説明

シール装置および蒸気タービン

【課題】シールフィンとタービンロータとが接触した際に発生する摩擦熱やシールフィンの損傷を抑制するとともに、自励振動の発生を抑制し、シール性能を向上させることができるシール装置および蒸気タービンを提供することを目的とする。
【解決手段】シール装置10は、静翼内輪12の内周面から突出させて周設された円環状のシールフィン20と、このシールフィン20に対向するタービンロータ11の外周にシールフィン20と離間させて周設され、シールフィン側が開口し周方向に区分された複数の空隙部31、41を有する空隙構造体32、42とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合発電プラントや従来型火力発電プラントや原子力発電プラントなどに使用される蒸気タービンのシール装置および蒸気タービンに関する。
【背景技術】
【0002】
ターボ機械は、作動流体を翼列等に作用させ出力を得る回転機械である。この回転機器において、回転体と静止部との間の作動流の漏洩を防止することにより、翼列に効率よく作動流体を作用させることが可能である。
【0003】
図8は、ターボ機械の一例として従来の蒸気タービン300の構造の概要を示す図である。図9は、従来の蒸気タービン300において、回転部材側にシールフィン321を備えたラビリンスシール320の構成を説明するための断面図である。図10は、従来の蒸気タービン300におけるタービンロータが振れ廻っているときのシールフィン321間におけるチャンバ内の圧力分布の一例を示す図である。図11は、従来の蒸気タービン300における不安定化力とスワール(旋回流)の関係を示した図である。
【0004】
図8に示すように、蒸気タービン300では、タービンロータ301に動翼302が複数植設され、ケーシング303には静翼304が組み込まれている。作動流体305は、動翼302と静翼304で形成される翼列に作用し、出力をタービンロータ301に伝達している。作動流体305は、高温・高圧の流体であることが多く、タービンロータ301とケーシング303の間には翼列に作用しない作動流体が漏れて流れる。この漏洩流体は、動力としてタービンロータ301に作用することなく、この漏洩流体の流量が多くなると蒸気タービン300における効率が低下する。
【0005】
この漏洩流体の流量を減らすために、タービンロータ301とケーシング303との間には多数の非接触型のラビリンスシール320が設けられている。例えば、ラビリンスシール320を構成するシールフィン321と動翼302の先端面との間隙であるシール間隙322を減ずることで、漏洩流体の流量を減らすことができる。
【0006】
しかしながら、例えば、図9に示すシール間隙322を減少させると、蒸気タービン300の起動時などの非定常状態時に、ケーシング303とタービンロータ301の熱伸び差でシールフィン321がタービンロータ301に接触する、いわゆるラビリングが生じ、振動やシールフィン321の損傷を発生させることがある。なお、図8では、シールフィン321がケーシング303等の静止側に組み込まれた一例を示しているが、図9に示すようなタービンロータ301側にシールフィンが組み込まれる構成も広く採用されている。一般に、ケーシング303よりもタービンロータ301の方が体積が小さく、かつ熱容量が小さいため、蒸気タービン300の起動時などの温度上昇時には、タービンロータ301がケーシング303より先にタービンロータ軸方向に伸び(スラスト軸受306を起点としたタービンロータ軸方向の伸び)、さらに半径方向にも伸びる。また、半径方向には遠心力による伸びが加わる。これらの伸びの発生により、タービンロータ301とケーシング303とに熱伸び差が生じる。
【0007】
接触時に発生する振動は、シールフィン321とタービンロータ301の表面とが接触して発熱し、その熱によりタービンロータ301が局所的に加熱されてロータ曲がりを生じることが原因となり発生する。また、シールフィン321は、一般的にその先端が鋭角に加工されており、接触によりその部分が摩耗し、組立時の間隙が確保できず、蒸気タービン300の効率が低下する。
【0008】
そこで、接触しても摩擦熱やシールフィンの損傷を発生し難い構造とすることで効率を向上させる技術が開示されている(例えば、特許文献1−2参照。)。
【0009】
また、動翼302と静翼304を流動する作動流体305は、タービンロータ周方向に向きを変えながらタービンロータ軸方向へ流動する。この際、周方向(旋回)速度成分に起因して動翼302と静翼304は、作動流体305から外力を受ける。この外力は、周方向に一様であることが望ましいが、実際には図10に示すような不均一な圧力分布となることが多い。
【0010】
ここで、蒸気の流れが周方向(旋回)速度成分を有すると、圧力のピークは、タービンロータ301の振れ廻り方向に対し、遅れ方向に位置する。この不均一に分布する圧力によるタービンロータ301に作用する力は、タービンロータ301の振れ廻り方向の力Fxと、この振れ廻り方向の力Fxと直交する方向の力Fyとに分解することができる。このような圧力のピークが発生する場合、タービンロータ301は、常に振れ廻り方向にFxなる力で押圧されるので、タービンロータ301の振れ廻りが助長され、自励振動が発生する原因となる。
【0011】
図11に示すように、近年の計算機および流体解析プログラムの進歩発展により、実機条件における旋回流と不安定化力の関係を定量的に把握できるようになった。旋回流が増加すると不安定化力も増加し、所定の閾値を越えるとタービンロータ301は動的不安定な状態となって旋回流を伴う自励振動が発生する。この自励振動を抑制するために、ラビリンスシール入口部に案内羽根を備える技術が開示されている(例えば、特許文献3−4参照。)。
【特許文献1】特開2006−83858号公報
【特許文献2】特開2006−83846号公報
【特許文献3】特開2006−104952号公報
【特許文献4】特開2007−120476号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、上記した従来の技術では、熱伸び差によってシールフィンとタービンロータとが接触した際に発生する摩擦熱やシールフィンの損傷の問題、および周方向(旋回)速度成分を有することによる自励振動の発生の問題の双方を同時に解決できるものでなかった。
【0013】
そこで、本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、シールフィンとタービンロータとが接触した際に発生する摩擦熱やシールフィンの損傷を抑制するとともに、自励振動の発生を抑制し、シール性能を向上させることができるシール装置および蒸気タービンを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するために、本発明の一態様によれば、タービンロータと前記タービンロータに植設された動翼とを含む回転構造物と、静翼と前記静翼の内径端縁に沿って設けられた静翼内輪と前記静翼の外径端縁に沿って設けられた静翼外輪とを含む静止構造物とを備え、前記回転構造物および前記静止構造物のそれぞれの周面が互いに対向した蒸気タービンにおける対向する前記周面の間からの作動流体の漏洩を防止するシール装置であって、前記回転構造物および前記静止構造物の一方の周面から突出させて周設された円環状のシールフィンと、前記シールフィンに対向する前記静止構造物および前記回転構造物の他方の周面に前記シールフィンと離間させて周設され、周方向に区分された複数の空隙部を有する環状構造物とを具備することを特徴とするシール装置が提供される。
【0015】
また、本発明の一態様によれば、タービンロータと前記タービンロータに植設された動翼とを含む回転構造物と、静翼と前記静翼の内径端縁に沿って設けられた静翼内輪と前記静翼の外径端縁に沿って設けられた静翼外輪とを含む静止構造物とを備え、前記回転構造物および前記静止構造物のそれぞれの周面が互いに対向した蒸気タービンにおける対向する前記周面の間からの作動流体の漏洩を防止するシール装置であって、前記回転構造物および前記静止構造物の一方の周面から突出され、かつ当該一方の周面に対向する前記静止構造物および前記回転構造物の他方の周面と離間させて周設され、周方向に区分された複数の空隙部を有する第1の環状構造物と、前記回転構造物および前記静止構造物の他方の周面のうち前記第1の環状構造物が対向する部分と異なる部分から突出させて周設された円環状のシールフィンと、前記シールフィンに対向する前記一方の周面と同一平面になるように周設され、周方向に区分された複数の空隙部を有する第2の環状構造物とを具備することを特徴とするシール装置が提供される。
【発明の効果】
【0016】
本発明のシール装置および蒸気タービンによれば、シールフィンとタービンロータとが接触した際に発生する摩擦熱やシールフィンの損傷を抑制するとともに、自励振動の発生を抑制し、シール性能を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の一実施の形態について図面を参照して説明する。
【0018】
(第1の実施の形態)
図1は、本発明の第1の実施の形態のシール装置10を備えた蒸気タービンにおけるシール装置の一部の断面を示した図である。図2は、環状構造物30、40をシールフィン側から見たときの状態を示す平面図である。
【0019】
本発明に係る蒸気タービンは、タービンロータ11とタービンロータ11に植設された動翼(図示しない)とを含む回転構造物と、静翼(図示しない)と静翼の内径端部に沿って設けられた静翼内輪12と静翼の外径端部に沿って設けられた静翼外輪(図示しない)とを含む静止構造物とを備える。
【0020】
図1に示すように、静翼内輪12の内周面には、円環状のシールフィン20が、タービンロータ軸方向に所定の間隔をおいて周設されている。なお、図1には、隣り合うシールフィン20のタービンロータ側への突出長さが異なる、いわゆるHigh−Lowタイプのシールフィン構造が示されている。
【0021】
また、タービンロータ11の外周には、このシールフィン20に対向する位置に、シールフィン20と離間させて環状構造物30、40が周設されている。環状構造物30は、タービンロータ側への突出長さが短いシールフィン20に対向する位置に周設され、タービンロータ11の外周面から突出している。一方、環状構造物40は、タービンロータ側への突出長さが長いシールフィン20に対向する位置に周設された凹部13に収容され、溶着されている。また、環状構造物40は、タービンロータ11の外周面と同一平面になるようにタービンロータ11に周設されている。なお、シールフィン20と環状構造物30、40との離間距離は、シールフィン20とタービンロータ11におけるタービンロータ半径方向への熱伸び差等を考慮して適宜設定される。また、シール装置10では、少なくとも、シールフィン20と環状構造物30およびシールフィン20と環状構造物40からなる1対のシール構造を備える。
【0022】
シールフィン20は、中実の円環状の構造を有し、例えば静翼内輪12を構成する材料と線膨張係数が同程度の材料で構成される。シールフィン20を構成する材料として、鋼材やバネ性のある銅合金などが挙げられる。また、シールフィン20の先端部は、鋭角に加工されている。
【0023】
環状構造物30、40は、図2に示すように、シールフィン側が開口し周方向に区分された複数の空隙部31、41を有して構成されている。図2に示した環状構造物30、40は、具体的にはハニカム構造(蜂の巣状の構造)を有し、中空の六角柱の空隙構造体32、42が周設された構成を有している。また、図2には、この複数の空隙構造体32、42をタービンロータ周方向に周設してなる列(以下、環状列という)をタービンロータ軸方向に3列備えた環状構造物30、40の一例を示しているが、この構成に限られるものではない。環状構造物30、40は、この環状列を少なくとも1列備えていればよい。なお、ここでは、空隙構造体32、42が中空の六角柱で形成された一例を示しているが、例えば、シールフィン側が開口した、中空の三角柱、中空の円角柱などで構成してもよい。さらに、空隙構造体32、42の開口形状は、これらの形状に限らず、四角柱以上の多角形や楕円形で構成されてもよい。
【0024】
図1に示すHigh−Lowタイプのシールフィン構造の場合、シールフィン20と環状構造物30、40との間のシール性能を維持するため、特に、環状構造物30は、シールフィン20に対向する位置に常に位置することが好ましい。そこで、環状構造物30、40を構成する環状列の数は、例えば、中空の六角柱における対角長の長さや、シールフィン20とタービンロータ11におけるタービンロータ軸方向への熱伸び差等を考慮して適宜設定される。
【0025】
また、図1に示すように、タービンロータ11の外周面から突出させて設けられる環状構造物30は、そのタービンロータ側の端部をタービンロータ11に周設された凹部14内に挿入し溶着することで固定される。これによって、環状構造物30を強固に固定することができ、蒸気タービンの運転の信頼性を向上させることができる。
【0026】
また、環状構造物30、40は、タービンロータ11を構成する材料と線膨張係数が同程度の材料で構成されることが好ましい。環状構造物30、40を構成する材料として、鋼材やバネ性のある銅合金などが挙げられる。また、空隙構造体32、42のシールフィン側の端面に、例えば、Ni、Cr、Al等を有するアブレイダブル材料を溶射して被覆層を形成してもよい。これによって、例えば、環状構造物30、40がシールフィン20に接触した場合においても、シールフィン20の損傷を抑制し、さらに環状構造物30、40自体の発熱や摩耗を抑制することができる。
【0027】
ここでは、ハニカム形状を有する環状構造物30、40の一例を示したが、環状構造物30、40の形状は、この形状に限られるものではない。次に、環状構造物30、40の他の形状について説明する。
【0028】
図3は、他の形状を有する環状構造物30、40をシールフィン側から見たときの状態を示す平面図である。
【0029】
この環状構造物30、40は、図3に示すように、タービンロータ軸方向に波打つ形状を有する円環状の4つの空隙構造体32、42をタービンロータ軸方向に重ね合わせて構成されている。この構成によって、タービンロータ周方向に区分された複数の空隙部31、41が形成される。このように、タービンロータ軸方向に波打つ形状を有する円環状の空隙構造体32、42をタービンロータ軸方向に重ね合わせることで、環状構造物30、40を構成してもよい。
【0030】
なお、上記した環状構造物30、40では、図2または図3に示すように、隣接する列の空隙部31、41が互い違いに配置された千鳥格子状に位置する一例を示しているがこの構成に限られるものではない。隣接する列の空隙部31、41がタービンロータ軸方向に直線上に配置されてもよい。また、ここでは、静翼内輪12の内周面に円環状のシールフィン20が周設され、タービンロータ11の外周に環状構造物30、40が周設された一例を示したが、静翼内輪12の内周に環状構造物30、40が周設され、タービンロータ11の外周面に円環状のシールフィン20が周設されてもよい。
【0031】
次に、シール装置10の作用について説明する。
【0032】
シール装置10では、図1に示すように、環状構造物30、40とシールフィン20とによって狭小な間隙が形成されている。この間隙により蒸気タービンの作動流体である蒸気が漏洩することを防止している。また、環状構造物30、40は、上記したようなハニカム構造のような区分された複数の空隙部31、41を有する構造で構成されているので、例えば、シールフィン20が環状構造物30、40に接触した際において、従来の中実の材料で構成される環状構造物を使用したときよりも接触面積が小さく、接触した部分の環状構造物30、40が、速やかに摩耗または変形する。そのため、シール装置10における損傷を少なく抑えることができる。また、接触によって発生する摩擦熱は、従来の中実の材料で構成される環状構造物を使用したときに比べて大幅に低減する。このように、シールフィン20が環状構造物30、40に接触した際におけるシール装置10の損傷が少ないため、従来の中実の材料で構成される環状構造物を使用するシール装置のように、接触部が摩耗して間隙間隔が増加することはない。そのため、接触後においても、シールフィン20と環状構造物30、40との離間間隔は増加することなく、シール性能の低下を抑制することができる。さらに、接触後において、シールフィン20と環状構造物30、40との離間間隔が減少することもあり、この場合にはシール性能が向上する。
【0033】
また、環状構造物30、40をシールフィン側が開口した複数の空隙部31、41を有する構造とすることで、シール装置10の入口およびシール装置10内の作動流体の一部がこの空隙部31、41へ流入し、作動流体の旋回方向(周方向)速度成分が打ち消される。これによって、作動流体の旋回方向(周方向)速度成分に起因して発生する旋回流を伴う自励振動を抑止することができる。
【0034】
なお、ここでは、シール装置10を静翼内輪12とタービンロータ11との間のシール装置として用いた一例を示したが、シール装置10は、動翼の先端部に固定されたシュラウドとその外周に配置されたケーシングとの間に設けられる、作動流体の漏洩を防止するラビリンスシールの構成に適用することができる。この場合においても、静翼内輪12とタービンロータ11との間のシール装置として用いた場合と同様の作用効果が得られる。すなわち本実施の形態については、タービンロータ11などの回転構造物と、静翼やケーシングといった静止構成物との間の互いに対向する周面の間からの作動流体の漏洩を防止するシール装置として適用可能なものである。したがって、本実施の形態にて例示した静翼内輪12の内周面およびタービンロータ11の外周面を、静止構造物および回転構造物の互いに対向する周面のいずれか一方および他方として適用すれば同様な作用効果を得ることが可能である。
【0035】
上記したように、本発明に係る第1の実施の形態のシール装置10によれば、シールフィン20に対向配置される環状構造物30、40をハニカム構造のような区分された複数の空隙部31、41を有する構造で構成することで、接触した際のシール装置10の損傷を抑制することができる。これによって、損傷後におけるシール性能の低下を抑制することができる。また、複数の空隙部31、41を有する環状構造物30、40を用いることで、シール装置10の入口およびシール装置10内に流入した作動流体の旋回方向(周方向)速度成分が打ち消し、旋回方向(周方向)速度成分に起因して発生する旋回流を伴う自励振動を抑止することができる。
【0036】
(第2の実施の形態)
図4は、本発明の第2の実施の形態のシール装置10を備えた蒸気タービンにおけるシール装置の一部の断面を示した図である。図5および図6は、本発明の第2の実施の形態の他の形状のシール装置10を備えた蒸気タービンにおけるシール装置の一部の断面を示した図である。なお、第1の実施の形態のシール装置10と同一の構成部分には同一の符号を付して、重複する説明を省略または簡略する。
【0037】
本発明に係る蒸気タービンは、タービンロータ11とタービンロータ11に植設された動翼(図示しない)とを含む回転構造物と、静翼(図示しない)と静翼の内径端部に沿って設けられた静翼内輪12と静翼の外径端部に沿って設けられた静翼外輪(図示しない)とを含む静止構造物とを備える。
【0038】
図4に示すように、タービンロータ11の外周面には、環状構造物50がタービンロータ半径方向に突出し、突出端縁が静翼内輪12の内周面と所定の空隙を有するように離間して周設されている。また、環状構造物50は、その一端部がタービンロータ11に周設された凹部14内に挿入され溶着されている。ここで示すシール装置10は、シールフィンが静翼内輪12の内周面とタービンロータ11の外周面に、タービンロータ軸方向に交互に周設される、いわゆるくい違い構造のシール装置である。したがって、タービンロータ11に設けられた環状構造物50は、シールフィンとしての機能を備えている。
【0039】
また、環状構造物50の間における、静翼内輪12の内周面には、円環状のシールフィン20が突出して周設されている。また、タービンロータ11の外周には、このシールフィン20に対向する位置に、シールフィン20と離間させて環状構造物40が周設されている。この環状構造物40は、タービンロータ11の外周面と同一平面になるようにタービンロータ11に周設された凹部13に収容され、溶着されている。
【0040】
なお、シールフィン20と環状構造物40との離間距離および静翼内輪12の内周面と環状構造物50との離間距離は、シールフィン20とタービンロータ11におけるタービンロータ半径方向への熱伸び差等を考慮して適宜設定される。また、シール装置10では、少なくとも、環状構造物50、およびシールフィン20と環状構造物40からなる1対のシール構造を備える。また、蒸気タービンの作動流体である蒸気の漏洩を効果的に防止するために、シール装置10における、少なくとも最上流側には環状構造物50が配置されることが好ましい。また、シール装置10における、最上流側および最下流側の双方に環状構造物50が配置される構成としてもよい。
【0041】
また、環状構造物50は、図4に示すように、静翼内輪側の突出端部が、上流側から下流側(図4では右側から左側)に向かって、静翼内輪12の内周面との離間距離を徐々に増加させる傾斜面51を有している。また、環状構造物50における他の構造は、第1の実施の形態で説明した環状構造物30、40における構造と同様であり、ハニカム構造のような区分された複数の空隙部を有する構造で構成されている。
【0042】
また、第1の実施の形態における空隙構造体32、42と同様に、環状構造物50の傾斜面51における静翼内輪側の端面に、例えば、Ni、Cr、Al等を有するアブレイダブル材料を溶射して被覆層を形成してもよい。これによって、例えば、環状構造物50の突出端縁が静翼内輪12の内周面に接触した場合においても、静翼内輪12の損傷を抑制し、さらに環状構造物50自体の発熱や摩耗を抑制することができる。
【0043】
また、ここでは、静翼内輪12の内周面に円環状のシールフィン20が周設され、タービンロータ11の外周に環状構造物40、50が周設された一例を示したが、静翼内輪12の内周に環状構造物40、50が周設され、タービンロータ11の外周面に円環状のシールフィン20が周設されてもよい。
【0044】
次に、シール装置10の作用について説明する。
【0045】
シール装置10では、図4に示すように、環状構造物50と静翼内輪12の内周面、および環状構造物40とシールフィン20とによって狭小な間隙が形成されている。この間隙により蒸気タービンの作動流体である蒸気が漏洩することを防止している。また、環状構造物40は、ハニカム構造のような区分された複数の空隙部41を有する構造で構成されているので、例えば、シールフィン20が環状構造物40に接触した際において、従来の中実の材料で構成される環状構造物を使用したときよりも接触面積が小さく、接触した部分の環状構造物40が、速やかに摩耗または変形する。そのため、シール装置10における損傷を少なく抑えることができる。また、接触によって発生する摩擦熱は、従来の中実の材料で構成される環状構造物を使用したときに比べて大幅に低減する。このように、シールフィン20が環状構造物40に接触した際におけるシール装置10の損傷が少ないため、従来の中実の材料で構成される環状構造物を使用するシール装置のように、接触部が摩耗して間隙間隔が増加することはない。そのため、接触後においても、シールフィン20と環状構造物40との離間間隔は増加することなく、シール性能の低下を抑制することができる。さらに、接触後において、シールフィン20と環状構造物40との離間間隔が減少することもあり、この場合にはシール性能が向上する。
【0046】
また、環状構造物50も、ハニカム構造のような区分された複数の空隙部を有する構造で構成されているので、静翼内輪12の内周面に接触した際において、従来の中実の材料で構成されるシールフィンを使用したときよりも接触面積が小さい。これによって、接触によって発生する摩擦熱は、従来の中実の材料で構成されるシールフィンを使用したときに比べて大幅に低減する。また、環状構造物50における静翼内輪側の突出端部が、上流側から下流側(図4では右側から左側)に向かって、静翼内輪12の内周面との離間距離を徐々に増加させる傾斜面51を有しているので、シール装置10内への作動流体の流入を抑制でき、シール性能を向上させることができる。
【0047】
また、環状構造物40、50をシールフィン側または静翼内輪側が開口した複数の空隙部を有する構造とすることで、シール装置10内の作動流体の一部がこの空隙部へ流入し、作動流体の旋回方向(周方向)速度成分が打ち消される。これによって、作動流体の旋回方向(周方向)速度成分に起因して発生する旋回流を伴う自励振動を抑止することができる。
【0048】
なお、ここでは、シール装置10を静翼内輪12とタービンロータ11との間のシール装置として用いた一例を示したが、シール装置10は、動翼の先端部に固定されたシュラウドとその外周に配置されたケーシングとの間に設けられる、作動流体の漏洩を防止するラビリンスシールの構成に適用することができる。この場合においても、静翼内輪12とタービンロータ11との間のシール装置として用いた場合と同様の作用効果が得られる。
【0049】
ここで、図5に示すように、環状構造物50は、静翼内輪側の突出端部が、上流側から下流側(図5では右側から左側)に向かって、静翼内輪12の内周面との離間距離を徐々に減少させる傾斜面55を有して構成されてもよい。この構成を備えることで、特に、シール装置10の入口およびシール装置10内へ流入する作動流体の旋回方向(周方向)速度成分を打ち消す作用を促進することができる。これによって、旋回方向(周方向)速度成分に起因して発生する旋回流を伴う自励振動を抑止する機能を向上させることができる。
【0050】
また、図6に示すように、環状構造物60は、静翼内輪側の突出端部が、上流側から下流側(図6では右側から左側)に向かって、静翼内輪12の内周面との離間距離を徐々に減少させる第1の傾斜面58を有し、かつこの第1の傾斜面58よりも下流側に、静翼内輪12の内周面との離間距離を徐々に増加させる第2の傾斜面59を有して構成されてもよい。この構成を備えることで、シール装置10の入口およびシール装置10内へ流入する作動流体の旋回方向(周方向)速度成分を打ち消す作用を促進することができる。これによって、作動流体の旋回方向(周方向)速度成分に起因して発生する旋回流を伴う自励振動を抑止する機能を向上させることができる。さらに、シール装置10内への作動流体の流入を抑制でき、シール性能を向上させることができる。
【0051】
上記したように、本発明に係る第2の実施の形態のシール装置10によれば、シールフィン20に対向配置される環状構造物40をハニカム構造のような区分された複数の空隙部41を有する構造で構成することで、接触した際のシール装置10の損傷を抑制することができる。また、少なくとも最上流側のシールフィンを環状構造物50、60で構成することで、蒸気タービンの作動流体である蒸気の漏洩を効果的に防止することができる。さらに、複数の空隙部を有する環状構造物40、50、60を用いることで、作動流体の旋回方向(周方向)速度成分に起因して発生する旋回流を伴う自励振動を抑止する機能を向上させることができる。
【0052】
(第3の実施の形態)
図7は、本発明の第3の実施の形態のシール装置10を構成する環状構造物70の一部を示す斜視図である。なお、第3の実施の形態のシール装置10を構成する環状構造物70は、図1に示した、第1の実施の形態の環状構造物30に溝構造部72を設けたものである。なお、第1の実施の形態のシール装置10と同一の構成部分には同一の符号を付して、重複する説明を省略または簡略する。
【0053】
図7に示すように、第3の実施の形態のシール装置10を構成する環状構造物70は、環状構造物70を構成する最下流側の壁部71を残し、他の構成を除去して形成される溝構造部72を有している。すなわち、この溝構造部72は、環状構造物70の周方向の所定部分において、最下流側の空隙構造体32における最も下流側の壁部71のみを残し、それよりも上流側に位置する空隙構造体32をすべて取り除くことで形成される。この溝構造部72は、少なくとも環状構造物70の周方向に2か所以上設けられ、周方向に均等に配置されることが好ましい。
【0054】
溝構造部72は、作動流体の旋回方向(周方向)速度成分を打ち消す作用をさらに向上させるものである。溝構造部72の形状は、図7に示すように、環状構造物70の外周側から内周側に向かって徐々に溝間隔(周方向の間隔)が狭くなる、いわゆるV字形状に構成されている。また、このV字形状の溝構造部72において、溝構造部72の溝間隔がタービンロータ下流側へ行くに伴って徐々に狭くなるように構成してもよい。
【0055】
なお、溝構造部72の形状は、このV字形状に限られるものではなく、作動流体の一部を流入させることができる形状であればよい。溝構造部72は、例えば、環状構造物70の外周側から内周側に向かって一定の溝間隔を有する形状で構成されてもよい。
【0056】
また、溝構造部72は、上記したように環状構造物70の周方向の少なくとも2個所に均等に形成されていればよいが、好ましくは静翼内輪12などの静止構造部材の周方向分割数と同数となるように形成されているとよい。また、シール装置10において、溝構造部72は、少なくとも最上流側の環状構造物70に設けられる。なお、すべての環状構造物70に溝構造部72を設けることはより好ましい。
【0057】
次に、シール装置10の作用について説明する。
【0058】
なお、本発明の第3の実施の形態のシール装置10では、図1に示したシール装置10の環状構造物30の代わりに、上記した環状構造物70が備えられる。ここでは、図1を参照して第3の実施の形態のシール装置10の作用について説明する。
【0059】
シール装置10では、環状構造物40、70とシールフィン20とによって狭小な間隙が形成されている。この間隙により蒸気タービンの作動流体である蒸気が漏洩することを防止している。また、環状構造物40、70は、上記したようなハニカム構造のような区分された複数の空隙部41、31を有する構造で構成されているので、例えば、シールフィン20が環状構造物40、70に接触した際において、従来の中実の材料で構成される環状構造物を使用したときよりも接触面積が小さく、接触した部分の環状構造物40、70が、速やかに摩耗または変形する。そのため、シール装置10における損傷を少なく抑えることができる。また、接触によって発生する摩擦熱は、従来の中実の材料で構成される環状構造物を使用したときに比べて大幅に低減する。このように、シールフィン20が環状構造物40、70に接触した際におけるシール装置10の損傷が少ないため、従来の中実の材料で構成される環状構造物を使用するシール装置のように、接触部が摩耗して間隙間隔が増加することはない。そのため、接触後においても、シールフィン20と環状構造物40、70との離間間隔は増加することなく、シール性能の低下を抑制することができる。さらに、接触後において、シールフィン20と環状構造物40、70との離間間隔が減少することもあり、この場合にはシール性能が向上する。
【0060】
また、環状構造物40、70をシールフィン側が開口した複数の空隙部41、31を有する構造とすることで、シール装置10の入口およびシール装置10内の作動流体の一部がこの空隙部41、31へ流入し、作動流体の旋回方向(周方向)速度成分が打ち消される。さらに、環状構造物70に設けられた溝構造部72にシール装置10の入口およびシール装置10内の作動流体の一部が流入し、作動流体の旋回方向(周方向)速度成分が打ち消される。なお、溝構造部72には、環状構造物70を構成する最下流側の壁部71が残存しているため、溝構造部72に流入した作動流体は、下流側へ直接流れることなく、溝構造部72において作動流体の旋回方向(周方向)速度成分が打ち消される。これらの作動流体の旋回方向(周方向)速度成分を打ち消す作用によって、旋回方向(周方向)速度成分に起因して発生する旋回流を伴う自励振動を抑止することができる。
【0061】
なお、ここでは、図1に示した、第1の実施の形態の環状構造物30に溝構造部72を設けた一例を示したが、上記した第2の実施の形態の環状構造物50、60に溝構造部72を設けてもよい。第2の実施の形態の環状構造物50、60に溝構造部72を設けた場合においても、上記した第1の実施の形態の環状構造物30に溝構造部72を設けた場合と同様の作用効果を得ることができる。
【0062】
上記したように、本発明に係る第3の実施の形態のシール装置10によれば、溝構造部72を有する環状構造物70を設けることで、第1の実施の形態のシール装置10における効果に加えて、シール装置10の入口およびシール装置10内の作動流体の旋回方向(周方向)速度成分を打ち消す効果をより促進することができる。これによって、旋回方向(周方向)速度成分に起因して発生する旋回流を伴う自励振動を抑止することができる。
【0063】
以上、本発明を一実施の形態により具体的に説明したが、本発明はこれらの実施の形態にのみ限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】本発明の第1の実施の形態のシール装置を備えた蒸気タービンにおけるシール装置の一部の断面を示した図。
【図2】環状構造物をシールフィン側から見たときの状態を示す平面図。
【図3】他の形状を有する環状構造物をシールフィン側から見たときの状態を示す平面図。
【図4】本発明の第2の実施の形態のシール装置を備えた蒸気タービンにおけるシール装置の一部の断面を示した図。
【図5】本発明の第2の実施の形態の他の形状のシール装置を備えた蒸気タービンにおけるシール装置の一部の断面を示した図。
【図6】本発明の第2の実施の形態の他の形状のシール装置を備えた蒸気タービンにおけるシール装置の一部の断面を示した図。
【図7】本発明の第3の実施の形態のシール装置を構成する環状構造物の一部を示す斜視図。
【図8】ターボ機械の一例として従来の蒸気タービンの構造の概要を示す図。
【図9】従来の蒸気タービンにおいて、回転部材側にシールフィンを備えたラビリンスシールの構成を説明するための断面図。
【図10】従来の蒸気タービンにおけるタービンロータが振れ廻っているときのシールフィン間におけるチャンバ内の圧力分布の一例を示す図。
【図11】従来の蒸気タービンにおける不安定化力とスワール(旋回流)の関係を示した図。
【符号の説明】
【0065】
10…シール装置、11…タービンロータ、12…静翼内輪、13,14…凹部、20…シールフィン、30,40…環状構造物、31,41…空隙部、32…空隙構造体。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
タービンロータと前記タービンロータに植設された動翼とを含む回転構造物と、静翼と前記静翼の内径端縁に沿って設けられた静翼内輪と前記静翼の外径端縁に沿って設けられた静翼外輪とを含む静止構造物とを備え、前記回転構造物および前記静止構造物のそれぞれの周面が互いに対向した蒸気タービンにおける対向する前記周面の間からの作動流体の漏洩を防止するシール装置であって、
前記回転構造物および前記静止構造物の一方の周面から突出させて周設された円環状のシールフィンと、
前記シールフィンに対向する前記静止構造物および前記回転構造物の他方の周面に前記シールフィンと離間させて周設され、周方向に区分された複数の空隙部を有する環状構造物と
を具備することを特徴とするシール装置。
【請求項2】
前記環状構造物は、前記静止構造物および前記回転構造物の他方の周面と同一平面になるように周設されていることを特徴とする請求項1記載のシール装置。
【請求項3】
前記環状構造物は、前記静止構造物および前記回転構造物の他方の周面から突出するように設けられるとともに、前記環状構造物を構成する最下流側の壁部を残し他の構成を除去して形成される溝構造部を周方向に2個所以上有していることを特徴とする請求項1記載のシール装置。
【請求項4】
タービンロータと前記タービンロータに植設された動翼とを含む回転構造物と、静翼と前記静翼の内径端縁に沿って設けられた静翼内輪と前記静翼の外径端縁に沿って設けられた静翼外輪とを含む静止構造物とを備え、前記回転構造物および前記静止構造物のそれぞれの周面が互いに対向した蒸気タービンにおける対向する前記周面の間からの作動流体の漏洩を防止するシール装置であって、
前記回転構造物および前記静止構造物の一方の周面から突出され、かつ当該一方の周面に対向する前記静止構造物および前記回転構造物の他方の周面と離間させて周設され、周方向に区分された複数の空隙部を有する第1の環状構造物と、
前記回転構造物および前記静止構造物の他方の周面のうち前記第1の環状構造物が対向する部分と異なる部分から突出させて周設された円環状のシールフィンと、
前記シールフィンに対向する前記一方の周面と同一平面になるように周設され、周方向に区分された複数の空隙部を有する第2の環状構造物と
を具備することを特徴とするシール装置。
【請求項5】
前記第1の環状構造物の突出端部が、上流側から下流側に向かって、対向する前記周面との離間距離を徐々に増加させるように傾斜面を有して構成されていることを特徴とする請求項4記載のシール装置。
【請求項6】
前記第1の環状構造物の突出端部が、上流側から下流側に向かって、対向する前記周面との離間距離を徐々に減少させるように傾斜面を有して構成されていることを特徴とする請求項4記載のシール装置。
【請求項7】
前記第1の環状構造物の突出端部が、上流側から下流側に向かって、対向する前記周面との離間距離を徐々に減少させるように第1の傾斜面を有し、かつ第1の傾斜面よりも下流側に、対向する前記周面との離間距離を徐々に増加させるように第2の傾斜面を有して構成されていることを特徴とする請求項4記載のシール装置。
【請求項8】
前記第1の環状構造物が、前記第1の環状構造物を構成する最下流側の壁部を残し他の構成を除去して形成される溝構造部を周方向に2個所以上有していることを特徴とする請求項4乃至7のいずれか1項記載のシール装置。
【請求項9】
タービンロータと前記タービンロータに植設された動翼とを含む回転構造物と、静翼と前記静翼の内径端縁に沿って設けられた静翼内輪と前記静翼の外径端縁に沿って設けられた静翼外輪とを含む静止構造物とを備えた蒸気タービンであって、
請求項1乃至8のいずれか1項記載のシール装置を備えたことを特徴とする蒸気タービン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2009−257116(P2009−257116A)
【公開日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−104528(P2008−104528)
【出願日】平成20年4月14日(2008.4.14)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】