説明

シール

【課題】エンジンの再始動時に有効な液圧シールをほぼ直ちに再形成できるのに十分なオイルを停止時に保持できる液圧シール装置を提供する。
【解決手段】 回転機械、特にガスタービンエンジン用の液圧シールは、液圧シールと液圧トラップとを含む。機械の停止時にオイルは液圧トラップに保持される。機械を再始動するとき、液圧トラップからのオイルを利用して液圧シールを再形成でき、これによって、代表的にはこのようなシール装置で起こる漏れを、シール装置を通るオイルの流れが再度確立されるまで、減少するか或いはなくす。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はシールに関する。本発明は、詳細には、相対的に回転する二つのシャフト間にシールを提供するのに使用される種類の液圧シールに関するが、これ以外を排除するものではない。
【背景技術】
【0002】
相対的に回転する二つのシャフト間をシールするために液圧シールを使用することは周知である。米国特許第6、568、688号にこのようなシールが記載されており、このシールでは、シールの低圧側からオイルを連続的に供給し、オイルはシールを通過して冷却を行い、スカベンジング(scavenging)を行うためにシールの低圧側に回収される。
【0003】
図1は、米国特許第6、568、688号に記載された既知の液圧シール装置の上死点での断面図である。低圧シャフト12及び高圧シャフト14は、2シャフトガスタービンエンジンの同心のシャフトであり、共通の回転軸線16を中心として異なる速度で回転する。高圧シャフト14は、ベアリング18で支持されている。
【0004】
ベアリング18の右側及び高圧シャフト14の半径方向外側は比較的低圧の領域20であり、ベアリング18の左側及び高圧シャフト14の半径方向内側は比較的高圧の領域22である。これらの二つの領域20及び22は、作動時に互いから効果的にシールされていなければならず、これを達成するため、全体に参照番号24を付した液圧シールが二つのシャフト12と14との間に設けられている。
【0005】
液圧シール24は環状部分(annulus)26を含む。この環状部分26は、高圧シャフト14の内側に設けられ、シャフト14の全周に亘って半径方向外方に延びている。環状部分26は、半径方向内方に延びる壁27によって画成される。これらの壁27は、シャフト14の全周に亘って延びている。環状部分26内にウェブ28が突出している。このウェブ28は低圧シャフト12に配置されており、シャフト12の全周に亘って半径方向外方に延びている。
【0006】
作動では、環状部分26の大部分及び特にウェブ28の自由端を取り囲む部分は、ハッチングを施した領域で示すように、オイル又は何らかの他の液圧媒体30で充填されている。
【0007】
作動では、オイルは、以下のように、環状部分26に連続的に供給された状態に維持される。二つのシャフト12、14間のオイルジェット(図示せず)が、オイルを、矢印32が示す方向に送出する。このオイルの幾分かは、ベアリング18の潤滑に役立ち、残りのオイルは高圧シャフト14の内壁34に集まる。これは、シャフト12、14の回転により生じる遠心力の効果による。内壁34は、シャフト12及び14間の空間の半径方向外側にある。
【0008】
既知の構成の変形例では、中空シャフト12の中心に沿ってオイルを供給することもできる。
【0009】
この場合も、遠心力の効果により、オイルは、環状入口領域36を通って環状部分26に進入する。環状部分26は、内壁34よりも半径方向外側にある。このプロセスでは、オイル30は、環状部分26に、ウェブ28の左側及び内側の両方に集まり、図示のように最適のサイホン型液圧シールを形成する。
【0010】
環状部分26を形成する半径方向内方に延びる側壁は堰として作用し、環状部分26内のオイルのレベル即ち液面を制限するということは理解されるよう。ウェブ28の各側にあるオイルの表面即ち液面は、最終的には、夫々の側壁が半径方向内方にどれ程延びているのかによって制限される。これは、環状入口領域36で見ることができる。
【0011】
ウェブ28の左側では、オイル30の表面即ち液面38は、ウェブ28の右側よりも大きく半径方向外方にある。これは、左側が領域22と連通しており、この領域22の圧力が右側と連通した領域20よりも高いためである。
【0012】
環状部分26内のスクーププレート40は通路42を形成し、この通路を通って余分のオイルが出口ダクト44まで流れることができる。このようにして、液圧シール24を通してオイルの連続した流れが維持される。(流通を確保するためのこの他の手段が既知であり、本願を読む当業者には当たり前のことである。例えば、オイルは、ウェブ28の反対側に設けられた堰の一つを越えてオイルジェットに流れてもよい。)これにより、オイルが過度に長期間に亘って環状部分26内にとどまる場合に生じる望ましからぬオイルの過熱及びコーキングを阻止する。一般的には、オイルに伝達される熱量は、作動時のフィン28の浸漬深さで決まる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】米国特許第6、568、688号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
図1に示し且つ上文中に説明した周知の液圧シール装置の問題点は、エンジンの停止時に、シールを維持する遠心力の効果が停止し、及び従って、シールが重力の作用で壊れてしまうということである。オイルはシールの底部に最大直径の堰(即ち、エンジンの下死点から見て、半径方向内方に最小高さまで延びる堰)の高さまで集まる。余分のオイルは、堰を溢流し、失われる。エンジンを再始動すると、遠心力の効果により、保持されたオイルがシール装置の周囲に亘って均等に分配される。保持されたオイルの量が、有効な液圧シールを再形成する(ウェブを沈めることによって)のに不十分である場合には、シールは、十分な量の新たなオイルが環状部分26に送出されるまで、漏れてしまう。
【課題を解決するための手段】
【0015】
堰の直径を小さくする(即ち堰を更に半径方向内方に延びるように形成する)と、停止時に更に多くのオイルを保持でき、そのためシールを更に迅速に再形成できるが、堰の直径が小さいと、通常の作動中にウェブが更に深くオイル内に浸漬され、そのため、通常の作動中にオイルに伝達される熱量が増大する。
【0016】
液圧シール装置の設計は、従来、これらの二つの相反する望ましからぬ状況のバランスをとり、一方では、始動時にシールが漏れること、及び他方では、使用時に、シールのため、過剰の熱がオイルに伝達されることがないようにする必要によって、制限されてきた。
【0017】
本発明者は、周知の液圧シール装置と関連した問題点を減少するか或いは大幅に解消する液圧シール装置を案出した。この液圧シール装置は、通常の作動中にウェブを過度に浸漬しないが、エンジンの再始動時に有効な液圧シールをほぼ直ちに再形成できるのに十分なオイルを停止時に保持できる。
【0018】
本発明は、特許請求の範囲に記載した液圧シール装置を提供する。
【0019】
本発明の作動が更に明瞭に理解されるように、以下に例示の実施例を添付図面を参照して説明する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】図1は、既知の液圧シール装置の上死点での断面図である。
【図2】図2は、本発明による液圧シール装置の断面図である。
【図3】図3は、図2のIII−III線での断面図である。
【図4】図4は、シール装置のこの部分が下死点にある場合の図2のIV−IV線での断面図である。
【図5】図5は、エンジン停止後の第1状態での図2の液圧シール装置の図である。
【図6】図6は、エンジン停止後の第2状態での図2の液圧シール装置の図である。
【図7】図7は、エンジン再始動後の第3状態での図2の液圧シール装置の図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
先ず最初に図2を参照すると、この図には、本発明による液圧シール装置の全体に参照番号210が付してある。
【0022】
図3は、図2のIII−III線での断面図である。図1に示す実施例におけるのと同様に、半径方向内方に延びる壁227が、環状部分226を形成し、半径方向外方に延びるウェブ228がこれらの壁227間を延びている。
【0023】
液圧シール出口堰252が通路254を形成し、使用では、スカベンジングを行うため、この通路を通して余分のオイルを流すことができる。図2で更に明瞭にわかるように、二つの第1通路254が、シールアッセンブリ210の直径方向反対側の位置に設けられている。
【0024】
出口堰252を越えてシール装置210から流出するオイルは、液圧トラップ250に進入する。トラップ250は、シール装置210の全周に亘って延びている。シールアッセンブリ210の直径方向反対側の二つの位置に、及び通路254から90°離間されて、二つの液圧トラップ出口堰256が設けられている。これらの出口堰256は、二つの第2通路を形成する。使用では、スカベンジングを行うため、余分のオイルが、液圧トラップ250からこれらの堰256を越えて流れる。スカベンジング手段は示してないが、図1の実施例におけるのと本質的に同じ機能を果たす。各堰256の領域には、液圧トラップ250を周囲の残りよりも大きく半径方向外方に延長することによって、液圧トラップ250にポケット258が設けられている。これらのポケット258の目的を以下に説明する。
【0025】
作動では、遠心力の効果により、有効な液圧シールを環状部分226に亘って維持する。
【0026】
図5は、エンジン停止後の本発明による液圧シール装置の作動を示すが、この図は、液圧シール装置が静止する直前の状態を示す。シール装置は、矢印560で示すように、ゆっくりと時計廻り方向に回転している。
【0027】
遠心力がなくなると、シール装置のほぼ全てのオイルがシール装置210の底部に集まり、表面即ち液面538が形成された状態となっている。図3を参照して上文中に説明したように、液圧シール出口堰252の通路254が液面538よりも下にあると、オイルは、シール装置の環状部分226から液圧トラップ250に、液面が等しくなるまで流入する。シール装置が矢印560の方向に回転しているため、堰252及び従って通路254が、図5に示すように、液面538の上方に上る。この状態では、環状部分226と液圧トラップ250との間には(図4でわかるように)連通路はなく、そのため、シール装置210の環状部分226からオイルがこれ以上漏出することはない。
【0028】
図6は、矢印560の方向に更に65°程度回転したときの図5の装置を示す。液圧トラップ250内に所定量のオイル630が液面638まで保持されている。この状態では、液圧トラップ出口堰256が下死点にあるため、余分のオイルは、スカベンジングのため、堰256を越えて漏出する。
【0029】
ポケット258が設けられているため、液圧トラップ出口堰256が下死点にあるとき、液圧トラップ250に保持できるオイル630の量が増大する。液圧トラップ250の周囲の残りにはポケット258が設けられておらず、そのため、液面は、液圧トラップ250の任意のこの他の部分が下死点にある場合、これよりも高くなる。これは、図5の液面538を図6の液面638と比較することによってわかる。この利点は、液圧シール出口堰252が下死点又は下死点の近くにある場合、液面538が比較的高いため、オイルが液圧シール環状部分226の外にこれ以上漏出せず、これに対し、液圧シール出口堰256が下死点又は下死点の近くにある場合、液面638が比較的低いため、液圧トラップ250の外にオイルが漏出することが阻止されるということである。ポケット258が設けられておらず、液面が均等である場合には、トラップ250は、その出口堰256が下死点に近づく度毎に少量のオイルを漏出し、出口堰252が下死点に近づくときに液圧シール226からオイルを再充填する。このようにして、液圧シール環状部分226は、この環状部分226が保持するオイルの量が、始動時に液圧シールを再形成する上で不十分になるまで、ゆっくりと排液する。ポケット258が設けられているため、従って液圧トラップ250内の液面が変化するため、液圧シール環状部分226又は液圧トラップ250のいずれからもオイルが失われることがない。そのため、ガスタービンエンジンの再始動後直ちに液圧シールを再形成するのに十分なオイルが液圧シール環状部分226に保持される。
【0030】
図7は、本発明によるシール装置の作動上の別の特徴を示す。液圧トラップ250の半径方向内壁759を、二つの第1通路254の各々の領域で、半径方向外方に移動した。同様に、液圧トラップ250の半径方向外壁761を、半径方向外方に移動した。その結果、凹所即ちU字形状トラップ762が、二つの第1通路254の各々の領域に形成される。これらの凹所762内では、半径方向内壁759が、周囲の残りに亘り、半径方向外壁761の通常の半径方向位置の半径方向外方にあるということがわかる。ガスタービンエンジンを始動すると、オイル730の幾分かが液圧トラップ250から凹所762に流入する。遠心力764が、力766(即ち、液圧シール環状部分226内の圧力が、液圧トラップ250内の圧力よりも高いために発生する力)に抗して作用する。そのため、オイルの二つの領域30は、液圧シール出口堰252の通路254をシールするように作用する。これにより、空気が液圧シール環状部分226から液圧トラップ250内に漏出しないようにする。液圧シール環状部分226から液圧トラップ250内への空気の漏出は、このような構成が設けられていない場合には、シール装置210を通るオイルの流れが再形成される(図3を参照して上文中に説明したように)まで生じる。
【0031】
本明細書に説明した実施例に対し、本発明の要旨を逸脱することなく、様々な変更を行うことができるということは理解されるべきである。
【0032】
以上説明した本発明の実施例では、シールとトラップとの間に二つの堰が設けられており、トラップとスカベンジとの間に二つの堰が設けられている。本発明は、別の態様では、これらの二つの位置のいずれかで異なる数の堰が設けられていてもよい。
【0033】
上文中に説明した実施例の堰は、互いから90°離間されているが、これと異なる角度で離間されていてもよい。
【0034】
いずれかの位置又は両方の位置のいずれか(シールとトラップとの間及びトラップとスカベンジとの間)で、全体に環状をなした堰で本発明を実施できる。このような形体では、図7に示す随意の特徴を組み込むことができず、従って、シールは、始動時に、一時的に漏れを生じ易いが、それでも、本発明の本質的利点が達成される。
【符号の説明】
【0035】
210 液圧シール装置
226 環状部分
227 壁
228 ウェブ
250 液圧トラップ
252 液圧シール出口堰
254 第1通路
256 液圧トラップ出口堰
258 ポケット
538 液面
630 オイル
638 液面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転機械用の液圧シール装置であって、
液圧シールと、
前記回転機械の停止時に、前記液圧シールからオイルを保持するように構成された液圧トラップとを備えた、液圧シール装置。
【請求項2】
請求項1に記載の液圧シール装置において、
前記液圧トラップは、前記機械の再始動時に前記液圧シールを通る漏れを最少にするように作動する、液圧シール装置。
【請求項3】
請求項1に記載の液圧シール装置において、
前記液圧トラップは、保持できるオイルの量を増大するための少なくとも一つのポケットを備えた、液圧シール装置。
【請求項4】
請求項1に記載の液圧シール装置において、
前記液圧トラップは、前記液圧シールと軸線方向に隣接している、液圧シール装置。
【請求項5】
請求項1に記載の液圧シール装置において、
前記液圧シールと前記液圧トラップとの間で流体連通した二つの第1通路を備えた、液圧シール装置。
【請求項6】
請求項5に記載の液圧シール装置において、
前記二つの第1通路は、直径方向反対側の位置にある、液圧シール装置。
【請求項7】
請求項5に記載の液圧シール装置において、更に、
前記液圧トラップと流体連通した二つの第2通路を含む、液圧シール装置。
【請求項8】
請求項7に記載の液圧シール装置において、
前記二つの第1通路は直径方向反対側の位置にあり、前記二つの第2通路は、前記二つの第1通路から90°離間されている、液圧シール装置。
【請求項9】
請求項5に記載の液圧シール装置において、
前記第1及び第2の通路の配置は、前記機械の停止時にオイルが前記液圧シール装置の外に漏れないように配置されている、液圧シール装置。
【請求項10】
請求項5に記載の液圧シール装置において、更に、
各第1通路の領域にU字形状トラップを含む、液圧シール装置。
【請求項11】
請求項10に記載の液圧シール装置において、
前記U字形状トラップは、前記機械の再始動時に、前記液圧シールから前記液圧トラップ内への空気の漏れを減少するか或いはなくすように作用する、液圧シール装置。
【請求項12】
請求項1に記載の液圧シール装置において、
前記回転機械は、ガスタービンエンジンである、液圧シール装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−107038(P2010−107038A)
【公開日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2009−235919(P2009−235919)
【出願日】平成21年10月13日(2009.10.13)
【出願人】(591005785)ロールス・ロイス・ピーエルシー (88)
【氏名又は名称原語表記】ROLLS−ROYCE PUBLIC LIMITED COMPANY
【Fターム(参考)】