説明

シート状多孔体および該多孔体の製造方法

【課題】シート状多孔体中の流体の流れおよび流通抵抗に関して異方性を有する多孔体シートおよびその製造方法を提供する。
【解決手段】金属のシート状多孔体であって、シート状多孔体内には、一または複数の空洞が形成されており、空洞は、その一端のみがシート状多孔体表面の任意の部位に開口部を有し、他端はシート状多孔体内部に留まるように構成したことを特徴とするシート状多孔体。また、多孔体原料である金属粉末の内部に、多孔体を構成する金属と反応しない棒状金属を、棒状金属の一端が金属粉末外部に突出して他端が金属粉末内部に埋没するように内装し、金属粉末を成形し、金属粉末成形体を焼成し、金属粉末焼成体から棒状金属を抜き去ることを特徴とする多孔体シートの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属繊維や金属粉末からなるシート状多孔体に係り、特に、流体に対するシート状多孔体の流通抵抗に異方性を付与する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
金属多孔体やセラミック多孔体は、従来は、主に濾過用フィルターとして利用されていたが、近年では、電池用電極や隔膜の材料や生体用材料としての用途開発が進んできている。
【0003】
濾過用フィルターにおいては、濾過性能を高めるために種々の工夫がなされている。しかしながら、ある特定の流れの中に濾過用フィルターを配置した場合に、その流れ方向に対してのみに濾過性能を高めることが求められているにもかかわらず、例えば流れに対する直交方向等の無関係な方向を含むフィルター内全方向への濾過性能を高めるような努力がなされている。これは、過剰性能を追求していることになり、濾過用フィルターの製造コストを押し上げる一因となっており、検討の余地が残されている。
【0004】
また、電池に用いる電極や隔膜の材料として多孔体を用いる場合には、隔膜は、両電極の間に直交して延在するように配置されることから、隔膜と鉛直な方向に対してのみ電気伝導性が良好であるような材料が望まれる場合がある。
【0005】
このような状況に対して、例えば、内部に棒状の材料を仕込んだ粉末原料を成形後、前記棒状の材料を引き抜いてから焼結した材料の製法が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
前記特許文献1に記載の方法は、焼結に先立って棒状金属を粉末原料の成形体から抜き去っているため、その後の焼結工程で棒状金属と粉末原料の成形体が固着して棒状金属を抜き去ることができないという事態に陥ることはない。
【0007】
しかしながら、焼結の対象となる基体材料が金属粉や金属繊維の場合には、棒状金属を抜き去った跡に形成された空洞部が、焼結工程において収縮して目的とする大きさの空洞部を形成することが困難であった。また、前記空洞部が焼結時に潰れて目的の大きさの空洞を有する多孔体を形成することができず改善が求められている。
【0008】
このように基体材料が金属粉や金属繊維の場合には前記特許文献1の方法をそのまま適用することができず新たな方法が望まれている。
【0009】
チタン多孔体という観点から、粉末を原料とした濾過用フィルター(例えば、特許文献2参照)、金属繊維を用いた焼結多孔体(例えば、特許文献3および4参照)が知られている。しかしながら、粉末を原料とした多孔体も、金属繊維を用いた焼結多孔体も、方向によって通気性や通液性の異なる材料ではなく、いずれの特許文献にも流通抵抗の異方性に関する記載は見当たらない。
【0010】
このように流体の流通抵抗に対して異方性を有する、電池の隔膜材料や電極材料として優れた性能を有する多孔体が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平05−271711号公報
【特許文献2】特開2002−317207号公報
【特許文献3】特開2004−018951号公報
【特許文献4】EP0178650B1号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、チタン等の金属粉からなるシート状多孔体に係るもので、特に、シート状多孔体中の流体の流れおよび流通抵抗に関して異方性を有するシート状多孔体およびその製造方法の提供を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、流体の流通抵抗に関して異方性を有するシート状多孔体の製造方法に関して、鋭意検討を進めて来たところ、シート状多孔体の原料である金属粉末の成形時に、その金属粉末成形体内部に棒状金属をその一端が成形体外部に突出し他端が埋没するように内装しておき、前記成形体を加熱焼結後の成形体の気孔率を75〜95%の範囲とすることで、前記成形体を焼結後も容易に棒状金属を抜き去ることができ、上記課題を効果的に解決できることを見出したものである。
【0014】
即ち、本発明に係る金属のシート状多孔体は、気孔率が75〜95%の範囲にあり、シート状多孔体内に一または複数の空洞が形成されており、空洞は、その一端のみがシート状多孔体表面の任意の部位に開口部を有し、他端はシート状多孔体を貫通しないことを特徴とするものである。
【0015】
本発明に係るシート状多孔体においては、シート状多孔体への流体の通液性において、空洞の長手方向に対する通液性が、空洞の長手方向と直行する方向に対する通液性よりも大きいことを好ましい態様とするものである。
【0016】
本発明に係るシート状多孔体においては、多孔体を構成する金属がチタン、モリブデン、タングステン、ジルコニウム、あるいはTZM(Mo−Ti−Zr合金)で構成されていることを好ましい態様とするものである。
【0017】
本発明に係るシート状多孔体の製造方法は、多孔体原料である金属粉末の内部に、多孔体を構成する金属と反応しない棒状金属を、棒状金属の一端が金属粉末外部に突出して他端が金属粉末内部に埋没するように内装し、金属粉末を成形し、金属粉末成形体を焼成し、金属粉末焼成体から棒状金属を抜き去ることを特徴としている。
【0018】
本発明に係るシート状多孔体の製造方法においては、多孔体を構成する金属と、棒状金属とは、それぞれチタン、モリブデン、タングステン、ジルコニウムあるいはTZMであり、互いに反応しない金属を選択したものであることを好ましい態様としている。
【発明の効果】
【0019】
本発明に係るシート状多孔体は、空洞が開口部から延在する方向に沿う流通抵抗が相対的に小さくなり、それ以外の方向の流通抵抗は相対的に大きいばかりでなく、空洞が多孔体シートを貫通しておらずに多孔体シート内部で完結しているので、流体に対して濾過性能を維持しつつ、流通抵抗に異方性が与えられている。このように、流れ特性に異方性を有していることにより、電池用材料の電極や隔膜の材料として好適に利用することができるという効果を奏するものである。特に、多孔体シート内を電解液が通液する構造の2次電池電極においては、通液性能の高い方向に電解液を通液させる構造とすることによって、電極抵抗を低下させ、ひいては、電池特性を向上させるという効果を有するものである。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明におけるシート状多孔体の一実施形態(実施例1)を示す図であり、(a)は平面図と側面図、(b)は斜視図である。
【図2】本発明のシート状多孔体の変更例を示す平面図である。
【図3】実施例1のφ0.5mmの空洞を有する厚さ2.5mm、空隙率80%のシート状多孔体の断面の外観写真である。
【図4】実施例1のφ0.5mmの空洞を有する厚さ2.5mm、空隙率80%のシート状多孔体の断面の走査電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
1.多孔体シート
本発明に係る好ましい態様について図面を用いながら以下に説明する。
本発明の金属のシート状多孔体は、その内部に一または複数の空洞が形成されており、空洞は、その一端のみがシート状多孔体表面の任意の部位に開口部を有し、他端はシート状多孔体を貫通しないことを特徴とするものである。図1は、好ましいシート状多孔体1の実施態様の一例を示している。本実施態様においては、シート状多孔体1には、シート状多孔体1の長尺面に平行であって、シート状多孔体端面に開口部を有し、対向するシート端面に貫通していない複数の空洞2、本図では6本の空洞2が、互いに同一方向に形成されている。なお、図1の寸法は、後述する実施例の寸法を示したものであり、本発明はこの寸法に限定されない。
【0022】
前記したようなシート状多孔体1を流体の流れの中に配設するには、シート状多孔体1の内部に形成した空洞2の方向が、流体の流れ方向に沿う形で配設することが好ましい。前記したような配置とすることにより、多孔体1を電池材料の膜として用いる場合に、いわゆる流体の拡散膜として機能する多孔体1の中心部の非空洞部3を有効に利用することができるという効果を奏するものである。
【0023】
従って、図1に示した非空洞部3の距離を適宜変更することにより、流体の流通抵抗が種々に異なった多孔体を構成することができる。
【0024】
本実施態様におけるシート状多孔体1を構成する金属材料としては、具体的には、チタン、モリブデン、タングステン、ジルコニウム、TZM等、およびそれらの合金等の材料で構成された繊維および粉末を用いることが好ましい。
【0025】
本発明においては、図1に示すシート状多孔体1の長さLに対する非空洞部3の比(α)は1/5〜4/5の範囲とすることが好ましい。また、シート状多孔体1の厚みDに対する空洞2の内径dの比(β)は、1/10〜1/2の範囲とすることが好ましい。
【0026】
前記した範囲にシート状多孔体1の内部に空洞2を配置することにより、本発明に係るシート状多孔体1を二次電池の電極や隔膜の材料として、効果的に利用することができるという効果を奏するものである。
【0027】
また、本発明に係る多孔体1の気孔率は、75%〜95%の範囲とすることが好ましい。特にシート状多孔体1の気孔率は80%〜90%の範囲とすることが好ましい。前記した範囲の気孔率とすることより、チタン多孔体としての性能を高いレベルに維持することができるという効果を奏するものである。
【0028】
更には、前記シート状多孔体1を得るために行った加熱焼結処理終了後も、前記シート状多孔体1に予め内挿しておいた棒状金属を容易に抜き去ることができるという効果を奏するものである。
【0029】
前記シート状多孔体1の気孔率が75%未満の場合には、シート状多孔体1内を流れる流体の抵抗が大きく好ましくない。一方、前記多孔体1の気孔率が、95%を超える場合には、流体の抵抗がほとんどなくなり、電極あるいは膜としての機能を発揮することができず好ましくない。
【0030】
また、シート状多孔体1の気孔率が75%未満の場合においては、焼結後に得られたシート状多孔体1と事前に前記シート状多孔体1に内挿しておいた金属棒とが固着し、その結果、前記金属棒を抜き去ることが困難であるのみならず、目的とする大きさの空洞を生成させることができず、好ましくない。
【0031】
よって、本発明においては、シート状多孔体1の気孔率は、75%〜95%が好ましい範囲とされる。
【0032】
本発明においては、シート状多孔体1の内部に形成した空洞2の長手方向に対する流体の通気性または通液性が、前記空洞2の長手方向と直行する方向よりも大きいことを好ましいことを特徴とするものである。
【0033】
前記したような流体の流通抵抗に方向性を持たせることにより、電池材料の膜として利用した場合の膜中を通過するイオンの流れも一方向に制御でき、よってロスの少ないイオンの移動を実現でき、その結果、電池材料効率を高いレベルに維持することができるという効果を奏するものである。
【0034】
更には、シート状多孔体1の気孔率が、75%未満の場合においては、事前に内挿しておいた金属棒とシート状多孔体1とが相互に固着し、その結果、前記金属棒を抜き去ることができないという事態を招く場合がある。
【0035】
よって、本発明においては、焼結後に得られるシート状多孔体1の気孔率は、75〜95%の範囲とすることが好ましいとされる。
【0036】
2.シート状多孔体の製造方法
次に、本発明のシート状多孔体の製造方法について説明する。
上記で説明した金属繊維あるいは金属粉末原料を、まずは、成形用型に所定量を装入後、原材料の所定の位置に棒状金属を載置する。次いで、前記棒状金属の上から原材料を再度装入後、プレスすることにより、棒状金属を内装した成形体を得ることができる。
【0037】
続いて、この棒状金属を内装したシート状多孔体を加熱して焼結しシート状の焼結体を得ることができる。最後に、このシート状焼結体から棒状金属を引き抜くことによって、棒状金属が存在していた空間に空洞が形成された本発明の貫通しない空洞を有するシート状多孔体を得ることができる。
【0038】
本発明においては、このように焼結完了後に、棒状金属をシート状多孔体から抜き去るため、焼結前に金属棒を抜き去るような形態をとる公知文献の技術とは違って、焼結処理中に金属棒を抜き去った後の空洞部が焼結中に収縮するという事態を招くことはなく、目的とした空洞部を有する多孔体を精度よく製造することができるという効果を奏するものである。
【0039】
本実施態様における棒状金属は、シート状多孔体1を構成する金属材料と反応し難い金属で構成することが好ましく、具体的には、チタン、モリブデン、タングステン、ジルコニウム、TZM等、およびそれらの合金等の材料で構成することが好ましい。ここに列挙した材料群は、上述のとおり多孔体1の材料群と共通するが、同種の材料を用いると固着してしまうので、例えば多孔体シート材料としてチタンを選択した場合は棒状金属としてモリブデンを選択するなど、互いに異なる材料を選択する。
【0040】
本発明においては、前記棒状金属は、シート状多孔体1を貫通配置するのではなく、棒状金属の一端がシート状多孔体1の内部に留まる形で配置しておくことが好ましい。また、棒状金属の他端は、後の工程で引き抜くため、外部に所定量突出させておくことが好ましい。前記したように配置された棒状金属が内装された成形体をそのまま、真空あるいは減圧下にて、900〜1400℃の温度範囲にて加熱して、シート状焼結体とすることが好ましい。
【0041】
前記方法で製造された焼結体は、室温まで降温後、焼結体に内装してあった棒状金属を抜き去ることにより、本発明に係る内部に空洞を有するシート状多孔体1を製造することができる。
【0042】
なお、本実施態様においては、焼結前にシート状多孔体1の原材料に内装する棒状金属の表面に炭素系のペーストを事前に塗布しておいても良い。前記したような炭素系材料を塗布しておくことにより、焼結終了後、棒状金属を抜き去る際に円滑に抜き去ることができるという効果を奏するものである。
【0043】
前記した方法により、本発明に係る内部に空洞を有するシート状の焼結体を効率よく製造することができるという効果を奏するものである。
【0044】
本発明に係るシート状多孔体1の具体的な好ましい態様は、図1に示すような形態であり、
1)空洞の内径がシート厚みの1/10〜1/2であり、
2)非空洞部3の長さがシート状多孔体1の長さの1/5〜4/5であり、
3)シート状多孔体1の空洞の断面積の合計がシート状多孔体1の断面積の0.002(1/500)〜0.02(1/50)であるように製造することを好ましい態様とするものである。
【0045】
前記のような構成とすることにより、シート状多孔体1内を電解液が通液する構造の2次電池電極に使用する場合、電極抵抗が低下し、ひいては2次電池の特性を高くすることができるという効果を奏するものである。
【0046】
シート状多孔体1の具体的な製造工程は概略以下の通りである。
本発明に係るシート状多孔体1は、成形金型内にチタン繊維体を充填し、成形・圧縮し、焼成することで製造される。 焼成後のシート状多孔体の空隙率は、繊維体の充填重量と圧縮時の厚さを変更することで調整することができる。
【0047】
本発明においては、繊維体充填時に、図1(b)の座標におけるX方向にMoワイヤー数本をチタン繊維体と一緒に充填し、ワイヤー端部を成形体からはみ出るようにする。Moワイヤーを挟み込んだまま焼成し、焼成後ワイヤー端部をつまんで引き出すことで、Moワイヤーが占めていた部位が空洞となる。
【0048】
Moワイヤーの直径は0.3mm、0.5mm、1.0mm等、希望の通気性、通液性によって選択することが出来るが、Z方向の寸法、即ちチタン多孔体シートの厚みに対して1/10〜1/2の直径のワイヤーが適する。空洞は、通気性、通液性を高める効果があるが、X方向全長にわたって貫通する場合には、濾過性能が悪化するので望ましくない。なお、電池材料として使用する場合には、前記した理由によりシート状多孔体1の内部に形成させる空洞の内径は、1mm以下が好ましいとされる。
【0049】
空洞の長さはシート状多孔体1内に非空洞ができるように、TiシートのX方向の長さの1/5〜4/5が適する。Moワイヤーによる空洞部の大きさと頻度は希望の通気性、通液性によって選択されるが、チタンシートのY−Z面の断面積に対して空洞の断面積の総和が1/500〜1/50になるようにすることが好ましい。
【0050】
空洞の長さがシート状多孔体1の全長の4/5を超える場合、及び空洞の占める断面積の合計が多孔体シート断面の断面積に対して1/50を超えた場合は、通気性、通液性は良くなるが、短時間で気体、液体が多孔体を通過してしまい、十分な濾過性能を発揮しなくなるので好ましくない。
【0051】
空洞の長さがシート状多孔体1の全長の1/5より小さい場合、及び空洞の占める断面積の合計が多孔体シート断面の断面積に対して1/500より小さい場合は、順方向の通気性、通液性の改善程度が少なく、順方向と逆方向の通気性、通液性の比が1.5以上にならず、空洞の効果がほとんどないので好ましくない。
【0052】
以上の特徴を有する本発明に係る多孔体は、多孔体内部を電解液が通液する構造の二次電池の電極用のみならず、気体、液体を濾過させながら通過させる部品で、通気量、通液量を方向によって制御する必要のある部品として効果的に用いることができる。
【0053】
3.多孔体シートの他の実施態様
本発明は、上述した図1に示す多孔体シートに限定されるものではなく、例えば、図2に示すようにランダムに空洞を形成させた多孔体シートとすることができる。
【実施例】
【0054】
以下、実施例および比較例により、本発明をより詳細に説明する。
[実施例1]
まず、下記の仕様のチタン多孔体シートを作製した。
空洞径:0.5mm
空隙率:80%
空洞径/シート厚比:1/5
空洞長/シート長比:1/2
空洞断面積/シート断面積比:1/120
空洞本数:片側3本
直径20μm、長さ2.5mmのチタン繊維体1.76gを秤量し、28mm×28mmの金型に充填するにあたり、約半分の繊維体を充填したところで、直径0.5mm、長さ7mmのMoワイヤーを図1に示すように中心部14mmの距離を置いて片側に3本ずつ合計6本を配置した。その後残りのチタン繊維体をその上に充填し、充填終了後、200MPaの圧力でプレスした。この成形体を1×10−5mbarの真空で、1000℃、2時間焼結した。焼結後、側面から突出しているMoワイヤーの先端をつまみ、引き抜いた。Moワイヤーを引抜いたあとで、多孔体の厚さ、密度(空隙率)を測定したところ、密度が20%(空隙率80%)、厚さが2.5mmであった。この多孔体シートの空洞の長手方向に垂直な断面の外観写真を図3に、SEM写真を図4に示す。
【0055】
(多孔体の通気抵抗測定)
実施例1の多孔体の、空洞の開いている面をY−Z面、空洞の方向をX方向(順方向)とする。これに直交する面がX−Z面、空洞と直交する方向をY方向(逆方向)とする。X方向の通気性とY方向の通気性を測定した。X方向の通気性は、Y−Z面に加圧された空気を付与し、一定時間にX方向に通過する空気の量を測定し、空気の通過に対する抵抗(通気抵抗)を求めることで評価した。X方向の通気抵抗は1.6Pa・s/mであった。一方、Y方向の通気抵抗は7.5Pa・s/mであった。空洞のある方向と、それに直交する方向での通気性の比は4.7であった。
【0056】
[実施例2]
実施例1の空洞長/シート長比を1/3に変更した多孔体シートを作製した。
直径0.5mm、長さ4.7mmのMoワイヤーを中心部18.6mmの距離を置いて片側に3本ずつ合計6本を配置した以外は実施例1と同じ方法で0.5mmφの空洞のあるチタン多孔体を製造した。密度は20%(空隙率80%)、厚みは2.5mmであった。実施例1と同様にX方向、Y方向の通気抵抗を測定したところ、X方向は2.3Pa・s/m、Y方向の通気抵抗は7.5Pa・s/mであった。X方向、Y方向の通気性の比は3.3であった。
【0057】
[実施例3]
実施例1の空洞径/シート厚比を1/8、空洞断面積/シート断面積比を1/330に変更したものを作製した。
直径0.3mm、長さ7mmのMoワイヤーを用いた以外は実施例1と同じ方法で0.3mmφの空洞のあるチタン多孔体を製造した。密度は20%(空隙率80%)、厚みは2.5mmであった。実施例1と同様にX方向、Y方向の通気抵抗を測定したところ、X方向は3.0Pa・s/m、Y方向の通気抵抗は7.5Pa・s/mであった。X方向、Y方向の通気性の比は2.3であった。
【0058】
[実施例4]
実施例1の空洞長/シート長比を4/5、空洞断面積/シート断面積比を1/60、空洞本数を片側6本に変更して異方性を15以上に高めた多孔体シートを作製した。
直径0.5mm、長さ11mmのMoワイヤーを片側に6本、両側で合計12本用いた以外は実施例1と同じ方法で0.5mmφの空洞のあるチタン多孔体を製造した。密度は20%(空隙率80%)、厚みは2.5mmであった。実施例1と同様にX方向、Y方向の通気抵抗を測定したところ、X方向は0.5Pa・s/m、Y方向の通気抵抗は7.5Pa・s/mであった。X方向、Y方向の通気性の比は15であった。X方向の通気抵抗0.5Pa・s/mは、濾過特性を示す限界の数値であり、これ以上通気抵抗が小さいと濾過特性の観点から使用困難となる。
【0059】
[実施例5]
実施例1において、焼結後に得られるシート状多孔体1の気孔率を70、80、85、90、98%に変化させた場合に及ぼす通気抵抗と金属棒の抜き取り易さへの影響について調査した。
その結果、本発明の範囲である気孔率が80、85および90%では、金属棒の抜き取りは円滑であり、しかも、通気抵抗も1.6〜5.0Pa・s/mの範囲にあり良好であった。
これに対して、気孔率が本発明外にある70%の場合には、金属棒とシート状多孔体1が固着して、金属棒を抜き去ることはできたものの、シート状多孔体1が壊れてしまった。一方、気孔率が98%の場合には、金属棒の抜き取りの際の支障はなかったものの、通気抵抗が9.5Pa・s/mにあり、電池用部材としての要求特性を満足しなかった。
よって、本発明においては焼結後に得られた気孔率は、75〜95%の範囲とすることが好ましいことが確認された。
【0060】
[比較例1]
空洞を有さない多孔体シートを作製した。
直径20μm、長さ2.5mmのチタン繊維体8gを秤量し、Moワイヤーを充填することなく実施例1と同じ条件でプレス、焼結した。多孔体の厚さ、密度を測定したところ、密度が20%(空隙率80%)、厚さが2.5mmであった。実施例1と同様にX方向、Y方向の通気抵抗を測定したところ、X方向、Y方向の通気抵抗はまったく同じ値で、7.6Pa・s/mであった。
【0061】
[比較例2]
空洞径/シート厚比を本発明の範囲より小さい1/17とし、空洞断面積/シート断面積比を同じく本発明の範囲より小さい1/660とし、空洞本数を片側6本とした多孔体シートを作製した。
直径0.15mmのMoワイヤーを片側に6本用いた以外は実施例1と同じ方法で0.15mmφの空洞のあるチタン多孔体を製造した。密度は20%(空隙率80%)、厚みは2.5mmであった。実施例1と同様にX方向、Y方向の通気抵抗を測定したところ、X方向は6.5Pa・s/m、Y方向の通気抵抗は7.5Pa・s/mであった。X方向、Y方向の通気性の比は1.2であった。
【0062】
[比較例3]
空洞径/シート厚比を本発明の範囲より大きい1/2.5とし、空洞断面積/シート断面積比を同じく本発明の範囲より大きい1/11とし、空洞本数を片側8本とした多孔体シートを作製した。
直径1.0mmのMoワイヤーを片側に8本配置した以外は実施例1と同じ方法で1.0mmφの空洞のあるチタン多孔体を製造した。密度は20%(空隙率80%)、厚みは2.5mmであった。実施例1と同様にX方向、Y方向の通気抵抗を測定したところ、Y方向の通気抵抗は7.0Pa・s/mであったが、X方向の通気抵抗は0.1Pa・s/mと非常に小さい通気抵抗であり、濾過特性を有していなかった。
【0063】
[比較例4]
空洞を貫通した多孔体シートを作製した。
直径0.5mm、長さ280mmのMoワイヤーをシートの全長にわたって3本を配置した以外は実施例1と同じ方法で0.5mmφの貫通孔のあるチタン多孔体を製造した。密度は20%(空隙率80%)、厚みは2.5mmであった。実施例1と同様にX方向、Y方向の通気抵抗を測定したところ、Y方向の通気抵抗は7.0Pa・s/mであったが、X方向の通気抵抗は0.1Pa・s/mと非常に小さい通気抵抗であり、濾過特性を有していなかった。
【0064】
[比較例5]
実施例1において、チタン繊維体を充填終了後、200MPaの圧力でプレス成形後、Moワイヤーを抜き去ってから焼結した以外は、同じ条件下でシート状多孔体を製造した。
焼結後のシート状多孔体1の断面を観察したところ、焼結前に形成されていた空洞部が消滅していた。
【0065】
以上の多孔体シートの仕様と測定結果を下記表1にまとめた。また、空隙率による諸特性の評価結果を表2に示した。
【0066】
【表1】

【0067】
【表2】

【0068】
前記した実施例および比較例により、次の効果が確認された。
(1)Y−Z面からX方向に通気、通水する場合(順方向と呼ぶ)の通水性、通気性を100%とすると、X−Z面からY方向に通気、通水する場合(逆方向と呼ぶ)の通水性、通気性は、10〜75%である。濾過特性を考えると、空隙率をある程度抑える(繊維の充填量を増やす)ことが必要だが、空隙率を抑えると通気性、通液性が落ちる。しかし、実際に通気、通液したい方向は順方向だけであるので、空隙率を抑えて高い濾過性能を維持したまま、順方向の高い通気性、通液性を実現できる。
【0069】
(2)焼結多孔体は材質がチタンであるために、硫酸、硝酸等の腐食性液体、腐食性蒸気に対して当然のように強い耐食性を示すのみならず、空隙率に応じて腐食性液体中の金属イオン、硫酸イオン等の透過性を示すことが明らかとなった。方向性のある通気性、通液性を確保できることで、空隙率の制御範囲も大きく設定することが可能となった。これにより、金属イオン、硫酸イオン等の透過性を制御できるという効果も確認された。
【0070】
(3)前記のような方向によって通気性、通液性のことなる多孔体シートを、多孔体シート内を電解液が通液する構造の2次電池電極に使用する場合、電極抵抗が低下する、ひいては2次電池の特性を高くすることができるという効果も確認された。
(4)内部に空洞を有するような多孔体を製造する場合には、焼結を完了してから、内部に装入しておいた棒状金属を抜き去ることが好ましいことが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0071】
所望の方向の流通抵抗を調整して異方性を持たせた2次電池の隔膜・電極を製造することができる。
【符号の説明】
【0072】
1…多孔体シート、
2…空洞、
3…非空洞部。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
気孔率が75〜95%の金属のシート状多孔体であって、
前記シート状多孔体内には、一または複数の空洞がシート面に沿う形で形成されており、
前記空洞は、その一端のみがシート状多孔体表面の任意の部分に開口部を有し、他端は前記多孔体シート内に留まるように形成されていることを特徴とするシート状多孔体。
【請求項2】
前記シート状多孔体への流体の通液性において、前記空洞の長手方向に対する通液性が、前記空洞の長手方向と直行する方向に対する通液性よりも大きいことを特徴とする請求項1記載のシート状多孔体。
【請求項3】
前記シート状多孔体を構成する金属がチタン、モリブデン、タングステン、ジルコニウム、あるいはTZMで構成されていることを特徴とする請求項1に記載のシート状多孔体。
【請求項4】
シート状多孔体原料である金属粉末の内部に、前記多孔体を構成する金属と反応しない棒状金属を、前記棒状金属の一端が前記金属粉末外部に突出して他端が前記金属粉末内部に埋没するように内装し、
前記金属粉末を成形してシート状の成形体とし、
前記シート状の成形体を焼成してから前記棒状金属を抜き去って、シート面に沿う形で内部に空洞を形成させる
ことを特徴とするシート状多孔体の製造方法。
【請求項5】
前記シート状多孔体を構成する金属と前記棒状金属とは、それぞれチタン、モリブデン、タングステン、ジルコニウムあるいはTZMであり、互いに反応しない金属を選択したものであることを特徴とする請求項4に記載のシート状多孔体の製造方法。



【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2013−57113(P2013−57113A)
【公開日】平成25年3月28日(2013.3.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−197192(P2011−197192)
【出願日】平成23年9月9日(2011.9.9)
【出願人】(390007227)東邦チタニウム株式会社 (191)
【Fターム(参考)】