説明

シート状印刷原版、シート状印刷版および、印刷原版もしくは印刷版の装着方法

【課題】彫刻用シリンダーへの装着が容易でかつ正確にレーザー彫刻を実施できるシート状印刷原版、および印刷用シリンダーへの装着と位置合わせが容易で正確に印刷を実施できるシート状印刷版の提供。
【解決手段】彫刻用シリンダーに沿わせて用いるシート状印刷原版であって、円筒の長さ方向に円筒面の1ヵ所を切り裂いた形状であり、支持体100と該支持体100上に形成された硬化性樹脂組成物(α)の硬化物層200とを有すること、円筒面の周端部210に一つ以上の貫通孔を有すること、彫刻用シリンダーの円筒面に沿う曲面を有することを特徴とするシート状印刷原版。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シート状印刷原版、シート状印刷版および、印刷原版もしくは印刷版の装着方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、フレキソ印刷、ドライオフセット印刷、レタープレス印刷といった樹脂凸版を用いた印刷、あるいはエンボス加工などの表面加工において、レーザー光を照射して照射された部分の樹脂が除去されることにより表面に凹凸パターンを形成するレーザー彫刻法が用いられるようになってきた。レーザー彫刻法に適用される材料としては、加硫ゴム、感光性樹脂組成物を光硬化させて得られる感光性樹脂硬化物、熱硬化性樹脂組成物を熱処理により硬化させたものが用いられている。特に、近年、処理時間の短縮の観点から、感光性樹脂組成物を光硬化させて得られる感光性樹脂硬化物をレーザー彫刻する技術が増えてきた。
【0003】
特許文献1では、熱可塑性エラストマーを主原料とする感光性樹脂組成物を光硬化させたレーザー彫刻印刷原版の記載がある。シート状の感光性樹脂組成物を円筒状支持体上に巻きつけて、端部を溶着し、その後、露光して光硬化させる方法の記載がある。
また、近年、繊維強化プラスチック製の中空円筒状の支持体が用いられるようになってきたが、シート状の印刷版を貼り付けるために表面の凹凸が極めて少ない高価なものが必要となっていた。また、表面粗度の極めて少ない中空円筒状支持体はその製造工程上、表面の研削・研磨といった表面調整工程が必須となるため、製造工程も複雑であり、製造生産性も低いものであった。
特許文献2、特許文献3には、ガラス平面上において、感光性樹脂組成物を光硬化させたレーザー彫刻印刷原版の製造方法に関する記載がある。
【特許文献1】特許第2846954号公報
【特許文献2】米国特許第5259311号明細書
【特許文献3】欧州特許第1228864号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、彫刻用シリンダーへの装着が容易でかつ正確にレーザー彫刻を実施できるシート状印刷原版や、印刷用シリンダーへの装着と位置合わせが容易であり正確に印刷を実施できるシート状印刷版はいまだ知られていないのが実情である。
特許文献1に記載の技術では、重量物であるシリンダー表面に成形された場合、リフターやクレーン等を用いて取り扱いを行う必要があり、相当な労力が必要となる。
特許文献2、3に記載の技術では、感光性樹脂組成物が厚い場合や感光性樹脂硬化物が硬い場合には、一度平板上で光硬化させ平面状に形状を固定化させてしまったものを、印刷装置の円筒状のシリンダー上に巻きつけることが困難となり、印刷作業中に印刷版がシリンダーから外れ印刷装置が破損する等のトラブルが発生し得る。
【0005】
このように、従来技術では彫刻用シリンダーへの装着が容易でかつ正確にレーザー彫刻を実施できるシート状印刷原版や、印刷用シリンダーへの装着と位置合わせが容易で正確に印刷を実施できるシート状印刷版の技術は存在していなかった。
すなわち、本発明は彫刻用シリンダーへの装着が容易でかつ正確にレーザー彫刻を実施できるシート状印刷原版や、印刷用シリンダーへの装着と位置合わせが容易で正確に印刷を実施できるシート状印刷版を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは鋭意検討し、円筒面の周端部に存在する1つ以上の貫通孔と彫刻用シリンダーおよび印刷用シリンダーの円筒面に沿う曲面とを有するシート状印刷原版を用いることで上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は下記の通りである。
[1]
彫刻用シリンダーに沿わせて用いるシート状印刷原版であって、円筒の長さ方向に円筒面の1ヵ所を切り裂いた形状であり、支持体と該支持体上に形成された硬化性樹脂組成物(α)の硬化物層とを有すること、円筒面の周端部に一つ以上の貫通孔を有すること、彫刻用シリンダーの円筒面に沿う曲面を有することを特徴とするシート状印刷原版。
[2]
シート状印刷原版の曲面の曲率半径が35mm以上500mm以下である前項[1]記載のシート状印刷原版。
[3]
シート状支持体の厚さが10μm以上500μmである前項[1]または[2]に記載のシート状印刷原版。
[4]
硬化物層の厚さが0.1mm以上10mm以下である前項[1]から[3]いずれか一項に記載のシート状印刷原版。
[5]
前記シート状印刷原版の周端部に、シート状印刷原版の厚みよりも薄い部分が存在する前項[1]から[4]いずれか一項に記載のシート状印刷原版。
[6]
前項[1]から[5]いずれか一項に記載のシート状印刷原版の表面に、レーザー彫刻により形成されたパターンを有し、彫刻用シリンダーの円筒面に沿う曲面を有するシート状印刷版。
[7]
前項[1]から[5]いずれか一項に記載のシート状印刷原版の貫通孔を、彫刻装置の彫刻用シリンダーに設置された突起物に合わせ、該印刷原版を彫刻用シリンダー上に取り付けるシート状印刷原版の装着方法。
[8]
前項[6]に記載の印刷版の貫通孔を、印刷装置の印刷用シリンダーに設置された突起物に合わせ、該印刷版を印刷用シリンダー上に取り付けるシート状印刷版の装着方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明のシート状印刷原版によれば、彫刻用シリンダーへの装着が容易でかつ正確にレーザー彫刻を実施することを可能にする。さらに本発明のシート状印刷版によれば印刷用シリンダーへの装着と位置合わせが容易であり正確に印刷を実施することを可能にする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明を実施するための最良の形態(以下、本実施形態)について詳細に説明する。尚、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
[シート状印刷原版]
本実施形態のシート状印刷原版は、彫刻用シリンダーに沿わせて用いるシート状印刷原版であって、円筒の長さ方向に円筒面の1ヵ所を切り裂いた形状であり、支持体と該支持体上に形成された硬化性樹脂組成物(α)の硬化物層とを有すること、円筒面の周端部に一つ以上の貫通孔を有すること、彫刻用シリンダーの円筒面に沿う曲面とを有することを特徴とするシート状印刷原版。
である。
【0009】
前記彫刻用シリンダーの円筒面沿う曲面は、シート状印刷原版の一部または全体が曲面になっていればよいが、印刷装置への装着性の観点から実質的に全体が曲面になっていることが好ましい。
また、本実施形態のシート状印刷原版およびシート状印刷版の曲面は特に制限されないが、彫刻装置および印刷装置の大きさの観点から曲率半径が、35mm以上500mm以下であることが好ましい。
また、本実施形態のシート状印刷原版およびシート状印刷版は、周端部に1個以上の貫通孔を有する。本実施形態において周端部とは、図1の210に示すように、円筒面の端部を示す。本実施形態において周端部の幅は、好ましくは100mm以下、より好ましくは50mm以下、更に好ましくは30mm以下である。
【0010】
この貫通孔は、第一に、該貫通孔に対応する位置にピン等の突起物を有する彫刻用シリンダーに本実施形態のシート状印刷原版の装着を容易にする効果を奏する。さらに多色成分を色分解して、必要な色それぞれに対応した印刷版が必要となる印刷分野に代表されるような同一被印刷物へ異なる印刷版を用いて印刷する場合、該貫通孔を基準点としてレーザー彫刻を行うことで各印刷版に同一の基準点を持たせることができる。この場合、レーザー彫刻装置から彫刻用シリンダーを取り外さずに複数のシート状印刷原版をレーザー彫刻することが好ましい。
第二に、該貫通孔に対応する位置にピンを有する印刷用シリンダーに本実施形態のシート状印刷版を装着する際に装着を容易にするだけでなく、印刷版の装着位置の位置合わせにかかる時間を短縮する効果を有し、特に同一被印刷物へ異なる印刷版を用いて印刷する場合、上記各印刷版の貫通孔を同一の基準点として位置合わせをすることにより、各印刷版同士の位置合わせが飛躍的に早くかつ正確になるという効果を奏する。
【0011】
周端部の貫通孔は少なくとも一方の周端部に1つ存在していれば装着性・位置合わせの精度の向上効果を十分に奏する。外径が500mm以上の大型のスリーブを用いる場合は2つ以上の孔が存在していると装着性が向上することがある。外径が500mm未満のスリーブを用いる場合は、孔が1つ存在していれば装着性・位置合わせの精度の向上効果を十分に満たし、2つ以上存在している印刷原版および印刷版を用いる場合、版の装着の固定容易性の観点からは2つ以上存在しているほうが好ましいが、版の性状によってはごくわずかなたわみにより1つ存在している場合よりも時間がかかることがある。
【0012】
シート状印刷原版の周端部をくわえ込みずれないように固定する機構が彫刻用シリンダーに備わっている場合、本実施形態のシート状印刷原版の周端部にシート状印刷原版の未加工部(周端部以外の部分)の厚みよりも薄い部分が存在していることが好ましい。また、周端部にシート状印刷原版の未加工部の厚みよりも薄い部分が存在していることは、後述の孔明け工程を容易に行う観点からも好ましい。シート状印刷原版の未加工部の厚みよりも薄い部分の厚みは特に制限されないが、0.05mm以上5mm以下であることが好ましい。周端部にシート状印刷原版の未加工部の厚みよりも薄い部分を形成(以下、端部薄膜処理と称することがある)する方法は特に制限されないが、硬化物層の周端部をレーザー、フライス刃により切削する方法がある。また、硬化性樹脂組成物(α)が、感光性樹脂組成物である場合、光硬化時に周端部を遮光することによって未硬化状態とし、その後除去する方法がある。
【0013】
シート状印刷版の周端部をくわえ込みずれないように固定する機構が印刷用シリンダーに備わっている場合、本実施形態のシート状印刷版の周端部にシート状印刷版の未彫刻部の厚みよりも薄い部分が存在していることが好ましい。シート状印刷版の未彫刻部の厚みよりも薄い部分の厚みは特に制限されないが、0.05mm以上5mm以下であることが好ましい。周端部にシート状印刷版の未彫刻部の厚みよりも薄い部分を形成(以下、端部薄膜処理と称することがある)する方法は特に制限されないが、硬化物層の周端部をレーザー、フライス刃により切削する方法がある。
【0014】
[シート状支持体]
シート状支持体の厚みは10μm以上500μm以下が好ましく、より好ましくは50μm以上300μm以下、さらに好ましくは100μm以上250μm以下である。上記厚み範囲であれば、機械的な強度を充分に確保でき、位置あわせ精度の高い印刷が可能となる。また、シート状支持体の材質も本実施形態の目的を損なわない範囲であれば特に制限されないが、ポリエステル、ポリアミド、ポリイミド、ポリカーボネート、ポリオレフィン、アルミニウム、ニッケル、鉄からなる群より選択される少なくとも1種類の材料を含むことが好ましい。プラスチック材料の場合、繊維強化されたものであっても構わない。支持体の線熱膨張係数は、−100ppm以上100ppm以下であることが好ましい。
【0015】
[硬化性樹脂組成物の硬化物層]
硬化性樹脂組成物(α)の硬化物層の厚さは、0.1mm以上10mm以下であれば特に制限されないが、用途によって好ましい範囲が異なる。ドライオフセット印刷では、0.1mm以上1.5mm以下が好ましく、0.3mm以上0.8mm以下がより好ましい。フレキソ印刷では、1mm以上7mm以下が好ましい。さらにフレキソ印刷においても、フィルム印刷の分野で使用されるならば、1mm以上3mm以下が好ましく、段ボール印刷の分野で使用されるならば、3mm以上7mm以下が好ましい範囲である。
本実施形態に用いられる硬化性樹脂組成物(α)の硬化物層のショアD硬度は、20度以上100度以下が好ましい。より好ましくは30度以上70度以下、更に好ましくは、30度以上50度以下である。高精細な印刷物が求められるドライオフセット印刷やフレキソ・フィルム印刷では、ショアD硬度で25度以上70度以下の比較的硬い硬度の硬化物層が好ましい。
【0016】
[シート状印刷原版の製造方法]
彫刻用および印刷用シリンダーの円筒面に沿う曲面を有するシート状印刷原版の形成方法としては、例えば、硬化性樹脂組成物(α)がシート状である場合、(1)彫刻用および印刷用シリンダーの円筒面に沿う曲面を有する硬化用シリンダー表面にシート状支持体をまきつけた後に硬化性樹脂組成物(α)を巻きつける工程、(2)彫刻用および印刷用シリンダーの円筒面に沿う曲面を有する硬化用シリンダー表面にシート状支持体を有する硬化性樹脂組成物(α)を巻きつける工程、(3)彫刻用および印刷用シリンダーの円筒面に沿う曲面を有する硬化用シリンダー内面にシート状支持体を有する硬化性樹脂組成物(α)を巻きつける工程などにより彫刻用および印刷用シリンダーの円筒面に沿う曲面を成形した状態で、熱および/または光により硬化性樹脂組成物(α)を硬化させる工程を経た後に、シート状支持体と硬化性樹脂組成物(α)の硬化物を一体で硬化用円筒状支持体から外すことにより本実施形態のシート状印刷原版を得ることができる。
【0017】
ここで硬化用シリンダーとは、彫刻用および印刷用シリンダーの円筒面に沿う曲面を有する硬化用円筒状支持体または彫刻用および印刷用シリンダーの円筒面に沿う曲面を有する円筒面の一部を有する硬化用支持体を意味している。
また、硬化性樹脂組成物(α)が20℃において液状である場合、彫刻用および印刷用シリンダーの円筒面に沿う曲面を有する硬化用シリンダー表面に先ずシート状支持体のみを巻き付ける工程、硬化用シリンダー表面に巻きつけたシート状支持体上に硬化性樹脂組成物(α)を塗布する工程などにより彫刻用および印刷用シリンダーの円筒面に沿う曲面を成形した状態で、熱および/または光により硬化性樹脂組成物(α)を硬化させる工程によって彫刻用および印刷用シリンダーの円筒面に沿う曲面を成形し、硬化後に、シート状支持体と硬化性樹脂組成物の硬化物を一体で円筒状支持体から外すことにより彫刻用および印刷用シリンダーの円筒面に沿う曲面を有するシート状印刷原版を得ることができる。
【0018】
[孔明け工程]
貫通孔を形成する孔明け工程として、例えば、パンチ等の打ち抜き法やレーザーを用いて焼き飛ばす方法を挙げることができるがこの限りではない。この貫通孔を基準にシート状印刷原版の表面にレーザー彫刻を用いて凹凸パターンを形成することができる。貫通孔は位置合わせに使用するため、寸法精度高く加工できる方法を用いて開けられることが好ましい。印刷工程においては、多色成分を色分解して、必要な色それぞれに対応した印刷版が必要となる。したがって、レーザー彫刻装置において、円筒状支持体として用いる彫刻用シリンダーに孔に対応した位置にピン等の突起物を設置し、この突起物に前記シート状印刷原版の貫通孔を合わせて固定することによって、全ての印刷版の画像パターンをこの孔を基準としてレーザー彫刻することが可能となる。この場合、レーザー彫刻装置から前記シリンダーを取り外さずに複数のシート状印刷原版をレーザー彫刻することが好ましい。更に、この孔は印刷装置の印刷用シリンダーにおいても同様に位置合わせ用として使用することができる。このようにすることによって、印刷工程において、シート状印刷版の位置合わせ操作に必要となる処理時間を大幅に短縮し、しかも高い位置精度を確保することが可能となる。
【0019】
[硬化性樹脂組成物(α)]
本実施形態に用いられる硬化性樹脂組成物(α)は、20℃において固体状であっても液状であっても構わない。硬化性樹脂組成物(α)とは、熱で硬化するタイプの熱硬化性樹脂組成物と光で硬化するタイプの感光性樹脂組成物を挙げることができる。
20℃において固体状である場合、シート状に加工するために樹脂組成物が溶融する温度に加熱する必要があるため、加熱時に硬化が開始しないように、感光性樹脂組成物が好ましい。
硬化性樹脂組成物(α)が、20℃において液状である場合、熱硬化性樹脂組成物であっても、感光性樹脂組成物であっても構わないが、硬化速度の速さからは感光性樹脂組成物が好ましく、特に円筒状に成形する際には、重力による液垂れを起こさずに硬化させることが可能である。ここで言う液状樹脂とは、容易に流動変形し、かつ冷却により変形された形状に固化できるという性質を有する高分子体を意味し、外力を加えたときに、その外力に応じて瞬時に変形し、かつ外力を除いたときには、短時間に元の形状を回復する性質を有するエラストマーに対する言葉である。
硬化性樹脂組成物(α)が、20℃において液状である場合、20℃における粘度は、10Pa・s以上10kPa・s以下であることが好ましい。より好ましくは100Pa・s以上5kPa・s以下、更に好ましくは、100Pa・s以上1kPa・s以下である。粘度が上記範囲であれば、円筒状に成形する際に、液垂れせずに、また気泡を巻き込まずに成形することが可能である。
【0020】
[樹脂(a)]
本実施形態に用いられる硬化性樹脂組成物(α)は、数平均分子量1000以上30万以下の樹脂(a)、数平均分子量が1000未満で重合性不飽和基を有する有機化合物(b)を含有することが好ましい。
本実施形態に用いられる樹脂(a)の数平均分子量のより好ましい範囲は、2000以上25万以下、更に好ましくは5000以上15万以下である。樹脂(a)の数平均分子量は1000以上であれば、後に架橋して作成する感光性樹脂硬化物が強度を保ち、印刷用基材などとして用いる場合、繰り返しの使用にも耐えられる。また、樹脂(a)の数平均分子量の上限は、30万以下が好ましい。30万以下であれば、シート状、あるいは円筒状への成形が容易に実施できる。ここで言う数平均分子量とは、ゲル浸透クロマトグラフィーを用いて測定し、分子量既知のポリスチレンで検量し換算した値である。
【0021】
樹脂(a)は、分子内に重合性不飽和基を有していても構わない。特に好ましい化合物として1分子あたり平均で0.7以上の重合性不飽和基を有するポリマーを挙げることができる。1分子あたり平均で0.7以上であれば、本実施形態の硬化性樹脂組成物より得られる光硬化物の機械強度に優れ、耐久性も良好で、特に印刷用基材として繰り返しの使用にも耐え得るものとなり好ましい。硬化性樹脂硬化物の機械強度を考慮すると、樹脂(a)の重合性不飽和基は1分子あたり0.7以上が好ましく、1を越える量が更に好ましい。また、1分子あたりの重合性不飽和基数の上限については特に限定しないが、好ましい範囲としては20以下である。20以下であれば、光硬化時の収縮を低く抑えることができ、また表面近傍でのクラック等の発生も抑制できる。ここで言う分子内とは高分子主鎖の末端、高分子側鎖の末端や高分子主鎖中や側鎖中に直接、重合性不飽和基が付いている場合なども含まれる。
【0022】
具体的な樹脂(a)としては、下記に示すようなポリマーを骨格として、前記特定官能基を有するものを挙げることができる。骨格となるポリマーの例として、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン類、ポリブタジエン、ポリイソプレンなどのポリジエン類、ポリ塩化ビニルポリ塩化ビニリデン等のポリハロオレフィン類、ポリスチレン、ポリアクリロニトリル、ポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアセタール、ポリアクリル酸、ポリ(メタ)アクリル酸エステル類、ポリ(メタ)アクリルアミド、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリアセタール、ポリウレタン、ポリアミド、ポリウレア、ポリイミド等の主鎖にヘテロ原子を有する高分子等からなる群より選ばれる1種若しくは2種以上のものをもちいることができる。複数の高分子を用いる場合の形態としては共重合体、ブレンドどちらでもよい。
【0023】
特にフレキソ印刷版用途のように柔軟なレリーフ画像が必要な場合には、樹脂(a)として、一部、ガラス転移温度が20℃以下の液状樹脂、さらに好ましくはガラス転移温度0℃以下の液状樹脂を添加することもできる。このような液状樹脂として、例えばポリエチレン、ポリブタジエン、水添ポリブタジエン、ポリイソプレン、水添ポイソプレン等の炭化水素類、アジペート、ポリカプロラクトン等のポリエステル類、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール等のポリエーテル類、脂肪族ポリカーボネート、ポリジメチルシロキサン等のシリコーン類、(メタ)アクリル酸及び/またはその誘導体の重合体及びこれらの混合物やコポリマー類があげられる。その含有量は、樹脂(a)全体に対して30wt%以上100wt%以下含有することが好ましい。特に耐候性の観点からポリカーボネート構造を有する不飽和ポリウレタン類が好ましい。
【0024】
樹脂(a)を構成する化合物に重合性不飽和基を導入する方法として、例えば直接、重合性の不飽和基をその分子末端あるいは分子鎖中に導入したものを用いても良いが、別法として、水酸基、アミノ基、エポキシ基、カルボキシル基、酸無水物基、ケトン基、ヒドラジン残基、イソシアネート基、イソチオシアネート基、環状カーボネート基、エステル基などの反応性基を複数有する化合物に、前記反応性基と結合しうる官能基を複数有する結合剤(例えば水酸基やアミノ基の場合のポリイソシアネートなど)を反応させ、分子量の調節、及び末端の結合性基への変換を行った後に、反応によって得られた化合物と、この化合物の末端結合性基と反応する官能基および重合性不飽和基を有する化合物とを反応させて、末端に重合性不飽和基を導入する方法などの方法が好適にあげられる。
【0025】
また、本実施形態に用いられる硬化性樹脂硬化物をレーザー彫刻用印刷基材として使用する場合、樹脂(a)として熱分解性の高い化合物を使用することが好ましい。例えば、α−メチルスチレン、メタクリル酸エステル、アクリル酸エステル、カーボネート結合、カルバメート結合等を分子内に有する化合物は、熱分解性の高い化合物として知られている。熱分解性の指標として、不活性ガス雰囲気中でサンプルを加熱した際の重量減少を測定した熱重量分析法のデータを用いることができる。好ましい樹脂としては、重量が半減する時点の温度が、150℃以上450℃以下の範囲であることが好ましい。より好ましい範囲は、250℃以上400℃以下、更に好ましくは、250℃以上380℃以下である。また、熱分解が狭い温度範囲で起こる化合物が好ましい。その指標として、前記熱重量分析において、重量が初期重量の80%に減少する温度と、重量が初期重量の20%に減少する温度との差が、100℃以下であることが好ましい。より好ましくは、80℃以下、更に好ましくは60℃以下である。
【0026】
ドライオフセット印刷用途で用いる場合、樹脂(a)がポリアミド、ポリエステル、ポリウレタン、ポリカーボネート、ポリビニルアルコール、ビニルアルコール−酢酸ビニル共重合体から選択される少なくとも1種類の樹脂を含有していることが好ましい。
フレキソ印刷用途では、樹脂(a)がポリウレタン、ポリカーボネート、ポリエーテルポリオール、スチレン−ブタジエン共重合体、スチレン−イソプレン共重合体から選択される少なくとも1種類の樹脂を含有していることが好ましい。
【0027】
[有機化合物(b)]
本実施形態に用いられる有機化合物(b)は、ラジカル重合反応あるいは開環重合反応に関与する不飽和結合を有した化合物であり、樹脂(a)との希釈のし易さを考慮すると数平均分子量は1000以下が好ましい。有機化合物(b)は例えば、エチレン、プロピレン、スチレン、ジビニルベンゼン等のオレフィン類、アセチレン類、(メタ)アクリル酸及びその誘導体、ハロオレフィン類、アクリロニトリル等の不飽和ニトリル類、(メタ)アクリルアミド及びその誘導体、アリルアルコール、アリルイソシアネート等のアリル化合物、無水マレイン酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸等の不飽和ジカルボン酸及びそれらの誘導体、酢酸ビニル類、N−ビニルピロリドン、N−ビニルカルバゾール、シアネートエステル類等があげられるが、その種類の豊富さ、価格等の観点から(メタ)アクリル酸及び、(メタ)アクリル酸エステル等の誘導体が好ましい例である。
【0028】
該誘導体は、シクロアルキル基、ビシクロアルキル基、シクロアルケン基、ビシクロアルケン基等の官能基を有する脂環族化合物、ベンジル基、フェニル基、フェノキシ基、メチルスチリル基、スチリル基等の官能基を有する芳香族化合物、アルキル基、ハロゲン化アルキル基、アルコキシアルキル基、ヒドロキシアルキル基、アミノアルキル基、テトラヒドロフルフリル基、グリシジル基等の官能基を有する化合物、アルキレングリコール、ポリオキシアルキレングリコール、(アルキル/アリルオキシ)ポリアルキレングリコールやトリメチロールプロパン等の多価アルコールのエステル化合物等があげられる。
本実施形態に用いられる重合性不飽和基を有する有機化合物(b)はその目的に応じて1種若しくは2種以上のものを選択できる。例えば印刷版として用いる場合、印刷インキの溶剤であるアルコールやエステル等の有機溶剤に対する膨潤を押さえるために用いる有機化合物として長鎖脂肪族、脂環族または芳香族の誘導体を少なくとも1種類以上有することが好ましい。
本実施形態に用いられる硬化性樹脂組成物より得られる硬化物の機械強度を高めるためには、有機化合物(b)としては脂環族または芳香族置換基を有する化合物が、少なくとも1種類以上有することが好ましく、この場合、有機化合物(b)の全体量の20wt%以上100wt%以下であることが好ましく、更に好ましくは50wt%以上100wt%以下である。
【0029】
[感光性樹脂組成物・光重合開始剤]
本実施形態に用いられる硬化性樹脂組成物(α)が感光性樹脂組成物である場合、感光性樹脂組成物(α)に光を照射して硬化させて硬化物層を形成する。硬化に用いる光としては、紫外線、可視光線の他、電子線、X線等の高エネルギー線を用いることもできる。特に紫外線、可視光線を用いて光硬化させる場合、光重合開始剤を添加することが好ましい。光重合開始剤としては、水素引き抜き型光重合開始剤(d)あるいは/および崩壊型光重合開始剤(e)を添加することが好ましい。
【0030】
[水素引き抜き型光重合開始剤(d)]
水素引き抜き型光重合開始剤(d)として、特に限定するものではないが、芳香族ケトンを用いることが好ましい。芳香族ケトンは光励起により効率良く励起三重項状態になり、この励起三重項状態は周囲の媒体から水素を引き抜いてラジカルを生成する化学反応機構が提案されている。生成したラジカルが光架橋反応に関与するものと考えられる。本実施形態で用いる水素引き抜き型光重合開始剤(d)として励起三重項状態を経て周囲の媒体から水素を引き抜いてラジカルを生成する化合物であれば何でも構わない。芳香族ケトンとして、ベンゾフェノン類、ミヒラーケトン類、キサンテン類、チオキサントン類、アントラキノン類を挙げることができ、これらの群から選ばれる少なくとも1種類の化合物を用いることが好ましい。ベンゾフェノン類とは、ベンゾフェノンあるいはその誘導体を指し、具体的には3,3‘,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸無水物、3,3‘,4,4’−テトラメトキシベンゾフェノン等である。ミヒラーケトン類とはミヒラーケトンおよびその誘導体をいう。キサンテン類とはキサンテンおよびアルキル基、フェニル基、ハロゲン基で置換された誘導体をいう。チオキサントン類とは、チオキサントンおよびアルキル基、フェニル基、ハロゲン基で置換された誘導体をさし、エチルチオキサントン、メチルチオキサントン、クロロチオキサントン等を挙げることができる。アントラキノン類とはアントラキノンおよびアルキル基、フェニル基、ハロゲン基等で置換された誘導体をいう。水素引き抜き型光重合開始剤の添加量は、感光性樹脂組成物(α)全体量の0.3wt%以上10wt%以下、より好ましくは0.5wt%以上5wt%以下であることが望ましい。添加量がこの範囲であれば、感光性樹脂組成物(α)を大気中で光硬化させた場合、硬化物表面の硬化性は充分に確保でき、また、長期保存時に表面にクラック等が発生せず、退候性を確保することができる。
【0031】
[崩壊型光重合開始剤(e)]
崩壊型光重合開始剤(e)とは、光吸収後に分子内で開裂反応が発生し活性なラジカルが生成する化合物を指し、特に限定するものではない。具体的には、ベンゾインアルキルエーテル類、2,2−ジアルコキシ−2−フェニルアセトフェノン類、アセトフェノン類、アシルオキシムエステル類、アゾ化合物類、有機イオウ化合物類、アシルホスフィンオキシド類、ジケトン類等を挙げることができ、これらの群から選ばれる少なくとも1種類の化合物を用いることが好ましい。ベンゾインアルキルエーテル類としては、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル等を挙げることができる。2,2−ジアルコキシ−2−フェニルアセトフェノン類としては、2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン、2,2−ジエトキシ−2−フェニルアセトフェノン等を挙げることができる。アセトフェノン類としては、アセトフェノン、トリクロロアセトフェノン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルアセトフェノン、2,2−ジエトキシアセトフェノン等を挙げることができる。アシルオキシムエステル類としては、1−フェニル−1,2−プロパンジオン−2−(o−ベンゾイル)オキシム等を挙げることができる。アゾ化合物としては、アゾビスイソブチロニトリル、ジアゾニウム化合物、テトラゼン化合物等を挙げることができる。ジケトン類としては、ベンジル、メチルベンゾイルホルメート等を挙げることができる。崩壊型光重合開始剤の添加量は、感光性樹脂組成物(α)全体量の0.3wt%以上10wt%以下、より好ましくは0.5wt%以上5wt%以下であることが望ましい。添加量がこの範囲であれば、感光性樹脂組成物(α)を大気中で光硬化させた場合、硬化物内部の硬化性は充分に確保できる。
【0032】
水素引き抜き型光重合開始剤として機能する部位と崩壊型光重合開始剤として機能する部位を同一分子内に有する化合物を、光重合開始剤として用いることもできる。α−アミノアセトフェノン類を挙げることができる。例えば、2−メチル−1−(4−メチルチオフェニル)−2−モルホリノ−プロパン−1−オン、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−ブタノン等の化合物を挙げることができる。
水素引き抜き型光重合開始剤として機能する部位と崩壊型光重合開始剤として機能する部位を同一分子内に有する光重合開始剤(c)の添加量としては、感光性樹脂組成物(α)全体量の0.3wt%以上10wt%以下が好ましく、より好ましくは0.5wt%以上3wt%以下である。添加量がこの範囲であれば、感光性樹脂組成物(α)を大気中で光硬化させた場合であっても、硬化物の機械的物性は充分に確保できる。
【0033】
[光酸発生剤、光塩基発生剤]
本実施形態に用いられる感光性樹脂組成物として、樹脂(a)あるいは有機化合物(b)に開環重合性の官能基を有する化合物を用いて、光で酸あるいは塩基を発生させる光重合開始剤を用いることができる。芳香族ジアゾニウム塩、芳香族ヨードニウム塩、芳香族スルホニウム塩などを挙げることができる。
[熱硬化性樹脂組成物・熱重合開始剤]
本実施形態に用いられる硬化性樹脂組成物(α)として熱硬化性樹脂組成物を用いることもできる。樹脂(a)あるいは有機化合物(b)に開環重合性の官能基を有する化合物を用いて、熱で酸あるいは塩基を発生させる熱重合開始剤を用いることができる。この場合、加熱処理工程でのみ硬化が開始する潜在性硬化剤を用いることが好ましい。潜在性硬化剤は、マイクロカプセル技術を用いて形成される熱重合開始剤であり、たとえば、旭化成ケミカルズ社製の潜在性硬化剤「ノバキュア」(商標)を良好な熱重合開始剤として挙げることができる。
【0034】
[微粒子]
本実施形態に用いられる硬化性樹脂組成物(α)には目的に応じて無機系微粒子、有機系微粒子、有機無機複合微粒子を添加することができる。これらの微粒子を添加することにより硬化させて得られる硬化性樹脂組成物(α)の硬化物の機械的物性の向上、硬化性樹脂硬化物表面の濡れ性改善、あるいは硬化性樹脂組成物(α)の粘度の調整、硬化性樹脂硬化物の粘弾性特性の調整等が可能となる。無機系微粒子あるいは有機系微粒子の材質は特に限定するものではなく、公知のものを用いることができる。また、有機無機複合微粒子として、無機系微粒子の表面に有機物層あるいは有機系微粒子を形成した微粒子、あるいは有機系微粒子表面に無機物層あるいは無機微粒子を形成した微粒子等をあげることができる。
【0035】
また、レーザー彫刻法により硬化物層表面にパターンを形成する目的のために、レーザー彫刻時に発生する粘稠性液状残渣の吸着除去特性に優れる無機多孔質微粒子を添加しても構わない。特に限定するものではないが、例えば、多孔質シリカ、メソポーラスシリカ、シリカ−ジルコニア多孔質ゲル、ポーラスアルミナ、多孔質ガラス等を挙げることができる。
本実施形態の微粒子は、数平均粒径が0.01〜100μmであることが好ましい。この数平均粒径の範囲の微粒子を用いた場合、樹脂(a)及び有機化合物(b)との混合を行う際に粘度の上昇、気泡の巻き込み、粉塵の大量発生等の不都合を生じることなく、硬化性樹脂硬化物表面に凹凸が発生することもない。より好ましい平均粒子径の範囲は、0.1〜20μmであり、更に好ましい範囲は1〜10μmである。本実施形態の微粒子の平均粒子径は、レーザー散乱式粒子径分布測定装置を用いて測定した値である。
【0036】
本実施形態に用いられる微粒子の粒子形状は特に限定するものではなく、球状、扁平状、針状、無定形、あるいは表面に突起のある粒子などを使用することができる。特に耐磨耗性の観点からは、球状粒子が好ましい。
また、微粒子の表面をシランカップリング剤、チタンカップリング剤、その他の有機化合物で被覆し表面改質処理を行い、より親水性化あるいは疎水性化した粒子を用いることもできる。
本実施形態において、これらの微粒子は1種類もしくは2種類以上のものを選択できる。
【0037】
[硬化性樹脂組成物(α)の組成比]
本実施形態に用いられる硬化性樹脂組成物(α)において樹脂(a)および有機化合物(b)を用いる場合、有機化合物(b)の割合は、樹脂(a)100重量部に対して、有機化合物(b)は5〜200重量部が好ましく、20〜100重量部の範囲がより好ましい。有機化合物(b)の割合が、上記の範囲である場合、得られる硬化性樹脂組成物の硬化物の硬度と引張強伸度のバランスがとりやすく、光硬化時の収縮も小さい範囲に収まり、厚み精度を確保することができる。
また、更に微粒子を用いる場合の微粒子の割合は、硬化性樹脂組成物(α)より得られる印刷原版の物性のバランスの観点から、樹脂(a)100重量部に対して、好ましくは1〜100重量部、より好ましくは2〜50重量部、更に好ましくは、2〜20重量部である。
【0038】
[その他添加剤]
本実施形態に用いられる感光性樹脂組成物には用途や目的に応じてその他添加剤として、重合禁止剤、紫外線吸収剤、滑剤、界面活性剤、可塑剤、香料などを添加することができる。その他添加剤の添加量は特に制限されないが、シート状感光性樹脂組成物全体に対してその他添加剤の総量が0.1wt%以上20wt%以下であることが好ましい。
[硬化性樹脂組成物(α)の成形方法]
本実施形態に用いられる硬化性樹脂組成物(α)をシート状、もしくは円筒状に成形する方法は、既存の樹脂の成形方法を用いることができる。例えば、注型法、ポンプや押し出し機等の機械で樹脂をノズルやダイスから押し出し、ブレードで厚みを合わせる、ロールによりカレンダー加工して厚みを合わせる方法、スプレー等を用いて噴霧する方法が例示できる。その際、硬化性樹脂組成物(α)の熱分解を起こさない範囲で加熱しながら成形を行うことも可能である。また、必要に応じて圧延処理、研削処理などをほどこしても良い。
【0039】
[クッション層]
本実施形態に用いられる硬化性樹脂組成物(α)の硬化物層とシート状支持体との間にエラストマーからなるクッション層を形成することもできる。クッション層としては、ショアA硬度が10以上70度以下、あるいはASKER−C型硬度計で測定したASKER−C硬度が20度以上85度以下のエラストマー層であることが好ましい。ショアA硬度が10度以上あるいはASKER−C硬度が20度以上である場合、適度に変形するため、印刷品質を確保することができる。また、ショアA硬度が70度以下あるいはASKER−C硬度が85度以下であれば、クッション層としての役割を果たすことができる。より好ましいショアA硬度の範囲は20〜60度、ASKER−C硬度では45〜75度の範囲である。ショアA硬度とASKER−C硬度は、クッション層に使用する材質により使い分けることが好ましい。2種類の硬度の違いは、測定に用いる硬度計の押針形状の違いに由来する。均一な樹脂組成の場合、ショアA硬度を用いることが好ましく、発泡ポリウレタン、発泡ポリエチレン等の発泡性基材のように不均一な樹脂組成の場合には、ASKER−C硬度を用いることが好ましい。ASKER−C硬度は、JIS K7312規格に準拠する測定法である。
【0040】
前記クッション層は、特に限定せず、熱可塑性エラストマー、光硬化型エラストマー、熱硬化型エラストマー等ゴム弾性を有するものであれば何でも構わない。特にシート状あるいは円筒状印刷版への加工性の観点から、光で硬化する液状感光性樹脂組成物を用い、硬化後にエラストマー化する材料を用いることが簡便であり好ましい。
本実施形態に用いられるクッション層が、感光性樹脂硬化物を含み、且つ気泡あるいは有機系微粒子を含有することが好ましい。また、前記有機系微粒子が中空マイクロカプセルであって、該中空マイクロカプセルの表面に無機系微粒子が付着しているものを用いることが好ましい。前記有機系微粒子の平均粒子径が1μm以上500μm以下であることが好ましい。より好ましい範囲は10μm以上300μm以下、更にこのましくは80μm以上200μm以下である。
【0041】
クッション層の密度は、0.1g/cm以上0.9g/cm以下であることが好ましい。より好ましくは0.3g/cm以上0.7g/cm以下、更に好ましくは0.4g/cm以上0.6g/cm以下である。クッション層の密度がこの範囲であれば、印刷工程においてレーザー彫刻層にかかる衝撃を充分に吸収することができる。
クッション層に用いる熱可塑性エラストマーの具体例としては、スチレン系熱可塑性エラストマーであるSBS(ポリスチレン−ポリブタジエン−ポリスチレン)、SIS(ポリスチレン−ポリイソプレン−ポリスチレン)、SEBS(ポリスチレン−ポリエチレン/ポリブチレン−ポリスチレン)等、オレフィン系熱可塑性エラストマー、ウレタン系熱可塑性エラストマー、エステル系熱可塑性エラストマー、アミド系熱可塑性エラストマー、シリコン系熱可塑性エラストマー、フッ素系熱可塑性エラストマー等を挙げることができる。
【0042】
光硬化型エラストマーとしては、前記熱可塑性エラストマーに光重合性モノマー、可塑剤および光重合開始剤等を混合したもの、液状樹脂に光重合性モノマー、光重合開始剤等を混合した液状感光性樹脂組成物などを挙げることができる。本実施形態では、微細パターンの形成機能が重要な要素である感光性樹脂組成物の設計思想とは異なり、光を用いて微細なパターンの形成を行う必要がなく、全面露光により硬化させることにより、必要な機械的強度を確保できれば良いため、材料の選定において自由度が極めて高い。
また、硫黄架橋型ゴム、有機過酸化物、フェノール樹脂初期縮合物、キノンジオキシム、金属酸化物、チオ尿素等の化合物を架橋剤として用いる非硫黄架橋型ゴムでも構わない。
更に、テレケリック液状ゴムを反応する硬化剤を用いて3次元架橋させてエラストマー化したものを使用することもできる。
また、発泡ポリウレタン、発泡ポリエチレン等の材質で、独立あるいは連続気泡を層内に有するクッション層であっても構わず、市販品として入手可能なクッション材、クッションテープを使用することもでき、クッション層の片面あるいは両面に接着剤あるいは粘着剤が塗布されたものであっても構わない。
【0043】
[印刷原版の表面処理]
また、本実施形態に用いられる硬化性樹脂組成物(α)の硬化物の表面に改質層を形成させることにより、印刷基材表面のタックの低減、インク濡れ性の向上を行うこともできる。改質層としては、シランカップリング剤あるいはチタンカップリング剤等の表面水酸基と反応する化合物で処理した被膜等を挙げることができる。
[レーザー彫刻]
本実施形態のシート状印刷原版表面を、レーザー彫刻法を用いてパターンを形成する場合、レーザー彫刻法においては、形成したい画像をデジタル型のデータとしてコンピューターを利用してレーザー装置を操作し、印刷基材にレリーフ画像を作成する。レーザー彫刻に用いるレーザーは、原版が吸収を有する波長を含むものであればどのようなものを用いてもよいが、彫刻を高速度で行うためには出力の高いものが望ましく、炭酸ガスレーザーやYAGレーザー、半導体レーザー等の赤外線あるいは赤外線放出固体レーザーが好ましいものの一つである。また、可視光線領域に発振波長を有するYAGレーザーの第2高調波、銅蒸気レーザー、紫外線領域に発振波長を有する紫外線レーザー、例えばエキシマレーザー、第3あるいは第4高調波へ波長変換したYAGレーザーは、有機分子の結合を切断するアブレージョン加工が可能であり、微細加工に適する。また、レーザーは連続照射でも、パルス照射でも良い。
【0044】
本実施形態のシート状印刷原版は円筒面の周端部に1つ以上の貫通孔と、彫刻用シリンダーの円筒面に沿う曲面を有している。該シート状印刷原版を彫刻機に取り付ける際に、シリンダーの円筒面に沿う曲面を有していることでシリンダーへの装着を容易にし、かつシート状印刷原版に作製された貫通孔に対応した位置にピンが設定されている彫刻用シリンダーを用いることで位置あわせに要する時間を格段に短縮することができる。
本実施形態の貫通孔を有するシート状印刷原版を彫刻装置の彫刻用シリンダーに装着する際に、貫通孔の位置に対応する部分にピン等の突起物がある場合は、該突起物に貫通孔を合わせて彫刻用シリンダーに装着することが好ましい。該突起物はレーザー彫刻に影響を与えないように、シート状印刷原版のレーザー彫刻されていない部分の厚み以下の高さであることが好ましい。
【0045】
本実施形態のシート状印刷原版表面にレーザー彫刻を行う場合、複数の印刷版を必要とする印刷分野において各印刷パターンの位置合わせの精度を向上させるため、前記貫通孔を基準点としてレーザー彫刻を行うことが好ましい。
レーザーによる彫刻は酸素含有ガス下、一般には空気存在下もしくは気流下に実施するが、炭酸ガス、窒素ガス下でも実施できる。彫刻終了後、レリーフ印刷版面にわずかに発生する粉末状もしくは液状の物質は適当な方法、例えば溶剤や界面活性剤の入った水等で洗いとる方法、高圧スプレー等により水系洗浄剤を照射する方法、高圧スチームを照射する方法などを用いて除去しても良い。
【0046】
[レーザー彫刻カスの除去及び印刷版表面の処理方法]
本実施形態において、レーザー光を照射し凹パターンを形成する彫刻後に、版表面に残存する粉末状あるいは粘性のある液状カスを除去する工程に引き続き、パターンを形成した印刷版表面に波長200nm〜450nmの光を照射する後露光を実施することもできる。表面のタック除去に効果がある方法である。後露光は大気中、不活性ガス雰囲気中、水中のいずれの環境で行っても構わない。用いる感光性樹脂組成物中に水素引き抜き型光重合開始剤が含まれている場合、特に効果的である。更に、後露光工程前に印刷版表面を、水素引き抜き型光重合開始剤を含む処理液で処理し露光しても構わない。また、水素引き抜き型光重合開始剤を含む処理液中に印刷版を浸漬した状態で露光しても構わない。
【0047】
[印刷機への取り付け工程]
本実施形態のシート状印刷版は円筒面の周端部に1つ以上の貫通孔と、シリンダーの円筒面に沿う曲面を有している。該シート状印刷版を印刷機に取り付ける際に、シリンダーの円筒面に沿う曲面を有していることでシリンダーへの装着を容易にし、かつシート状印刷版に作製された貫通孔に対応した位置にピンが設定されている印刷用シリンダーを用いることで位置あわせに要する時間を格段に短縮することができる。
また、印刷機に印刷版の端部をくわえ込むチャック機構が備わっている場合は、シート状印刷版の円筒面の周端部にシート状印刷版の未彫刻部分の厚みよりも薄い部分を作製することにより、周端部を容易にくわえ込むことを可能し装着時間を更に短縮することを可能にする。
【0048】
[シリンダー]
本実施形態で用いられるシリンダーには、硬化性樹脂組成物(α)を硬化させる際に用いる硬化用シリンダーと、シート状印刷原版をレーザー彫刻する際に用いる彫刻用シリンダーと、シート状印刷版を用いて印刷する際に用いる印刷用シリンダーの3種類がある。
使用する印刷装置の印刷用シリンダーの外径は一般的に用いられる印刷機の大きさの観点から通常50mm以上1000mm以下の範囲であるがこの限りではない。
使用する印刷装置の印刷用シリンダーへの装着を容易にする観点から、硬化用シリンダーの外径は印刷用シリンダーの外径以下であることが好ましく、同一であることがより好ましい。ただし、硬化用のシリンダーの外径が印刷用シリンダーの外径よりも大きい場合であっても、硬化用シリンダーからシート状印刷原版を取り外した後に周端部を切除し、周長を短くすることによれば、印刷用シリンダーへの装着は可能である。
また、使用する彫刻装置の彫刻用シリンダーへの装着を容易にする観点から、彫刻用シリンダーの外径は硬化用シリンダーの外径以上であることが好ましい。しかし、彫刻用シリンダーの外径が硬化用シリンダーの外径未満であっても、硬化用シリンダーからシート状印刷原版を取り外した後に周端部を切除し、周長を短くすることによれば、彫刻用シリンダーへの装着は可能である。
【0049】
[用途]
本実施形態で製造されたシート状印刷版の用途として、フレキソ印刷、ドライオフセット印刷、グラビア印刷を挙げることができる。特に精度の高い印刷物が要求されるフレキソ印刷のラベル印刷等のナローウェッブや、缶印刷やチューブ印刷等のドライオフセット印刷の曲面印刷が、好ましい用途である。
ドライオフセット印刷においてインキが脂肪族炭化水素及び/又は芳香族炭化水素を含む場合、感光性樹脂硬化物層(c)にポリカーボネート、ポリウレタン、ポリアミド、ポリビニルアルコール、ビニルアルコール−酢酸ビニル共重合体を含有することが好ましい。これらの樹脂材料は、上記の溶剤に対する耐性を有するため好ましい。上記脂肪族炭化水素として、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、シクロオクタン、シクロデカン、ジペンテン、ゴム揮発油、ミネラルスピリット、高沸点石油溶剤(インキオイル)等の化合物を挙げることができる。また、芳香族炭化水素として、トルエン、キシレン、ジメチルベンゼン、ジクロロベンゼン、ソルベントナフタ、テトラリン等の化合物を挙げることができる。
【実施例】
【0050】
本実施形態を更に詳細に説明するために、以下に、実施例および比較例を示すが、これらの実施例は本実施形態の説明およびそれによって得られる効果などを具体的に示すものであって、本実施形態を何ら制限するものではない。なお、以下の実施例及び比較例における諸特性は、下記の方法に従って測定した。
[測定方法]
(1)レーザー彫刻
レーザー彫刻は炭酸ガスレーザー彫刻機(独国、ESKO社製、米国、コヒーレント社製、出力250W炭酸ガスレーザーを搭載、レーザーの発振波長は10.6μm)を用いて行った。彫刻は、網点(120線/インチ、面積率10%)パターンを作成して実施した。彫刻深さは0.55mmとした。
(2)粘度
硬化性樹脂組成物(α)あるいは有機化合物(b)の粘度は、東京計器社(日本国)製B型粘度計「B8H型」(商標)を用い、20℃で測定した。
【0051】
(3)数平均分子量の測定
樹脂(a)、有機化合物(b)の数平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフ法(GPC法)を用いて、分子量既知のポリスチレンで換算して求めた。東ソー社製の高速GPC装置「HLC−8020」(商標)と東ソー社製のポリスチレン充填カラム「TSKgel GMHXL」(商標)を用い、テトラヒドロフラン(THF)で展開して測定した。カラムの温度は40℃に設定した。GPC装置に注入する試料としては、樹脂濃度が1wt%のTHF溶液を調製し、注入量10μlとした。また、検出器としては、示差屈折計を用いた。
(4)曲率半径の測定
本発明のシート状印刷原版の曲率半径の測定は、円筒面に垂直な方向に幅30mmでシート状印刷原版を切断し、円筒面を垂直に立てるように切断物を平板上に置き、円筒面の曲率を測定した。切断した端部の内、平板と反対側の端部にインキで着色し、紙に形状を写し取った。曲率を有する部分の3点を選び、その3点から円の中心を求め、設定された中心から3点までの距離を測定し3点の平均値を1つの曲率半径とした。この作業を、異なる3点を5回測定し、それらの平均値を求める曲率半径とした。
【0052】
(製造例1)
温度計、攪拌機、還流器を備えた1Lのセパラブルフラスコに旭化成株式会社製ポリカーボネートジオールである、「PCDL L4672」(商標)(数平均分子量1990、OH価56.4)447.24gとトリレンジイソシアナート30.83gを加え80℃に加温下に3時間反応させた後、2−メタクリロイルオキシイソシアネート14.83gを添加し、さらに3時間反応させて、末端がメタアクリル基(分子内の重合性不飽和基が1分子あたり平均2個)である数平均分子量約10000の樹脂(ア)を製造した。この樹脂は20℃では水飴状であり、外力を加えると流動し、かつ外力を除いても元の形状を回復しなかった。
【0053】
(実施例1)
樹脂(a)として、製造例1で作製した樹脂(ア)70重量部、有機化合物(b)として、フェノキシエチルメタクリレート(分子量190)10重量部およびポリピレングリコールモノメタクリレート(分子量400)10重量部、微粒子として富士シリシア化学株式会社製の多孔質性微粉末シリカ「サイロスフェアC−1504」(商標)(以下C−1504と略す、数平均粒子径4.5μm、比表面積520m/g、平均細孔径12nm、細孔容積1.5ml/g、灼熱減量2.5wt%、吸油量290ml/100g)5重量部、光重合開始剤としてベンゾフェノン(以下BPと略す)0.5重量部および2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン(以下DMPAPと略す)0.6重量部を混合した硬化性樹脂組成物(α1)を調整した。得られた硬化性樹脂組成物(α1)は、20℃において液状であった。また、B型粘度計を用いて測定した粘度は、20℃において、1200Pa・sであった。
【0054】
光硬化性接着剤を厚さ20μmで塗布した厚さ0.25mm、幅180mm、長さ710mmのPET(ポリエチレンテレフタレート)フィルムを、外径226.12mm、幅200mmの金属製の硬化用シリンダー上に巻きつけ、両端部が剥がれないように耐熱テープで固定した。この状態で、金属シリンダーとPETフィルムを温度130℃のオーブンに入れ10分間熱処理を行った。その後、PET上に上記のようにして得られた硬化性樹脂組成物(α1)を厚さ0.65mmで塗布し、シリンダーを回転させながらフュージョン社製のメタルハライドランプ「F450V型UVランプ」(商標)の光を350nmにおいて4000mJ/cmの条件で露光し、硬化物層を形成した。硬化物のショアD硬度は、28度であった。
【0055】
光硬化後、PETフィルムの継ぎ目部において、カッターで切断し、硬化用シリンダーから取り外し円筒面を有するシート状印刷原版を得た。得られたシート状印刷原版を外径226.12mm、幅200mmのレーザー彫刻機の金属製の彫刻用シリンダーに両面接着テープを用いて貼り付け、両端部の幅50mmの硬化物層をレーザー彫刻法により切削し厚さ0.5mmまで除去する端部薄膜処理を施した。
両端部を処理したシート状印刷原版をレーザー彫刻機の彫刻用シリンダーから外し、片側の周端部に沿って間隔をあけて2つの貫通孔をパンチ孔明け機で形成した。パンチ孔明け機は、一定の間隔で孔が明けられる機構を有しており、孔間隔は100mmとした。また、孔径は、200μmの円形とした。
【0056】
得られたシート状印刷原版は、円筒面を有しており、平面状に戻すことはできなかった。円筒面の曲率半径は、130mmであった。
同様にして、印刷工程で使用する8色分のシート状印刷原版を8枚準備した。
次に、上記貫通孔に対応した位置に高さ0.7mmのピンが表面に存在する彫刻用シリンダーをレーザー彫刻機に取り付け、片側の孔を基準点として、画像データに基づきレーザー彫刻を実施し、シート状印刷版を得た。その際、1枚のシート状印刷原版をレーザー彫刻機の彫刻用シリンダーに取り付けるまでに要した時間は約3分であった。8枚のシート状印刷原版について、全て同じ彫刻用シリンダーを用いて彫刻を行った。この彫刻用シリンダーは、8枚分の彫刻が全て完了するまで、レーザー彫刻機から外さなかった。
【0057】
得られたシート状印刷版を、外径226.12mmの金属製の彫刻用シリンダーを有するストーレーマシーナリー社製(米国)のドライオフセット缶印刷機にセットし、アルミニウム缶表面に印刷を実施した。用いた金属製の印刷用シリンダーには、上記貫通孔に対応した位置に高さ0.7mmのピンがあり、このピンに印刷版の貫通孔を合わせ、さらに両端部をチャックする機構を用いてシリンダー上にシート状印刷版を固定した。1枚のシート状印刷版を固定するまでに要した時間は、平均で5分であった。
アルミニウム缶への印刷は、1秒あたり25本のスピードで実施した。アルミニウム缶の表面には、良好な印刷品質で印刷されていることが確認できた。また、脂肪族炭化水素を含有したドライオフセットインキへの耐久性についても、問題はなかった。
【0058】
(実施例2)
樹脂(a)として、大日精化社製の数平均分子量が約10万のポリカーボネートポリウレタン「レザミンP890」(商標)70重量部、有機化合物(b)として、フェノキシエチルメタクリレート(分子量190)30重量部およびトリメチロールプロパントリアクリレート(分子量338)1重量部、微粒子としてC−1504を5重量部、光重合開始剤としてBPを0.5重量部およびDMPAPを0.6重量部を、ニーダーを用いて温度130℃で混合し、硬化性樹脂組成物を調整した。得られた硬化性樹脂組成物を2軸押し出し装置を用いて、接着剤が表面に薄く塗布されている厚さ100μmのPETフィルム上に、厚さ0.8mm、幅250mm、長さ2000mmで押し出し、更にシリコーン離型処理した厚み50μmのカバーシートで挟み、シート状の硬化性樹脂組成物(α2)を形成した後、幅180mm、長さ710mmに切断した。この硬化性樹脂組成物(α2)は、20℃において固体状であった。
【0059】
得られたシート状硬化性樹脂組成物(α2)を、外径226.12mm、幅200mmの金属製の硬化用シリンダー上に巻きつけ、両端部が剥がれないように両面テープで固定した。その後、カバーフィルムを剥離し、シリンダーを回転させながら前述のメタルハライドランプの光を350nmにおいて4000mJ/cmの条件で露光し、硬化物層を形成し、実施例1と同様にしてシート状印刷原版を得た。硬化物のショアD硬度は、36度であった。
その後実施例1と同様にして、シート状印刷原版の両端部を処理し、2つの貫通孔を形成した。
【0060】
得られたシート状印刷原版は、円筒面を有しており、平面状に戻すことはできなかった。円筒面の曲率半径は、118mmであった。
同様にして、印刷工程で使用する8色分のシート状印刷原版を8枚準備した。
次に、上記貫通孔に対応した位置に高さ0.7mmのピンが表面に存在するシリンダーをレーザー彫刻機に取り付け、片側の孔を基準点として、画像データに基づきレーザー彫刻を実施し、シート状印刷版を得た。その際、1枚のシート状印刷原版をレーザー彫刻機の彫刻用シリンダーに取り付けるまでに要した時間は約3分であった。8枚のシート状印刷原版について、全て同じシリンダーを用いて彫刻を行った。このシリンダーは、8枚分の彫刻が全て完了するまで、レーザー彫刻機から外さなかった。
【0061】
得られたシート状印刷版を、外径226.12mmの金属製シリンダーを有する前述のドライオフセット缶印刷機にセットし、アルミニウム缶表面に印刷を実施した。用いた金属製の印刷用シリンダーには、上記貫通孔に対応した位置に高さ0.7mmのピンがあり、このピンに印刷版の貫通孔を合わせ、両端部をチャックする機構を用いてシリンダー上にシート状印刷版を固定した。1枚のシート状印刷版を固定するまでに要した時間は、平均で5分であった。
アルミニウム缶への印刷は、1秒あたり25本のスピードで実施した。アルミニウム缶の表面には、良好な印刷品質で印刷されていることが確認できた。また、脂肪族炭化水素を含有したドライオフセットインキへの耐久性についても、問題はなかった。
【0062】
(実施例3)
樹脂(a)として、数平均分子量が約10万のスチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体70重量部、有機化合物(b)として、ヘキサメチレンジアクリレート(分子量254)10重量部、数平均分子量2000の液状ポリブタジエン15重量部、脂環族炭化水素可塑剤10重量部、C−1504を5重量部、光重合開始剤としてBPを0.5重量部およびDMPAPを0.6重量部を、ニーダーを用いて温度130℃で混合し、硬化性樹脂組成物を調整した。得られた硬化性樹脂組成物を2軸押し出し装置を用いて、接着剤が表面に薄く塗布されている厚さ100μmのPETフィルム上に、厚さ0.8mm、幅250mm、長さ2000mmで押し出し、更にシリコーン離型処理した厚み50μmのカバーシートで挟み、シート状の硬化性樹脂組成物(α3)を形成した後、幅180mm、長さ710mmに切断した。この硬化性樹脂組成物(α3)は、20℃において固体状であった。
【0063】
得られたシート状硬化性樹脂組成物(α3)を、外径226.12mm、幅200mmの金属製の硬化用シリンダー上に巻きつけ、両端部が剥がれないように両面テープで固定した。その後、カバーフィルムを剥離し、シリンダーを回転させながら前述のメタルハライドランプの光を350nmにおいて4000mJ/cmの条件で露光し、硬化物層を形成し、実施例1と同様にしてシート状印刷原版を得た。硬化物層のショアD硬度は、21度であった。
【0064】
その後実施例1と同様にして、シート状印刷原版の両端部を処理し、2つの貫通孔を形成し、レーザー彫刻を実施し、シート状印刷版を得た。その際、1枚のシート状印刷原版をレーザー彫刻機の彫刻用シリンダーに取り付けるまでに要した時間は3分であった。
得られたシート状印刷原版およびシート状印刷版は、円筒面を有しており、平面状に戻すことはできなかった。シート状印刷原版の円筒面の曲率半径は、122mmであった。
得られたシート状印刷版を、外径226.12mmの金属製の印刷用シリンダーを有する伊予機械製作所社製のフレキソ印刷機にセットし、ポリエチレンフィルム表面に印刷を実施した。用いた金属製シリンダーには、上記貫通孔に対応した位置に高さ0.7mmのピンがあり、このピンに印刷版の貫通孔を合わせ、薄く加工した端部をくわえ込んで、両端部をチャックする機構を用いて印刷用シリンダー上にシート状印刷版を固定した。1枚のシート状印刷版を固定するまでに要した時間は、4分であった。
【0065】
(実施例4)
両端部の幅50mmの感光性樹脂硬化物層を深さ0.5mmまで除去する工程を経ずに、片側の周端部に沿って間隔をあけて2つの貫通孔をドリル孔明け機で形成した以外は実施例1と同様にして、シート状印刷原版およびシート状印刷版を作製し、ドライオフセット缶印刷機にセットした。硬化物層のショアD硬度は28度であり、円筒面の曲率半径は130mmであり、1枚のシート状印刷原版をレーザー彫刻機の彫刻用シリンダーに取り付けるまでに要した時間は約3分であり、1枚のシート状印刷版を印刷用シリンダーに固定するまでに要した時間は平均で6分であった。
【0066】
(実施例5)
直径770mm、幅1000mmの金属製の硬化用シリンダーに厚み0.35mmのPETフィルムを巻き付け、端部を両面接着テープを用いて固定した。PETフィルム表面には接着剤層が、厚み20μmで塗布されていた。このPETフィルムを130℃で10分間加熱処理した後、B型粘度計を用いて測定した粘度が20℃において1200Pa・sである旭化成ケミカルズ株式会社製の液状感光性樹脂組成物「APR K−11」(商標)を、5℃に冷却して厚み7mmまでドクターブレードを用いて塗布し、表面に厚み10μmのポリプロピレンカバーフィルムを巻き付け、メタルハライドランプの光照射で硬化させた。その後、カバーフィルムを除去し、硬化物表面を研削、研磨して厚さ7mmの硬化物層を作製し、PETフィルムの継ぎ目部をカッターで切断することによって、硬化用シリンダーから取り外し、樹脂硬化物とPETフィルムを貫通させて、孔径500μmの貫通孔を片側の周端部に沿って間隔をあけて2箇所に形成し、シート状印刷原版を得た。貫通孔の間隔は500mmとした。硬化物層のショアD硬度は10度であった。作製されたシート状印刷原版の円筒面の曲率半径は410mmであった。
【0067】
作製されたシート状印刷原版を、外径800mm、幅1100mmの彫刻用シリンダーに周端部に両面接着テープを用いて貼り付け、更に、周端部にマスキングテープを貼り付け固定した。前記貫通孔の1つを基準として液晶ディスプレイの寸法で凸状となるように線状の凹部を炭酸ガスレーザー彫刻機を用いて形成しシート状印刷版を得た。
その際、1枚のシート状印刷原版をレーザー彫刻機の彫刻用シリンダーに取り付けるまでに要した時間は約10分であった。得られたシート状印刷原版をレーザー彫刻機の金属シリンダーに再び貼り付け、両周端部の幅50mmの硬化物層を深さ0.5mmまでレーザー彫刻で除去する端部薄膜処理を施した。
作製されたシート状印刷版は、液晶ディスプレイ製造における液晶配向膜形成用印刷版として、n−メチルピロリドンを溶剤とするポリイミド溶液の塗布に使用した。印刷機の金属製の印刷用シリンダー上に上記貫通孔に対応する位置に高さ2mmのピンを設置し、このピンに貫通孔を合わせるようにして、薄く加工した端部をくわえ込んで、ずれないように固定した。シート状印刷版を印刷用シリンダーに装着する操作に要した時間は、比較的大きな印刷版であったにも関らず、10分であった。
【0068】
(実施例6)
直径70mm、幅300mmの金属製の硬化用シリンダーに厚み0.1mmのPETフィルムを巻き付け、その端部を両面接着テープを用いて固定した。PETフィルム表面には接着剤層が、厚み20μmで塗布されていた。このPETフィルムを130℃で20分間加熱処理した後、実施例1で用いた硬化性樹脂組成物を、厚み0.7mmでドクターブレードを用いて塗布し、メタルハライドランプの光照射で硬化させた。その後、硬化物表面を研削、研磨して厚さ0.4mmのシート状印刷原版を作製した。PETフィルムの端部部分でカッターで切断し、前記金属製シリンダーから取り外した。取り外したシート状印刷原版は、円筒状の形状を保持していた。作製されたシート状印刷原版の曲率半径は、40mmであった。樹脂硬化物とPETフィルムを貫通させて、片側の周端部に沿って間隔をあけて孔径200μmの貫通孔を2箇所に形成した。貫通孔の間隔は150mmとした。
【0069】
作製したシート状印刷原版を外径75mm、幅300mmの彫刻用シリンダーに両面接着テープを用いて貼り付け、表面に炭酸ガスレーザー彫刻機を用いて画像パターンを形成した。その際、前記貫通孔の1つを基準点とした。その際、1枚のシート状印刷原版をレーザー彫刻機の彫刻用シリンダーに取り付けるまでに要した時間は約3分であった。
ラベル印刷機の金属製の印刷用シリンダー上に、両面接着剤付きクッションテープ(厚み0.5mm)を貼り付けた。金属製の印刷用シリンダーには前記貫通孔に対応した部分に高さ0.7mmのピンが取り付けられていた。クッションテープにも、このピンの位置に孔を明けてあった。該金属製の印刷用シリンダー上のピンに貫通孔を合わせるようにして、前記クッションテープ上にシート状印刷版を固定した。その後、ポリエチレンフィルム上に印刷を行った。シート状印刷版を印刷用シリンダーに装着する操作に要した時間は5分であった。
【0070】
(実施例7)
両端部の幅50mmの感光性樹脂硬化物層を除去する工程行わず、片側の端部の所定位置に1つの貫通孔をパンチ孔明け機で形成した以外は実施例4と同様にして、シート状印刷原版およびシート状印刷版を作製し、フレキソ印刷機にセットした。硬化物層のショアD硬度は28度であり、円筒面の曲率半径は118mmであり、1枚のシート状印刷原版をレーザー彫刻機の彫刻用シリンダーに取り付けるまでに要した時間は約2分であった。1枚のシート状印刷版を印刷用シリンダーに固定するまでに要した時間は5分であった。
【0071】
(比較例1)
外径226.12mm、幅200mmの金属シリンダー上に巻きつける工程の代わりに、平板状にシート状硬化性樹脂組成物(α2)を設置し露光し、両端部の幅50mmの感光性樹脂硬化物層を深さ0.5mmまで除去する工程と片側の端部の所定位置に2つの貫通孔をパンチ孔明け機で形成する工程を経なかったこと以外は実施例2と同様にしてシート状印刷原版およびシート状印刷版を作製し、ドライオフセット缶印刷機にセットした。硬化物層のショアD硬度は36度であり、円筒面の曲率半径は0mmであり、レーザー彫刻機のシリンダーに巻きつける際に、なかなか曲面に追従できず、画像位置合わせにも時間を要し、1枚のシート状印刷原版をレーザー彫刻機の彫刻用シリンダーに取り付けるまでに要した時間は約20分であった。1枚のシート状印刷版を印刷用シリンダーに固定するまでに要した時間は平均で20分であった。
【0072】
(比較例2)
両端部の幅50mmの感光性樹脂硬化物層を深さ0.5mmまで除去する工程と片側の端部の所定位置に2つの貫通孔をパンチ孔明け機で形成する工程を行った以外は比較例1と同様にしてシート状印刷原版およびシート状印刷版を作製し、ドライオフセット缶印刷機にセットした。硬化物層のショアD硬度は36度であり、円筒面の曲率半径は0mmであり、レーザー彫刻機のシリンダーに巻きつける際に、なかなか曲面に追従できず、1枚のシート状印刷原版をレーザー彫刻機の彫刻用シリンダーに取り付けるまでに要した時間は約15分であった。1枚のシート状印刷版を印刷用シリンダーに固定するまでに要した時間は平均で15分であった。
以上の結果を表1にまとめた。
【0073】
【表1】

【0074】
円筒の長さ方向に円筒面の1ヵ所を切り裂いた形状の、彫刻用および印刷用シリンダーの円筒面に沿う曲面を有するシート状支持体の上に、硬化性樹脂組成物(α)の硬化物層が形成され、かつ円筒面の周端部に、1つ以上の貫通孔を有するシート状印刷原版はいずれも実用上良好な取付時間で印刷機への装着が可能であったのに対し、比較例1および比較例2を見ると曲率半径を有さない場合はレーザー彫刻機の彫刻用シリンダーおよび印刷機の印刷用シリンダーに巻きつける際に、なかなか曲面に追従できず、位置あわせをし、セットするのに時間を相当量要したことがわかる。また、比較例2を見ると、いくら両端部の幅50mmの感光性樹脂硬化物層を深さ0.5mmまで除去する工程と片側の端部の所定位置に2つの貫通孔をパンチ孔明け機で形成する工程を行ったとしても、多少の取付時間の向上は見られるものの、本発明が達成した良好な取付時間には到底及ばないものであった。
【産業上の利用可能性】
【0075】
シリンダーへの装着と位置合わせが容易に、かつ正確に実施できるレーザー彫刻用シート状印刷原版として好適である。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】図1は、シート状印刷原版の概略図である。
【符号の説明】
【0077】
100: シート状支持体
200: 硬化性樹脂組成物(α)の硬化物層
210: 周端部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
彫刻用シリンダーに沿わせて用いるシート状印刷原版であって、円筒の長さ方向に円筒面の1ヵ所を切り裂いた形状であり、支持体と該支持体上に形成された硬化性樹脂組成物(α)の硬化物層とを有すること、円筒面の周端部に一つ以上の貫通孔を有すること、彫刻用シリンダーの円筒面に沿う曲面を有することを特徴とするシート状印刷原版。
【請求項2】
シート状印刷原版の曲面の曲率半径が35mm以上500mm以下である請求項1記載のシート状印刷原版。
【請求項3】
シート状支持体の厚さが10μm以上500μmである請求項1または2に記載のシート状印刷原版。
【請求項4】
硬化物層の厚さが0.1mm以上10mm以下である請求項1から3いずれか一項に記載のシート状印刷原版。
【請求項5】
前記シート状印刷原版の周端部に、シート状印刷原版の厚みよりも薄い部分が存在する請求項1から4いずれか一項に記載のシート状印刷原版。
【請求項6】
請求項1から5いずれか一項に記載のシート状印刷原版の表面に、レーザー彫刻により形成されたパターンを有し、彫刻用シリンダーの円筒面に沿う曲面を有するシート状印刷版。
【請求項7】
請求項1から5いずれか一項に記載のシート状印刷原版の貫通孔を、彫刻装置の彫刻用シリンダーに設置された突起物に合わせ、該印刷原版を彫刻用シリンダー上に取り付けるシート状印刷原版の装着方法。
【請求項8】
請求項6に記載の印刷版の貫通孔を、印刷装置の印刷用シリンダーに設置された突起物に合わせ、該印刷版を印刷用シリンダー上に取り付けるシート状印刷版の装着方法。

【図1】
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【公開番号】特開2010−64281(P2010−64281A)
【公開日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−230315(P2008−230315)
【出願日】平成20年9月8日(2008.9.8)
【出願人】(309002329)旭化成イーマテリアルズ株式会社 (771)
【Fターム(参考)】