説明

シールリング

【課題】トルクを低減させることが可能で、かつ生産性の向上を図ったシールリングを提供する。
【解決手段】シールリング本体の軸方向の厚みが、外周側に比べて内周側の方が薄くなるように、シールリング本体の側面103には、環状溝の側壁面に摺動する面よりも凹んだ凹み部120が内周端縁に沿って設けられたシールリング100において、凹み部120をシールリング本体の中心軸方向に見た外形は円形であり、この円の中心は、シールリング本体の中心軸に対して、切断部110とは反対側にずれた位置となることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シールリングに関するものである。
【背景技術】
【0002】
相対的に回転する2部材のうちの一方の部材に設けられた環状溝に装着され、かつ該環状溝の側壁面と他方の部材の周面に対してそれぞれ接触することで、これら2部材間の環状隙間をシールするシールリングが知られている。より具体的な例として、ハウジングの軸孔に挿通される回転軸に設けられた環状溝に装着されて、該環状溝の非密封流体側の側壁面に摺動自在に接触し、かつ前記軸孔の内周面に接して、これら回転軸と軸孔との間の環状隙間を封止するシールリングを挙げることができる。このようなシールリングにおいては、回転軸に設けられた環状溝にシールリングを簡単に装着できるように、シールリングには、周方向の一箇所にて切断された切断部(合口部)が設けられるのが一般的である。
【0003】
かかるシールリングは、様々な装置において適用されるが、例えば、高圧・高回転の環境下で用いられるシールリングにおいては、如何に低トルクにするかが課題となっている。トルクTrは、摩擦係数をμ、軸外径半径をr、受圧面積をA、圧力をPとすると、
Tr=μ×r×A×P
で表される。
【0004】
このうち、軸外径半径rと、圧力Pは、シールリングが適用される装置側の仕様によって定められる。そのため、シールリングの構成によって、トルクTrを低減させるには、摩擦係数μか受圧面積Aを小さくする必要がある。摩擦係数μを小さくするためには、例えば、シールリングの材料を改良することが考えられる。しかし、このような改良は一般的には難しい。そこで、シールリングにおける摺動面となる側面に、環状溝の側壁面に摺動する面よりも凹んだ凹み部を設けて、受圧面積Aを小さくする技術が知られている。このような従来例に係るシールリングについて、図8及び図9を参照して説明する。
【0005】
図8は従来例に係るシールリングの装着状態を示す一部破断斜視図である。図9は従来例に係るシールリングの装着状態を示す模式的断面図である。図示の従来例に係るシールリング500は、回転軸600と、回転軸600が挿通される軸孔を有するハウジング700との間の環状隙間を封止するものである。なお、図9において、図中左側が高圧側(H)であり、右側が低圧側(L)である。例えば、高圧側(H)が、オイルが密封された領域となり、低圧側(L)が大気領域となる。
【0006】
このシールリング500は、回転軸600に設けられた環状溝601に装着されて、環状溝601の低圧側(L)の側壁面に摺動自在に接触し、かつハウジング700の軸孔の内周面に接することで、回転軸600とハウジング700との間の環状隙間を封止する。そして、このシールリング500には、シールリング本体の側面に、内周端縁に沿って凹み部520が設けられている。これにより、凹み部520においては密封対象流体による流体圧力(例えば油圧)がキャンセルされ、受圧面積Aを低減させることができる。なお、受圧面積Aは、高圧側と低圧側の流体圧力によってシールリング500にかかる圧力がキャンセルされない部分の面積、すなわち、凹み部520が設けられていない部分の面積である。図9中の断面図においては、領域Sが受圧領域である。
【0007】
ここで、このシールリング500の切断部(合口部)510は、側面側及び外周面側が段差形状で切断された特殊ステップカットとなっている。このような切断部510におい
ては、シールリング本体の中心軸と同心的な円筒面の一部で構成される切断面511が含まれている。そのため、切断部510が設けられている部分においては、シールリング本体の径方向の肉厚が、切断部510が設けられていない部分に比べて薄くなる。従って、強度やシール面確保の観点から、切断部510が設けられていない部分に比べて、切断部510が設けられている部分においては、上述した凹み部520の径方向幅が狭くなるように構成されている(図8中、Xで示す部分)。
【0008】
以上のように、従来例に係るシールリング500においては、凹み部520の幅が一様とはならないように構成されている。この場合、凹み部520の部位の形成も含めて、射出成形によってシールリング500を成形する場合には、特に問題はない。例えば、シールリング500の材料として、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)を用いる場合には、凹み部520の形成を含めて、シールリング500を射出成形によって成形することが可能である。
【0009】
しかしながら、シールリング500の材料として、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等を採用する場合には、凹み部520などの複雑な形状の部分は、切削加工によって形成しなければならない。そのため、上記のように凹み部520の径方向幅が一様でない場合には、例えば、3次元フライス等によるプログラム加工が必要となり、加工サイクルが長くなるなど、加工コストが大幅に増加してしまう。
【0010】
なお、切断部510が設けられている部分に形成可能な凹み部520の径方向幅を基準にして、全周に亘って凹み部520を設けることも考えられるが、この場合には、受圧面積をあまり低減させることができない。従って、トルク低減効果が少なくなってしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】実開昭63−84459号公報
【特許文献2】特開平9−4723号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の目的は、トルクを低減させることが可能で、かつ生産性の向上を図ったシールリングを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、上記課題を解決するために以下の手段を採用した。
【0014】
すなわち、本発明のシールリングは、
相対的に回転する2部材のうちの一方の部材に設けられた環状溝に装着され、かつ該環状溝の側壁面と他方の部材の周面に対してそれぞれ接触することで、これら2部材間の環状隙間をシールすると共に、周方向の一箇所にて切断された切断部が設けられたシールリングであって、
前記切断部には、シールリング本体の中心軸と同心的な円筒面の一部で構成される切断面が含まれると共に、
シールリング本体の軸方向の厚みが、外周側に比べて内周側の方が薄くなるように、シールリング本体の側面には、前記環状溝の側壁面に摺動する面よりも凹んだ凹み部が内周端縁に沿って設けられたシールリングにおいて、
該凹み部をシールリング本体の中心軸方向に見た外形は円形であり、この円の中心は、シールリング本体の中心軸に対して、前記切断部とは反対側にずれた位置となることを特徴とする。
【0015】
ここで、前記凹み部における前記円の中心から、シールリング本体の内周における最も離れた位置(切断部が設けられた位置)までの距離が、当該円の半径と同一または小さい場合には、切断部が設けられた位置付近においては、部分的に凹んだ部分がないことになる。本発明は、このような場合も含まれる。
【0016】
上記のように構成される本発明によれば、シールリング本体の側面には、凹み部が内周端縁に沿って設けられているので、受圧面積を低減させることができる。これにより、トルクを低減させることができる。そして、凹み部をシールリング本体の中心軸方向に見た外形は円形であるので、切削加工により容易に凹み部を形成することができる。
【0017】
また、前記凹み部における前記円の中心は、シールリング本体の中心軸に対して、切断部とは反対側にずれた位置にある。そのため、切断部付近においては、凹み部の径方向の幅を狭くすることができつつ、凹み部全体の面積を十分に確保することができる。従って、切断部付近において強度を低下することなく、かつシール面を確保することができつつ、シールリング全体の受圧面積を低減させることが可能となる。
【0018】
ここで、シールリング本体の側面のうち外周側の端面と、前記凹み部における前記端面に繋がる面とのなす角が鈍角であるとよい。
【0019】
これにより、シールリング本体の側面と環状溝の側壁面との摺動時に、くさび効果によって動圧を発生させることができる。これにより、より一層トルクを低減させることができる。
【発明の効果】
【0020】
以上説明したように、本発明によれば、トルクを低減させることが可能で、かつ生産性の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】図1は本発明の実施例1に係るシールリングの側面図である。
【図2】図2は本発明の実施例1に係るシールリングの模式的断面図である。
【図3】図3は本発明の実施例2に係るシールリングの側面図である。
【図4】図4は本発明の実施例2に係るシールリングの模式的断面図である。
【図5】図5は本発明の実施例3に係るシールリングの側面図である。
【図6】図6は本発明の実施例3に係るシールリングの模式的断面図である。
【図7】図7は凹み部の形状例を示す模式的断面図である。
【図8】図8は従来例に係るシールリングの装着状態を示す一部破断斜視図である。
【図9】図9は従来例に係るシールリングの装着状態を示す模式的断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に図面を参照して、この発明を実施するための形態を、実施例に基づいて例示的に詳しく説明する。ただし、この実施例に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対配置などは、特に特定的な記載がない限りは、この発明の範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。
【0023】
なお、以下に示す実施例に係るシールリングは、従来例と同様に、回転軸と、回転軸が挿通される軸孔を有するハウジングとの間の環状隙間を封止するものである。また、本実施例に係るシールリングは、従来例と同様に、回転軸に設けられた環状溝に装着されて、環状溝の低圧側の側壁面に摺動自在に接触し、かつハウジングの軸孔の内周面に接することで、回転軸とハウジングとの間の環状隙間を封止するものである。従って、回転軸やハ
ウジング、及びこれらへの装着状態等、従来例と同様の構成及び作用については、その説明を省略する。
【0024】
(実施例1)
<シールリングの構成>
図1及び図2を参照して、本発明の実施例1に係るシールリングについて説明する。図1は本発明の実施例1に係るシールリングの側面図である。図2は本発明の実施例1に係るシールリングの模式的断面図である。なお、図2(a)は図1中のAA断面図であり、図2(b)は図1中のBB断面図であり、図2(c)は図1中のCC断面図であり、図2(d)は図1中のDD断面図である。
【0025】
本実施例に係るシールリング100は、周方向の一箇所にて切断された切断部(合口部)110を備えている。本実施例においては、この切断部110は、従来例の場合と同様に、側面側及び外周面側が段差形状で切断された特殊ステップカットとなっている。従って、この切断部110には、シールリング本体の中心軸と同心的な円筒面の一部で構成される切断面111が含まれている。
【0026】
そして、本実施例に係るシールリング100においては、シールリング本体の軸方向の厚みが、外周側に比べて内周側の方が薄くなるように、シールリング本体の側面103には、回転軸に設けられた環状溝の側壁面に摺動する面よりも凹んだ凹み部120が内周端縁に沿って設けられている。この凹み部120をシールリング本体の中心軸方向に見た外形は、円形となるように構成されている。なお、本実施例においては、シールリング100を回転軸の環状溝に装着する際に、装着方向を気にしなくても良いように、両側面にそれぞれ凹み部120を設けている。
【0027】
ここで、図1中のO1は、シールリング本体の中心軸の位置を示している。つまり、このO1は、シールリング100の外周面101の中心軸の位置、かつシールリング100の内周面102の中心軸の位置である。また、図1中のO2は、凹み部120をシールリング本体の中心軸方向に見た外形である円の中心の位置を示している。
【0028】
図1から明らかなように、凹み部120をシールリング本体の中心軸方向に見た外形である円の中心は、シールリング本体の中心軸に対して、切断部110とは反対側にずれた位置となるように構成されている。これにより、凹み部120の径方向幅は、切断部110が設けられている位置で最も狭く、切断部110から離れるにつれて徐々に広くなり、切断部110から最も離れた位置で最も広くなる。
【0029】
<本実施例の優れた点>
上記のように構成される本実施例に係るシールリング100によれば、シールリング本体の側面103には、凹み部120が内周端縁に沿って設けられているので、シールリング100が装着される環状溝の側壁面に対する接触領域を狭くすることができる。従って、環状溝の側壁面から受けるシールリング100の受圧面積を低減させることができる。これにより、トルクを低減させることができる。
【0030】
そして、凹み部120をシールリング本体の中心軸方向に見た外形は円形であるので、切削加工により容易に凹み部120を形成することができる。例えば、メスやバイトによって、切削加工により容易に凹み部120を形成できる。従って、凹み部120を切削加工により形成しなければならない場合でも、生産性を高めることができる。
【0031】
また、本実施例においては、凹み部120の径方向幅は、切断部110が設けられている位置で最も狭く、切断部110から離れるにつれて徐々に広くなり、切断部110から
最も離れた位置で最も広くなるように構成されている。そのため、切断部110付近においては、凹み部120の径方向の幅を狭くすることができつつ、凹み部120全体の面積を十分に確保することができる。従って、切断部110付近において強度を低下することなく、かつシール面を確保することができつつ、シールリング全体の受圧面積を低減させることが可能となる。従って、トルクを十分に低減させることができる。
【0032】
(実施例2)
図3及び図4を参照して、本発明の実施例2に係るシールリングについて説明する。図3は本発明の実施例2に係るシールリングの側面図である。図4は本発明の実施例2に係るシールリングの模式的断面図である。なお、図4(a)は図3中のAA断面図であり、図4(b)は図3中のBB断面図であり、図4(c)は図3中のCC断面図であり、図4(d)は図3中のDD断面図である。
【0033】
本実施例に係るシールリング200は、周方向の一箇所にて切断された切断部(合口部)210を備えている。本実施例においては、この切断部210は、従来例の場合と同様に、側面側及び外周面側が段差形状で切断された特殊ステップカットとなっている。従って、この切断部210には、シールリング本体の中心軸と同心的な円筒面の一部で構成される切断面211が含まれている。
【0034】
そして、本実施例に係るシールリング200においては、シールリング本体の軸方向の厚みが、外周側に比べて内周側の方が薄くなるように、シールリング本体の側面203には、回転軸に設けられた環状溝の側壁面に摺動する面よりも凹んだ凹み部220が内周端縁に沿って設けられている。この凹み部220をシールリング本体の中心軸方向に見た外形は、円形となるように構成されている。なお、本実施例においては、シールリング200を回転軸の環状溝に装着する際に、装着方向を気にしなくても良いように、両側面にそれぞれ凹み部220を設けている。
【0035】
ここで、図3中のO1は、シールリング本体の中心軸の位置を示している。つまり、このO1は、シールリング200の外周面201の中心軸の位置、かつシールリング200の内周面202の中心軸の位置である。また、図3中のO2は、凹み部220をシールリング本体の中心軸方向に見た外形である円の中心の位置を示している。
【0036】
図3から明らかなように、凹み部220をシールリング本体の中心軸方向に見た外形である円の中心は、シールリング本体の中心軸に対して、切断部210とは反対側にずれた位置となるように構成されている。
【0037】
以上のように、本実施例に係るシールリング200は、基本的に、上記実施例1に係るシールリング100の構成と同一である。従って、本実施例に係るシールリング200においても、上記実施例1の場合と同様の効果を得ることができる。
【0038】
ただし、本実施例に係るシールリング200の場合には、凹み部220をシールリング本体の中心軸方向に見た外形である円の中心から、シールリング本体の内周における最も離れた位置(切断部210が設けられた位置)までの距離が、当該円の半径と同一となるように構成されている。従って、切断部210が設けられた位置には、凹んだ部分が設けられていない。しかしながら、これによって、上記実施例1の<本実施例の優れた点>の中で説明した技術的な効果に影響を与えないことは言うまでもない。
【0039】
なお、本実施例では、凹み部220をシールリング本体の中心軸方向に見た外形である円の中心から、シールリング本体の内周における最も離れた位置までの距離が、当該円の半径と同一となるように構成される場合を示した。この場合は、円周上の1点でのみ凹ん
だ部分がないことになる。
【0040】
しかしながら、凹み部をシールリング本体の中心軸方向に見た外形である円の中心から、シールリング本体の内周における最も離れた位置までの距離が、当該円の半径よりも小さくなる構成を採用することもできる。この場合、切断部が設けられた位置付近においては、部分的に凹んだ部分がないことになる。つまり、円周上の1点ではなく一部の領域に凹んだ部分がないことになる。従って、厳密には、凹み部をシールリング本体の中心軸方向に見た外形は円ではなく、円の一部が欠けた形状となる。しかしながら、この場合でも、上記実施例1の場合と同様の作用効果を得ることができることは言うまでもない。
【0041】
(実施例3)
図5及び図6を参照して、本発明の実施例3に係るシールリングについて説明する。図5は本発明の実施例3に係るシールリングの側面図である。図6は本発明の実施例3に係るシールリングの模式的断面図である。なお、図6(a)は図5中のAA断面図であり、図6(b)は図5中のBB断面図であり、図6(c)は図5中のCC断面図であり、図6(d)は図5中のDD断面図である。
【0042】
本実施例に係るシールリング300は、周方向の一箇所にて切断された切断部(合口部)310を備えている。本実施例においては、この切断部310は、従来例の場合と同様に、側面側及び外周面側が段差形状で切断された特殊ステップカットとなっている。従って、この切断部310には、シールリング本体の中心軸と同心的な円筒面の一部で構成される切断面311が含まれている。
【0043】
そして、本実施例に係るシールリング300においては、シールリング本体の軸方向の厚みが、外周側に比べて内周側の方が薄くなるように、シールリング本体の側面303には、回転軸に設けられた環状溝の側壁面に摺動する面よりも凹んだ凹み部320が内周端縁に沿って設けられている。この凹み部320をシールリング本体の中心軸方向に見た外形は、円形となるように構成されている。なお、本実施例においては、シールリング300を回転軸の環状溝に装着する際に、装着方向を気にしなくても良いように、両側面にそれぞれ凹み部320を設けている。
【0044】
ここで、図5中のO1は、シールリング本体の中心軸の位置を示している。つまり、このO1は、シールリング300の外周面301の中心軸の位置、かつシールリング300の内周面302の中心軸の位置である。また、図5中のO2は、凹み部320をシールリング本体の中心軸方向に見た外形である円の中心の位置を示している。
【0045】
図5から明らかなように、凹み部320をシールリング本体の中心軸方向に見た外形である円の中心は、シールリング本体の中心軸に対して、切断部310とは反対側にずれた位置となるように構成されている。これにより、凹み部320の径方向幅は、切断部310が設けられている位置で最も狭く、切断部310から離れるにつれて徐々に広くなり、切断部310から最も離れた位置で最も広くなる。
【0046】
以上のように、本実施例に係るシールリング300は、基本的に、上記実施例1に係るシールリング100の構成と同一である。従って、本実施例に係るシールリング300においても、上記実施例1の場合と同様の効果を得ることができる。
【0047】
ここで、上記実施例1に係るシールリング100においては、凹み部120は、その内壁面が平面状の端面と円筒面から構成されており、凹み部120の断面形状は、図2に示すように矩形となるように構成されている。これに対して、本実施例に係るシールリング300の場合には、凹み部320は、その内壁面がテーパ面により構成されており、凹み
部320の断面形状は、図6に示すように三角形となるように構成されている。これにより、シールリング本体の側面303のうち外周側の端面と、凹み部320における前記端面に繋がる面とのなす角α(図6において、代表して(b)にのみ符号αを示す)は、鈍角となる。そのため、本実施例の場合には、シールリング本体の側面303と環状溝の側壁面との摺動時に、密封対象流体が凹み部320における径方向幅の広い領域から狭い領域に流れていく際に、くさび効果が生じ、動圧を発生させることができる。従って、シールリング本体の側面303と環状溝の側壁面との摺動抵抗がより低減し、より一層、トルクを低減させることが可能となる。
【0048】
なお、上記のようなくさび効果は、上述した実施例1,2に係るシールリング100,200の場合でも多少は生じるが、本実施例のように、凹み部320の内壁面をテーパ面とすることで、より確実にくさび効果を発揮させることが可能となる。
【0049】
(その他)
上記の実施例においては、凹み部の形状について、断面が矩形の場合と三角形の場合の2通りを示した。しかしながら、凹み部の形状はこれらに限らず、適宜のものを採用することができる。その一例を図7に示す。図7は凹み部の形状例を示す模式的断面図である。図7(a)に示す凹み部421のように、その内壁面が、平面状の端面と円筒面とから構成され、これらの端面と円筒面とをテーパ面によって繋ぐ構成を採用することもできる。また、図7(b)に示す凹み部422のように、その内壁面が、内部側に向かって凹んだ湾曲面となる構成を採用することもできる。更に、図7(c)に示す凹み部423のように、その内壁面が外部側に向かって膨らんだ湾曲面となる構成を採用することもできる。なお、図7(b)(c)に示したものは、上記実施例3の場合と同様に、くさび効果を効果的に発揮させることができる。特に、図7(c)に示したものは、図7(b)に示したものよりも、より確実にくさび効果を発揮させることができる。
【0050】
また、上記の実施例においては、切断部が特殊ステップカットの場合を示したが、本発明は、切断部が特殊ステップカット以外のものにも適用可能である。例えば、切断部が、側面側のみが段差形状で切断され、内周面側及び外周面側は直線状に切断されたステップカットの場合にも本発明を適用できる。
【0051】
また、上記の実施例においては、シールリングの装着性の観点から両側面に凹み部を設ける場合を説明したが、片側の側面にのみ凹み部が設けられる場合にも本発明を適用可能である。ただし、この場合には、凹み部が設けられた側面が、摺動面となるようにシールリングを装着する必要がある。
【符号の説明】
【0052】
100,200,300 シールリング
101,201,301 外周面
102,202,302 内周面
103,203,303 側面
110,210,310 切断部
111,211,311 切断面
120,220,320,421,422,423 凹み部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
相対的に回転する2部材のうちの一方の部材に設けられた環状溝に装着され、かつ該環状溝の側壁面と他方の部材の周面に対してそれぞれ接触することで、これら2部材間の環状隙間をシールすると共に、周方向の一箇所にて切断された切断部が設けられたシールリングであって、
前記切断部には、シールリング本体の中心軸と同心的な円筒面の一部で構成される切断面が含まれると共に、
シールリング本体の軸方向の厚みが、外周側に比べて内周側の方が薄くなるように、シールリング本体の側面には、前記環状溝の側壁面に摺動する面よりも凹んだ凹み部が内周端縁に沿って設けられたシールリングにおいて、
該凹み部をシールリング本体の中心軸方向に見た外形は円形であり、この円の中心は、シールリング本体の中心軸に対して、前記切断部とは反対側にずれた位置となることを特徴とするシールリング。
【請求項2】
シールリング本体の側面のうち外周側の端面と、前記凹み部における前記端面に繋がる面とのなす角が鈍角であることを特徴とする請求項1に記載のシールリング。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−249219(P2010−249219A)
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−99003(P2009−99003)
【出願日】平成21年4月15日(2009.4.15)
【出願人】(000004385)NOK株式会社 (1,527)
【Fターム(参考)】