説明

シールド掘進機

【課題】切羽に対する掘削断面が上下及び/又は左右で非対称の異形掘削断面で、シールドジャッキの配設間隔をその異形掘削断面の周縁に沿って等間隔としても、切羽における上記異形掘削断面の一部分に生じる推力不足の問題を回避できるシールド掘進機を提供することにある。
【解決手段】シールド掘進機1の掘進機本体3に、既設のセグメント6に反力を取って掘進機本体3を前進させるためのシールドジャッキ7を、異形掘削断面の周縁に沿って等間隔を隔てて複数配設し、異形掘削断面を、異形掘削断面の図心Gを通って掘進機本体3の前進方向と直交する方向に延出された仮想ラインXで、広面積部Bと狭面積部Aとに仮想的に二分割し、シールドジャッキ7の内の広面積部Bに配置された広面積部シールドジャッキ7bが、シールドジャッキ7の内の狭面積部Aに配置された狭面積部シールドジャッキ7aよりも、ジャッキ推力が大きいものを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、切羽に対する掘削断面が上下及び/又は左右で非対称の異形掘削断面となっているシールド掘進機に関する。
【背景技術】
【0002】
シールド掘進機は、筒状のシールドフレームを有する掘進機本体と、掘進機本体の前部に切羽を切削するために配設されたカッタと、カッタで切削された土砂を掘進機本体の内部に取り込むための排土装置と、セグメントをシールドフレームの内周面に沿ってリング状に組み立てるために掘進機本体の内部に設けられたエレクタと、リング状に組み立てられたセグメントに反力を取って掘進機本体を前進させるためにシールドフレームの内周面にその周方向に間隔を隔てて複数設けられたシールドジャッキとを備えている。
【0003】
かかるシールド掘進機は、シールドジャッキを伸長させてカッタを切羽に押し付け、カッタを掘進方向と平行な軸廻りに回転させる等してそのカッタで切羽を切削し、掘削された土砂を排土装置(スクリューコンベヤ等)によって掘進機本体の内部に取り込み、掘進機本体をシールドジャッキの伸長ストロークに応じて前進(掘進)させ、爾後、シールドジャッキを収縮させて既設のセグメントとシールドジャッキとの間にスペースを形成し、そのスペースにエレクタによってセグメントをリング状に組み立て、トンネルを構築するものである。
【0004】
従来のシールド掘進機は、一般に、切羽に対する掘削断面が上下及び/又は左右で対称となっており、そのため、各シールドジャッキは、同じジャッキ推力のものを、シールドフレームの周方向に等間隔を隔てて配置されていた。すなわち、切羽に対する掘削断面が上下及び/又は左右で対称であれば、同じジャッキ推力のシールドジャッキをシールドフレームの周方向に等間隔を隔てて配置しても、切羽に対するカッタの押圧力が掘削断面の上下及び/又は左右でアンバランスとなることはない。
【0005】
【特許文献1】特開2002−47883号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし乍ら、近年、掘削断面が上下及び/又は左右で非対称の異形掘削断面であるシールド掘進機が開発されている。例えば、複数車線が並設される道路トンネル等の分野においては、掘削断面形状が馬蹄形(おむすび形)である上下非対称のシールド掘進機の開発が要望されている。馬蹄形トンネルは、その最も幅広の部分に複数の車線が並設されるところ、その最も幅広の部分を直径とした断面円形のトンネルと対比すると、無駄掘り領域が低減される。
【0007】
このような掘削断面形状が馬蹄形であるシールド掘進機においては、掘削断面(馬蹄形)の図心(重心)より下方の部分(図心を通って左右方向に延びる仮想ラインよりも下方の部分)は、図心より上方の部分(仮想ラインよりも上方の部分)よりも面積が大きい。このため、同じジャッキ推力のシールドジャッキを掘進機本体の内部に馬蹄形の掘削断面の周縁に沿って等間隔を隔てて配設すると、切羽に対する掘削断面において、図心より下方の部分の推力が不足してしまう。
【0008】
この対策として、図心より下方の部分におけるシールドジャッキの配設間隔を、図心より上方の部分におけるシールドジャッキの配設間隔よりも狭めてジャッキの配設密度を高めれば、上述の推力不足の問題は解消するが、シールドジャッキの配設間隔を狭めると、隣接するシールドジャッキのシュー(既設のセグメントに当接する部分)同士が干渉してしまうため、実際に成立させることは困難である。
【0009】
なお、特許文献1には、床部が一体的に形成された肉厚のインバートセグメントと通常のアーチセグメントとを用いて床部付きの断面円形トンネルを構築するシールド掘進機が記載されている。このシールド掘進機は、インバートセグメントを押圧するインバートセグメント用シールドジャッキの推進力の作用点が、アーチセグメントを押圧するアーチセグメント用シールドジャッキの推進力の作用点よりもシールドフレームの中心寄りとされ、インバートセグメント用シールドジャッキの推力が、アーチセグメント用シールドジャッキの推力よりも大きく設定されている。
【0010】
特許文献1に記載されたシールド掘進機においては、推力が大きいインバートセグメント用シールドジャッキが掘進機本体に作用するモーメントの腕の長さが短く、推力が小さいアーチセグメント用シールドジャッキが掘進機本体に作用するモーメントの腕の長さが長いため、推力が大きいインバートセグメント用シールドジャッキがセグメントを押圧することによって掘進機本体に生じるモーメントと、推力が小さいアーチセグメント用シールドジャッキがセグメントを押圧することによって掘進機本体に生じるモーメントとのバランスをとることができる。
【0011】
しかし乍ら、特許文献1には、掘削断面が円形のシールド掘進機が記載されているに過ぎず、本願発明の前提となる、切羽に対する掘削断面が上下及び/又は左右で非対称の異形掘削断面であるシールド掘進機は、開示も示唆もされていない。また、異形掘削断面のシールド掘進機について記載されていない以上、異形掘削断面を、該異形掘削断面の図心を通って掘進機本体の前進方向と直交する方向に延出された仮想ラインで、広面積部と狭面積部とに仮想的に二分割し、広面積部に配置された広面積部シールドジャッキが、狭面積部に配置された狭面積部シールドジャッキよりも、ジャッキ推力が大きいものを含むという、本願発明の技術思想も、当然、開示も示唆もされていない。
【0012】
以上の事情を考慮して創案された本発明の目的は、切羽に対する掘削断面が上下及び/又は左右で非対称の異形掘削断面のシールド掘進機において、シールドジャッキの配設間隔をその異形掘削断面の周縁に沿って等間隔としても、切羽における上記異形掘削断面の一部分に生じる推力不足の問題を回避できるシールド掘進機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するために本発明は、切羽に対する掘削断面が上下及び/又は左右で非対称の異形掘削断面であるシールド掘進機であって、掘進機本体に、既設のセグメントに反力を取って上記掘進機本体を前進させるためのシールドジャッキを、上記異形掘削断面の周縁に沿って等間隔を隔てて複数配設し、上記異形掘削断面を、該異形掘削断面の図心を通って上記掘進機本体の前進方向と直交する方向に延出された仮想ラインで、広面積部と狭面積部とに仮想的に二分割し、上記シールドジャッキの内の上記広面積部に配置された広面積部シールドジャッキが、上記シールドジャッキの内の上記狭面積部に配置された狭面積部シールドジャッキよりも、ジャッキ推力が大きいものを含むものである。
【0014】
上記異形掘削断面が、下部が上部に比べて左右方向に膨出した馬蹄形掘削断面であり、上記仮想ラインが、上記馬蹄形掘削断面の図心を通って上記掘進機本体を横切るように左右方向に延出され、上記馬蹄形掘削断面を上下に二分割し、上記広面積部が、上記仮想ラインで上下に二分割された上記馬蹄形掘削断面の下側の部分であり、上記狭面積部が、上記仮想ラインで上下に二分割された上記馬蹄形掘削断面の上側の部分であることが好ましい。
【0015】
上記広面積部シールドジャッキの全ジャッキのジャッキ推力を上記広面積部の面積で除した下側広面積部押圧力値が、上記狭面積部シールドジャッキの全ジャッキのジャッキ推力を上記狭面積部の面積で除した上側狭面積部押圧力値よりも大きいことが好ましい。
【0016】
上記下側広面積部押圧力値と上記上側狭面積部押圧力値との差が、上記狭面積部とそれより下方の上記広面積部とが夫々切羽から受ける土荷重の差に基づいて定められることが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、切羽に対する掘削断面が上下及び/又は左右で非対称の異形掘削断面のシールド掘進機において、シールドジャッキの配設間隔をその異形掘削断面の周縁に沿って等間隔としても、切羽における上記異形掘削断面の一部分に生じる推力不足の問題を回避できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明の好適な実施形態を添付図面に基づいて説明する。
【0019】
図1に示すように、本実施形態に係る推進装置を備えたシールド掘進機1は、筒状のシールドフレーム2を有する掘進機本体3と、掘進機本体3の前部に切羽を切削するために配設されたカッタ4と、カッタ4で切削された土砂を掘進機本体3の内部に取り込むための排土装置5と、掘進機本体3の内部に設けられセグメント6をシールドフレーム2の内周面に沿ってリング状に組み立てるエレクタ(図示せず)と、シールドフレーム2の内周面にその周方向に間隔を隔てて複数設けられ、リング状に組み立てられたセグメント6に反力を取って掘進機本体3を前進させるためのシールドジャッキ7とを備えている。
【0020】
シールドフレーム2には、その内部を掘進方向の前後に仕切る隔壁8が設けられており、隔壁8には、カッタ4が、掘進方向に沿った軸(回転軸)と平行な軸廻りに回転自在に支持されている。詳しくは、カッタ4の反切羽側の面には、軸方向後方に延出された中間ビーム9が周方向に間隔を隔てて複数設けられており、それら中間ビーム9の端部が、隔壁8に上記回転軸の軸廻りに回転可能に支持された回転リング10に装着されている。すなわち、カッタ4は、中間ビーム9及び回転リング10を介して、隔壁8に回転自在に支持されている。よって、回転リング10をモータ11及びギヤ12を介して回転することで、カッタ4が上記回転軸廻りに回転駆動される。カッタ4で切削された土砂は、一旦、隔壁8の前方のカッタ室13に取り込まれた後、隔壁8を貫通する排土装置5(スクリューコンベヤ)によって隔壁8の後方の坑内に搬送される。
【0021】
シールドフレーム2は、筒状の前胴2fと後胴2rとからなり、前胴2fと後胴2rとが球面継手14を介して全方向に屈曲可能に接続され、前胴2fと後胴2rとが中折れジャッキ15を介して連結されている。前胴2fと後胴2rとを屈曲させることで、急カーブ掘進が可能となる。中折れジャッキ15は、シールドフレーム2の周方向に間隔(等間隔)を隔てて複数配設されており、図1において上方の中折れジャッキ15aと下方の中折れジャッキ15bとでサイズが異なっているが、これについては後述する。
【0022】
後胴2rには、この後胴2rの内周面に沿ってセグメント6をリング状に組み立てるためのエレクタ(図示せず)が設けられていると共に、リング状に組み立てられたセグメント6に反力を取って掘進機本体3を前進させるためのシールドジャッキ7が設けられている。シールドジャッキ7は、シールドフレーム2の周方向に等間隔を隔てて複数配設されており、図1において上方のシールドジャッキ7aと下方のシールドジャッキ7bとでサイズが異なっているが、これについては後述する。
【0023】
図2〜図4に示すように、シールドフレーム2(前胴2f、後胴2r)は、下部が上部に比べて左右方向に膨出した断面馬蹄形に形成されている。トンネルを断面馬蹄形とし、その最も幅広の部分に複数の車線を並設するためである。カッタ4は、シールドフレーム2の断面形状に合わせて、切羽を断面馬蹄形に切削する機能を有している。すなわち、このシールド掘進機1は、切羽に対する掘削断面が上下で非対称の異形掘削断面となっている。
【0024】
図2、図3に示すように、カッタ4は、その回転中心Cの部分に配置された中心部16と、中心部16に取り付けられた複数の第1カッタスポーク17と、第1カッタスポーク17に連結部材18を介して取り付けられた複数の第2カッタスポーク19と、第1カッタスポーク17に装着されたビームカッタ(商標登録出願中)20とを備えている。連結部材18は、第1カッタスポーク17と第2カッタスポーク19との間のみならず、第1カッタスポーク17同士の間、第2カッタスポーク19同士の間にも介設され、各カッタスポーク17、19を連結する。隣り合う第1カッタスポーク17の先端同士は円弧状の連結材21で連結され、隣り合う第2カッタスポーク19の先端同士は円弧状の連結材22で連結されている。また、第1カッタスポーク17と第2カッタスポーク19との反切羽側の面には、上述した中間ビーム9(図1参照)が取り付けられている。
【0025】
第1カッタスポーク17と第2カッタスポーク19とは、切羽と平行な同一平面内にて、カッタ4の回転中心Cに対して放射状に配置されている。回転中心Cは、シールドフレーム2の上端から下端までの間の中点に位置しており、この回転中心Cから第1カッタスポーク17の先端までの距離と第2カッタスポーク19の先端までの距離とが、回転中心Cからシールドフレーム2の上端(又は下端)までの距離に合わせて等しくなっている。よって、第1及び第2カッタスポーク17、19が一体的に回転中心C廻りに回転すると、切羽が仮想線Lで示すように、円形に掘削される。この円形の仮想線Lと、断面馬蹄形のシールドフレーム2との間の部分の切羽は、上述のビームカッタ20によって掘削される。
【0026】
ビームカッタ20は、略弓状に形成されており、その長手方向の両端よりも内側の部分が、周方向に所定間隔が隔てられた二本の第1カッタスポーク17の内部に夫々収容された駆動ジャッキ23の伸縮部23aに、ピン結合されている。駆動ジャッキ23(油圧ジャッキ)は、固定部23bとそれに対して伸縮する伸縮部23aとからなり、固定部23bがカッタ4の中心部16にピン結合され、伸縮部23aがビームカッタ20の上記部分にピン結合されている。各駆動ジャッキ23には油圧ラインが接続されており、それら油圧ラインは、カッタ4の中心部16の反切羽側の面に設けられた軸体24(図1参照)の内部を通り、隔壁8に設けられたロータリジョイント25を介して、隔壁8の後方すなわち坑内に引き出され、図示しない油圧回路に接続されている。
【0027】
油圧回路は、各駆動ジャッキ23の伸縮を、ビームカッタ21の両端部分が仮想線Lとシールドフレーム2との間の部分の切羽を掘削するように、制御する。すなわち、ロータリジョイント25には、カッタ4の回転角を検出する回転角センサが設けられ、その回転角センサの出力値に応じて各駆動ジャッキ23の伸縮量を油圧回路に組み込まれたコントローラが制御することで、ビームカッタ20の両側部分が仮想線Lから径方向外方に適宜突出し、仮想線Lとシールドフレーム2との間の部分の切羽を適切に掘削するようになっている。
【0028】
図4に示すように、シールドフレーム2(後胴2r)の内周面には、その周方向に等間隔を隔てて複数のシールドジャッキ7(7a、7b)が配設されている。すなわち、シールドジャッキ7は、異形掘削断面(馬蹄形掘削断面)の周縁に沿って等間隔を隔てて複数配設されている。これらシールドジャッキ7は、上部側のもの7aと下部側のもの7bとでジャッキ推力が異なっており、下部側のもの7bのジャッキ推力が上部側のもの7aのジャッキ推力よりも大きくなっている。この点を以下詳述する。
【0029】
複数のシールドジャッキ7は、上記異形掘削断面を、その異形掘削断面の図心Gを通って掘進機本体3の前進方向と直交する方向(切羽と平行な面内にてシールドフレーム2を横切るような左右方向)に延出された仮想ラインXで、狭面積部Aと広面積部Bとに仮想的に上下二分割したとき、上側の狭面積部Aに配置された狭面積部シールドジャッキ7aと、下側の広面積部Bに配置された広面積部シールドジャッキ7bとに分けられる。なお、仮想ラインXは、図心Gではなく回転中心Cを通って異形掘削断面(馬蹄形掘削断面)を横切るように左右方向に延出され、馬蹄形掘削断面を上下に二分割するものでもよい。
【0030】
広面積部シールドジャッキ7bは、狭面積部シールドジャッキ7aよりも、ジャッキ推力が大きいものを含んでいる。詳しくは、狭面積部シールドジャッキ7aは、小ジャッキ推力の小シールドジャッキ7sのみからなり、広面積部シールドジャッキ7bは、小シールドジャッキ7sとそれよりジャッキ推力が大きな大シールドジャッキ7Lとからなる。小シールドジャッキ7sによって押圧されるセグメント6は薄肉セグメント6sであり、大シールドジャッキ7Lによって押圧されるセグメント6は、薄肉セグメント6sよりも厚い厚肉セグメント6Lである。
【0031】
図4のDは各セグメント6の分割ラインである。セグメント6は、その曲率半径が大きいほど即ち曲率がフラットに近いほど、外部から加わる荷重(土圧、水圧)に対する強度が低下するため、厚さを厚くする必要がある。小シールドジャッキ7sは、その軸心が薄肉セグメント6sの中立軸Ns(中立線)上に配置され、大シールドジャッキ7Lは、その軸心が厚肉セグメント6Lの中立軸NL上に配置されている。
【0032】
広面積部シールドジャッキ7bの全ジャッキのジャッキ推力を広面積部Bの面積で除した値(下側広面積部押圧力値:Ton/m2)は、狭面積部シールドジャッキ7aの全ジャッキのジャッキ推力を狭面積部Aの面積で除した値(上側狭面積部押圧力値:Ton/m2)よりも、所定値だけ大きくなっている。この所定値は、上方の狭面積部Aとそれより下方の広面積部Bとが夫々切羽から受ける土荷重の差に基づいて定められる補正値である。なお、シールドフレーム2の上端と下端との間の長さ(高さ)が小さい小口径トンネルの場合には、上方の狭面積部Aとそれより下方の広面積部Bとが夫々切羽から受ける土荷重の差が小さいので上記補正値(所定値)を零とし、上記下側広面積部押圧力値(Ton/m2)と上記上側狭面積部押圧力値(Ton/m2)とを等しくすることも考えられる。
【0033】
図1に示すように、前胴2fと後胴2rとを連結する中折れジャッキ15(15a、15b)は、シールドフレーム2の周方向に等間隔を隔てて複数配設されている。これら中折れジャッキ15は、図4に示す仮想ラインXで上下に分けられ、仮想ラインXよりも下側の広面積部Bに配置された広面積部中折れジャッキ15bと、仮想ラインXよりも上側の狭面積部Aに配置された狭面積部中折れジャッキ15aとに分けられる。そして、広面積部中折れジャッキ15bは、狭面積部中折れジャッキ15aよりも、ジャッキ推力が大きいものを含んでいる。
【0034】
詳しくは、狭面積部中折れジャッキ15aは、小ジャッキ推力の小中折れジャッキ15sのみからなり、広面積部中折れジャッキ15bは、小中折れジャッキ15sとそれよりジャッキ推力が大きな大中折れジャッキ15Lとからなる。大中折れジャッキ15Lは、図4の大シールドジャッキ7Lに対応して、ジャッキ7Lよりもシールドフレーム2の径方向内側に配設され、小中折れジャッキ15sは、図4の小シールドジャッキ7sに対応して、ジャッキ7sよりもシールドフレーム2の径方向内側に配設されている。
【0035】
本実施形態の作用を述べる。
【0036】
本実施形態に係るシールド掘進機によれば、図4に示すように、馬蹄形掘削断面の図心Gを通って水平方向に延出された仮想ラインXよりも下方の広面積部Bに対応する広面積部シールドジャッキ7bが、仮想ラインXよりも上方の狭面積部Aに対応する狭面積部シールドジャッキ7aよりもジャッキ推力が大きいものを含むので、切羽の広面積部Bにおける推力不足を回避することができる。
【0037】
広面積部シールドジャッキ7bの全ジャッキのジャッキ推力を広面積部Bの面積で除した値(下側広面積部押圧力値:Ton/m2)が、狭面積部シールドジャッキ7aの全ジャッキのジャッキ推力を狭面積部の面積で除した値(上側狭面積部押圧力値:Ton/m2)よりも、上方の狭面積部Aとそれより下方の広面積部Bとが夫々切羽から受ける土荷重の差に基づいて定められる補正値の分だけ大きいので、切羽の広面積部Bにおける単位面積当たりの切羽押力と、切羽の狭面積部Aにおける単位面積当たりの切羽押力とが、狭面積部Aと広面積部Bとの面積差及び上下位置に起因する土荷重差を加味した上で、等しくなる。このため、各シールドジャッキ7(7a、7b)を所定の設計値の推力で作為無く伸長させたとき、シールド掘進機1が直進することになり、掘進方向のあらゆる方向への方向制御が容易となる。
【0038】
広面積部シールドジャッキ7bと狭面積部シールドジャッキ7aとが、シールドフレーム2の周方向に等間隔を隔てて配設されているので、隣接するシールドジャッキ7(7a、7b)のシュー71(71a、71b)同士が干渉することはない。なお、下方の広面積部シールドジャッキ7b同士の間隔を上方の狭面積部シールドジャッキ7aよりも狭めれば、広面積部シールドジャッキ7bの推力を狭面積部シールドジャッキ7aの推力よりも大きくすることなく、切羽の馬蹄形掘削断面の広面積部Bにおける推力不足の問題は解消するが、シールドジャッキ7bの配設間隔を狭めると、隣接する広面積部シールドジャッキ7bのシュー71b(セグメント6Lを破損することなく押圧するため所定の押圧面積が必要)同士が干渉してしまうため、実際に成立させることは困難である。
【0039】
広面積部シールドジャッキ7bの大シールドジャッキ7Lのシュー71Lは、それ以外の小シールドジャッキ7sのシュー71sよりも周方向の寸法は小さいが、厚肉セグメント6Lの板厚を利用して径方向の寸法を大きくしているので、セグメント6L(コンクリート製)を破損することなく押圧するための押圧面積を確保できる。
【0040】
各シールドジャッキ7a、7bの軸心が各セグメント6a、6Lの中立軸Ns、NL上に夫々配置されているので、各シールドジャッキ7a、7bのシュー71a、71bが対応するセグメント6a、6Lを押圧したとき、セグメント6a、6Lは軸方向に圧縮力を受けるのみであり、セグメント6a、6Lに姿勢変化を生じさせるようなモーメントは生じない。
【0041】
中折れジャッキ15に関しては、広面積部Bに対応する広面積部中折れジャッキ15bは、狭面積部Aに対応する狭面積部中折れジャッキ15aよりもジャッキ推力が大きいものを含むので、シールドジャッキ7(7a、7b)と同様の理由により、切羽の馬蹄形掘削断面の広面積部Bにおける中折れ推力不足を回避することができる。
【0042】
本発明は上記実施形態に限定されるものではない。
【0043】
例えば、上述した馬蹄形掘削断面を上下逆にして上側に広面積部Bを有し下側に狭面積部Aを有する上下非対称の異形掘削断面としてもよく、馬蹄形掘削断面をシールドフレーム2の軸心(回転中心C)廻りに、例えば90度回転させて左右非対称の異形掘削断面としてもよく、90度未満の角度で回転させて上下左右非対称の異形掘削断面としてもよい。
【0044】
また、仮想ラインは、異形掘削断面の図心を通って掘進機本体の前進方向と直交して掘進機本体を横切る方向に延出されて異形掘削断面を広面積部と狭面積部とに分けるものであれば、図4の仮想ラインXに限られることはない。
【0045】
また、異形掘削断面は、馬蹄形掘削断面に限られず、上下及び又は左右で非対称の様々な異形掘削断面(例えば変形楕円断面、変形眼鏡形断面等)が考えられる。変形楕円断面、変形眼鏡形断面の場合のシールドジャッキ(狭面積部シールドジャッキ7a、広面積部シールドジャッキ7b)の配置を図5(a)、図5(b)に示す。図中、隣接する各ジャッキ同士の間隔は全て等間隔である。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明の一実施形態に係るシールド掘進機の側断面図である。
【図2】図1のII−II線断面図である。
【図3】図1のIII−III線断面図である。
【図4】図1のIV−IV線断面図である。
【図5】本発明の変形実施形態に係るシールド掘進機の背面図であり、(a)は掘削断面が変形楕円断面タイプ、(b)は掘削断面が変形眼鏡形断面タイプの説明図である。
【符号の説明】
【0047】
1 シールド掘進機
3 掘進機本体
6 セグメント
7 シールドジャッキ
7a 狭面積部シールドジャッキ
7b 広面積部シールドジャッキ
A 狭面積部
B 広面積部
G 図心
X 仮想ライン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
切羽に対する掘削断面が上下及び/又は左右で非対称の異形掘削断面であるシールド掘進機であって、
掘進機本体に、既設のセグメントに反力を取って上記掘進機本体を前進させるためのシールドジャッキを、上記異形掘削断面の周縁に沿って等間隔を隔てて複数配設し、
上記異形掘削断面を、該異形掘削断面の図心を通って上記掘進機本体の前進方向と直交する方向に延出された仮想ラインで、広面積部と狭面積部とに仮想的に二分割し、
上記シールドジャッキの内の上記広面積部に配置された広面積部シールドジャッキが、上記シールドジャッキの内の上記狭面積部に配置された狭面積部シールドジャッキよりも、ジャッキ推力が大きいものを含む
ことを特徴とするシールド掘進機。
【請求項2】
上記異形掘削断面が、下部が上部に比べて左右方向に膨出した馬蹄形掘削断面であり、 上記仮想ラインが、上記馬蹄形掘削断面の図心を通って上記掘進機本体を横切るように左右方向に延出され、上記馬蹄形掘削断面を上下に二分割し、
上記広面積部が、上記仮想ラインで上下に二分割された上記馬蹄形掘削断面の下側の部分であり、
上記狭面積部が、上記仮想ラインで上下に二分割された上記馬蹄形掘削断面の上側の部分である請求項1に記載のシールド掘進機。
【請求項3】
上記広面積部シールドジャッキの全ジャッキのジャッキ推力を上記広面積部の面積で除した下側広面積部押圧力値が、上記狭面積部シールドジャッキの全ジャッキのジャッキ推力を上記狭面積部の面積で除した上側狭面積部押圧力値よりも大きい請求項2に記載のシールド掘進機。
【請求項4】
上記下側広面積部押圧力値と上記上側狭面積部押圧力値との差が、上記狭面積部とそれより下方の上記広面積部とが夫々切羽から受ける土荷重の差に基づいて定められた請求項3に記載のシールド掘進機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−240459(P2008−240459A)
【公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−85415(P2007−85415)
【出願日】平成19年3月28日(2007.3.28)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【出願人】(000140292)株式会社奥村組 (469)
【Fターム(参考)】