シール構造
【課題】合成樹脂製のカバー部材と、該カバー部材に貫装された回転軸との間における当該貫装部分に装着されるシール部材のシール性が、カバー部材の振動や熱膨張等の動きに影響を受けることのないシール構造を提供する。
【解決手段】カバー部材5と、該カバー部材5に貫装された回転軸7との間における当該貫装部分52のシール構造であって、前記カバー部材5が合成樹脂の成型体からなり、前記回転軸7にはシール部材8が相対回転可能に嵌装され、該シール部材8と前記貫装部分52におけるカバー部材5との間には弾性緩衝部材9が結合介在されていることを特徴とする。
【解決手段】カバー部材5と、該カバー部材5に貫装された回転軸7との間における当該貫装部分52のシール構造であって、前記カバー部材5が合成樹脂の成型体からなり、前記回転軸7にはシール部材8が相対回転可能に嵌装され、該シール部材8と前記貫装部分52におけるカバー部材5との間には弾性緩衝部材9が結合介在されていることを特徴とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カバー部材と、該カバー部材に貫装された回転軸との間における当該貫装部分、例えば、自動車用エンジンのチェーンカバー(フロントカバー)におけるクランクシャフトの貫装部分のシール構造に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車用エンジンにおいて、エンジン本体(クランク室)内に回転自在に支持されたクランクシャフトは、その端部において、オイルシールを介してエンジンオイル等の漏出を防止すべくエンジン本体との間が密封されるよう構成される(特許文献1乃至3参照)。また、クランクシャフトの一端部がクランク室より突出し、チェーンカバーによって区画されたチェーン室内において、クランクスプロケットが固着一体とされ、該クランクスプロケットにはチェーン(タイミングチェーン)が巻き掛けられ、カムシャフト等との駆動伝達系が形成されるよう構成される。そして、クランクシャフトの前記一端部は、更に前記チェーンカバーを貫通して外部に突出し、クランクプーリー等を介して他の駆動伝達系に連結されるよう構成されることもある(特許文献4参照)。そして、エンジンのチェーンカバー内には、チェーン機構による前記駆動伝達系の円滑性を維持する為に潤滑オイルが装填される。その為、クランクシャフトのチェーンカバーにおける貫装部分には、オイルシールからなるシール部材が、クランクシャフトと相対回転可能に嵌装され、チェーンカバー内の潤滑オイルの外部漏出の防止が図られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】実開平05−71542号公報
【特許文献2】実開平05−96537号公報
【特許文献3】特開平09−300399号公報
【特許文献4】特開平09−13988号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近時、前記のような自動車用エンジンにおいては、軽量化及び低燃費化の観点から、エンジンの構成部分をできるだけ合成樹脂の成型体で構成することがなされるようになった。しかし、前記チェーンカバーの場合、これを合成樹脂の成型体で構成すると、エンジン運転中のチェーンカバーの熱膨張による変形、応力変形、或いは振動等によって、オイルシールのクランクシャフトに対する締代が変化し、これによって、シール性が低下することがある。また、組付時におけるチェーンカバーの熱膨張変化によって、オイルシールとクランクシャフトとの設計上の締代が得られず、同様に意図したシール性が得られないこともある。従って、チェーンカバーにおいては、剛性があり、熱膨張の少ないアルミニウム等の金属材が用いられ、合成樹脂化はまだ実現されていないのが現実であった。
【0005】
特許文献1には、エンジン本体に取付けられる樹脂リテーナに対し、樹脂製の補強環に一体とされたオイルシール(リップ部材)を、該補強環を介して着脱自在に取付け、オイルシールをクランクシャフトに嵌装させるようにした密封装置が開示されている。ここで、リテーナ及び補強環を共に樹脂製としたのは軽量化を実現する為とされている。しかし、このリテーナは、クランクシャフト周りの限られた大きさのものであるから、リテーナの熱膨張や振動等がオイルシールの締代に影響することは少なく、従って、本特許文献1では、リテーナの樹脂化によるオイルシールの締代の変化を想定していないと考えられる。
【0006】
また、特許文献2には、エンジンの後部に取付けられたリアエンドプレート及びフライホイルハウジングのいずれかからなるエンジン後部連結部材をオイルシール支持部材とし、このオイルシール支持部材の内周壁部にクランクシャフトの周面に臨むオイルシールを装着したオイルシール構造が開示されている。しかし、このオイルシール構造においては、オイルシール支持部材となるリアエンドプレート及びフライホイルハウジングのいずれもが、樹脂製ではなく、従って、前記のような問題点は惹起されないものと考えられる。
【0007】
更に、特許文献3には、クランクケースとトランスミッションケースとの間に配置され、クランケースから突出するクランクシャフトに装着されて、オイルパン内のエンジンオイルの外部への漏出を防止するオイルシールケースが開示されている。このオイルシールケースは、内部に環状の芯金を埋め込んだ弾性部材と、芯金の円板状突部の外周部分をこれを覆う弾性部材と共に埋設一体とする合成樹脂部材(枠体)とからなり、該オイルシールケースは、前記弾性部材の内周部がクランクシャフトの外周面に摺接するよう、前記合成樹脂部材をして、クランクケース又はトランスミッションケースに取付けられる。しかし、この場合も枠体としての合成樹脂部材は、クランクシャフト周りの限られた大きさのものであるから、合成樹脂部材の熱膨張や振動等がオイルシールの締代に影響することは少なく、従って、本特許文献3でも、枠体の樹脂化によるオイルシールの締代の変化を想定していないと考えられる。
【0008】
本発明は、上記の実情に鑑みなされたものであり、合成樹脂製のカバー部材と、該カバー部材に貫装された回転軸との間における当該貫装部分に装着されるシール部材のシール性が、カバー部材の振動や熱膨張等の動きに影響を受けることのないシール構造を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係るシール構造は、カバー部材と、該カバー部材に貫装された回転軸との間における当該貫装部分のシール構造であって、前記カバー部材が合成樹脂の成型体からなり、前記回転軸にはシール部材が相対回転可能に嵌装され、該シール部材と前記貫装部分におけるカバー部材との間には弾性緩衝部材が結合介在されていることを特徴とする。
【0010】
本発明に係るシール構造においては、前記弾性緩衝部材と、カバー部材とが連結環を介して結合されていても良い。また、前記シール部材には金属環が同心的に外嵌一体とされ、前記弾性緩衝部材は該金属環の外周に固着されているものであっても良い。更に、本発明に係るシール構造を、前記カバー部材が、潤滑オイルが存在する部位を覆うものであって、前記シール部材がオイルシールであるシール構造に適用しても良い。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係るシール構造においては、カバー部材と、該カバー部材に貫装された回転軸との間に、シール部材が回転軸に対して相対回転可能に嵌装されているから、このシール部材によってカバー部材と回転軸との間がシールされ、カバー部材によって形成される空間内に存在する潤滑オイル等が、回転軸の周面に沿って漏出することが防止される。また、カバー部材が合成樹脂の成型体からなるから、本シール構造が適用される装置等の軽量化が図られる。そして、前記シール部材と前記貫装部分におけるカバー部材との間には弾性緩衝部材が結合介在されているから、カバー部材の熱膨張や、振動等の動きがこの弾性緩衝部材によって吸収され、シール部材の回転軸に対する締代に影響せず、シール部材の所期のシール性が維持される。
【0012】
本発明において、前記弾性緩衝部材と、カバー部材とが連結環を介して結合されている場合、連結環に対して弾性緩衝部材を結合した上で、カバー部材の所定部位、即ち、前記貫装部分に取付けるようにすれば、本シール構造を簡易に構成することができる。
【0013】
また、本発明において、前記シール部材に金属環を同心的に外嵌一体とし、前記弾性緩衝部材を該金属環の外周に固着したものとすれば、カバー部材を所定の部位に取付ける際、先ず、シール部材を回転軸に嵌装した段階で、金属環及びシール部材と回転軸との同心的な嵌装関係が自ずと定まる。従って、この嵌装関係をカバー部材の取付基準とすれば、カバー部材に加工公差があっても、シール部材の回転軸に対する締代を所期の設計どおりに維持した状態でカバーを取付固定することができる。因みに、カバー部材の取付対象部位の適所に基準ピン等を設け、これを取付基準位置としてカバー部材を取付けるようにすると、カバー部材に加工公差があったり、保管環境の温度変化で熱膨張或いは熱収縮している場合には、シール部材の回転軸に対する締代に偏りを生じたりし、これがシール性に影響を及ぼすことになる。前記金属環を弾性緩衝部材とシール部材との間に介在させることによって、カバー部材の精度良い取付が可能となる。加えて、金属環とカバー部材との間に弾性緩衝部材が存在することとも相俟って、運転中の熱膨張や振動によってカバー部材に動きがあっても、これのシール部材に対する伝播がより効果的に遮断される。
【0014】
更に、本発明のシール構造を、前記カバー部材が、潤滑オイルが存在する部位を覆うものであって、前記シール部材がオイルシールであるシール構造に適用した場合、前述のとおり、カバー部材が合成樹脂の成型体であることの影響がオイルシールに及ばず、オイルシールのシール性能が維持され、カバー部材によって覆われた部位に存在する潤滑オイルの前記貫装部分からの漏出防止が的確になされる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明のシール構造が採用されたエンジンの概略的外観正面図である。
【図2】図1におけるX−X線矢視拡大断面図である。
【図3】他の実施形態の断面図である。
【図4】更に他の実施形態の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に本発明の実施の形態について図面に基づいて説明する。図1のエンジン1は、シリンダブロック2と、該シリンダブロック2の上面に締結合体されるシリンダヘッド3と、シリンダブロック2の下面に締結合体されるオイルパン4と、縦方向に合体されたシリンダブロック2、シリンダヘッド3及びオイルパン4の前側部にこれらの合体方向と直交する方向よりこれらに跨るよう締結合体される合成樹脂の成型体からなるチェーンカバー(フロントカバー)5と、シリンダヘッド3及びチェーンカバー5の上端面に両者に跨るよう締結合体されるシリンダヘッドカバー(ロッカーカバー)6とより構成される。チェーンカバー5を構成する合成樹脂としては、PPA(ポリフタルアミド)、PA(ポリアミド)、PPS(ポリフェニレンサルファイド)樹脂等が用いられる。また、エンジンの仕様によっては、ベルト(タイミングベルト)によって前記駆動伝達系が構成される場合があり、この場合はベルトカバーと称される。
【0017】
シリンダブロック2の下部は前記オイルパン4の上部空間と通じるクランク室(図示省略)とされ、該クランク室内にクランクシャフト(回転軸)7が回転自在に横架されている。該クランクシャフト7の一端部71は、シリンダブロック2の前側部よりチェーンカバー5内を貫きチェーンカバー5の外面に突出している。クランクシャフト7には、チェーンカバー5で区画されるチェーン室(飛散した潤滑オイルが存在する部位)50内において、不図示のチェーンプーリー(クランクスプロケット)が装着され、チェーン室50内に配設されるカムシャフト用プーリー(不図示)等との間にタイミングチェーン(不図示)が掛け渡されてカムシャフト等への駆動伝達系が構成される。また、クランクシャフト7の一端部71は、チェーンカバー5に形成された貫通孔51(図2参照)より突出し、該一端部71には、不図示の補機類等との駆動伝達系を構成する為のプーリー(不図示)が装着される。該貫通孔51によって、後記する貫装部分52が構成される。クランクシャフト7の他端部72は、シリンダブロック2の後側部より突出し、該他端部72には不図示のフライホイールが装着される。
尚、図例では、クランクシャフト7を概念的に示しているが、不図示のクランクアーム及びコンロッドを介して各ピストンに連結されるものであることは言うまでもない。
【0018】
前記クランクシャフト7のチェーンカバー5に対する貫装部分52の構造について詳述する。図2において、貫装部分52におけるクランクシャフト7の周体にはシール部材としてのオイルシール(シールリング)8が嵌装されている。該オイルシール8としては、従来公知の汎用品が採用可能であり、その詳細構造の説明は割愛するが、環状の芯金にゴム等の弾性体からなるリップ部材を固着一体に備え、該リップ部材は少なくともクランクシャフト7の周体に弾性摺接するリップを含み、この弾性摺接により油密構造を構成するものである。オイルシール8の外周部には、ゴム等の弾性体からなる環状の弾性緩衝部材9が固着一体とされている。弾性緩衝部材9のオイルシール8に対する一体化は、ゴムの加硫接着、或いは接着剤を介してなされる。
【0019】
前記弾性緩衝部材9の外周部には、合成樹脂の成型体からなる連結環10が固着一体とされ、この連結環10を介して、前記弾性緩衝部材9及びオイルシール8がチェーンカバー5の貫装部分52に取付けられている。連結環10は、チェーンカバー5の内面(チェーン室50側)に溶着や接着剤により固着され、これにより、オイルシール8とチェーンカバー5との間に弾性緩衝部材9が結合介在された状態とされる。前記貫通孔51の内径は、オイルシール8の外径より大とされ、弾性緩衝部材9が結合介在したオイルシール8のチェーンカバー5に対する取付状態では、貫通孔51とオイルシール8とは同心とされる。これにより、オイルシール8と貫通孔51との間に緩衝空間Sが形成される。弾性緩衝部材9と連結環10との固着一体は、例えば、合成樹脂により事前に成型された連結環10に対してゴム材を加硫成型することによってなされる。両者の固着強度を強化する為、図例では、連結環10の内周部近傍に周方向に沿って適宜間隔で透孔10aを形成し、ゴム材の成型時に該透孔10a内にゴム材を進入させ、この進入部分でアンカー効果を持たせるようにしている。
尚、連結環10としては、軽量化の観点から、合成樹脂の成型体であることが望ましいが、アルミニウム等の金属板で構成することも可能である。
【0020】
弾性緩衝部材9は、軟質ゴムによる環状の成型体からなり、内周側のオイルシール8との固着部分及び外周側の連結環10との固着部分の間に、断面略くの字形の環状屈曲部9aを有している。また、チェーンカバー5の内面に対向する部分には、環状のビード部9bが形成され、連結環10を介したチェーンカバー5に対する弾性緩衝部材9の取付状態では、このビード部9bがチェーンカバー5の内面に弾接するよう構成されている。弾性緩衝部材9を構成する軟質ゴムとしては、NBR、ACM、FKM、H−NBR、AEM等が望ましく採用される。
【0021】
前記のように、弾性緩衝部材9及び連結環10を介しオイルシール8が取付けられたチェーンカバー5を、図1に示すようにエンジン1の所定部位に締結合体させる場合、オイルシール8をクランクシャフト7に嵌装した上で、ボルト5a…を締着することによってなされる。チェーンカバー5の周囲には鍔部5bが形成されており、ボルト5aによる締結合体は、この鍔部5bにおいてなされる。チェーンカバー5を締結合体することにより、シリンダブロック2及びシリンダヘッド3の前側部との間にチェーン室50が形成され、該チェーン室50には飛散した潤滑オイル(不図示)が存在している。そして、ボルト5a…による締結合体の際、チェーンカバー5の加工公差や保管中の熱膨張等により、オイルシール8と前記貫通孔51との同心性が保てない状態となっても、前記緩衝空間Sによってこの位置ずれが許容されると共に、弾性緩衝部材9が介在することによりこの位置ずれが吸収され、これによってオイルシール8のクランクシャフト7に対する締代の偏りが生じず、オイルシール8の所期のシール性が安定的に発揮される。
【0022】
また、このようなチェーンカバー5の締結合体状態でエンジン1が作動すると、チェーンカバー5に振動が生じ、或いは、チェーンカバー5が合成樹脂の成型体であるが故に、エンジン1の発する熱によって熱膨張し易く、これらが原因でクランクシャフト7に対するチェーンカバー5の相対移動が惹起される。しかも、チェーンカバー5は、シリンダブロック2及びシリンダヘッド3の前側部の広い領域を覆うものであるから、同じ樹脂製であっても特許文献1に開示されたようなリテーナに比べて熱膨張度合いは遥かに大きく、その為、前記相対移動量も大きく、これが直接オイルシール8に作用すると、その締代が大きく変化することになる。しかし、クランクシャフト7に対する相対移動は弾性緩衝部材9によって吸収されるから、オイルシール8に伝播されず、従って、オイルシール8のクランクシャフト7に対する締代が所期の状態に維持され、シール性が経時的に変動したり低下したりするようなことがない。特に、本実施形態の弾性緩衝部材9は軟質ゴムの成型体からなり、しかも、オイルシール8との固着部分及び連結環10との固着部分の間に、断面略くの字形の環状屈曲部9aを有しているから、ゴム自体の弾性と環状屈曲部9aの屈曲変形性とが相俟って、前記相対移動の吸収性と移動に対する追随性とに優れたものとなり、これによって、オイルシール8の良好なシール性がより確実に発揮される。
【0023】
図3に示す例では、弾性緩衝部材9が硬質ゴムの成型体からなり、オイルシール8の外周部全面に固着一体とされ、弾性緩衝部材9の外周部には、合成樹脂の成型体からなる連結環10が、前記と同様の透孔10aによるアンカー部分も含んで固着一体とされている。更に、該連結環10は、チェーンカバー5の内面における貫通孔51の周辺部に形成された段差面51aに、溶着や接着等により固着一体とされている。ここでの硬質ゴムとしては、人間の指圧程度では変形せず、オイルシール8の前記リップよりは弾性を有する程度の硬さのものが採用され、具体的には、NBR、ACM、FKM、H−NBR、AEM等が望ましく採用される。弾性緩衝部材9の作用効果は、前記と同様であるが、エンジンの特性に基づく熱膨張エネルギーや振動エネルギー等に応じて、図2の例及び図3の例が適宜選択採用される。
【0024】
そして、図3に示す例においては、弾性緩衝部材9が硬質ゴムからなることにより形状保持性が良く、従って、チェーンカバー5を前記所定部位に取付ける際に、オイルシール8のクランクシャフト7に対する嵌装部分を取付の位置基準とすることができ、チェーンカバー5の加工公差等によるオイルシール8のクランクシャフト7に対する締代の変化を少なくすることができる。
その他の構成は、図2に示す例と同様であるので、共通部分に同一の符号を付し、その説明を割愛する。
【0025】
図4に示す例では、オイルシール8に金属環11が同心的に外嵌一体とされ、前記弾性緩衝部材9はこの金属環11の外周に固着されている。更に、弾性緩衝部材9の外周部には、合成樹脂の成型体からなる連結環10が、前記と同様の透孔10aによるアンカー部分も含んで固着一体とされている。連結環10のチェーンカバー5に対する固着は、チェーンカバー5の内面における貫通孔51の周辺部に周方向に適宜間隔で突設されたピン51b…と、連結環10の対応部位に形成されたピン孔10bとのリベット溶着及び接面間の溶着によってなされている。また、金属環11のオイルシール8に対する外嵌一体化は圧入嵌合によってなされ、金属環11と弾性緩衝部材9との固着一体化は弾性緩衝部材9を構成するゴム材の加硫成型によってなされる。金属環11の外周部には凹凸部11aが形成され、この凹凸部11aにおける前記ゴム材の噛合一体によって、金属環11と弾性緩衝部材9との固着強度が高められている。金属環11を構成する金属材としては、剛性に富んでいることが望ましく、具体的には、鉄鋼、SUS304,SUS316,SUS430等のステンレス、アルミニウム合金等が望ましく採用される。
【0026】
図4に示す例においては、金属環11がオイルシール8に同心的に外嵌一体とされているから、チェーンカバー5を前記のとおり所定の部位に取付ける際、オイルシール8をクランクシャフト7に嵌装した段階で、金属環11及びオイルシール8とクランクシャフト7との同心的な嵌装関係が自ずと定まる。従って、チェーンカバー5を締結させる為のボルト挿通孔(不図示)の径を、前記ボルト5aを遊挿し得る大きさとしておけば、チェーンカバー5に加工公差等があっても、この嵌装関係をチェーンカバー5の取付基準とした上で、ボルト5aを締結することにより、オイルシール8のクランクシャフト7に対する締代を所期の設計どおりに維持した状態でチェーンカバー5を取付固定することができる。また、金属環11とチェーンカバー5との間に弾性緩衝部材9が存在することとも相俟って、エンジン1の運転中の熱膨張や振動等によってチェーンカバー5に前記相対移動があっても、この相対移動のオイルシール8に対する伝播がより効果的に遮断される。
その他の構成は、図2及び図3に示す例と同様であるので、共通部分に同一の符号を付し、ここでもその説明を割愛する。
【0027】
尚、上記実施形態では、エンジン1におけるチェーンカバー5に対するクランクシャフト7の貫装部分52でのシール構造を例示したが、これに限られず、合成樹脂の成型体からなるカバー部材と回転軸との貫装部分、特に、カバー部材が温度の高い環境下に晒されて熱膨張し易い場合や、振動環境におかれる場合の貫装部分に適用すると、同様の効果が得られる。また、弾性緩衝部材9、連結環10及び金属環11の形状や、これら相互の固着一体構造も図例のものに限定されるものではない。
【符号の説明】
【0028】
1 エンジン
5 チェーンカバー(カバー部材)
50 チェーン室(潤滑オイルが装填される部位)
52 貫装部分
7 クランクシャフト(回転軸)
8 オイルシール(シール部材)
9 弾性緩衝部材
10 連結環
11 金属環
【技術分野】
【0001】
本発明は、カバー部材と、該カバー部材に貫装された回転軸との間における当該貫装部分、例えば、自動車用エンジンのチェーンカバー(フロントカバー)におけるクランクシャフトの貫装部分のシール構造に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車用エンジンにおいて、エンジン本体(クランク室)内に回転自在に支持されたクランクシャフトは、その端部において、オイルシールを介してエンジンオイル等の漏出を防止すべくエンジン本体との間が密封されるよう構成される(特許文献1乃至3参照)。また、クランクシャフトの一端部がクランク室より突出し、チェーンカバーによって区画されたチェーン室内において、クランクスプロケットが固着一体とされ、該クランクスプロケットにはチェーン(タイミングチェーン)が巻き掛けられ、カムシャフト等との駆動伝達系が形成されるよう構成される。そして、クランクシャフトの前記一端部は、更に前記チェーンカバーを貫通して外部に突出し、クランクプーリー等を介して他の駆動伝達系に連結されるよう構成されることもある(特許文献4参照)。そして、エンジンのチェーンカバー内には、チェーン機構による前記駆動伝達系の円滑性を維持する為に潤滑オイルが装填される。その為、クランクシャフトのチェーンカバーにおける貫装部分には、オイルシールからなるシール部材が、クランクシャフトと相対回転可能に嵌装され、チェーンカバー内の潤滑オイルの外部漏出の防止が図られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】実開平05−71542号公報
【特許文献2】実開平05−96537号公報
【特許文献3】特開平09−300399号公報
【特許文献4】特開平09−13988号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近時、前記のような自動車用エンジンにおいては、軽量化及び低燃費化の観点から、エンジンの構成部分をできるだけ合成樹脂の成型体で構成することがなされるようになった。しかし、前記チェーンカバーの場合、これを合成樹脂の成型体で構成すると、エンジン運転中のチェーンカバーの熱膨張による変形、応力変形、或いは振動等によって、オイルシールのクランクシャフトに対する締代が変化し、これによって、シール性が低下することがある。また、組付時におけるチェーンカバーの熱膨張変化によって、オイルシールとクランクシャフトとの設計上の締代が得られず、同様に意図したシール性が得られないこともある。従って、チェーンカバーにおいては、剛性があり、熱膨張の少ないアルミニウム等の金属材が用いられ、合成樹脂化はまだ実現されていないのが現実であった。
【0005】
特許文献1には、エンジン本体に取付けられる樹脂リテーナに対し、樹脂製の補強環に一体とされたオイルシール(リップ部材)を、該補強環を介して着脱自在に取付け、オイルシールをクランクシャフトに嵌装させるようにした密封装置が開示されている。ここで、リテーナ及び補強環を共に樹脂製としたのは軽量化を実現する為とされている。しかし、このリテーナは、クランクシャフト周りの限られた大きさのものであるから、リテーナの熱膨張や振動等がオイルシールの締代に影響することは少なく、従って、本特許文献1では、リテーナの樹脂化によるオイルシールの締代の変化を想定していないと考えられる。
【0006】
また、特許文献2には、エンジンの後部に取付けられたリアエンドプレート及びフライホイルハウジングのいずれかからなるエンジン後部連結部材をオイルシール支持部材とし、このオイルシール支持部材の内周壁部にクランクシャフトの周面に臨むオイルシールを装着したオイルシール構造が開示されている。しかし、このオイルシール構造においては、オイルシール支持部材となるリアエンドプレート及びフライホイルハウジングのいずれもが、樹脂製ではなく、従って、前記のような問題点は惹起されないものと考えられる。
【0007】
更に、特許文献3には、クランクケースとトランスミッションケースとの間に配置され、クランケースから突出するクランクシャフトに装着されて、オイルパン内のエンジンオイルの外部への漏出を防止するオイルシールケースが開示されている。このオイルシールケースは、内部に環状の芯金を埋め込んだ弾性部材と、芯金の円板状突部の外周部分をこれを覆う弾性部材と共に埋設一体とする合成樹脂部材(枠体)とからなり、該オイルシールケースは、前記弾性部材の内周部がクランクシャフトの外周面に摺接するよう、前記合成樹脂部材をして、クランクケース又はトランスミッションケースに取付けられる。しかし、この場合も枠体としての合成樹脂部材は、クランクシャフト周りの限られた大きさのものであるから、合成樹脂部材の熱膨張や振動等がオイルシールの締代に影響することは少なく、従って、本特許文献3でも、枠体の樹脂化によるオイルシールの締代の変化を想定していないと考えられる。
【0008】
本発明は、上記の実情に鑑みなされたものであり、合成樹脂製のカバー部材と、該カバー部材に貫装された回転軸との間における当該貫装部分に装着されるシール部材のシール性が、カバー部材の振動や熱膨張等の動きに影響を受けることのないシール構造を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係るシール構造は、カバー部材と、該カバー部材に貫装された回転軸との間における当該貫装部分のシール構造であって、前記カバー部材が合成樹脂の成型体からなり、前記回転軸にはシール部材が相対回転可能に嵌装され、該シール部材と前記貫装部分におけるカバー部材との間には弾性緩衝部材が結合介在されていることを特徴とする。
【0010】
本発明に係るシール構造においては、前記弾性緩衝部材と、カバー部材とが連結環を介して結合されていても良い。また、前記シール部材には金属環が同心的に外嵌一体とされ、前記弾性緩衝部材は該金属環の外周に固着されているものであっても良い。更に、本発明に係るシール構造を、前記カバー部材が、潤滑オイルが存在する部位を覆うものであって、前記シール部材がオイルシールであるシール構造に適用しても良い。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係るシール構造においては、カバー部材と、該カバー部材に貫装された回転軸との間に、シール部材が回転軸に対して相対回転可能に嵌装されているから、このシール部材によってカバー部材と回転軸との間がシールされ、カバー部材によって形成される空間内に存在する潤滑オイル等が、回転軸の周面に沿って漏出することが防止される。また、カバー部材が合成樹脂の成型体からなるから、本シール構造が適用される装置等の軽量化が図られる。そして、前記シール部材と前記貫装部分におけるカバー部材との間には弾性緩衝部材が結合介在されているから、カバー部材の熱膨張や、振動等の動きがこの弾性緩衝部材によって吸収され、シール部材の回転軸に対する締代に影響せず、シール部材の所期のシール性が維持される。
【0012】
本発明において、前記弾性緩衝部材と、カバー部材とが連結環を介して結合されている場合、連結環に対して弾性緩衝部材を結合した上で、カバー部材の所定部位、即ち、前記貫装部分に取付けるようにすれば、本シール構造を簡易に構成することができる。
【0013】
また、本発明において、前記シール部材に金属環を同心的に外嵌一体とし、前記弾性緩衝部材を該金属環の外周に固着したものとすれば、カバー部材を所定の部位に取付ける際、先ず、シール部材を回転軸に嵌装した段階で、金属環及びシール部材と回転軸との同心的な嵌装関係が自ずと定まる。従って、この嵌装関係をカバー部材の取付基準とすれば、カバー部材に加工公差があっても、シール部材の回転軸に対する締代を所期の設計どおりに維持した状態でカバーを取付固定することができる。因みに、カバー部材の取付対象部位の適所に基準ピン等を設け、これを取付基準位置としてカバー部材を取付けるようにすると、カバー部材に加工公差があったり、保管環境の温度変化で熱膨張或いは熱収縮している場合には、シール部材の回転軸に対する締代に偏りを生じたりし、これがシール性に影響を及ぼすことになる。前記金属環を弾性緩衝部材とシール部材との間に介在させることによって、カバー部材の精度良い取付が可能となる。加えて、金属環とカバー部材との間に弾性緩衝部材が存在することとも相俟って、運転中の熱膨張や振動によってカバー部材に動きがあっても、これのシール部材に対する伝播がより効果的に遮断される。
【0014】
更に、本発明のシール構造を、前記カバー部材が、潤滑オイルが存在する部位を覆うものであって、前記シール部材がオイルシールであるシール構造に適用した場合、前述のとおり、カバー部材が合成樹脂の成型体であることの影響がオイルシールに及ばず、オイルシールのシール性能が維持され、カバー部材によって覆われた部位に存在する潤滑オイルの前記貫装部分からの漏出防止が的確になされる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明のシール構造が採用されたエンジンの概略的外観正面図である。
【図2】図1におけるX−X線矢視拡大断面図である。
【図3】他の実施形態の断面図である。
【図4】更に他の実施形態の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に本発明の実施の形態について図面に基づいて説明する。図1のエンジン1は、シリンダブロック2と、該シリンダブロック2の上面に締結合体されるシリンダヘッド3と、シリンダブロック2の下面に締結合体されるオイルパン4と、縦方向に合体されたシリンダブロック2、シリンダヘッド3及びオイルパン4の前側部にこれらの合体方向と直交する方向よりこれらに跨るよう締結合体される合成樹脂の成型体からなるチェーンカバー(フロントカバー)5と、シリンダヘッド3及びチェーンカバー5の上端面に両者に跨るよう締結合体されるシリンダヘッドカバー(ロッカーカバー)6とより構成される。チェーンカバー5を構成する合成樹脂としては、PPA(ポリフタルアミド)、PA(ポリアミド)、PPS(ポリフェニレンサルファイド)樹脂等が用いられる。また、エンジンの仕様によっては、ベルト(タイミングベルト)によって前記駆動伝達系が構成される場合があり、この場合はベルトカバーと称される。
【0017】
シリンダブロック2の下部は前記オイルパン4の上部空間と通じるクランク室(図示省略)とされ、該クランク室内にクランクシャフト(回転軸)7が回転自在に横架されている。該クランクシャフト7の一端部71は、シリンダブロック2の前側部よりチェーンカバー5内を貫きチェーンカバー5の外面に突出している。クランクシャフト7には、チェーンカバー5で区画されるチェーン室(飛散した潤滑オイルが存在する部位)50内において、不図示のチェーンプーリー(クランクスプロケット)が装着され、チェーン室50内に配設されるカムシャフト用プーリー(不図示)等との間にタイミングチェーン(不図示)が掛け渡されてカムシャフト等への駆動伝達系が構成される。また、クランクシャフト7の一端部71は、チェーンカバー5に形成された貫通孔51(図2参照)より突出し、該一端部71には、不図示の補機類等との駆動伝達系を構成する為のプーリー(不図示)が装着される。該貫通孔51によって、後記する貫装部分52が構成される。クランクシャフト7の他端部72は、シリンダブロック2の後側部より突出し、該他端部72には不図示のフライホイールが装着される。
尚、図例では、クランクシャフト7を概念的に示しているが、不図示のクランクアーム及びコンロッドを介して各ピストンに連結されるものであることは言うまでもない。
【0018】
前記クランクシャフト7のチェーンカバー5に対する貫装部分52の構造について詳述する。図2において、貫装部分52におけるクランクシャフト7の周体にはシール部材としてのオイルシール(シールリング)8が嵌装されている。該オイルシール8としては、従来公知の汎用品が採用可能であり、その詳細構造の説明は割愛するが、環状の芯金にゴム等の弾性体からなるリップ部材を固着一体に備え、該リップ部材は少なくともクランクシャフト7の周体に弾性摺接するリップを含み、この弾性摺接により油密構造を構成するものである。オイルシール8の外周部には、ゴム等の弾性体からなる環状の弾性緩衝部材9が固着一体とされている。弾性緩衝部材9のオイルシール8に対する一体化は、ゴムの加硫接着、或いは接着剤を介してなされる。
【0019】
前記弾性緩衝部材9の外周部には、合成樹脂の成型体からなる連結環10が固着一体とされ、この連結環10を介して、前記弾性緩衝部材9及びオイルシール8がチェーンカバー5の貫装部分52に取付けられている。連結環10は、チェーンカバー5の内面(チェーン室50側)に溶着や接着剤により固着され、これにより、オイルシール8とチェーンカバー5との間に弾性緩衝部材9が結合介在された状態とされる。前記貫通孔51の内径は、オイルシール8の外径より大とされ、弾性緩衝部材9が結合介在したオイルシール8のチェーンカバー5に対する取付状態では、貫通孔51とオイルシール8とは同心とされる。これにより、オイルシール8と貫通孔51との間に緩衝空間Sが形成される。弾性緩衝部材9と連結環10との固着一体は、例えば、合成樹脂により事前に成型された連結環10に対してゴム材を加硫成型することによってなされる。両者の固着強度を強化する為、図例では、連結環10の内周部近傍に周方向に沿って適宜間隔で透孔10aを形成し、ゴム材の成型時に該透孔10a内にゴム材を進入させ、この進入部分でアンカー効果を持たせるようにしている。
尚、連結環10としては、軽量化の観点から、合成樹脂の成型体であることが望ましいが、アルミニウム等の金属板で構成することも可能である。
【0020】
弾性緩衝部材9は、軟質ゴムによる環状の成型体からなり、内周側のオイルシール8との固着部分及び外周側の連結環10との固着部分の間に、断面略くの字形の環状屈曲部9aを有している。また、チェーンカバー5の内面に対向する部分には、環状のビード部9bが形成され、連結環10を介したチェーンカバー5に対する弾性緩衝部材9の取付状態では、このビード部9bがチェーンカバー5の内面に弾接するよう構成されている。弾性緩衝部材9を構成する軟質ゴムとしては、NBR、ACM、FKM、H−NBR、AEM等が望ましく採用される。
【0021】
前記のように、弾性緩衝部材9及び連結環10を介しオイルシール8が取付けられたチェーンカバー5を、図1に示すようにエンジン1の所定部位に締結合体させる場合、オイルシール8をクランクシャフト7に嵌装した上で、ボルト5a…を締着することによってなされる。チェーンカバー5の周囲には鍔部5bが形成されており、ボルト5aによる締結合体は、この鍔部5bにおいてなされる。チェーンカバー5を締結合体することにより、シリンダブロック2及びシリンダヘッド3の前側部との間にチェーン室50が形成され、該チェーン室50には飛散した潤滑オイル(不図示)が存在している。そして、ボルト5a…による締結合体の際、チェーンカバー5の加工公差や保管中の熱膨張等により、オイルシール8と前記貫通孔51との同心性が保てない状態となっても、前記緩衝空間Sによってこの位置ずれが許容されると共に、弾性緩衝部材9が介在することによりこの位置ずれが吸収され、これによってオイルシール8のクランクシャフト7に対する締代の偏りが生じず、オイルシール8の所期のシール性が安定的に発揮される。
【0022】
また、このようなチェーンカバー5の締結合体状態でエンジン1が作動すると、チェーンカバー5に振動が生じ、或いは、チェーンカバー5が合成樹脂の成型体であるが故に、エンジン1の発する熱によって熱膨張し易く、これらが原因でクランクシャフト7に対するチェーンカバー5の相対移動が惹起される。しかも、チェーンカバー5は、シリンダブロック2及びシリンダヘッド3の前側部の広い領域を覆うものであるから、同じ樹脂製であっても特許文献1に開示されたようなリテーナに比べて熱膨張度合いは遥かに大きく、その為、前記相対移動量も大きく、これが直接オイルシール8に作用すると、その締代が大きく変化することになる。しかし、クランクシャフト7に対する相対移動は弾性緩衝部材9によって吸収されるから、オイルシール8に伝播されず、従って、オイルシール8のクランクシャフト7に対する締代が所期の状態に維持され、シール性が経時的に変動したり低下したりするようなことがない。特に、本実施形態の弾性緩衝部材9は軟質ゴムの成型体からなり、しかも、オイルシール8との固着部分及び連結環10との固着部分の間に、断面略くの字形の環状屈曲部9aを有しているから、ゴム自体の弾性と環状屈曲部9aの屈曲変形性とが相俟って、前記相対移動の吸収性と移動に対する追随性とに優れたものとなり、これによって、オイルシール8の良好なシール性がより確実に発揮される。
【0023】
図3に示す例では、弾性緩衝部材9が硬質ゴムの成型体からなり、オイルシール8の外周部全面に固着一体とされ、弾性緩衝部材9の外周部には、合成樹脂の成型体からなる連結環10が、前記と同様の透孔10aによるアンカー部分も含んで固着一体とされている。更に、該連結環10は、チェーンカバー5の内面における貫通孔51の周辺部に形成された段差面51aに、溶着や接着等により固着一体とされている。ここでの硬質ゴムとしては、人間の指圧程度では変形せず、オイルシール8の前記リップよりは弾性を有する程度の硬さのものが採用され、具体的には、NBR、ACM、FKM、H−NBR、AEM等が望ましく採用される。弾性緩衝部材9の作用効果は、前記と同様であるが、エンジンの特性に基づく熱膨張エネルギーや振動エネルギー等に応じて、図2の例及び図3の例が適宜選択採用される。
【0024】
そして、図3に示す例においては、弾性緩衝部材9が硬質ゴムからなることにより形状保持性が良く、従って、チェーンカバー5を前記所定部位に取付ける際に、オイルシール8のクランクシャフト7に対する嵌装部分を取付の位置基準とすることができ、チェーンカバー5の加工公差等によるオイルシール8のクランクシャフト7に対する締代の変化を少なくすることができる。
その他の構成は、図2に示す例と同様であるので、共通部分に同一の符号を付し、その説明を割愛する。
【0025】
図4に示す例では、オイルシール8に金属環11が同心的に外嵌一体とされ、前記弾性緩衝部材9はこの金属環11の外周に固着されている。更に、弾性緩衝部材9の外周部には、合成樹脂の成型体からなる連結環10が、前記と同様の透孔10aによるアンカー部分も含んで固着一体とされている。連結環10のチェーンカバー5に対する固着は、チェーンカバー5の内面における貫通孔51の周辺部に周方向に適宜間隔で突設されたピン51b…と、連結環10の対応部位に形成されたピン孔10bとのリベット溶着及び接面間の溶着によってなされている。また、金属環11のオイルシール8に対する外嵌一体化は圧入嵌合によってなされ、金属環11と弾性緩衝部材9との固着一体化は弾性緩衝部材9を構成するゴム材の加硫成型によってなされる。金属環11の外周部には凹凸部11aが形成され、この凹凸部11aにおける前記ゴム材の噛合一体によって、金属環11と弾性緩衝部材9との固着強度が高められている。金属環11を構成する金属材としては、剛性に富んでいることが望ましく、具体的には、鉄鋼、SUS304,SUS316,SUS430等のステンレス、アルミニウム合金等が望ましく採用される。
【0026】
図4に示す例においては、金属環11がオイルシール8に同心的に外嵌一体とされているから、チェーンカバー5を前記のとおり所定の部位に取付ける際、オイルシール8をクランクシャフト7に嵌装した段階で、金属環11及びオイルシール8とクランクシャフト7との同心的な嵌装関係が自ずと定まる。従って、チェーンカバー5を締結させる為のボルト挿通孔(不図示)の径を、前記ボルト5aを遊挿し得る大きさとしておけば、チェーンカバー5に加工公差等があっても、この嵌装関係をチェーンカバー5の取付基準とした上で、ボルト5aを締結することにより、オイルシール8のクランクシャフト7に対する締代を所期の設計どおりに維持した状態でチェーンカバー5を取付固定することができる。また、金属環11とチェーンカバー5との間に弾性緩衝部材9が存在することとも相俟って、エンジン1の運転中の熱膨張や振動等によってチェーンカバー5に前記相対移動があっても、この相対移動のオイルシール8に対する伝播がより効果的に遮断される。
その他の構成は、図2及び図3に示す例と同様であるので、共通部分に同一の符号を付し、ここでもその説明を割愛する。
【0027】
尚、上記実施形態では、エンジン1におけるチェーンカバー5に対するクランクシャフト7の貫装部分52でのシール構造を例示したが、これに限られず、合成樹脂の成型体からなるカバー部材と回転軸との貫装部分、特に、カバー部材が温度の高い環境下に晒されて熱膨張し易い場合や、振動環境におかれる場合の貫装部分に適用すると、同様の効果が得られる。また、弾性緩衝部材9、連結環10及び金属環11の形状や、これら相互の固着一体構造も図例のものに限定されるものではない。
【符号の説明】
【0028】
1 エンジン
5 チェーンカバー(カバー部材)
50 チェーン室(潤滑オイルが装填される部位)
52 貫装部分
7 クランクシャフト(回転軸)
8 オイルシール(シール部材)
9 弾性緩衝部材
10 連結環
11 金属環
【特許請求の範囲】
【請求項1】
カバー部材と、該カバー部材に貫装された回転軸との間における当該貫装部分のシール構造であって、
前記カバー部材が合成樹脂の成型体からなり、前記回転軸にはシール部材が相対回転可能に嵌装され、該シール部材と前記貫装部分におけるカバー部材との間には弾性緩衝部材が結合介在されていることを特徴とするシール構造。
【請求項2】
請求項1に記載のシール構造において、
前記弾性緩衝部材と、カバー部材とは連結環を介して結合されていることを特徴とするシール構造。
【請求項3】
請求項1または2に記載のシール構造において、
前記シール部材には金属環が同心的に外嵌一体とされ、前記弾性緩衝部材は該金属環の外周に固着されていることを特徴とするシール構造。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載のシール構造において、
前記カバー部材は、潤滑オイルが存在する部位を覆うものであって、前記シール部材はオイルシールであることを特徴とするシール構造。
【請求項1】
カバー部材と、該カバー部材に貫装された回転軸との間における当該貫装部分のシール構造であって、
前記カバー部材が合成樹脂の成型体からなり、前記回転軸にはシール部材が相対回転可能に嵌装され、該シール部材と前記貫装部分におけるカバー部材との間には弾性緩衝部材が結合介在されていることを特徴とするシール構造。
【請求項2】
請求項1に記載のシール構造において、
前記弾性緩衝部材と、カバー部材とは連結環を介して結合されていることを特徴とするシール構造。
【請求項3】
請求項1または2に記載のシール構造において、
前記シール部材には金属環が同心的に外嵌一体とされ、前記弾性緩衝部材は該金属環の外周に固着されていることを特徴とするシール構造。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載のシール構造において、
前記カバー部材は、潤滑オイルが存在する部位を覆うものであって、前記シール部材はオイルシールであることを特徴とするシール構造。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図2】
【図3】
【図4】
【公開番号】特開2010−242896(P2010−242896A)
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−93386(P2009−93386)
【出願日】平成21年4月7日(2009.4.7)
【出願人】(000225359)内山工業株式会社 (204)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(000000011)アイシン精機株式会社 (5,421)
【出願人】(390023674)イー・アイ・デュポン・ドウ・ヌムール・アンド・カンパニー (2,692)
【氏名又は名称原語表記】E.I.DU PONT DE NEMOURS AND COMPANY
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年4月7日(2009.4.7)
【出願人】(000225359)内山工業株式会社 (204)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(000000011)アイシン精機株式会社 (5,421)
【出願人】(390023674)イー・アイ・デュポン・ドウ・ヌムール・アンド・カンパニー (2,692)
【氏名又は名称原語表記】E.I.DU PONT DE NEMOURS AND COMPANY
【Fターム(参考)】
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