり、当該シート材は、良好な機械的強度に加え、絶縁性、難燃性及び耐熱性、寸法安定性をバランス良く発揮することができる。
【0010】
上記スルファミン酸塩及びポリホウ酸塩の合計量に対するスルファミン酸塩の配合率が5質量%以上40質量%以下であるとよい。このように、スルファミン酸塩のポリホウ酸塩に対する配合が上記範囲であることで、当該シート材は、難燃性、耐熱性、絶縁性、寸法安定性のそれぞれの効果を、互いに相殺・低減等させることなく、いずれの効果もバランス良く発揮させることができる。
【0011】
上記難燃剤の含有量は、上記基材質量に対し10質量%以上40質量%以下であるとよい。この難燃剤の含有量を上記範囲とすることで、当該シート材は、良好な難燃性、耐熱性及び絶縁性をバランス良く発揮することに加えて、寸法安定性をもバランス良く発揮することができる。
【0012】
上記基材の密度は、0.5g/cm以上1.2g/cm以下であることが好ましい。この基材の密度を上記範囲とすることで、当該シート材は、軽量となり、かつ高い剛性、衝撃吸収性を発揮することができる。
【0013】
当該シート材は、天然繊維素材が天然パルプであり、副原料が熱可塑性合成繊維及び/又は非熱可塑性化学繊維であることで、天然繊維素材間に難燃剤が入り込みやすく、良好な難燃性、耐熱性及び絶縁性をバランス良く発揮することに加えて、軽量となり、かつ寸法安定性をもバランス良く発揮することができる。
【0014】
また、当該シート材は、天然繊維素材等の種類や含有量等を調整することで、絶縁紙として使用することができる。この絶縁紙は、従来の電気機器の絶縁シートが有する難燃性、絶縁性に加えて、吸湿時における良好な寸法安定性を発揮するため、高温高湿下における反り、歪み、波打ち等の変形を確実に防止又は低減することができる。
【発明の効果】
【0015】
以上説明したように、本件発明は、絶縁性、機械的強度、難燃性・耐熱性及び寸法安定性をバランス良く発揮するという効果を発揮することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態を詳説する。
【0017】
当該シート材は、天然繊維素材を基材主原料とし、この基材が主成分としてスルファミン酸塩及びポリホウ酸塩を含む難燃剤を含有するものである。また、当該シート材のその他の原料として、熱可塑性合成繊維及び/又は非熱可塑性化学繊維を好適に採用することができる。以下、当該シート材の構成要素を順に詳説する。
【0018】
(天然繊維素材)
当該シート材の基材の主成分となる天然繊維素材としては、天然パルプが好適に用いられる。かかる天然パルプを当該シート材の基材主原料とすることで、当該シート材は、軽量性及び柔軟性を発揮し、加工等の取扱いの容易性を向上することができる。また、この天然パルプは、叩解を施して繊維表面に微細な毛羽立ちを設けることで、繊維間に難燃剤が入り込みやすくなり、難燃剤の天然パルプへの定着性の向上を図ることができることから、後述のフリーネスの値に叩解した天然パルプを主原料とする基材を用いた当該シート材は、難燃剤の効果を最も良く発揮することができる。
【0019】
上記天然パルプの種類としては、特に限定されず、例えば古紙パルプ、化学パルプ、機械パルプ、サイザル麻、マニラ麻、サトウキビ、コットン、シルク、竹、ケナフ等が挙げられる。中でも、高い剛性を発揮する竹、繊維強度が高いケナフやマニラ麻を使用することが好ましく、入手及び加工が容易で比較的紙力が大きい後述の針葉樹晒クラフトパルプ(NBKP)を使用することが特に好ましい。
【0020】
古紙パルプとしては、例えば段ボール古紙、茶古紙、クラフト封筒古紙、雑誌古紙、新聞古紙、チラシ古紙、オフィス古紙、上白古紙、ケント古紙、構造古紙、地券古紙等から製造される離解古紙パルプ、離解・脱墨古紙パルプ、脱墨・漂白古紙パルプ等が挙げられる。
【0021】
化学パルプとしては、例えば広葉樹晒クラフトパルプ(LBKP)、針葉樹晒クラフトパルプ(NBKP)、広葉樹未晒クラフトパルプ(LUKP)、針葉樹未晒クラフトパルプ(NUKP)、広葉樹半晒クラフトパルプ(LSBKP)、針葉樹半晒クラフトパルプ(NSBKP)、広葉樹亜硫酸パルプ、針葉樹亜硫酸パルプ等が挙げられる。
【0022】
機械パルプとしては、例えばストーングランドパルプ(SGP)、加圧ストーングランドパルプ(PGW)、リファイナーグランドパルプ(RGP)、ケミグランドパルプ(CGP)、サーモグランドパルプ(TGP)、グランドパルプ(GP)、サーモメカニカルパルプ(TMP)、ケミサーモメカニカルパルプ(CTMP)、リファイナーメカニカルパルプ(RMP)等が挙げられる。
【0023】
上記天然パルプの含有量は、特に限定されず、100質量%とすることもできるが、かかる天然パルプの含有量の上限としては95質量%が好ましく、93質量%がより好ましく、90質量%が特に好ましい。また、天然パルプの含有量の下限としては70質量%が好ましく、75質量%がより好ましく、80質量%が特に好ましい。このように天然パルプの含有量の上限及び下限を設定することで、当該シート材の軽量性を向上させつつ、難燃剤の吸収・定着効果を高め、絶縁性及び難燃性を確実に発揮させることができる。この天然パルプの含有量が95質量%を超えると、天然パルプ繊維は、合成・化学繊維に比べ繊維長が短く、繊維同士の絡みが少なくなり、破断の発生が増加する可能性があるため好ましくない。また、この天然パルプの含有量が70質量%未満であると、当該シート材の柔軟性、難燃剤の天然パルプへの定着性が低下するため好ましくない。
【0024】
(熱可塑性合成繊維)
当該シート材の副原料として、熱可塑性合成繊維を採用することができる。かかる熱可塑性合成繊維は、後述する抄紙工程の加熱下で融解して天然パルプの繊維間に浸透し、その後、冷却して再び凝固することから、当該シート材に対して、難燃剤の良好な定着性を維持しつつ高い強度及び寸法安定性を付与することができる。
【0025】
上記熱可塑性合成繊維の種類としては、特に限定されないが、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、共重合ポリプロピレンなどのポリオレフィン系繊維;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、共重合ポリエステルなどのポリエステル系繊維;ナイロン−4、ナイロン−6、ナイロン−46、ナイロン−66、共重合ナイロンなどのポリアミド系繊維;ポリ乳酸、ポリブチレンサクシネート、ポリエチレンサクシネートなどの生分解性繊維等が挙げられる。中でも、天然パルプとの熱溶融による接着性に優れ、その結果、当該難燃シート材の寸法安定性を向上させることから、ポリオレフィン系繊維を用いることが好ましい。また、熱可塑性合成繊維として融点が100℃から140℃程度の熱可塑性合成繊維を使用すると、抄紙工程の加熱において効果的かつ確実に溶融するため好ましい。
【0026】
上記熱可塑性合成繊維の含有量の上限としては15質量%が好ましく、10質量%がより好ましい。また、熱可塑性合成繊維の含有量の下限としては2質量%が好ましく、4質量%がより好ましい。このように熱可塑性合成繊維の含有量の上限及び下限を設定することで、抄紙工程の加熱下で溶融した熱可塑性合成繊維が天然パルプの繊維間へ効率よく浸透し、当該シート材の剛性、寸法安定性等を効果的に実現することができる。この熱可塑性合成繊維の含有量が15質量%を超えると、天然パルプ繊維配合量が減少し、当該シート材の寸法安定性、難燃剤の定着性が低下するため好ましくない。また、熱可塑性合成繊維の含有量が2質量%未満であると、当該シート材の天然パルプ繊維同士の接着効果が低下し、当該シート材が破断しやすくなるため好ましくない。
【0027】
(非熱可塑性化学繊維)
当該シート材の副原料として、非熱可塑性化学繊維を採用することができる。この非熱可塑性化学繊維は、熱可塑性樹脂に似た特性を有するが、融点が熱分解温度以下の温度で存在しない化学繊維であり、後述する抄紙工程における加熱下でも溶融せず、天然パルプの繊維間の水素結合を部分的に阻害するものである。その結果、非熱可塑性化学繊維を含有することで、当該シート材に対して剛性、衝撃吸収性、寸法安定性、また耐熱性を付与することができると共に、当該シート材の天然パルプの繊維間に連続した空隙を形成させ、当該シート材の軽量化を可能とし、断熱性、難燃剤の良好な定着性等を付与することができる。
【0028】
上記非熱可塑性化学繊維の種類としては、特に限定されず、例えばビニロン繊維、アクリル繊維、アラミド繊維、レーヨン繊維などの再生セルロース繊維等が挙げられる。中でも、繊維方向と垂直な断面の形状が略円形であるビニロン繊維が、当該シート材に対して高い剛性、衝撃吸収性、断熱性、低コスト性等を付与することができるため好ましい。
【0029】
上記非熱可塑性化学繊維の含有量の上限としては20質量%が好ましく、15質量%がより好ましい。また、非熱可塑性化学繊維の含有量の下限としては2質量%が好ましく、8質量%がより好ましい。このように非熱可塑性化学繊維の含有量の上限及び下限を設定することで、当該シート材は、難燃剤の天然パルプ間における定着性を低下させることなく衝撃吸収性及び断熱性を発揮することができる。この非熱可塑性化学繊維の含有量が20質量%を超えると、当該シート材全体に対する天然パルプ繊維配合量が減少し、当該シート材に対する難燃剤の定着性が低下するため好ましくない。また、非熱可塑性化学繊維の含有量が2質量%未満であると、天然パルプ繊維の繊維長が非熱可塑性化学繊維に比べて短く、繊維同士の絡みが少なくなることから、当該シート材の機械的強度が低下すると共に、寸法安定性が低下する傾向があるため好ましくない。
【0030】
(スルファミン酸塩)
スルファミン酸塩は、上記難燃剤の主成分の一つであり、天然パルプを構成するセルロースに対して脱水炭化型の難燃作用を付与するものである。また、このスルファミン酸塩は、当該シート材に含有させることで、当該シート材に対して良好な柔軟性及び寸法安定性を付与するものである。このように、当該シート材にスルファミン酸塩を含有させることで、当該シート材は、極めて良好な難燃性や耐熱性を発揮しつつ、加えて柔軟性や湿気等に対する寸法安定性をも発揮することができる。なお、当該シート材に含有させる難燃剤としてスルファミン酸塩を採用することで、ダイオキシンの元となるハロゲン類、環境ホルモンとして有害であるホルムアルデヒド、重金属類等を一切使用する必要がなくなり、エコフレンドリーの達成をも実現することができる。
【0031】
スルファミン酸塩の種類としては、特に限定されず、例えば、スルファミン酸グアニジン、スルファミン酸カルシウム、スルファミン酸マグネシウム等が挙げられる。中でも、シート材に対して特に良好な難燃性、断熱性及び高い寸法安定性を付与することができるスルファミン酸グアニジンが特に好ましい。かかるスルファミン酸塩は、1種単独で又は2種以上を併用して使用することができる。
【0032】
(ポリホウ酸塩)
ポリホウ酸塩は、上記難燃剤の主成分の一つであり、天然パルプを構成するセルロースに対して難燃作用、断熱作用及び絶縁作用を共に発揮させるものである。このポリホウ酸塩を当該シート材に含有させることで、当該シート材は、上記スルファミン酸塩が発揮する難燃性や断熱性に対して相乗効果を付与し、より一層高い難燃性、断熱性を発揮することに加えて、高い絶縁性をも付与することができる。なお、かかるポリホウ酸塩は、(A)ホウ酸を脱水縮合したポリホウ酸の塩、(B)ホウ酸塩を脱水縮合したもの、又は(C)ホウ酸及びホウ酸塩を脱水縮合したものを意味する。
【0033】
ポリホウ酸塩の種類としては、特に限定されず、例えばポリホウ酸ナトリウム、ポリホウ酸カルシウム、ポリホウ酸カリウム、ポリホウ酸バリウム、ポリホウ酸亜鉛等が挙げられる。中でも、水に対する高い溶解度を示し、当該シート材に対して所望の容量を確実かつ効率的に含有させることができ、かつ良好な難燃性、断熱性及び絶縁性をバランス良く付与することができるポリホウ酸ナトリウムを採用することが好ましい。このポリホウ酸ナトリウムを含有させた当該シート材を接炎させると、ポリホウ酸ナトリウムが火炎により発泡して無機発泡構造を形成し、その結果、当該シート材は、表面が炭化するものの、黒煙や有害ガスを発生させず、燃焼することがない。また、このポリホウ酸ナトリウムは、有害なガスを発生させることがないため、上述のスルファミン酸塩と同様にエコフレンドリーの達成をも実現することができる。
【0034】
上記スルファミン酸塩のポリホウ酸塩100質量部に対する配合の上限としては40質量部が好ましく、30質量部がより好ましく、25質量部が特に好ましい。また、このスルファミン酸塩のポリホウ酸塩に対する配合の下限としては5質量部が好ましく、10質量部がより好ましく、15質量部が特に好ましい。このようにスルファミン酸塩のポリホウ酸塩100質量部に対する配合の上限及び下限を設定することで、当該シート材は、難燃性及び耐熱性、絶縁性、寸法安定性をいずれもバランス良く発揮することができ、さらに、これらの効果が、互いに相殺・低減等することを防ぐことができる。このスルファミン酸塩のポリホウ酸塩100質量部に対する配合が40質量部を超えると、機械的強度は増すが、上述のポリホウ酸塩による絶縁性の効果が著しく低減し、さらに、断熱性が低下する恐れがあるため好ましくない。また、スルファミン酸塩のポリホウ酸塩100質量部に対する配合が5質量部未満であると、上述のスルファミン酸塩が発揮する良好な寸法安定性を実現することが困難となり、さらに、柔軟性が低下し、機械的強度の低下を招く恐れがあるため好ましくない。
【0035】
上記難燃剤の基材質量に対する含有量の上限としては、40質量%が好ましく、35質量%がより好ましく、30質量%が特に好ましい。また、この難燃剤の含有量の下限としては10質量%が好ましく、15質量%がより好ましく、20質量%が特に好ましい。このように難燃剤の基材質量に対する含有量の上限及び下限を設定することで、当該シート材に対して高い難燃性、断熱性、絶縁性をバランス良く付与することに加えて、寸法安定性を付与することができる。この難燃剤の基材質量に対する含有量が40質量%を超えると、当該シート材の機械的強度が低下し、破断が発生しやすくなるため好ましくない。また、この難燃剤の基材質量に対する含有量が10質量%未満であると、当該シート材の絶縁性が著しく低下すると共に、良好な寸法安定性が発揮できなくなるため好ましくない。
【0036】
(その他の任意成分)
当該シート材中には、本件発明の目的効果を損なわない範囲で、任意成分を適宜使用することができる。かかる任意成分としては、例えば軽質炭酸カルシウム、重質炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸バリウム、水酸化アルミニウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化亜鉛、クレー、焼成カオリン、デラミカオリン、二酸化チタン、酸化亜鉛、酸化珪素、非晶質シリカ、尿素−ホリマリン樹脂、ポリスチレン樹脂、フェノール樹脂、微小中空粒子などの填料;アルキルケテンダイマー系サイズ剤、アルケニル無水コハク酸系サイズ剤、中性ロジンサイズ剤などのサイズ剤;ポリビニルアルコール系高分子、ポリアクリルアミド系高分子、カチオン化澱粉、尿素/ホルマリン樹脂、メラミン/ホルマリン樹脂などの紙力増強剤;アクリルアミド/アミノメチルアクリルアミドの共重合物の塩、カチオン化澱粉、ポリエチレンイミン、ポリエチレンオキサイド、アクリルアミド/アクリル酸ナトリウム共重合物、カチオン性の定着剤などの歩留り向上剤;紙粉脱落防止剤;硫酸バンド;湿潤紙力材;紙厚向上剤;嵩高剤;カチオン化剤;着色剤;染料等を、その種類及び含有量を適宜調整して添加することができる。
【0037】
(シート材)
当該シート材の基材密度の上限としては1.2g/cmが好ましく、1g/cmがより好ましく、0.8g/cmが特に好ましい。また、当該シート材の基材密度の下限としては0.5g/cmが好ましく、0.55g/cmがより好ましく、0.6g/cmが特に好ましい。このように当該シート材の密度の上限及び下限を設定することで、当該シート材は、軽量性、剛性、衝撃吸収性を発揮することができる。この当該シート材の密度が1.2g/cmを超えると、柔軟性の低下により当該シート材が破断しやすくなるため好ましくない。また、当該シート材の密度が0.5g/cm未満であると、当該シート材の機械的強度が低下し、十分な剛性、衝撃吸収性を発揮することができなくなるため好ましくない。なお、かかる密度は、JIS−P8118(厚さ及び密度の試験方法)に準拠した値である。
【0038】
当該シート材における天然パルプのカナダ標準フリーネス(CSF)の上限としては800ccが好ましく、750ccがより好ましく、700ccが特に好ましい。また、当該シート材のフリーネスの下限としては400ccが好ましく、600ccがより好ましく、630ccが特に好ましい。このように当該シート材における天然パルプのフリーネスの上限及び下限を設定することで、当該シート材における難燃剤の定着性をより一層確実にすることができる。このフリーネスが800ccを超えると、難燃剤の天然パルプに対する定着性が著しく低下するため好ましくない。また、このフリーネスが400cc未満であると、難燃剤を含有させにくくなり、さらには基材密度が高くなる傾向があり、機械強度の低下を招く恐れもあるため好ましくない。なお、かかるフリーネスは、JIS−P8220に準拠して標準離解機にて天然パルプを離解処理した後、JIS−P8121に準拠してカナダ標準濾水度試験機にて濾水度を測定した値である。
【0039】
当該シート材の絶縁性として、1.1×1011Ω・cm以上、1.7×1011Ω・cm程度あれば、例えば電気機器や自動車用リチウムイオン電池等を保護するのに十分な値である。
【0040】
当該シート材の吸水長さ変化率は、縦方向(MD方向)で2%以下、横方向(CD方向)で4%以下であるとよい。この当該シート材の吸水長さ変化率が上記の通り設定することで、当該シート材は、低温低湿時や常温時のみならず、高温高湿時においても高い形状安定性及び加工容易性を発揮することができる。かかる吸水長さ変化率が上記値を超えると、当該シート材は、特に高温高湿下における変形を免れることができず、反り、歪み、波打ち等が発生するため好ましくない。なお、この吸水長さ変化率は、JIS−A5905(吸水長さ変化率試験)に準拠した値である。
【0041】
当該シート材は、JIS−P8115(耐折強さ試験方法)に準拠した折り曲げ回数が40回以上60回程度あればよい。このように、当該シート材の折り曲げ回数が少なくとも40回程度であることで、当該シート材の持ち運び、巻き取り、折り曲げなどの製品加工作業等においても十分な強度を発揮することができ、かつ、折り曲げ部分の破断等を効果的に防止することができる。
【0042】
当該シート材の厚さは、0.2mm以上1.6mm以下であるとよい。この当該シート材の厚さを上記範囲とすることで、当該シート材は、例えば、家電製品の保護部材のように、絶縁性等が必要とされる様々な用途に対して使用することができる。また、当該シート材の厚さを、その用途に応じて調整することもできる。例えば、当該シート材の厚さを0.5mm程度に調整することで、当該シート材は、良好な折り曲げ適性を発揮し、変形加工や巻き取り等が容易となり、作業性や歩留まりの向上を図ることができる。かかる当該シート材の厚さが1.6mmを超えると、当該シート材の剛性が過度に高くなることで折り曲げが困難となると共に、折り曲げ部分に破断が生じやすくなるため好ましくない。また、当該シート材の厚さが0.2mm未満であると、特に吸湿時の寸法安定性を維持することが困難となるため好ましくない。なお、かかる厚さは、JIS−P8118(厚さ及び密度の試験方法)に準拠した値である。
【0043】
当該シート材の坪量の上限としては700g/mが好ましく、600g/mがより好ましい。また、当該シート材の坪量の下限としては150g/mが好ましく、200g/mがより好ましい。このように当該シート材の坪量の上限及び下限を設定することで、当該シート材に付与される軽量性及び剛性のバランスをより一層向上させ、良好な折り曲げ特性を付与することができると共に、難燃剤の効率的かつ確実な定着性を確保することができる。また、当該シート材の坪量は、用途に応じて調整することができる。なお、かかる坪量は、JIS−P8124(坪量測定方法)に準拠した値である。
【0044】
(シート材の製造方法)
当該シート材は、抄紙工程と、難燃剤を含有させる工程とを主として備える製造方法により製造される。
【0045】
上記抄紙工程としては、一般的に製紙用途で使用される方法を用いることができる。具体的には、天然パルプを主原料とする原料スラリーを、ワイヤーパート、プレスパート、ドライヤーパート、リールパートを経て抄紙し、これを巻き取ることで製造することができる。かかるドライヤーパートにおいて110℃程度で加熱処理がなされ、上述の熱可塑性合成繊維が融解する。また、当該シート材のカレンダー処理方法については、特に限定されず、オンマシンで設定されているマシンカレンダー、スーパーカレンダー、グロスカレンダー、マットカレンダー、ブラッシカレンダー、ソフトカレンダー等を用いることができる。なお、かかる製造方法により、当該シート材を多層抄きとすることもできる。このように、当該シート材を多層抄きとすることで、紙厚を上げることができるため、機械的強度が高くなる効果があり、その結果、当該シート材の折り曲げ特性が良好となる。
【0046】
上記難燃剤を含有させる工程における含有の手段としては、特に限定されず、例えば浸漬、スプレー、キスロール、アプリケーター、ナイフコーター、グラビアコーター、ロッドコーター、リバースロールコーター、フローコーター、刷毛による塗布等が挙げられる。
【0047】
また、上記ポリホウ酸塩のシート材に対する定着性を向上させるため、難燃剤には、さらに浸透剤を含有させることができる。この浸透剤の種類としては、特に限定されず、例えばメタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノールなどのアルコール;エチレングリコール、プロピレングリコールなどのジオール;グリセリンなどのトリオール;炭素数3〜11のアルジトールなどのポリオール;ポリフェノール類;界面張力を低下させる作用を有する界面活性剤等が挙げられる。
【0048】
なお、本件発明のシート材は、天然繊維素材等の種類や含有量等を調整することで、絶縁紙として使用することができる。例えば、このような絶縁紙を電気機器の絶縁シートとして用いることで、従来の電気機器の絶縁シートが有する難燃性、絶縁性に加えて、吸湿時における良好な寸法安定性をも発揮することができ、その結果、特に高温高湿下における反り、歪み、波打ち等の変形を確実に防止又は低減することができる。
【実施例】
【0049】
以下、実施例に基づき本発明を詳述するが、この実施例の記載に基づいて本発明が限定的に解釈されるものではない。
【0050】
[実施例1〜36]
(シート材の製造)
シート材を構成する天然繊維素材として、実施例1〜34においては、天然パルプであるNBKP、熱可塑性合成繊維であるポリオレフィン繊維(三井化学社の「SWP−E400」)、非熱可塑性化学繊維であるビニロン(クラレ社の「VPB303」)を下記表1に示す含有量により調整して、原料スラリーを得た。また、実施例35では熱可塑性合成繊維としてポリエステル繊維(ユニチカ社の「キャスベン」)を、実施例36では非熱可塑性化学繊維であるアクリル繊維(東洋紡社の「ビィパル」)をそれぞれ採用した以外は実施例1〜34と同様とし、下記表1に示す含有量により調整して、原料スラリーを得た。なお、この原料スラリーには、任意成分として、硫酸バンド、湿潤紙力剤、ポリエチレンオキサイドを別途含有した。
【0051】
次いで、上記原料スラリーをワイヤーパート、プレスパート、ドライヤーパート、カレンダーパートを経て基材を得た。このドライヤーパートにおける乾燥温度は、110℃に調整した。なお、ワイヤーパートではギャップフォーマを、プレスパートではオープンドローのないストレートスルー型を、ドライヤーパートではシングルデッキドライヤーを用いて抄紙した。カレンダーパートでは、マルチニップカレンダーを用いて平坦化処理を行った。かかる抄紙処理及び平坦化処理を調整することで、フリーネス、坪量及び密度を下記表1のように変化させた。
【0052】
(難燃剤の調整及びシート材への含浸)
スルファミン酸塩としてスルファミン酸グアニジン(株式会社三和ケミカル)、ポリホウ酸塩としてポリホウ酸ナトリウム(有限会社トラストライフ)をそれぞれ水に溶かして水溶液とし、基材に対して下記表1に示す配合及び含有量により含有させた。かかる水溶液の基材への含有は、含浸により実施した。その後、かかるシート材を常圧下、150℃の乾燥機中で乾燥させた。
【0053】
[比較例1〜10]
比較例1は、バルカナイズドファイバーを原料とするシート材(東洋ファイバー株式会社、NF−77)を用意した。比較例2は難燃剤を含有させない以外は実施例1〜34と同様の方法により調整した。比較例3〜10は、実施例1〜34の場合と同様の方法により調整した。かかる調整内容を下記表1に示した。
【0054】
(難燃性の測定)
難燃性は、UL94V垂直燃焼試験(IEC60695−11−10B法)に準拠して測定し、以下の評価項目に基づき評価した。かかる結果を下記表2に示した。
○:V−0相当の基準を満たし、難燃性が認められる
×:V−0相当の基準を満たさず、難燃性が認められない
【0055】
(耐熱性の測定)
耐熱性は、はんだごて試験により測定した。このはんだごて試験は、300℃に加熱したはんだごてを10秒間シート材の表面に押し当て、焦げ・孔の有無について以下の評価項目に基づき目視評価した。かかる結果を下記表2に示した。
○:焦げ・孔共に無し
△:焦げはあるが孔は無し
×:焦げ・孔共に有り
【0056】
(絶縁性の測定)
絶縁性は、JIS−K6911(熱硬化性プラスチック一般試験法−絶縁抵抗試験)及びJIS−K6271(加硫ゴム及び熱可塑性ゴム−体積抵抗率及び表面抵抗率の求め方)に準拠し、二重リング測定法により体積抵抗を測定した。かかる結果を下記表2に示した。
【0057】
(吸水長さ変化率の測定)
上述した通り、JIS−A5905(吸水長さ変化率試験)に準拠して測定した。かかる結果を下記表2に示した。
【0058】
(折り曲げ回数(破断)の測定)
上述した通り、JIS−P8115(耐折強さ試験方法)に準拠して測定した。この折り曲げ回数について、以下の評価項目に基づき目視評価した。折り曲げ回数が40回を超えたのち、破断がない場合は測定を止め、紙の毛羽立ちを目視にて測定した。かかる結果を下記表2に示した。
◎:40回以上で破断・毛羽立ちなし
○:40回以上で破断はないが、一部に毛羽立ちが見られた
×:40回未満で破断・毛羽立ちあり
【0059】
(折り曲げ強度の測定)
折り曲げ強度は、シート材を90°に1回のみ折り曲げた際の亀裂・紙層の剥離(割れ)について以下の評価項目に基づき目視評価した。かかる結果を下記表2に示した。
○:亀裂・剥離共に無し
△:亀裂・剥離が一部に有り
×:亀裂・剥離が全幅にわたり有り
【0060】
【表1】

【0061】
【表2】

【0062】
(評価)
表2に示す通り、実施例1〜36は十分な難燃性、耐熱性、絶縁性及び折り曲げ適性を発揮しつつ、特に比較例1と比較して、良好な寸法安定性を示した。
【産業上の利用可能性】
【0063】
以上のように、本発明のシート材は、天然繊維素材を基材主原料とし、主成分としてスルファミン酸塩及びポリホウ酸塩を含む難燃剤を含有させるという単純かつ簡便な作業により製造されるものであるから、入手容易性、低コスト性、大量生産性を実現することができる。また、スルファミン酸塩及びポリホウ酸塩は環境にも優しいことから、エコフレンドリーの達成をも実現することができる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
天然繊維素材を基材主原料としたシート材であって、
上記基材は難燃剤を含有し、
上記難燃剤が主成分としてスルファミン酸塩及びポリホウ酸塩を含有し、
上記スルファミン酸塩及びポリホウ酸塩の合計量に対するスルファミン酸塩の配合率が5質量%以上40質量%以下であることを特徴とするシート材。
【請求項2】
上記難燃剤の含有量が上記基材質量に対し10質量%以上40質量%以下である請求項1に記載のシート材。
【請求項3】
上記基材密度が0.5g/cm以上1.2g/cm以下である請求項1又は請求項2に記載のシート材。
【請求項4】
上記天然繊維素材が天然パルプであり、
副原料が熱可塑性合成繊維及び/又は非熱可塑性化学繊維である請求項1、請求項2又は請求項3のいずれか1項に記載のシート材。



【公開番号】特開2011−111680(P2011−111680A)
【公開日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−265788(P2009−265788)
【出願日】平成21年11月21日(2009.11.21)
【出願人】(390029148)大王製紙株式会社 (2,041)
【Fターム(参考)】