説明

ジアルキルシラン化合物およびその製造方法

【課題】非環状アセタール置換フェニル基を有するジアルキルシラン化合物およびその製造方法の提供。
【解決手段】非環状アセタール置換フェニルグリニヤール試薬とアリールオキシ基又はハロゲン原子を有するジアルキル有機ケイ素化合物とを反応させることで下記式(1)


(式中、RおよびRは同一又は異なってもよいアルキル基を示し、Rは非環状アセタール基を示す。)で表わされるジアルキルシラン化合物を高収率で製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体用絶縁膜機能性樹脂や液晶化合物の原料として有用な化合物である非環状アセタール置換フェニル基を有するジアルキルシラン化合物およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ホルミルフェニル基を有するシロキサンは、高い官能基変換能を有しており、半導体関連分野においてポリベンゾオキサゾールの原料、又は液晶化合物の原料として有用である。当該シロキサンを合成する方法としては、テトラメチルジフェニルジシロキサン−4,4′−ジカルボン酸クロリドをトリ−tert−ブトキシリチウムアルミニウムハイドライドにより還元する方法が知られている〔非特許文献1〕。この方法は高価な還元剤を基質に対して2当量以上必要とし、また収率も40%であり、工業的製法としてはとても満足いくものではない。
【0003】
一方、ホルミルフェニル基を有するジアルキルシラノール化合物が合成できれば、脱水縮合反応により容易に当該シロキサンを合成することが可能と思われるが、それらの合成例はこれまで報告されていない。さらに、その前駆体となり得るアセタール置換フェニル基を有するジアルキルシラノール化合物の合成例もこれまで報告されていない。
【0004】
また、ホルミルフェニル基又はアセタール置換フェニル基を有するジアルキルシラノール化合物の前駆体としては、ホルミルフェニル基又はアセタール置換フェニル基を有する、ジアルキルシラン化合物、ジアルキルオルガノオキシ化合物が考えられるが、そのような化合物のうち、4−ホルミルフェニルジメチルシラン〔非特許文献1〕、2−(4−ジメチルシリルフェニル)−1,3−ジオキソラン〔非特許文献2〕、〔4−(ジメトキシメチル)フェニル〕メトキシジメチルシラン〔非特許文献3〕が既に知られている。
【0005】
しかし、4−ホルミルフェニルジメチルシランは4−シアノフェニルジメチルクロロシランを2当量のジイソブチルアルミニウムハイドライドにより還元して得られるが、高価な還元剤を使用し、また収率は11%と非常に低いものである。〔4−(ジメトキシメチル)フェニル〕メトキシジメチルシランは、4−(ジメトキシメチル)ブロモベンゼンを−78℃にてリチオ化した後、ジメチルジメトキシシランと反応させて得られるが、極低温下の反応であり、また収率も58%と低く、満足いくものではない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Synthetic Communications,20巻(7号),1990年,1033〜1037頁
【非特許文献2】J.Chem.Soc.,Dalton Transactions,(7),2001年,1123〜1127頁 〔非特許文献3〕Helvetica Chimica Acta,85巻(10号),2002年,3185〜3196頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、非環状アセタール置換フェニル基を有するジアルキルシラン化合物およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第1は、一般式(1)
【化1】

(式中、RおよびRは同一又は異なってもよいアルキル基を示し、Rは非環状アセタール基を示す。)
で表わされるジアルキルシラン化合物に関する。
本発明の第2は、下記一般式(2)
【化2】

(式中、Rは非環状アセタール基を示し、Xはハロゲン原子を示す。)
で表わされるグリニヤール試薬に、一般式(3)
【化3】

(式中、RおよびRは同一又は異なってもよいアルキル基を示し、Rはアルコキシ基、アリールオキシ基又はハロゲン原子を示す。)
で表される有機ケイ素化合物を反応させることを特徴とする下記一般式(1)
【化4】

(式中、RおよびRは同一又は異なってもよいアルキル基を示し、Rは非環状アセタール基を示す。)
で表わされるジアルキルシラン化合物の製造方法に関する。
【0009】
以下、本発明につき更に詳しく説明するが、本発明は以下に限定されるものではない。本発明の化合物において、Rの非環状アセタール基としては、
ジメトキシメチル基、
【化5】

メトキシ(エトキシ)メチル基、
【化6】

ジエトキシメチル基
【化7】

などが、RおよびRは、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基などの同一又は異なってもよいアルキル基が、Rは、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基、n−ブトキシ基、イソブトキシ基、tert−ブトキシ基などのアルコキシ基、フェニルオキシ基などのアリールオキシ基、又は塩素原子、臭素原子などのハロゲン原子が、Xは、塩素原子、臭素原子などのハロゲン原子が挙げられる。
【0010】
一般式(2)で表されるグリニヤール試薬は、一般式(4)
【化8】

(式中、Rは非環状アセタール基を示し、Xはハロゲン原子を示す。)
で表される芳香族ハロゲン化物とマグネシウムとから通常の条件(溶媒としてエーテル類をマグネシウムに対し2当量以上使用し、−20℃〜還流温度程度にて反応を行う。)により調製することができる。
一般式(1)で表される化合物の製造において、一般式(3)で表される有機ケイ素化合物の使用量は、一般式(2)で表されるグリニヤール試薬に対して0.8倍モル以上であり、好ましくは0.95〜1.0倍モルである。
原料の仕込み手順は任意であるが、例えば、一般式(2)で表されるグリニヤール試薬を仕込み、これに一般式(3)で表される有機ケイ素化合物を滴下してもよく、あるいは、一般式(3)で表される有機ケイ素化合物を仕込んだ後、一般式(2)で表されるグリニヤール試薬を滴下してもよい。
反応において溶媒は必要としないが、必要に応じて使用してもよく、反応を阻害しないものであれば特に限定されない。そのような溶媒としては、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの炭化水素類、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジメトキシエタンなどのエーテル類が挙げられる。
反応温度は特に限定されないが、20℃程度で反応は進行する。反応時間は、反応物の種類及び量にもよるが、およそ1〜8時間以内で終了する。また、反応はチッソ、アルゴンなどの不活性ガス雰囲気下で行うことが望ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、新規なジアルキルシラン化合物およびそれらの製造方法を提供することができた。この化合物は、ジアルキルシラノール化合物の出発原料として有用である。
【実施例】
【0012】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0013】
実施例1
(1)〈4−ジメトキシメチルフェニルマグネシウムブロミドの調整〉
3Lの4つ口フラスコに還流冷却器、温度計、滴下ロート、及び撹拌機を取り付け、内部を窒素置換した。このフラスコに、マグネシウム44.1g(1.82モル)とテトラヒドロフラン1308gを仕込んだ。その後、冷媒にて内温を0〜5℃に冷却した後、滴下ロートより4−ブロモベンズアルデヒドジメチルアセタール(アルドリッチ社製)400g(1.73モル)を内温が20℃を越えないように3時間かけて滴下した。その後、内温を20〜30℃に保ち15時間熟成を行い、下記式で示すグリニヤール試薬(4−ジメトキシメチルフェニルマグネシウムブロミド)を調製した。
【化9】

(2)〈4−ジメトキシメチルフェニルジメチルシランの調整〉
次いで、冷媒にて内温を0〜5℃に冷却した後、滴下ロートよりクロロジメチルシラン157g(1.66モル)を、内温が20℃を越えないように3時間かけて滴下した。その後、内温を20〜30℃に保ち1時間熟成を行った。続いて、5Lの4つ口フラスコに還流冷却器、温度計、滴下ロート、及び撹拌機を取り付けた。このフラスコに、水800g及びトルエン800gを仕込み、冷媒にて内温を0〜5℃に冷却した後、先ほどの反応で得られた混合物を滴下ロートより、内温が30℃を越えないように10分かけて滴下した。その後得られた溶液を5Lの分液ロートに移し、有機層と水層に分けた。さらに得られた有機層を水800gにて2回洗浄し、有機層2106gを得た。この溶液をロータリーエバポレーターにて減圧濃縮し、濃縮液441gを得た。次いで、この濃縮液を減圧蒸留(沸点92℃/150Pa)して、無色液体の4−ジメトキシメチルフェニルジメチルシラン333g(1.58モル)が得られた。収率は95.1%(クロロジメチルシランに対して)であった。このもののNMRスペクトル及びGC−MSスペクトルを測定した結果、上記化合物であることが確認された。以下にその結果を示す。
【化10】

H−NMR(400MHz,δ in CDCl):0.34(d,J=4.0Hz,6H),3.30(s,6H),4.43(sept,J=4.0Hz,1H),5.36(s,1H),7.72(d,J=8.0Hz,2H),7.52(d,J=8.0Hz,2H)
13C−NMR(100MHz,δ in CDCl):−3.70,52.57,102.87,125.93,133.67,137.43,138.77
GC−MS m/z(relative intensity):210(5.4,M),196(9.0),180(100),164(8.1),151(21),135(5.4),121(41),105(15),91(14),75(35),59(14)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)
【化11】

(式中、RおよびRは同一又は異なってもよいアルキル基を示し、Rは非環状アセタール基を示す。)
で表わされるジアルキルシラン化合物。
【請求項2】
下記一般式(2)
【化12】

(式中、Rは非環状アセタール基を示し、Xはハロゲン原子を示す。)
で表わされるグリニヤール試薬に、一般式(3)
【化13】

(式中、RおよびRは同一又は異なってもよいアルキル基を示し、Rはアルコキシ基、アリールオキシ基又はハロゲン原子を示す。)
で表される有機ケイ素化合物を反応させることを特徴とする下記一般式(1)
【化14】

(式中、RおよびRは同一又は異なってもよいアルキル基を示し、Rは非環状アセタール基を示す。)
で表わされるジアルキルシラン化合物の製造方法。

【公開番号】特開2009−173674(P2009−173674A)
【公開日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−82414(P2009−82414)
【出願日】平成21年3月30日(2009.3.30)
【分割の表示】特願2006−92200(P2006−92200)の分割
【原出願日】平成18年3月29日(2006.3.29)
【出願人】(000246398)有機合成薬品工業株式会社 (12)
【Fターム(参考)】