説明

シールド機及びそのシールド機の掘進工法

【課題】掘削予定箇所に存在するドレーン材等の障害物を切断可能で、耐久性に優れた切断装置を備えたシールド機及びそのシールド機を用いた掘進工法を提供する。
【解決手段】シールド機1は、各カッターヘッド6の外周側端部にドレーン材を切断するための切断装置8を備える。この切断装置8は、ドレーン材を切断するための複数の切削チップ12と、切削チップ12が取り付けられる円錐形状の回転体13と、回転体13を回転させるためのモーター15と、モーター15及び回転体13を前後進させてカッターヘッド6本体から出没可能とするための引込用ジャッキ11と、を備える。回転体13は、頂点が進行方向前方を向くように配置される。切断装置8は、それぞれが独立して出没可能、かつ、それぞれが独立して駆動可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地山内に存在するドレーン材等の障害物を切断するための切断装置を備えたシールド機及びそのシールド機の掘進工法に関する。
【背景技術】
【0002】
地盤改良工法の一つとして、ドレーン材を地山に挿入し、地下水を排水する方法が用いられている。このような工法で地盤改良された地山内をシールド機で掘進する際は、切羽面に露出して掘進の障害となるドレーン材を切断しなければならない。
【0003】
そのドレーン材を切断する方法として、例えば、特許文献1には、カッターヘッドの外周側端部及び中央部付近に、そのカッターヘッドの前面よりも進行方向前方に突出するように設けられた円盤状の丸刃カッターを水平に回転させながら、カッターヘッドによる地山の掘削よりも先行してドレーン材を切断することが開示されている。
【0004】
また、特許文献2には、カッターヘッドの外周側端部及び中央部付近に、そのカッターヘッドの前面よりも進行方向前方に突出するように設けられたドレーン材用ブレードと、このドレーン材用ブレードをメンテナンスするために、隔壁を貫通するとともに、シールド機本体内側に突出するように設けられた交換室と、を備えたシールド機で、カッターヘッドによる地山の掘削よりも先行してドレーン材を切断することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平6−167192号公報
【特許文献2】特開平7−4180号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載のシールド機では、丸刃カッターは薄いので、破損しやすいという問題点があった。
【0007】
また、特許文献2に記載のシールド機では、ドレーン材用ブレードの回転軸がシールド機の進行方向に対して直交するように配置されているため、ドレーン材の切断時に、回転軸に対して垂直に反力が作用するので耐久性に問題点があると考えられる。
【0008】
そこで、本発明は、上記のような従来の問題に鑑みなされたものであって、掘削予定箇所に存在するドレーン材等の障害物を切断可能で、耐久性に優れた切断装置を備えたシールド機及びそのシールド機を用いた掘進工法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、障害物が存在する地山内をカッターヘッドで掘削しつつ、掘進可能なシールド機であって、
前記障害物を切断するための切削チップが取り付けられた回転体を有する切断装置が前記カッターヘッド内に、当該切断装置の回転軸が当該シールド機の進行方向と略平行になるように設けられ、前記回転体が前記カッターヘッドよりも進行方向前方に突出するように設置されていることを特徴とする。
【0010】
本発明によれば、切断装置がカッターヘッドよりも進行方向前方に突出するように設けられているので、障害物を切断装置で切断した後にその障害物の周囲の地山をカッターヘッドで掘削することができる。
【0011】
また、切断装置の回転軸は、シールド機の進行方向に略平行になるように設けられているので、障害物を切断する際の反力は回転軸の軸方向に作用し、回転軸に対して垂直に作用する力は小さい。このため、特許文献2に記載されたドレーン用ブレードのごとく回転軸に対して垂直な力が作用するように配置されている場合に比べて、耐久性が向上する。
また、回転軸は、その軸方向に作用する力に対しては、大きな耐力を有するので、回転体を大きな力で障害物に押し付けることができる。したがって、効率良く障害物を切断することができる。
【0012】
また、本発明において、前記回転体は、頂点が進行方向前方に向いた円錐形状を有し、その円錐面に複数の前記切削チップが取り付けられていることとしてもよい。このようにすれば、円錐形状の回転体は剛性強度が高いので、より大きな力で効率的に障害物を切断することができる。また、回転体の円錐面が障害物に面的に接触することとなり、この円錐面に取り付けられた複数の切削チップにより、障害物を切断することができるので、短時間で効果的に障害物を切断することができる。
【0013】
あるいは、本発明において、前記回転体は、円盤形状を有し、その前面に複数の前記切削チップが取り付けられていることとしてもよい。
【0014】
本発明において、前記切断装置は、前記カッターヘッドの外周側端部に設けられることとすれば、カッターヘッドが回転する際に、当該カッターヘッドによる掘削箇所に存在する障害物の上端部及び下端部をそれぞれ切断することができる。したがって、地山掘削時に、掘削予定箇所の上方及び下方に存在する障害物を引き込むことなく、掘削予定箇所に存在する障害物のみを撤去することができる。
【0015】
本発明において、前記切断装置は、前記カッターヘッドに設けられた開口部に対して出没可能に構成され、前記カッターヘッドに没入したときに、前記開口部を閉止する開閉装置を備えることとすれば、切断装置をシールド機本体内に没入させた状態で効率良く、かつ、安全にメンテナンスすることができる。
【0016】
また、本発明は、地山内に存在する障害物を切断するための切削チップが取り付けられた回転体を有する切断装置がカッターヘッド内に、当該切断装置の回転軸が進行方向と略平行になるように設けられ、前記回転体が前記カッターヘッドよりも進行方向前方に突出するように設置されているシールド機を用いて地山を掘削する掘進工法において、
前記カッターヘッドを駆動させて地山を掘削しながら、前記切断装置の前記回転体を駆動させて前記障害物を切断することを特徴とする。
【0017】
本発明によれば、切断装置をカッターヘッドに先行させて駆動させるので、障害物を切断装置で切断した後にその障害物の周囲の地山をカッターヘッドで掘削することとなる。そして、カッターヘッドが回転することにより、掘削予定箇所に存在する障害物の上端部及び下端部をそれぞれ切断することができる。したがって、地山掘削時に、掘削予定箇所の上方及び下方に存在する障害物を引き込むことなく、掘削予定箇所に存在する障害物のみを撤去することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、切断装置の破損や摩耗が少なくなり、長期間使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の第一実施形態に係るシールド機の正面図である。
【図2】本発明の第一実施形態に係るシールド機の側断面図である。
【図3】図1のA部を拡大した図である。
【図4】図3のB−B断面図である。
【図5】切断装置の格納方法を示す図である。
【図6】切断装置のメンテナンス方法を示す図である。
【図7】本発明の第二実施形態に係る切断装置の側断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の好ましい実施形態について図面を用いて詳細に説明する。本実施形態においては、地山内をシールド機で掘進する際に、切羽面に露出して掘進の障害物となる地盤改良用のドレーン材を切断する場合について説明するが、これに限定されるものではなく、地山内に存在する材木、松杭、鋼管杭、セメント杭、岩石、岩盤等の障害物を切断する場合にも適用可能である。
【0021】
図1及び図2は、本発明の第一実施形態に係るシールド機1の正面図及び側断面図である。
図1及び図2に示すように、矩形シールド機1は、外殻2内に縦横に所定の組み合せで配列されるとともに、それぞれが独立して推進可能、かつ、それぞれが独立して駆動可能な複数の矩形状の主シールド3と、各主シールド3を進退させるためのシールドジャッキ5と、各主シールド3の前面側に回転可能に設けられたカッターヘッド6と、掘削土砂を排出するためのコンベア7と、を備えている。
【0022】
図3は、図1のA部を拡大した図である。図3に示すように、シールド機1は、各カッターヘッド6の前面の外周側端部にドレーン材を切断するための切断装置8を備える。切断装置8は、各カッターヘッド6の前面に設けられた開口部9内に設けられ、それぞれが独立して出没可能、かつ、それぞれが独立して駆動可能である。なお、本実施形態においては、各カッターヘッド6に切断装置8を1台ずつ設置したが、これに限定されるものではなく、構築するトンネルの掘削断面の大きさ等に応じて複数台設置してもよい。
【0023】
図4は、図3のB−B断面図である。なお、図4以降の図面では、カッターヘッド6の前面に取り付けられているカッタービットの記載は省略している。
図4に示すように、切断装置8は、ドレーン材を切断するための複数の切削チップ12と、これらの切削チップ12が取り付けられた円錐形状の回転体13と、回転体13を回転させるためのモーター15と、モーター15及び回転体13を前後進させてカッターヘッド6本体から出没可能とするための引込用ジャッキ11と、を備える。回転体13は、円錐形状の頂点が進行方向を向くように配置される。
【0024】
切断装置8は、回転体13の回転軸がカッターヘッド6の回転軸、つまり、シールド機1の進行方向と略平行になるように設置されている。また、回転体13はカッターヘッド6の前面から進行方向前方に突出するように設置されている。
【0025】
切断装置8を備えたシールド機1を用いてドレーン材が存在する地山を掘削する際は、切断装置8の回転体13をカッターヘッド6の前面よりも進行方向前方に突出させた状態で、カッターヘッド6を回転させつつ、回転体13も回転させて掘削予定箇所に存在するドレーン材を切削チップ12で切断する。その際、切断装置8は、カッターヘッド6の外周側端部に設けられていて、かつ、シールド機1の前面には複数のカッターヘッド6が設けられているので、掘削予定箇所に存在するドレーン材の上端及び下端を切断することができる。
【0026】
また、回転体13は円錐形状に構成されているので、円盤状に形成される場合に比べて剛性及び強度が高く、また、回転軸が進行方向を向いているので、切断する際の反力は、回転軸の軸方向に作用する。このため、回転体13を大きな力でドレーン材に押し付けることができるので、効率良くドレーン材を切断することができる。また、回転体13の円錐面がドレーン材に面的に接し、その円錐面に取り付けた複数の切削チップ12がドレーン材を切断するので、切断効率が良い。したがって、円錐形状の回転体13は、鋼管等の硬いものからなるドレーン材であっても切断することができる。
【0027】
ドレーン材の存在しない箇所を掘削する場合や切断装置8をメンテナンスする場合には、切断装置8をカッターヘッド6内に格納する。
【0028】
図5は、切断装置8の格納方法を示す図である。図5に示すように、モーター15及び回転体13をカッターヘッド6本体内に格納したときに、土砂が開口部9を通過してカッターヘッド6本体内に流入することを防止するためのゲート21と、このゲート21を移動させるためのゲート用ジャッキ22とから構成された開閉装置10が設けられている。
【0029】
例えば、切削チップ12を交換するために切断装置8をカッターヘッド6内に格納するときは、まず、引込用ジャッキ11を収縮させて切断装置8をカッターヘッド6内に没入させ、次に、ゲート用ジャッキ22を伸張させてゲート21で開口部9を閉止する。開口部9をゲート21で閉止することにより、地山からカッターヘッド6本体内への土砂の流入を防止する。その後、図6に示すように、回転体13をモーター15から取り外し、切削チップ12を新たなものに交換する。
【0030】
交換後、再び、切断装置8でドレーン材を切断するときは、まず、ゲート用ジャッキ22を収縮させて開口部9を開放し、次に、引込用ジャッキ11を伸張させて切断装置8を進行方向前方に押し出す。このとき、切断装置8が開口部9を通過して、回転体13がカッターヘッド6よりも進行方向前方に所定の長さだけ突出するように引込用ジャッキ11を伸張させる。
【0031】
次に、本発明の第二実施形態について説明する。以下の説明において、第一実施形態に対応する部分には同一の符号を付して説明を省略し、主に相違点について説明する。第二実施形態は、第一実施形態の円錐形状の回転体13の代わりに円盤状の回転体23を用いたものである。
【0032】
図7は、本発明の第二実施形態に係る切断装置28の側断面図である。
図7に示すように、切断装置28は、複数の切削チップ12と、これらのチップが取り付けられた円盤状の回転体23と、モーター15と、引込用ジャッキ11と、を備える。
【0033】
回転体23は円盤状に構成されているため、ドレーン材を切断する際は、回転体23の前面がドレーン材に面的に接し、その面に取り付けた複数の切削チップ12がドレーン材を切断するので、切断効率が良い。
【0034】
上述した各実施形態によれば、切断装置8、28がカッターヘッド6よりも進行方向前方に突出するように設けられるので、ドレーン材を切断した後にそのドレーン材の周囲の地山を掘削することができる。また、切断装置8、28は、各カッターヘッド6の外周側端部に設けられているので、掘削予定箇所に存在するドレーン材の上端及び下端を切断することができる。したがって、地山掘削時に、掘削予定箇所の上方及び下方に存在するドレーン材を引き込むことがなく、掘削予定箇所に存在するドレーン材のみを撤去することができる。
【0035】
また、上述した各実施形態によれば、回転体13、23の回転軸は、シールド機1の進行方向に略平行になるように設けられているので、ドレーン材を切断する際の反力は回転軸の軸方向に作用し、回転軸に対して垂直に作用する力は小さい。このため、従来の回転体の回転軸に対して垂直な力が作用するように配置されている場合に比べて、切断装置8、28の耐久性が向上する。
【0036】
また、回転体13、23の回転軸は、シールド機1の進行方向に略平行になるように設けられているので、ドレーン材に面的に接触することとなり、回転体13、23の前面に取り付けられた複数の切削チップ12により、ドレーン材を切断することができるので、短時間で効果的にドレーン材を切断することができる。
【0037】
また、上述した各実施形態によれば、切断装置8、28は、カッターヘッド6本体から出没可能に構成され、駆動時にカッターヘッド6よりも進行方向前方に突出し、メンテナンス時にカッターヘッド6本体内に没入するように構成されているので、切断装置8、28をシールド機1、31本体内に没入させた状態で効率良く、かつ、安全にメンテナンスすることができる。
【0038】
また、上述した各実施形態において、矩形のシールド機1に切断装置8、28を適用した場合について説明したが、この形状に限定されるものでなく、円形、楕円形等のシールド機1にも切断装置8、28を適用することができる。
【0039】
さらに、上述した各実施形態においては、切断が容易なドレーン材を切断する場合について説明したが、鋼管杭、セメント杭、岩石、岩盤等の硬いものを切断する場合には、切削チップ12を硬いものに交換したり、回転体13、23の回転速度を高速にすることにより、切断が可能である。
【符号の説明】
【0040】
1 シールド機
2 外殻
3 主シールド
5 シールドジャッキ
6 カッターヘッド
7 コンベア
8 切断装置
9 開口部
10 開閉装置
11 引込用ジャッキ
12 切削チップ
13 回転体
15 モーター
21 ゲート
22 ゲート用ジャッキ
23 回転体
28 切断装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
障害物が存在する地山内をカッターヘッドで掘削しつつ、掘進可能なシールド機であって、
前記障害物を切断するための切削チップが取り付けられた回転体を有する切断装置が前記カッターヘッド内に、当該切断装置の回転軸が当該シールド機の進行方向と略平行になるように設けられ、前記回転体が前記カッターヘッドよりも進行方向前方に突出するように設置されていることを特徴とするシールド機。
【請求項2】
前記回転体は、頂点が進行方向前方に向いた円錐形状を有し、その円錐面に複数の前記切削チップが取り付けられていることを特徴とする請求項1に記載のシールド機。
【請求項3】
前記回転体は、円盤形状を有し、その前面に複数の前記切削チップが取り付けられていることを特徴とする請求項1に記載のシールド機。
【請求項4】
前記切断装置は、前記カッターヘッドの外周側端部に設けられることを特徴とする請求項1〜3のうち何れか1項に記載のシールド機。
【請求項5】
前記切断装置は、前記カッターヘッドに設けられた開口部に対して出没可能に構成され、前記カッターヘッドに没入したときに、前記開口部を閉止する開閉装置を備えることを特徴とする請求項1〜4のうち何れか1項に記載のシールド機。
【請求項6】
地山内に存在する障害物を切断するための切削チップが取り付けられた回転体を有する切断装置がカッターヘッド内に、当該切断装置の回転軸が進行方向と略平行になるように設けられ、前記回転体が前記カッターヘッドよりも進行方向前方に突出するように設置されているシールド機を用いて地山を掘削する掘進工法において、
前記カッターヘッドを駆動させて地山を掘削しながら、前記切断装置の前記回転体を駆動させて前記障害物を切断することを特徴とするシールド機の掘進工法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−52402(P2011−52402A)
【公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−200537(P2009−200537)
【出願日】平成21年8月31日(2009.8.31)
【出願人】(000000549)株式会社大林組 (1,758)
【出願人】(000005119)日立造船株式会社 (764)
【Fターム(参考)】