説明

シールド掘進機の薬液注入装置

【課題】
少数の注入口によって、シールド掘進機の掘進方向前方の地山に対してカッタヘッドの全断面から薬液を注入することができるシールド掘進機の薬液注入装置を提供する。
【解決手段】
回転自在に装着されたカッタヘッドを前部に備えるシールド掘進機から前方の地山に薬液を注入するための薬液注入装置であって、前記カッタヘッドから地山に対して薬液を注入するための注入口と、前記注入口を前記カッタヘッドの周縁部と中心部との間において移動可能に設けるための注入口移動機構とを備え、前記カッタヘッドを回転させるとともに前記注入口移動機構によって前記注入口を移動させながら薬液を注入することを特徴とするシールド掘進機の薬液注入装置である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シールド掘進機の掘進方向の前方に薬液を注入する薬液注入装置に関する。
【背景技術】
【0002】
シールド工法によりトンネルを構築する際に使用されるシールド掘進機が知られている。図7は従来のシールド掘進機の一例を示す側断面図である。この例では、トンネル中心2となる掘進機本体1の中心線上においてバルクヘッド3に軸受4を備え、バルクヘッド3の前方にチャンバ5を隔ててトンネル中心2と直交するカッタヘッド6を配置し、カッタヘッド6の中心後面に後方に向けて突設したセンタシャフト7を軸受4により回転可能に支持し、センタシャフト7の後端に駆動歯車8を固定し、駆動歯車8を駆動モータ9の駆動ピニオン10を介して回転駆動するように構成されている。11は掘進機本体1の外周に一体に備えられたスキンプレート、12はスクリューコンベアからなる排土装置である。そして、この掘進機は、バルクヘッド3における駆動歯車8よりも径方向外側位置に配置した注入管14によりカッタヘッド6の前方の切羽に薬液を注入する注入口13を備えている。このシールド掘進機において掘進方向前方の切羽側に地盤改良材等の薬液を注入する場合には、前部のカッタヘッド6やその内側のバルクヘッド3に設けられた注入口13から、特定の範囲に対して薬液注入を実施している。しかしながら、薬液の注入口が固定されているため、注入された薬液の到達範囲は狭く限られている。
【0003】
このようなシールド掘進機において薬液を広範囲に注入する装置として、図8、図9に示すシールド掘進機の薬液注入装置が開発されている。図8に示すように、掘進方向の前部に回転自在に装着されたカッタヘッド21は、その径方向に伸びるスポーク23と、スポーク前面のカッタヘッド面板24とからなる。カッタヘッド面板24には、最上部(周縁部)に注入口22aが、中央部(カッタヘッド21の中心部)に注入口22bが、そして中央部よりも下部の中間部に注入口22cが、それぞれ設けられている。シールド掘進機の前進を停止した後、カッタヘッド21を回転させながら3箇所の注入口22a〜22cから薬液を注入すると、注入口22a〜22cがカッタヘッド21とともに回転するため、図9の斜線部A、B、Cに示すように、注入口22aからの薬液は、前方の地山に対して、カッタヘッド21の円形断面の周縁部に所定幅の円輪状に、注入口22bからの薬液は円形断面の中心部に、そして注入口22cからの薬液は円形断面の中ほどに所定幅の円輪状の範囲内において、それぞれ注入される(以上を「先行技術1」という)。
【0004】
特許文献1には、シールド掘進機のカッタヘッドの、径方向に伸びる複数のスポークのうち、1つのスポークの前面板に、径方向にわたり薬注装置(薬液の注入口)を複数並設し、さらに、カッタヘッドの中心部にも薬注装置を複数設け、この複数の薬注装置より薬液を注入して土質を改良するトンネル掘進機の薬液注入装置が開示されている。特許文献1では、掘進機1の掘進方向前方の地山に対して広範囲に薬液を注入するために、薬注装置8が多数設けられている。
【特許文献1】特開平09−184391号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前述の先行技術1では、図9に示すように、斜線部A、B、C以外の部分に薬液が注入されない。このため、シールド掘進機の掘進方向前方の地山に対して、カッタヘッドの円形断面の全域に万遍なく薬液を注入するには、注入口の数をもっと増やさねばならない。
【0006】
前述の特許文献1では、広範囲に注入をするために多数の薬注装置を設けているが、このように多数の薬注装置を設けることは、機械の空間的な制約上困難なことが多い。また、薬注装置の数を増やすと薬液供給系も複雑になる。したがって、必要十分な数量の注入口を設置することは実際には困難である。
【0007】
本発明は、上述のような問題点を解決するためになされたものであり、少数の注入口によって、シールド掘進機の掘進方向前方の地山に対してカッタヘッドの全断面から薬液を注入することができるシールド掘進機の薬液注入装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
このような目的を達成するため、本発明は次のような構成を有している。
【0009】
[1]回転自在に装着されたカッタヘッドを前部に備えるシールド掘進機から前方の地山に薬液を注入するための薬液注入装置であって、前記カッタヘッドから地山に対して薬液を注入するための注入口と、前記注入口を前記カッタヘッドの周縁部と中心部との間において移動可能に設けるための注入口移動機構とを備え、前記カッタヘッドを回転させるとともに前記注入口移動機構によって前記注入口を移動させながら薬液を注入することを特徴とするシールド掘進機の薬液注入装置。
【0010】
[2]回転自在に装着されたカッタヘッドを前部に備えるシールド掘進機から前方の地山に薬液を注入するための薬液注入装置であって、前記カッタヘッドから地山に対して薬液を注入するための注入口と、前記カッタヘッドに設けられた回転自在のドラムとを備え、かつ、前記注入口は前記ドラムの周縁部に取付けられて前記ドラムの回転とともに移動自在となっており、前記カッタヘッドを回転させるとともに前記ドラムを回転させながら前記注入口から薬液を注入することを特徴とするシールド掘進機の薬液注入装置。
【0011】
[3]注入口の移動範囲がカッタヘッドの周縁部から中心部までの全範囲に及ぶように、前記注入口が取付けられたドラムが、前記カッタヘッドの周辺部側および中心部側に設けられていることを特徴とする前項[2]に記載のシールド掘進機の薬液注入装置。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、次のような効果が得られる。即ち、薬液の注入口を、円形のカッタヘッドの周縁部と中心部との間において移動可能としたため、カッタヘッドを回転しながら注入口を移動することにより、シールド掘進機の掘進方向前方の地山に対して、カッタヘッドの全断面から薬液注入可能である。
【0013】
また、注入口を回転ドラムの回転(自転)により移動可能とし、カッタヘッドの回転(公転)と組合せることによって、少数の注入口からなる簡易な構成とすることができ、カッタヘッド内にコンパクトに設置することができる。
【0014】
なお、カッタヘッドの全断面に対して薬液を注入することが可能となることから、任意の所望位置に薬液を注入することも勿論可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
次に、本発明の実施の形態を、図面を参照しながら説明する。
【0016】
図1〜図6は本発明の一実施形態に係る図面であり、図1はシールド掘進機の薬液注入装置を示す正面図、図2は薬液注入範囲を示す正面図、図3は注入口およびドラムを示す正面図、図4は図3の側断面図、図5は図4のA−A線に沿う断面図、図6は注入口および配管を説明する断面図である。
【0017】
図1に示すように、シールド掘進機の前部に装着された円形のカッタヘッド31は、その径方向に伸びるスポーク33、34と、スポーク33、34の前面に設けられたカッタヘッド面板35とからなり、スポーク33と34とは互いに直交して配されている。
【0018】
スポーク33には、カッタヘッド31の周辺部側においてカッタヘッド面板35を切除して設けた空間に、円筒形のドラム36が設けられている。ドラム36は、ドラム36の周縁部36aとカッタヘッド31の周縁部31aとが接するように配置されている。さらに、スポーク33には、カッタヘッド31の中心を隔ててドラム36と反対側に、円筒形のドラム37が、カッタヘッド面板35を切除して設けた空間に設けられている。ドラム37は、カッタヘッド31の中心部側寄りに設けられている。
【0019】
図4に示すように、円筒形のドラム36の中心後面には後方に向けて突設されたロータリージョイント38が軸受により回転可能に支持されている。また、ドラム37も同様の構成により回転可能となっている(図示せず)。そして、ロータリージョイント38の回転側にはドラム回転用のピニオン40が設けられている。ドラム37にも同様にピニオンが設けられている(図示せず)。
【0020】
図5に示すように、スポーク33には、両側にロッド39aおよび39bを有するシリンダ機構からなるジャッキ39を備える回転駆動アクチュエータが設置されている。ジャッキ39のロッド39aの先端部には、ドラム36のピニオン40と噛合うラック41が設けられている。ロッド39bにもドラム37に設けたピニオンと噛合うラックが設けられている(図示せず)。このようにして、ロッド39aおよび39bを往復駆動することにより、ドラム36および37が少なくとも半回転できるように構成されている。
【0021】
円筒形のドラム36の周縁部には、薬液の注入口42が取付けられている。図4において、32は薬液を示す。注入口42には、薬液を供給するための供給機構として、ドラム36内に注入口42に接続されたドラム内配管44が設けられ、さらに、ロータリージョイント38内には、前記のドラム内配管44に接続されたロータリージョイント内配管45が設けられている。さらに、ロータリージョイント内配管45は直角に折れて、シール46を有する外筒47の内側に設けられた溝48に接続され、溝48を介して連絡配管49によって薬液供給源と連絡する配管(図示せず)に接続されている。このような薬液供給機構によって、注入口42からシールド掘進機の前方の地山に薬液を注入可能である。ドラム37の周縁部にも注入口43が取り付けられ、注入口42と同様の機構により薬液を注入可能である。
【0022】
なお、上述の薬液供給機構は1例であって、ドラムを回転させながら注入口から薬液を注入できるものであれば他の駆動手段を用いてもよい。
【0023】
また、本実施形態では2つのドラム36、37を用いたが、1つのドラム、または3つ以上のドラムを設けることもできる。
【0024】
次に、本発明装置による薬液注入工程を説明する。
【0025】
図1、図2に示すように、ドラム36はカッタヘッド31の周辺部側に、一方ドラム37はカッタヘッド31の中心部側に設けられている。シールド掘進機の前進を停止した後、ドラム36をカッタヘッド31の周辺部側において回転させ(ドラムの回転を「自転」という)、ドラム37をカッタヘッド31の中心部側において自転させ、かつカッタヘッド31を回転(カッタヘッドの回転を「公転」という)させながら、ドラム36に設けた注入口42およびドラム37に設けた注入口43から薬液を注入する。これにより、例えばカッタヘッド31が半周回転(公転)すると、図2に斜線部D、Eで示すような薬液注入範囲が得られる。図2の斜線部D、Eは、カッタヘッド31の半周分の公転を示しているが、カッタヘッド31の公転とドラム36、37の自転とを続けることにより、カッタヘッド31の円形断面のほぼ全域に薬液を注入することができる。
【0026】
本発明においては、回転ドラムを用いない装置構成も可能である。図示はしないが、注入口をカッタヘッドの半径方向に直線状に移動可能に設けてカッタヘッドの回転と組合せてもよい。この場合は、カッタヘッドの半径方向に向けてカッタヘッド面板に長孔を設け、この長孔内を移動可能な移動体を設け、該移動体に薬液の注入口を設け、駆動機構により注入口がカッタヘッドの半径方向に移動するように構成すればよい。
【0027】
なお、本発明装置は、シールド掘進機の切羽の地山に対して地盤改良材等の薬液を注入するための装置であるが、薬液に限らず水や空気等の一般流体を適用することも勿論可能である。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の一実施形態に係るシールド掘進機の薬液注入装置を示す正面図
【図2】本発明の一実施形態に係る薬液注入範囲を示す正面図
【図3】本発明の一実施形態に係る注入口およびドラムを示す正面図
【図4】図3の側断面図
【図5】図4のA−A線に沿う断面図
【図6】本発明の一実施形態に係る注入口および配管を説明する断面図
【図7】従来のシールド掘進機を示す側断面図
【図8】従来のシールド掘進機の薬液注入装置を示す正面図
【図9】従来のシールド掘進機の薬液注入範囲を示す正面図
【符号の説明】
【0029】
1 掘進機本体
2 トンネル中心
3 バルクヘッド
4 軸受
5 チャンバ
6 カッタヘッド
7 センタシャフト
8 駆動歯車
9 駆動モータ
10 駆動ピニオン
11 スキンプレート
12 排土装置
13 注入口
14 注入管
21 カッタヘッド
22a 注入口
22b 注入口
22c 注入口
23 スポーク
24 カッタヘッド面板
31 カッタヘッド
31a カッタヘッド周縁部
32 薬液
33、34 スポーク
35 カッタヘッド面板
36 ドラム
36a ドラム周縁部
37 ドラム
38 ロータリージョイント
39 ジャッキ
39a、39b ロッド
40 ピニオン
41 ラック
42 注入口
43 注入口
44 ドラム内配管
45 ロータリージョイント内配管
46 シール
47 外筒
48 溝
49 連絡配管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転自在に装着されたカッタヘッドを前部に備えるシールド掘進機から前方の地山に薬液を注入するための薬液注入装置であって、前記カッタヘッドから地山に対して薬液を注入するための注入口と、前記注入口を前記カッタヘッドの周縁部と中心部との間において移動可能に設けるための注入口移動機構とを備え、前記カッタヘッドを回転させるとともに前記注入口移動機構によって前記注入口を移動させながら薬液を注入することを特徴とするシールド掘進機の薬液注入装置。
【請求項2】
回転自在に装着されたカッタヘッドを前部に備えるシールド掘進機から前方の地山に薬液を注入するための薬液注入装置であって、前記カッタヘッドから地山に対して薬液を注入するための注入口と、前記カッタヘッドに設けられた回転自在のドラムとを備え、かつ、前記注入口は前記ドラムの周縁部に取付けられて前記ドラムの回転とともに移動自在となっており、前記カッタヘッドを回転させるとともに前記ドラムを回転させながら前記注入口から薬液を注入することを特徴とするシールド掘進機の薬液注入装置。
【請求項3】
注入口の移動範囲がカッタヘッドの周縁部から中心部までの全範囲に及ぶように、前記注入口が取付けられたドラムが、前記カッタヘッドの周辺部側および中心部側に設けられていることを特徴とする請求項2に記載のシールド掘進機の薬液注入装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2006−28979(P2006−28979A)
【公開日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−212470(P2004−212470)
【出願日】平成16年7月21日(2004.7.21)
【出願人】(000004123)JFEエンジニアリング株式会社 (1,044)
【Fターム(参考)】