説明

シール構造体

【課題】シール機能を有するガスケットと基材とを接着層を介して接合してなるシール構造体において、弾性率の低い接着層を用いて、ガスケット内部歪みの低減や接着層厚さの許容範囲の拡大を可能としたものを提供する。
【解決手段】シール機能を有するガスケットと基材とを接着層を介して接合してなるシール構造体において、ヤング率が1〜50MPaである接着層が用いられたシール構造体。このシール構造体で、接着層の厚さを一定とした場合、接着層の弾性率を低くすることでガスケット内部歪みを低減し、耐久性等の品質の向上を可能とする一方、ガスケット内部歪みを一定とした場合、接着層の弾性率を低くすることで接着層の厚さを厚くすることが可能となり、接着層厚さの許容範囲(バラツキ)が拡大でき、接着設備の構造の簡略化やメンテナンスの簡略化による低コスト化が期待されるという効果を奏する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シール構造体に関する。さらに詳しくは、燃料電池用スタック内の各セルのガス流路用シール構造体等として有効に用いられるシール構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池スタック内の各セルのガス流路用シール構造体として、弾性体を用いたガスケットを接着剤を介してセパレータ表面に形成させたものが挙げられる。シール密封性の信頼性確保には、ガスケットの圧縮率を高くする方法が有効であるが、圧縮後のガスケット変形量が大きく、ガスケット内部歪みの増大によるガスケットの割れが懸念される。
【特許文献1】特開2004−211038号公報
【0003】
また、ガスケットとセパレータ間に設けられた接着層が厚い場合にも、ガスケットの圧縮率が高くなるため、同様にガスケットの割れが懸念される。したがって、接着層厚さを均一にかつ薄くしなければならないという制約があり、品質の向上だけではなく、コスト低減に対しても障害となっている。なお、ガスケット使用時のガスケット圧縮率は、ガスケットが接着されるセパレータとガスケット相手材の隙間寸法で規定される場合が多い。
【0004】
このような課題を解決するためには、接着層の厚さが厚くなった場合でも、ガスケットの割れを発生しない接着層の導入が有効である。しかしながら、従来の技術では、接着強度向上を可能とする接着層が導入されており、このような接着層は、その素材自体の弾性率が高い。このようにガスケットに対して接着層の弾性率が高い場合、接着層の厚さが厚くなるとガスケットの圧縮率が高くなり、ガスケット内部歪みは増大する。また、接着層の弾性率が高くなるに伴ってガスケット内部歪みは増大し、ガスケットの割れや過剰な応力による剥れなどが生ずる場合が出てくるようになる。
【0005】
ここで、ガスケットの一般的な断面形状を図1に示す。ガスケット先端の山形リップ部の角度θは約30〜90°、ガスケットの高さh1は約0.5〜5mm、ガスケットの平坦部高さ(厚み)h2は、約0.1≦h2/h1≦5なる関係にあり、ガスケットの幅Wは約1〜10mmの寸法、形状のものが、一般的に採用されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明においては。接着層の厚さおよび弾性率とガスケット内部歪みとの関係に着目した。すなわち、接着層の厚さを一定とした場合、接着層の弾性率を低くすることでガスケット内部歪みを低減し、耐久性等の品質の向上を可能とする一方、ガスケット内部歪みを一定とした場合、接着層の弾性率を低くすることで接着層の厚さを厚くすることが可能となり、接着層厚さの許容範囲(バラツキ)が拡大でき、接着設備の構造の簡略化やメンテナンスの簡略化による低コスト化が期待される。
【0007】
本発明の目的は、シール機能を有するガスケットと基材とを接着層を介して接合してなるシール構造体において、弾性率の低い接着層を用いて、ガスケット内部歪みの低減や接着層厚さの許容範囲の拡大を可能としたものを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
かかる本発明の目的は、シール機能を有するガスケットと基材とを接着層を介して接合してなるシール構造体において、ヤング率が1〜50MPaである接着層が用いられたシール構造体によって達成される。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係るシール構造体においては、ヤング率が1〜50MPaである接着層を介してシール機能を有するガスケットと基材とを接合させることにより、ガスケットを圧縮したときのガスケット内部歪みの最大値を低減することができる。その結果、接着層の厚さを一定とした場合、接着層の弾性率を低くすることでガスケット内部歪みを低減し、耐久性等の品質の向上を可能とする一方、ガスケット内部歪みを一定とした場合、接着層の弾性率を低くすることで接着層の厚さを厚くすることが可能となり、接着層厚さの許容範囲(バラツキ)が拡大でき、接着設備の構造の簡略化やメンテナンスの簡略化による低コスト化が期待されるという効果を奏する。
【0010】
さらに、本発明に係るシール構造体の接着層は、固体高分子型燃料電池等の燃料電池において発生する生成水および反応に用いられたガスや冷却水をシールするためのガスケットを、カーボン、金属材メタル等で成形されたセパレータに接着するための接着層等として好適に用いられ、しかも耐冷媒性、耐酸性および常温における長い可使時間を有し、耐酸性ゴムを安定して接着することのできる接着層を提供する。さらに、この接着層は硬度が低く、柔軟であるため容易に変形し、ガスケット部分にかかる圧縮応力を緩和する効果があるので、割れ等の好ましくない現象を示すことがない。
【0011】
このような効果を奏する本発明のシール構造体は、燃料電池、特に燃料電池スタック内の各セルのガス流路用シール構造体等として有効に用いられる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
基材としては、それが燃料電池のエパセータである場合、カーボン、金属材等のヤング率(縦弾性係数;物体に単純な張力が働いたとき、その応力の強さを歪で割った値であり、一軸引張試験により測定)が10GPa以上となるが、ガスケットとして用いられるゴム材のヤング率は約1〜10MPa程度である。ゴム製のガスケットは、一般にシート状加硫ゴムまたはそこに任意形状のリップ部を形成させたものであり、そのゴム材料としては、例えばEPDM、フッ素ゴム等が用いられるが、耐酸性、耐不凍液性、低温特性等の点からはフッ素ゴムが好んで用いられる。
【0013】
これらの基材とゴム製ガスケットとは、ヤング率が1〜50MPa、好ましくは5〜50MPaの接着層を介して結合される。なお、接着剤の物性値として評価する硬化後のヤング率は、JIS K7113「プラスチックの引張試験方法」に記載の試験片を接着剤層原料から作製し、本規格に記載の引張弾性率を測定することにより求められる。ただし、薄層からなる接着剤塗布層について実測する場合には、例えば薄層の硬度測定が可能な市販の微小硬度計を用いて、間接的手段によりヤング率を推定する。かかる接着層は、例えばポリウレタン系接着剤、エポキシ樹脂/ポリウレタン混合系接着剤、シリコーン系接着剤等の硬化物層から形成される。ヤング率の調節は、これらの接着剤を構成する各成分およびその割合によって適宜調整することができ、特にエポキシ樹脂/ポリウレタン混合系接着剤にあっては、ポリウレタン系接着剤の割合を50重量%とし、かつ硬化剤としてヒドラジン系硬化剤を用いて硬化させたものが、本発明の目的とするガスケット用途には好ましい。
【0014】
接着剤は、必要に応じて有機溶媒溶液として調製され、ゴム製ガスケットを基板に接着させる用途に用いられ、すなわちフェノール樹脂等のバインダー樹脂を含有するカーボンや、金属材等の基材上、例えば燃料電池のセパレータ上に刷毛塗り、噴霧、浸漬等の任意手段で塗布され、そこにゴム製ガスケットを載せた後、約100〜200℃、好ましくは約150〜180℃で約10分間乃至約2時間、好ましくは約1時間程度加熱することにより硬化させ、接着させる。
【0015】
この硬化物は、硬度(ショアA)が40〜70であって、圧縮等のストレスを与えた状態でも接着ゴム層に割れ等を生じさせることがない。また、ヤング率が1〜50MPaであって、ガスケット圧縮時のガスケット内部歪みの最大値を低減させる。ヤング率がこれ以下の接着層ではゴム層のヤング率低下となり、一方これ以上のヤング率を有する接着層では内部歪みの低減が困難となる。
【0016】
図2に示されたシール構造体は、ガスケット1、接着剤層2および基材3よりなり、ガスケットの高さh1に対する接着層の厚さtの比t/h1は、一般に約0.01〜0.10、好ましくは約0.02〜0.07に設定される。また、本発明に係るシール構造体が基材と接合されたガスケットとして燃料電池に装着される際には、h1+tで示されるガスケットの高さ方向の寸法が小さくなるように、ガスケットを圧縮率が約10〜50%、好ましくは約20〜40%程度圧縮して装着される。
【実施例】
【0017】
次に、実施例について本発明を説明する。
【0018】
実施例1
図2に示されたシール構造体において、エポキシ樹脂系接着剤の硬化物層よりなる接着層のヤング率を100Gpa、ガスケットの高さh1に対する接着層の厚さtの比 t/h1=0.02とし、h1+tで示されるガスケット高さ方向の寸法が小さくなるようにガスケットを30%圧縮して、ガスケット断面の内部歪み分布をFEM解析により計算し、このときのガスケット内部歪みの最大値を100とした。
【0019】
ポリウレタン系接着剤の硬化物層よりなる接着層のヤング率を50MPaとしたシール構造体では、ガスケット内部歪みの最大値は98となり、2%の最大内部歪みの低減がみられた。
【0020】
実施例2
実施例1において、ポリウレタン系接着剤の硬化物層よりなる接着層のヤング率を5MPaとしたシール構造体では、ガスケット内部歪みの最大値は91となり、9%の最大内部歪みの低減がみられた。
【0021】
実施例3
実施例1において、t/h1=0.05とすると、ガスケット内部歪みの最大値は100が125となった。この接着層として、ポリウレタン系接着剤の硬化物層よりなるヤング率50MPaとした接着層を有するシール構造体では、ガスケット内部歪みの最大値は120となり、4%の最大内部歪みの低減がみられた。
【0022】
実施例4
実施例3において、ポリウレタン系接着剤の硬化物層よりなる接着層のヤング率を5MPaとしたシール構造体では、ガスケット内部歪みの最大値は105となり、16%の最大内部歪みの低減がみられた。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】ガスケットの一般的な断面形状を示す断面図である。
【図2】本発明の一実施態様であるシール構造体の断面形状を示す断面図である。
【符号の説明】
【0024】
1 ガスケット
2 接着層
3 基材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シール機能を有するガスケットと基材とを接着層を介して接合してなるシール構造体において、ヤング率が1〜50MPaである接着層が用いられたことを特徴とするシール構造体。
【請求項2】
ヤング率が1〜50MPaである接着層がポリウレタン系接着剤、エポキシ樹脂/ポリウレタン混合系接着剤またはシリコーン系接着剤の硬化物層よりなる請求項1記載のシール構造体。
【請求項3】
シール機能を有するガスケットとしてヤング率が10MPa以下のものが用いられた請求項1記載のシール構造体。
【請求項4】
ガスケットの高さh1に対する接着層の厚さtの比t/h1が0.01〜0.10に設定された請求項1記載のシール構造体。
【請求項5】
基材としてヤング率が10GPa以上のものが用いられた請求項1記載のシール構造体。
【請求項6】
燃料電池に用いられる請求項1、2、3、4または5記載のシール構造体。
【請求項7】
燃料電池スタック内の各セルのガス流路用シール構造体として用いられる請求項6記載のシール構造体。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−262261(P2007−262261A)
【公開日】平成19年10月11日(2007.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−90066(P2006−90066)
【出願日】平成18年3月29日(2006.3.29)
【出願人】(000004385)NOK株式会社 (1,527)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】