説明

ジチオカルバメート金属キレートならびにその作製および使用方法

抗癌処置および予防において有用な組成物が本明細書中に記載される。組成物は、(a)ジチオカルバメート金属キレートおよび(b)両親媒性物質から構成され、ここで両親媒性物質の量は、リポソームまたはミセルを生成するのに十分である。抗癌処置および予防において組成物を使用するための方法もまた、本明細書中に記載される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本願は、2008年3月17日に出願された米国仮特許出願第61/037,095号明細書に対する優先権を主張する。本願は、その教示内容のすべてに対して、その全体が参照により本明細書に援用される。
【0002】
確認
本発明に至る研究は、国立衛生研究所(National Institutes of Health)助成金番号RO1 CA129611によって一部資金提供を受けた。米国政府は、本発明における特定の権利を有する場合がある。
【背景技術】
【0003】
癌は、悪性腫瘍細胞の制御されない成長であり、現代医学の時代における主要な健康問題であり、米国における死因として心臓疾患に次いで2番目に位置づけられる。例えば、急性骨髄性白血病(「AML」)は、成人における最も一般的な急性白血病である(Greer J.P.ら (2004年) 「Wintrobe’s Clinical Hematology」,Baltimore、2098−2142頁)。この疾患を患う大部分の患者はそれによって死亡する。1970年代初期以来、処置の中心は、シトシンアラビノシド(Ara−C)およびアントラサイクリンとなっている(Greer J.P.ら (2004年) 「Wintrobe’s Clinical Hematology」、Baltimore、2098−2142頁)。急性前骨髄球性白血病の処置におけるオールトランスレチノイン酸は注目すべき例外であり、新しい作用剤で、疾患の転帰に対して大きな効果を有するものは全くない状況である。AMLのための幹細胞移植は、患者の年齢および好適なドナーの入手可能性により、その制限を有する。さらに、最近の試験は、幹細胞救助による高用量処置が、標準用量の化学療法に対して生存優位性を提供しない場合があることを示唆している(Cassileth P.A.ら (1998年) New England Journal of Medicine 339(23):1649−1656頁)。その結果として、AMLおよび他のタイプの癌の処置を目的とした新しい作用機序を有する新しい作用剤が必要であることは明白である。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0004】
抗癌処置および予防において有用な組成物が本明細書中に記載される。組成物は、(a)ジチオカルバメート金属キレートおよび(b)両親媒性物質から構成され、ここで両親媒性物質の量は、リポソームまたはミセルを生成するのに十分である。抗癌処置および予防における組成物を使用するための方法もまた、本明細書中で説明される。下記の利点は、特に添付の特許請求の範囲において指摘される要素および組み合わせにより、実現され、達成されるであろう。前述の概要および以下の詳細な説明の双方は、例示的で説明的なものにすぎず、かつ制限されるものでないことは理解されるべきである。
【0005】
添付の図面は、本明細書に援用され、その一部を構成するものであり、下記のいくつかの態様を図示する。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【図1】インビトロでのHL−60細胞の成長に対するDETC/金属キレートの効果を示す。
【図2】0.32μMのDETC/Cuキレートを有するHL−60細胞培養物中のDETC/Cuによる24時間の白血病細胞のアポトーシス誘導について図示し、その時、アポトーシス細胞の数がPI染色を使用するフローサイトメトリーによって測定された。
【図3】インビボでの白血病細胞の成長に対するDETC/Cuキレートの効果を示す。
【図4】インビトロでの3つの固形腫瘍細胞系の成長に対するDETC/Cu2+キレートの効果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本化合物、組成物、および/または方法が開示され、説明される前に、下記の態様が、当然変化しうることから、特定の化合物、合成方法、または用途に限定されないことは理解されるべきである。本明細書で使用される用語が、あくまで特定の態様を説明することを目的とし、限定することを意図しないことも理解されるべきである。
【0008】
以下に続く本明細書および特許請求の範囲においては、多くの用語に対して参照がなされることになり、それらは以下の意味を有するように定義されるものとする。
【0009】
単数形「a」、「an」および「the」は、本明細書および添付の特許請求の範囲において使用される場合、文脈上他に明示されない限り、複数の指示対象を含むことに留意する必要がある。それ故、例えば、「薬学的担体(a pharmaceutical carrier)」への言及は、2つ以上のかかる担体の混合物などを含む。
【0010】
「任意選択の(optional)」または「場合により(optionally)」は、その後に説明される事象または環境が生じうるかまたは生じえないことと、説明が事象または環境が生じる事例およびそれが生じない事例を含むことを意味する。例えば、語句「場合により置換された低級アルキル」は、低級アルキル基が置換されうるかまたは置換されえないことと、説明が未置換低級アルキルおよび置換がある場合の低級アルキルの双方を含むことを意味する。
【0011】
本明細書および結末の特許請求の範囲における、組成物または物品における特定の要素または成分の重量部への言及は、重量部が表される組成物または物品における、要素または成分と任意の他の要素または成分の間の重量関係を意味する。それ故、2重量部の成分Xと5重量部の成分Yを含有する化合物において、XおよびYは2:5の重量比で存在し、かつ追加的成分が化合物中に含有されるか否かに無関係にかかる比で存在する。成分の重量パーセントは、他に具体的に述べられない限り、成分が含まれる調合物または組成物の総重量を基準とする。
【0012】
複数の項目、構成要素、組成要素、および/または材料は、本明細書で使用される場合、便宜上、共通リスト内に提示される場合がある。しかし、これらのリストは、リストの各メンバーが別々の固有のメンバーとして個別に同定されたものとして解釈されるべきである。したがって、反対する表示を有しない限り、かかるリストの個別のいかなるメンバーも、共通の群内に提示されていることのみに基づいて、同じリストの他のメンバーと事実上等しいものとして解釈されるべきでない。
【0013】
濃度、量、および他の数値のデータは、本明細書中で、範囲形式で表現または提示される場合がある。かかる範囲形式が、あくまで便益や簡潔性のために使用され、それ故、範囲の限界として明示される数値を含むだけでなく、各数値および部分範囲が明示されるような範囲内に包含されるすべての個別の数値または部分範囲を含むように柔軟に解釈されるべきであることは、理解されるべきである。例として、「約1〜5」の数値範囲は、約1〜約5の明示される値を含むだけでなく、指定される範囲内の個別の値および部分範囲を含むように解釈されるべきである。したがって、この数値範囲内に、2、3、および4などの個別の値および1〜3、2〜4、および3〜5などの部分範囲、ならびに個別に1、2、3、4、および5が含まれる。同じ原則が、最小または最大として1つの数値のみに言及する範囲に適用される。さらに、かかる解釈は、記述されている範囲の幅または特性とは無関係に適用されるべきである。
【0014】
本明細書で使用される用語「アルキル基」は、1〜24個の炭素原子の分岐または未分岐の飽和炭化水素基、例えばメチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、t−ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、デシル、テトラデシル、ヘキサデシル、エイコシル、テトラコシルなどである。
【0015】
用語「アルケニル基」は、本明細書で使用される場合、少なくとも1つのC=C基を有する2〜24個の炭素原子の分岐または未分岐アルキル基である。アルケニル基は、限定はされないが、ハロ、ヒドロキシ、アルキルチオ、アリールチオ、アルコキシ、アリールオキシ、アミノ、モノ−もしくはジ−置換アミノ、アンモニアもしくは置換アンモニア、ニトロソ、シアノ、スルホネート、メルカプト、ニトロ、オキソ、シクロアルキル、ベンジル、フェニル、置換ベンジル、置換フェニル、ベンジルカルボニル、フェニルカルボニル、サッカリド、置換ベンジルカルボニル、置換フェニルカルボニルおよびリンの誘導体を含む1つ以上の基で置換されていてもよい。
【0016】
用語「アルコキシ基」は、本明細書で使用される場合、式−OR(式中、Rは、本明細書で定義されるアルキル基である)によって示される。
【0017】
用語「シクロアルキル基」は、本明細書で使用される場合、少なくとも3つの炭素原子から構成される非芳香族炭素に基づく環である。シクロアルキル基の例として、限定はされないが、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシルなどが挙げられる。用語「ヘテロシクロアルキル基」は、上で定義されるシクロアルキル基であり、ここで環の炭素原子の少なくとも1つは、限定はされないが、窒素、酸素、硫黄、またはリンなどのヘテロ原子で置換される。
【0018】
用語「アリール基」は、本明細書で使用される場合、限定はされないが、ベンゼン、ナフタレンなどを含む任意の炭素に基づく芳香族基である。用語「芳香族」はまた、「ヘテロアリール基」を含み、それは芳香族基の環内に取り込まれる少なくとも1つのヘテロ原子を有する芳香族基として定義される。ヘテロ原子の例として、限定はされないが、窒素、酸素、硫黄、およびリンが挙げられる。アリール基は、置換または未置換であってもよい。アリール基は、限定はされないが、ハロ、ヒドロキシ、アルキルチオ、アリールチオ、アルコキシ、アリールオキシ、アミノ、モノ−もしくはジ−置換アミノ、アンモニオまたは置換アンモニオ、ニトロソ、シアノ、スルホナト、メルカプト、ニトロ、オキソ、アルキル、アルケニル、シクロアルキル、ベンジル、フェニル、置換ベンジル、置換フェニル、ベンジルカルボニル、フェニルカルボニル、サッカリド、置換ベンジルカルボニル、置換フェニルカルボニルおよびリン誘導体を含む1つ以上の基で置換されていてもよい。アリール基は、2つ以上の融合環を含んでもよく、ここで環の少なくとも1つは芳香環である。例として、ナフタレン、アントラセン、および他の融合芳香族化合物が挙げられる。
【0019】
用語「低下させる」は、癌細胞成長または腫瘍成長の速度を低下させることを示す。例えば、癌細胞成長速度は、陽性対照と比較される場合、5%、10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、または99%低下させることが可能である。
【0020】
用語「予防する」は、陽性対照と比較される場合、癌細胞成長速度または腫瘍成長をゼロにすることを示す。
【0021】
用語「ミセル」は、液体コロイド中に分散された両親媒性分子の凝集体を示す。水溶液中の典型的なミセルは、周囲媒体と接触状態にある親水性「ヘッド」領域と凝集体を形成し、ミセル中心における疎水性テールを隔離する。ミセルの形状およびサイズは、両親媒性物質の分子構造と、両親媒性物質濃度、温度、pH、およびイオン強度などの溶液条件の関数である。ジチオカルバメート金属キレートは、大部分、ミセルの疎水性部分内部に取り込まれる。
【0022】
用語「リポソーム」は、両親媒性物質によって生成される二層系を示す。水性コアは、二層を生成するように並ぶ両親媒性物質の疎水性テールの結果としてリポソーム中に存在する。
【0023】
本願を通じて用いられるAn、R1〜R4、a、b、およびnなどの変数は、これと異なる規定がない限り、先に定義される場合と同じ変数である。
【0024】
I.組成物およびその調製
抗癌処置にとって有用な医薬組成物が本明細書中に記載される。本明細書中に記載の組成物は、癌の処置のために被検体に容易に投与可能な、リポソームまたはミセル中のジチオカルバメート金属キレートから構成される。組成物および方法については、以下に詳述される。
【0025】
a.ジチオカルバメート金属キレート
本明細書で定義される用語「ジチオカルバメート金属キレート」は、ジチオカルバメートチオレートアニオンに結合した重金属を有する化合物である。結合の様式は、多種多様であってもよく、共有および/または非共有(例えば、静電気、水素結合、双極子−双極子、付与結合など)を含んでもよい。米国特許第6,548,540号明細書中に開示されたジチオカルバメート金属キレートおよびそれを調製するための方法は、本明細書中で使用してもよく、その教示内容は参照により援用される。一態様では、ジチオカルバメート金属キレートは、式I
【化1】

(式中、R3およびR4は、独立に、水素、または未置換もしくは置換アルキル、アルケニル、アリール、アルコキシ、またはヘテロアリール基を含み;Mは重金属であり;Anはハロゲン化物または有機もしくは無機の医薬的に許容できるアニオンであり;かつnは金属の価数である)を有する。用語「重金属」は、本明細書で使用される場合、任意の遷移金属、ランタニド金属、またはアクチニド金属、または周期表中の5〜8族非金属を含む。本明細書において有用な重金属の例として、限定はされないが、ヒ素、ビスマス、ガリウム、マンガン、セレン、亜鉛、チタン、バナジウム、クロム、鉄、コバルト、ニッケル、銅、銀、および金があげられる。
【0026】
一態様では、式Iを有するジチオカルバメート金属キレートは、ジチオカルバメートジスルフィドまたは式IIを有するジチオカルバメートチオレートアニオンのいずれかを重金属塩で処理することによって合成することが可能である。一態様では、ジチオカルバメート金属キレートに対する前駆体であるジチオカルバメートチオレートアニオンは、式II
【化2】

(式中、R1およびR2は、独立に、水素、または未置換もしくは置換アルキル、アルケニル、アリール、アルコキシ、またはヘテロアリール基であり;Mは、リチウム、ナトリウム、もしくはカリウムを含むアルカリ金属、またはカルシウム、マグネシウム、バリウム、およびリチウムを含むアルカリ土類金属であり;かつnはアルカリ金属またはアルカリ土類金属の価数である)を有する。一態様では、式IIを有する化合物は、ジチオカルバメートジスルフィド(例えば、式R12N(S)CS−SC(S)NR12を有する化合物であり、ここでR1およびR2は上のように定義される)をアルカリ金属水酸化物またはアルカリ土類金属水酸化物と反応させることによって生成することが可能である。対応するジチオカルバメートジスルフィドに酸化可能なジチオカルバメートの非限定例として、限定はされないが、ジエチルジチオカルバメート、ピロリジンジチオカルバメート、N−メチル,N−エチルジチオカルバメート、ヘキサメチレンジチオカルバメート、イミダゾリンジチオカルバメート、ジベンジルジチオカルバメート、ジメチレンジチオカルバメート、ジポリルジチオカルバメート(dipolyldithiocarbamate)、ジブチルジチオカルバメート、ジアミルジチオカルバメート、N−メチル,N−シクロプロピルメチルジチオカルバメート、シクロヘキシルアミルジチオカルバメート、ペンタメチレンジチオカルバメート、ジヒドロキシエチルジチオカルバメート、N−メチルグルコサミンジチオカルバメート、ならびにこれらの塩および誘導体があげられる。
【0027】
重金属塩がジチオカルバメート金属キレートの生成に使用される場合、重金属塩の対イオンは、種々の異なるアニオンであってもよい。一態様では、重金属塩のアニオン(すなわち式Iに示されるAn)は、ハロゲン化物(フッ化物、塩化物、臭化物、ヨウ化物)または有機もしくは無機の医薬的に許容できるアニオンであってもよい。他の態様では、Anは、酢酸塩、ラクトネート(lactonate)、グリシン酸塩、クエン酸塩、プロピオン酸塩またはグルコン酸塩である。
【0028】
一態様では、ジチオカルバメート金属キレートは、式Iを有し、ここでR3およびR4は、例えばエチル基などのアルキル基である。別の態様では、ジチオカルバメート金属キレートは、式IIを有し、ここでR3およびR4は、例えばエチル基などのアルキル基であり、かつMは銅または亜鉛である。さらなる態様では、ジチオカルバメート金属キレートは、式Iを有し、ここでR3およびR4は、例えばエチル基などのアルキル基であり、Mは銅、亜鉛、金、または銀であり、かつAnは、例えば、酢酸塩、ラクトネート、グリシン酸塩、クエン酸塩、プロピオン酸塩またはグルコン酸塩などの有機アニオンである。
【0029】
b.両親媒性物質
本明細書において有用な両親媒性物質は、ミセルまたはリポソームを形成することが可能な親水性および親油性基を有する化合物である。両親媒性物質は、最小の毒性を有するように生体適合性である必要がある。リポソームおよびミセルを調製するための、本明細書において有用な両親媒性物質は、生体適合性かつ生体分解性の物質から生成されるホモポリマー、共重合体、ブロック共重合体を含む。かかるポリマーの例として、限定はされないが、ポリ(アミノ酸);ポリ乳酸;ポリ(エチレンイミン);ポリ(メタクリル酸2−(ジメチルアミノ)エチル)(poly(dimethylaminoethylmethacrylates))、ポリエチレングリコールとヒドロキシアルキルアクリレートとアクリルアミドの共重合体(例えばN−(2−ヒドロキシプロピル)メタクリルアミド)、PEG−β−ポリ(α−アミノ酸)、ポリ(L−乳酸)−ポリ(エチレングリコール)ブロック共重合体、またはポリ(L−ヒスチジン)−ポリ(エチレングリコール)ブロック共重合体が挙げられる。
【0030】
一態様では、両親媒性物質はポロキサマーである。一態様では、ポロキサマーは、ポリオキシエチレン(例えばポリ(エチレンオキシド))の2つの親水性鎖によって隣接された、ポリオキシプロピレン(例えば、ポリ(プロピレンオキシド))の中心疎水性鎖から構成される非イオン性トリブロック共重合体である。一態様では、ポロキサマーは、式
HO(C24O)b(C36O)a(C24O)bOH
(式中、aは、10〜100、20〜80、25〜70、もしくは25〜70、または50〜70であり;bは、5〜250、10〜225、20〜200、50〜200、100〜200、または150〜200である)を有する。別の態様では、ポロキサマーは、2,000〜15,000、3,000〜14,000、または4,000〜12,000の分子量を有する。本明細書において有用なポロキサマーは、BASFによって製造される商標名Pluronic(登録商標)の下で販売されている。本明細書において有用なポロキサマーの非限定例として、限定はされないが、表1に記載のものが挙げられる。
【0031】
【表1】

【0032】
他の態様では、両親媒性物質は、リン脂質などの脂質であってもよく、それはリポソームの調製において有用である。例として、ホスファチジルエタノールアミンおよびホスファチジルコリンが挙げられる。他の態様では、両親媒性物質は、コレステロール、糖脂質、脂肪酸、胆汁酸、またはサポニンを含む。
【0033】
c.組成物の調製
本明細書中に記載の組成物は、溶媒中でジチオカルバメート金属キレートと両親媒性物質を適切な濃度で混合し、ミセルまたはリポソームを生成することによって容易に調製することが可能である。特定の態様では、ジチオカルバメートチオレートアニオンと両親媒性物質は、水中で混合され、次いで加熱され、ミセルを生成する。ジチオカルバメート金属キレートおよび両親媒性物質の量は可変である。一態様では、両親媒性物質の量は、臨界ミセル濃度(CMC)が低下するのに十分である必要がある。臨界ミセル濃度(CMC)は、上部でミセルが自発的に形成される界面活性剤の濃度として定義される。表1は、両親媒性物質として本明細書において有用なポロキサマーのCMCを提供する。特定の態様では、使用される両親媒性物質の濃度は、両親媒性物質のCMCより数倍高い可能性がある。ジチオカルバメート金属キレートに加え、追加的な生物活性剤をミセルまたはリポソームに取り込むことが可能であると考えられる。例えば、本態様では、下記の他の抗癌剤を本明細書で使用してもよい。
【0034】
本明細書中に記載の組成物は非常に安定である。換言すれば、ジチオカルバメート金属キレートは、pHの低下および血清への暴露などのストリンジェントな生理的条件から保護される。さらに、組成物は、扱いやすく、ジチオカルバメート金属キレートが組成物から滲出されることなく、濾過などの精製ステップに耐えることが可能である。最終的に、組成物は水溶性である。一般に、本明細書において有用なジチオカルバメート金属キレートは極めて水不溶性であり、それは例えば静脈内注射などの従来の技術によるその投与を妨げる。したがって、ジチオカルバメートチオレートアニオンがミセルまたはリポソーム中に取り込まれる場合、ジチオカルバメート金属キレートを被検体に投与することがはるかに容易になる。
【0035】
d.医薬組成物
一態様では、本明細書中に記載の組成物のいずれかを少なくとも1つの薬学的に許容されるキャリアと組み合わせることで、医薬組成物を生成することが可能である。医薬組成物は、当該技術分野で公知の技術を用いて調製してもよい。一態様では、組成物は、組成物を薬学的に許容されるキャリアと混合することによって調製される。用語「混合する(admixing)」は、化学反応または物理的相互作用が全く生じないように、2つの成分を共に混合することとして定義される。用語「混合する」はまた、式Iを有する化合物と薬学的に許容されるキャリアとの間の化学反応または物理的相互作用を含む。
【0036】
薬学的に許容されるキャリアは、当業者にとって公知である。これらは、最も典型的には、生理的pHでの滅菌水、生理食塩水、および緩衝溶液などの溶液を含む、ヒトへの投与のための標準のキャリアとなる。
【0037】
医薬送達が意図された分子は、医薬組成物中で調合することが可能である。医薬組成物は、選択される分子に加え、キャリア、増粘剤、希釈剤、緩衝液、保存剤、表面活性剤などを含んでもよい。医薬組成物はまた、抗菌剤、抗炎症剤、麻酔剤などの1種以上の活性成分を含んでもよい。
【0038】
医薬組成物は、局所または全身処置が望ましいか否かに加え、処置されるべき領域に依存して、複数の方法で投与してもよい。投与は、非経口、経口、皮下、病巣内、腹腔内、静脈内、または筋肉内であってもよい。
【0039】
投与用調製物は、無菌の水性または非水性溶液、懸濁液、およびエマルジョンを含む。非水性キャリアの例として、アルコール性/水性溶液、エマルジョンまたは懸濁液、および緩衝媒体が挙げられる。非経口媒体は、開示される組成物および方法の追加的使用として必要とされる場合、塩化ナトリウム溶液、リンガーデキストロース、デキストロースおよび塩化ナトリウム、乳酸化リンガー、または固定油を含む。静脈内媒体は、開示される組成物および方法の追加的使用として必要とされる場合、流体および栄養素補液、電解質補液(例えばリンガーデキストロースに基づくもの)などを含む。保存剤および他の添加剤、例えば、抗菌剤、抗酸化剤、キレート剤、および不活性ガスなどもまた存在しうる。
【0040】
特定の場合における活性化合物の実際の好ましい量は、使用中の特定の化合物、調合される特定の組成物、適用の様式(mode of application)、ならびに処置されている特定の位置および哺乳動物に従って変化することは理解されるであろう。所与の宿主における用量は、従来からの検討事項を用いて、例えば対象化合物と公知の作用剤との特異的活性の慣習的な比較により、例えば適切な従来の薬理学的プロトコルにより、決定してもよい。医薬化合物の用量を決定する当業者である医師および調合師は、標準的推奨に従い、用量を難なく決定することになる(Physicians Desk Reference,Barnhart Publishing(1999年))。
【0041】
II.使用の方法
本明細書中に記載の組成物は、有効な抗癌剤である。化学療法剤に耐性がある腫瘍細胞は、臨床腫瘍学における主要な課題を示す。本発明の方法および組成物を使用し、細胞成長を阻害するか、細胞分化を誘発するか、アポトーシスを誘発するか、MDR表現型を阻害するか、転移を阻害するか、血管新生を阻害するかまたはそれ以外に腫瘍細胞の悪性表現型を無効にするかもしくは低下させるため、「標的」細胞を、本明細書中に記載の1種以上の組成物と接触させる。特定の態様では、ジチオカルバメート金属キレートと少なくとも1種の他の作用剤から構成される組成物を投与してもよい。本明細書中に記載の組成物は、化学および放射線療法の有効性を改善することが可能である。1つのアプローチは、本明細書中に記載の組成物を化学または放射線治療的介入と併用することを含む。この処置のオプションは、ジチオカルバメート金属キレートと共に相乗的な治療的効果を提供しうる。さまざまな癌治療剤およびかかる作用剤を使用する処置の方法は、当該技術分野で周知である。
【0042】
一態様では、追加的な作用剤は、抗癌剤であってもよい。これらの組成物は、細胞の増殖を殺滅または阻害するのに有効な組み合わせ量で提供されうる。このプロセスは、細胞を組成物および作用剤または因子と同時に接触させることを含みうる。これは、細胞を単一の組成物または両方の作用剤(例えばジチオカルバメート金属キレートおよび化学療法剤)を含む医薬調合物と接触させるか、または細胞を2つの異なる組成物または調合物と同時に接触させることによって行うことが可能であり、ここで一方の組成物は本明細書中に記載のジチオカルバメート金属キレート組成物を含み、かつ他方は作用剤を含む。
【0043】
あるいは、ジチオカルバメート金属キレート組成物による処置のいずれかは、数分から数週の範囲の間隔で、他の作用剤処置に先行または後続しうる。他の作用剤と本明細書中に記載のジチオカルバメート金属キレート組成物のいずれかとが細胞に別々に適用される場合の態様では、作用剤とジチオカルバメートチオレートアニオンとが依然として細胞に対して有利に組み合わされた(例えば相乗)効果を発揮可能となるように、各送達の間隔として有意な期間が過ぎないようにすべきである。一態様では、細胞は、両方の様式と、約12〜24時間以内に、または互いの約6〜12時間後に、最大で約12時間の遅延時間で、接触することが可能である。いくつかの状況では、例えば各投与の間で数日(2、3、4、5、6もしくは7日)から数週(1、2、3、4、5、6、7もしくは8週)が経過する場合、治療剤のみでの処置の期間を延長することが望ましい場合がある。
【0044】
抗癌剤の例として、限定はされないが、白金化合物(例えば、シスプラチン、カルボプラチン、オキサリプラチン)、アルキル化剤(例えば、シクロホスファミド、イホスファミド、クロラムブシル、窒素マスタード、チオテパ、メルファラン、ブスルファン、プロカルバジン、ストレプトゾシン、テモゾロマイド、ダカルバジン、ベンダムスチン)、抗腫瘍抗生物質(例えば、ダウノルビシン、ドキソルビシン、イダルビシン、エピルビシン、ミトキサントロン、ブレオマイシン、マイトマイシンC、プリカマイシン、ダクチノマイシン)、タキサン(例えば、パクリタキセルおよびドセタキセル)、代謝拮抗薬(例えば、5−フルオロウラシル、シタラビン、ペメトレキセド、チオグアニン、フロクスウリジン、カペシタビン、およびメトトレキセイト)、ヌクレオシド類似体(例えば、フルダラビン、クロファラビン、クラドリビン、ペントスタチン、ネララビン)、トポイソメラーゼ阻害剤(例えば、トポテカンおよびイリノテカン)、低メチル化剤(例えば、アザシチジンおよびデシタビン)、プロテオソーム阻害剤(例えばボルテゾミブ)、エピポドフィロトキシン(例えば、エトポシドおよびテニポシド)、DNA合成阻害剤(例えばヒドロキシウレア)、ビンカアルカロイド(例えば、ビンクリスチン、ビンデシン、ビノレルビン、およびビンブラスチン)、チロシンキナーゼ阻害剤(例えば、イマチニブ、ダサチニブ、ニロチニブ、ソラフェニブ、スニチニブ)、モノクローナル抗体(例えば、リツキシマブ、セツキシマブ、パニツムマブ、トシツモマブ、トラツズマブ、アレムツズマブ、ゲムツズマブオゾガマイシン、ベバシズマブ)、ニトロソウレア(例えば、カルムスチン、ホテムスチン、およびロムスチン)、酵素(例えば、L−アスパラギナーゼ)、生物剤(例えば、インターフェロンおよびインターロイキン)、ヘキサメチルメラミン、ミトタン、血管新生阻害剤(例えば、サリドマイド、レナリドマイド)、ステロイド(例えば、プレドニゾン、デキサメタゾン、およびプレドニゾロン)、ホルモン剤(例えば、タモキシフェン、ラロキシフェン、ロイプロリド、ビカルタミド、グラニセトロン、フルタミド)、アロマターゼ阻害剤(例えば、レトロゾールおよびアナストロゾール)、三酸化ヒ素、トレチノイン、非選択的シクロオキシゲナーゼ阻害剤(例えば、非ステロイド性抗炎症剤、サリチル酸塩、アスピリン、ピロキシカム、イブプロフェン、インドメタシン、ナプロシン、ジクロフェナク、トルメチン、ケトプロフェン、ナブメトン、オキサプロジン)、選択的シクロオキシゲナーゼ−2(COX−2)阻害剤、またはこれらの任意の組み合わせが挙げられる。
【0045】
他の態様では、本明細書中に記載の組成物は、細胞に適用される場合、DNA損傷を誘発する治療と組み合わせてもよい。かかる治療は、例えば、γ照射、X線、UV照射、超音波、電子放出などの放射線を含む。
【0046】
本明細書中に記載の方法は、種々の異なるタイプの癌を処置するために適用可能である。一態様では、癌は、前立腺癌、白血病(例えば、急性骨髄性白血病、急性前骨髄球性、急性リンパ芽球性白血病、慢性骨髄性白血病、慢性リンパ球性白血病、毛様細胞白血病、形質細胞白血病)、骨髄増殖性障害(例えば、本態性血小板増加症、真性赤血球増加症、原発性骨髄線維症)、骨髄異形成症候群、リンパ腫(ホジキンおよび非ホジキン)、睾丸癌、頭頸部癌、食道癌、胃癌、肝癌、小腸癌、胆嚢癌、直腸癌、肛門癌、肉腫、子宮癌、頸癌、外陰癌、膀胱癌、骨肉腫、腎癌、メラノーマ、結腸癌、卵巣癌、肺癌、中枢神経系癌、多発性骨髄腫、皮膚癌、または乳癌を含む。
【0047】
他の態様では、本明細書中に記載の組成物は、パージング剤として使用することが可能である。例えば、幹細胞は、癌(例えば、白血病または多発性骨髄腫)を患う患者から採取することが可能であり、かつ幹細胞は、本明細書中に記載の組成物で処置し、任意の残存する悪性腫瘍細胞を殺滅することが可能である。これはまた、本明細書中で、移植片の「パージング」と称される。次いで、処置された幹細胞は、患者に対し、高用量の化学療法/放射線後の幹細胞(骨髄)移植において使用することが可能である。
【0048】
次の実施例が、本明細書中に記載され、主張される化合物、組成物、および方法がいかに作られ、評価されるかについての完全な開示および説明を当業者に提供するために示され、純粋に例示的であるように意図され、かつ発明者がその発明であると見なすことの範囲を限定するように意図されていない。数(例えば、量、温度など)に対する精度を保証するための努力がなされているが、一部の誤りや逸脱は考慮されるべきである。他に指定がない限り、部は重量部であり、温度は℃であるかまたは周囲温度であり、かつ圧力は大気圧またはその近傍である。反応条件、例えば、成分濃度、所望される溶媒、溶媒混合物、温度、圧力ならびに、上記プロセスから得られる生成物の純度および収率を最適化するのに使用可能な他の反応範囲および条件の極めて多数の変形および組み合わせがある。かかるプロセス条件を最適化するには、合理的かつルーチン的な実験のみが必要となる。
【実施例】
【0049】
実施例1
本実施例は、ジエチルジチオカルバメートの銅塩(CuDETC)の合成について記載する。次のように、当モル量のグルコン酸銅(D−グルコン酸銅(II)、FW453.84)およびジエチルジチオカルバメートのナトリウム塩(ナトリウムDETC、三水和物、FW225.31)を水中で結合させ、DETCの銅塩を合成した。20mLの0.1M NaDETC(0.451gm/20mL水)を有する50ccのポリプロピレン遠心管に、10mLの0.2M グルコン酸Cu(0.908gm/10mL水)を加えた。CuDETC生成物を、2,400rpmで15分間の遠心分離によって回収した。上清を廃棄し、生成物を蒸留水(3×50mL)で洗浄した。次いで、CuDETC生成物を、室温(22℃)、流れる窒素下で乾燥させた。化学物質を、Signma−Aldrich Chemical Co.(St.Louis,MO)から入手した。CuDETC生成物のストック溶液を、グラスバイアル内で0.0217gmの粉末を8.0mLの無水ジメチルスルホキシド中に溶解することによって調製した。0.0027gm/mLでの大体の濃度は10mMであった(CuDETCに対してFW265.8を仮定)。
【0050】
実施例2
本実施例では、CuETCを負荷したミセルの調製について記載する。Pluronic(登録商標)123界面活性剤を、BASF Corp.(Mount Olive,NJ)から入手した。20% w/wのP123のストック溶液を、清浄なガラス瓶内で180gmの蒸留水を20.0gmのP123に加え、混合して溶解することによって調製した。リン酸緩衝生理食塩水(PBS)(pH7.4)を、58.4gmのNaCl(0.137モル)、74.5gmのKCL(0.0027モル)、142.0gmのNa2HPO4(0.01モル)および136.1gのKH2PO4(0.002モル)を1Lの蒸留水に溶解し、最終pHを7.4に調整することによって調製した。2.0%P123のストック溶液を、1.0mLの20%P123ストック溶液を9.0mLのPBSに加えることによって調製した。0.5%P123のストック溶液を、1.0mLの20%P123ストック溶液を39.0mLのPBSに加えることによって調製した。
【0051】
ミセルの調製においては、2.0%P123中、400μモルのCuDETC溶液を、グラスバイアル内で、0.006mLの10mM CUDETC/DMSOストックをPBS中、1.44mLの2.0%P123溶液に加え、緩やかに混合することによって調製した。別のミセル調製物を、グラスバイアル内の0.5%P123中、64μモルのCuDETC溶液を使用して、0.01mLの10mM CUDETC/DMSOストックをPBS中、1.55mLの0.5%P123溶液に加え、緩やかに混合することによって作製した。
【0052】
実施例3
本実施例では、AgDETCを負荷したミセルの調製について記載する。ジエチルジチオカルバメートの銀塩(AgDETC、FW265.14)をSigma−Aldrichから入手した。2mMの濃度のAgDETCのストック溶液を、グラスバイアル内で0.0051gmのAgDETCを10.0mLの無水ジメチルスルホキシド(DMSO)に加え、60〜70℃まで加熱し、溶解することによって調製した。AgDETCが室温で容易に沈殿されることから、この溶液を30〜45分以内で使用し、ミセル溶液を作製した。
【0053】
ミセル調製においては、2.0%P123中の60μモルのAgDETC溶液を、グラスバイアル内で、0.02mLの新しい2mMのAgDETC/DMSOストックをPBS中、0.647mLの2.0%P123溶液に加え、緩やかに混合することによって調製した。
【0054】
実施例4
DETCと銅(Cu2+)または銀(Ag+)のキレートを合成した。HL−60脊髄白血病細胞系を使用して、両キレートのインビトロでの抗白血病活性を比較した。その目的のため、DETC/金属キレートを、P123 Pluronic(登録商標)ポリマーを使用し、Pluronic(登録商標)ミセル中で調合した。DETC/金属キレートを、最初にジメチルスルホキシド(DMSO)中に溶解した。次いで、DMSO中のこの2mMのDETC/金属ストックを、ポリマーストックと混合し、室温でミセル化を生じさせることができた。最終ポリマー濃度は2重量%であった。次いで、DETC/金属を負荷したP123ポリマーミセルをHL−60細胞に加えた。DETC/金属キレートを、最大で0.24μMの濃度で加えた。3日後、MTSアッセイを使用し、細胞成長を評価した。溶液中のDMSOの最終量は、最大で0.12%に達した。
【0055】
媒体で処置した細胞のみが、おそらくDMSOの存在に起因して成長の低下を示した。しかし、DETC/Cu2+またはDETC/Ag+キレートのいずれかで処置した細胞は、はるかにより広範囲に成長阻害を受けた。DETC/Cu2+キレートは、DETC/Ag+キレートより強力であるように思われた。
【0056】
図1に示されるように、HL−60細胞を、指定濃度のDETC/CuまたはDETC/Agキレートとともに3日間培養し、その時、細胞成長をMTSアッセイを使用して測定した。化合物を、P123 Pluronic(登録商標)ミセル中で調合した。結果は、AMLの処置におけるジチオカルバメート/金属キレートの潜在的有効性を示す。
【0057】
実施例5
本実施例では、DETC/Cuによる白血病細胞アポトーシス誘導について例示する。上で詳述のように、DETC/Cu2+キレートを合成し、調合した。HL−60細胞を、0.32μMの濃度でのDETC/Cu2+で24時間処置し、その時、アポトーシス細胞の数を、ヨウ化プロピジウム(PI)染色およびフローサイトメトリーを使用して測定した。アポトーシス細胞の存在についての分析を、ModFitソフトウェアを使用してモデル化した。PBSまたはP123媒体対照で処置した細胞は、それぞれ7±1%のアポトーシス細胞を有した(図2;3つの別々の実験の平均およびSEM。PBS対照に対して、*はP<0.05を示す)。DETC/Cu2+で処置した細胞は、16±2%のアポトーシス細胞を有した。
【0058】
実施例6
別の予備実験においては、インビボでの白血病細胞の成長に対するDETC/金属キレートの効果について試験した。NOD/SCID IL2Rγnullマウスの横腹に対し、19×106個のHL−60細胞を両側に移植した。腫瘍が触知可能になったとき、P123 Pluronic(登録商標)ミセル中のDETC/Cu調合物での処置を開始し、2μモル/kgの用量で1日置きに静脈内投与した。投与のこの用量およびスケジュールの場合、明らかな毒性は全く認められなかった。各処置群(Pluronic(登録商標)P123ミセル対照およびP123ミセル中のDETC/Cu)に対してマウスは4匹であった。治療の12日後、腫瘍体積曲線がDETC/Cu処置マウスにおける腫瘍成長が対照の場合に対して遅延することを示し始めた。結果を図3に図示する。実験は15日目に終了した。その時点で、対照動物の4匹のうち3匹が死亡していて、生存していた1匹が有する腫瘍体積は初期体重の10%を超えていた。DETC/Cuで処置した動物のうち1匹も死亡しなかった。この実験は、ジチオカルバメート/金属銅が、インビボで抗白血病活性を有することを示唆する。
【0059】
実施例7
インビトロでの3つの固形腫瘍細胞系の成長に対するDETC/Cu2+キレートの効果について試験した。試験した細胞系は、結腸癌細胞系DLD−1、前立腺癌細胞系PPC−1および肝腫瘍細胞系Hep−3Bであった。実施例1において前述のように、DETC/Cu2+キレートを合成した。DETC/Cu2+キレートは、P123 Pluronic(登録商標)ミセルに可溶化した。対数成長期における細胞を、RPMI1640/10%FBS培地中、120,000個の細胞/mLの濃度で培養した。DETC/Cu2+を、0〜1μMの範囲の濃度で細胞に加えた。並行して、細胞を、等容量のP123対照ポリマーとともに培養した。薬剤添加の2日後、細胞成長について、Promega(Madison,WI)から入手したCellTiter 96アッセイを使用し、製造業者のプロトコルを用いてアッセイした。結果は、DETC/Cu2+がマイクロモル以下の濃度で3つの異なる固形腫瘍細胞系の成長を阻害したことを示す(図4)。DLD−1、PPC−1およびHep−3B細胞に対する50%の成長阻害濃度(IC50)は、それぞれ0.37、0.18、および0.13μMであった。P123対照Pluronic(登録商標)は、細胞成長に作用しなかった。図4に示される結果は、3通りの実験の平均の標準誤差の場合での平均である。
【0060】
本明細書中に示される本発明の主な改良および他の実施形態を、当業者は着想するであろうし、これらの発明は、上述の説明において示される教示内容の利点を有する。したがって、本発明が開示される特定の実施形態に限定されるべきでなく、かつ改良および他の実施形態が添付の特許請求の範囲の範囲内に含められるように意図されることは理解されるべきである。特定の用語が本明細書中で使用されるが、それらはあくまで一般的かつ説明的意味で使用され、限定目的に使用されない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)ジチオカルバメート金属キレート;および
(b)両親媒性物質
を混合するステップを含むプロセスによって生成される組成物であって、ここで両親媒性物質の量はリポソームまたはミセルを生成するのに十分である、組成物。
【請求項2】
前記ジチオカルバメート金属キレートは、式II
【化1】

(式中、R3およびR4は、独立に、水素、または未置換もしくは置換アルキル、アルケニル、アリール、アルコキシ、またはヘテロアリール基を含み;Mは遷移金属であり;Anは、ハロゲン化物または有機もしくは無機の医薬的に許容できるアニオンを含むアニオンであり;かつnは前記金属の価数である)を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
Mは、ヒ素、ビスマス、ガリウム、マンガン、セレン、亜鉛、チタン、バナジウム、クロム、鉄、コバルト、ニッケル、銅、銀、および金を含み;Anは、塩化物、臭化物、ヨウ化物、酢酸塩、または有機もしくは無機の医薬的に許容できるアニオンを含むアニオンである、請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
3およびR4はアルキル基を含む、請求項2または3に記載の組成物。
【請求項5】
3およびR4はエチル基を含む、請求項2または3に記載の組成物。
【請求項6】
Mは、ヒ素、ビスマス、ガリウム、マンガン、セレン、亜鉛、チタン、バナジウム、クロム、鉄、コバルト、ニッケル、銅、銀、および金である、請求項2〜5のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項7】
Anは、クエン酸塩、酢酸塩、グルコン酸塩、グリシン酸塩、プロピオン酸塩、または乳酸塩を含む有機アニオンである、請求項2〜5のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項8】
前記両親媒性物質は、リン脂質、コレステロール、糖脂質、脂肪酸、胆汁酸、またはサポニンを含む、請求項1〜7のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項9】
前記両親媒性物質は、ポリ(アミノ酸);ポリ乳酸;ポリ(エチレンイミン);ポリ(メタクリル酸2−(ジメチルアミノ)エチル)(poly(dimethylaminoethylmethacrylates))、ポリエチレングリコールとヒドロキシアルキルアクリレートとアクリルアミドの共重合体、PEG−β−ポリ(α−アミノ酸)、ポリ(L−乳酸)−ポリ(エチレングリコール)ブロック共重合体、またはポリ(L−ヒスチジン)−ポリ(エチレングリコール)ブロック共重合体を含む、請求項1〜7のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項10】
前記両親媒性物質は、ポロキサマーを含む、請求項1〜7のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項11】
前記ポロキサマーは、ポリエチレンオキシド−ポリプロピレンオキシド−ポリエチレンオキシドのトリブロック共重合体を含む、請求項10に記載の組成物。
【請求項12】
前記組成物は、1種以上の抗癌剤をさらに含む、請求項1〜11のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項13】
前記抗癌剤は、白金化合物、アルキル化剤、抗腫瘍抗生物質、抗代謝物質、ヌクレオシド類似体、トポイソメラーゼ阻害剤、低メチル化剤、プロテオソーム阻害剤、エピポドフィロトキシン、ビンカアルカロイド、チロシンキナーゼ阻害剤、モノクローナル抗体、ニトロソウレア、酵素、生物剤、ヘキサメチルメラミン、ミトタン、血管新生阻害剤、ステロイド、ホルモン剤、アロマターゼ阻害剤、三酸化ヒ素、トレチノイン、非選択的シクロオキシゲナーゼ阻害剤、選択的シクロオキシゲナーゼ−2(COX−2)阻害剤、またはこれらの任意の組み合わせを含む、請求項12に記載の組成物。
【請求項14】
前記組成物はミセルを含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項15】
1種以上の抗癌剤が、成分(a)および(b)と混合される、請求項1に記載の組成物。
【請求項16】
請求項1〜15のいずれか一項に記載の組成物および医薬的に許容できるキャリアを含む医薬組成物。
【請求項17】
癌を処置するための方法であって、被検体に、請求項1〜16のいずれか一項に記載の組成物を投与するステップを含む、方法。
【請求項18】
癌細胞を殺滅するための方法であって、前記癌細胞を、請求項1〜16のいずれか一項に記載の組成物と接触させるステップを含む、方法。
【請求項19】
癌細胞の成長を阻止するかまたは低下させるための方法であって、前記癌細胞を、請求項1〜20のいずれか一項に記載の組成物と接触させるステップを含む、方法。
【請求項20】
前記癌は、前立腺、白血病、骨髄増殖性障害、骨髄異形成症候群、リンパ腫、睾丸癌、頭頸部癌、食道癌、胃癌、肝癌、小腸癌、胆嚢癌、直腸癌、肛門癌、肉腫、子宮癌、外陰癌、頸癌、膀胱癌、骨肉腫、腎癌、メラノーマ、結腸癌、卵巣癌、肺癌、中枢神経系癌、多発性骨髄腫、皮膚癌、または乳癌を含む、請求項17〜19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
前記組成物は、非経口投与される、請求項17〜19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
前記組成物は、非経口、経口、皮下、病巣内、腹腔内、静脈内、または筋肉内に投与される、請求項17〜19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項23】
前記組成物は、放射線治療と併用される、請求項17〜19のいずれか一項に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2011−515405(P2011−515405A)
【公表日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−500882(P2011−500882)
【出願日】平成21年3月16日(2009.3.16)
【国際出願番号】PCT/US2009/037216
【国際公開番号】WO2009/117333
【国際公開日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【出願人】(505191906)ユニバーシティ オブ ユタ リサーチ ファンデーション (5)
【Fターム(参考)】