説明

ジエン系ゴム組成物

【課題】加工性にすぐれ、破断伸び、弾性率および発熱性にすぐれた加硫物を与えることができ、したがって空気入りタイヤのベルトクッションおよび/または上部軟質ビードフィラーの成形材料等として有効に用いられるジエン系ゴム組成物を提供する。
【解決手段】(A)ジエン系ゴム95〜99重量%および(B)主鎖がジエン系ゴムよりなり、カルボニル含有基と含窒素複素環とを分子内に有する、重量平均分子量Mwが50,000以下の水素結合性熱可塑性エラストマー5〜1重量%よりなるジエン系ゴム100重量部当り、ヨウ素吸着量が70〜100g/kgで、DBP吸収量が90〜110×10-5m3/kgのカーボンブラックを30〜50重量部配合してなるジエン系ゴム組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ジエン系ゴム組成物に関する。さらに詳しくは、空気入りタイヤのベルトクッション、上部軟質ビードフィラー等の成形材料として好適に用いられるジエン系ゴム組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
空気入りタイヤのベルトクッションや上部軟質ビードフィラーは、タイヤの内部に配置されるため熱を備蓄し易いので、低発熱性であることが重要な特性である。また、その弾性率が小さいと、走行中の変形が大きくなるため疲労劣化が進み易く、またそれぞれの隣接パーツの動きを大きくするので、結果的にタイヤの発熱性の悪化やセパレーション等の破壊現象が起こり易くなり、そのため弾性率についても十分な配慮が必要である。
【0003】
このように、ベルトクッションや上部軟質ビードフィラーにあっては、発熱性、弾性率、さらには破断伸びが重要な物性であるといえる。一般的に、発熱性を向上させるためにはシリカ配合が行われるが、この場合には粘度が上昇し、工場加工性が悪化するようになる。また、高破断伸びを得るためには、配合されるカーボンブラックの減量や比表面積を大きくすることなどが考えられるが、これは弾性率の低下を招くこととなる。
【0004】
特許文献1〜2には、天然ゴムラテックスに極性基含有単量体、例えばカルボキシル基、カルボニル基、オキシカルボニル基、含窒素複素環基等を含有する単量体の1種または2種以上をグラフト重合させた変性天然ゴムを10重量%以上含有するゴム組成物を用いて、空気入りタイヤのトレッドアンダークッションおよび/またはベルトアンダークッションを形成させることにより、低発熱性と高耐破壊性とを備えた空気入りタイヤが提供されると述べられている。
【0005】
カルボキシル基含有単量体としては、(メタ)アクリル酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、テトラコン酸、けい皮酸等の不飽和カルボン酸が挙げられ、またこのゴム組成物中にはDBP吸収量が80×10-5m3/kg以上のカーボンブラック、例えばSAF、ISAF、HAF、FEF、GPFカーボンブラックを配合し得るとされ、その実施例ではN330(HAF)カーボンブラックが変性天然ゴム100重量部当り10〜55重量部の割合で用いられており、低いtanδの値も示されている。
【0006】
しかしながら、ここで用いられている変性天然ゴムは、天然ゴムラテックスに極性基含有単量体をグラフト重合させて得られたものであり、水素結合性を有してはおらず、またその用途が空気入りタイヤのトレッドアンダークッションおよび/またはベルトアンダークッションということもあって、そこでは弾性率についての配慮がなされてはいない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−151259号公報
【特許文献2】特開2006−151163号公報
【特許文献3】特許第3,998,690号公報
【特許文献4】特許第4,011,057号公報
【特許文献5】特許第4,037,016号公報
【特許文献6】EP 0 933 381 A1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、加工性にすぐれ、破断伸び、弾性率および発熱性にすぐれた加硫物を与えることができ、したがって空気入りタイヤのベルトクッションおよび/または上部軟質ビードフィラーの成形材料等として有効に用いられるジエン系ゴム組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
かかる本発明の目的は、(A)ジエン系ゴム95〜99重量%および(B)主鎖がジエン系ゴムよりなり、カルボニル含有基と含窒素複素環とを分子内に有する、重量平均分子量Mwが50,000以下の水素結合性熱可塑性エラストマー5〜1重量%よりなるジエン系ゴム100重量部当り、ヨウ素吸着量が70〜100g/kgで、DBP吸収量が90〜110×10-5m3/kgのカーボンブラックを30〜50重量部配合してなるジエン系ゴム組成物によって達成される。かかる水素結合性熱可塑性エラストマーとしては、好ましくはジエン系ゴムよりなるポリマー主鎖にカルボニル基含有不飽和化合物およびこのカルボニル基と反応し得る官能性基で置換された含窒素複素環化合物を順次反応させて得られたジエン系ポリマーが用いられる。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係るジエン系ゴム組成物は、加工性にすぐれ、破断伸び、弾性率および発熱性にすぐれた加硫物を与えることができるので、空気入りタイヤのベルトクッション、上部軟質ビードフィラーの成形材料等として有効に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
ジエン系ゴムとしては、タイヤ製造に用いられる任意のジエン系ゴムを用いることができ、好ましくは天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、1,2-ブタジエンゴム、スチレンブタジエンゴム(SBR)、アクリロニトリル-ブタジエンゴム(NBR)、クロロプレンゴム(CR)およびこれらの水素添加物等が用いられる。SBRとしては、乳化重合SBR(E-SBR)、溶液重合SBR(S-SBR)のいずれをも用いることができる。
【0012】
これらのジエン系ゴムに添加される水素結合性熱可塑性エラストマーは、主鎖がジエン系ゴムよりなり、カルボニル含有基と含窒素複素環とを分子内に有し、重量平均分子量Mw(GPC法により測定;ポリスチレン換算)が50,000以下、好ましくは10,000〜40,000のものが用いられる。かかる水素結合性熱可塑性エラストマーは、本出願人の出願に係る特許発明を記載した特許文献3〜5等に記載されている。
【0013】
1つの側鎖内に含窒素複素環とカルボニル基とを含有する側鎖としては、例えば、下記式(1)で表される構造を含有するものが挙げられる。

式中、Aは含窒素複素環であり、Bは結合基であって、単結合、酸素原子、イオウ原子、アミノ基NR′および酸素原子、イオウ原子またはアミノ基NR′を含んでもよい有機基からなる群から選ばれる少なくとも1種であり、R′は水素原子または炭素数1〜10のアルキル基である。
【0014】
ポリマーは、圧縮永久歪、機械的強度に優れるという観点から、側鎖のうちの少なくとも一部または全部が1つの側鎖内にカルボニル基と含窒素複素環とを含有する、側鎖として式(1)で表される構造を有するのが好ましい。
【0015】
含窒素複素環Aは、複素環内に窒素原子を含むものであれば特に制限されず、複素環内に窒素原子以外のヘテロ原子、例えばイオウ原子、酸素原子、リン原子等を有することができる。
【0016】
含窒素複素環Aは、置換基を有していてもよい。置換基としては、例えばメチル基、エチル基、(イソ)プロピル基、ヘキシル基等のアルキル基;メトキシ基、エトキシ基、(イソ)プロポキシ基等のアルコキシ基;フッ素原子、塩素原子、臭素原子またはヨウ素原子であるハロゲン原子からなる基;シアノ基;アミノ基;芳香族炭化水素基;エステル基;エーテル基;アシル基;チオエーテル基等が挙げられる。置換基は、それぞれ単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができ、その数も限定されない。
【0017】
含窒素複素環Aは、芳香族性を有することができる。含窒素複素環Aが芳香族性を有している場合、組成物を水素結合等によって架橋して得られる架橋ゴム組成物の引張強度、機械的強度などに優れるので好ましい。
【0018】
含窒素複素環は、五員環または六員環であることが好ましい。このような含窒素複素環としては、例えばピロリジン、ピロリドン、オキシインドール(2-オキシインドール)、インドキシル(3-オキシインドール)、ジオキシインドール、イサチン、インドリル、フタルイミジン、β-イソインジゴ、モノポルフィリン、ジポルフィリン、トリポルフィリン、アザポルフィリン、フタロシアニン、ヘモグロビン、ウロポルフィリン、クロロフィル、フィロエリトリン、イミダゾール、ピラゾール、トリアゾール、テトラゾール、ベンゾイミダゾール、ベンゾピラゾール、ベンゾトリアゾール、イミダゾリン、イミダゾロン、イミダゾリドン、ヒダントイン、ピラゾリン、ピラゾロン、ピラゾリドン、インダゾール、ピリドインドール、プリン、シンノリン、ピロール、ピロリン、インドール、インドリン、オキシルインドール、カルバゾール、フェノチアジン、インドレニン、イソインドール、オキサゾール、チアゾール、イソオキサゾール、イソチアゾール、オキサジアゾール、チアジアゾール、オキサトリアゾール、チアトリアゾール、フェナントロリン、オキサジン、ベンゾオキサジン、フタラジン、プテリジン、ピラジン、フェナジン、テトラジン、ベンゾオキサゾール、ベンゾイソオキサゾール、アントラニル、ベンゾチアゾール、ベンゾフラザン、ピリジン、キノリン、イソキノリン、アクリジン、フェナントリジン、アントラゾリン、ナフチリジン、チアジン、ピリダジン、ピリミジン、キナゾリン、キノキサリン、トリアジン、ヒスチジン、トリアゾリジン、メラミン、アデニン、グアニン、チミン、シトシン、イソシアヌル酸およびこれらの誘導体等が挙げられる。また、含窒素複素環は例えば前記と同様の置換基を有していてもよいし、水素原子が付加または脱離されたものであってもよい。
【0019】
含窒素複素環の結合位置について説明する。なお、含窒素複素環を便宜上「含窒素n員環化合物(n≧3)」とする。以下に説明する結合位置(「1〜n位」)は、IUPAC命名法に基づくものである。例えば、非共有電子対を有する窒素原子を3個有する化合物の場合、IUPAC命名法に基づく順位によって結合位置を決定する。具体的には、以下に例示する五員環、六員環および縮合環の含窒素複素環に結合位置を記する。ポリマーにおいて、含窒素複素環が直接または有機基を介して主鎖としてのエラストマーと結合する際、含窒素n員環化合物の結合位置は特に限定されず、いずれの結合位置(1位〜n位)でもよい。好ましくは、その1位または3位〜n位である。
【0020】
含窒素n員環化合物に含まれる窒素原子が1個(例えば、ピリジン環等)の場合は、分子内でキレートが形成されやすく組成物としたときの引張強度等の物性に優れるため、3位〜(n-1)位が好ましい。
【0021】
含窒素五員環は、圧縮永久歪、機械的特性に優れるという観点から、下記の一群の化合物、下記式(2)で表されるトリアゾール誘導体、下記式(3)で表されるイミダゾール誘導体が好ましい。
【0022】

【0023】

【0024】
式中、置換基Xは、炭素数1〜30のアルキル基、炭素数7〜20アラルキル基または炭素数6〜20のアリール基であれば特に限定されない。置換基Xとしては、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、オクチル基、ドデシル基、ステアリル基等の直鎖状のアルキル基;イソプロピル基、イソブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、t-ペンチル基、1-メチルブチル基、1-メチルヘプチル基、2-エチルヘキシル基等の分岐状のアルキル基;ベンジル基、フェネチル基等のアラルキル基;フェニル基、トリル基(o-、m-、p-)、ジメチルフェニル基、メシチル基等のアリール基が挙げられる。
【0025】
含窒素六員環としては、例えば、下記の一群の化合物、イソシアヌル酸(例えばイソシアネート基含有化合物の3量体)が挙げられる。含窒素六員環は上記した置換基を有していてもよいし、水素原子が付加または脱離されたものであってもよい。
【0026】

【0027】
また、含窒素複素環は、含窒素複素環を有する縮合環であってもよく、例えばベンゼン環と縮合したもの、含窒素複素環同士が縮合したもの等が挙げられる。具体的には、例えば、下記の一群の縮合環が挙げられる。縮合環は上記した置換基を有していてもよいし、水素原子が付加または脱離されたものであってもよい。
【0028】

【0029】
イソシアヌル酸としては、例えば下記の式で表されるものが挙げられる。

式中、R1、R2、R3は、それぞれ独立に、水素原子;メチル基、エチル基等のアルキル基;メトキシ基、エトキシ基等のアルコキシル基;ヒドロキシメチル基、ヒドロキシエチル基等のヒドロキシル基含有基;塩素原子、臭素原子等のハロゲン原子;ヒドロキシル基;シアノ基;アミノ基;エステル基;エーテル基である。R1、R2、R3は、それぞれ異なっていてもよく、同一でもよい。イソシアヌル酸としては、例えば1,3,5-トリス(2-ヒドロキシエチル)イソシアヌル酸が挙げられる。
【0030】
含窒素複素環のうち、得られる架橋ゴム組成物が、耐圧縮永久歪特性、機械的強度および硬度に優れるという観点から、トリアゾール環、チアジアゾール環、ピリジン環、チアゾール環、イミダゾール環、ヒダントイン環、イソシアヌル酸が好ましい。含窒素複素環含有基は、それぞれ単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0031】
結合基Bは、単結合、酸素原子、イオウ原子、アミノ基NR′および酸素原子、イオウ原子またはアミノ基NR′を含んでもよい有機基からなる群から選ばれる少なくとも一種であり、R′は水素原子または炭素数1〜10のアルキル基であるのが好ましい。この有機基は、酸素原子、イオウ原子またはアミノ基NR′を含むことができる炭化水素基であり、炭化水素基としては、例えば炭素数1〜20のアルキレン基(例えば-CH2CH2-)が挙げられる。また、有機基が酸素原子、イオウ原子およびアミノ基NR′からなる群から選ばれる少なくとも一種を末端または側鎖に有する場合としては、例えば炭素数1〜20のアルキレンエーテル基(アルキレンオキシ基、例えば-O-CH2CH2-)、アルキレンアミノ基(例えば-NH-CH2CH2-)、アルキレンチオエーテル基(アルキレンチオ基、例えば-S-CH2CH2-)が挙げられる。アミノ基NR′中のR′(炭素数1〜10のアルキル基)としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基が挙げられ、異性体を含む。
【0032】
このように単結合、酸素原子、イオウ原子、アミノ基NR′および酸素原子、イオウ原子またはアミノ基NR′を含んでもよい有機基からなる群から選ばれる少なくとも一種である結合基Bは、機械的強度に優れるという観点から、式(1)中のカルボニル基と隣接して、エステル基、アミド基、イミド基、チオエステル基等を形成することが好ましい。中でも、結合基Bは、式(1)中のカルボニル基と隣接して共役系を形成する、酸素原子、イオウ原子、アミノ基NR′、酸素原子、イオウ原子またはアミノ基NR′を含んでもよい有機基からなる群から選ばれる少なくとも一種を末端に有する、炭素数1〜20のアルキレンエーテル基、アルキレンアミノ基またはアルキレンチオエーテル基であることが好ましく、アミノ基(NH)、アルキレンアミノ基(-NH-CH2-、-NH-CH2CH2-、-NH-CH2CH2CH2-)、アルキレンエーテル基(-O-CH2-、-O-CH2CH2-、-O-CH2CH2CH2-)であることがより好ましい。結合基Bは、それぞれ単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0033】
前記式(1)で表される構造を含有する側鎖としては、例えば下記式(4)、式(5)で表される構造が挙げられる。
【0034】

式中、Aは含窒素複素環であり、BおよびDは、それぞれ独立に、単結合、酸素原子、イオウ原子、アミノ基NR′および酸素原子、イオウ原子またはアミノ基NR′を含んでもよい有機基からなる群から選ばれる少なくとも一種であり、R′は水素原子または炭素数1〜10のアルキル基であり、α-位またはβ-位において直接または有機基を介して前記ポリマーの主鎖に結合する。
【0035】
含窒素複素環Aは、具体的には、式(1)の含窒素複素環Aと基本的に同様である。また、結合基BおよびDは式(1)の結合基Bと基本的に同様である。ただし、式(5)における置換基Dは、圧縮永久歪、機械的強度に優れるという観点から、単結合、酸素原子、イオウ原子もしくはアミノ基NR′を含んでもよい炭素数1〜20のアルキレン基またはアラルキレン基であって、酸素原子、イオウ原子またはアミノ基NR′がイミド窒素と共役系を形成するものが好ましく、単結合であるのがより好ましい。置換基Dは、それぞれ単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0036】
水素結合性熱可塑性エラストマーとしては、好ましくはジエン系ゴムよりなるポリマー主鎖にカルボニル基含有不飽和化合物およびこのカルボニル基と反応し得る官能性基で置換された含窒素複素環化合物を順次反応させて得られたジエン系ポリマーが用いられる。
【0037】
主鎖がジエン系ゴム分子からなる水素結合性熱可塑性エラストマーのジエン系ゴム分子としては、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、クロロプレンゴム(CR)、ニトリルゴム(NBR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)等が用いられ、好ましくはイソプレンゴム(IR)が用いられる。
【0038】
これらのジエン系ゴム分子のポリマー主鎖に付加反応されるカルボニル基含有不飽和化合物としては、無水マレイン酸、マレイン酸等が挙げられ、好ましくは無水マレイン酸が用いられる。無水マレイン酸の変性率は、一般に変性されるポリマー分子重量に対して約0.1〜10重量%程度に設定される。
【0039】
ポリマー主鎖への無水マレイン酸の付加反応は、エン反応によって行われることが好ましい。特許文献6に記載される如く、通常の付加反応では無水マレイン酸が開環して、多くはマレイン酸として付加されるが、エン反応によれば、無水マレイン酸はその酸無水物構造の殆どを保持したまま付加される。
【0040】
かかる無水マレイン酸付加ジエン系ゴムとしては、市販品をそのまま用いることができ、例えば無水マレイン酸変性液状ポリイソプレンゴムとして、クラレ製品LIR-410A等が挙げられる。
【0041】
このようにして付加された無水マレイン酸基には、含窒素複素環が5員環または6員環であり、マレイン酸等と反応し得る官能性基で置換された含窒素複素環化合物、例えば置換された官能性基がアミノ基である4H-3-アミノ-1,2,4-トリアゾール、4-アミノピリジン等を、また置換された官能性基が水酸基である4-ヒドロキシピリジン、4-メチロールピリジン等を少過剰用い、約120〜200℃で加熱することにより、さらに付加反応が行われる。
【0042】
無水マレイン酸等に対して反応性を有する官能性基で置換された含窒素複素環化合物の反応は、反応溶媒の不存在下ニーダで約170〜200℃で30分間混練するなどの反応条件下でも行うことができるが、クロロホルム等の反応溶媒を用い、室温条件下で1〜3時間程度混練することによっても行われる。
【0043】
無水マレイン酸等に反応する含窒素複素環化合物の官能性基は、当量またはそれ以上で用いられ、後記反応式に示される如く、まず一方のカルボキシル基との間にアミド結合が形成されたアミック酸が形成されるが、脱水反応がさらに進行することによってイミド結合が形成されるようになる。
【0044】
ここで、熱可塑性エラストマーとしてジエン系ゴムに無水マレイン酸を付加反応させ、さらに官能性基置換含窒素複素環化合物を反応させたものは、カルボニル基含有不飽和化合物に由来するカルボニル基とこれと反応した含窒素複素環化合物との間で、O-H…O、N-H…O、O-H…N、N-H…Nで示されるようなドナー-H-アクセプターよりなる水素結合を形成して自己架橋を可能とし、また加熱時(120℃)には解離して、常温付近では再び水素結合を形成させる。
【0045】
このような一連の反応によって得られるポリマー主鎖にカルボニル基含有不飽和化合物およびこの基と反応し得る官能性基で置換された含窒素複素環化合物を順次反応させた水素結合性熱可塑性エラストマーは、ジエン系ゴム95〜99重量%に対し5〜1重量%の割合で用いられる。これよりも少ない割合で用いられると、諸特性に格別の改善はみられず、一方これよりも多い割合で用いられると、発熱性は改善されるが、破断伸びの低下が著しくなる。
【0046】
ジエン系ゴム95〜99重量%および水素結合性熱可塑性エラストマー5〜1重量%よりなるジエン系ゴムには、それの100重量部当り、ヨウ素吸着量が70〜100g/kgで、DBP吸収量が90〜110×10-5m3/kgのカーボンブラックが30〜50重量部、好ましくは35〜45重量部配合して用いられる。
【0047】
ヨウ素吸着量およびDBP吸収量がこれよりも大きい値を有するカーボンブラックを用いると、粘度、弾性率、発熱性が低下し、水素結合性熱可塑性エラストマーを適量用いた場合にも、粘度、弾性率の低下が避けられない。また、規定された性状を示すカーボンブラックが用いられた場合であっても、これが規定された量よりも多く用いられると、弾性率は高くなるが、粘度、破断伸び、発熱性が低下し、水素結合性熱可塑性エラストマーを適量用いた場合にも、粘度、破断伸びの低下が避けられない。
【0048】
以上の各成分を必須成分とするゴム組成物中には、加硫剤としての硫黄およびチアゾール系(MBT、MBTS、ZnMBT等)、スルフェンアミド系(CBS、DCBS、BBS等)、グアニジン系(DPG、DOTG、OTBG等)、チウラム系(TMTD、TMTM、TBzTD、TETD、TBTD等)、ジチオカルバミン酸塩系(ZTC、NaBDC等)、キサントゲン酸塩系(ZnBX等)等の加硫促進剤のいずれか一種類以上が配合されて用いられる。さらに、ゴムの配合剤として一般的に用いられている他の配合剤、例えばタルク、クレー、グラファイト、珪酸カルシウム等の補強剤または充填剤、ステアリン酸等の加工助剤、酸化亜鉛、軟化剤、可塑剤、老化防止剤などが必要に応じて適宜配合されて用いられる。
【0049】
組成物の調製は、ニーダ、バンバリーミキサ等の混練機または混合機およびオープンロール等を用いる一般的な方法で混練することによって行われ、得られた組成物は、所定形状に成形された後、用いられたジエン系ゴム、加硫剤、加硫促進剤の種類およびその配合割合に応じた加硫温度で加硫され、空気入りタイヤのベルトクッション、上部軟質ビードフィラー等を形成させる。
【実施例】
【0050】
次に、実施例について本発明を説明する。
【0051】
参考例
無水マレイン酸変性液状イソプレンゴム(クラレ製品LIR-410A;Mw 25,000、無水マレイン酸変性率3.9重量%)200.0g(無水マレイン酸骨格換算で79.6ミリモル)に、4H-3-アミノ-1,2,4-トリアゾール6.97g(82.9ミリモル)を加え、160℃で3時間攪拌した。均一溶液になったことを確認した後、一昼夜放置することにより、ゲル状の水素結合性熱可塑性エラストマー202.8g(収率98%)を得た。
【0052】
反応生成物であるゲル状水素結合性熱可塑性エラストマーは、アミック酸結合を有するもの〔I〕、イミド結合を有するもの〔II〕またはこれら両者を有するものと思われ、その主生成物は〔II〕と考えられる。


または

【0053】
標準例
天然ゴム(RSS#3) 100重量部
HAFカーボンブラック(キャボットジャパン製品ショウブラックN330、 40 〃
I2吸着量75g/kg、DBP吸収量81×10-5m3/kg)
老化防止剤(住友化学製品アンチゲンRD-G) 2 〃
ステアリン酸(日油製品ビーズステアリン酸) 2 〃
亜鉛華(正同化学工業製品酸化亜鉛3種) 3 〃
硫黄(アクゾノーベル社製品クリステックスHS OT20) 1 〃
加硫促進剤(大内新興化学工業製品ノクセラーDM) 1 〃
以上の各成分を、1.8L密閉型ミキサを用いて混練し、混練物について150℃、30分間のプレス加硫を行った。
【0054】
混練物であるジエン系ゴム組成物および得られた加硫物について、次の各項目の測定が行われた。測定結果は、いずれも標準例を100とする指数で示される。
粘度:JIS K6300準拠、100℃で大ローターを用いて測定
(指数が小さい程粘度が高く、加工性が悪い)
破断伸び:JIS K6251準拠、室温条件下で測定
(指数が大きい程破断伸びが大で、良好)
弾性率:JIS K6251準拠
(指数が大きい程、弾性率が高い)
発熱性:JIS K6394準拠、初期歪10%、振幅±2%、周波数20Hzの条件下で、60℃に
おけるtanδを測定
(指数が大きい程発熱し難く、低発熱性にすぐれる)
【0055】
比較例1
標準例において、HAFカーボンブラック〔HAF CB〕量が55重量部に変更された。
【0056】
比較例2
標準例において、HAFカーボンブラックの代わりに、同量(40重量部)のISAFカーボンブラック〔ISAF CB〕(キャボットジャパン製品ショウブラックN234、I2吸着量123g/kg、DBP吸収量118×10-5m3/kg)が用いられた。
【0057】
比較例3
標準例において、天然ゴム〔NR〕量を99.5重量部に変更し、前記参考例で得られた水素結合性熱可塑性エラストマー〔TPE〕が0.5重量部用いられた。
【0058】
比較例4
標準例において、NR量を90重量部に変更し、TPEが10重量部用いられた。
【0059】
比較例5
比較例1において、NR量を97重量部に変更し、TPEが3重量部用いられた。
【0060】
比較例6
比較例2において、NR量を97重量部に変更し、TPEが3重量部用いられた。
【0061】
実施例1
標準例において、NR量を99重量部に変更し、TPEが1重量部用いられた。
【0062】
実施例2
標準例において、NR量を97重量部に変更し、TPEが3重量部用いられた。
【0063】
実施例3
標準例において、NR量を95重量部に変更し、TPEが5重量部用いられた。
【0064】
実施例4
実施例2において、HAF CB量が30重量部に変更された。
【0065】
以上の標準例、各比較例および各実施例で得られた測定結果は、ジエン系ゴム(NR+TPE)およびカーボンブラックの配合量(重量部)と共に、次の表に示される。

配合成分 測定結果
NR TPE HAF ISAF 粘度 破断伸び 弾性率 発熱性
標準例 100 40 100 100 100 100
比較例1 100 55 95 94 105 93
〃 2 100 40 94 100 95 92
〃 3 99.5 0.5 40 99 99 100 101
〃 4 90 10 40 97 90 100 116
〃 5 97 3 55 94 92 105 100
〃 6 97 3 40 93 98 95 99
実施例1 99 1 40 99 99 100 105
〃 2 97 3 40 99 98 100 107
〃 3 95 5 40 98 96 100 108
〃 4 97 3 30 102 102 96 111
【0066】
以上の結果から、次のようなことがいえる。
(1) 各実施例のものは、標準例に対し粘度、破断伸び、弾性率がほぼ同等で、発熱性が向上している。
(2) ISAF CBを用いると、粘度が上昇し、弾性率が低下し、発熱性が悪化するようになり(比較例2)、TPEを適量用いた場合にも、粘度の上昇、弾性率の低下が避けられない(比較例6)。
(3) HAF CBが規定された量よりも多く用いられると、弾性率は高くなるが、粘度が上昇し、破断伸びが低下し、発熱性が悪化するようになり(比較例1)、TPEを適量用いた場合にも、粘度の上昇、破断伸びの低下が避けられない(比較例5)。
(4) TPE量が規定された量よりも少ないと、諸特性に格別の改善はみられず(比較例3)、多すぎると、発熱性は大きく改善されるが、破断伸びの低下が著しい(比較例4)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ジエン系ゴム95〜99重量%および(B)主鎖がジエン系ゴムよりなり、カルボニル含有基と含窒素複素環とを分子内に有する、重量平均分子量Mwが50,000以下の水素結合性熱可塑性エラストマー5〜1重量%よりなるジエン系ゴム100重量部当り、ヨウ素吸着量が70〜100g/kgで、DBP吸収量が90〜110×10-5m3/kgのカーボンブラックを30〜50重量部配合してなるジエン系ゴム組成物。
【請求項2】
(B)成分水素結合性熱可塑性エラストマーが、ジエン系ゴムよりなるポリマー主鎖にカルボニル基含有不飽和化合物およびこのカルボニル基と反応し得る官能性基で置換された含窒素複素環化合物を順次反応させて得られたジエン系ポリマーである請求項1記載のジエン系ゴム組成物。
【請求項3】
カルボニル基と反応し得る官能性基で置換された含窒素複素環化合物がアミノ基置換または水酸基置換含窒素複素環化合物である請求項2記載のジエン系ゴム組成物。
【請求項4】
空気入りタイヤのベルトクッションおよび/または上部軟質ビードフィラー成形材料として用いられる請求項1、2または3記載のジエン系ゴム組成物。
【請求項5】
請求項4記載のジエン系ゴム組成物から成形、加硫されたベルトクッションおよび/または上部軟質ビードフィラーを有する空気入りタイヤ。

【公開番号】特開2011−148891(P2011−148891A)
【公開日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−10693(P2010−10693)
【出願日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【出願人】(000006714)横浜ゴム株式会社 (4,905)
【Fターム(参考)】