説明

ジェットエンジンの空気入口部構造

【課題】 ジェットエンジンにおいて、航空機の飛行中、エンジンに鳥などの異物が侵入し高速でストラットに衝突した場合でも、ストラットにかかる衝撃力を従来のものと比較して大幅に緩和することができ、これにより、その損傷を防止できるとともに、肉厚の増大による強度の向上を不要としてストラットの軽量化を図ることができ、エンジン重量を軽量化することができるジェットエンジンの空気入口部構造を提供する。
【解決手段】 ストラット8のエンジン前方側の先端部に、入口ダクト4内に侵入する異物を切断するための切断刃20を設けた。この切断刃20の先端部は、航空機の飛行中に鳥などの異物が侵入し高速でストラット8に衝突した場合に、その異物を切断するのに十分な鋭利さをもつように形成されている。この切断刃20の材料は、焼結CBN、ダイヤモンド、超硬合金、セラミックス複合材等を適用することが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はジェットエンジンにおいてファン動翼の前方に設けられるストラット等の空気入口部構造に関し、さらに詳しくは、航空機の飛行中にジェットエンジンの入口ダクトから鳥などの異物が吸い込まれてストラット等に高速で衝突した場合でも、ストラット等にかかる衝撃力を緩和してその損傷を防止し、同時にストラット等の軽量化を図ることができるジェットエンジンの空気入口部構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
図5は、従来技術によるジェットエンジンの部分断面図である。図5に示すように、ジェットエンジンの入口部は、高速回転してエンジン内部に空気を導入するファン動翼32、ファン動翼32の前方に設けられ空気を導入するための空気導入路を内部に形成する入口ダクト34、入口ダクト34内の中央部に位置する中央部材36、入口ダクト34と中央部材36とを連結する複数のストラット38、ストラット38の後端部に揺動可能に取り付けられた可動ガイドベーン42、等の要素からなる。このストラット38は、入口ダクト34の中心を基準に放射状に延び周方向に間隔を置いて複数配設されている。なお、このような構造をもつジェットエンジンは、高い運動性能が要求される戦闘機のような軍事用航空機のエンジンに多く見られる。
【0003】
先に説明したようなストラット38は、歴史的には、エンジン本体の剛性を高めるための強度部材として用いられていた。しかし、騒音増大の原因となる等の理由により、ストラットを設置せずに、それ以外の部分のエンジン構造の改良によってエンジン本体の剛性を高める技術が向上した結果、現在では、特に民間航空機ではストラットの無いジェットエンジンが主流となっている。
【0004】
一方、戦闘機のような軍事用航空機では、その性質上、高い運動性能が要求される。このため、現在の軍事用航空機に用いられるジェットエンジンでは、ファン動翼への空気の流入量を調節してエンジンストールを防止するとともにその運動性能を高めるために、上述したような可動ガイドベーン42を備え、そして、この可動ガイドベーン42を支持するために、上述したようなストラット38を備えるものが主流となっている。
【0005】
ところで、戦闘機のような軍事用航空機では、戦略上レーダにその機影が映ることを嫌い、機体にステルス性を要求されるものがある。そのため、機体表面の形状の工夫や、電波吸収材の付加によりステルス性の改良が行われてきた。機体への工夫が進む一方で、エンジン本体からのマイクロ波の反射についても種々の工夫が行われている。航空機のエンジン側面は通常、ステルス性向上のための機体表面形状にカバーされているため、特に問題となるのはダクトからエンジン内に侵入し反射されるマイクロ波である。エンジン停止時には、ダクト入口から侵入したマイクロ波はファン動翼の曲面部により乱反射され、減衰される場合が多い。ところが、エンジン起動後には、回転するファン動翼が反射平面となり、ダクト内に侵入したマイクロ波を直接反射してしまう。
【0006】
このような問題を解決するため、下記特許文献1に示される従来技術では、空気取り入ダクト(インテーク)形状を曲げ、ファン動翼を視覚的に遮へいすることにより、マイクロ波をダクト内曲面で斜めに反射させていた。つまり、ファン動翼に入射したマイクロ波は曲面で遮へいおよび拡散され、マイクロ波の反射を抑制していた。しかし、このダクト形状により、超音速飛行時に、吸入空気の剥離が発生し、ダクト内の圧力分布に不均一が生じるため、エンジンの動作範囲を低下させる要因となり、機体運用の制限が大きかった。そのためこの先行技術では、空気の剥離を抑えるためにコンプレッサーによりダクト内で空気の吸引を行っていた。
【0007】
また、特許文献2に示された従来技術では、ゆるやかに変化する長いダクトを設けることにより超音速飛行時の空気の剥離を抑え、マイクロ波反射の抑制と機体運用の制限を両立させていた。さらに、特許文献3に示された従来技術では、ダクト前面に内側に電波吸収材を有するキャビティを備えることにより、同様な効果を意図していた。
【0008】
しかし、特許文献1〜3に示された先行技術には、それぞれ、特別にダクト内の空気を吸引する手段が必要となったり、非常に長いダクトが必要となったり、電波吸収材の取り付けにより重量が増加し機体の機能を制限するため機体全体の形状の設計に制約が課されたりするという問題があった。
【0009】
そこで、本出願人は、下記特許文献4に示された「マイクロ波反射制御装置」を開発し、出願した。このマイクロ波反射制御装置を図6(A)、(B)に示す。図6(B)は同図(A)のZ−Z線断面図である。このマイクロ波反射制御装置は、図6(B)に示すように、ストラット58を、入口ダクト54からファン動翼52に侵入するマイクロ波Rを遮蔽及び拡散する反射曲面形状に形成し、これにより、ファン動翼52によるマイクロ波Rの反射を抑制するようにしたものである。
【0010】
また、特許文献4のマイクロ波反射制御装置の別の実施形態は、図7に示すように、周方向に延び半径方向に互いに間隔を置いて同心状に複数配設された周方向ガイドベーン66をストラット58に取り付け、この周方向ガイドベーン66を、入口ダクト64からファン動翼52に侵入するマイクロ波を遮蔽及び拡散する反射曲面形状に形成し、これにより、ファン動翼52によるマイクロ波の反射を抑制するようにしたものである。以下、図6、図7に示したような反射曲面形状をもつストラット及び周方向ガイドベーンを総称して「反射翼」と呼ぶ。
【0011】
【特許文献1】米国特許第4,989,807号明細書
【特許文献2】米国特許第5,683,061号明細書
【特許文献3】米国特許第4,148,032号明細書
【特許文献4】特開2004−137950号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
航空機は、飛行中、エンジンに鳥などの異物が吸い込まれることがあり、図5に示したようなストラット38を備えるジェットエンジンでは、鳥の進入速度が航空機の飛行速度と同等以上と高速であるため、そのストラット38に衝突したときの衝撃は非常に大きなものとなる。このため、鳥がストラット38に衝突した場合でも、そのストラット38が損傷しないような十分な強度をもたせて設計する必要がある。
【0013】
そのため、従来、金属材料からなるストラット38の場合は、その肉厚を増すことで剛性を増すという対策を講じることにより、異物衝突時の衝撃に絶え得る強度を得てその損傷を防止していたが、肉厚を増すことにより、ストラット38の重量が増大し、エンジン重量を増大させるという問題があった。また、FRP等の複合材料からなるストラット38の場合は、異物衝突時の衝撃によって大破してしまうという問題があった。
【0014】
また、図6に示した上記特許文献4の従来技術では、ストラット58を図6(B)に示したような反射曲面形状とするために、従来のもの(図5参照)より前方側に延長する必要がある。すなわち、ストラット58を従来のものより大型化する必要がある。このため、異物衝突時における衝撃に絶え得る強度をもたせるために肉厚を増大させる対策では、ストラット58の重量増大をますます助長させることとなり、エンジン重量の増大を招くという問題があった。
【0015】
また、図7に示したような周方向ガイドベーン66を取り付ける場合には、その分の重量増大は避けられず、さらに、この周方向ガイドベーン66にも、鳥の衝突時における衝撃に絶え得る強度をもたせるために肉厚を増大させる対策を講じる必要があり、エンジン重量の増大を招くという問題があった。
【0016】
本発明は上述した問題に鑑みてなされたものであり、ジェットエンジンにおいて、航空機の飛行中、エンジンに鳥などの異物が侵入し高速でストラットに衝突した場合でも、ストラットにかかる衝撃力を従来のものと比較して大幅に緩和することができ、これにより、その損傷を防止できるとともに、肉厚の増大による強度の向上を不要としてストラットの軽量化を図ることができ、エンジン重量を軽量化することができるジェットエンジンの空気入口部構造を提供することを目的とする。
【0017】
また、本発明は、ストラット又は周方向ガイドベーンを反射曲面形状とし、マイクロ波の反射を抑制するための反射翼を備えるものにおいて、異物の侵入時における反射翼に対する衝撃力を大幅に緩和してその損傷を防止するとともに、反射翼を付加することによる重量増大を大幅に抑制することができ、エンジン重量の増大を抑制することができるジェットエンジンの空気入口部構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記目的を達成するため、第1の発明は、ジェットエンジンのファン動翼に空気を導入するための空気導入路を内部に形成する入口ダクトと、該入口ダクト内の中央部に位置する中央部材と、前記入口ダクトの中心を基準に放射状に延びて前記入口ダクトと前記中央部材とを連結し且つ周方向に間隔を置いて配設された複数のストラットと、を備えたジェットエンジンの空気入口部構造において、前記ストラットのエンジン前方側の先端部に、入口ダクト内に侵入する異物を切断するための切断刃を設けた、ことを特徴とするものである。ここで、「切断刃」には、ストラットと構造的に別体のものに限られず、ストラット自体の先端部を鳥などの異物を切断するのに適した鋭利さに形成したもの、すなわち、ストラットと一体形成されたものも含まれる。
【0019】
第2の発明は、上記第1の発明において、前記切断刃は、その刃部が前記ストラットの前記先端部で僅かに外部に突出するように前記ストラット内に設けられた刃状部材と、該刃状部材を前記ストラット内で支持する支持部材と、を有することを特徴とするものである。
【0020】
第3の発明は、上記第1の発明において、前記ストラットは、入口ダクトからファン動翼に侵入するマイクロ波を遮蔽および拡散する反射曲面形状に形成されている、ことを特徴とするものである。
【0021】
第4の発明は、上記第1又は第2の発明において、前記ストラットに取り付けられ入口ダクトの中心軸に対して周方向に延び半径方向に間隔を置いて同心状に配設された複数の周方向ガイドベーンを備え、該周方向ガイドベーンは、入口ダクトからファン動翼に侵入するマイクロ波を遮蔽および拡散する反射曲面形状に形成されており、前記周方向ガイドベーンのエンジン前方側の先端部に、入口ダクト内に侵入する異物を切断するための切断刃を設けた、ことを特徴とするものである。ここで、「切断刃」には、周方向ガイドベーンと構造的に別体のものに限られず、周方向ガイドベーン自体の先端部を鳥などの異物を切断するのに適した鋭利さに形成したもの、すなわち、周方向ガイドベーンと一体形成されたものも含まれる。
【0022】
第5の発明は、上記第4の発明において、前記切断刃は、その刃部が前記周方向ガイドベーンの前記先端部で僅かに外部に突出するように前記周方向ガイドベーン内に設けられた刃状部材と、該刃状部材を前記周方向ガイドベーン内で支持する支持部材と、を有する、ことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0023】
上記第1の発明によれば、ストラットのエンジン前方側の先端部に、入口ダクト内に侵入する鳥などの異物を切断するための切断刃を設けたので、航空機の飛行中、エンジンに鳥などの異物が侵入し高速でストラットに衝突した場合でも、その先端に設けられた切断刃により異物を切断することができる。このため、異物衝突時にストラットにかかる衝撃力を従来のものと比較して大幅に緩和することができ、これにより、その損傷を防止できる。また、ストラットにかかる衝撃力を緩和することができるので、強度を向上させるために肉厚を増大させる必要が無い。このため、ストラットの軽量化を図ることができ、エンジン重量の軽量化に寄与することができる。
【0024】
上記第2の発明によれば、切断刃が、刃状部材とこれを支持する支持部材とにより構成され、これらがストラットに内蔵されているので、刃状部材の先端部に形成された刃部をストラットの先端部から僅かに突出させた状態で、切断刃をストラットに堅固に固定することができる。また、刃状部材の先端部のみがストラットから僅かに突出しているので、ステルス性能に与える悪影響を最小限に抑えることができる。
【0025】
上記第3の発明によれば、ストラットが、入口ダクトからファン動翼に侵入するマイクロ波を遮蔽および拡散する反射曲面形状に形成されているので、エンジン起動中におけるファン動翼によるマイクロ波の反射を抑制し、ステルス性を向上させることができる。また、ストラットを反射曲面形状として反射翼とした場合、上述したように大型化する必要があるが、飛行中に高速で侵入してくる鳥などの異物を切断刃により切断し、異物衝突時の衝撃力を大幅に緩和することができるので、大型化に伴うストラットの重量増大を大幅に抑制することができ、エンジン重量の増大を抑制することができる。
【0026】
上記第4の発明によれば、周方向ガイドベーンが、入口ダクトからファン動翼に侵入するマイクロ波を遮蔽および拡散する反射曲面形状に形成されているので、エンジン起動中におけるファン動翼によるマイクロ波の反射を抑制し、ステルス性を向上させることができる。また、そのような反射曲面形状をもつ反射翼として周方向ガイドベーンを取り付けた場合、その分の重量増大は避けられないが、飛行中に高速で侵入してくる鳥などの異物を切断刃により切断し、異物衝突時の衝撃力を大幅に緩和することができるので、周方向ガイドベーンの付加に伴う重量増大を大幅に抑制することができ、エンジン重量の増大を抑制することができる。
【0027】
上記第5の発明によれば、切断刃が、刃状部材とこれを支持する支持部材とにより構成され、これらが周方向ガイドベーンに内蔵されているので、刃状部材の先端部に形成された刃部を周方向ガイドベーンの先端部から僅かに突出させた状態で、切断刃を周方向ガイドベーンに堅固に固定することができる。また、刃状部材の先端部のみが周方向ガイドベーンから僅かに突出しているので、ステルス性能に与える悪影響を最小限に抑えることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、本発明の好ましい実施形態を添付図面に基づいて詳細に説明する。
【0029】
まず、本発明の第1実施形態について説明する。図1(A)は、本発明の第1実施形態による空気入口部構造を備えたジェットエンジンの部分断面図を示し、図1(B)は、図1(A)のX−X線拡大断面図である。
【0030】
図1(A)に示すように、ジェットエンジン10は、高速回転してエンジン内部に空気を導入するファン動翼2、ファン動翼2の前方に設けられ空気を導入するための空気導入路を内部に形成する入口ダクト4、入口ダクト4内の中央部に位置する中央部材6、入口ダクト4と中央部材6とを連結する複数のストラット8、ストラット8の後端部に揺動可能に取り付けられた可動ガイドベーン12、等の要素からなる。
【0031】
ストラット8は、入口ダクト4の中心を基準に放射状に延び周方向に間隔を置いて複数配設されており、これにより、入口ダクト4内をダクト中心軸に対し周方向に複数の領域に分割している。可動ガイドベーン12は、ストラット8の後端部に半径方向の軸心を中心に揺動可能に取り付けられた部材である。可動ガイドベーン12は、複数のストラット8の各々に取り付けられている。なお、可動ガイドベーン12は図示しない駆動機構によって揺動駆動される。
【0032】
また、図1(A)に示すように、ストラット8のエンジン前方側の先端部には、航空機の飛行中に入口ダクト4内に侵入する鳥などの異物を切断するための切断刃20が設けられている。この切断刃20は、複数のストラット8の各々に、その半径方向の全幅にわたって設けられている。
【0033】
図1(B)に示すように、ストラット8は、中空構造であり、そのエンジン前方側の先端部分に切断刃20が取り付けられている。この切断刃20の先端部は、航空機の飛行中に鳥などの異物が侵入し高速でストラットに衝突した場合に、その異物を切断するのに十分な鋭利さをもつように形成されている。この切断刃20の材料は、焼結CBN、ダイヤモンド、超硬合金、セラミックス複合材等を適用することが好ましい。
【0034】
なお、本実施形態における切断刃20は、ストラット8と構造的に別体のものであるが、本発明はこれに限られず、ストラット自体の先端部を異物の切断に適した鋭利さに形成したもの、すなわち、ストラットと構造的に一体形成したものであってもよい。
【0035】
このような本発明の第1実施形態によれば、ストラット8のエンジン前方側の先端部に、入口ダクト内に侵入する鳥などの異物を切断するための切断刃20を設けたので、航空機の飛行中、エンジンに鳥などの異物が侵入し高速でストラット8に衝突した場合でも、その先端に設けられた切断刃20により異物を切断することができる。このため、異物衝突時にストラット8にかかる衝撃力を従来のものと比較して大幅に緩和することができ、これにより、その損傷を防止できる。また、ストラット8にかかる衝撃力を緩和することができるので、強度を向上させるために肉厚を増大させる必要が無い。このため、ストラット8の軽量化を図ることができ、エンジン重量の軽量化に寄与することができる。
【0036】
次に、本発明の第2実施形態について説明する。図2は、本発明の第2実施形態によるジェットエンジンの空気入口部構造における切断刃を説明する図で、図1のX−X線断面図に相当する断面を示すものである。
【0037】
図2に示すように、ストラット8は中空構造であり、その内部に切断刃20が内蔵されている。本発明の第2実施形態における切断刃20は、刃状部材21と、これを支持する支持部材22とからなる。ストラット8のエンジン前方側の先端部には、エンジンの半径方向(図2で紙面に垂直な方向)に延びるスリット8aが形成されており、刃状部材21は、その先端部に形成された刃部21aがストラット8の先端部で僅かに外部に突出するようにストラット8内に設置されている。
【0038】
刃状部材21の刃部21aは、航空機の飛行中に鳥などの異物が侵入し高速で刃状部材21に衝突した場合に、その異物を切断するのに十分な鋭利さをもつように形成されている。この切断刃20の材料は、焼結CBN、ダイヤモンド、超硬合金、セラミックス複合材等を適用することが好ましい。
【0039】
支持部材22は、ストラット8内に形成された支持部8bにより堅固に固定され、そのエンジン前方側の面に形成された保持部22aにより刃状部材21の後端部を保持している。なお、ストラット8と切断刃20以外の構成は、上述した第1実施形態と同様であるので、説明は省略する。
【0040】
このような本発明の第2実施形態によれば、上述した第1実施形態における効果に加え、さらに次のような効果が得られる。すなわち、切断刃20が、刃状部材21とこれを支持する支持部材22とにより構成され、これらがストラット8に内蔵されているので、刃状部材21の先端部に形成された刃部21aをストラット8の先端部から僅かに突出させた状態で、切断刃20をストラット8に堅固に固定することができる。また、刃状部材21の先端部のみがストラット8から僅かに突出しているので、ステルス性能に与える悪影響を最小限に抑えることができる。
【0041】
次に、本発明の第3実施形態について説明する。図3(A)は、本発明の第3実施形態による空気入口部構造を備えたジェットエンジンの部分断面図を示し、図3(B)は、図3(A)のY−Y線拡大断面図である。
【0042】
本発明の第3実施形態において、ストラット8は、入口ダクト4からファン動翼2に侵入するマイクロ波Rを遮へいおよび拡散するようにエンジン後端に向かって湾曲した反射曲面形状に形成されている。つまり、第3実施形態においてストラット8は反射翼として構成されている。さらに、ストラット8は、ジェットエンジン10をファン入口側から見たときにファン動翼2が視覚的に遮蔽されるように、反射曲面形状をなしており、且つ、周方向に所定の間隔で配置されている。この構造により、入口ダクト4から入射したマイクロ波Rがファン動翼2に進入する前に乱反射され拡散されるようになっている。また、ストラット8の表面を電波吸収材で形成すれば、ストラット8に入射したマイクロ波は、その表面の電波吸収材によってある程度吸収されるので、より一層マイクロ波反射抑制効果が得られる。
【0043】
また、図3(B)に示すように、ストラット8は、中空構造であり、そのエンジン前方側の先端部分に、第1実施形態と同様の切断刃20が取り付けられている。すなわち、この切断刃20の先端部は、航空機の飛行中に鳥などの異物が侵入し高速で切断刃20に衝突した場合に、その異物を切断するのに十分な鋭利さをもつように形成されている。この切断刃20の材料は、焼結CBN、ダイヤモンド、超硬合金、セラミックス複合材等を適用することが好ましい。
【0044】
なお、第1実施形態と同様に、第3実施形態における切断刃20は、ストラット8と構造的に別体のものであるが、本発明はこれに限られず、ストラット8自体の先端部を異物の切断に適した鋭利さに形成したもの、すなわち、ストラット8と構造的に一体形成したものであってもよい。また、切断刃20は、図2に示した第2実施形態と同様の構造のものであってもよい。
【0045】
このような本発明の第3実施形態によれば、上述した第1実施形態における効果に加え、さらに次のような効果が得られる。すなわち、ストラット8が、入口ダクト4からファン動翼2に侵入するマイクロ波Rを遮蔽および拡散する反射曲面形状に形成されているので、エンジン起動中におけるファン動翼2によるマイクロ波Rの反射を抑制し、ステルス性を向上させることができる。また、ストラット8を反射曲面形状として反射翼とした場合、これを大型化する必要があるが、飛行中に高速で侵入してくる鳥などの異物を切断刃20により切断し、異物衝突時の衝撃力を大幅に緩和することができるので、大型化に伴うストラット8の重量増大を大幅に抑制することができ、エンジン重量の増大を抑制することができる。
【0046】
次に、本発明の第4実施形態について説明する。図4は、本発明の第4実施形態による空気入口部構造を備えたジェットエンジンの部分断面図である。
【0047】
図4において、ストラット8は、前側と後側に分割されており、その間に、周方向ガイドベーン16が固定されている。この第4実施形態におけるストラット8は、上述した第3実施形態におけるストラット8のような反射曲面形状に形成されていない。周方向ガイドベーン16は、ダクト中心軸に対して周方向に延び半径方向に間隔を置いて同心状に複数配置され、これにより、入口ダクト4内をダクト中心軸に対し半径方向に複数の領域に分割している。また、周方向ガイドベーン16は、入口ダクト4からファン動翼2に侵入するマイクロ波を遮へいおよび拡散するようにエンジン後端に向かって湾曲した反射曲面形状に形成されている。つまり、第4実施形態において周方向ガイドベーン16は反射翼として構成されている。
【0048】
さらに、周方向ガイドベーン16は、ジェットエンジン10をファン入口側から見たときにファン動翼2が視覚的に遮蔽されるように、反射曲面形状をなしており、且つ、半径方向に所定の間隔で配置されている。この構造により、入口ダクト4から入射したマイクロ波がファン動翼2に進入する前に乱反射され拡散されるようになっている。また、反射部材である周方向ガイドベーン16の表面を電波吸収材で形成すれば、周方向ガイドベーン16に入射したマイクロ波は、その表面の電波吸収材によってある程度吸収されるので、より一層マイクロ波反射抑制効果が得られる。また、可動ガイドベーン16は、上述した第1実施形態と同様の構成であり、低推力時には可動ガイドベーン16がその前端軸を中心として揺動し閉じるため、マイクロ波を乱反射し、拡散する効果はさらに高まる。
【0049】
図4に示すように、前側のストラット8のエンジン前方側の先端部には、入口ダクト4内に侵入する鳥などの異物を切断するための切断刃20が設けられている。この切断刃20は、上述した第1実施形態で説明したのと同様のものを適用しているが、図2に示した第2実施形態と同様の構造のものとしてもよい。
【0050】
また、周方向ガイドベーン16のエンジン前方側の先端部にも、入口ダクト4内に侵入する鳥などの異物を切断するための切断刃20が設けられている。この切断刃20は、上述した第1実施形態においてストラット8に設けた切断刃20と同様のものを適用しているが、図2に示した第2実施形態と同様の構造のものとしてもよい。すなわち、切断刃20は、その刃部が周方向ガイドベーン16の先端部で僅かに外部に突出するように周方向ガイドベーン16内に設けられた刃状部材21と、刃状部材21を周方向ガイドベーン16内で支持する支持部材22と、からなる構造であってもよい。
【0051】
なお、この第4実形態では、ストラット8は前後に分割された構成であるが、周方向ガイドベーン16を固定支持できる構造であれば、前後に分割していない一体の構成であってもよい。
【0052】
このような本発明の第4実施形態によれば、上述した第1実施形態による効果に加え、次のような効果が得られる。すなわち、周方向ガイドベーン16が、入口ダクト4からファン動翼2に侵入するマイクロ波を遮蔽および拡散する反射曲面形状に形成されているので、エンジン起動中におけるファン動翼2によるマイクロ波の反射を抑制し、ステルス性を向上させることができる。また、そのような反射曲面形状をもつ反射翼として周方向ガイドベーン16を取り付けた場合、その分の重量増大は避けられないが、飛行中に高速で侵入してくる鳥などの異物を切断刃20により切断し、異物衝突時の衝撃力を大幅に緩和することができるので、周方向ガイドベーン16の付加に伴う重量増大を大幅に抑制することができ、エンジン重量の増大を抑制することができる。
【0053】
また、切断刃20を、刃状部材21とこれを支持する支持部材22とにより構成し、これらを周方向ガイドベーン16に内蔵するようすれば、刃状部材21の先端部に形成された刃部を周方向ガイドベーン16の先端部から僅かに突出させた状態で、切断刃20を周方向ガイドベーン16に堅固に固定することができる。また、刃状部材21の先端部のみが周方向ガイドベーン16から僅かに突出しているので、ステルス性能に与える悪影響を最小限に抑えることができる。
【0054】
以上の説明から分かるように、本発明のジェットエンジンの空気入口部構造によれば、次のような効果が得られる。
【0055】
すなわち、本発明によれば、航空機の飛行中、エンジンに鳥などの異物が侵入し高速でストラットに衝突した場合でも、ストラットにかかる衝撃力を従来のものと比較して大幅に緩和することができ、これにより、その損傷を防止できるとともに、肉厚の増大による強度の向上を不要としてストラットの軽量化を図ることができ、エンジン重量を軽量化することができる、という優れた効果が得られる。
【0056】
また、本発明によれば、ストラット又は周方向ガイドベーンを反射曲面形状とし、マイクロ波の反射を抑制するための反射翼を備えるものにおいて、異物の侵入時における反射翼に対する衝撃力を大幅に緩和してその損傷を防止するとともに、反射翼を付加することによる重量増大を大幅に抑制することができ、エンジン重量の増大を抑制することができる、という優れた効果が得られる。
【0057】
なお、本発明は上述した実施形態に限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々変更できることは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】本発明の第1実施形態を示す図である。
【図2】本発明の第2実施形態を示す図である。
【図3】本発明の第3実施形態を示す図である。
【図4】本発明の第4実施形態を示す図である。
【図5】従来技術を説明する図である。
【図6】従来技術を説明する図である。
【図7】従来技術を説明する図である。
【符号の説明】
【0059】
2 ファン動翼
4 入口ダクト
6 中央部材
8 ストラット
8a スリット
8b 支持部
10 ジェットエンジン
12 可動ガイドベーン
16 周方向ガイドベーン
20 切断刃
21 刃状部材
21a 刃部
22 支持部材
22a 保持部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジェットエンジンのファン動翼に空気を導入するための空気導入路を内部に形成する入口ダクトと、該入口ダクト内の中央部に位置する中央部材と、前記入口ダクトの中心を基準に放射状に延びて前記入口ダクトと前記中央部材とを連結し且つ周方向に間隔を置いて配設された複数のストラットと、を備えたジェットエンジンの空気入口部構造において、
前記ストラットのエンジン前方側の先端部に、入口ダクト内に侵入する異物を切断するための切断刃を設けた、
ことを特徴とするジェットエンジンの空気入口部構造。
【請求項2】
前記切断刃は、その刃部が前記ストラットの前記先端部で僅かに外部に突出するように前記ストラット内に設けられた刃状部材と、該刃状部材を前記ストラット内で支持する支持部材と、を有する、ことを特徴とする請求項1に記載のジェットエンジンの空気入口部構造。
【請求項3】
前記ストラットは、入口ダクトからファン動翼に侵入するマイクロ波を遮蔽および拡散する反射曲面形状に形成されている、ことを特徴とする請求項1に記載のジェットエンジンの空気入口部構造。
【請求項4】
前記ストラットに取り付けられ入口ダクトの中心軸に対して周方向に延び半径方向に間隔を置いて同心状に配設された複数の周方向ガイドベーンを備え、
該周方向ガイドベーンは、入口ダクトからファン動翼に侵入するマイクロ波を遮蔽および拡散する反射曲面形状に形成されており、
前記周方向ガイドベーンのエンジン前方側の先端部に、入口ダクト内に侵入する異物を切断するための切断刃を設けた、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載のジェットエンジンの空気入口部構造。
【請求項5】
前記切断刃は、その刃部が前記周方向ガイドベーンの前記先端部で僅かに外部に突出するように前記周方向ガイドベーン内に設けられた刃状部材と、該刃状部材を前記周方向ガイドベーン内で支持する支持部材と、を有する、ことを特徴とする請求項4に記載のジェットエンジンの空気入口部構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−23857(P2007−23857A)
【公開日】平成19年2月1日(2007.2.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−205626(P2005−205626)
【出願日】平成17年7月14日(2005.7.14)
【出願人】(000000099)石川島播磨重工業株式会社 (5,014)
【Fターム(参考)】