説明

シール構造およびそれを用いた圧縮機

【課題】媒体を使用する系におけるシール構造であって、十分なシール面積の確保が難しい部位や、挟圧時に十分なシール面圧を付与することが難しい部位においても、優れたシール性能を発揮することが可能な、とくに圧縮機に用いて好適なシール構造を提供する。
【解決手段】媒体を使用する系のいずれかの部位における、2つの筐体の座面部間にシール部材を挟圧したシール構造であって、シール部材を、シール材基材の少なくとも片面にシール材基材の表面材よりも軟質の軟質材層を有する部材として構成し、筐体の座面部の少なくとも一方に少なくとも1つの凹部を形成し、シール部材の挟圧時に、前記シール部材の軟質材層の一部を前記凹部に埋没させることを特徴とするシール構造、およびそれを用いた圧縮機。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、媒体使用系におけるシール構造に関し、とくに、中心軸周りに複数の気筒が配列された圧縮機に用いて好適なシール構造に関する。
【背景技術】
【0002】
車両用空調装置に用いられる圧縮機として、例えば、多気筒ピストン式圧縮機が知られている。この多気筒ピストン式圧縮機は、複数のシリンダが備えられたシリンダブロックを有しており、各シリンダは中心軸の周囲に配列されている。各シリンダにはピストンが往復動自在に嵌入されており、シリンダヘッド内に形成された吸入室から導入された媒体をシリンダ内で圧縮し吐出室へ吐出するように構成されている。吸入および吐出の動作は、例えば、シリンダブロックとシリンダヘッド間に介装された弁板に設けられた吸入弁および吐出弁により制御される。弁板とシリンダブロックとの間には板状のガスケットが介装され、隣接シリンダ間、および各シリンダと中心軸との間における媒体漏れが防止されている。
【0003】
しかしながら、シリンダとシリンダとの間、およびシリンダと中心軸との間は、ガスケットとの接触面積を大きくとることが難しく、他の部分(例えば、シリンダの圧縮機径方向外周側部位)と比較して十分なシール性能を確保することが困難である場合が多い。また、上述の弁板、ガスケット、シリンダブロックは通常、シリンダヘッドとともに通しボルトにより締結固定されるが、ボルト締結部は構造上の制約から各シリンダよりも外径側の位置に設けられることが多く、ボルト締結部に大きな軸力が負荷された場合でも、より内径側に位置するシリンダ間部位、およびシリンダと中心軸との間の部位に十分なシール面圧を付与することが難しい。シリンダとシリンダとの間、あるいはシリンダと中心軸との間に微少な媒体漏れが生じると、圧縮性能の低下を生じるおそれがある。
【特許文献1】実開平4−125682号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
そこで本発明の課題は、媒体を使用する系におけるシール構造であって、十分なシール面積の確保が難しい部位や、挟圧時に十分な面圧を付与することが難しい部位においても、優れたシール性能を発揮することが可能で、とくに圧縮機におけるシリンダブロック−弁板間のガスケット設置部位に適用して好適なシール構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、本発明に係るシール構造は、媒体を使用する系のいずれかの部位における、2つの筐体の座面部間にシール部材を挟圧したシール構造であって、前記シール部材を、シール材基材の少なくとも片面に該シール材基材の表面材よりも軟質の軟質材層を有する部材として構成し、前記筐体の座面部の少なくとも一方に少なくとも1つの凹部を形成し、前記シール部材の挟圧時に、前記シール部材の軟質材層の一部を前記凹部に埋没させることを特徴とするものからなる。
【0006】
このようなシール構造においては、シール部材挟圧時に、シール部材の軟質材層の一部が、自身の良好な変形性能を利用して筐体の座面部に設けられた凹部に埋没されるため、凹部存在構造であっても微小隙間の発生が適切に防止され、かつ、凹部の断面における凹部形状に沿って延びる長さ分シール長が延長されることによって、シール部材と筐体の座面部との接触面積を増大させることができ、凹部を有しないシール構造と比べてシール性能を向上させることが可能となる。したがって、このようなシール構造は、シール部材と筐体の座面部との接触面積の確保が難しい部位や、挟圧時に高い面圧を付与することが難しい部位のシール構造として有用である。
【0007】
本発明におけるシール材基材は、とくに限定されるものではないが、金属基板と、金属基板の少なくとも片面に設けられ上記軟質材層よりは硬質の弾性膜とからなるものであることが好ましい。シール材基材として金属基板を用いることにより、形態保持性に優れ、かつ、耐熱性および強度に優れ、加工が容易なシール材基材を低コストで実現することが可能である。また、弾性膜を前述の金属基板の少なくとも片面に設けることにより、筐体の座面部が外力等によってわずかに変形もしくは変位した場合あるいは筐体の座面部にわずかな製作誤差がある場合であっても、弾性膜の変形によって所望のシール性能を維持することが可能となる。
【0008】
本発明における軟質材層は、挟圧時に筐体の座面部に設けられた凹部に凹部内空間を埋めるように埋没可能であればよく、その形態についてはとくに限定されるものではない。例えば、軟質材層は、予めシール材基材に貼着されていてもよいし、シール材基材および筐体の座面部とは別体に構成され両者間に介在されるように構成されていてもよい。
【0009】
また、本発明における凹部は、挟圧時に軟質材層が埋没可能であればよく、その形状や数量についてはとくに限定されるものではない。例えば、凹部の少なくとも一つが溝であってもよいし、凹部の少なくとも一つがディンプルであってもよい。
【0010】
本発明における軟質材層は、とくに限定されるものではないが、軟質ゴムからなることが好ましく、ニトリルゴムまたはブチルゴムからなることがより好ましい。軟質材層をニトリルゴムで形成することにより、耐摩耗性、耐油性、耐熱性に優れたシール部材を実現することができる。これらの性質は、とくに摺動部近傍や潤滑油を使用する系のシール構造においても有用である。また、軟質材層をブチルゴムで形成した場合、気密性、耐熱性、耐薬品性に優れたシール部材を得ることが可能である。このようなシール部材は、可燃性媒体や環境負荷の大きい媒体を冷媒として使用する冷凍回路など、とくに高い密閉性が要求される媒体使用系に用いて好適なものである。
【0011】
また、本発明における軟質材層は、発泡材で形成することも可能である。軟質材層を発泡材で形成することにより、軽量で加工の容易なシール部材を低コストで実現することが可能となる。
【0012】
本発明におけるシール構造は、とくに圧縮機に、中でも多気筒圧縮機に好適なものである。本発明におけるシール構造は、挟圧時に高いシール面圧を付与することが難しい部位においても、優れたシール性能を発揮することが可能であるため、圧縮機において従来気密性の維持が困難であった部位に本発明を適用することにより、圧縮機の気密性を大幅に向上させて媒体漏れを確実に防止し、圧縮効率を向上させることが可能となる。
【0013】
上述の如く本発明を圧縮機に適用する場合、本発明におけるシール構造は、中心軸周りに複数の気筒(シリンダ)が配列された圧縮機に適用されることが好ましい。とくに、このような圧縮機の気筒と気筒との間、および中心軸と気筒との間のシール構造部分に、本発明が適用されることがより好ましい。このような圧縮機では、通常、前述の如く、弁板とシリンダブロックとの間で挟圧されるガスケットによって上記シール構造部分の密閉性が確保されており、各部材はボルト締結によって固定されている。しかしながら、気筒と気筒との間、および中心軸と気筒との間はシール面積が小さいため、他の部分と比較して十分なシール性能を確保することは困難であることが多い。また、ボルト締結部は構造上の制約から各部材の外径側にのみ設けられることが多く、大きな軸力が負荷された場合でも、より内径側に位置する気筒と気筒との間、および中心軸と気筒との間に十分な面圧を負荷することは難しい場合が多い。このため、従来技術では、圧縮時に気筒と気筒との間、および中心軸と気筒との間において微少な媒体漏れが発生する可能性があり、圧縮効率の低下のおそれを払拭することが困難であった。本発明はこのような場合にとくに有用であり、気筒と気筒との間、および中心軸と気筒との間に凹部を設けて、軟質材層の一部をその凹部に埋没させることにより、面積の狭いシール構造部分においても十分な接触面積を確保して所望のシール性能を維持し、圧縮効率の低下を防止することが可能である。このような圧縮機のシール構造部分に設けられる凹部は、気筒と気筒との間、および中心軸と気筒との間に軟質材層の一部が埋没可能である凹部が設けられていれば、いかなる形状であってもよい。例えば、気筒と気筒との間に設けられた凹部、および気筒と中心軸との間に設けられた凹部が、少なくとも気筒と気筒との間から気筒と中心軸との間まで連続した1本の溝として形成されている形態を挙げることができる。
【0014】
本発明におけるシール構造は、媒体として冷媒を使用する冷凍回路に用いて好適なものであり、とくに、車両用空調装置に設けられた冷凍回路に用いて好適なものである。本発明におけるシール構造は、シール面圧を十分に付与することが難しい部位においても目標とするシール性能を確保することが可能であるため、とくに高いシール性能が要求される冷凍回路に本発明を適用することにより、冷媒漏れを防止してそのシステムの効率の向上を実現することが可能となる。また、近年、地球温暖化防止の観点から、可燃性冷媒や化学反応性の高い冷媒で温暖化係数の低いものを冷媒として用いた冷凍回路が開発されているが、本発明はこのような高い気密性が要求される冷凍回路においてとくに有用である。
【0015】
このように、本発明に係るシール構造は、とくに、圧縮機におけるいずれかの部位の筐体の座面部間に用いて好適なものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係るシール構造によれば、十分なシール面積の確保が難しい部位や、挟圧時に高いシール面圧を付与することが難しい部位においても、優れたシール性能を確保することが可能となる。本発明は、多気筒圧縮機における隣接気筒間、各気筒と中心軸間のシール部に適用してとくに有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下に、本発明の望ましい実施の形態を、図面を参照して説明する。
図1は、本発明の一実施態様に係るシール構造における筐体の座面部を示しており、とくに、媒体を使用する系が中心軸周りに複数の気筒が配列された圧縮機からなり、かつ、凹部が、少なくとも気筒と気筒との間から気筒と中心軸との間まで連続した1本の溝として形成されている場合の、筐体としてのシリンダブロックの座面部を示している。図1において、筐体としてのシリンダブロック1の座面部は、気筒(シリンダ)2、中心軸としてのシャフトまたはシャフト設置部3、ボルト挿通用孔4を備えている。シリンダ2の中心軸側の周囲には、凹部としての溝5が設けられている。挟圧時にシール部材の軟質材層がこの溝5に埋没することにより、シール部材とシリンダブロック1との接触面積が増大し、溝5が形成されている部分、すなわち、シリンダとシリンダとの間、およびシリンダとシャフトとの間のシール性能が確保される。
【0018】
図2は、本発明の一実施態様におけるシール部材を示しており、とくに、軟質材層があらかじめシール材基材に貼着されており、かつ、シール材基材が金属基板と、軟質材層よりは硬質の弾性膜とからなる、シール部材としてのガスケットを示している。図2において、シール部材としてのガスケット11は、シリンダ孔12、シャフト孔13、ボルト孔14を備えており、図1に示したシリンダブロック1における孔部以外をシール可能に構成されている。
【0019】
図3は、図2で示したガスケット11の、A’−A’間の一点鎖線で示した部分における断面図である。図3において、ガスケット11は、シール材基材20と、シール材基材20に貼着された軟質材層21からなる。シール材基材20は、金属基板22と、軟質材層21よりは硬質の弾性膜23とを有しており、前述の軟質材層21が金属基板22に貼着されている。挟圧時には、軟質材層21が筐体の座面部に設けられた凹部へ埋没し、軟質材層21と筐体の座面部との接触面積が増大することにより、軟質材層21と筐体の座面部との間のシール性能が向上し、媒体漏れが防止される。
【0020】
図4は、図2で示したガスケット11を、図1で示したシリンダブロック1上に装着し挟圧した場合の、図1のA−A間の一点鎖線で示した部分における断面図である。図4において、ガスケット11は、シリンダブロック1と、もう一方の筐体としての弁板24により挟圧されている。ガスケット11は、シール材基材20と、シール材基材20に貼着された軟質材層21とを有しており、シール材基材20は、金属基板22と、軟質材層21よりは硬質の弾性膜23からなる。弾性膜23は筐体としての弁板24に直接当接している。軟質材層21はシリンダブロック1に直接当接しており、軟質材層21の一部は、筐体の座面部に設けられた凹部としての溝5に埋没している。このように、溝5に軟質材層21の一部が埋没することにより、溝5が設けられた部分、すなわち、シリンダとシリンダとの間、およびシリンダとシャフトとの間のシール性能が確保される。このことにより、シリンダからの媒体漏れが防止され、圧縮機内での媒体漏れによる圧縮効率の低下が防止されるため、より圧縮効率の高い圧縮機を実現することが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0021】
本発明におけるシール構造は、媒体を使用するあらゆる系に適用可能であり、とくに、中心軸周りに複数の気筒が配列された圧縮機に用いて好適なものである。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の一実施態様における、筐体の座面部としてのシリンダブロックの平面図である。
【図2】本発明の一実施態様における、シール部材としてのガスケットの平面図である。
【図3】図2のガスケットの断面図である。
【図4】図2のガスケットの挟圧時の断面図である。
【符号の説明】
【0023】
1 シリンダブロック
2 シリンダ(気筒)
3 シャフト
4 ボルト孔
5 溝
11 ガスケット
12 シリンダ孔
13 シャフト孔
14 ボルト孔
20 シール材基材
21 軟質材層
22 金属基板
23 弾性膜
24 弁板


【特許請求の範囲】
【請求項1】
媒体を使用する系のいずれかの部位における、2つの筐体の座面部間にシール部材を挟圧したシール構造であって、前記シール部材を、シール材基材の少なくとも片面に該シール材基材の表面材よりも軟質の軟質材層を有する部材として構成し、前記筐体の座面部の少なくとも一方に少なくとも1つの凹部を形成し、前記シール部材の挟圧時に、前記シール部材の軟質材層の一部を前記凹部に埋没させることを特徴とするシール構造。
【請求項2】
前記シール材基材が、金属基板と、該金属基板の少なくとも片面に設けられ前記軟質材層よりは硬質の弾性膜とからなる、請求項1に記載のシール構造。
【請求項3】
前記軟質材層が、予め前記シール材基材に貼着されている、請求項1または2に記載のシール構造。
【請求項4】
前記軟質材層が、前記シール材基材および前記筐体の座面部とは別体に構成され、両者間に介在される、請求項1または2に記載のシール構造。
【請求項5】
前記凹部の少なくとも1つが溝である、請求項1〜4のいずれかに記載のシール構造。
【請求項6】
前記凹部の少なくとも1つがディンプルである、請求項1〜5のいずれかに記載のシール構造。
【請求項7】
前記軟質材層が軟質ゴムからなる、請求項1〜6のいずれかに記載のシール構造。
【請求項8】
前記軟質ゴムがニトリルゴムまたはブチルゴムからなる、請求項7に記載のシール構造。
【請求項9】
前記軟質材層が発泡材からなる、請求項1〜6のいずれかに記載のシール構造。
【請求項10】
前記媒体を使用する系が圧縮機を備えており、該圧縮機の少なくとも一部位に構成される、請求項1〜9のいずれかに記載のシール構造。
【請求項11】
前記圧縮機が、中心軸周りに複数の気筒が配列された圧縮機からなり、前記凹部が、少なくとも気筒と気筒との間、および前記中心軸と気筒との間に設けられている、請求項10に記載のシール構造。
【請求項12】
前記気筒と気筒との間に設けられた凹部、および前記気筒と中心軸との間に設けられた凹部が、少なくとも気筒と気筒との間から気筒と中心軸との間まで連続した1本の溝に形成されている、請求項11に記載のシール構造。
【請求項13】
前記媒体が冷媒からなり、該冷媒を使用する冷凍回路の少なくとも一部位に構成されている、請求項1〜12のいずれかに記載のシール構造。
【請求項14】
前記冷凍回路が車両用空調装置に設けられている、請求項13に記載のシール構造。
【請求項15】
請求項1〜14のいずれかに記載のシール構造が、2つの筐体の座面部間に構成されていることを特徴とする圧縮機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−38283(P2010−38283A)
【公開日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−202876(P2008−202876)
【出願日】平成20年8月6日(2008.8.6)
【出願人】(000001845)サンデン株式会社 (1,791)
【Fターム(参考)】