説明

スイッチドリラクタンスモータ

【課題】ロータの高速回転時にも高トルクおよび高出力を得ることができる、スイッチドリラクタンスモータを提供する。
【解決手段】ステータ4は、円筒状のリング部9を備えている。リング部9は、その中心軸線を中心に往復回動可能に設けられている。リング部9の内周面10と各ステータ突極11における内周面10と対向する端面との間には、エアギャップGが形成されている。そして、リング部9の内周面10には、リング部9の中心軸線を中心とする等角度間隔で、リング部9の回動によってエアギャップGを可変とするためのステータ突極11と同数の溝13が形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スイッチドリラクタンスモータに関する。
【背景技術】
【0002】
最近、レアアース(希土類)危機の問題から、ハイブリッドカーや電気自動車に搭載されるモータとして、永久磁石を使用しないスイッチドリラクタンスモータ(SRモータ)が注目を集めている。
【0003】
図6は、従来のスイッチドリラクタンスモータの模式的な断面図である。
【0004】
スイッチドリラクタンスモータ91は、ロータ92およびステータ93を備えている。
【0005】
ロータ92は、回転軸94と一体的に回転可能に設けられている。ロータ92は、中心軸線が回転軸94の中心軸線と一致する円筒面を有しており、その円筒面には、8個のロータ突極95が円筒面の中心軸線(回転軸線)を中心とする等角度間隔で突設されている。
【0006】
ステータ93は、ロータ92の周囲を取り囲み、ロータ92の円筒面と等間隔を空けて対向する円筒面を有している。ステータ93の円筒面には、12個のステータ突極96が円筒面の中心軸線(回転軸線)を中心とする等角度間隔で突設されている。各ステータ突極96には、コイル97が集中巻されている。
【0007】
ロータ92の回転位置(ロータ突極95の位置)に応じて、通電されるコイルが切り替えられることにより、ロータ92が回転し、トルクが発生する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平8−182276号公報
【特許文献2】国際公開第2006/123659号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
図6に示される構成のスイッチドリラクタンスモータ91では、コイル97の巻数を増やすことにより、トルクを増大させることができる。しかしながら、コイル97の巻数を増やすと、ロータ92の高速回転時に、過大な誘起電圧が発生し、トルクが低下するという問題が生じる。
【0010】
本発明の目的は、ロータの高速回転時にも高トルクおよび高出力を得ることができる、スイッチドリラクタンスモータを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記の目的を達成するため、本発明に係るスイッチドリラクタンスモータは、回転可能に設けられ、第1円筒面に回転軸線を中心とする等角度間隔で突設された複数のロータ突極を有するロータと、第1円筒面と対向する第2円筒面に沿って前記回転軸線を中心とする等角度間隔で配置された複数のステータ突極および各ステータ突極に巻回されたコイルを有するステータとを含む。前記ステータは、前記第2円筒面を有し、前記回転軸線を中心に往復回動可能に設けられたリング部を備えている。前記第2円筒面と各ステータ突極における前記第2円筒面と対向する端面との間には、エアギャップが形成されている。そして、前記第2円筒面には、前記回転軸線を中心とする等角度間隔で、前記リング部の回動によって前記エアギャップを可変とするための前記ステータ突極と同数の溝が形成されている。
【0012】
これにより、ステータの第2円筒面には、ステータ突極と同数の溝からなる凹部と各溝の間の凸部とが周方向に交互に形成されている。
【0013】
各凸部がステータ突極に対して回転径方向に並んで対向する状態では、第2円筒面と各ステータ突極の端面との間のエアギャップが最小となる。そのため、この状態では、コイルに電流が流されたときに、そのコイルが巻回されたステータ突極およびリング部を通る磁束量が最大となる。
【0014】
そして、リング部の回動により、各凸部がステータ突極に対して回転径方向に並んで対向する位置からずれると、ステータ突極の端面における溝(凹部)との対向面積が増え、その溝と対向する部分において、第2円筒面と各ステータ突極の端面との間のエアギャップが大きくなる。そのため、コイルに電流が流されたときに、そのコイルが巻回されたステータ突極およびリング部を通る磁束量は、ステータ突極の端面における溝との対向面積が増えるにつれて減少する。
【0015】
よって、ロータが相対的に低回転速度で回転しているときには、リング部の回転位置を各凸部がステータ突極に対して回転径方向に並んで対向する位置とする。一方、ロータが相対的に高回転速度で回転しているときは、リング部の回転位置を各凸部がステータ突極に対して回転径方向に並んで対向する位置からずれる位置とする。これにより、ロータの高速回転時に、コイルに発生する誘起電圧を抑制することができる。その結果、高トルクおよび高出力を得ることができる。
【0016】
リング部の回転位置は、ロータの回転速度が所定の閾値以下であるかその閾値より大きいかによって段階的に変えられてもよい。また、リング部の回転位置は、ロータの回転速度の上昇に伴って、各凸部がステータ突極に対して回転径方向に並んで対向する位置から徐々に(連続的に)変えられてもよい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、ロータの回転速度に応じて、ステータ突極を通る磁束量を調節することができる。その結果、ロータの高速回転時にも高トルクおよび高出力を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】図1は、本発明の一実施形態に係るスイッチドリラクタンスモータの模式的な断面図であり、各凸部がステータ突極と回転径方向に並んで対向した状態を示す。
【図2】図2は、図1に示されるスイッチドリラクタンスモータの模式的な断面図であり、各凸部がステータ突極と回転径方向に並んで対向する位置からずれた状態を示す。
【図3】図3は、ロータの回転速度とトルクとの関係を示すグラフである。
【図4】図4は、ロータの回転速度と出力との関係を示すグラフである。
【図5】図5は、本発明の他の実施形態に係るスイッチドリラクタンスモータの模式的な断面図である。
【図6】図6は、従来のスイッチドリラクタンスモータの模式的な断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下では、本発明の実施の形態について、添付図面を参照しつつ詳細に説明する。
【0020】
図1,2は、本発明の一実施形態に係るスイッチドリラクタンスモータの模式的な断面図である。なお、図1,2では、図面が煩雑になることを回避するため、一部に対するハッチングの付与が省略されている。
【0021】
スイッチドリラクタンスモータ1は、回転軸2、ロータ3およびステータ4を備えている。
【0022】
ロータ3は、回転軸2と一体的に回転可能に設けられている。ロータ3は、円柱状のロータ本体5と、ロータ本体5の周面6から回転径方向に突出する8個のロータ突極7とを有している。
【0023】
ロータ本体5には、その中心軸線上に、断面円形状の軸挿通孔8が貫通して形成されている。軸挿通孔8には、回転軸2が相対回転不能に挿通されている。
【0024】
8個のロータ突極7は、ロータ本体5の周面6上に、回転軸線を中心に等角度間隔、つまり45°間隔で設けられている。各ロータ突極7は、回転軸線方向に延びる略直方体形状に形成されている。
【0025】
ステータ4は、円筒状のリング部9と、リング部9の内周面10に沿って配置された12個のステータ突極11と、各ステータ突極11に集中巻されたコイル12とを備えている。
【0026】
リング部9は、その中心軸線がロータ3の中心軸線(回転軸線)と一致するように配置されている。
【0027】
リング部9の内周面10には、12個の断面矩形状の溝13が形成されている。溝13は、リング部9の中心軸線を中心とする等角度間隔、つまり30°間隔で形成され、中心軸線に沿う方向に延びている。これにより、リング部9の内周面10には、ステータ突極11と同数の溝13からなる凹部と各溝13の間の凸部14とが周方向に交互に形成されている。凸部14の回転周方向の幅は、ステータ突極11の回転周方向の幅よりも少し大きい。
【0028】
12個のステータ突極11は、リング部9の内周面10に沿って、リング部9の中心軸線を中心とする等角度間隔、つまり30°間隔で配置されている。各ステータ突極11は、スイッチドリラクタンスモータ1のハウジング(図示せず)に対して固定的に配置されている。また、各ステータ突極11は、リング部9の内周面10から微小な間隔を空けて離れている。これにより、リング部9の内周面10と各ステータ突極11における内周面10と対向する端面15との間には、エアギャップGが生じている。
【0029】
そして、リング部9は、各凸部14がステータ突極11と回転径方向に並んで対向する位置(図1に示される位置)と、その位置からリング部9の中心軸線を中心に一方側に所定角度(たとえば、約10°)回動した位置(図2に示される位置)とに往復変位可能に設けられている。
【0030】
図1に示されるように、各凸部14がステータ突極11に対して回転径方向に並んで対向する状態では、リング部9の内周面10と各ステータ突極11の端面との間のエアギャップGが最小となる。そのため、この状態では、コイル12に電流が流されたときに、そのコイル12が巻回されたステータ突極11およびリング部9を通る磁束量が最大となる。
【0031】
そして、リング部9の回動により、図2に示されるように、各凸部14がステータ突極11に対して回転径方向に並んで対向する位置からずれると、ステータ突極11の端面における溝13との対向面積が増え、その溝13と対向する部分において、リング部99の内周面10と各ステータ突極11の端面との間のエアギャップGが大きくなる。そのため、コイル12に電流が流されたときに、そのコイル12が巻回されたステータ突極11およびリング部9を通る磁束量は、ステータ突極11の端面における溝13との対向面積が増えるにつれて減少する。
【0032】
ロータ3の回転速度が所定の閾値Rth以下であるときには、リング部9は、各凸部14がステータ突極11と回転径方向に並んで対向する位置(図1に示される位置)に配置される。
【0033】
一方、ロータ3の回転速度が閾値Rthよりも大きいときには、リング部9は、各凸部14がステータ突極11に対して回転径方向に並んで対向する位置からずれる位置(図2に示される位置)に配置される。これにより、コイル12に発生する誘起電圧を抑制することができる。その結果、図3に示されるように、ロータ3が閾値Rthよりも大きい回転速度で回転しているときに、従来のスイッチドリラクタンスモータと比べて、高トルクを得ることができる。また、図4に示されるように、ロータ3が閾値Rthよりも大きい回転速度で回転しているときに、従来のスイッチドリラクタンスモータと比べて、高出力を得ることができる。
【0034】
なお、リング部9を変位させるための機構については、種々の構成が考えられる。たとえば、リング部9の外周面または端面にソレノイドのアクチュエータが接続されて、アクチュエータの進退により、リング部9が図1に示される位置と図2に示される位置とに往復変位されてもよい。
【0035】
図5は、本発明の他の実施形態に係るスイッチドリラクタンスモータの模式的な断面図である。なお、図5では、図面が煩雑になることを回避するため、一部に対するハッチングの付与が省略されている。
【0036】
スイッチドリラクタンスモータ51は、いわゆるアウタロータ型のスイッチドリラクタンスモータである。スイッチドリラクタンスモータ51は、ロータ52およびステータ53を備えている。
【0037】
ロータ52は、全体として円筒状をなし、その中心軸線を中心に回転可能に設けられている。ロータ52の内周面54には、8個のロータ突極55がロータ52の中心軸線を中心とする等角度間隔、つまり45°間隔で設けられている。各ロータ突極55は、回転軸線方向に延びる略直方体形状に形成されている。
【0038】
ステータ53は、円筒状のリング部56と、リング部56の外周面57に沿って配置された12個のステータ突極58と、各ステータ突極58に集中巻されたコイル59とを備えている。
【0039】
リング部56は、その中心軸線がロータ53の中心軸線(回転軸線)と一致するように配置されている。
【0040】
リング部56の外周面57には、12個の断面矩形状の溝60が形成されている。溝60は、リング部56の中心軸線を中心とする等角度間隔、つまり30°間隔で形成され、中心軸線に沿う方向に延びている。これにより、リング部56の外周面57には、ステータ突極58と同数の溝60からなる凹部と各溝60の間の凸部61とが周方向に交互に形成されている。凸部61の回転周方向の幅は、ステータ突極58の回転周方向の幅とほぼ同じである。
【0041】
12個のステータ突極58は、リング部56の外周面57に沿って、リング部56の中心軸線を中心とする等角度間隔、つまり30°間隔で配置されている。各ステータ突極58は、スイッチドリラクタンスモータ1のハウジング(図示せず)に対して固定的に配置されている。また、各ステータ突極58は、リング部56の外周面57から微小な間隔を空けて離れている。これにより、各ステータ突極58における外周面57と対向する端面とリング部56の外周面57との間には、エアギャップGが生じている。
【0042】
そして、リング部56は、各凸部61がステータ突極58と回転径方向に並んで対向する位置(図5に示される位置)と、その位置からリング部56の中心軸線を中心に一方側に所定角度(たとえば、約10°)回動した位置とに往復変位可能に設けられている。
【0043】
このスイッチドリラクタンスモータ51においても、図1に示されるスイッチドリラクタンスモータ1と同様の作用効果を奏することができる。
【0044】
以上、本発明の2つの実施形態について説明したが、本発明は、さらに他の形態で実施することもできる。
【0045】
たとえば、リング部9,56の回転位置は、ロータ3,52の回転速度の上昇に伴って、各凸部14,61がステータ突極11,58に対して回転径方向に並んで対向する位置から徐々に(連続的に)変えられてもよい。
【0046】
その他、特許請求の範囲に記載された事項の範囲で種々の設計変更を施すことが可能である。
【符号の説明】
【0047】
1 スイッチドリラクタンスモータ
3 ロータ
4 ステータ
6 周面(第1円筒面)
7 ロータ突極
9 リング部
10 内周面(第2円筒面)
11 ステータ突極
13 溝
51 スイッチドリラクタンスモータ
52 ロータ
53 ステータ
54 内周面(第1円筒面)
55 ロータ突極
56 リング部
57 外周面(第2円筒面)
58 ステータ突極
60 溝
G エアギャップ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転可能に設けられ、第1円筒面に回転軸線を中心とする等角度間隔で突設された複数のロータ突極を有するロータと、第1円筒面と対向する第2円筒面に沿って前記回転軸線を中心とする等角度間隔で配置された複数のステータ突極および各ステータ突極に巻回されたコイルを有するステータとを含むスイッチドリラクタンスモータであって、
前記ステータは、前記第2円筒面を有し、前記回転軸線を中心に往復回動可能に設けられたリング部を備え、
前記第2円筒面と各ステータ突極における前記第2円筒面と対向する端面との間には、エアギャップが形成されており、
前記第2円筒面には、前記回転軸線を中心とする等角度間隔で、前記リング部の回動によって前記エアギャップを可変とするための前記ステータ突極と同数の溝が形成されている、スイッチドリラクタンスモータ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−116014(P2013−116014A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−262792(P2011−262792)
【出願日】平成23年11月30日(2011.11.30)
【出願人】(000002967)ダイハツ工業株式会社 (2,560)
【Fターム(参考)】