説明

ジャイロの試験方法

【課題】 複数のジャイロをPCBにより構成される検査ボードに載せて検査する際に、ジャイロ単独で検査したのと同等の特性で検査することができる試験方法を提供すること。
【解決手段】 複数のジャイロを検査できるようにそれぞれのジャイロに信号を供給する配線を設けた配線ボードと、前記ボード上の少なくとも前記ジャイロを搭載する位置に設けられた弾性樹脂層と、前記樹脂層上に設けられた前記配線と電気的に接続された接続部とにより構成された検査ボード上に複数のジャイロを載置する工程と、前記複数のジャイロに前記配線を介して駆動信号を供給することにより駆動振動を与えて出力電圧を検出する工程とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、角速度を検出するジャイロの出荷前に行う試験の方法に関するものであり、複数のジャイロを同時に検査した場合の特性が、ジャイロ単独で検査した場合と同等の特性で検査できるような試験方法に関する。
【背景技術】
【0002】
角速度を検出するためのセンサー(以下、ジャイロ)は、図1(a)に示されるように、音叉に駆動振動を与えることにより、図1(b)に示されるように、これと直行する方向に働く力をコリオリ力による振動に対応した電圧成分を検出することで角速度を求めている。このような音叉型のジャイロは、駆動振動を与えるために圧電材料で形成された音叉の部分に駆動電極(不図示)が設けられており、コリオリの力による振動を検出するために、振動で歪が生じる圧電体部分に検出電極(不図示)が設けられている。
【0003】
特許文献1、2では、音叉型のジャイロを試験する技術が示されているが、それぞれジャイロ単体で試験する技術が開示されている。
【0004】
ジャイロは、カーナビゲーションシステム等の回路基板に実装されて機能を発揮するが、ジャイロのパッケージ形態には回路基板にピンを挿入して半田付けされる特許文献3の図4に示されるようなピン挿入タイプと、パッケージの表面に表面実装端子を設けて回路基板の表面に半田付け実装される特許文献4の図4に示されるような表面実装タイプとがある。
【特許文献1】特開2000−74674号公報
【特許文献2】特開2005−3588号公報
【特許文献3】特開2003−227844号公報
【特許文献4】特開2006−308543号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ジャイロは、製造後に出荷前の検査を行うが、その都度ジャイロ単体で検査していたのでは生産性が上がらない。そこで、効率化のためにジャイロを幾つかまとめて検査ボードに搭載して行うことが試みられた。例えば図2に示されるように、複数のジャイロ1が一枚のPCB(Printed Circuit Board)2に搭載され、接続部3を介して検査装置と接続してジャイロとして正しく動作するか否かの検査を行った。検査では、出力電圧、出力電圧の安定性、角速度印加時の出力電圧等の検査が行われる。特に、出力電圧の安定性は、エンドユーザーが重要視する項目の一つであり、出力電圧の安定性が悪いということは出力ノイズが多いということになり、不良品と判定されてしまう。
【0006】
ところが、複数のジャイロを一枚のボードに搭載して検査すると、単体で検査した場合では良品として判定されたものが、複数まとめて検査すると不良品と判定されてしまう問題点が見出された。
【0007】
これは、ジャイロを検査する際に、その原理上必ず駆動振動を音叉に与えないとならないが、複数の場所で発生する駆動振動が悪影響を与えているのではないかという点を本願の発明者は突き止めた。
【0008】
図3は、ジャイロ単体で検査した場合と、複数で検査した場合とで、駆動振動がどのように不要振動となって影響するかを示す図である。単体で検査する場合は、図3(a)に示されるように測定対象ジャイロ1の駆動振動が他のジャイロに影響するということはあり得ないが、複数の場合には図3(b)に示されるように測定対象ジャイロ1a、1bのお互いの駆動振動が検査ボード2上で共振してしまい、振動が大きくなることが見出された。この状態でジャイロを複数で検査すると、検査のために与えた駆動振動が共振してしまい、検査しようとするジャイロに必要以上に振動が加わり、これによるノイズを拾ってしまって不良品と判定されてしまうことが判明した。
この現象は、図4に示す出力ノイズの特性に現れている。出力ノイズはある特定の時間内の出力電圧の変動幅を検査するものである。図4の縦軸は、不良品発生の累積確率を示しており、横軸は、出力電圧の変動幅を示している。累積確率とは、検査したジャイロの出力ノイズの値が分布のどこに位置するかの標準偏差をプロットしたもので、右側の軸にシグマでも示されている。なお、サンプル数はそれぞれ15である。
出力ノイズの変動幅が5mVの点で比較すると、ジャイロ単独で測定した丸印(直線4aで近似)は、ほぼ100%が5mV以内に分布するであろうことを示しているのに対し、ジャイロを複数搭載した四角印で示された従来ボード(直線4bで近似)では、約60%しか5mV以内に分布していない。
【0009】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、複数のジャイロをPCBにより構成される検査ボードに載せて検査する際に、ジャイロ単独で検査したのと同等の特性で検査することができる試験方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、複数のジャイロを検査できるようにそれぞれのジャイロに信号を供給する配線を設けた配線ボードと、前記ボード上の少なくとも前記ジャイロを搭載する位置に設けられた弾性樹脂層と、前記樹脂層上に設けられた前記配線と電気的に接続された接続部とにより構成された検査ボード上に複数のジャイロを載置する工程と、前記複数のジャイロに前記配線を介して駆動信号を供給することにより駆動振動を与えて出力電圧を検出する工程とを有することを特徴とするジャイロの試験方法である。本発明によれば、ジャイロと配線ボードとの間に樹脂層を設けることによって、ジャイロから生じる駆動振動がボード上に伝搬して共振しても、ジャイロの出力電圧に影響を与えないようにすることができる。
上記構成において、前記樹脂層は、シリコーン樹脂で構成される構成とすることができる。この構成によれば、弾性を有する樹脂としてシリコーン樹脂を用いている。
上記構成において、前記樹脂層は、複数のジャイロごとに独立して設けられる構成とすることができる。この構成によれば、使用される樹脂層の量を少なく抑えることができる。
上記構成において、前記ジャイロは、ソケットにより前記検査ボードに電気的接続及び機械的固定がなされ、前記樹脂層が前記ソケットに接して設けられる構成とすることができる。この構成によれば、ソケットを介してジャイロと配線ボードの接続部とを接続するので、ボードへのジャイロの搭載を容易にすることができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明の試験方法によれば、複数のジャイロを1枚のボードに搭載した状態で検査した結果と、ジャイロ単体で測定した場合の結果とがほぼ同じであり、複数まとめて検査しても単体で検査した場合とほぼ同じ結果が得られるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、図面を参照して本発明の実施例について説明する。
【実施例1】
【0013】
図5は、第1の実施例を示し、ジャイロセンサー本体から電源や信号ピンが突き出たピン挿入タイプのジャイロを検査するための検査ボード(以下単にボードとも呼ぶ。)の部分拡大の断面図を示している。この検査ボード15は、複数のジャイロをまとめて検査できるようPCBにより構成されており、検査ボードを上から見た様子は、図2に示されたものと同様で、PCBの上に検査対象であるジャイロ11が複数独立して搭載できるようになっている。
ピン挿入タイプのジャイロの検査ボードには電気的試験を行うための配線(不図示)が設けられている。PCBにより構成された配線ボード上には複数のジャイロを同時に検査するために、複数の各ジャイロに対して信号や電源を供給するように配線が引き回されている。
図5に示されるピン挿入タイプのジャイロを検査するボードは、検査対象となるジャイロ11を検査ボード15に電気的に接触させた状態で安定に保つために、ジャイロのピン12をピン固定用基板13に電気的・機械的に固定する。ピン固定用基板13にはコネクタ(不図示)が設けられて接続部を構成し、ピン12とコンタクトする。試験中、所定の回転角速度が加えられても抜けない程度の強度で、ピンとコネクタはコンタクトしてジャイロ11は検査ボード15に搭載されている。
ピン固定用基板13と検査ボード15との間には、検査ボード15上に生じる不要な振動をジャイロ11に伝えないようにそれを吸収するための樹脂層14が設けられている。樹脂層14は、シリコーン樹脂等の50以下の硬度(デュロメータA)の弾性をもった樹脂が設けられている。検査されるジャイロ11は、検査ボード15との間に樹脂層14があるので、検査ボード15からの不要振動が伝わらないようになっている。ジャイロを検査するための電気信号や電源は、検査ボード15から配線(不図示)を介してピン固定基板13上に接続されているが、この配線を介して不要振動は伝わらない。樹脂層14は、複数のジャイロごとに設けられているので、その使用量は少なくて済む。
【0014】
ジャイロの試験は次にように行われる。
初めに、検査ボード15に設けられた複数のピン固定用基板の上のコネクタにそれぞれジャイロのピンを嵌め込み、ジャイロを搭載する。
次に、検査ボード15上の配線と、ボードからピン固定用基板13への配線とを介して各ジャイロに対し駆動信号が供給され、図1(a)に示されるような駆動振動がジャイロに与えられる。
この状態で、検査ボード15に搭載した各ジャイロの静止時の出力電圧、出力電圧の安定性、及び所定の回転角速度を印加しながら図1(b)に示されるような検出振動に伴う出力電圧の検査を行い、それぞれの項目の値が決められた範囲内にあるか否かで良品・不良品を判定する。
【0015】
図5に示した構成が、一つのジャイロを検査するための一単位であり、これがボード上には例えば2個〜100個程度設けられている。振動吸収のための樹脂層14やピン固定用基板13は、それぞれの単位で独立して設けられているので、互いに振動が伝わるようなことはない。樹脂層を検査ボード上の全面に設け、ピン固定用基板のコネクタを検査するジャイロごとに独立して設ける構成としてもよい。そうすれば、樹脂層を複数のジャイロごとに設ける手間が省ける。
【実施例2】
【0016】
次に、実施例2を説明する。図6(a)は、ジャイロセンサー本体から電源端子や信号端子がジャイロセンサー本体表面に設けられた表面実装タイプのジャイロを検査するための検査ボードの部分拡大の断面図を示している。ボードは、第1の実施例と同様なPCBボードである。検査対象となるジャイロ21は、検査ボード25に電気的に接触させた状態で安定に保つために、ソケット26に固定される。ジャイロ21の表面実装端子(不図示)をソケット26から延びたコンタクトプローブ22に電気的に接触させた状態でジャイロ21はソケット26により固定される。
ソケット26の底面とジャイロ21との間には、検査ボード25上に生じる不要な振動をジャイロ21に伝えないようにそれを吸収するための樹脂層24が設けられている。樹脂層24の材質は、実施例1と同様である。検査されるジャイロ21は、ソケット底面から延びて樹脂層24を貫通するように設けられたコンタクトプローブ22に表面実装端子が接触するようにソケットにジャイロ21が固定されるので、樹脂層24によりボード25からの不要振動が伝わらないようになっている。ジャイロを検査するための電気信号や電源は、検査ボード25からコンタクトプローブ22を介してジャイロ21に供給されるが、このコンタクトプロープ22を介して不要振動は伝わらない。ソケットを介してジャイロをボードにコンタクトさせるので、各ジャイロをボードに搭載する作業が容易になる。
試験の方法や、検査ボード25上に複数のジャイロが搭載される点は上述した実施例1と同様である。
【0017】
次に実施例2の変形例を図6(b)により説明する。図6(a)に比べ、樹脂層34の位置が異なっており、樹脂層34がソケット36の底面の下側に設けられている。コンタクトプローブは、図5と同様に樹脂層34とソケット36の底面を貫通している。ジャイロ31の表面実装用端子はコンタクトプローブ32と接触を保ち、上述したのと同様の試験が行われる。
【0018】
図7は、本発明の実施例1のボードを用いてジャイロを検査した結果が従来例と重ねて示されたものである。グラフの見方は図4と同じである(サンプル数=15)。グラフ中、丸印(近似直線4a上の点)は単独でジャイロを測定した場合のデータで、出力ノイズの変動幅が5mVの点でみると累積確率は100%となっており、出力ノイズが小さい点が示されている。三角印(近似直線4c上の点)は、本発明の実施例のボードを用いた測定結果であり、単体で測定した丸印と三角印とはよく一致している。これは、本発明の実施例のボードが、複数のジャイロをまとめて検査しているにもかかわらず、単体で測定した結果とよく合致していることを示している。なお、四角印(近似直線4b上の点)は、従来のボードで複数のジャイロをまとめて検査した場合の結果を示すものであり、丸印(近似直線4a上の点)と四角印(近似直線4b上の点)は、図4のものと同じである。
【0019】
以上のように、実施例1では、複数のジャイロを搭載するソケットの各々に基板との間に不要振動吸収用の樹脂層を設けたことにより、ジャイロ単体で検査した場合と同じ精度で試験を行うことができることが示されている。なお、本発明の実施例2のボードを用いても同様の結果が得られた。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】一般的なジャイロの動作を説明する図である。
【図2】検査対象のジャイロが複数搭載された検査ボードを示す図である。
【図3】不要振動発生のメカニズムを示す図である。
【図4】従来技術の測定方法による結果を示す図である。
【図5】本発明の実施例1を示す図である。
【図6】本発明の実施例2を示す図である。
【図7】本発明の効果を示す図である。
【符号の説明】
【0021】
11、21、31 ジャイロセンサー
12 ジャイロセンサーのピン
13 ピン固定用基板
14、24、34 樹脂層
15、25、35 検査ボード
26、36 ソケット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のジャイロを検査できるようにそれぞれのジャイロに信号を供給する配線を設けた配線ボードと、前記ボード上の少なくとも前記ジャイロを搭載する位置に設けられた弾性樹脂層と、前記樹脂層上に設けられた前記配線と電気的に接続された接続部とにより構成された検査ボード上に複数のジャイロを載置する工程と、
前記複数のジャイロに前記配線を介して駆動信号を供給することにより駆動振動を与えて出力電圧を検出する工程とを有することを特徴とするジャイロの試験方法。
【請求項2】
前記樹脂層は、シリコーン樹脂で構成されることを特徴とする請求項1記載のジャイロの試験方法。
【請求項3】
前記樹脂層は、複数のジャイロごとに独立して設けられることを特徴とする請求項1または2に記載のジャイロの試験方法。
【請求項4】
前記ジャイロは、ソケットにより前記検査ボードに電気的接続及び機械的固定がなされ、前記樹脂層が前記ソケットに接して設けられることを特徴とする請求項1、2または3に記載のジャイロの試験方法。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−25214(P2009−25214A)
【公開日】平成21年2月5日(2009.2.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−190101(P2007−190101)
【出願日】平成19年7月20日(2007.7.20)
【出願人】(398067270)富士通メディアデバイス株式会社 (198)
【Fターム(参考)】