説明

スイッチング素子の駆動方法

【課題】並列接続されたスイッチング素子に均等に損失と発熱を分散させることができるスイッチング素子の駆動方法を提供すること。
【解決手段】スイッチング素子のスイッチング損失の異状増加をもたらす状態変化を検出するステップと、前記状態変化が検出されない場合に、前記各スイッチング素子の内の第1のスイッチング素子のオフタイミングと残る第2のスイッチング素子のオフタイミングとが一致するように前記第1、第2のスイッチング素子を駆動するステップと、前記状態変化が検出された場合に、前記第1のスイッチング素子と前記第2のスイッチング素子とを、それらの一方のオフタイミングが他方のオフタイミングよりも早くなるように駆動するステップとを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、並列接続された複数のスイッチング素子を所定周期で駆動する方法に関し、特に、特定のスイッチング素子に損失や発熱が集中することを回避するための駆動方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、特許文献1には、並列接続したスイッチング素子を備えるDC−DCコンバータが記載されている。図8に、この種のDC−DCコンバータの基本構成を示す。
このDC−DCコンバータにおいて、並列接続されたMOSFETからなるスイッチング素子100−1,100−2は、図9(a)、(b)に示す駆動信号によって同一のタイミングで同時にオンされ、これにより、直流電圧源101の正極→インダクタ102→スイッチング素子100−1,100−2→直流電圧源101の負極という電流ループが形成される。このときダイオード103はオフしている。
【0003】
つぎに、スイッチング素子100−1,100−2がオフされると、昇圧用のインダクタ102の両端に生じる逆起電力によってダイオード103のアノードに直流電圧源101の出力電圧よりも高い電圧が加えられる。このとき、ダイオード103はオンするので、直流電圧源101の正極→インダクタ102→ダイオード103→キャパシタ104→直流電圧源101の負極という電流ループと、直流電圧源101の正極→インダクタ102→ダイオード103→負荷105→直流電圧源101の負極という電流ループが形成される。
【0004】
以上のような動作が繰り返されてキャパシタ104への充電が進行すると、スイッチング素子100−1,100−2がオフしている期間に、このキャパシタ104に充電された電気エネルギーが負荷105に供給されることになる。
【0005】
ところで、インダクタ102とダイオード103の接続点とスイッチング素子100−1,100−2との間には、配線インダクタ106,107および108が介在している。スイッチング素子100−1,100−2がオンしている時には、この配線インダクタ106,107および108に電気エネルギーが蓄積される。したがって、スイッチング素子100−1,100−2がオフした際には、上記蓄積エネルギーによってスイッチング素子100−1,100−2のドレイン・ソース間電圧がそれぞれ上昇することになる。
【0006】
図9(c)、(d)に、スイッチング素子100−1,100−2のドレイン・ソース間電圧を示す。このドレイン・ソース間電圧の立ち上がり時点に生じている突出部分は、上記蓄積エネルギーの基づく同電圧の上昇を示している。
【0007】
以上の電圧上昇現象を考慮した場合、スイッチング素子100−1,100−2には、十分な耐圧を有するものを使用することが望ましい。しかし、周知のように、スイッチング素子100−1,100−2は、耐圧が高いほど導通損失やスイッチング損失が増加するという傾向を示す。そこで、上記スイッチング素子100−1,100−2としては、DC−DCコンバータの効率を考慮して、該コンバータの定常動作時(回路中に過電圧や過電流を生じない動作時)において発生する最大のドレイン・ソース間電圧を若干超える耐圧を有するものが使用される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特表2003−514495公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記のようなスイッチング素子100−1,100−2のドレイン・ソース間電圧は、コンバータの定常動作時において、該スイッチング素子100−1,100−2の耐圧付近まで上昇することになる。
【0010】
ここで、例えば、コンバータに過電流が流れるなどの異常動作が発生して、スイッチング素子100−1,100−2に定常時よりも大きなオン電流が流れた場合を考えると、この場合、配線インダクタ106,107および108に蓄積されるエネルギーが増加(電流の2乗に比例して増加)するため、スイッチング素子100−1,100−2のドレイン・ソース間電圧が耐圧を超えてしまうことになる。
【0011】
図10(a)、(b)は、それぞれ図9(c)、(d)における鎖線で挟まれた部分の電圧波形を拡大したものである。この拡大図に示すように、スイッチング素子100−1,100−2がオフすると、前記配線インダクタ106、107および108の蓄積エネルギーによって、これらのスイッチング素子100−1,100−2のドレイン・ソース間電圧が上昇する。そして、スイッチング素子100−1,100−2がオフする前に、該素子100−1,100−2に過電流が流れていた場合には、オフ動作に伴ってそのドレイン・ソース間電圧が耐圧を超えることになるので、このアバランシェ電圧でクランプされることになる。
【0012】
アバランシェ電圧でクランプされたスイッチング素子(図10の例では、素子100−2)は、この高いクランプ電圧を保ちながら電流が流れるので、損失も大幅に増加する。
ところで、個々のスイッチング素子100−1,100−2は、耐圧や型式が同一であっても、アバランシェ電圧にバラツキがあるので、アバランシェ電圧の低い側のスイッチング素子で大きな損失が発生することになる。この結果、スイッチングの繰り返しにより特定のスイッチング素子に損失や発熱が集中して、その素子の破損を招く。
【0013】
一方、配線インダクタ107、108のインダクタンスが大きく異なる場合においても、同様に、大きな配線インダクタンスが直列に接続されている特定のスイッチング素子に損失や発熱が集中する。すなわち、例えば、配線インダクタ107よりも配線インダクタ108のインダクタンスの方が大きい場合、インダクタ108に蓄えられているエネルギーの方が大きいので、スイッチング素子100−1,100−2がオフした時に、前者のドレイン・ソース間電圧よりも後者のそれが高くなる。この結果、スイッチング素子100−2の損失が増加し、発熱も集中することになる。
【0014】
本発明は、このような状況に鑑み、並列接続されたスイッチング素子が介在する線路に過電流が流れるなどの状態が発生した場合でも、個々のスイッチング素子に均等に損失と発熱を分散させることができるスイッチング素子の駆動方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、並列接続された複数のスイッチング素子をタイミング信号に同期してオンオフ制御する方法であって、前記スイッチング素子のスイッチング損失の異状増加をもたらす状態変化を検出するステップと、前記状態変化が検出されない場合に、前記各スイッチング素子の内の第1のスイッチング素子のオフタイミングと残る第2のスイッチング素子のオフタイミングとが一致するように前記第1、第2のスイッチング素子を駆動するステップと、前記状態変化が検出された場合に、前記第1のスイッチング素子と前記第2のスイッチング素子とを、それらの一方のオフタイミングが他方のオフタイミングよりも早くなるように駆動するステップと、を含む方法を提供する。
【0016】
前記一方のオフタイミングは、前記各スイッチング素子の内の損失が大きくなるスイッチング素子についてのオフタイミングである。
前記状態変化は、例えば、前記スイッチング素子が接続された回路の入力部、出力部および内部のいずれかにおける過大電流または過大電圧である。
【0017】
前記スイッチング素子は、例えば、DC−DCコンバータのスイッチング手段に使用される。
前記スイッチング素子には、例えば、MOSFETが使用される。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、並列接続されたスイッチング素子が介在する線路に過電流が流れるなどの状態が発生した場合でも、個々のスイッチング素子により均等に損失と発熱を分散させて、該スイッチング素子の劣化や破壊を防止することが可能である。したがって、並列接続されたスイッチング素子が使用されるDC−DCコンバータ等の機器の信頼性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明が適用された昇圧型DC−DCコンバータの一例を示す回路図である。
【図2】制御回路の構成の一例を示すブロック図である。
【図3】第1の実施形態に係るオフタイミングの変更処理を示すタイムチャートである。
【図4】駆動信号とスイッチング素子のドレイン・ソース間電圧との関係を示すタイムチャートである。
【図5】スイッチング素子のドレイン・ソース間電圧の一変化態様を拡大して示す波形図である。
【図6】スイッチング素子のドレイン・ソース間電圧の他の変化態様を拡大して示す波形図である。
【図7】第2の実施形態に係るオフタイミングの変更処理を示すタイムチャートである。
【図8】並列接続したスイッチング素子を備えるDC−DCコンバータの基本構成を示す回路図である。
【図9】従来例における駆動信号とスイッチング素子のドレイン・ソース間電圧との関係を示すタイムチャートである。
【図10】従来例におけるスイッチング素子のドレイン・ソース間電圧の変化態様を拡大して示す波形図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について詳細に説明する。
図1は、本発明が適用された昇圧型DC−DCコンバータの一例を示す。このDC−DCコンバータにおいて、入力端子T1と出力端子T2との間には、直列接続された昇圧用インダクタ1とダイオード2が介装され、また、入力端子T3と出力端子T4との間には、電流検出抵抗3が介装されている。
【0021】
インダクタ1とダイオード2とを結ぶラインと、電流検出抵抗3と出力端子T4とを結ぶライン(接地ライン)との間には、並列接続されたスイッチング素子5−1,5−2(本実施形態では、MOSFETが使用されている)が介装されている。また、ダイオード2と出力端子T2とを結ぶラインと接地ラインとの間には、直列接続された分圧抵抗6、7が介装されるとともに、キャパシタ8が介装されている。
【0022】
なお、符号12、13および14は、図8に示す配線インダクタ106、107および109に対応する配線インダクタである。
ここで、このDC−DCコンバータの基本的な動作について簡単に説明する。
【0023】
入力端子T1およびT3には、直流電圧源10の正極および負極が接続され、また、出力端子T2およびT4間には、負荷機器11が介在されている。そこで、スイッチング素子5−1,5−2がオンすると、直流電圧源10の正極→インダクタ1→スイッチング素子5−1,5−2→電流検出抵抗3→直流電圧源10の負極というループで電流が流れる。このときダイオード2はオフしている。
【0024】
次に、スイッチング素子5−1,5−2がオフすると、インダクタ1の両端に生じる逆起電力によってダイオード2のアノードに直流電圧源10の出力電圧よりも高い電圧が加えられる。このとき、ダイオード2はオンするので、直流電圧源10の正極→インダクタ1→キャパシタ8→電流検出抵抗3→直流電圧源10の負極というループで電流が流れる一方、直流電圧源10の正極→インダクタ1→負荷機器11→電流検出抵抗3→直流電圧源10の負極というループでも電流が流れる。
【0025】
以上のような動作が繰り返されてキャパシタ8への充電が進行すると、スイッチング素子5−1,5−2が共にオフする期間において、このキャパシタ8に充電された電気エネルギーが負荷機器11に供給されることになる。
【0026】
図2は、スイッチング素子5−1,5−2をオンオフ制御する制御回路9の構成例を示す。
この制御回路9は、制御すべき状態量(DC−DCコンバータの出力電圧、入力電圧、出力電流、負荷機器11の消費電力等)に対する指令値Vrefと実際の状態量Vfbとの偏差を演算する減算器91、この偏差にPID等の補償処理を施して、該偏差に対応する制御量Vcを演算する制御量演算部92、この制御量演算部92の出力に接続されたスイッチユニット93、このスイッチユニット93の出力に接続されたパルス幅変調部94−1,94−2、このパルス幅変調部94−1,94−2にキャリア信号を供給するキャリア信号発生部95、タイミング信号発生部96、スイッチ切換制御部97および比較部98を備えている。
【0027】
なお、上記制御すべき状態量がDC−DCコンバータの出力電圧である場合には、実際の状態量Vfbとして上記分圧抵抗6、7による分圧電圧Vdを使用することができる。
スイッチユニット93は、切換スイッチ素子931−1,931−2と、減算器932−1,932−1と、オフタイミング調整量設定部933とを有している。
【0028】
切換スイッチ素子931−1は、a端子に制御量演算部92からの制御量Vcが入力され、b端子に減算器932−1の減算結果、つまり、制御量Vcからオフタイミング調整
量設定部933の出力であるオフタイミング調整量Vrを減じた調整済制御量Vc−Vrが入力される。同様に、切換スイッチ素子931−2は、a端子に制御量Vcが入力され、b端に減算器932−2の減算結果である調整済制御量Vc−Vrが入力される。
【0029】
したがって、切換スイッチ素子931−1,931−2のc端子からは、制御量Vcと調整済制御量Vc−Vrとが選択的に出力される。そして、切換スイッチ素子931−1の出力はパルス幅変調量V1としてパルス幅変調部94−1に、また、切換スイッチ素子931−2の出力は、パルス幅変調量V2としてパルス幅変調部94−2にそれぞれ与えられる。
【0030】
キャリア信号発生部96は、タイミング信号発生部95から与えられるタイミング信号(図3(a)参照)に基づき、このタイミング信号に同期したのこぎり波形のキャリア信号(図3(b)参照)を発生し、このキャリア信号をパルス幅変調部94−1、94−2に供給する。
【0031】
スイッチ切換制御部97は、タイミング信号発生部96から出力されるタイミング信号と比較部98の出力信号とに基づいて切換スイッチ素子931−1,931−2を制御するものである。
【0032】
比較部98には、上記電流検出抵抗3によって電圧として検出される直流電圧源10への流入電流Id、上記分圧抵抗6、7によって分圧された電圧Vdおよび上記負荷機器11における制御量Veが入力される。
【0033】
上記電流Idは、スイッチング素子5−1,5−2がオンした時の電流に対応するので
、上記電流Id に基づいてスイッチング素子5−1,5−2に流れる電流も検出可能である。上記分圧電圧Vdは、DC−DCコンバータの出力電圧に対応し、かつ、スイッチング素子5−1,5−2がオフした時における該素子5−1,5−2のドレイン・ソース間電圧に対応する。
【0034】
上記負荷機器11の制御量Veは、該負荷機器11の消費電力に対応する。すなわち、負荷機器11で消費される電力は、DC−DCコンバータの出力電力と等価である。そして、負荷機器11が電子制御された機器などの場合、上記消費電力は制御量Veに依存することになる。それ故、制御量Veは、DC−DCコンバータから出力すべき電力の情報(負荷機器11の要求電力を示す情報)になる。そして、DC−DCコンバータの出力電力は、該コンバータの内部に流れる電流の大きさに依存するので、制御量Veによって負荷機器11において消費される電力に対応したコンバータの内部電流を推定することができる。
【0035】
したがって、例えば、負荷機器11が短期間だけ大きな電力を必要とする場合、上記制御量Veは該負荷機器11の消費電力が増加するタイミングでその大きな電力に対応する
大きさを示すことになる。
【0036】
比較部98は、上記電流Id、電圧Vdおよび制御量Veをそれらに対してそれぞれ設定
された基準値と比較する。そして、電流Id、電圧Vdおよび制御量Veの少なくとも1つが対応する基準値を超えた場合に、異状信号を出力する。この異状信号は、スイッチング素子5−1,5−2のドレイン・ソース間電圧が所定の耐圧を超える虞があることを示すものである。
【0037】
スイッチ切換制御部97は、比較部98が上記異状信号を出力しない定常モード時において、切換スイッチ素子931−1,931−2をそれぞれ端子a側に接続させる。この場合、パルス幅変調部94−1に与えられるパルス幅変調量V1およびパルス幅変調部94−2に与えられるパルス幅変調量V2は、それぞれVcとなる。
【0038】
一方、スイッチ切換制御部97は、比較部98が上記異状信号を出力する非定常モード時において、上記タイミング信号に同期して切換スイッチ素子931−1,931−2を切換作動させる。
【0039】
ただし、この場合、切換スイッチ素子931−1,931−2は、上記タイミング信号の各発生周期における接続形態が互いに逆になるように切換作動される。すなわち、上記タイミング信号のある周期(図3のTi参照)においては、切換スイッチ素子931−1および931−2がそれぞれ端子bおよびa側に接続され、その次の周期(図3のTi+1参照)においては、該スイッチ素子931−1および931−2がそれぞれ端子aおよびb側に接続される。
【0040】
したがって、図3(b)に示すように、周期Tiにおいては、パルス幅変調量V1(実線参照)がVc−Vrに設定されるとともに、パルス幅変調量V2(点線参照)がVcに設定される。そして、次の周期Ti+1においては、上記とは逆に、パルス幅変調量V1がVcに設定されるとともに、パルス幅変調量V2がVc−Vrに設定されることになる。
【0041】
パルス幅変調部94−1は、上記パルス幅変調量V1と上記キャリア信号とに基づき、該パルス幅変調量V1に対応するパルス幅を有したスイッチ素子駆動信号S1を形成し、同様に、パルス幅変調部94−2は、上記パルス幅変調量V2と上記キャリア信号とに基
づき、該パルス幅変調量V2に対応するパルス幅を有したスイッチ素子駆動信号S2を形成する。
【0042】
この結果、前記した定常モード時には、上記タイミング信号の各周期において、図3(c)に示すパルス幅WAのパルス信号が駆動信号S1およびS2としてパルス幅変調部94−1および94−2からそれぞれ出力される。
【0043】
また、前記した非定常モード時には、図3(d)に示す信号が駆動信号S1としてパルス幅変調部94−1から出力されるとともに、図3(e)に示す信号が駆動信号S2としてパルス幅変調部94−2から出力される。
【0044】
すなわち、パルス幅変調部94−1からは、周期Tiでのパルス幅がWBで周期Ti−1、Ti+1でのパルス幅がWAである駆動信号S1が出力され、また、パルス幅変調部94−2からは、周期Tiでのパルス幅がWAで周期Ti−1、Ti+1でのパルス幅がWBである駆動信号S1が出力される。
【0045】
図示のように、周期Tiでは信号S1がパルス幅差ΔW(=WA−WB)だけ信号S2よりも早く立下り、周期Ti+1(Ti−1)では信号S2がパルス幅差ΔWだけ信号S1よりも早く立下ることになる。なお、パルス幅差ΔWは、図2に示すオフタイミング調整量設定部933で設定される調整量Vrに依存する。
【0046】
以下、スイッチング素子5−1,5−2のスイッチング動作について説明する。
図1に示すスイッチング素子5−1および5−2は、上記駆動信号S1およびS2でそれぞれ駆動される。
【0047】
したがって、比較部98から異状信号が出力されない前記定常モード時、つまり、スイッチング素子5−1,5−2のドレイン・ソース間電圧が耐圧を超える虞のない時には、このスイッチング素子5−1および5−2が図3(c)に示す同一波形の駆動信号S1およびS2によって同じタイミングで駆動される。
【0048】
一方、前記非定常モード時、つまり、比較部98から異状信号が出力された時には、図4(a)に示す駆動信号S1によってスイッチング素子5−1が、また、図4(b)に示す駆動信号S2によってスイッチング素子5−2がそれぞれ駆動され、その結果、このスイッチング素子5−1,5−2のドレイン・ソース間電圧がそれぞれ図4(c)、(d)のように変化する。
【0049】
図5および図6は、それぞれ図4の拡大対象部分1および2を拡大して示したものである。図5に示すように、駆動信号S1よりも駆動信号S2が早く下がる場合には、スイッチング素子5−2のオフ後、一定期間(駆動信号S1が立ち下がるまでの期間)スイッチング素子5−1がオンした状態を継続するので、この期間においても、電流が配線インダクタ12→配線インダクタ13→スイッチング素子5−1の経路で流れ続ける。
【0050】
したがって、スイッチング素子5−2のドレイン・ソース間電圧は、インダクタ14に蓄えられたエネルギーのみによって上昇するが、このスイッチング素子5−2に並列接続されたスイッチング素子5−1がオン状態あることから、零まで低下することになる(実際には、配線インダクタ13とスイッチング素子5−1の電圧降下分がスイッチング素子5−2に印加されるが、ほぼ零である)。
【0051】
次に、スイッチング素子5−1がオフすると、配線インダクタ12、13に蓄積されたエネルギー(定常モード時よりも大きい)によって該スイッチング素子5−1のドレイン・ソース間電圧が過渡的に大きく上昇し、その結果、アバランシェ電圧でクランプされる。
【0052】
この時、スイッチング素子5−2のドレイン・ソース間電圧も上昇するが、このスイッチング素子5−2は配線インダクタ13、14を介してスイッチング素子5−1と接続されているので、この配線インダクタ13、14のインピーダンスの影響により、スイッチング素子5−1のドレイン・ソース間電圧のように過渡的に高電圧になることはない。
【0053】
つまり、駆動信号S1よりも駆動信号S2が早く下がる場合には、スイッチング素子5−1のドレイン・ソース間電圧がアバランシェ電圧まで到達し、したがって、このスイッチング素子5−1において大きな損失が発生することになる。
【0054】
一方、図6に示すように、駆動信号S2よりも駆動信号S1が早く下がる場合には、上記とは逆に、スイッチング素子5−2のドレイン・ソース間電圧がアバランシェ電圧まで到達するので、このスイッチング素子5−2において大きな損失が発生する。
【0055】
この結果、非定常モード時には、スイッチング素子5−1において大きな損失が発生する状態と、スイッチング素子5−2において大きな損失が発生する状態とが前記タイミング信号の周期ごとに交互に実現されることになる。これは、スイッチング素子5−1,5−2に損失を分散させることを意味し、これによって、スイッチング素子5−1,5−2の熱集中を回避して、DC−DCコンバータの信頼性を向上することができる。
【0056】
ところで、以上のようなスイッチング制御を実行した場合、スイッチング素子5−1,5−2の内のいずれかのスイッチング素子のオン時間が前記制御量Vcで規定される時間よりも前記オフタイミング調整量Vrで規定される微小時間だけ短くなるが、そのスイッチング素子に並列接続されたスイッチング素子が制御量Vcで規定される時間オンされることから、片側のスイッチング素子のオン時間の短縮がDC−DCコンバータの回路動作に影響を与える虞はない。
【0057】
次に、図8を参照して本発明の他の実施形態について説明する。例えば、上記スイッチング素子5−1,5−2のアバランシェ電圧が相違している場合、アバランシェ電圧の低いスイッチング素子の損失がアバランシェ電圧の高いスイッチング素子の損失よりも大きくなる。また、図1に示す配線インダクタ13,14のインダクタンスが相違している場合、インダクタンスの大きい配線インダクタに接続されたスイッチング素子の損失がインダクタンスの小さい配線インダクタに接続されたスイッチング素子の損失よりも大きくなる。さらに、スイッチング素子5−1,5−2の定常動作時におけるドレイン・ソース間電圧の上昇値が相違している場合、上昇値の大きいスイッチング素子の損失が上昇値の小さいスイッチング素子の損失よりも大きくなる。
【0058】
本実施形態では、上記のような理由で損失が大きくなるスイッチング素子に対する駆動信号のオフタイミングを早めている。すなわち、損失が大きくなるスイッチング素子がスイッチング素子5−2であるとすると、図7(a)、(b)に示すように、このスイッチング素子5−2の駆動信号のオフタイミングをスイッチング素子5−1の駆動信号のオフタイミングよりも早めている。
【0059】
本実施形態によれば、図7(a)、(b)および図5の拡大図に示すように、スイッチング素子5−2のドレイン・ソース間電圧が低く抑えられると共に、スイッチング素子5−1のドレイン・ソース間電圧が上昇することになる。
【0060】
このとき、スイッチング素子5−1のアバランシェ電圧がスイッチング素子5−2のよりも高いこと、あるいは、スイッチング素子5−1に直列接続されている配線インダクタ13のインダクタンスがスイッチング素子5−2に直列接続されている配線インダクタ13のインダクタンスよりも小さいこと、あるいは、スイッチング素子5−1のドレイン・ソース間電圧の上昇値がスイッチング素子5−2のドレイン・ソース間電圧の上昇値よりも小さいことから、スイッチング素子5−1がアバランシェ電圧でクランプされる期間は短く、したがって、スイッチング素子5−1での損失はスイッチング素子5−2が同様な条件でオフした場合と比較して小さくなる。
【0061】
この結果、損失はスイッチング素子5−1に集中するものの、スイッチング素子5−1、5−2における総合的な損失が小さくなり、これは、DC−DCコンバータの信頼性の向上に寄与する。
【0062】
なお、本実施形態に係るスイッチング制御を行う場合は、図2のスイッチユニット93における切換スイッチ素子931−1と減算器932−1もしくは切換スイッチ素子931−2と減算器932−2のいずれかが不要になる。すなわち、例えば、上記のように損失が大きくなるスイッチング素子がスイッチング素子5−2である場合には、切換スイッチ素子931−1と減算器932−1が不要になる。ただし、この場合、制御量演算部92の出力がパルス幅変調部94−1の入力に直結される。
【0063】
本発明は、上記実施形態に限定されず、以下のような種々の変形態様を含むものである。
(a)並列接続するスイッチング素子はMOSFETに限定されず、駆動信号によってオフさせることができる、いわゆる自己消弧形のスイッチング素子(例えば、IGBTやGTOなど)であれば適用可能である。
(b)スイッチング素子の並列数は2に制限されない。
(c)前述の実施形態では、DC−DCコンバータの回路に本発明が適用されているが、並列接続したスイッチング素子を備える他の種々の回路に適用可能である。
(d)前述の実施形態では、非定常動作時のみにオフタイミングを変更するようにしているが、常時、図4または図7に示すオフタイミング変更制御を実行してもよい。この場合、比較部98は不要になる。
【0064】
ただし、スイッチング損失を低減するためには、非定常動作時のみにオフタイミングを変更する制御を実行することが望ましい。すなわち、定常動作時には、並列接続された複数のスイッチング素子が同時にオフされることになるので、単位スイッチング素子あたりの遮断電流が減少して(並列数分の1)、スイッチング損失が低減される(一般的にスイッチング損失は、遮断電流に比例する訳ではなく、遮断電流の増加率以上に増加する。例えば、遮断電流値が倍になるとスイッチング損失が約3倍になるように上昇する)。それゆえ、スイッチング素子のドレイン・ソース間電圧がアバランシェ電圧に達するような非定常動作時のみにオフタイミングを変更することは、スイッチング損失の低減を図る上で有効である。
(e)前記電流検出抵抗3等の電流検出手段の配置箇所は、図示した場所に限定されない。すなわち、電流検出手段は、例えば、スイッチング素子5−1,5−2に直列に接続してもよく、また、共通接続されたスイッチング素子5−1,5−2のソースと接地ラインとの間、あるいはDC−DCコンバータの出力側に接続してもよい。さらに、電流検出手段をインダクタ1やダイオード2に直列に接続するようにしてもよく、この場合、電流検出手段として電気的に絶縁された電流検出器(例えば、カレントトランスなど)を使用することが望ましい。
(f)前述の第1の実施形態では、スイッチング素子5−1,5−2のオフタイミングを交互に早める処理を実行し、また、第2の実施形態では、スイッチング素子5−1,5−2の内の特定の素子のオフタイミングを早める処理を実行している。しかし、上記オフタイミングを早める処理に代えて、このオフタイミングを遅らせるようにしても、スイッチング素子5−1,5−2に損失を分散させるという前述の効果を得ることができる。
【0065】
この場合、スイッチング素子の導通比が増すことになる。しかし、この導通比は、前記制御量Vcで規定されるオン時間を短く設定することによって調整することが可能である。
【符号の説明】
【0066】
1 昇圧用インダクタ
2 ダイオード
3 電流検出抵抗
5−1,5−2 スイッチング素子
6,7 分圧抵抗
8 キャパシタ
9 制御回路
10 直流電圧源
11 負荷機器
12,13,14 配線インダクタ
92 制御量演算部
93 スイッチユニット
931−1,931−2 切換スイッチ素子
932−1,932−1 減算器
933 オフタイミング調整量設定部
94−1,94−2 パルス幅変調部
95 キャリア信号発生部
96 タイミング信号発生部
97 スイッチ切換制御部
98 比較部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
並列接続された複数のスイッチング素子をタイミング信号に同期してオンオフ制御する方法であって、
前記スイッチング素子のスイッチング損失の異状増加をもたらす状態変化を検出するステップと、
前記状態変化が検出されない場合に、前記各スイッチング素子の内の第1のスイッチング素子のオフタイミングと残る第2のスイッチング素子のオフタイミングとが一致するように前記第1、第2のスイッチング素子を駆動するステップと、
前記状態変化が検出された場合に、前記第1のスイッチング素子と前記第2のスイッチング素子とを、それらの一方のオフタイミングが他方のオフタイミングよりも早くなるように駆動するステップと、
を含むことを特徴とするスイッチング素子の駆動方法。
【請求項2】
前記一方のオフタイミングは、前記各スイッチング素子の内の損失が大きくなるスイッチング素子についてのオフタイミングであることを特徴とする請求項1に記載のスイッチング素子の駆動方法。
【請求項3】
前記状態変化は、前記スイッチング素子が接続された回路の入力部、出力部および内部のいずれかにおける過大電流であることを特徴とする請求項2に記載のスイッチング素子の駆動方法。
【請求項4】
前記状態変化は、前記スイッチング素子が接続された回路の入力部、出力部および内部のいずれかにおける過大電圧であることを特徴とする請求項2に記載のスイッチング素子の駆動方法。
【請求項5】
前記スイッチング素子がDC−DCコンバータのスイッチング手段に使用されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のスイッチング素子の駆動方法。
【請求項6】
前記スイッチング素子がMOSFETであることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のスイッチング素子の駆動方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−13324(P2013−13324A)
【公開日】平成25年1月17日(2013.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−230838(P2012−230838)
【出願日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【分割の表示】特願2008−162354(P2008−162354)の分割
【原出願日】平成20年6月20日(2008.6.20)
【出願人】(000005234)富士電機株式会社 (3,146)
【Fターム(参考)】