説明

シールド線止水構造部の製造方法及びシールド線止水構造部

【課題】止水剤を止水対象箇所に留めて止水性能を確保しつつ複数のシールド線をまとめて止水すること。
【解決手段】シールド線止水構造部の製造方法は、露出芯線部24と被覆部28とを有する複数のシールド線20の止水をするものである。シールド線止水構造部の製造方法は、(a)複数のシールド線20を互いに平行に並べる工程と、(b)複数のシールド線20における露出芯線部24と被覆部28との境界部分を含む部分に熱収縮チューブ32を被せる工程と、(c)熱収縮チューブ32のうち被覆部28を覆う部分を熱収縮させる工程と、(d)熱収縮チューブ32の内側に露出芯線部24側から止水剤42を注入する工程と、(e)熱収縮チューブ32を全体的に熱収縮させる工程とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シールド線の端末部における止水処理技術に関する。
【背景技術】
【0002】
シールド線の線心を露出させた線心露出部位において防水機能を付与する技術が特許文献1に開示されている。特許文献1のシールド線のシールド構造は、ブチルゴムなどの導電性自己融着粘着材であるペースト状のシール材で線心露出部位を被覆し、シール材の表面にシート状またはテープ状の外皮が巻き付けられて構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−109684号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1では、シール材の表面のみに外皮が巻き付けられているため、線心露出部にシール材をより密着させるためにシール材を加圧する際に、外被の側方にシール材がはみ出してしまう恐れがある。さらに、複数のシールド線についてまとめて防水機能を付与する要請もあるが、この場合、複数のシールド線における各線心露出部間及び各シース間に隙間ができるため、シール材のはみ出しの恐れはより一層高くなる。そして、外被の側方にシール材がはみ出すと、本来の止水箇所に留まるシール材の量が少なくなり、止水性能に影響を及ぼす恐れもある。
【0005】
そこで、本発明は、止水剤を止水対象箇所に留めて止水性能を確保しつつ複数のシールド線をまとめて止水することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1の態様は、芯線及びアース配線部がシースに被覆されて形成され、端末部において前記芯線が露出された露出芯線部と、前記芯線及び前記アース配線部が前記シースに被覆された被覆部とを有する複数のシールド線の止水をするシールド線止水構造部の製造方法であって、(a)複数のシールド線を互いに平行に並べる工程と、(b)前記複数のシールド線における前記露出芯線部と前記被覆部との境界部分を含む部分に熱収縮チューブを被せる工程と、(c)前記熱収縮チューブのうち前記被覆部を覆う部分を熱収縮させる工程と、(d)前記熱収縮チューブの内側に前記露出芯線部側から止水剤を注入する工程と、(e)前記熱収縮チューブを全体的に熱収縮させる工程と、を備える。
【0007】
第2の態様は、第1の態様に係るシールド線止水構造部の製造方法であって、前記工程(a)は、(a1)前記複数のシールド線のそれぞれについて、前記露出芯線部の外周部に間隔をあける形態で、前記被覆部の外周部から前記露出芯線部側に筒状に延びる形状に溜め保持用テープを巻く工程を有し、前記工程(c)では、前記熱収縮チューブのうち筒状に形成した前記漏れ止め用テープが設けられた部位を含む部分を覆う形態で熱収縮チューブを被せる。
【0008】
第3の態様は、第1または第2の態様に係るシールド線止水構造部の製造方法であって、前記工程(a)は、(a2)前記複数のシールド線における前記被覆部に対して、前記各被覆部間に介在する形態で漏れ止め用テープを巻き付ける工程を有し、前記工程(c)では、前記熱収縮チューブのうち前記漏れ止め用テープを巻きつけた部位を含む部分を覆う形態で熱収縮チューブを被せる。
【0009】
第4の態様は、第1〜第3のいずれか一態様に係るシールド線止水構造部の製造方法であって、前記工程(d)では、前記止水剤を、前記工程(e)で前記熱収縮チューブを全体的に熱収縮させる際に、前記被覆部の前記シースから露出される前記アース配線部の端部を覆うことが可能な形態で前記熱収縮チューブの内側に注入する。
【0010】
第5の態様は、シールド線止水構造部であって、芯線及びアース配線部がシースに被覆されて形成され、端末部において前記芯線が露出された露出芯線部と、前記芯線及び前記アース配線部が前記シースに被覆された被覆部とを有し、互いに平行に並べられた複数のシールド線と、前記複数のシールド線における前記被覆部の外周部に対する接触箇所で密着し、前記被覆部と前記露出芯線部との境界部分を覆う筒状の第1止水部と、前記第1止水部の内側に注入された止水剤により形成され、前記複数のシールド線の前記被覆部と前記露出芯線部との境界部分を覆う第2止水部と、を備える。
【0011】
第6の態様は、第5の態様に係るシールド線止水構造部であって、前記第1被覆部の内側に設けられ、前記被覆部の外周部から前記露出芯線部側に筒状に延出する形状に形成され、前記露出芯線部の外周部との間に少なくとも周方向一部で隙間をあけてその隙間に前記第2止水部を介在させている溜め保持部をさらに備える。
【0012】
第7の態様は、第5または第6の態様に係るシールド線止水構造部であって、前記第1止水部の内側に設けられ、前記被覆部同士の隙間に介在すると共に前記被覆部の外周部を覆う形状に形成される漏れ止め部をさらに備える。
【0013】
第8の態様は、第5〜第7のいずれか一態様に係るシールド線止水構造部であって、前記第2止水部は、前記被覆部の前記シースから露出される前記アース配線部の端部を覆う。
【発明の効果】
【0014】
第1の態様に係るシールド線止水構造部の製造方法によると、互いに平行に並べた複数のシールド線における露出芯線部と被覆部との境界部分を含む部分に熱収縮チューブを被せ、熱収縮チューブのうち被覆部を覆う部分を熱収縮させてから、この熱収縮チューブの内側に露出芯線部側から止水剤を注入して、熱収縮チューブを全体的に熱収縮させるため、一方側だけが熱収縮された容器状の熱収縮チューブに止水剤が注入されて溜められ、熱収縮チューブを全体的に熱収縮させることにより止水剤を熱収縮チューブの内側に保持でき、止水剤を止水対象箇所に留めて止水性能を確保しつつ複数のシールド線をまとめて止水することができる。
【0015】
第2の態様に係るシールド線止水構造部の製造方法によると、複数のシールド線のそれぞれについて、露出芯線部の外周部に間隔をあける形態で、被覆部の外周部から露出芯線部側に筒状に延びる形状に溜め保持用テープを巻き、熱収縮チューブのうち筒状に形成した漏れ止め用テープが設けられた部位を含む部分を覆う形態で熱収縮チューブを被せるため、熱収縮チューブ内に止水剤を注入する際に筒状に形成された溜め保持用テープ内に止水剤が溜まった状態になり、止水剤を溜め保持用テープ内の部位により確実に行き亘らせて、止水性能を向上させることができる。
【0016】
第3の態様に係るシールド線止水構造部の製造方法によると、複数のシールド線の被覆部に対して、各被覆部間に介在する形態で漏れ止め用テープを巻き付け、漏れ止め用テープを巻きつけた部位を含む部分を覆う形態で熱収縮チューブを被せるため、熱収縮チューブ内に注入される止水剤が被覆部側から漏れ出すことをより確実に抑制することができる。
【0017】
第4の態様に係るシールド線止水構造部の製造方法によると、止水剤を、熱収縮チューブを全体的に熱収縮させる際に、被覆部のシースから露出されるアース配線部の端部を覆うことが可能な形態で熱収縮チューブの内側に注入するため、アース配線部についてもより確実に止水することができる。
【0018】
第5の態様に係るシールド線止水構造部によると、互いに平行に並べられた複数のシールド線における被覆部の外周部に対する接触箇所で密着する筒状の第1止水部により被覆部と露出芯線部との境界部分を覆い、第1止水部の内側に注入された止水剤により形成される第2止水部により複数のシールド線の被覆部と露出芯線部との境界部分を覆っているため、止水剤を止水対象箇所に留めて止水性能を確保しつつ複数のシールド線をまとめて止水することができる。
【0019】
第6の態様に係るシールド線止水構造部によると、第1被覆部の内側に設けられ、被覆部の外周部から露出芯線部側に筒状に延出する形状に形成され、露出芯線部の外周部との間に少なくとも周方向一部で隙間をあけた溜め保持部が、露出芯線部との隙間に第2止水部を介在させているため、溜め保持部内の部分における止水性能を向上させることができる。
【0020】
第7の態様に係るシールド線止水構造部によると、第1止水部の内側に設けられ、被覆部同士の隙間に介在すると共に被覆部の外周部を覆う形状に形成される漏れ止め部を備えるため、より止水対象箇所に第2止水部を集中させて止水性能を向上させることができる。
【0021】
第8の態様に係るシールド線止水構造部によると、第2止水部が、被覆部のシースから露出されるアース配線部の端部を覆うため、アース配線部についてもより確実に止水することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】シールド線の端末部の斜視図である。
【図2】複数のシールド線を並べた状態を示す図である。
【図3】溜め保持用テープを巻いた状態を示す図である。
【図4】漏れ止め用テープを巻いた状態を示す図である。
【図5】漏れ止め用テープの巻き方の一例を示す図である。
【図6】熱収縮チューブの被覆部側部分を熱収縮させた状態を示す図である。
【図7】熱収縮チューブ内に止水剤を注入した状態を示す図である。
【図8】シールド線止水構造部を示す図である。
【図9】図8のIX−IX線断面図である。
【図10】図8のX−X線断面図である。
【図11】図8のXI−XI線断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、実施形態に係るシールド線止水構造部及びその製造方法について説明する。
【0024】
<1.シールド線について>
まず、説明の便宜上、対象となるシールド線20について説明しておく(図1参照)。このシールド線20は、1本又は複数本(ここでは複数本)の芯線22及びアース配線部としてのドレン線23を金属箔シールドで覆うと共にドレン線23が前記金属箔シールドに接触した電線、又は、複数の芯線22をアース配線部としての編組線(編組シールド)で覆い、その外周部を絶縁樹脂被覆材等を含むシース26により被覆した電線である。ここでは、ドレン線23を有するシールド線20を止水対象として説明する。芯線22は、例えば、撚線が絶縁樹脂被覆材により被覆された電線である。このシールド線20は、芯線22としての信号線においてノイズによる影響を受け難くする用途に用いられ、例えば、ECU(Engine Control Unit)と燃料噴射装置との間に配索される。
【0025】
シールド線20は、端末部においてシース26が除去されて複数の芯線22が露出された露出芯線部24と、複数の芯線22がシース26により被覆された被覆部28とを有している(図1参照)。ここでは、ドレン線23は、シース26の端部で切断されて端部が露出芯線部24と被覆部28との境界部分に位置してシース26からその外方に露出されており、その他端部が接地される。
【0026】
以下の説明において、説明の便宜上、シールド線20のうち露出芯線部24の端部側を露出芯線部24側、その他端側を被覆部28側と呼ぶことがある。
【0027】
<2.シールド線止水構造部について>
シールド線止水構造部10は、複数の上記シールド線20と、第1止水部30と、第2止水部40と、溜め保持部50と、漏れ止め部60とを備えている(図8参照)。以下、シールド線止水構造部10の製造工程を説明してから、完成品の構成について説明する。
【0028】
まず、複数(ここでは3本)のシールド線20を、被覆部28の露出芯線部24側の端部を揃える形態で、互いに平行に並べる(工程(a)、図2参照)。ここで、互いに平行とは、交わらないことを言い、作業上の誤差及び各シールド線の曲がり及び捻れ等による誤差を含んだ形態を許容するものとする。また、図2では、複数のシールド線20が平面上に並べられた例を示しているが、立体的に平行に並べられてよいことは勿論である。並べられる複数のシールド線20における露出芯線部24の延在寸法は、接続先によって異なることもある。
【0029】
また、上記工程(a)の際に、複数のシールド線20のそれぞれについて、露出芯線部24の外周部に間隔をあける形態で、被覆部28の外周部から露出芯線部24側に筒状に延びる形状に溜め保持用テープ52を巻き付ける(工程(a1)、図3参照)。ここでは、溜め保持用テープ52として、細長の(例えばPVC(ポリ塩化ビニル)製)粘着テープを用いている。そして、溜め保持用テープ52を被覆部28の外周部上から巻き始め、幅方向における少なくとも一部を重ねつつ巻いて、露出芯線部24の外周部に間隔をあけた筒状部分を形成する。好ましくは、溜め保持用テープ52は、ハーフラップさせつつ(幅方向において半分ずつ重ねつつ)巻くとよい。また、後述する止水剤42を溜め易く且つより多く溜める観点から言うと、溜め保持用テープ52を巻く際には、露出芯線部24側に向けて徐々に拡がる形状で巻くとよい。この溜め保持用テープ52により形成される筒状部分の軸方向寸法は、露出芯線部24のうちより確実に止水剤42により覆いたい部分を覆うことが可能な寸法に設定されているとよい。
【0030】
上記溜め保持用テープ52は、幅方向において一部を重ねつつ巻く場合に限らず、筒状部分の軸方向寸法に相当する幅寸法を有するテープを採用して筒状に巻かれてもよい。もっとも、溜め保持用テープ52を幅方向において一部を重ねつつ巻かれる場合、溜め保持用テープ52同士が重なる部分によって形成される凹凸により、止水剤42が留まり易くなる。
【0031】
さらに、上記工程(a)の際に、複数のシールド線20における被覆部28に対して、各被覆部28間に介在する形態で漏れ止め用テープ62を巻き付ける(工程(a2)、図4参照)。ここでは、漏れ止め用テープ62として、細長の(例えばPVC(ポリ塩化ビニル)製)粘着テープを用いている。そして、漏れ止め用テープ62を1本目のシールド線20の被覆部28の外周部に対して巻き付けると共に、1本目のシールド線20との間にその外周上に巻き付けられた漏れ止め用テープ62を挟む形態で2本目のシールド線20を配置する(図5参照)。続けて、漏れ止め用テープ62を、2本目のシールド線20と共に既に漏れ止め用テープ62が巻き付けられた1本目のシールド線20に対して巻き付ける。さらに、3本目のシールド線20も2本目と同様に配置し、漏れ止め用テープ62を3本目のシールド線20と共に1、2本目のシールド線20に対して巻き付ける。
【0032】
もっとも、漏れ止め用テープ62は、上記の巻き方に限られるものではなく、例えば、各シールド線20に対して個々に巻き付けてから、複数のシールド線20全体に一括して巻き付けられてもよい。また、漏れ止め用テープ62は、複数のシールド線20に対して、各シールド線20の被覆部28同士を接触させた状態で、一括して巻き付けてもよい。すなわち、漏れ止め用テープ62が各シールド線20の被覆部28同士の間に介在しない状態で複数のシールド線20に対して巻き付けられても、漏れ止め用テープ62が巻き付けられない場合と比較して、止水剤42の漏れを抑制することができる。
【0033】
次に、複数のシールド線20における露出芯線部24と被覆部28との境界部分を含む部分に熱収縮チューブ32を被せる(工程(b))。熱収縮チューブ32としては、収縮前に並べられた複数のシールド線20を挿通可能であると共に、収縮後に複数のシールド線20の外周部に密着可能なものを採用する。また、熱収縮チューブ32の貫通方向の寸法は、複数のシールド線20のうち、延在方向において溜め保持用テープ52が設けられた部位並びにその側方に隣接して延在する被覆部28の一部、及び、漏れ止め用テープ62を巻き付けた部位並びにその側方に隣接して延在する露出芯線部24の一部を含む範囲を覆うことが可能な寸法に設定されるとよい。すなわち、熱収縮チューブ32は、複数のシールド線20のうち上記範囲を覆う形態で被せられる。ここで、シース26から露出されるドレン線23の端部も、熱収縮チューブ32内に位置する。
【0034】
次に、熱収縮チューブ32のうち被覆部28を覆う部分を熱収縮させる(工程(c)、図6参照)。より具体的には、熱収縮チューブ32のうち、複数のシールド線20における漏れ止め用テープ62が巻き付けられた部位の側方を覆う部分を、熱収縮させて被覆部28の外周部に対して密着させる。ここで、被覆部28の外周部に対して密着とは、被覆部28の外周部全体に対して密着していることまでは要さず、被覆部28の外周部に対して熱収縮チューブ32が接触する部分で密着していればよい。すなわち、熱収縮後の熱収縮チューブ32は、一方向に沿って並列状に並べられた複数のシールド線20を締め付けるように変形するため、貫通方向に直交する断面視において略楕円形を成している。また、ここでは、熱収縮チューブ32は、複数のシールド線20のうち延在方向において漏れ止め用テープ62が巻き付けられた部位を覆う部分でも熱収縮されている。これにより、収縮した熱収縮チューブ32は、漏れ止め用テープ62を締め付けて被覆部28の外周部に押し付けると共に、被覆部28同士の隙間に押し込んでいる。これにより、被覆部28同士の間における熱収縮チューブ32との隙間がより全体的に塞がれる。この状態で、熱収縮チューブ32は、被覆部28側を底部とする容器状に形成されている。
【0035】
上記熱収縮チューブ32を熱収縮させる作業は、熱風を噴射又は加熱部材を押し当てること等により行うとよい。
【0036】
次に、容器状に形成された熱収縮チューブ32の内側に露出芯線部24側から止水剤42を注入する(工程(d)、図7参照)。この止水剤42は、注入時に液状又はペースト状で、その後に硬化又は芯線22間等からはみ出ない程度に高い粘度になる組成物である。例えば、止水剤42として、2液混合型のエポキシ樹脂、紫外線硬化樹脂及びシリコン樹脂等の湿気硬化型樹脂等を採用でき、好ましくは、速硬化性に優れるものを採用することが好ましい。ここでは、露出芯線部24における各芯線22間及び芯線22とシース26との間に浸透可能な比較的粘度の低い止水剤42が採用される例で説明する。
【0037】
止水剤42の注入量は、露出芯線部24と被覆部28との境界部分を覆うことが可能であると共に、熱収縮チューブ32が全体的に熱収縮される際に芯線22同士の隙間、シース26同士の隙間及び芯線22とシース26との隙間に行き亘ることが可能な量となるように設定されるとよい。また、止水剤42の注入量は、熱収縮チューブ32が全体的に熱収縮される際に、熱収縮チューブ32の端部からはみ出ない程度の量に設定されているとよい。
【0038】
また、ここでは、後述する工程(e)で熱収縮チューブ32を全体的に熱収縮させる際に、シース26から露出されるドレン線23の端部を覆うことが可能な態様で、止水剤42を熱収縮チューブ32の内側に注入する。そして、上記止水剤42の注入量は、この観点についても考慮されている。すなわち、止水剤42の注入量は、容器状の熱収縮チューブ32が熱収縮される際に、露出芯線部24と被覆部28との境界部分に位置するドレン線23の端部を覆う範囲まで行き亘る量である。さらに、この止水剤42の注入量は、芯線22とドレン線23との隙間及びドレン線23とシース26との隙間に行き亘ることが可能な量であることが好ましい。
【0039】
もっとも、熱収縮チューブ32を全体的に熱収縮させる際に、シース26から露出されるドレン線23の端部を覆うことが可能な止水剤42の注入態様は、注入箇所、注入方法によっても操作できる。すなわち、露出芯線部24と被覆部28との境界部分、さらにはドレン線23の端部に直接に又はその付近に浴びせるようにして、止水剤42を注入する。
【0040】
止水剤42の注入作業は、止水剤42を吐出可能なノズルを有する装置等により、被覆部28側が熱収縮された熱収縮チューブ32の露出芯線部24側の開口から注入されることによって行われるとよい。
【0041】
熱収縮チューブ32の内側に止水剤42を注入することによって、複数のシールド線20の露出芯線部24と被覆部28との境界部分を止水剤42により一括して覆う。また、止水剤42は、筒状に形成された溜め保持用テープ52の内側に溜められ、溜め保持用テープ52と露出芯線部24との間に介在する形態で注入されるとよい。さらに、この状態で、止水剤42は、露出芯線部24における芯線22同士の隙間、芯線22とドレン線23との隙間、芯線22及びドレン線23とシース26との隙間及び漏れ止め用テープ62より露出芯線部24側における被覆部28間にも行き亘っていくこともある。なお、図7、図8では、止水剤42が主として覆う箇所を示しており、実際には熱収縮チューブ32内における図示以外の箇所にも存在していることがある。
【0042】
次に、熱収縮チューブ32を全体的に熱収縮させる(工程(e)、図8参照)。すなわち、熱収縮チューブ32のうち、まだ熱収縮されていない箇所を熱収縮させる。これにより、熱収縮チューブ32の内側の止水剤42は、熱収縮チューブ32に押圧され、各部の隙間に浸透しつつ被覆部28側から露出芯線部24側に向けて複数のシールド線20を覆っていく。ここで、各部の隙間とは、芯線22同士の隙間及び被覆部28同士の隙間等である。また、筒状に形成された溜め保持用テープ52の内側に溜められた止水剤42は、熱収縮チューブ32の熱収縮と共に部分的に露出芯線部24側に押し出されることもあるが、少なくとも一部が溜め保持用テープ52の内側に留まっている。また、溜め保持用テープ52の内側に溜められた止水剤42は、シース26内にも押し込まれ、芯線22同士の隙間、芯線22とドレン線23との隙間、及び、芯線22及びドレン線23とシース26との隙間に行き亘る。すなわち、ドレン線23の端部は、止水剤42により直接覆われる(少なくとも露出部分が覆われていればよい)。
【0043】
露出芯線部24側に押し流される止水剤42は、溜め保持用テープ52より露出芯線部24側で、芯線22の外周部と熱収縮チューブ32との間に介在することがある。
【0044】
一方、熱収縮チューブ32のうち予め熱収縮された被覆部28側の部分では、熱収縮チューブ32及び漏れ止め用テープ62により、止水剤42が堰き止められる。もっとも、漏れ止め用テープ62の隙間を通じて、熱収縮チューブ32のうち予め熱収縮された部分の内側に侵入することも有り得る。しかし、熱収縮チューブ32と被覆部28の外周部とが接触した部分においては、密着状態にあり、止水剤42は、熱収縮チューブ32と被覆部28との間に浸入しない。
【0045】
そして、止水剤42が硬化又は垂れない程度の硬さになることにより、シールド線止水構造部10が完成する。以上の工程を経て製造されるシールド線止水構造部10は、上述したように、複数のシールド線20と、第1止水部30と、第2止水部40と、溜め保持部50と、漏れ止め部60とを備えている。
【0046】
第1止水部30は、熱収縮チューブ32が熱収縮されることにより形成される部分である。この第1止水部30は、複数のシールド線20における被覆部28の外周部に密着し、露出芯線部24と被覆部28との境界部分を覆って熱収縮されて形成されている。
【0047】
第1止水部30は、被覆部28に密着する範囲におけるシールド線20の延在方向に直交する断面視において、複数のシールド線20における被覆部28に外接する(各被覆部28の外周部の少なくとも一部に接触する)閉曲線状を成している。より具体的には、前記第1止水部30の断面形状は、被覆部28の外周部の一部に沿って外周側に凸となる弧状部分と、少なくとも2つの被覆部28の外周部に接する接線に沿って各弧状部分を結ぶ直線部分とを有する閉曲線状であり、ここでは、両端の被覆部28の外周部に沿った一対の半円弧状部とそれを結ぶ一対の直線部分を有する形状を成している。そして、第1止水部30は、被覆部28に対する接触部分において密着している。
【0048】
また、上記第1止水部30の内側には、第2止水部40が存在すると共に、溜め保持部50及び漏れ止め部60が設けられている。そして、第1止水部30は、全体として、内側の複数のシールド線20、溜め保持部50及び漏れ止め部60の外部形状に沿った形状に形成されている。なお、第1止水部30のうち、内側に第2止水部40が存在する箇所では、複数のシールド線20、溜め保持部50及び漏れ止め部60に対して第2止水部40の層を介して存在している。
【0049】
第2止水部40は、第1止水部30の内側に注入された止水剤42が硬化することにより形成される部分である。より具体的には、第2止水部40は、複数のシールド線20の露出芯線部24と被覆部28との境界部分を覆う形態で、第1止水部30の内側に存在する(図8参照)。この第2止水部40は、複数のシールド線20における被覆部28同士の隙間、露出芯線部24の芯線22同士の隙間及び芯線22とシース26との隙間にも介在している。また、第2止水部40は、シース26から露出されるドレン線23の端部を覆い(少なくとも露出部分が覆われていればよい)、すなわち、該ドレン線23と芯線22との隙間及びドレン線23とシース26との隙間にも介在している。
【0050】
溜め保持部50は、溜め保持用テープ52が巻かれることにより形成される部分である。この溜め保持部50は、第1被覆部30の内側に設けられ、被覆部28の外周部から露出芯線部24側に筒状に延出する形状に形成され、露出芯線部24の外周部との間に少なくとも周方向一部で隙間をあけてその隙間に第2止水部40を介在させている(図11参照)。好ましくは、溜め保持部50は、露出芯線部24の外周部との間に全周に亘って第2止水部40を介在させているとよい。また、溜め保持部50内においても、露出芯線部24の芯線22同士の隙間、芯線22とシース26との隙間、芯線22とドレン線23との隙間及びドレン線23とシース26との隙間に第2止水部40が介在している。さらに、溜め保持部50と第1止水部30との隙間及び溜め保持部50同士の隙間にも、第2止水部40が介在している。
【0051】
漏れ止め部60は、漏れ止め用テープ62が被覆部28に巻き付けられて形成される部分である。この漏れ止め部60は、第1被覆部30の内側でシールド線20の延在方向において第1止水部30が被覆部28の外周部に密着した位置より露出芯線部24側に設けられ、被覆部28同士の間に介在すると共に前記被覆部28の外周部を覆う形状に形成されている。より具体的には、漏れ止め部60は、主として被覆部28同士の隙間を塞ぐように被覆部28と第1止水部30との間に介在している(図10参照)。
【0052】
この漏れ止め部60より被覆部28側には、基本的に、第2止水部40は存在しない。もっとも、製造過程において、止水剤42が漏れ止め用テープ62の隙間を通って被覆部28側に流れた場合、漏れ止め部60より被覆部28側に第2止水部40が僅かに存在することもある。しかしながら、第1止水部30が被覆部28の外周部に密着している箇所では、その間に第2止水部40は存在しない(図9参照)。
【0053】
上記構成に係るシールド線止水構造部の製造方法及びシールド線止水構造部10によると、互いに平行に並べた複数のシールド線20における露出芯線部24と被覆部28との境界部分を含む部分に熱収縮チューブ32を被せ、熱収縮チューブ32のうち被覆部28を覆う部分を熱収縮させてから、この熱収縮チューブ32の内側に露出芯線部24側から止水剤42を注入して、熱収縮チューブ32を全体的に熱収縮させるため、一方側だけが熱収縮された容器状の熱収縮チューブ32に止水剤42が注入されて溜められ、熱収縮チューブ32を全体的に熱収縮させることにより止水剤42を熱収縮チューブ32の内側に保持できる。これにより、複数のシールド線における被覆部の外周部に対する接触箇所で密着する筒状の第1止水部により被覆部と露出芯線部との境界部分が覆われ、第1止水部の内側で第2止水部により複数のシールド線の被覆部と露出芯線部との境界部分が覆われるシールド線止水構造部10が得られ、止水剤42を止水対象箇所に留めて止水性能を確保しつつ複数のシールド線20をまとめて止水することができる。
【0054】
そして、複数のシールド線20をまとめて止水することができるため、作業効率の向上につながり、材料費の低減にも寄与する。
【0055】
また、熱収縮チューブ32を熱収縮することにより止水剤42を内側に留めて第1止水部30及び第2止水部40が形成されるため、止水剤42の漏れを抑制するためのシート及びテープ巻きの工程を省略できると共にシート及びテープが不要となる。
【0056】
また、複数のシールド線20のそれぞれについて、露出芯線部24の外周部に間隔をあける形態で、被覆部28の外周部から露出芯線部24側に筒状に延びる形状に溜め保持用テープ52を巻くことにより溜め保持部50が形成され、熱収縮チューブ32のうち筒状に形成した溜め保持用テープ52が設けられた部位を含む部分を覆う形態で熱収縮チューブ32を被せるため、熱収縮チューブ32内に止水剤42を注入する際に筒状に形成された溜め保持用テープ52内に止水剤42が溜まった状態になり、止水剤42を溜め保持用テープ52内の部位により確実に行き亘らせることができ、溜め保持部50内における止水性能を向上させることができる。
【0057】
また、複数のシールド線20の被覆部28に対して、各被覆部28間に介在する形態で漏れ止め用テープ62を巻き付けて漏れ止め部60を形成し、漏れ止め用テープ62を巻きつけた部位を含む部分を覆う形態で熱収縮チューブ32を被せるため、熱収縮チューブ32内に注入される止水剤42が被覆部28側から漏れ出すことをより確実に抑制することができ、より止水対象箇所に第2止水部40を集中させて止水性能を向上させることができる。
【0058】
また、止水剤42を、熱収縮チューブ32を全体的に熱収縮させる際に、被覆部28のシース26から露出されるドレン線23の端部を覆うことが可能な形態で熱収縮チューブ32の内側に注入するため、ドレン線23についてもより確実に止水することができる。
【0059】
これまで、シールド線20のうち端末部においてシース26が除去された部分を止水対象とする例で説明したが、延在方向中途部で部分的にシース26が除去された部分を止水対象としてもよい。
【0060】
また、シールド線20のドレン線23は、シース26の端部と略同じ位置に端部を有する例で説明したが、これに限らず、例えばシース26より露出芯線部24側に端部を有していてもよい。この場合にも、シールド線止水構造部10は、シース26から露出されるドレン線23の端部が、第1止水部30及び第2止水部40の内側に位置するように構成されているとよい。好ましくは、溜め保持部50(筒状に形成された溜め保持用テープ52)は、ドレン線23の端部を覆うように形成されているとよい。
【0061】
また、ドレン線23は、露出芯線部24側の端部がECU92のアース電極に接続されてもよい。この場合、ドレン線23の先端側部分に被覆電線を接続して、ドレン線23のうちシース26と先端側部分における被覆部分との間で露出される部位を、第1止水部30及び第2止水部40により覆うとよい。
【0062】
また、漏れ止め部60は省略されてもよい。例えば、複数のシールド線20の被覆部28同士の間における熱収縮チューブ32との隙間が十分小さい場合及び止水剤42の粘度が十分高い場合等には、漏れ止め部60が省略されても止水剤42が漏れ出ることを抑制できる。この場合でも、複数のシールド線20の延在方向において少なくとも一部では、被覆部28と第1被覆部30との間に止水剤42が介在していない。また、溜め保持部50も省略されてもよい。
【符号の説明】
【0063】
10 シールド線止水構造部
20 シールド線
22 芯線
23 ドレン線
24 露出芯線部
26 シース
28 被覆部
32 熱収縮チューブ
42 止水剤
50 溜め保持部
52 溜め保持用テープ
60 漏れ止め部
62 漏れ止め用テープ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
芯線及びアース配線部がシースに被覆されて形成され、端末部において前記芯線が露出された露出芯線部と、前記芯線及び前記アース配線部が前記シースに被覆された被覆部とを有する複数のシールド線の止水をするシールド線止水構造部の製造方法であって、
(a)複数のシールド線を互いに平行に並べる工程と、
(b)前記複数のシールド線における前記露出芯線部と前記被覆部との境界部分を含む部分に熱収縮チューブを被せる工程と、
(c)前記熱収縮チューブのうち前記被覆部を覆う部分を熱収縮させる工程と、
(d)前記熱収縮チューブの内側に前記露出芯線部側から止水剤を注入する工程と、
(e)前記熱収縮チューブを全体的に熱収縮させる工程と、
を備える、シールド線止水構造部の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載のシールド線止水構造部の製造方法であって、
前記工程(a)は、(a1)前記複数のシールド線のそれぞれについて、前記露出芯線部の外周部に間隔をあける形態で、前記被覆部の外周部から前記露出芯線部側に筒状に延びる形状に溜め保持用テープを巻く工程を有し、
前記工程(c)では、前記熱収縮チューブのうち筒状に形成した前記漏れ止め用テープが設けられた部位を含む部分を覆う形態で熱収縮チューブを被せる、シールド線止水構造部の製造方法。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載のシールド線止水構造部の製造方法であって、
前記工程(a)は、(a2)前記複数のシールド線における前記被覆部に対して、前記各被覆部間に介在する形態で漏れ止め用テープを巻き付ける工程を有し、
前記工程(c)では、前記熱収縮チューブのうち前記漏れ止め用テープを巻きつけた部位を含む部分を覆う形態で熱収縮チューブを被せる、シールド線止水構造部の製造方法。
【請求項4】
請求項1〜請求項3のいずれか一項に記載のシールド線止水構造部の製造方法であって、
前記工程(d)では、前記止水剤を、前記工程(e)で前記熱収縮チューブを全体的に熱収縮させる際に、前記被覆部の前記シースから露出される前記アース配線部の端部を覆うことが可能な形態で前記熱収縮チューブの内側に注入する、シールド線止水構造部の製造方法。
【請求項5】
芯線及びアース配線部がシースに被覆されて形成され、端末部において前記芯線が露出された露出芯線部と、前記芯線及び前記アース配線部が前記シースに被覆された被覆部とを有し、互いに平行に並べられた複数のシールド線と、
前記複数のシールド線における前記被覆部の外周部に対する接触箇所で密着し、前記被覆部と前記露出芯線部との境界部分を覆う筒状の第1止水部と、
前記第1止水部の内側に注入された止水剤により形成され、前記複数のシールド線の前記被覆部と前記露出芯線部との境界部分を覆う第2止水部と、
を備える、シールド線止水構造部。
【請求項6】
請求項5に記載のシールド線止水構造部であって、
前記第1被覆部の内側に設けられ、前記被覆部の外周部から前記露出芯線部側に筒状に延出する形状に形成され、前記露出芯線部の外周部との間に少なくとも周方向一部で隙間をあけてその隙間に前記第2止水部を介在させている溜め保持部をさらに備える、シールド線止水構造部。
【請求項7】
請求項5又は請求項6に記載のシールド線止水構造部であって、
前記第1止水部の内側に設けられ、前記被覆部同士の隙間に介在すると共に前記被覆部の外周部を覆う形状に形成される漏れ止め部をさらに備える、シールド線止水構造部。
【請求項8】
請求項5〜請求項7に記載のシールド線止水構造部であって、
前記第2止水部は、前記被覆部の前記シースから露出される前記アース配線部の端部を覆う、シールド線止水構造部。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate


【公開番号】特開2013−54952(P2013−54952A)
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−192952(P2011−192952)
【出願日】平成23年9月5日(2011.9.5)
【出願人】(000183406)住友電装株式会社 (6,135)
【Fターム(参考)】