説明

シート状物、その製造方法、並びにそれを用いてなる内装材および衣料資材

【課題】本発明は、高度な柔軟性と耐久性を有し、かつ環境に配慮したシート状物、その製造方法、並びにそれを用いてなる内装材および衣料資材を提供する。
【解決手段】平均単繊維繊度が0.001dtex以上0.5dtex以下のポリトリメチレンテレフタレートを主成分とするポリエステル極細繊維が絡合してなる不織布に自己乳化型ポリウレタンを含有するシート状物であって、該自己乳化型ポリウレタン部分が無孔構造であることを特徴とするシート状物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高度な柔軟性と耐久性を有し、かつ環境に配慮したシート状物、その製造方法、並びにそれを用いてなる内装材および衣料資材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
主として極細繊維と高分子弾性体からなるシート状物は天然皮革にない優れた特徴を有しており、衣料や椅子張り、自動車内装材用途等にその使用が年々広がってきた。ところが近年、世界的な地球環境への配慮の動向から、あらゆる製品、材料等に対して環境負荷の低減が求められており、環境負荷の高いものは使用されなくなる傾向にある。これは、シート状物においても例外ではない。
【0003】
一般的に環境負荷低減のための具体的手段は次の2つに分けられる。
【0004】
1つ目は、天然原料由来のバイオマスを利用したバイオマスポリマーを使用することにより、最終的に焼却しても大気中の二酸化炭素量は変動しないというカーボンニュートラルの考え方を達成するものである。バイオマスポリマーとしては、例えば、トウモロコシ等の農作物から、100%原料を得て合成されるポリ乳酸(以下、PLAと表記する)や、トウモロコシ等の農作物から、微生物発酵法によって得た1,3−プロパンジオールと、石油系原料であるテレフタル酸を組み合わせたポリトリメチレンテレフタレート(以下、PTTと表記する)等が挙げられる。
【0005】
2つ目は、製造工程に有機溶剤を使用しないものである。製造工程に有機溶剤を用いると、作業者の作業環境への懸念や工場周辺地域への有機溶剤の漏洩といった懸念があり、さらに最終製品への有機溶剤残留の懸念もある。最終製品への有機溶剤残留は、衣料や自動車内装材といった用途の場合、人体への影響の懸念があり、好ましくない。製造工程に有機溶剤を使用しないことにより、製造工程、および製品からのVOC(揮発性有機物質)発生を根本的に防止するものである。
【0006】
しかし、従来の一般的なシート状物は、石油系原料のみからなるポリエステルやポリアミドの不織布に高分子弾性体の有機溶剤溶液(N,N−ジメチルホルムアミド、メチルエチルケトン、トルエン等)を含浸して得られるものが多かった。特に、不織布を構成する繊維が極細繊維発生繊維である場合には、繊維の極細化においてトルエンやトリクロロエチレン等の有機溶剤を用いる場合が多く、環境負荷の大きい工程となっていた。
【0007】
そこで、近年になって環境に配慮したシート状物の提案がされてきている。
【0008】
特許文献1では、直接紡糸により得られたPTT極細マルチフィラメントを用いた不織布に水エマルジョン系ポリウレタンを含浸し、乾式凝固することで、人工皮革を得ている。この製造方法では、ポリウレタンと極細繊維が密着した構造となり、さらに不織布内のポリウレタン膜構造は無孔となるため、ポリウレタンが繊維の交絡点を強固に拘束して風合いは硬くなる。また、風合いが硬くならない程度にポリウレタンの含浸量を減らすと、ポリウレタンに起因する独特の反発感がなくなる。
【0009】
特許文献2では、PTTと、ポリエステルやポリアミドから構成される極細繊維発生型複合繊維からなる不織布にポリウレタンを含浸して人工皮革を得ている。該文献でのポリウレタンの溶媒や分散媒に関する記載はないが、ポリウレタンが有機溶剤溶液の湿式凝固によるものであれば、不織布内のポリウレタン膜構造は多孔となるため、繊維交絡点を強固には拘束せず、風合いの柔軟な人工皮革を得ることができる。しかし、有機溶剤を用いているため環境負荷は大きくなる。ポリウレタンが水エマルジョン系で、乾式凝固によるものである場合は、ポリウレタンと極細繊維は密着した構造となり、さらに不織布内のポリウレタン膜構造は無孔となるため、繊維交絡点を強固に拘束する。よって、有機溶剤を使用しないため、環境負荷は小さくなるが人工皮革の風合いは硬くなる。
【0010】
特許文献3では、PTTを海成分、ポリエチレングリコールを共重合したポリエステルを島成分とした海島型複合繊維を用いて不織布を作製し、アルカリ水溶液で繊維を極細化した後に水エマルジョン系ポリウレタンを含浸して乾式凝固し、人工皮革を得ている。繊維を極細化した後に水エマルジョン系ポリウレタンを含浸し、乾式凝固すると、ポリウレタンと極細繊維は密着した構造となり、さらに不織布内のポリウレタン膜構造は無孔となるため、繊維交絡点を強固に拘束して硬い風合いとなる。
【0011】
また、仮に水エマルジョン系ポリウレタンを含浸した後でアルカリ水溶液によって繊維を極細化処理すると、理論的にはポリウレタンと極細繊維の間に空隙が生成するため、ポリウレタンが繊維交絡点を強固に拘束することはなく、柔軟な風合いを得られると思われるが、実際にはポリウレタンはアルカリ水溶液によって容易に加水分解するポリマーであるため、通常のポリウレタンではアルカリ水溶液による繊維の極細化処理には、実用上耐えることは難しい。
【0012】
すなわち、環境に配慮してバイオマスポリマーを用い、有機溶剤を使用しない工程により得られるシート状物において、柔軟な風合いと実用に耐える耐久性を有するものは得られていないのが現状である。
【特許文献1】特開平11−100721号公報
【特許文献2】特開2002−242078号公報
【特許文献3】特開平11−222780号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、上記従来の問題点を解決しようとするものであり、高度な柔軟性と耐久性を有し、かつ環境に配慮したシート状物、その製造方法、並びにそれを用いてなる内装材および衣料資材を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
すなわち、本発明のシート状物は、「平均単繊維繊度が0.001dtex以上0.5dtex以下のポリトリメチレンテレフタレートを主成分とするポリエステル極細繊維が絡合してなる不織布に自己乳化型ポリウレタンを含有するシート状物であって、該自己乳化型ポリウレタン部分が無孔構造であることを特徴とするシート状物」である。
【0015】
また、本発明のシート状物の製造方法は、「前記のシート状物の製造方法であって、次の(1)〜(3)の工程をこの順番で経ることを特徴とするシート状物の製造方法。
(1)ポリ乳酸を主成分とするポリエステルAと、ポリトリメチレンテレフタレートを主成分とするポリエステルBとから構成される極細繊維発生型複合繊維を用いて不織布を作成する工程
(2)自己乳化型ポリウレタン水分散液を不織布に含浸して、該自己乳化型ポリウレタンを付与する工程
(3)前記自己乳化型ポリウレタンを付与した不織布をアルカリ水溶液で処理して極細繊維を発現せしめる工程」である。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、高度な柔軟性と耐久性を有し、かつ環境に配慮したシート状物、その製造方法、並びにそれを用いてなる内装材および衣料資材を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明のシート状物は、平均単繊維繊度が0.001dtex以上0.5dtex以下のPTTを主成分とするポリエステル極細繊維が絡合してなる不織布に自己乳化型ポリウレタンを含有するシート状物である。
【0018】
ここでいうシート状物とは、天然皮革のようなスエード、ヌバック、銀面等の優れた表面外観を有してなるものであり、好ましくはスエードやヌバックといった立毛調の外観において、滑らかなタッチと優れたライティングエフェクトを有するものである。
【0019】
不織布を構成する極細繊維の平均単繊維繊度としては、シート状物とした時の柔軟性や立毛品位の観点から0.001dtex以上0.5dtex以下であることが重要である。好ましくは0.3dtex以下、より好ましくは0.2dtex以下である。一方、染色後の発色性やサンドペーパーなどによる研削など起毛処理時の繊維の分散性、さばけ易さの観点からは、0.005dtex以上であることが好ましい。
【0020】
なお、不織布を構成する極細繊維の平均単繊維繊度は、シート状物(もしくは不織布)表面の走査型電子顕微鏡(SEM)写真を倍率2000倍で撮影し、円形または円形に近い楕円形の繊維をランダムに100本選び、繊維径を測定して素材ポリマーの比重から繊度に換算し、さらにその100本の平均値を計算することで算出される。なお、異形断面の場合は異形断面の外周円を元に算出する。
【0021】
極細繊維の断面形状としては、丸断面でよいが、楕円、扁平、三角などの多角形、扇形、十字型などの異形断面のものを採用してもよい。
【0022】
本発明のシート状物を構成する不織布は、短繊維不織布、長繊維不織布のいずれでもよいが、風合いや品位を重視する場合には、短繊維不織布が好ましい。同様に風合いや品位を重視する場合は、短繊維の繊維長は絡合による耐摩耗性を考慮して、25mm以上90mm以下であることが好ましい。
【0023】
本発明のシート状物を構成する不織布を構成する極細繊維としては、PTTを主成分とするポリエステル極細繊維を用いるものである。PTTを主成分とするポリエステルはバイオマスポリマーであることから、環境負荷は小さく、さらに従来のポリエチレンテレフタレート(以下、PETと表記)やポリブチレンテレフタレート(以下、PBTと表記)の極細繊維では得られなかった、ソフト性と染色性を得ることができる。
本発明で用いるPTTとは、90モル%以上がトリメチレンテレフタレートの繰り返し単位からなるものであり、ここで言うPTTとはテレフタル酸を主たる酸成分とし、1,3−プロパンジオールを主たるグリコール成分として得られるポリエステルである。ただし、10モル%以下の割合で他のエステル結合を形成可能な共重合成分を含むものであっても良い。共重合可能な化合物として、たとえばイソフタル酸、シクロヘキサンジカルボン酸、アジピン酸、ダイマー酸、セバシン酸などのジカルボン酸類や、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、シクロヘキサンジメタノール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールなどのグリコール成分を挙げることができるが、これらに限られるものではない。
【0024】
PTTを主成分とするポリエステルには、必要に応じて二酸化チタン等の艶消剤、シリカやアルミナの微粒子等の滑剤、ヒンダードフェノール誘導体等の抗酸化剤、着色顔料などを添加することができる。
【0025】
本発明におけるPTTの好ましい極限粘度は、0.7〜2.0であり、極限粘度が0.7以上とすることで充分な強度と伸度を兼ね備えた繊維を製造することが容易となる。より好ましい極限粘度は0.8以上である。また、極限粘度が2.0以下とすることで、紡糸での生産安定性を得やすい。より好ましい極限粘度は1.5以下である。ここで、極限粘度は実施例の欄に記載した方法で測定した値をいう。
【0026】
本発明のシート状物を構成する不織布は、PTTを主成分とするポリエステルと異なる素材の極細繊維が混合されて構成されていてもよい。PTTを主成分とするポリエステルと異なる素材としては、PET、PBT、ポリエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレートなどのポリエステル、6−ナイロン、66−ナイロンなどのポリアミド、アクリル、ポリエチレン、ポリプロピレンなどの各種合成繊維を用いることができる。
【0027】
また、不織布の内部に、強度を向上させるなどの目的で、織物や編物を挿入してもよい。織物や編物を構成する繊維の平均単繊維繊度は特に限定はない。織物や編物を構成する素材としては、PTT、PET、PBT、ポリエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレートなどのポリエステル、6−ナイロン、66−ナイロンなどのポリアミド、アクリル、ポリエチレン、ポリプロピレンなどの各種合成繊維を用いることができる。
【0028】
本発明においては、このような不織布に、弾性樹脂バインダーとして自己乳化型ポリウレタン水分散液を含浸して当該自己乳化型ポリウレタンが当該不織布の内部空間に存在する構成としたものである。
【0029】
当該不織布の内部空間に存在する自己乳化型ポリウレタンは無孔構造である。自己乳化型ポリウレタンが無孔構造であることにより、多孔構造に比べ、揉み等の物理力に対して強くなることから、シート状物の耐ピリング性、耐摩耗性等は良好となる。ここでいう無孔構造とは、シート状物の断面の走査型電子顕微鏡(SEM)写真を倍率300倍で観察した際に、自己乳化型ポリウレタン部分において、最大径(もしくは最大長さ)が5μm以上の孔が見えないことをいう。
【0030】
本発明では、当該不織布を構成する極細繊維と自己乳化型ポリウレタンが実質的に接着していないことが好ましい。実質的に接着していないことにより、自己乳化型ポリウレタンが極細繊維の繊維交絡点の動きを拘束しないため、シート状物は非常に柔軟となる。
【0031】
ここでいう実質的に接着していないとは、シート状物の断面の走査型電子顕微鏡(SEM)写真を倍率3000倍で観察した際に、自己乳化型ポリウレタンが極細繊維に接着しておらず、自己乳化型ポリウレタンと極細繊維の間に空隙が存在することを確認できることをいう。または、自己乳化型ポリウレタンと極細繊維は部分的に接している部分があってもよいが、シート状物の断面の走査型電子顕微鏡(SEM)写真を倍率3000倍でランダムに10カ所以上観察した際に、その半分以上の部位において、自己乳化型ポリウレタンと極細繊維の間に空隙が存在することを確認できることをいう。
当該不織布の内部空間に存在する自己乳化型ポリウレタンは、自己乳化型ポリウレタン水分散液を不織布に含浸することで得られるものであるが、自己乳化型ポリウレタン水分散液とは、界面活性剤等の乳化剤を用いなくても安定に水分散しているポリウレタン水分散液のことであり、自己乳化型ポリウレタン分子構造内に親水性の、いわゆる内部乳化剤を有するものである。
【0032】
なお、自己乳化型ポリウレタンは、通常、水に分散した状態で取り扱われ、メーカーからもこの状態で入手できるが、これは一旦乾燥すると再度水に分散させることが不可能となるためである。
【0033】
内部乳化剤は、4級アミン塩等のカチオン系、スルホン酸塩、カルボン酸塩等のアニオン系、ポリエチレングリコール等のノニオン系のいずれでもよいが、カチオン系内部乳化剤は、黄変等の耐光性に劣るため、ノニオン系、またはアニオン系であることが好ましい。
【0034】
また、アニオン系内部乳化剤は、中和剤が揮発性物質である場合はVOC発生の原因となり、中和剤が揮発性物質ではない場合は、シート状物が水に湿潤したときにアルカリ性を示し、シート状物を構成するポリウレタンを加水分解して耐久性を低下させる原因となることから、内部乳化剤としてさらに好ましいのはノニオン系である。
【0035】
アニオン系内部乳化剤の中和剤としては、例えば、アンモニア、トリエチルアミン、トリエタノールアミン、トリイソプロパノールアミン、トリメチルアミン、ジメチルエタノールアミン等の第3級アミン、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム等のアルカリ金属、またはアルカリ土類金属の水酸化物等が挙げられる。これらは単独、または2種以上の混合物として使用してもよい。
【0036】
自己乳化型ポリウレタン内の内部乳化剤の含有量は、乳化力が強いアニオン系やカチオン系の方がノニオン系よりも少量でよく、アニオン系やカチオン系では、ポリウレタン重量に対して0.5重量%以上10重量%以下が好ましい。
【0037】
ノニオン系の場合の含有量は、ポリウレタン重量に対して3重量%以上30重量%以下のポリエチレングリコールを有することが好ましい。
【0038】
なお、自己乳化型ポリウレタン中の内部乳化剤の含有量は、ポリウレタンのNMRによる測定において、基準物質に起因するピークと内部乳化剤に起因するピーク(例えば、カルボン酸基やスルホン酸基のプロトン、ポリエチレングリコールのプロトン等)の面積を比較することで、算出できる。
【0039】
本発明に使用する自己乳化型ポリウレタンは、内部乳化剤以外にポリオール、ポリイソシアネート、鎖伸長剤を適宜反応させた構造を有するものを用いることができる。また、膜強度や耐水性、耐加水分解性等を向上させる目的で内部架橋剤を適宜導入してもよい。
【0040】
ポリオールとしては、ポリカーボネート系ジオール、ポリエステル系ジオール、ポリエーテル系ジオール、シリコーン系ジオールや、これらを組み合わせた共重合体を用いてもよい。中でも耐加水分解性の観点から、ポリカーボネート系ジオール、ポリエーテル系ジオールを用いることが好ましく、さらに耐光性、耐熱性といった観点から、ポリカーボネート系ジオールがより好ましい。
【0041】
ポリカーボネート系ジオールは、アルキレングリコールと炭酸エステルのエステル交換反応、あるいはホスゲンまたはクロル蟻酸エステルとアルキレングリコールとの反応などによって製造することができる。アルキレングリコールとしては、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオール、などの直鎖アルキレングリコールや、ネオペンチルグリコール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、2,4−ジエチル−1,5ペンタンジオール、2−メチル−1,8−オクタンジオールなどの分岐アルキレングリコール、1,4−シクロヘキサンジオールなどの脂環族ジオール、ビスフェノールAなどの芳香族ジオール、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトールなどが挙げられる。それぞれ単独のアルキレングリコールから得られるポリカーボネートジオールでも2種類以上のアルキレングリコールから得られる共重合ポリカーボネートジオールのいずれでも良い。
【0042】
ポリイソシアネートは、ヘキサメチレンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、イソフォロンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート等の脂肪族系、ジフェニルメタンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート等の芳香族系が挙げられ、またこれらを組み合わせて用いてもよい。中でも、耐光性の観点から、ヘキサメチレンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、イソフォロンジイソシアネート等の脂肪族系が好ましい。
【0043】
鎖伸長剤としては、エチレンジアミン、メチレンビスアニリン等のアミン系、エチレングリコール等のジオール系、さらにはポリイソシアネートと水を反応させて得られるポリアミンを用いることができる。
【0044】
内部架橋剤とは、自己乳化型ポリウレタン分子の一部として自己乳化型ポリウレタンを合成する際にあらかじめ分子構造内に導入しておく架橋反応可能な官能基を有する化合物のことであり、例えば、シラノール基等を自己乳化型ポリウレタン分子構造内に導入することができる。本発明のシート状物において、自己乳化型ポリウレタン分子構造内にシラノール基を導入すると、不織布の内部空間に存在する自己乳化型ポリウレタンはシロキサン結合による架橋構造を有することになり、自己乳化型ポリウレタンの耐加水分解性等の耐久性を飛躍的に向上することができるため、好ましい。
【0045】
シラノール基を自己乳化型ポリウレタン分子構造内に導入するために用いる化合物とは、1分子内に少なくとも1個のイソシアネート基と反応可能な活性水素基と加水分解性ケイ素基とを含有する化合物のことである。
【0046】
加水分解性ケイ素基とは、水分により加水分解を受ける加水分解性基がケイ素原子に結合している基のことをいい、加水分解性基の具体例としては、水素原子、ハロゲン原子、アルコキシ基、アシルオキシ基、ケトキシメート基、アミノ基、アミド基、アミノオキシ基、メルカプト基、アルケニルオキシ基等の一般に使用されている基が挙げられる。中でも、加水分解性が低く、比較的取扱が容易なアルコキシ基が好ましい。加水分解性基は、1個のケイ素原子に1〜3個の範囲で結合しているが、加水分解性シリル基の反応性、耐水性等から、2〜3個結合しているものが好ましい。
【0047】
イソシアネート基と反応可能な活性水素基とは、メルカプト基、水酸基、アミノ基等が挙げられる。
【0048】
活性水素基としてメルカプト基を有し、加水分解性基としてアルコキシ基を有する加水分解性ケイ素基含有化合物は、例えばγ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、γ−メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルメチルジエトキシシラン等が挙げられ、活性水素基としてアミノ基を有し、加水分解性基としてアルコキシ基を有する加水分解性ケイ素基含有化合物は、例えばγ−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−(2−アミノエチル)アミノプロピルジメトキシシラン、γ−(2−アミノエチル)アミノプロピルジエトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−アミノプロピルジメトキシシラン、γ−アミノプロピルジエトキシシラン等が挙げられる。中でも耐候性、耐加水分解性の観点から、自己乳化型ポリウレタン分子鎖の中間部分に加水分解性ケイ素基を導入することが好ましく、さらに2個以上の活性水素基を有する加水分解性ケイ素基含有化合物が好ましい。
前記加水分解性ケイ素基含有化合物が導入された自己乳化型ポリウレタンは、不織布の内部空間に存在した状態でシロキサン結合による架橋構造を含有する。この架橋構造により、シート状物からのポリウレタンの脱落を抑制することができるため好ましい。
【0049】
なお、シロキサン結合は、ポリウレタンのNMRによる測定において、シロキサン結合に起因するピークによって確認することができる。ここで、シロキサン結合となるためにはポリマーに直接結合しているシラノール基同士が縮合する必要がある。従って、シロキサン結合が存在するということは、シラノール基同士が縮合したものであり、ポリマー間を結合する架橋構造であることがわかる。前記自己乳化型ポリウレタン分子構造内のシリコン原子の含有量はポリウレタン重量に対して0重量%よりも多く、1重量%以下であることが好ましい。シリコン原子の含有量が多いと、シロキサン結合による架橋構造が多いということになり、自己乳化型ポリウレタンの耐加水分解性等の耐久性は向上するが、含有量が多すぎると自己乳化型ポリウレタンの柔軟性は低下する。
【0050】
なお、前記自己乳化型ポリウレタン分子構造内のシリコン原子の含有量は、元素分析法により定量することができる。
【0051】
本発明において、自己乳化型ポリウレタンは単独で用いても複数種を併用してもよく、また、他のポリマー等を併用してもよい。他のポリマーとしては、例えば、アクリル系やシリコーン系等の水分散性や水溶性のポリマーが挙げられる。
【0052】
自己乳化型ポリウレタンは、濃度15g/L水酸化ナトリウム水溶液中浸漬90℃30分処理後の重量減少率が0重量%以上5重量%以下であることが好ましい。本発明のシート状物は、後述する製造方法により得られるため、アルカリ水溶液への溶解、脱落による自己乳化型ポリウレタンの重量減少は少ない方が好ましいため、重量減少率はより好ましくは0重量%以上4重量%以下である。
【0053】
なお、アルカリ水溶液処理での重量減少率(耐加水分解性)は、次のようにして算出した。ポリウレタン水分散液をタテ10cm×ヨコ10cmのポリエチレン製不織布に含浸し、120℃30分乾燥することで、不織布重量に対して75重量%のポリウレタンを付与したシートを得る。次に、得られたシートを濃度15g/L水酸化ナトリウム水溶液中に浸漬して90℃30分処理後の重量を測定し、浸漬処理前の重量と比較して重量減少率を算出した。
【0054】
自己乳化型ポリウレタンは、カーボンブラック等の顔料、染料、防カビ剤、酸化防止剤や紫外線吸収剤などの耐光剤、難燃剤、浸透剤や滑剤、シリカや酸化チタン等のアンチブロッキング剤、帯電防止剤等の界面活性剤、シリコーン等の消泡剤、セルロース等の充填剤、凝固調整剤等を含有していてもよい。
【0055】
本発明のシート状物においては、不織布(織編物等を挿入している場合はそれらも含む)全重量に対する自己乳化型ポリウレタンの含有量は20重量%以上200重量%以下であることが好ましい。20重量%以上とすることで、シート強度を得て、かつ繊維の脱落を防ぐことができ、200重量%以下とすることで、風合いが必要以上に硬くなるのを防ぎ、目的とする良好な立毛品位を得ることができる。より好ましくは30重量%以上180重量%以下である。
【0056】
本発明のシート状物は、例えば染料、顔料、柔軟剤、ピリング防止剤、抗菌剤、消臭剤、撥水剤、耐光剤、耐候剤等の機能性薬剤を含んでいてもよい。
【0057】
また、本発明のシート状物は、少なくとも片面に極細繊維の立毛を有している立毛調のシート状物としてもよい。
【0058】
次に前述した本発明のシート状物の製造方法について説明する。
【0059】
本発明のシート状物の製造方法は、次の(1)〜(3)の工程をこの順番で経るものである。
(1)PLAを主成分とするポリエステルAと、PTTを主成分とするポリエステルBとから構成される極細繊維発生型複合繊維を用いて不織布を作成する工程
(2)自己乳化型ポリウレタン水分散液を不織布に含浸して、該自己乳化型ポリウレタンを付与する工程
(3)前記自己乳化型ポリウレタンを付与した不織布をアルカリ水溶液で処理して極細繊維を発現せしめる工程
先ず、工程(1)について説明する。
【0060】
本発明で用いる不織布を構成する極細繊維を得る手段としては極細繊維発生型複合繊維を用いる。極細繊維発生型複合繊維をあらかじめ絡合した後に繊維の極細化を行うことによって、極細繊維が絡合してなる不織布を得ることができる。
【0061】
極細繊維発生型複合繊維は、PLAを主成分とするポリエステルAと、PTTを主成分とするポリエステルBとからなり、ポリエステルAによってポリエステルBが複数のセグメントに分散されたものであり、海島型複合繊維や割繊型複合繊維が例として挙げられる。極細繊維の分散性を考慮すると、海島型複合繊維であることが好ましい。
【0062】
分割数は特に限定はなく、紡糸生産性を考慮して設定すると良い。
【0063】
極細繊維の繊度は、0.001dtex以上0.5dtex以下であるが、極細化する前の極細繊維発生型複合繊維の繊度は特に限定はない。
【0064】
極細繊維発生型複合繊維の一方の成分であるポリエステルAは、PLAを主成分とするポリエステルであり、アルカリ処理により溶出される成分である。ポリエステルAにPLAを用いることにより、極細繊維発生型複合繊維の紡糸において、紡糸温度を低く設定することができ、ポリエステルB(PTT)の熱劣化を最小限に抑制することができる。また、PTTとPLAは製糸工程における張力、収縮挙動が類似するため、複合紡糸に際して極めて良好な工程安定性が得られる。
【0065】
さらに、アルカリ処理による溶出工程において、溶出した後のポリエステルAを焼却廃棄する場合にはカーボンニュートラルとなるため、環境負荷は小さくなる。
【0066】
本発明でいうPLAとは、-(O-CHCH-CO)n-を繰り返し単位とするポリマーであり、例えば、乳酸やそのオリゴマーを重合したものをいう。乳酸にはD−乳酸とL−乳酸の2種類の光学異性体が存在するため、その重合体もD体のみからなるポリ(D−乳酸)とL体のみからなるポリ(L−乳酸)および両者からなるPLAがある。原料中のD−乳酸、あるいはL−乳酸の光学純度が低くなるとともにPLAの結晶性が低下し、融点降下が大きくなる。そのため、耐熱性を高めるために光学純度は90%以上であることが好ましい。より好ましい光学純度は93%以上、さらに好ましい光学純度は97%以上である。なお、光学純度は前記した様に融点と強い相関が認められ、光学純度90%程度で融点が約150℃、光学純度93%で融点が約160℃、光学純度97%で融点が約170℃となる。また、上記のように原料として2種類の光学異性体を単純に共重合した系とは別に、前記2種類のポリ乳酸(ポリ(D−乳酸)及びポリ(L−乳酸))をブレンドして繊維に成型した後、140℃以上の高温熱処理を施してラセミ結晶を形成させたステレオコンプレックスにすると、融点を飛躍的に高めることができ、より好ましい。
【0067】
極細繊維発生型複合繊維の他方の成分であるポリエステルBは、PTTを主成分とするポリマーであり、アルカリ減量処理後に極細繊維を構成する成分である。
【0068】
極細繊維発生型複合繊維におけるポリエステルAとポリエステルBの複合重量比は、任意に設定可能であるが、分割性とポリエステルA(PLA)の減量に伴う製品量損失分を考慮すると、A:B=15:85〜80:20の範囲であることが好ましく、より好ましくは20:80〜50:50の範囲である。ポリエステルAの重量比は15重量%以上とすることにより、ポリエステルBとの複合異常を回避できるほか、ポリエステルAの溶融後の配管通過時間を短縮できるため、熱劣化による変色を抑制でき、製糸性の向上が可能となる。また、ポリエステルAの重量比を50重量%以下にすると、減量による製品量損失を軽減できるため、紡糸での生産効率を高く維持でき、好ましい。
【0069】
必要に応じて延伸を行った極細繊維発生型複合繊維に、好ましくは捲縮加工を施し、所定長にカットして不織布の原綿を得る。捲縮加工やカット加工は公知の方法を用いることができる。
【0070】
カット綿の繊維長は、20mm以上80mm以下が好ましい。この範囲において、シート状物の繊維の緻密感と耐摩耗性を両立することができる。
【0071】
得られた原綿を、クロスラッパー等によりウエブとし、次いで繊維を絡合して不織布とする。
【0072】
繊維を絡合させ不織布を得る方法としては、ニードルパンチ、ウォータージェットパンチ等の公知の方法を用いることができる。また、繊維絡合工程において、適宜織物や編物を挿入してもよい。
【0073】
得られた前記不織布には、繊維の緻密感向上のために、温水やスチーム処理によって収縮処理を施してもよい。また、収縮処理を施した不織布は、厚さ方向に半裁、または数枚に分割して用いてもよい。
【0074】
次に、工程(2)について説明する。
【0075】
自己乳化型ポリウレタン水分散液を前記不織布に付与するにあたっては、不織布に当該ポリウレタン水分散液を含浸、または付与し乾熱凝固する方法、不織布に当該ポリウレタン水分散液を含浸後、湿熱凝固して加熱乾燥する方法、およびその組み合わせがあるが、特に限定することはない。
【0076】
なお、乾燥温度は低すぎると乾燥時間が長時間となり、高すぎるとPTT、PLA、自己乳化型ポリウレタンの熱劣化の原因となる可能性があることから、50℃以上180℃以下が好ましい。より好ましくは60℃以上170℃以下である。
【0077】
本発明の製造に使用するポリウレタン水分散液は水中に分散してエマルジョンとしてあるポリウレタン水分散液であり、界面活性剤等の乳化剤を含有しない自己乳化型のポリウレタン水分散液である。
【0078】
界面活性剤等の乳化剤を含有する強制乳化型のポリウレタン水分散液を用いた場合、得られたシート状物の表面は乳化剤に起因するベトツキ等が発生するため、洗浄工程が必要となり、加工工程が増加してコストアップに繋がる。さらには、強制乳化型のポリウレタン水分散液では、乳化剤の存在により、皮膜化したポリウレタン膜の耐水性が低下するため、ポリウレタンを含有するシート状物の染色において、ポリウレタンの染色液への脱落が発生しやすく、好ましくない。
【0079】
本発明のシート状物の製造方法に使用するポリウレタン水分散液は自己乳化型ポリウレタン水分散液であるが、自己乳化型ポリウレタン水分散液とは、界面活性剤等の乳化剤を用いなくても安定に水分散しているポリウレタン水分散液のことであり、自己乳化型ポリウレタン分子構造内に親水性の、いわゆる内部乳化剤を有するものである。
【0080】
本発明に使用する自己乳化型ポリウレタン水分散液には、貯蔵安定性や製膜性向上のために水溶性有機溶剤を水分散液に対して0重量%以上40重量%以下含有していてもよいが、製膜時の加熱による大気中への有機溶剤の放出や最終製品への有機溶剤の残留等の懸念から、好ましくは1重量%以下であり、さらに好ましくは有機溶剤を含有しないことである。
【0081】
また、自己乳化型ポリウレタン水分散液は、自己乳化型ポリウレタン分子構造内に少なくとも1個のシラノール基を含有する自己乳化型ポリウレタン水分散液(以下、シラノール基含有自己乳化型ポリウレタンと記す)であることが好ましい。
【0082】
シラノール基含有自己乳化型ポリウレタン中のシラノール基は、反応に用いられた1分子内に少なくとも1個のイソシアネート基と反応可能な活性水素基と加水分解性ケイ素基とを含有する化合物中の加水分解性ケイ素基が水中で加水分解されて生成したものである。このシラノール基含有自己乳化型ポリウレタン中のシラノール基は、周囲に十分な水が存在するので、シラノール基同士が反応してシロキサン結合を形成する段階には到らず、水中で安定に存在することができる。
【0083】
自己乳化型ポリウレタン水分散液の濃度(自己乳化型ポリウレタン水分散液に対する自己乳化型ポリウレタンの含有量)は、自己乳化型ポリウレタン水分散液の貯蔵安定性と、シートへ含浸し、乾燥する際のマイグレーション現象抑制の観点から、10重量%以上50重量%以下が好ましい。
【0084】
自己乳化型ポリウレタン水分散液を付与するにあたっては、必要に応じてカーボンブラック等の顔料、染料、防カビ剤、酸化防止剤や紫外線吸収剤などの耐光剤、難燃剤、浸透剤や滑剤、シリカや酸化チタン等のアンチブロッキング剤、帯電防止剤、シリコーン等の消泡剤、セルロース等の充填剤、凝固調整剤等を添加して用いることができる。
【0085】
最後に、工程(3)について説明する。
【0086】
本発明のシート状物の製造方法は、極細繊維発生型複合繊維からなるシートに自己乳化型ポリウレタンを付与した後、アルカリ水溶液で処理することで極細繊維を発現せしめる。
【0087】
アルカリ水溶液は、特に限定はないが、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどの水溶液やアンモニア塩等を用いることができる。
【0088】
アルカリ水溶液の濃度は極細繊維が発現できれば特に限定はないが、0.05mol/L以上2mol/L以下が好ましい。
【0089】
アルカリ水溶液での処理は、自己乳化型ポリウレタン付与後の極細繊維発生型複合繊維からなるシートを浸漬し、窄液を行うものであり、アルカリ水溶液に溶解する成分であるポリエステルAを溶出してポリエステルBからなる極細繊維を発生させるものであることから、方法に特に限定はないが、例えば液流染色機やジッガー染色機、ウインス染色機、連続染色機といった染色機や精錬の装置を用いて処理することができる。
【0090】
アルカリ水溶液での処理工程では、極細繊維の発生を効率化する目的で、適宜加熱処理やスチーム処理、界面活性剤等の浸透剤を添加しての処理を行ってもよい。
【0091】
自己乳化型ポリウレタン付与後の極細繊維発生型複合繊維からなるシートは、厚さ方向に半裁、または数枚に分割してもよく、また、厚さ方向の分割はアルカリ水溶液での処理工程の前後どちらでもよい。
【0092】
本発明のシート状物の製造方法においては、工程(1)〜(3)以外に、シート状物の少なくとも片面に立毛を形成するために起毛処理を行ってもよい。
【0093】
起毛処理は、サンドペーパーやロールサンダーなどを用いて、研削する方法などにより施すことができる。起毛処理の前にシリコーンエマルジョンなどの滑剤を付与してもよい。
【0094】
また、起毛処理の前に帯電防止剤を付与することは、研削によってシート状物から発生した研削粉がサンドペーパー上に堆積しにくくなる傾向にあり好ましい。
【0095】
本発明のシート状物は、染色されたものでもよい。したがって、本発明のシート状物の製造方法において染色処理をおこなってもよいが、染色方法は、シート状物を染色すると同時に揉み効果を与えてシート状物を柔軟化することができることから、液流染色機を用いることが好ましい。液流染色機は、公知の液流染色機を使用することができる。
【0096】
染色温度は高すぎると自己乳化型ポリウレタンが劣化する場合があり、逆に低すぎると繊維への染着が不十分となるため、40℃以上150℃以下が好ましく、50℃以上140℃以下がより好ましい。
【0097】
染料は特に限定はないが、通常は分散染料を用いる。分散染料で染色した場合は、染色後に還元洗浄を行ってもよい。また、染色の均一性や再現性をアップする目的で染色時に染色助剤を使用することは好ましい。さらにシリコーン等の柔軟剤、帯電防止剤、撥水剤等の仕上げ剤処理を施してもよく、仕上げ処理は染色後でも、染色と同浴でもよい。
【0098】
なお、仕上げ処理を行うことによってシート状物表面の手触りが粗くなった場合は、表面を擦過処理してもよい。
【0099】
本発明のシート状物は、家具、椅子、壁材や自動車、電車、航空機などの車輛室内における座席、天井、内装などの表皮材として非常に優美な外観を有する環境に配慮した内装材、シャツ、ジャケット等の衣料、鞄、ベルト、財布、及びそれらの一部、カジュアルシューズ、スポーツシューズ、紳士靴、婦人靴等の靴のアッパー、トリム等の環境に配慮した衣料用資材、研磨布等の工業資材として好適に用いることができる。
【実施例】
【0100】
以下、実施例を挙げて具体的に説明する。なお、実施例の主な測定値は以下の方法で測定した。
【0101】
[評価方法]
(1)極限粘度
極限粘度[η]は、次の定義式に基づいて求められる値である。
【0102】
【数1】

【0103】
定義式のηrは、純度98%以上のO−クロロフェノールで溶解したPTTの希釈溶液の25℃での粘度を、同一温度で測定した上記溶剤自体の粘度で割った値であり、相対粘度と定義されているものである。また、cは上記溶液100ml中のグラム単位による溶質重量値である。
【0104】
(2)平均単繊維繊度
不織布、またはシート状物表面の走査型電子顕微鏡(SEM)写真を倍率2000倍で撮影し、円形または円形に近い楕円形の繊維をランダムに100本選び、繊維径を測定して繊維の素材ポリマーの比重(PTTの場合は1.35g/cm)から繊度に換算し、さらに100本の平均値を計算することで算出した。
【0105】
(3)シート状物構造
シート状物の内部の断面を走査型電子顕微鏡(SEM)にて倍率300倍で観察し、その写真からポリウレタン部分の構造を判断した。
【0106】
また、シート状物の内部の断面を走査型電子顕微鏡(SEM)にて倍率3000倍でランダムに10カ所以上観察し、その写真からポリウレタンと極細繊維の接着状態を判断した。
【0107】
(4)シロキサン結合の確認とシリコン原子含有量の定量
ポリウレタンのNMRによる測定において、シロキサン結合に起因するピークにより、シロキサン結合の存在有無を確認した。また、シート状物、またはシート状物から抽出したポリウレタンの元素分析を行うことで、シリコン原子の含有量を定量した。
【0108】
(5)内部乳化剤量の確認
ポリウレタンのNMRによる測定において、基準物質に起因するピークと内部乳化剤に起因するピーク(アニオン系内部乳化剤であれば、カルボン酸基やスルホン酸基のプロトン、ノニオン系内部乳化剤であれば、ポリエチレングリコールのプロトン)の面積を比較することで、算出した。
【0109】
(6)ポリウレタンの耐加水分解性(重量減少率)
ポリウレタン水分散液をタテ10cm×ヨコ10cmのポリエチレン製網(タテ糸15本/cm、ヨコ糸20本/cmの密度)に含浸し、120℃30分乾燥することで、網重量に対して75重量%のポリウレタンを付与したシート状物を得る。
【0110】
次に、得られたシート状物を濃度15g/L水酸化ナトリウム水溶液中に浸漬して90℃30分処理後の重量を測定し、浸漬処理前の重量と比較して重量減少率を算出した。
【0111】
(7)外観品位
シート状物の表面品位は目視と官能評価にて下記のように評価した。本発明の良好なレベルは「○」とした。
○:立毛長・繊維の分散状態共に良好である。
△:立毛長は良好であるが、繊維の分散は不良である。
×:立毛がほとんど無く不良である。
【0112】
(8)ピリング評価
シート状物のピリング評価は、マーチンデール摩耗試験機として、James H.Heal&Co.製のModel 406を、標準摩擦布として同社のABRASTIVE CLOTH SM25を用い、12kPa相当の荷重をかけ、摩耗回数20,000回の条件で摩擦させた後の試料の外観を目視で観察し、評価した。評価基準は試料の外観が摩擦前と全く変化が無かったものを5級、毛玉が多数発生したものを1級とし、その間を0.5級ずつ区切った。また、本発明における合格レベルは4級以上とした。
【0113】
(9)風合い
健康な成人男性と成人女性各10名ずつ、計20名を評価者として、下記の評価を触感で判別を行い、最も多かった評価を風合いとした。本発明の良好なレベルは「○」とした。
○:非常に柔軟であり、かつ適度な反発感がある。
△:柔軟であるが、反発感がない。
×:硬い。
【0114】
(10)環境への配慮
下記分類で評価した。本発明の良好なレベルは「○」以上とした。
◎:カーボンニュートラルに配慮した原料を用い、かつ製造工程において揮発性有機物質の発生がない。
○:カーボンニュートラルに配慮した原料を用いているが、製造工程において少量の揮発性有機物質の発生がある。
×:製造工程において多量の揮発性有機物質の発生がある。
【0115】
[化学物質の表記]
各実施例・比較例で用いた化学物質の略号の意味は以下の通りである。
C5C6PC:ペンタメチレンカーボネートジオールとヘキサメチレンカーボネートジオールの共重合ポリカーボネート
C4C6PC:テトラメチレンカーボネートジオールとヘキサメチレンカーボネートジオールの共重合ポリカーボネート
3MPC:ポリ(3−メチルペンタンカーボネート)
PHC:ポリヘキサメチレンカーボネート
H12MDI:ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート
HDI:ヘキサメチレンジイソシアネート
MDI:ジフェニルメタンジイソシアネート
[ポリウレタン種]
実施例、比較例で用いたポリウレタン水分散液の組成は下記の通りである。また、各溶液の固形分濃度は30重量%とした。さらに、各ポリウレタンの組成と特性を表1に示した。なお、溶剤系ポリウレタン液V(PU−V)以外には有機溶剤は含まれていない。
(1)自己乳化型ポリウレタン水分散液I(PU−I)
ポリイソシアネート:H12MDI
ポリオール :C5C6PC
内部乳化剤 :側鎖にポリエチレングリコールを有するジオール化合物
鎖伸長剤 :水(イソシアネートと水の反応により得られるジアミン)
内部架橋剤 :γ−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン。
(2)自己乳化型ポリウレタン水分散液II(PU−II)
ポリイソシアネート:H12MDI
ポリオール :C4C6PC
内部乳化剤 :側鎖にポリエチレングリコールを有するジオール化合物
鎖伸長剤 :水(イソシアネートと水の反応により得られるジアミン)
内部架橋剤 :γ−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン。
(3)自己乳化型ポリウレタン水分散液III(PU−III)
ポリイソシアネート:HDI
ポリオール :C5C6PC
内部乳化剤 :ジメチロールプロピオン酸トリエチルアミン塩
鎖伸長剤 :水(イソシアネートと水の反応により得られるジアミン)
内部架橋剤 :γ−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン。
(4)自己乳化型ポリウレタン水分散液IV(PU−IV)
ポリイソシアネート:HDI
ポリオール :3MPC
内部乳化剤 :側鎖にポリエチレングリコールを有するジオール化合物
鎖伸長剤 :水(イソシアネートと水の反応により得られるジアミン)
内部架橋剤 :なし。
(5)溶剤系ポリウレタン液V(PU−V)
ポリイソシアネート:MDI
ポリオール :PHC
内部乳化剤 :なし
鎖伸長剤 :水(イソシアネートと水の反応により得られるジアミン)
内部架橋剤 :なし
溶媒 :N,N−ジメチルホルムアミド。
(6)強制乳化型ポリウレタン水分散液VI(PU−VI)
ポリイソシアネート:H12MDI
ポリオール :PHC
内部乳化剤 :側鎖にポリエチレングリコールを有するジオール化合物
鎖伸長剤 :水(イソシアネートと水の反応により得られるジアミン)
内部架橋剤 :なし。
【0116】
[実施例1]
光学純度98.0%のポリ−L−乳酸(PLA)と極限粘度1.1のホモPTTを、それぞれエクストルーダーを用いて210℃、250℃にて溶融後、ポンプによる計量を行い、250℃にて海島型複合形態を形成すべく公知の口金に流入させた。複合比はPLA3に対し、PTT7の割合とした。各ポリマーの配管通過時間は、PLAが20分、PTTは11分であった。口金から吐出された糸条は、図3に示す装置にて冷却、油剤付与後、2700m/分の速度で55℃に加熱された第1ホットローラー8に引き取られ、一旦巻き取ることなく、4300m/分の速度で150℃に加熱された第2ホットローラー9に引き回し、延伸、熱セットを行った。さらに、4200m/分にて2個のゴデットローラー11、12を引き回した後、コンタクトロール入口での張力を0.13cN/dtex、コンタクトロール速度4080m、パッケージ巻き取り速度4072m/分、すなわちオーバーフィードを1.0020として巻き取り、64dtex−36フィラメントの8島の海島型複合繊維を得た。
【0117】
次に、該海島型複合繊維に捲縮付与、カットを行い、繊維長51mmの原綿を得た。得られた原綿は、カード、クロスラッパーを通してウェブを形成した後、ニードルパンチ処理により、不織布とした。
【0118】
この不織布を90℃の湯中で2分処理して収縮させ、100℃5分で乾燥した。次いで、自己乳化型ポリウレタン水分散液I(PU−I)を含浸し、乾燥温度125℃で10分熱風乾燥することで、不織布の島成分重量に対するポリウレタン重量が80重量%となるようにポリウレタンを付与したシートを得た。
【0119】
次にこのシートを90℃に加熱した濃度15g/Lの水酸化ナトリウム水溶液に浸漬して30分処理を行い、海島型複合繊維の海成分であるPLAを除去した脱海シートを得た。脱海シート表面の走査型電子顕微鏡(SEM)観察により、平均単繊維繊度は0.16dtexであることを確認した。
【0120】
そして、脱海シートを厚さ方向に半裁し、半裁面と反対となる面を240メッシュのエンドレスサンドペーパーを用いた研削によって起毛処理した後、サーキュラー染色機にて分散染料により染色を行い、本発明のシート状物を得た。
【0121】
得られたシート状物の外観品位、ピリング評価、風合いは良好であり、非常に環境に配慮したものであった。
【0122】
[実施例2]
実施例1と同様の口金を使用し、PLA(海):PTT(島)の複合比を2:8として、POY−DTプロセスにて8島の海島型複合繊維を得た。製糸に際して、巻き取り速度2800m/分にて一旦ドラムに巻き取った後、得られた原糸を70℃の第1ロールにて予熱後、倍率1.47倍に延伸し、115℃の第2ロールで熱セットをした後、室温の第3ロールを介して、400m/分でボビンに巻き取り、海島型複合繊維を得た。
次に、該海島型複合繊維に捲縮付与、カットを行い、繊維長51mmの原綿を得た。得られた原綿は、カード、クロスラッパーを通してウェブを形成した後、ニードルパンチ処理により、不織布とした。
【0123】
この不織布を90℃の湯中で2分処理して収縮させ、100℃5分で乾燥した。次いで、自己乳化型ポリウレタン水分散液I(PU−I)を含浸し、乾燥温度125℃で10分熱風乾燥することで、不織布の島成分重量に対するポリウレタン重量が80重量%となるようにポリウレタンを付与したシートを得た。
【0124】
次にこのシートを90℃に加熱した濃度15g/Lの水酸化ナトリウム水溶液に浸漬して30分処理を行い、海島型複合繊維の海成分であるPLAを除去した脱海シートを得た。脱海シート表面の走査型電子顕微鏡(SEM)観察により、平均単繊維繊度は0.18dtexであることを確認した。
【0125】
そして、脱海シートを厚さ方向に半裁し、半裁面と反対となる面を240メッシュのエンドレスサンドペーパーを用いた研削によって起毛処理した後、サーキュラー染色機にて分散染料により染色を行い、本発明のシート状物を得た。
【0126】
得られたシート状物の外観品位、ピリング評価、風合いは良好であり、非常に環境に配慮したものであった。
【0127】
[実施例3]
自己乳化型ポリウレタン水分散液II(PU−II)を含浸した以外は実施例1と同様にして本発明のシート状物を得た。
【0128】
得られたシート状物の外観品位、ピリング評価、風合いは良好であり、非常に環境に配慮したものであった。
【0129】
[実施例4]
自己乳化型ポリウレタン水分散液III(PU−III)を含浸した以外は実施例1と同様にして本発明のシート状物を得た。
【0130】
得られたシート状物の外観品位、ピリング評価、風合いは良好であり、環境に配慮したものであった。
【0131】
[実施例5]
自己乳化型ポリウレタン水分散液IV(PU−IV)を含浸した以外は実施例2と同様にして本発明のシート状物を得た。
【0132】
得られたシート状物の外観品位、ピリング評価、風合いは良好であり、非常に環境に配慮したものであった。
【0133】
[比較例1]
実施例1で用いた不織布に溶剤系ポリウレタン液V(PU−V)を含浸し、湿式凝固した以外は実施例1と同様にしてシート状物を得た。
【0134】
得られたシート状物の外観品位、風合いは良好であったが、ピリング評価は3.5級であって耐摩耗性は劣り、かつ環境への配慮の少ないものであった。
【0135】
[比較例2]
実施例1において、先に脱海(工程(3))を行った不織布に自己乳化型ポリウレタン水分散液I(PU−I)を含浸した以外は実施例1と同様にしてシート状物を得た。
【0136】
得られたシート状物のピリング評価は、4.5級と良好であり、環境に配慮したものであったが、外観品位、風合いは悪いものであった。
[比較例3]
実施例2で用いた不織布に強制乳化型ポリウレタン水分散液VI(PU−VI)を含浸した以外は実施例2と同様にしてシート状物を得た。
【0137】
得られたシート状物の風合いは良好で、環境に配慮したものであったが、外観品位、ピリング評価は悪いものであった。
【0138】
【表1】

【0139】
【表2】

【図面の簡単な説明】
【0140】
【図1】シート状物の内部の断面を走査型電子顕微鏡(SEM)にて倍率300倍で観察したものである。本発明のシート状物の例であり、自己乳化型ポリウレタン部分は無孔構造であって自己乳化型ポリウレタンと繊維束との間に空隙を有する。
【図2】シート状物の内部の断面を走査型電子顕微鏡(SEM)にて倍率300倍で観察したものである。従来技術のシート状物の例であり、ポリウレタンと繊維束が接着しているものである。
【図3】製糸工程(直接紡糸延伸法)の一例を示す。
【符号の説明】
【0141】
1:自己乳化型ポリウレタン
2:繊維束
3:自己乳化型ポリウレタンと繊維束との間の空隙
4:ポリウレタンと繊維束が接着している状態
5:口金
6:糸条冷却送風装置
7:油剤付与装置
8:交絡装置
9:第1ホットロール
10:第2ホットロール
11:交絡装置
12:ゴデーロール
13:ゴデーロール
14:コンタクトロール
15:パッケージ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均単繊維繊度が0.001dtex以上0.5dtex以下のポリトリメチレンテレフタレートを主成分とするポリエステル極細繊維が絡合してなる不織布に自己乳化型ポリウレタンを含有するシート状物であって、該自己乳化型ポリウレタン部分が無孔構造であることを特徴とするシート状物。
【請求項2】
前記自己乳化型ポリウレタンと前記極細繊維とが実質的に接着していないことを特徴とする請求項1に記載のシート状物。
【請求項3】
前記自己乳化型ポリウレタンがシロキサン結合による架橋構造を有することを特徴とする請求項1または2に記載のシート状物。
【請求項4】
前記自己乳化型ポリウレタンの分子構造内のシリコン原子の含有量がポリウレタン重量に対して0重量%よりも多く、1重量%以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のシート状物。
【請求項5】
前記自己乳化型ポリウレタンがポリウレタン全重量に対して3重量%以上30重量%以下のポリエチレングリコールを有することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のシート状物。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載のシート状物の製造方法であって、次の(1)〜(3)の工程をこの順番で経ることを特徴とするシート状物の製造方法。
(1)ポリ乳酸を主成分とするポリエステルAと、ポリトリメチレンテレフタレートを主成分とするポリエステルBとから構成される極細繊維発生型複合繊維を用いて不織布を作成する工程
(2)自己乳化型ポリウレタン水分散液を不織布に含浸して、該自己乳化型ポリウレタンを付与する工程
(3)前記自己乳化型ポリウレタンを付与した不織布をアルカリ水溶液で処理して極細繊維を発現せしめる工程
【請求項7】
前記極細繊維発生型複合繊維のポリエステルAとポリエステルBの複合重量比がA:B=15:85〜80:20であることを特徴とする請求項6に記載のシート状物の製造方法。
【請求項8】
前記自己乳化型ポリウレタン水分散液中に含有する有機溶剤の量がポリウレタン水分散液重量に対して1重量%以下であることを特徴とする請求項6に記載のシート状物の製造方法。
【請求項9】
前記工程(2)において、該自己乳化型ポリウレタン水分散液の濃度が10重量%以上50重量%以下であることを特徴とする請求項6〜8のいずれかに記載のシート状物の製造方法。
【請求項10】
請求項1〜5のいずれかに記載のシート状物を表皮材とすることを特徴とする内装材。
【請求項11】
請求項1〜5のいずれかに記載のシート状物を用いることを特徴とする衣料資材。

【図3】
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【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−231468(P2007−231468A)
【公開日】平成19年9月13日(2007.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−56011(P2006−56011)
【出願日】平成18年3月2日(2006.3.2)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】