説明

ジャケット内付着物除去方法およびジャケット内付着物除去装置

【課題】ジャケット内の付着物を効果的に除去することができる技術を提供する。
【解決手段】加圧により径方向に膨張するとともに軸方向に収縮する複数の弾性部から構成され、蠕動運動機構により自走する自走式筒状伸縮体4を、圧力容器3の外周に設けた温水等の熱媒や冷水等の冷媒を流すためのジャケット2内に挿入して、20〜100mmの隙間を有する該ジャケット内に付着した付着物を切削除去するジャケット内付着物除去方法であって、該自走式筒状伸縮体に蠕動運動を付与して付着物の切削除去の作業箇所まで自走させる工程と、該切削除去の作業箇所において、自走式筒状伸縮体の少なくとも一つの弾性部を、ジャケット内の隙間を塞ぐように径方向に膨張させて切削除去作業の足場を確保して切削除去作業を行う工程と、該切削除去作業後に、径方向に膨張させていた弾性部を収縮させて、再度蠕動運動を付与して自走させる工程を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧力容器(リアクター)を構成するシェル本体の外周部に設けられたジャケット内に付着する付着物を除去する方法およびジャケット内付着物除去装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
リアクターを薬液反応槽等として使用する場合、リアクター内を所定の薬液反応に最適な温度に調整する手段として、リアクターを構成するシェル本体の外周部にジャケットを設けた構造が従来から採用されている。
【0003】
当該構造では、ジャケット内に熱媒または冷媒を流してリアクター内の温度調節が行われる。熱媒・冷媒としては、ブライン(プロピレンゴリコール、エチレンゴリコール、エタノール等と水との混合物を代表例とする不凍液)或いはスチーム或いは工業用水が使用される。これらの熱媒・冷媒は適宜用途に応じて様々なものが使用されるため、例えば、ブライン中に含有されジャケット内に付着していた塩化カルシウムと、後に熱媒として使用されたスチームとの相乗作用により鉄製のシェル外周面やジャケット内周面が腐食して付着物が形成されたり、ブライン中に含有されジャケット内に付着していたエチレングリコールが、後に冷媒として使用された工業用水中に含まれる菌の養分となり、該養分によって繁殖した菌がシェル外周面やジャケット内周面への付着物となる等の現象が観察される。その他、工業用水に含まれる土砂やその他スケール成分がシェル外周面やジャケット内周面への付着物となる現象も観察される。
【0004】
シェル外周面やジャケット内周面に付着物が発生すると、熱交換率の低下による生産性の悪化や、錆の要因となるため好ましくない。圧力容器では法令で所定の板厚を確保することが定められているが、シェル外周面の錆は、超音波探触子等による板厚測定結果の精度を悪化させる要因となっている。
【0005】
ただし、ジャケット内は、通常、間隙20〜100mm程度に設計されているため、手作業による付着物や錆の除去は困難である。また、フランジ構造の採用によりジャケットを取り外し可能な構造とすることは可能であるが、当該構造は製作コストの観点から実用性に欠き、従来から、シェル本体の外周部にジャケットを溶接した構造が一般的に採用されている(例えば、特許文献1)。当該構造において、ジャケット内に付着した付着物(付着物や錆等)の除去を目的とするメンテナンス時には、シェル本体とジャケットの溶接部分を溶断してジャケットを取り外して付着物を除去することが考えられるが、圧力容器であるリアクターは、安全確保の見地から、各種法令、法規を満たすことが求められるため、例えばメンテナンス時にジャケットを溶断した場合、溶接後に各種法令、法規を満たす製品であることの再認定を受ける必要があり、手続きが煩雑である問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平7−260092号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は前記の問題を解決し、シェル本体の外周部にジャケットを溶接した構造のリアクターにおいて、ジャケットを溶断することなく、ジャケット内の付着物を効果的に除去することができる技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するためになされた本発明のジャケット内付着物除去方法は、加圧により径方向に膨張するとともに軸方向に収縮する複数の弾性部から構成され、蠕動運動機構により自走する自走式筒状伸縮体を、シェル本体の外周に設けたジャケット内に挿入して、20〜100mmの隙間を有する該ジャケット内に付着した付着物を切削除去するジャケット内付着物除去方法であって、該自走式筒状伸縮体に蠕動運動を付与して付着物の切削除去の作業箇所まで自走させる工程と、該切削除去の作業箇所において、自走式筒状伸縮体の少なくとも一つの弾性部を、ジャケット内の隙間を塞ぐように径方向に膨張させて切削除去作業の足場を確保して切削除去作業を行う工程と、該切削除去作業後に、径方向に膨張させていた弾性部を収縮させて、再度蠕動運動を付与して自走させる工程を有することを特徴とするものである。
【0009】
請求項2記載の発明は、請求項1記載のジャケット内付着物除去方法において、ジャケット内付着物が、シェル外周面やジャケット内周面に付着した錆または付着物であることを特徴とするものである。
【0010】
請求項3記載の発明は、請求項1記載のジャケット内付着物除去方法において、該自走式筒状伸縮体はジャケット内の液媒上に浮遊し、垂直方向の移動はジャケット内の液媒量の調整によることを特徴とするものである。
【0011】
請求項4記載の発明は、請求項1記載のジャケット内付着物除去方法において、該自走式筒状伸縮体は、ジャケット内非破壊検査手段を備えることを特徴とするものである。
【0012】
請求項5記載の発明は、請求項4記載のジャケット内付着物除去方法において、該ジャケット内非破壊検査手段が内視鏡であることを特徴とするものである。
【0013】
請求項6記載の発明は、請求項1記載のジャケット内付着物除去方法において、液媒内に付着物の剥離を促す薬剤を共存させてジャケット内付着物除去作業を行うことを特徴とするものである。
【0014】
請求項7記載の発明は、圧力容器の外周に設けた空冷・加熱ジャケット内に挿入して、20〜100mmの隙間を有する該ジャケット内に付着した付着物を切削除去するジャケット内付着物除去装置であって、加圧により径方向に膨張するとともに軸方向に収縮する複数の弾性部から構成され、蠕動運動機構により自走する自走式筒状伸縮体と、該自走式筒状伸縮体の先端部にあって、付着物を切削除去する付着物切削除去手段と、該自走式筒状伸縮体の膨張および収縮を制御する自走式筒状伸縮体制御手段を備えることを特徴とするものである。
【0015】
請求項8記載の発明は、請求項7記載のジャケット内付着物除去装置において、該自走式筒状伸縮体制御手段が、該自走式筒状伸縮体に蠕動運動を付与して付着物の切削除去の作業箇所まで自走させる切削除去前移動制御手段と、該切削除去の作業箇所において、自走式筒状伸縮体の少なくとも一つの弾性部を、ジャケット内の隙間を塞ぐように径方向に膨張させて切削除去作業の足場を確保する足場確保制御手段と、該切削除去作業後に、径方向に膨張させていた弾性部を収縮させて、再度蠕動運動を付与して自走させる切削除去後移動制御手段からなることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係るジャケット内付着物除去方法およびジャケット内付着物除去装置では、シェル本体の外周部に、熱媒または冷媒の流路となるジャケットを溶接した構造のリアクターにおいて、20〜100mmの隙間を有する該ジャケット内に付着した付着物を切削除去する手段として、蠕動運動機構により自走する自走式筒状伸縮体をジャケット内に挿入させて、その後、該自走式筒状伸縮体に蠕動運動を付与して付着物の切削除去の作業箇所まで自走させる工程と、該切削除去の作業箇所において、自走式筒状伸縮体の少なくとも一つの弾性部を、ジャケット内の隙間を塞ぐように径方向に膨張させて切削除去作業の足場を確保して切削除去作業を行う工程と、該切削除去作業後に、径方向に膨張させていた弾性部を収縮させて、再度蠕動運動を付与して自走させる工程にから構成されるプロセスにより、ジャケットを溶断することなく、ジャケット内に付着した付着物を効果的に除去することを可能としている。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】シェル本体の外周部にジャケットを溶接した構造のリアクターの断面説明図である。
【図2】自走式筒状伸縮体の説明図である。
【図3】弾性部の説明図である。
【図4】自走式筒状伸縮体による蠕動運動の説明図である。
【図5】自走式筒状伸縮体の説明図である。
【図6】自走式筒状伸縮体の切削除去作業説明図である。
【図7】自走式筒状伸縮体の切削除去作業説明図である。
【図8】自走式筒状伸縮体の切削除去作業説明図である。
【図9】請求項3に記載の発明の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に本発明の好ましい実施形態を示す。
本発明に係るジャケット内付着物除去方法では、図1に示す、シェル本体1の外周部にジャケット2を溶接した構造のリアクター3において、蠕動運動機構により自走する自走式筒状伸縮体4を、20〜100mmの隙間を有する該ジャケット内に挿入して該ジャケット内に付着した付着物の切削除去を行うことにより、ジャケットを溶断することなく、ジャケット内に付着した付着物を効果的に除去することを可能としている。
【0019】
リアクター3の内部には、内容物の撹拌を目的として、内部に攪拌機17、撹拌促進を兼ねた注入管としてのバッフル18を備えている。シェル本体1は、内容物の薬液反応に伴う浸食を防止する観点から、鋼板からなるシェル本体の内表面にガラスやテフロン(登録商標)等のライニングを施したもの、或いは、シェル本体1を耐食性に優れるステンレス、ハステロイ、チタンからなるものを使用することが好ましい。
【0020】
シェル本体1の外周部には、反応温度の保温あるいは温度調節を目的として温水等の熱媒や冷水等の冷媒を流すためのジャケット用鋼板が溶接されている。
【0021】
ジャケット内に流される熱媒・冷媒としては、ブライン(プロピレンゴリコール、エチレンゴリコール、エタノール等と水との混合物を代表例とする不凍液)或いはスチーム或いは工業用水が使用される。これらの熱媒・冷媒は適宜用途に応じて様々なものが使用されるため、例えば、ブライン中に含有されジャケット内に付着していた塩化カルシウムと、後に熱媒として使用されたスチームとの相乗作用により鉄製のシェル外周面やジャケット内周面が腐食して付着物が形成されたり、ブライン中に含有されジャケット内に付着していたエチレングリコールが、後に冷媒として使用された工業用水中に含まれる菌の養分となり、該養分によって繁殖した菌がシェル外周面やジャケット内周面への付着物となる等の現象が観察される。その他、工業用水に含まれる土砂やその他スケール成分がシェル外周面やジャケット内周面への付着物となる現象も観察される。
【0022】
本発明は、これらのジャケット内付着物を、図2に示す自走式筒状伸縮体4を用いて、切削除去を行うものである。
【0023】
自走式筒状伸縮体4は、加圧により径方向に膨張するとともに軸方向に収縮する複数の弾性部(5a、5b、5c、5d)から構成され、弾性部(5a、5b、5c、5d)の中心部を貫通するように、挿入用ケーブル6が挿入されている。該弾性部(5a、5b、5c、5d)の中心部を貫通する孔の内周面と、挿入用ケーブル6との摩擦による、弾性部(5a、5b、5c、5d)の損耗を防止するために、挿入用ケーブル6の外周あるいは、弾性部(5a、5b、5c、5d)の中心部を貫通する孔の内周の何れかもしくは双方に、テフロン(登録商標)チューブ等、潤滑性に優れた保護部材を備えることが好ましい。以下、本実施形態においては弾性部5a側を上流側、弾性部5d側を下流側とする。
【0024】
挿入用ケーブル6の下流側には、コンプレッサ7と、レギュレータ8と、エアチューブ16と、空気制御弁9と、推進制御手段10とを備え、コンプレッサ7から、エアチューブ16を介して、圧縮空気がそれぞれ供給される。レギュレータ8は上記圧縮空気の圧力を規定する。空気制御弁9は、エアチューブ16とレギュレータ8との間に設けられた供給弁9aと開放弁9bとを備え、上記各弾性部(5a、5b、5c、5d)への空気の給排を制御する。推進制御手段10は、挿入用ケーブル6の推進・屈曲運動に連動して、空気制御弁9を制御して自走式筒状伸縮体4の蠕動運動を制御する。
【0025】
図3には各弾性部(5a、5b、5c、5d)の説明図を示している。図3(a)は側面図、(b)は(a)のA−A断面図、(c)は(a)のB−B断面図である。図3において、11はベローズ、12は弾性膨張体、13、14は連結部材、15は空気室である。
【0026】
ベローズ11は略円筒状の伸縮部材で、軸方向に伸縮する。このベローズ11の内側の空間11Aに挿入用ケーブル6が挿入される。弾性膨張体12は、上記ベローズ11の径方向外側に、上記ベローズ11と所定の距離離れて、上記ベローズ11を取り囲むように配置される筒状の膨張部材で、弾性体から成る筒状体と、この筒状体の内部に上記筒状体の軸方向に沿って延長するように配置された複数の繊維とを備えている。上記繊維は繊維の延長方向である上記筒状体の軸方向には殆ど伸縮しないので、上記筒状体の内部に空気などの流体を充填して膨張させれば、上記弾性膨張体12は、径方向には膨張し軸方向には収縮する。上記筒状体を構成する材料としては、シリコーンゴムなどの合成ゴムあるいは天然ラテックスゴムなどの天然ゴムが挙げられる。また、上記繊維としては、例えば、グラスロービング繊維やカーボンロービング繊維等が好適に用いられる。なお、べローズは収縮可能な構造を有すればよく、例えば蛇腹構造を有するものとすることもできる。
【0027】
弾性部(5a、5b、5c、5d)を伸縮および復元動作させる際には、はじめに、圧縮空気を供給するコンプレッサ7を稼働させるとともに、レギュレータ8を操作して、上記コンプレッサ7の供給する圧縮空気の圧力を所定の圧力に設定する。ここで伸縮させる弾性部を最下流の弾性部5aとすると、推進制御手段10は空気制御弁9を制御して、弾性部5aの空気室15に圧縮空気を送り込むためのエアチューブ16aに連結されている開放弁9aを閉じるとともに、供給弁9bを開放する。これにより、上記弾性部5aの空気室15に圧縮空気が送り込まれる。
【0028】
弾性部5aの弾性膨張体12は、弾性体から成る筒状体の内部に上記筒状体の軸方向の伸縮を規制する繊維が内包されているので、空気室15に圧縮空気が送り込まれると、円筒状であった弾性膨張体12は、弾性部5aの径方向に膨張するとともに軸方向に収縮する。この弾性膨張体12の軸方向の収縮に伴って、ベローズ11も上記軸方向に収縮する。上記弾性部5aは、当該弾性部5aの下流側に取付けられた装着用部材を介して、挿入用ケーブル6に固定されているので、上記弾性膨張体12と上記ベローズ11の軸方向の収縮に伴って、上記弾性部5aは上記装着用部材側に引き寄せられる。
【0029】
上記弾性部5aを元の状態に戻すには、上記空気制御弁9を制御して、上記供給弁9bを閉じるとともに、上記開放弁9aを開放すればよい。これにより、上記弾性部5aの空気室15内は大気圧に戻るので、弾性部5aは元の状態に戻る。他の弾性部(5b、5c、5d)についても、圧縮空気の通路の違いはあるが、上記弾性部5aと同様の動作を行う。
【0030】
図4には、自走式筒状伸縮体4による蠕動運動の説明図を示している。
【0031】
図4(a)は初期状態(静止状態)で、同図の矢印の方向が進行方向で、進行方向側を下流、その反対側を上流側とする。この状態では、最下流の弾性部5aと最上流の弾性部5dとが膨張している。
【0032】
上記空気制御弁9を制御し、図4(b)に示すように、上記弾性部5dを元の状態に戻すとともに、最下流の弾性部5aに隣接する弾性部5bを膨張させる。この状態では、上記弾性部5dが軸方向に伸長し、上記弾性部5bが軸方向に収縮しただけなので、挿入用ケーブル6は、まだ静止状態にある。
【0033】
この状態から、図4(c)に示すように、上記弾性部5aを元の状態に戻すとともに、上記弾性部5bに隣接する弾性部5cを膨張させる。上記最下流の弾性部5aの下流側は挿入用ケーブル6に固定されており、他の弾性部5b〜dは上記挿入用ケーブル6に対してフリーな状態になっているので、上記弾性部5aが軸方へ伸長しようとする動作は、上記挿入用ケーブル6を前進させる動作に変換され、上記挿入用ケーブル6は前進する。
【0034】
次に、図4(d)に示すように、上記弾性部5bを元の状態に戻すとともに、上記弾性部5cに隣接する最下流の弾性部5dを膨張させると、上記弾性部5bが元の状態に戻って軸方向に伸長する。これにより、上記挿入用ケーブル6が進行方向に更に前進する。その理由は、上記図4(c)の場合と同様である。
【0035】
更に、図4(e)に示すように、上記弾性部5cを元の状態に戻すとともに、最下流の弾性部5aを膨張させる。この状態では、上記弾性部5cが軸方向に伸長しても、上記弾性部5aが軸方向に収縮するので、上記挿入用ケーブル6は前進しない。すなわち、図4(e)の状態は、上記図4(a)の状態、すなわち、初期状態と同じである。
【0036】
したがって、推進制御手段10により、各弾性部5a〜dが、上記図4(a)〜上記図4(d)の状態を繰り返すように、上記空気制御弁9を制御すれば、上記挿入用ケーブル6をスムースに前進させることができる。
なお、上記挿入用ケーブル6を後退させるには、上記図4(e)の状態を初期状態として、上記図4(e)〜上記図4(b)の状態を繰り返せばよい。本発明では、このような運動を蠕動運動という。
【0037】
以下、本発明の方法によりジャケット内の付着物を除去する方法を説明する。
【0038】
まず、図1に示すリアクター3のノズル19から、自走式筒状伸縮体4をジャケット内に挿入する。図5に示すように、自走式筒状伸縮体4の挿入用ケーブル6の先端部には、ジャケット内付着物の切削除去を行う付着物切削除去手段20が設けられている。ノズル19の内周には、図9に示すように、ケーブル保護部材26を設けることが好ましい。該ケーブル保護部材26を設けることにより、自走式筒状伸縮体4の移動時に、挿入用ケーブル6とノズルの内周とが接触することを回避することができる。
【0039】
自走式筒状伸縮体4の移動は、付着物の切削除去作業を行う箇所まで、垂直方向あるいは水平方向等何れの方向にも自在に行うことができる。例えば、垂直方向の移動手段は、自走式筒状伸縮体の自重によるものとし、水平方向や斜め方向への移動は、前記の蠕動運動による自走としてもよい。その他、図9に示すように、自走式筒状伸縮体をジャケット内の液媒上に浮遊させ、垂直方向の移動は、ジャケット内の液媒量の調整により、水平方向の移動のみ自走によるものとすることもできる。ジャケット内の液媒量の調整は、液媒注入・排出孔27からの液媒の注入・排出により行うことができる。自走式筒状伸縮体4の現在位置確認手段として、自走式筒状伸縮体4の末端部に発信機を備えることが好ましい。
【0040】
自走式筒状伸縮体4の先端部には、ジャケット内非破壊検査手段として内視鏡を備え、この内視鏡により観察を行いながら、付着物切削除去作業を行うことが好ましい。内視鏡は光源を備えるものとすることが好ましく、また、写真撮影手段を備えるものであることが好ましい。
【0041】
付着物の切削除去作業を行った箇所の記録、あるいは内視鏡によるジャケット内の観察記録は、既存のマップソフト等を利用して行うことができる。具体的には、自走式筒状伸縮体4の先端部に備えた位置確認センサーから送信されるデータを既存のソフトで処理することにより、データ化することができる。
【0042】
付着物の切削除去作業を行う箇所まで移動させた後、当該作業箇所で移動を停止し、自走式筒状伸縮体の少なくとも一つの弾性部を、ジャケット内の隙間を塞ぐように径方向に膨張させて切削除去作業の足場を確保する。図6〜図8には、足場を確保した状態における自走式筒状伸縮体4の切削除去作業説明図を示している。付着物切削除去手段20は特に限定されない。
【0043】
図6に示す自走式筒状伸縮体4は、挿入用ケーブル6がリアクター3の外部に設置したジャケットドラム22を起点として構成されるものである。ジャケットドラム22のハンドルを回すことにより、挿入用ケーブル6の先端部に付着物切削除去手段20として設けたカッターが前進しながら回転し、該回転により付着物を切削除去することができる。なお、ハンドルによる回転に代えて、モーター等の回転駆動装置を設けてもよい。カッター形状は付着物の性状・形状により可変とし、状況に応じて最適な刃を選択できる設計とすることが好ましい。
【0044】
図7に示す自走式筒状伸縮体4は、挿入用ケーブル6の先端部にフレキシブルシャフト24を備え、該フレキシブルシャフト24に接続した回転機25を起動させることにより、フレキシブルシャフト24の先端部に付着物切削除去手段20として設けたカッターを高速回転させながら、切削除去するものである。カッター形状は付着物の性状・形状により可変とし、状況に応じて最適な刃を選択できる設計とすることが好ましい。
【0045】
図8に示す自走式筒状伸縮体4は、挿入用ケーブル6の先端部にフレキシブルシャフト24と回転運動―往復運動転換機構(図示しない)を備え、該フレキシブルシャフト24に接続した回転機を起動させると同時に回転運動を往復運動に転換させることにより、フレキシブルシャフト24の先端部に付着物切削除去手段20として設けたハツリハンマーを往復運動させて、付着物を切削除去するものである。
【0046】
なお、液媒内に付着物の剥離を促す燐酸と界面活性剤の混合薬剤を共存させてジャケット内付着物除去作業を行うことにより、より確実に、かつ、小さい力で切削を行うことができる。
【0047】
切削作業後には、径方向に膨張させていた弾性部を収縮させて、再度蠕動運動を付与して自走させる、次の目的箇所まで自走式筒状伸縮体スムースに移動させることができため、切削作業に要する労力も時間も大幅に削減することができる。ジャケットを溶断することなく、ジャケット内に付着した付着物を効果的に除去することを可能としている。
【符号の説明】
【0048】
1 シェル本体
2 ジャケット
3 リアクター
4 自走式筒状伸縮体
5a、5b、5c、5d 弾性部
6 挿入用ケーブル
7 コンプレッサ
8 レギュレータ
9 空気制御弁
10 推進制御手段
11 ベローズ
12 弾性膨張体
13、14 連結部材
15 空気室
16 エアチューブ
17 攪拌機
18 バッフル
19 ノズル
20 付着物切削除去手段
21 付着物
22 ジャケットドラム
23 ハンドル
24 フレキシブルシャフト
25 回転機
26 ケーブル保護部材
27 液媒注入・排出孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
加圧により径方向に膨張するとともに軸方向に収縮する複数の弾性部から構成され、蠕動運動機構により自走する自走式筒状伸縮体を、圧力容器の外周に設けた空冷・加熱ジャケット内に挿入して、20〜100mmの隙間を有する該ジャケット内に付着した付着物を切削除去するジャケット内付着物除去方法であって、
該自走式筒状伸縮体に蠕動運動を付与して付着物の切削除去の作業箇所まで自走させる工程と、
該切削除去の作業箇所において、自走式筒状伸縮体の少なくとも一つの弾性部を、ジャケット内の隙間を塞ぐように径方向に膨張させて切削除去作業の足場を確保して切削除去作業を行う工程と、
該切削除去作業後に、径方向に膨張させていた弾性部を収縮させて、再度蠕動運動を付与して自走させる工程
を有することを特徴とするジャケット内付着物除去方法。
【請求項2】
ジャケット内付着物が、シェル外周面やジャケット内周面に付着した錆または付着物であることを特徴とする請求項1記載のジャケット内付着物除去方法。
【請求項3】
該自走式筒状伸縮体はジャケット内の液媒上に浮遊し、垂直方向の移動はジャケット内の液媒量の調整によることを特徴とする請求項1記載のジャケット内付着物除去方法。
【請求項4】
該自走式筒状伸縮体は、ジャケット内非破壊検査手段を備えることを特徴とする請求項1記載のジャケット内付着物除去方法。
【請求項5】
該ジャケット内非破壊検査手段が内視鏡であることを特徴とする請求項4記載のジャケット内付着物除去方法。
【請求項6】
液媒内に付着物の剥離を促す燐酸と界面活性剤の混合薬剤を共存させてジャケット内付着物除去作業を行うことを特徴とする請求項1記載のジャケット内付着物除去方法。
【請求項7】
圧力容器の外周に設けた空冷・加熱ジャケット内に挿入して、20〜100mmの隙間を有する該ジャケット内に付着した付着物を切削除去するジャケット内付着物除去装置であって、
加圧により径方向に膨張するとともに軸方向に収縮する複数の弾性部から構成され、蠕動運動機構により自走する自走式筒状伸縮体と、
該自走式筒状伸縮体の先端部にあって、付着物を切削除去する付着物切削除去手段と、
該自走式筒状伸縮体の膨張および収縮を制御する自走式筒状伸縮体制御手段を備えることを特徴とするジャケット内付着物除去装置。
【請求項8】
該自走式筒状伸縮体制御手段は、
該自走式筒状伸縮体に蠕動運動を付与して付着物の切削除去の作業箇所まで自走させる切削除去前移動制御手段と、
該切削除去の作業箇所において、自走式筒状伸縮体の少なくとも一つの弾性部を、ジャケット内の隙間を塞ぐように径方向に膨張させて切削除去作業の足場を確保する足場確保制御手段と、
該切削除去作業後に、径方向に膨張させていた弾性部を収縮させて、再度蠕動運動を付与して自走させる切削除去後移動制御手段
からなることを特徴とする請求項7記載のジャケット内付着物除去装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−109215(P2013−109215A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−255096(P2011−255096)
【出願日】平成23年11月22日(2011.11.22)
【出願人】(000004064)日本碍子株式会社 (2,325)
【出願人】(599011687)学校法人 中央大学 (110)
【出願人】(511284063)エヌジーケイ・ケミテック株式会社 (1)
【出願人】(000209773)池袋琺瑯工業株式会社 (14)
【Fターム(参考)】