説明

ジビニルアレーンジオキシド樹脂組成物

(a)少なくとも1種のジビニルアレーンジオキシド及び(b)少なくとも1種のジフェノール硬化剤を含む硬化性ジビニルアレーンジオキシド樹脂組成物、硬化性ジビニルアレーンジオキシド樹脂組成物の製造方法、及びそれから製造される硬化した硬化性ジビニルアレーンジオキシド樹脂組成物。上記硬化性ジビニルアレーンジオキシド樹脂組成物から製造された硬化生成物は、公知のエポキシ樹脂から製造された公知の硬化生成物と比べて、改善された特性、例えばより低い粘度及び高い耐熱性を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硬化性エポキシ樹脂組成物に関し、より詳しくは、フェノール系化合物により硬化される硬化性ジビニルアレーンジオキシド樹脂組成物、及びかかる硬化性ジビニルアレーンジオキシド樹脂組成物から製造される熱硬化物に関する。
【背景技術】
【0002】
ジビニルアレーンジオキシドは、アミン、酸無水物又はポリフェノール系硬化剤を使用して熱硬化物を製造するために使用される公知の樹脂である。例えば、英国特許第854679号明細書には、ジビニルベンゼンジオキシド及び多官能性アミンの硬化性組成物が記載されており、英国特許第855025号明細書には、ジビニルベンゼンジオキシド及びカルボン酸無水物の硬化性組成物が記載されており、国際公開第2009/119513 A1号には、ジビニルベンゼンジオキシド及びポリフェノール系化合物の硬化性組成物が記載されている。上記の引用文献のいずれもジビニルアレーンジオキシド及びジフェノール類の硬化性組成物を開示していない。
【0003】
Z. W. Wicks, Jr.、F. N. Jones及びS. P. PappasによるOrganic Coatings Science and Technology(2nd ed., Wiley-Interscience, New York, 1999, p. 488)に記載されているように、高い耐薬品性及び耐腐蝕性が必要とされるエポキシ樹脂を得るためにフェノール系硬化剤が使用される。しかしながら、商業的に入手可能なポリフェノール系硬化剤の範囲は非常に限られているため、加工性及び硬化後の特性について良好な特性を有する熱硬化物を提供することができるより広い範囲のフェノール系硬化剤を開発することが望ましいであろう。
【0004】
これまで、公知のエポキシ樹脂に対してジフェノール類が硬化剤として首尾良く使用されてこなかった。代わりに、ジフェノール類は、硬化剤ではなく増量剤としてのみ使用されてきた。例えば、米国特許第4,808,692号明細書には、ホスホニウム触媒を使用して、従来のエポキシ樹脂及びジフェノール類からアドバンストエポキシ樹脂(advanced epoxy resin)を製造する方法が記載されている。かかるアドバンストエポキシ樹脂は、硬化せず、むしろ有機溶剤に可溶性であり、有限の溶融粘度を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】英国特許第854679号明細書
【特許文献2】英国特許第855025号明細書
【特許文献3】米国特許第4,808,692号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って、ジビニルアレーンジオキシド及びジフェノール類から誘導された硬化したエポキシ樹脂であって、室温(約25℃)以上のガラス転移温度(T)により求められる耐熱性を示し、有機溶剤に不溶性である硬化したエポキシ樹脂を提供することが望ましいであろう。
【課題を解決するための手段】
【0007】
従来技術の問題は、ジビニルアレーンジオキシド及びジフェノール類から誘導された硬化性ジビニルアレーンジオキシド樹脂組成物を製造することにより解消できる。驚くべきことに、ジビニルアレーンジオキシドは、他のエポキシ樹脂と異なって、ジフェノール類と反応してエポキシ硬化物を形成することが見出された。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の一実施態様は、(a)少なくとも1種のジビニルアレーンジオキシド、(b)少なくとも1種のジフェノール硬化剤、及び(c)必要に応じて、硬化触媒、を含む硬化性ジビニルアレーンジオキシド樹脂組成物に関する。
【0009】
本発明の別の実施態様は、上記硬化性ジビニルアレーンジオキシド樹脂組成物の製造方法に関する。
【0010】
本発明のさらに別の実施態様は、上記硬化性ジビニルアレーンジオキシド樹脂組成物から誘導される熱硬化物に関する。
【0011】
一実施態様において、得られる硬化性の熱硬化性配合物は、様々な用途、例えばコーティング、接着剤、複合材料、電子機器、発泡体などで使用できる。
【0012】
ジフェノール類により硬化したジビニルアレーンジオキシドは、従来技術のエポキシ樹脂及びジフェノール類の反応生成物と比べて良好な耐熱性及び良好な耐溶剤性を兼ね備える。
【0013】
本発明は、その最も広い範囲において、(a)少なくとも1種のジビニルアレーンジオキシド、例えば、ジビニルベンゼンジオキシド(DVBDO)など、及び(b)少なくとも1種のジフェノール硬化剤を含む硬化性ジビニルアレーンジオキシド樹脂組成物を包含する。得られる硬化性樹脂組成物又は配合物は、当該技術分野でよく知られている1又は2種以上の任意添加剤を含んでよく、得られる硬化性樹脂組成物又は配合物を使用して熱硬化物を製造することができる。
【0014】
ジビニルアレーンジオキシド及びジフェノール硬化剤を含む硬化性ジビニルアレーンジオキシド樹脂組成物は、有利なことに、良好な耐熱性及び良好な耐溶剤性を兼ね備えた新規な樹脂を提供する。
【0015】
本発明のエポキシ樹脂組成物において有用なジビニルアレーンジオキシド、例えばDVBDOは、ジビニルアレーンと過酸化水素とを反応させて本発明のジビニルアレーンジオキシド樹脂を製造するのに有用なジビニルアレーンジオキシドをもたらすことにより製造できるジビニルアレーンジオキシドである。
【0016】
本発明において有用なジビニルアレーンジオキシド、特にジビニルベンゼン、例えばDVBDO類から誘導されたものは、比較的低い液体粘度を有するが、従来のエポキシ樹脂よりも高い耐熱性及び剛性をその誘導された熱硬化物に付与するジエポキシド類である。ジビニルアレーンジオキシド中のエポキシド基は、先行技術のエポキシ樹脂を製造するために使用された従来のグリシジルエーテルの場合と比べて反応性がかなり低い。
【0017】
本発明において有用なジビニルアレーンジオキシドは、例えば、任意の環位置に2つのビニル基を有する任意の置換又は非置換アレーン核を含んでよい。ジビニルアレーンジオキシドのアレーン部分は、ベンゼン、置換ベンゼン、(置換)環付加(ring-annulated)ベンゼン又は同族的に結合した(置換)ベンゼン、又はそれらの混合物から成ることができる。ジビニルアレーンジオキシドのジビニルベンゼン部分は、オルト、メタ又はパラ異性体又はそれらの任意の混合物であることができる。さらなる置換基は、H耐性基、例えば飽和アルキル、アリール、ハロゲン、ニトロ、イソシアネート、又はRO−(Rは飽和アルキル又はアリールであることができる)などから成ることができる。環付加ベンゼンは、ナフタレン、テトラヒドロナフタレンなどから成ることができる。同族的に結合した(置換)ベンゼンは、ビフェニル、ジフェニルエーテルなどから成ることができる。
【0018】
一実施態様において、本発明において使用されるジビニルアレーンジオキシドは、例えば、Marks他により本願と同日に出願された米国特許出願番号第61/141,457号明細書(代理人事件番号第67459号)(引用により本明細書に援用)に記載されている方法によって製造することができる。
【0019】
本発明の組成物を製造するために使用されるジビニルアレーンジオキシドは、下記一般化学構造I〜IVにより一般的に例示することができる:
【0020】
【化1】

【0021】
【化2】

【0022】
本発明のジビニルアレーンジオキシドコモノマーについての上記構造I〜IVにおいて、各R、R、R及びRは、独立に、水素、アルキル、シクロアルキル、アリール若しくはアラルキル基、又はH耐性基、例えばハロゲン、ニトロ、イソシアネート若しくはRO基(式中、Rはアルキル、アリール又はアラルキルであることができる)などであることができ、xは0〜4の整数であることができ、yは2以上の整数であることができ、x+yは6以下の整数であることができ、zは0〜6の整数であることができ、z+yは8以下の整数であることができ、Arはアレーンフラグメント、例えば1,3−フェニレン基などである。
【0023】
本発明において有用なジビニルアレーンジオキシド成分は、例えば、ジビニルベンゼンジオキシド、ジビニルナフタレンジオキシド、ジビニルビフェニルジオキシド、ジビニルジフェニルエーテルジオキシド、及びこれらの混合物を含んでよい。好ましくは、本発明において使用されるジビニルアレーンジオキシドはジビニルベンゼンジオキシドである。
【0024】
下記の構造Vは、本発明において有用なDVBDOの好ましい化学構造の一実施態様を示す。
【0025】
【化3】

【0026】
下記の構造VIは、本発明において有用なDVBDOの好ましい化学構造の別の実施態様を示す。
【0027】
【化4】

【0028】
DVBDOが当該技術分野で知られている方法により製造される場合、オルト、メタ及びパラの3つの可能な異性体のうちの1つを得ることが可能である。そのため、本発明は、上記構造のうちのいずれか1つにより例示されるDVBDOを個別に含むか又は上記構造のDVBDOを混合物として含む。上記構造V及びVIは、それぞれ、DVBDOのメタ(1,3−DVBDO)異性体及びDVBDOのパラ異性体を示す。オルト異性体は少なく、通常、DVBDOは、たいてい、メタ(構造V)異性体とパラ(構造VI)異性体を一般的に約9:1〜約1:9の範囲内の比で生じる。本発明は、好ましくは、一実施態様として、約6:1〜約1:6の範囲内の比で構造Vと構造VIを含み、別の実施態様において、構造Vと構造VIの比は約4:1〜約1:4又は約2:1〜約1:2であることができる。
【0029】
本発明の別に実施態様において、ジビニルアレーンジオキシドは、置換アレーンを含んでよい(例えば約20質量%未満)。置換アレーンの量及び構造は、ジビニルアレーンジオキシドへのジビニルアレーン前駆体の製造に使用される方法に依存する。例えば、ジエチルベンゼン(DEB)の脱水素化により製造されたジビニルベンゼンは、エチルビニルベンゼン(EVB)及びDEBを含むことがある。過酸化水素との反応によって、EVBは、エチルビニルベンゼンモノオキシドを生成し、一方、DEBは変化せずに残る。これらの化合物の存在は、ジビニルアレーンジオキシドのエポキシド当量を、純粋な化合物のエポキシド当量を超える値に増加させることができる。
【0030】
一実施態様において、本発明において有用なジビニルアレーンジオキシド、例えばDVBDOは、低粘度液体エポキシ樹脂(LER)組成物を構成する。本発明のエポキシ樹脂組成物の製造方法において使用されるジビニルアレーンジオキシドの粘度は、一般的に、25℃で、約10センチポアズ(cP)〜約100cP、好ましくは約10cP〜約50cP、より好ましくは約10cP〜約25cPである。
【0031】
本発明において有用なジビニルアレーンジオキシドの有利な特性のうちの1つは、それらの熱安定性であり、その熱安定性によって、オリゴマー化又はホモ重合なしに中温(例えば約100℃〜約200℃)で数時間(例えば少なくとも2時間)以内の時間、配合物又は加工におけるそれらの使用が可能となる。配合又は加工中のオリゴマー化又はホモ重合は、粘度の実質的な増加又はゲル化(架橋)により分かる。本発明において有用なジビニルアレーンジオキシドは、中温で配合又は加工中にジビニルアレーンジオキシドが粘度の実質的な増加又はゲル化を経験しないほどの十分な熱安定性を有する。
【0032】
本発明において有用なジビニルアレーンジオキシドの別の有利な特性は、例えばその剛性である。ジビニルアレーンジオキシドの剛性は、Prediction of Polymer Properties, Dekker, New York, 1993に記載されているBiceranoの方法を使用して、側鎖を除くジオキシドの回転自由度の計算値に求められる。本発明において使用されるジビニルアレーンジオキシドの剛性は、上記のBiceranoの方法により測定した又は求めた場合に、一般的に、約6〜約10、好ましくは約6〜約9、より好ましくは約6〜約8の回転自由度に及びうる。
【0033】
本発明のジビニルアレーンジオキシド樹脂を製造するために使用されるジビニルアレーンジオキシドの濃度は、一般的に、約99質量%(wt%)〜約1wt%、好ましくは約90wt%〜約10wt%、より好ましくは約75wt%〜約25wt%である。
【0034】
本発明の硬化性ジビニルアレーンジオキシド樹脂組成物を製造するのに有用なジフェノール硬化剤(硬化剤(hardener)又は架橋剤(cross-linking agent)とも呼ぶ)(成分(b))は、いかなる従来のジフェノール系化合物でもよい。例えば、本発明の実施に有用なジフェノール類は、単環又は多環ジフェノール類であることができる。
【0035】
本発明において有用な好適なジフェノール類の例としては、モノマー又はオリゴマーのジフェノール類、ビスフェノール類、およびそれらの混合物であることができる。いかなる2種又は3種以上のジフェノール類の混合物も本発明の実施に使用できる。本発明において有用な他の好適なジフェノール化合物は、引用により本明細書に援用する米国特許第4,358,578号明細書に記載されている。
【0036】
本発明において有用なジフェノール類の好ましい例としては、例えばいかなる置換又は非置換ジフェノール、例えばビスフェノールA(二官能性フェノール系硬化剤)、例えばD.E.H.80フェノール系樹脂(ビスフェノールA及びビスフェノールAジグリシジルエーテルから誘導されたオリゴマー)などが挙げられ、置換又は非置換ジフェノールは必要に応じてモノフェノール類、例えばp−t−ブチルフェノール、クレゾール、クロロフェノール、アニソール、フェノール、及びこれらの混合物を含んでもよい。
【0037】
本発明の硬化性ジビニルアレーンジオキシド樹脂組成物を製造するために使用されるジフェノールの濃度は、エポキシドとフェノール基の当量比rとして、一般的に、約0.10〜約10、好ましくは約0.25〜約8、より好ましくは約0.5〜約5、最も好ましくは約1.0〜約2であることができる。
【0038】
本発明の硬化性ジビニルアレーンジオキシド樹脂組成物に任意の共硬化剤(co-curing agent)を使用でき、エポキシ樹脂を硬化させるための当該技術分野で知られているいかなる従来の共硬化剤を含んでも良い。例えば、硬化性組成物において有用な共硬化剤は、例えば、当該技術分野でよく知られている共硬化剤、例えば酸無水物、カルボン酸、アミン化合物、フェノール系化合物、ポリオール、又はこれらの混合物から選択できるが、これらに限定されない。
【0039】
本発明において有用な共硬化剤の例としては、エポキシ樹脂に基づく組成物を硬化させるのに有用であることが知られている硬化性物質のいずれも挙げられる。かかる共硬化剤としては、例えば、ポリアミン、ポリアミド、ポリアミノアミド、ジシアンジアミド、ポリフェノール、ポリマーチオール、ポリカルボン酸及び酸無水物、並びにこれらの組み合わせなどが挙げられる。好適な触媒作用のある硬化剤、例えば、第3級アミン、第4級アンモニウムハロゲン化物、ルイス酸、例えば三フッ化ホウ素など、及びこれらの任意の組み合わせなどが挙げられる。共硬化剤の他の具体例としては、フェノール−ノボラック、ビスフェノールAノボラック、ジシクロペンタジエンのフェノールノボラック、クレゾールノボラック、ジアミノジフェニルスルホン、スチレン−無水マレイン酸(SMA)コポリマー、及びこれらの任意の組み合わせが挙げられる。従来の共硬化剤の中で、アミン類及びアミノ又はアミド含有樹脂並びにフェノール類が好ましい。
【0040】
ジシアンジアミドは、本発明において有用な共硬化剤の1つの好ましい実施態様である。ジシアンジアミドは、その硬化特性を活性化するのに比較的高い温度を必要とするため、ジシアンジアミドは硬化遅延をもたらすという利点を有し、ジシアンジアミドをエポキシ樹脂に加え、室温(約25℃)で貯蔵することができる。
【0041】
本発明において共硬化剤を使用する場合、硬化性ジビニルアレーンジオキシド樹脂組成物において使用される共硬化剤の量、硬化剤の全体の総当量に対するジフェノール硬化剤の当量の百分率は、約10当量%〜約100当量%、好ましくは約25当量%〜約100当量%、より好ましくは約50当量%〜約100当量%である。
【0042】
本発明の硬化性ジビニルアレーンジオキシド樹脂組成物を製造する際に、ジビニルアレーンジオキシド化合物とジフェノール硬化剤の硬化を促進するために、必要に応じて、少なくとも1種の硬化触媒を使用することができる。本発明において有用な触媒は、当該技術分野で知られているいかなる従来の反応触媒、例えばアミン、第4級アンモニウム塩、第4級ホスホニウム塩、及びこれらの混合物などを含んでもよい。
【0043】
好ましい実施態様において、本発明の実施に使用される好適な触媒としては、例えば、次のもの:第3級アミン類;イミダゾール類;第4級アンモニウムハロゲン化物及びカルボキシレート;第4級ホスホニウムハロゲン化物及びカルボキシレート;並びにこれらの混合物、のうちの1種又は2種以上が挙げられる。
【0044】
好ましい任意の触媒としては、例えば、第3級アミン類、例えばベンジルメチルアミン又は2−フェニルイミダゾール;第4級アンモニウム塩、例えばテトラブチルアンモニウムブロミド;ホスホニウム塩、例えばテトラブチルホスホニウムブロミド;及びこれらの混合物が挙げられる。
【0045】
硬化剤は、一般的に、当該組成物の合計重量を基準として、0wt%〜約20wt%、好ましくは約0.01wt%〜約10wt%、より好ましくは約0.1wt%〜約5wt%、最も好ましくは約0.2wt%〜約2wt%の量で使用される。
【0046】
また、ジビニルアレーンジオキシド化合物とジフェノール硬化剤の反応を促進するために、本発明の硬化性ジビニルアレーンジオキシド樹脂組成物を製造するために任意の溶剤を使用しても良い。例えば、当該技術分野でよく知られている1又は2種以上の有機溶剤としては、芳香族炭化水素、ハロゲン化アルキル、ケトン、アルコール、エーテル、及びこれらの混合物が挙げられる。
【0047】
本発明において使用される溶剤の濃度は、一般的に0wt%〜約90wt%、好ましくは約0.01wt%〜約80wt%、より好ましくは約1wt%〜約70wt%、最も好ましくは約10wt%〜約60wt%であることができる。
【0048】
また、ジビニルアレーンジオキシド化合物とジフェノール硬化剤の反応を促進するために、本発明の硬化性ジビニルアレーンジオキシド樹脂組成物を製造する際に、任意のモノフェノール類を使用しても良い。例えば、当該技術分野でよく知られている1又は2種以上のモノフェノール類を本発明において使用でき、かかるモノフェノール類としては、アルキルフェノール類、例えばo−、m−及びp−クレゾール及びp−tert−ブチルフェノール;ハロゲン化フェノール類、例えばm−クロロフェノール;アルコキシフェノール類、例えばアニソール類など;アリールフェノール類、例えばp−フェニルフェノールなど;アリールオキシフェノール類、例えば4−ヒドロキシジフェニルエーテルなど;多環式フェノール類、例えば1−又は2−ナフトール;並びにこれらの混合物が挙げられる。
【0049】
本発明において必要に応じて使用されるモノフェノール類の濃度は、一般的には、0wt%〜約50wt%、好ましくは約0.01wt%〜約50wt%、より好ましくは約0.1〜約45wt%、最も好ましくは約1wt%〜約40wt%である。
【0050】
本発明の硬化性又は熱硬化性ジビニルアレーンジオキシド樹脂組成物は、必要に応じて、1又は2種以上の添加剤(それらの意図する用途に有用なもの)を含んでよい。例えば、樹脂組成物の製造、加工、貯蔵及び硬化に有用な公知の添加剤を、本発明の硬化性ジビニルアレーンジオキシド樹脂組成物において任意の追加成分として使用できる。本発明において有用な任意添加剤としては、他の樹脂、安定剤、充填剤、可塑剤、触媒失活剤、界面活性剤、流れ調整剤、顔料又は染料、艶消し剤、脱ガス剤、難燃剤(例えば、無機難燃剤、ハロゲン系難燃剤、及び非ハロゲン系難燃剤、例えばリン含有材料など)、強化剤(toughening agents)、硬化開始剤、硬化抑制剤、湿潤剤、着色剤又は顔料、熱可塑性材料、加工助剤、紫外線(UV)遮断化合物、蛍光化合物、紫外線(UV)安定剤、不活性充填剤、繊維強化材、酸化防止剤、耐衝撃性改良剤、例えば熱可塑性粒子など、及びそれらの混合物が挙げられるが、これらに限定されない。上記のリストは例示を目的とし、限定を目的とするものでない。当業者は、本発明の配合物に対して好ましい添加剤を最適化することができる。
【0051】
本発明の硬化性ジビニルアレーンジオキシド樹脂組成物の様々な態様を製造するのに有用な好ましい任意成分としては、例えば、充填剤、例えばクレー、タルク、シリカ及び炭酸カルシウムなど;溶剤、例えばエーテル及びアルコールなど;強化剤(toughening agents)、例えばエラストマー及び液体ブロックコポリマーなど;顔料、例えばカーボンブラック及び酸化鉄など;界面活性剤、例えばシリコーンなど;繊維、例えばガラス繊維及び炭素繊維;並びにこれらの混合物が挙げられる。
【0052】
追加の添加剤の濃度は、全組成物の質量を基準にして、約0wt%〜約90wt%、好ましくは約0.01wt%〜約80wt%、より好ましくは約1wt%〜約65wt%、最も好ましくは約10wt%〜約50wt%である。
【0053】
本発明の硬化性ジビニルアレーンジオキシド樹脂組成物の製造は、(a)ジビニルアレーンジオキシド、(b)ジフェノール硬化剤、(c)必要に応じて触媒、及び(d)必要に応じて溶媒を混合することにより達成される。上記成分は、任意の順序で混合されてよい。上記の任意選択的な様々な配合剤、例えば充填剤を、混合中又は混合前に組成物に加えて組成物を形成してもよい。
【0054】
硬化性ジビニルアレーンジオキシド樹脂組成物の成分は全て、典型的には、所望の用途のための低い粘度を有する有効なエポキシ樹脂組成物の製造を可能にする温度で混合又は分散される。全成分の混合中の温度は、一般的に、約0℃〜約100℃、好ましくは約20℃〜約50℃である。
【0055】
本発明の硬化性エポキシ樹脂配合物又は組成物は、従来の加工条件下で硬化でき、熱硬化物を形成する。得られた熱硬化物は、実施例で後述するように、高い熱安定性を維持しつつ、優れた熱−機械的特性、例えば良好な靱性及び機械的強度を示す。
【0056】
硬化した熱硬化物を製造する方法は、(i)(a)少なくとも1種のジビニルアレーンジオキシド樹脂及び(b)少なくとも1種のジフェノール硬化剤を混合することを含む、硬化性ジビニルアレーンジオキシド樹脂を調製する工程;及び(ii)工程(i)の組成物を約25℃〜約300℃の温度で加熱する工程を含む。必要に応じて、この方法は、工程(i)の組成物を工程(ii)の加熱前に物品に成型することを含んでよい。
【0057】
本発明の熱硬化製品を製造する方法は、重力キャスティング、真空キャスティング、自動圧力ゲル化(APG)、真空圧力ゲル化(VPG)、インフュージョン(infusion)、フィラメント巻き(filament winding)、レイアップインジェクション(lay up injection)、トランスファーモールディング、プリプレグ成形、浸漬、コーティング、吹付け、刷毛塗りなどにより実施できる。
【0058】
硬化反応条件としては、例えば、約0℃〜約300℃、好ましくは約20℃〜約250℃、より好ましくは約50℃〜約200℃の範囲内の温度のもとで反応を実施することが挙げられる。
【0059】
硬化反応は、例えば約0.01バール〜約1000バール、好ましくは約0.1バール〜約100バール、より好ましくは約0.5バール〜約10バールの圧力で実施できる。
【0060】
硬化性又は熱硬化性組成物の硬化は、例えば、当該組成物を硬化させるのに十分な所定の時間で実施することができる。例えば、硬化時間は、約1分間〜約24時間、好ましくは約10分間〜約12時間、より好ましくは約100分間〜約8時間の間で選択できる。
【0061】
本発明の硬化方法は、回分法又は連続法であることができる。当該方法で使用される反応器は、当業者によく知られている任意の反応器及び付帯設備であることができる。
【0062】
本発明の重合性樹脂組成物を硬化させることにより製造される硬化した又は熱硬化した製品は、都合良いことに、熱−機械的特性(例えば、転移温度、モジュラス及び靱性)の改善されたバランスを示す。硬化した製品は、視覚的に透明又は乳白色であることができる。従来のエポキシ樹脂だけを使用して製造された類似の熱硬化物と比べて、本発明の加水分解エポキシ樹脂を使用して製造された熱硬化物はより高いT(従来のエポキシ樹脂よりも10〜100%高い)を示し、有機溶剤に不溶性(むしろ可溶性)である。
【0063】
は、一般的に、使用された硬化剤及びエポキシ樹脂に依存する。1つの例として、本発明の硬化したジビニルアレーンジオキシド樹脂組成物のTは、その対応する従来のエポキシ樹脂よりも約10%〜約100%高いことができる。
【0064】
本発明の硬化性ジビニルアレーンジオキシド樹脂組成物は、硬化した場合に、熱硬化物の耐熱性が、示差走査熱量測定法(DSC)を使用してガラス転移温度(T)により求めた場合に、一般的に、約25℃〜約300℃、好ましくは約50℃〜約275℃、より好ましくは約100℃〜約250℃に及ぶ熱硬化物又は硬化生成物を提供することができる。
【0065】
本発明の硬化性ジビニルアレーンジオキシド樹脂組成物は、硬化した場合に、熱硬化物の耐溶剤性が、テトラヒドロフラン中での可溶性フラクションの質量%により求めた場合に、一般的に、約0、好ましくは約25、より好ましくは約50、最も好ましくは約75である熱硬化物を提供することができる。
【0066】
本発明の硬化性ジビニルアレーンジオキシド樹脂組成物は、コーティング、フィルム、接着剤、積層体、複合材料、電子機器などの形態のエポキシ熱硬化物又は硬化製品の製造に有用である。
【0067】
本発明の1つの例として、一般的に、硬化性ジビニルアレーンジオキシド樹脂組成物は、キャスティング、ポッティング、封入、モールディング及びツーリングに有用であることができる。本発明は、あらゆるタイプの電気キャスティング、ポッティング及び封入用途、モールディング及びプラスチックツーリングに対して、及びジビニルアレーンジオキシド樹脂に基づく複合材料部品、特に、キャスティング、ポッティング及び封入により製造される大きなエポキシに基づく部品を製造するのに適する。得られた複合材料は、幾つかの用途、例えば電気キャスティング用途又は電子部品の封入、キャスティング、モールディング、ポッティング、封入、射出、樹脂トランスファーモールディング、複合材料、コーティングなどで有用であることができる。
【実施例】
【0068】
以下の実施例及び比較例により本発明を詳しく説明するが、本発明の範囲を限定するものと解釈されるべきではない。
以下の実施例において、使用した様々な用語及び名称は以下のとおりである:「T」はガラス転移温度を表し;「T」は熱分解温度を表し;「PTBP」はp−t−ブチルフェノール(モノフェノール)を表し;「DER 332」は173のエポキシド当量(EEW)を有し、ザ・ダウ・ケミカル・カンパニー(The Dow Chemical Company)から商業的に入手可能である従来のエポキシ樹脂であり;「THF」はテトラヒドロフランを表し;「A−1」はエチルトリフェニルホスホニウムアセテート−酢酸錯体(メタノール中70質量%)を表し、モートン・インターナショナル・カンパニー(Morton International Co.)から商業的に入手可能な触媒であり;「1B2MZ」は1−ベンジル−2−メチルイミダゾールを表し、エア・プロダクツ・インコーポレイティド(Air Products Inc.)から商業的に入手可能な触媒であり;「DSC」は示差走査熱量測定を表し;「CTE」は熱膨張係数を表し;「E」は引張弾性率を表し;「K1C」は臨界応力強度因子(破壊靱性)を表す。
【0069】
以下の実施例において、標準的な分析装置及び方法は以下のとおりである:Tgは、DSCにより測定し、熱流曲線における一次変化の中間点とし;Tは、熱重量分析法(TAG)を使用して外挿開始法により求め、残留物は、TGAを使用して窒素下600℃に加熱した後に残った試料の質量%として求め、「THF浸漬」は、約100倍の体積のTHFの中に試験片を入れ、室温で24時間静置した後の不溶性(ゲル)フラクションの存在又は不存在を観察することにより求め;CTEは、熱機械的分析により求め、添え字は、ガラス状(T未満)又はゴム状(T超)の値を指し;Eは、ASTM D638−03の方法に従って、タイプI試験片を使用して測定し;K1Cは、ASTM D−5045の方法に従って、圧縮引張試験片形状を使用して測定した。
【0070】
実施例1〜7及び比較例A
実施例1〜7において、表Iに示した量でDVBDOをビスフェノールA(ジフェノール)及び必要に応じて触媒と混合して硬化性配合物を形成した。比較例Aにおいて、DER 332をビスフェノールAと混合して非硬化性配合物を形成した。上記配合物を、次に、200℃で60分間加熱した。A−1は、約0.1質量%で触媒として使用し、1B2MZは約2wt%で触媒として使用した。DSCの結果は、配合物を硬化させた後に得た。エポキシド/フェノール当量比はrである。成分及び結果を表Iに記載する。比較例Aはこれらの条件下では硬化せず、そのため、テトラヒドロフラン中に完全に溶解したままであった。
【0071】
【表1】

【0072】
実施例8〜10
表Iの配合物から得られた硬化生成物の特性を求め、表IIに記載した。実施例8は実施例4の配合物を硬化させることにより得られた硬化生成物であり、実施例9は実施例5の配合物を硬化させることにより得られた硬化生成物であり、実施例10は実施例6の配合物を硬化させることにより得られた硬化生成物である。
【0073】
これらの実施例8〜10において、型内で200℃でDVBDOを1B2MZ触媒の存在下でビスフェノールAにより60分間硬化させることによって、重さ約400gで12インチ×12インチ×厚さ1/8インチの大きさのプラックを作製した。実施例8〜10の結果を表IIに記載する。
【0074】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)少なくとも1種のジビニルアレーンジオキシド及び(b)少なくとも1種のジフェノール硬化剤を含む硬化性ジビニルアレーンジオキシド樹脂組成物。
【請求項2】
前記ジビニルアレーンジオキシドが、ジビニルベンゼンジオキシド、ジビニルナフタレンジオキシド、ジビニルビフェニルジオキシド、ジビニルジフェニルエーテルジオキシド、及びこれらの混合物からなる群から選ばれる、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記ジビニルアレーンジオキシドがジビニルベンゼンジオキシドである、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
前記ジビニルアレーンジオキシドの濃度が、約10質量%〜約90質量%である、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
前記少なくとも1種のジフェノール硬化剤が、ジフェノール、ビスフェノール、又は二官能性フェノール系オリゴマーを含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項6】
前記ジフェノール硬化剤の濃度が、エポキシドとフェノール基との当量比rとして、約0.10〜約10である、請求項1に記載の組成物。
【請求項7】
フェノール;o−、m−又はp−クレゾール;p−tert−ブチルフェノール;m−クロロフェノール;アニソール;p−フェニルフェノール;4−ヒドロキシジフェニルエーテル;1−又は2−ナフトール;及びこれらの混合物からなる群から選ばれたモノフェノールを含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項8】
前記モノフェノールの濃度が約0.01質量%〜約50質量%である、請求項7に記載の組成物。
【請求項9】
第三級アミン、イミダゾール類、アンモニウム塩、ホスホニウム塩、及びこれらの混合物からなる群から選ばれた触媒を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項10】
前記触媒の濃度が、約0.01質量%〜約20質量%である、請求項9に記載の組成物。
【請求項11】
共硬化剤を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項12】
前記共硬化剤の濃度が、全硬化剤の合計の当量に対するジフェノール硬化剤の当量の百分率が概して約10〜約100当量%になるような濃度である、請求項11に記載の組成物。
【請求項13】
(a)少なくとも1種のジビニルアレーンジオキシド樹脂及び(b)少なくとも1種のジフェノール硬化剤を混合することを含む硬化性ジビニルアレーンジオキシド樹脂組成物の製造方法。
【請求項14】
(i)(a)少なくとも1種のジビニルアレーンジオキシド樹脂及び(b)少なくとも1種のジフェノール硬化剤を混合することを含む、硬化性ジビニルアレーンジオキシド樹脂組成物を調製する工程;及び
(ii)工程(i)の組成物を約25℃〜約300℃の温度で加熱する工程、
を含む、硬化した熱硬化物の製造方法。
【請求項15】
請求項1に記載の組成物を硬化させることにより製造された熱硬化生成物であって、硬化生成物がコーティング、接着剤、複合材料又はラミネートを構成する、熱硬化組成物。

【公表番号】特表2013−520528(P2013−520528A)
【公表日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−553940(P2012−553940)
【出願日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際出願番号】PCT/US2011/024288
【国際公開番号】WO2011/103014
【国際公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【出願人】(502141050)ダウ グローバル テクノロジーズ エルエルシー (1,383)
【Fターム(参考)】