説明

ジルコニウム又はハフニウム及びマンガン含有酸化物

【解決手段】 Zr又はHfを全原子に対し0.001原子%以上10原子%以下の割合で含有し、かつMnを全原子に対し0.001原子%以上5原子%以下の割合で含有する酸素酸塩、ハロゲン化酸素酸塩、複酸化物又は複合酸化物であることを特徴とする酸化物。
【効果】 本発明のジルコニウム又はハフニウムとマンガンとを添加した酸化物(酸素酸塩、ハロゲン化酸素酸塩、複酸化物及び複合酸化物)は、キセノン原子の共鳴線発光の147nmなど、真空紫外領域の光で励起したとき、効率良く波長390〜750nmの可視領域の蛍光を示し、水銀を用いない陰極線ランプなどの蛍光体への展開が期待できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特徴的な蛍光特性を有するジルコニウム又はハフニウム及びマンガン含有酸化物(酸素酸塩、複酸化物、ハロゲン化酸素酸塩又は複合酸化物)に関する。
【背景技術】
【0002】
ジルコニウム(Zr)やハフニウム(Hf)は、蛍光体において、CaZrO3などの形で発光元素を添加する母結晶となったり(特許文献1:特開平8−283713号公報参照)、Euと共にアルミン酸塩系の母結晶に添加して蛍光の残光を長くする効果を付与したり(特許文献2:特開平8−73845号公報参照)、Ceと共に希土類元素のオキシ塩化物やオキシ臭化物に添加して、放射線励起の蛍光体の変換効率を向上させたり(特許文献3:特開平11−349939号公報参照)するといった機能を有することが知られている。
しかし、それ自体では能動的光特性を示さない単なる透明結晶にジルコニウム又はハフニウムのみが少量成分として添加された系については、蛍光などの特性はほとんど検討がなされていないのが現状である。
【0003】
【特許文献1】特開平8−283713号公報
【特許文献2】特開平8−73845号公報
【特許文献3】特開平11−349939号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、真空紫外領域の光で励起したとき可視領域の蛍光を発するジルコニウム又はハフニウム及びマンガン含有酸化物(酸素酸塩、複酸化物、ハロゲン化酸素酸塩又は複合酸化物)を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、上記目的を達成するため鋭意検討を行った結果、ジルコニウム(Zr)又はハフニウム(Hf)を全原子に対し0.001原子%以上10原子%以下の割合で含有する酸素酸塩、複酸化物、ハロゲン化酸素酸塩又は複合酸化物、特にアルカリ土類金属又は希土類元素のりん酸塩、珪酸塩、アルミン酸塩、ほう酸塩などの酸素酸塩、ハロゲン化りん酸塩などのハロゲン化酸素酸塩やこれら酸素酸塩の複合物(複酸化物又は複合酸化物)に、さらにマンガン(Mn)を全原子に対し0.001原子%以上5原子%以下の割合で添加したものが、真空紫外領域の波長で励起した際に、Zr又はHfからMnへのエネルギー伝達により、ピーク波長390〜750nm、特に420〜680nmの可視領域の発光を呈し、各種の蛍光体として有用であることを見出した。
【0006】
なお、上述したように、プラズマディスプレイパネルや水銀を使用しない希ガス放電ランプへの応用をめざして、真空紫外領域で励起される蛍光体の研究開発が行われており、本発明者は、アルカリ土類又は希土類元素のりん酸塩、珪酸塩、アルミン酸塩などを母結晶として、ジルコニウム又はハフニウムを添加することで、真空紫外励起下で近紫外域の発光を呈する蛍光体が得られることを見出している(特願2004−113704号参照)。さらに本発明者は、上記母結晶の一つである希土類りん酸塩に、Zr又はHfと同時にMnを添加した場合に、Zr又はHfによる紫外発光がエネルギー伝達によって効率よく青色の発光に変換されること、及びZr又はHfの添加によってMnだけの添加のときよりも青色発光が大いに増強されることを見出している(特願2004−113755号参照)が、さらに幅広い応用のためには、可視領域全体にわたる、多様な発光色が得られることが望まれており、本発明はかかる点からなされたものである。
【0007】
即ち、本発明は、下記の酸化物を提供する。
(1)Zr又はHfを全原子に対し0.001原子%以上10原子%以下の割合で含有し、かつMnを全原子に対し0.001原子%以上5原子%以下の割合で含有する酸素酸塩、複酸化物、ハロゲン化酸素酸塩又は複合酸化物であることを特徴とする酸化物。
(2)母結晶が、酸素と、アルカリ土類金属元素及び希土類元素から選ばれる1種以上の元素と、P,Al,Si及びBから選ばれる1種以上の元素と、必要によりF,Clから選ばれる元素とを含有する酸化物であり、これにジルコニウム又はハフニウムとマンガンとが固溶されてなることを特徴とする(1)記載の酸化物。
(3)母結晶が、Ca及び/又はMgを含む珪酸塩、Ca,Al,Si及びOを含む複合酸化物、Caを含むふっ化りん酸塩、又は希土類元素を含むほう酸塩であり、これにジルコニウム又はハフニウムとマンガンとが固溶されてなることを特徴とする(2)記載の酸化物。
(4)蛍光体材料用である(1)乃至(3)のいずれかに記載の酸化物。
(5)130〜220nmの紫外光による励起によって、390〜750nmの可視域の蛍光を発することを特徴とする(1)乃至(4)のいずれかに記載の酸化物。
【発明の効果】
【0008】
本発明のジルコニウム又はハフニウムとマンガンとを添加した酸化物(酸素酸塩、複酸化物、ハロゲン化酸素酸塩及び複合酸化物)は、キセノン原子の共鳴線発光の147nmなど、真空紫外領域の光で励起したとき、効率良く波長390〜750nmの可視領域の蛍光を示し、水銀を用いない蛍光ランプなどの蛍光体への展開が期待できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明に係る酸化物は、Zr又はHfを全原子に対し0.001原子%以上10原子%以下の割合で含有し、かつMnを全原子に対し0.001原子%以上5原子%以下の割合で含有する酸素酸塩、複酸化物、ハロゲン化酸素酸塩又は複合酸化物である。
【0010】
ここで、本発明の酸化物に用いられる母結晶としては、アルカリ土類金属(周期律表第IIA族のBe,Mg,Ca,Sr及びBa)又は希土類元素(周期律表第IIIA族のSc,Y及び原子番号57〜71のランタノイド元素)のりん酸塩、珪酸塩、アルミン酸塩、ほう酸塩などの酸素酸塩やハロゲン化酸素酸塩、及びこれら酸素酸塩の複合物(複酸化物又は複合酸化物)などが挙げられる。
【0011】
上記母結晶としては、酸素と、アルカリ土類金属元素及び希土類元素から選ばれる1種以上の元素と、P,Al,Si及びBから選ばれる1種以上の元素とを含有する酸素酸塩、複酸化物、複合酸化物、更にF,Clなどのハロゲン原子を含むハロゲン化酸素酸塩が挙げられ、特に、Ca及び/又はMgとSiとOとを含む複合酸化物(珪酸塩)、Ca,Al,Si及びOを含む複合酸化物(アルミノ珪酸塩)、Caを含むふっ化りん酸塩、希土類元素を含むほう酸塩などが、Zr又はHf、並びにMnの両方を均一にある程度の量を固溶させやすい点から特に好ましい。
【0012】
これらの母結晶の組成は、例えば、Ca及び/又はMgを含む珪酸塩としてはCaMgSi26、Ca2MgSi27、アルミノ珪酸塩としてはCaAl2Si28、Ca2Al2SiO7、ふっ化りん酸塩としてはCa5(PO43F、希土類元素を含むほう酸塩としてはYBO3、YAl3(BO34が挙げられる。
【0013】
本発明においては、上記母結晶にZr又はHfを全原子の0.001原子%以上10原子%以下、好ましくは0.01原子%以上5原子%以下添加する。さらに、Mnを全原子の0.001原子%以上5原子%以下、好ましくは0.01原子%以上2原子%以下添加する。Zr又はHf、及びMnの添加量が全原子の0.001原子%未満であると蛍光発光を実質的に観測できなくなり、Zr又はHfが10原子%、Mnが5原子%を超えて添加、置換を増やしても結晶内にうまく置換固溶せず、別の化学種を生じてしまうなどして不都合である。また、ZrとHfの中では、資源量の豊富さと価格の点からZrがより好ましい。
【0014】
次に、本発明の酸素酸塩、複酸化物、ハロゲン化酸素酸塩又は複合酸化物の製造方法について述べる。
本発明の製造方法は特に制限されないが、原料として、上記酸素酸塩、複酸化物、ハロゲン化酸素酸塩又は複合酸化物を構成する各金属元素を含む酸化物、ふっ化物、炭酸塩、蓚酸塩などの粉体、更に必要に応じ、酸化珪素、りん酸、りん酸アンモニウム等のりんを含む原料、ほう酸、酸化ほう素、ほう酸アンモニウム等のほう素を含む原料の粉末を混合して、800℃以上1800℃以下で30分以上24時間以下の条件下で加熱して反応させる方法が最も一般的で適用範囲が広く、本発明においてもこれを好適に採用することができる。この場合、金属元素と珪素については、目標組成に応じて計量、混合するのが好ましいが、りん酸基、ほう酸基の原料は、当量以上2倍程度までの範囲で目標組成より多めに混合することも有効である。また、反応を促進するため、アルカリ金属ふっ化物などの融剤等を加えても良い。
【0015】
また、既にできている酸素酸塩、複合酸化物などの粉体とZr、Hf又はMnを含む酸化物、炭酸塩、蓚酸塩などの粉体や、りん酸基、ほう酸基の原料など他の成分の粉体とを所定の組成となるように混合して、上記温度範囲内及び時間で加熱し反応させる方法も好ましく用いることができる。
【0016】
更に、本発明の酸素酸塩、複酸化物、ハロゲン化酸素酸塩又は複合酸化物を構成する構成元素の一部又は全部を含む水溶性化合物を溶液の形で反応させて沈殿させ、これを乾燥又は焼成して脱水することにより目的とする酸素酸塩、複酸化物、ハロゲン化酸素酸塩又は複合酸化物を合成したり、中間体として用いたりするのも有効な方法である。
【0017】
粉体同士を混合する場合、混合方法については特に制限されないが、乳鉢、流動混合機、傾斜回転式混合機などを用いて行うことができる。
【0018】
加熱反応を行う雰囲気としては、大気、不活性ガス雰囲気、還元性ガス雰囲気など母結晶の種類に応じて選択できるが、一般的には窒素、アルゴンなどの不活性ガス雰囲気が、Mnを2価の状態に保ち易いので好ましい。
【実施例】
【0019】
以下、実施例及び比較例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の例に限定されるものではない。
【0020】
[出発物質の合成]
以下の合成に用いる蓚酸マンガンは、塩化マンガン水溶液と蓚酸アンモニウム水溶液の混合によって沈殿を生成し、濾別、乾燥したものを用いた。
また、りん酸水素カルシウム(CaHPO4)は、水酸化カルシウムを水中に分散させ、ここにやや過剰のりん酸を加えて撹拌して反応させて生成し、濾別、乾燥したものを用いた。
【0021】
[実施例1]
炭酸カルシウム(試薬99.99%CaCO3、和光純薬工業(株)製)3.60g、酸化アルミニウム(Al23)(タイミクロンTM−DA、大明化学工業(株)製)4.08g、酸化珪素(SiO2)(1−FX、龍森製)4.81g、蓚酸マンガン0.256g、酸化ジルコニウム(ZrO2)(TZ−0、東ソー(株)製)0.099g、及びふっ化ナトリウム(試薬特級NaF、和光純薬工業(株)製)0.067gを自動乳鉢で混合し、アルミナるつぼに入れ、窒素ガスを毎分0.7dm3(標準状態)流した電気炉中で1200℃まで加熱し、4時間保ってから同じ窒素気流中で冷却した。得られた試料を乳鉢で解砕して粉状にした。
【0022】
[実施例2]
炭酸カルシウム3.60g、酸化マグネシウム(MgO)(500A、宇部マテリアルズ(株)製)1.29g、酸化珪素(SiO2)4.81g、蓚酸マンガン0.633g、及び酸化ジルコニウム0.493gを用いた以外は実施例1と同様の操作を行い、粉状の試料を得た。
【0023】
[実施例3]
酸化イットリウム(Y23)(信越化学工業(株)製4N品)2.26g、酸化アルミニウム3.82g、ほう酸(試薬特級H3BO3、和光純薬工業(株)製)6.80g、蓚酸マンガン0.395g、及び酸化ジルコニウム0.308gを自動乳鉢で混合し、アルミナるつぼに入れ、窒素ガスを毎分0.7dm3(標準状態)流した電気炉中で1100℃まで加熱し、3時間保ってから同じ窒素気流中で冷却した。得られた試料を乳鉢で解砕して粉状にした。
【0024】
[実施例4]
りん酸水素カルシウム(CaHPO4)8.17g、炭酸カルシウム1.60g、ふっ化カルシウム(試薬特級CaF2、和光純薬工業(株)製)1.56g、蓚酸マンガン0.160g、酸化ジルコニウム0.123g、及びふっ化ナトリウム0.084gを用いた以外は実施例3と同様の操作を行い、粉状の試料を得た。
【0025】
[比較例1]
炭酸カルシウム3.80g、酸化アルミニウム4.08g、酸化珪素4.81g、及び蓚酸マンガン0.310gを用いた以外は実施例1と同様の操作を行い、粉状の試料を得た。
【0026】
[比較例2]
炭酸カルシウム4.07g、酸化アルミニウム5.10g、酸化珪素6.01g、及び酸化ジルコニウム0.385gを自動乳鉢で混合し、アルミナるつぼに入れ、電気炉中大気雰囲気のもと1200℃まで加熱し、3時間保ってから冷却した。得られた試料を乳鉢で解砕して粉状にした。
【0027】
[蛍光に関する測定]
実施例1〜4及び比較例1,2で合成された下記の各試料について、分光計器(株)製真空紫外域吸光・蛍光測定装置を用い、147nmの光で励起したときの蛍光スペクトルを測定した。
実施例1:(Ca0.9Mn0.04Zr0.02Na0.04)Al2Si28
実施例2:(Ca0.9Mn0.1)(Mg0.8Zr0.1)Si26
実施例3:(Y0.8Mn0.1Zr0.1)Al3(BO34
実施例4:(Ca0.96Mn0.01Zr0.01Na0.025(PO43
比較例1:(Ca0.95Mn0.05)Al2Si28
比較例2:(Ca0.86Zr0.07)Al2Si28
【0028】
図1に、実施例1〜4で得られた試料について、147nmの光で励起したときの発光スペクトルチャートを示す。ピーク高さが一定になるように規格化してある。図中の矢印で示した数字1〜4がそれぞれ実施例1〜4に対応している。各試料とも可視域の発光を示している。
【0029】
図2に、実施例1、比較例1,2についての発光スペクトルチャートを示す。図中の矢印で示した数字5が実施例1を、数字6,7が比較例1,2をそれぞれ表す。縦軸は、実際の発光強度(エネルギー)に比例するよう補正してあり、実施例1ではZrのみ添加の比較例2に見られる紫外発光が無くなって、黄色発光が現れていること、Mnのみ添加の比較例1に比べて発光が増強されていることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】実施例1〜4の蛍光発光スペクトルのチャートである。147nmの光で励起したときのものである。
【図2】実施例1、比較例1,2の蛍光発光スペクトルのチャートである。147nmの光で励起したときのものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Zr又はHfを全原子に対し0.001原子%以上10原子%以下の割合で含有し、かつMnを全原子に対し0.001原子%以上5原子%以下の割合で含有する酸素酸塩、複酸化物、ハロゲン化酸素酸塩又は複合酸化物であることを特徴とする酸化物。
【請求項2】
母結晶が、酸素と、アルカリ土類金属元素及び希土類元素から選ばれる1種以上の元素と、P,Al,Si及びBから選ばれる1種以上の元素と、必要によりF,Clから選ばれる元素とを含有する酸化物であり、これにジルコニウム又はハフニウムとマンガンとが固溶されてなることを特徴とする請求項1記載の酸化物。
【請求項3】
母結晶が、Ca及び/又はMgを含む珪酸塩、Ca,Al,Si及びOを含む複合酸化物、Caを含むふっ化りん酸塩、又は希土類元素を含むほう酸塩であり、これにジルコニウム又はハフニウムとマンガンとが固溶されてなることを特徴とする請求項2記載の酸化物。
【請求項4】
蛍光体材料用である請求項1乃至3のいずれか1項記載の酸化物。
【請求項5】
130〜220nmの紫外光による励起によって、390〜750nmの可視域の蛍光を発することを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項記載の酸化物。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−104049(P2006−104049A)
【公開日】平成18年4月20日(2006.4.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−254421(P2005−254421)
【出願日】平成17年9月2日(2005.9.2)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【Fターム(参考)】