説明

ジョイントレスバンド用のタイヤコードすだれ織物、タイヤコード・ゴム複合体及びジョイントレスバンドの製造方法

【課題】ジョイントレスバンド内に含まれるタイヤコード本数のばらつきを生じさせることがないジョイントレスバンド用のタイヤコードすだれ織物、前記タイヤコードすだれ織物にゴムを被覆させたタイヤコード・ゴム複合体及びジョイントレスバンドの製造方法を提供する。
【解決手段】太さ800〜2100dtexの合成繊維またはパルプ系繊維からなるタイヤコードが、縦糸として50mm幅あたり25〜75本の密度で配置されており、縦糸と横糸とが交互に織り合わされて形成された総横幅500〜2500mmのタイヤコードすだれ織物であって、縦糸は、5〜20本の所定本数毎に、2〜3mmの隙間が設けられて配置されている。タイヤコードすだれ織物の両面にゴムが被覆されてタイヤコード・ゴム複合体が形成され、前記の隙間が位置する箇所で切断されてテープ状のジョイントレスバンドが得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤコードを縦糸としてこれと横糸とを織り合わせて形成されるジョイントレスバンド用のタイヤコードすだれ織物、前記タイヤコードすだれ織物にゴムを被覆させたタイヤコード・ゴム複合体及びジョイントレスバンドの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、タイヤの製造工程において、タイヤの高速耐久性を高めることを目的として、ジョイントレスバンド(以下、「JLB」とも言う)と言われるテープ状材料を用いることが一般的に行われている。
【0003】
このJLBは、タイヤの製造工程における生産性を考慮して、所定本数(通常、5本〜20本)のタイヤコードをゴムで被覆(以下、「トッピング」とも言う)して得られるテープ状材料の形で供給されている。そして、タイヤの製造工程においては、いわゆる2ヘッド方式の巻付け装置により2対のテープ状のJLBを一度に成形ドラムに巻付ける方式が広く採用されている。
【0004】
テープ状のJLBを作製する一方法として、シングルコードを束ねてゴムを被覆する方式がある。しかし、この方式には、タイヤコードとゴムとの接着性を向上させる目的で被覆に先立って行われるディップ処理加工におけるコストが高いという問題点がある。
【0005】
そのため、通常は、例えば、多数本のタイヤコードを縦糸としてほぼ等間隔に配置した幅1000〜2000mmの広幅のジョイントレスバンド用のタイヤコードすだれ織物(以下、単に「タイヤコードすだれ織物」とも言う)を作製し(例えば、特許文献1)、このタイヤコードすだれ織物の表裏両面をゴムで被覆して広幅のタイヤコード・ゴム複合体を作製した後、ナイフやカッターなどを用いて、所定の幅、例えば幅5〜20mmにスリットしてテープ状のJLBを作製することが行われている。
【0006】
しかし、従来は、このスリット工程において、タイヤコードが切断されて、1本のJLB内に含まれるタイヤコードの本数にばらつきが生じることがあった。
【0007】
このばらつきの発生につき、具体的に説明する。
従来、前記のタイヤコードすだれ織物は、図5に示すように、所定の縦糸密度で等間隔に配置された多数本のタイヤコード2と、少数本の横糸3とが織り合わされて形成されていた。
【0008】
しかし、ゴムをトッピングする際、この縦糸の間隔が変化し、タイヤコード・ゴム複合体における縦糸密度に、通常、最大±5%程度のばらつきが生じていた。
【0009】
このことは、例えば、50mm幅あたり50本のタイヤコードが配置された、即ち縦糸密度が50本/50mmのタイヤコードすだれ織物にゴムをトッピングした場合、タイヤコード・ゴム複合体における縦糸密度は50±2.5本/50mmとなり、±2.5本のばらつきが生じる恐れのあることを意味している。
【0010】
このように縦糸密度にばらつきのあるタイヤコード・ゴム複合体をスリットして、幅10mmのJLB5本を得た場合、JLB1本あたりに含まれるタイヤコードの本数は、計算上、10±0.5本となる。しかし、実際には、カッター等の刃物で1本のタイヤコードを縦方向(長さ方向)に裂き続けることは困難であり、1本単位でのばらつきが発生するため、結局、±1本のばらつきが出現することとなる。
【0011】
このように、1本のJLBに含まれるタイヤコードの本数にばらつきが生じた場合、製品タイヤには次のような問題が引き起こされる。即ち、
(1)タイヤ高速耐久性にばらつきが生じる。
(2)左右のタイヤにおけるタイヤコード本数の差による拘束力に違いが生じ、コニシティー(タイヤの回転方向に関係無く、常に一定方向に発生する横方向の力)のばらつきが悪化する。
(3)コニシティーのばらつき悪化により規格外品が発生するため、生産歩留まりが悪化する。
(4)コニシティーのばらつき悪化により、車両の片流れ性能のばらつきが生じる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開平8−118908号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、上記の問題に鑑み、1本のジョイントレスバンド内に含まれるタイヤコード本数のばらつきを生じさせることがないジョイントレスバンド用のタイヤコードすだれ織物、前記タイヤコードすだれ織物にゴムを被覆させたタイヤコード・ゴム複合体及びジョイントレスバンドの製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明に係るジョイントレスバンド用のタイヤコードすだれ織物は、
太さ800〜2100dtexの合成繊維またはパルプ系繊維からなるタイヤコードが、縦糸として50mm幅あたり25〜75本の密度で配置されており、
前記縦糸と横糸とが交互に織り合わされて形成された
総横幅500〜2500mmのタイヤコードすだれ織物であって、
前記縦糸は、5〜20本の所定本数毎に、2〜3mmの隙間が設けられて配置されている
ことを特徴とする。
【0015】
また、本発明に係るジョイントレスバンド用のタイヤコードすだれ織物は、
太さ800〜2100dtexの合成繊維またはパルプ系繊維からなるタイヤコードが、縦糸として50mm幅あたり25〜75本の密度で配置されており、
前記縦糸を5〜20本の所定本数単位に纏めた縦糸群と、横糸とが交互に織り合わされて形成された
総横幅500〜2500mmのタイヤコードすだれ織物であって、
前記縦糸群は、隣接する縦糸群との間において、2〜3mmの隙間を設けて配列されている
ことを特徴とする。
【0016】
そして、本発明に係るタイヤコード・ゴム複合体は、
横糸にポリエチレン繊維またはポリプロピレン繊維が用いられ、縦糸と織り合わされた後、加熱、冷却されて前記横糸と縦糸とが溶着された前記のジョイントレスバンド用のタイヤコードすだれ織物の両面に、ゴムが被覆されていることを特徴とする。
【0017】
また、本発明に係るジョイントレスバンドの製造方法は、
前記のタイヤコード・ゴム複合体を、前記ジョイントレスバンド用のタイヤコードすだれ織物に設けられた前記隙間が位置する箇所で切断してテープ状のジョイントレスバンドを作製することを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、1本のジョイントレスバンド内に含まれるタイヤコード本数のばらつきを生じさせることがないジョイントレスバンド用のタイヤコードすだれ織物、前記タイヤコードすだれ織物にゴムを被覆させたタイヤコード・ゴム複合体及びジョイントレスバンドの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明のジョイントレスバンド用のタイヤコードすだれ織物の一形態を模式的に示す図である。
【図2】本発明のジョイントレスバンド用のタイヤコードすだれ織物の他の形態を模式的に示す図である。
【図3】本発明のジョイントレスバンド用のタイヤコードすだれ織物の製造装置の概要を模式的に示す図である。
【図4】本発明のタイヤコード・ゴム複合体の概要を模式的に示す斜視図である。
【図5】従来のジョイントレスバンド用のタイヤコードすだれ織物の形態を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明をその実施の形態に基づいて説明する。なお、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではない。本発明と同一及び均等の範囲内において、以下の実施の形態に対して種々の変更を加えることが可能である。
【0021】
1.ジョイントレスバンド用のタイヤコードすだれ織物
最初に、本発明のジョイントレスバンド用のタイヤコードすだれ織物につき説明する。
【0022】
(1)ジョイントレスバンド用のタイヤコードすだれ織物の構造
まず、ジョイントレスバンド用のタイヤコードすだれ織物の構造につき、図1を用いて説明する。図1は本発明のジョイントレスバンド用のタイヤコードすだれ織物の一形態を模式的に示す図である。なお、図1において、(a)は平面図であり、(b)は斜視図である。
【0023】
図1に示すように、このジョイントレスバンド用のタイヤコードすだれ織物Aは、配列間隔1で等間隔に配置された多数本のタイヤコード2を縦糸として、少数本の横糸3と交互に織り合わされて形成されている。
【0024】
このタイヤコードすだれ織物Aにおけるタイヤコード2の材質や太さ、配列密度及びタイヤコードすだれ織物Aの総横幅は、所望するJLBに対応して所定の条件の範囲内で適宜決定することができる。
【0025】
具体的には、タイヤコード2の材質としては、ナイロン(ポリアミド系繊維)、ケブラー(デュポン社製アラミド繊維)、PEN(ポリエチレンナフタレート)、PET(ポリエステル繊維)などの合成繊維、またはレーヨンなどのパルプ系繊維が用いられる。そして、その太さは、800〜2100dtexの範囲内から適宜決定される。また、タイヤコード2の配列密度、即ち縦糸密度は、25〜75本/50mmの範囲内で適宜決定される。
【0026】
そして、タイヤコードすだれ織物Aの総横幅としては、500〜2500mmの範囲内で適宜決定される。
【0027】
なお、このタイヤコードすだれ織物Aにおいては、5〜20本の所定本数毎(図1においては、8本毎)に、タイヤコード2の配列間隔1よりも広い2〜3mmの隙間1aが設けられている。この隙間1aが、後述するタイヤコード・ゴム複合体を切断してJLBを作製する際の切断代となる。
【0028】
このように、タイヤコードすだれ織物Aでは、後述するゴムのトッピングの際、前記の配列間隔1が変化してタイヤコード・ゴム複合体における縦糸密度にばらつきが生じることを考慮した広さの隙間1aが、切断代として設けられている。このため、タイヤコード・ゴム複合体における縦糸密度にばらつきが生じたとしても、隙間1aの中央部迄にはその影響が及ばず、タイヤコード・ゴム複合体を切断するに際してタイヤコードを切断する恐れがなく、タイヤコードの本数にばらつきがないJLBを確実に、安定して得ることができる。
【0029】
横糸3としては、前記したタイヤコード2と同じ材質の繊維を使用することもできるが、ポリエチレン繊維またはポリプロピレン繊維を使用することが好ましい。これらの繊維は、前記のタイヤコード2の材質よりも低い融点(MP)を有しているため、これらの繊維を横糸3として用いて織り合わされたタイヤコードすだれ織物Aを加熱、冷却することにより、横糸3とタイヤコード2とが溶着されて、タイヤコード2の配列間隔1を固定することができる。これにより、ゴムのトッピングにおいて、配列間隔1の変化が低く抑えられて、タイヤコード・ゴム複合体の切断時にタイヤコード2を切断する恐れを充分に低くすることができる。
【0030】
(2)タイヤコードすだれ織物の製造方法
続いて、前記のタイヤコードすだれ織物の製造方法につき、図3を用いて説明する。図3は本発明のジョイントレスバンド用のタイヤコードすだれ織物の製造装置の概要を模式的に示す図である。
【0031】
図3に示すように、タイヤコードすだれ織物の製造装置Bは、タイヤコード2の繰り出し部B1と織成部B2と備えている。送り出しローラーB3の駆動により繰り出されたタイヤコード2は、ガイドローラーB4、フロントリーズロッドB5、ヘルドB6、筬羽B7、サーフェイスローラーB8を経ることにより、縦糸にテンションをかけた状態で横糸と織り合わされてタイヤコードすだれ織物となる。このとき、フロントリーズロッドB5において、リードの間隔を調整することにより、図1に示す隙間1aが設けられる。
【0032】
このとき、横糸としてポリエチレン繊維またはポリプロピレン繊維を使用した場合には、前記したように、タイヤコード2の配列間隔が固定されたタイヤコードすだれ織物を得ることができる。具体的には、織り上げられたタイヤコードすだれ織物を巻き取るに先だって、横糸の融点より高くタイヤコード2の融点より低い温度に設定されたアイロンドラムB9に沿わせることにより、横糸が溶けてタイヤコード2のフィラメントに浸入する。その後、冷却ドラムB10に沿わせることにより、溶融した横糸がタイヤコード2のフィラメントに浸入した状態でタイヤコード2の配列間隔が固定される。なお、アイロンドラムB9の温度としては、例えば、タイヤコード2としてナイロン(MP:200℃前後)を用いた場合、横糸の材質が、ポリエチレン(MP:115℃)であれば120〜130℃に設定され、ポリプロピレン(MP:140℃)であれば145〜160℃に設定される。また、冷却ドラムB10の温度は、通常常温に設定されるが、必要に応じて冷却して常温より低い温度に設定しても良い。
【0033】
(3)他の形態のタイヤコードすだれ織物
なお、図1ではタイヤコード2の各々と横糸3を織り合わせているが、図2に示すように、タイヤコード2を5〜20本の所定本数単位に纏めたタイヤコード群21、即ち縦糸群の各々と、横糸3とを交互に織り合わせてタイヤコードすだれ織物とすることもできる。この形態のタイヤコードすだれ織物の製造方法は、横糸3のタイヤコード2との織り合わせをタイヤコード群21単位で行う点を除いては、前記した形態のタイヤコードすだれ織物の製造方法と同様である。
【0034】
2.タイヤコード・ゴム複合体
織り合わされたタイヤコードすだれ織物には、ゴムがトッピングされるに先だって、タイヤコードとゴムとの接着性を向上させるために、公知の方法により、ディップ処理が施される。
【0035】
ディップ処理されたタイヤコードすだれ織物の表裏両面からトッピングゴム4が被覆されて、図4に示すようなタイヤコード・ゴム複合体が得られる。この際、既に述べたように、縦糸の間隔が変化し、タイヤコード・ゴム複合体における縦糸密度に、最大±5%程度のばらつきを生じる。
【0036】
3.JLB
得られたタイヤコード・ゴム複合体をカッター5により、隙間の中央で所定の切断ピッチPで切断することにより、所定のJLBを得ることができる。即ち、切断代の広さは、前記の縦糸密度に生じたばらつきを考慮した広さに設定されているため、ばらつきが生じたタイヤコード2であっても切断されることがなく、タイヤコードの本数にばらつきがないJLBを確実に安定して得ることができる。なお、図4では、カッター5は1本としているが、所定の切断ピッチPで複数のカッター5を設けて同時に裁断することもできる。また、このカッターはゴムと横糸のみを切断するため、必ずしも鋭利である必要がなく、カッターによる事故を防止することができる。
【符号の説明】
【0037】
A タイヤコードすだれ織物
1 配列間隔
1a 隙間
2 タイヤコード
21 タイヤコード群
3 横糸
4 トッピングゴム
P 切断ピッチ
B タイヤコードすだれ織物の製造装置
B1 繰り出し部
B2 織成部
B3 送り出しローラー
B4 ガイドローラー
B5 フロントリーズロッド
B6 ヘルド
B7 筬羽
B8 サーフェイスローラー
B9 アイロンドラム
B10 冷却ドラム
5 カッター

【特許請求の範囲】
【請求項1】
太さ800〜2100dtexの合成繊維またはパルプ系繊維からなるタイヤコードが、縦糸として50mm幅あたり25〜75本の密度で配置されており、
前記縦糸と横糸とが交互に織り合わされて形成された
総横幅500〜2500mmのタイヤコードすだれ織物であって、
前記縦糸は、5〜20本の所定本数毎に、2〜3mmの隙間が設けられて配置されている
ことを特徴とするジョイントレスバンド用のタイヤコードすだれ織物。
【請求項2】
太さ800〜2100dtexの合成繊維またはパルプ系繊維からなるタイヤコードが、縦糸として50mm幅あたり25〜75本の密度で配置されており、
前記縦糸を5〜20本の所定本数単位に纏めた縦糸群と、横糸とが交互に織り合わされて形成された
総横幅500〜2500mmのタイヤコードすだれ織物であって、
前記縦糸群は、隣接する縦糸群との間において、2〜3mmの隙間を設けて配列されている
ことを特徴とするジョイントレスバンド用のタイヤコードすだれ織物。
【請求項3】
横糸にポリエチレン繊維またはポリプロピレン繊維が用いられ、縦糸と織り合わされた後、加熱、冷却されて前記横糸と縦糸とが溶着された請求項1または請求項2に記載のジョイントレスバンド用のタイヤコードすだれ織物の両面に、ゴムが被覆されていることを特徴とするタイヤコード・ゴム複合体。
【請求項4】
請求項3に記載のタイヤコード・ゴム複合体を、前記ジョイントレスバンド用のタイヤコードすだれ織物に設けられた前記隙間が位置する箇所で切断してテープ状のジョイントレスバンドを作製することを特徴とするジョイントレスバンドの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−255141(P2010−255141A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−107615(P2009−107615)
【出願日】平成21年4月27日(2009.4.27)
【出願人】(000183233)住友ゴム工業株式会社 (3,458)
【Fターム(参考)】