スイッチング電源回路及び記録装置
【課題】簡単な構成で、商用電源からの入力電圧に依存することなく、過電力や過電流保護動作点をほぼ一様に制御可能なスイッチング電源とこれを用いた記録装置を提供することである。
【解決手段】電圧の異なる交流の商用電源を入力して整流し、1次側に整流された交流電圧を入力して直流電圧に変換し、2次側から直流電圧を出力するトランスを備えたスイッチング電源回路において、次の構成を備える。トランスの1次側に直列に接続され、1次側への交流電圧の入力を制御するスイッチング素子と、そのスイッチング素子に直列に接続され、トランスの1次側の電圧を検出する検出回路とを備える。さらに、検出された電圧に従って利得が変化し、その利得に従って、検出された電圧を増幅し、その増幅出力された電圧に従って、スイッチング素子のオンオフを制御する。
【解決手段】電圧の異なる交流の商用電源を入力して整流し、1次側に整流された交流電圧を入力して直流電圧に変換し、2次側から直流電圧を出力するトランスを備えたスイッチング電源回路において、次の構成を備える。トランスの1次側に直列に接続され、1次側への交流電圧の入力を制御するスイッチング素子と、そのスイッチング素子に直列に接続され、トランスの1次側の電圧を検出する検出回路とを備える。さらに、検出された電圧に従って利得が変化し、その利得に従って、検出された電圧を増幅し、その増幅出力された電圧に従って、スイッチング素子のオンオフを制御する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はスイッチング電源回路及びその電源を用いた記録装置に関し、特に、過電力保護回路を備え、入力電圧の違いによる過電力保護動作点の差異を補正することが可能なスイッチング電源回路及びその電源を用いた記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
商用交流電源から安定した直流電圧を生成するためのスイッチング電源回路は、今日数多くの家電製品や事務機製品で使用されている。こうしたスイッチング電源回路は一般に、市販の制御ICを用いて設計されており、これらの多くは過電力保護機能あるいは過電流保護機能を内蔵している。しかしながら、こうした機能には技術的な妥協点が多い。例えば、入力電圧の違い、例えば、入力電圧がAC100Vの時とAC200V(欧州、豪州地域など一般にAC230V)の時とで、保護動作点に大きな差異が生じ、安全性に影響するといった欠点がある。
【0003】
一般には、入力電圧がAC200Vの時の保護動作点は、AC100Vの時のそれと比較して、過大となる傾向がある。その理由として、典型的には、(1)制御ICによる過電流検出時点から実際の保護動作に至る時間遅延、(2)連続伝導モードの場合の正確な電力シミュレーションの実現困難性などに起因する。以下、こうした理由に関し詳細に説明する。
【0004】
最初に、一般に消費電力が60〜80W程度のスイッチング電源回路の場合、コスト優位性の観点から、フライバック方式が採用されるケースが多い。
【0005】
図8はフライバック方式の電源回路の基本構成を示す図である。この構成では、トランジスタTr1がオン状態でトランスの1次側巻線に電力が蓄えられ、Tr1がオフとなるとトランスの2次側巻線に電流が流れる。そして、トランス内に蓄えられていたエネルギーが出力側(Vo)に放出される。このサイクルを繰り返すことにより安定した直流電力を供給する。
【0006】
図9は、図8に示したフライバック方式の電源回路において、トランスの1次側巻線に流れる電流、従って、スイッチング素子として動作するトランジスタTr1に流れる電流を示す図である。
【0007】
図9において、(a)はスイッチング電源回路及びその電源を用いた記録装置が軽負荷の場合であり、(b)は重負荷の場合を示す。フライバック方式では、ある特定の電力負荷までは、図9(a)に示すように不連続伝導モード(Discontinuous Conduction Mode)という称されるモードで動作する。しかしながら、その電力を超えると、図9(b)に示すように連続伝導モード(Continuous Conduction Mode)で動作する。図9(a)に示す不連続伝導モードでは、スイッチング素子に流れる電流はオン期間(Ton)の間にゼロ点から徐々に増加する。そして、ピーク点に達した後オフし、オフ期間中はゼロレベルとなる。なお、この電流(I)の波形は式(1)で表され、入力電圧に比例する。
【0008】
I=VDC/Lp・t …… (1)
ここでVDCは入力交流電圧を整流平滑後のDC電圧、Lpはトランスの1次インダクタンス、tはスイッチング素子のオン後の経過時間である。VDCは入力電圧Vinとおおよそ次の関係、VDC=1.4Vinがある。従って、式(1)は次のように表される。
【0009】
I=1.4Vin/Lp・t …… (2)
つまり、電流Iの傾きは入力電圧Vinに比例する結果となり、AC200V時の電流増加の傾きはAC100V時の2倍となる。
【0010】
一方、連続伝導モードでは、図9(b)に示すように、オン期間の初期電流がゼロからではなく、あるオフセットをもって増加し始める。次に、不連続伝導モードと連続伝導モードについて、図10に示すB−H曲線に関連付けて説明する。
【0011】
<B−H曲線の説明>
図10に示すB−H曲線は、周知のようにH(磁界)とB(磁束密度)の関係を示す。コアが磁化されていない初期状態(O点)から磁界を印加していくにつれ、磁束密度Bは増加していき、最終的に飽和点Pに達する。このときの磁束密度Bsを飽和磁束密度と呼ぶ。その後、磁界が減少していくと磁束密度も減少するが、磁界がゼロになっても磁束密度はゼロにはならず、残留磁束密度Br0が残留する。さらに逆方向に磁界を印加していくと、やがて磁束密度がゼロとなる。このときの磁界の強さ(Hc)を保持力と呼ぶ。その後、さらに磁界を強めていくと、Q点で磁束密度が飽和する。このときの磁束密度は−Bsである。再度磁界を弱めていくと、磁界がゼロのときに残留磁束密度−Brが残留し、その後、再度正方向の磁界を印加していくことで、保持力Hcのときに磁束密度がゼロとなり、さらに磁界を強めていくと、再度飽和点Pに達する。
【0012】
このようにB−H曲線はヒステリシス特性を有し、ヒステリシスで囲まれた面積がトランスのコアによる熱損失となる。
【0013】
ところで、フライバック方式では、両方向に磁界が印加されるプッシュプル方式などとは異なり、一方向の磁界しか印加されない。従って、フライバック方式の実際の動作は、図10に示すB−H曲線の第1象限だけを利用するものと言える。
【0014】
次に、図9に関連して上述した不連続伝導モードと連続伝導モードと、図10に示すB−H曲線との相関について説明する。
【0015】
図9(a)で示した不連続伝導モードは、図10のB−H曲線のX0領域で動作しており、磁束密度が残留磁束密度Br0と最大磁束密度Bm0との間で変化する。図10において、この磁束密度の変化がΔB0で示される。つまり、不連続伝導モードでは、磁界Hがゼロまでリセットされて、励磁が繰り返される。換言すると、不連続伝導モードでは、スイッチング素子のターンオン期間にトランスの1次巻線に蓄積されたエネルギーが、ターンオフ期間に完全に2次巻線により放出された後に、次のサイクルが再開される。
【0016】
一方、図9(b)で示した連続伝導モードは図10のX1領域で動作し、磁束密度が残留磁束密度Br1と最大磁束密度Bm1との間で変化する。図10において、この磁束密度の変化がΔB1で示される。つまり、連続伝導モードでは、磁界Hがゼロまでリセットされない状態で、次の励磁が繰り返される。言い換えれば、不連続伝導モードでは、スイッチング素子のターンオン期間にトランスの1次巻線に蓄積されたエネルギーが、ターンオフ期間に2次巻線により完全には放出されることなく、次のサイクルが再開される。
【0017】
さて次に、不連続伝導モードと連続伝導モードの各場合において、トランスが生成するエネルギーについて説明する。不連続伝導モードの場合の生成エネルギーは式(3)で表される。
【0018】
E=(1/2)・f・Lp・(Ip2) ……(3)
ここで、fはスイッチング周波数、Lpはトランスの1次巻線のインダクタンス、Ipは1次巻線に流れる電流ピーク値であり、図9ではIp1、Ip2として示される。
【0019】
一方、連続伝導モードの場合の生成エネルギーは、式(4)で表される。
【0020】
E=(1/2)・f・Lp・(Ip2−Iq2) ……(4)
ここで、Iqは図9ではIq1、Iq2として示され、ターンオン時のオフセット電流を示す。もしも、重負荷の場合であっても不連続伝導モードを実現しようとすると、トランスのサイズ(即ち、コアサイズ)を大きくしなければならず、コスト面、スペース面などから実用性がないものとなってしまう。
【0021】
次に、式(4)で表される連続伝導モードが、重負荷に対応した大きなエネルギーを生成できる理由について、簡単に説明する。
【0022】
図9(b)に示されるように、ターンオン時のオフセット電流Iqはピーク電流Ipに比べてかなり小さく、通常過電流保護機能がかかるポイントにおいても、IqをIpの2分の1程度に設計する。さて、式(4)はIpとIqの二乗差をファクタとしているため、Iqによる減分の影響は実際には25%程度に過ぎず、結果的に、Iqによる減分を差し引いても、Ipを増加させれば大きなエネルギーを生成することができる。このことが、連続伝導モードにより、適度なサイズのトランスを使用して、大きなエネルギーを生成できる所以である。
【0023】
ところで、過電流保護動作は重負荷の時に、即ち、連続伝導モードで発生するように設計されるため、過電流保護動作を正確に実現するには、制御IC内に式(4)を実現する回路を設ける必要がある。しかしながら、式(4)を実現することは実際には極めて困難であり、実際には一般的に、オフセット成分Iqを無視して過電流検出が行われる。即ち、ピーク電流Ipだけを検出し、過電流か否かを検出するわけである。この場合、前述のように、オフセット成分Iqに起因する約25%程度のファクタを無視することになるため、所望の結果から大きな誤差を生じてしまう。
【0024】
こうした誤差を低減するために、これまでにも制御ICとは別に外部回路を設け、オフセット電流Iqに相当する補正を行う工夫が提案されてはいる。しかしながら、こうした工夫も、例えば、(1)過電流検出電圧の誤検出につながりうるダイナミックレンジの低下、或は、(2)補正に起因する消費電力の増加(即ち、省エネレベルの悪化)など、二次弊害を生じかねない。
【0025】
さらに正確な過電流検出を困難にしている別の原因として、制御ICによる過電流検出時点から実際の保護動作に至る時間遅延がある。この点について、図11を参照して説明する。
【0026】
図11において、上側の電流変化は入力がAC100Vの場合、下側の電流変化は入力AC200Vの場合のトランス1次巻線に流れる電流、従って、スイッチング素子(図8のTr1)に流れる電流を示している。前述のように、電流の傾きはAC200Vでは、AC100Vの場合のそれの2倍となる。AC100Vの場合を参照して、制御ICは図11のIp1Aに達した時点に過電流を検出し、スイッチング素子をターンオフしようとする。しかしながら、実際には検出の瞬間から実際にスイッチング素子の駆動信号をオフするまでに時間遅延Δtが存在し、そのために実際にスイッチング素子がオフされる時点の電流はIp1Bとなる。つまり、Ip1BとIp1Aの差分ΔI1だけ、ターンオフ時の電流が所望のピーク電流値よりも大きくなってしまい、その分だけ過電流が増えてしまう。
【0027】
一方、AC200Vの時にもこうした遅延は同様に発生し、その遅延時間ΔtはAC100Vと同じである。このため、電流の傾きがAC100V時の2倍と大きい分、ピーク電流の増分ΔI2もΔI1の2倍となる。即ち、式(5)に示すようになる。
【0028】
ΔI2=2ΔI1 …… (5)
式(4)に関連して説明したように、ピーク電流Ipは生成エネルギーにその二乗で寄与するために、AC200V時の過電流保護動作点はAC100V時に比べて、かなり大きな値をとってしまう結果となる。
【0029】
以上のように、市販の制御ICを用いたスイッチング電源では、制御ICによる過電流検出時点から実際の保護動作に至る時間遅延や連続伝導モードの場合の正確な電力シミュレーションの実現困難性などに起因して過電流保護動作点が入力電圧の影響を受ける。このような欠点を解決するために、これまでにも、例えば、特許文献1、特許文献2、特許文献3に開示するような技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0030】
【特許文献1】特開8−340672号公報
【特許文献2】特開2002−191172号公報
【特許文献3】特開平8−149821号公報
【特許文献4】特開平11−178332号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0031】
しかしながら、上記のような従来技術には依然として以下のような欠点がある。
【0032】
特許文献1は、スイッチング素子に流れる電流を検出する検出抵抗に並列に接続されたパワーMOSトランジスタを線形に導通制御することで、検出抵抗値を等価的に可変制御するものである。しかしながら、特許文献1に開示する技術では、そのパワーMOSトランジスタがメインのスイッチング素子並の仕様を有する必要があること、またパワーMOSトランジスタを線形に導通制御するための回路がかなり複雑となるなどの欠点がある。
【0033】
特許文献2は、トランスの補助巻線を使用することにより、マイナス電源を生成するなど、回路が複雑になるという欠点がある。
【0034】
特許文献3は、アクティブフィルタの過大電流保護回路を提案しているが、本願発明のフライバック方式とは基本的に技術的な関係がなく、本発明の課題としているフライバック方式の課題に対する何の解決策も提案していない。
【0035】
特許文献4は、入力電圧が高くなるに従い、スイッチング周波数を高くすることで、所望の過電流検出を実現するもので、特許文献3と同様に、本発明の課題としているフライバック方式の課題に対する何の解決策も提案していない。
【0036】
本発明は上記従来例に鑑みてなされたもので、簡単な構成で、商用電源からの入力電圧に依存することなく、過電力や過電流保護動作点をほぼ一様に制御可能なスイッチング電源回路とこれを用いた記録装置を提供すること目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0037】
上記目的を達成するために本発明の記録ヘッドは次のような構成からなる。
【0038】
即ち、電圧の異なる交流の商用電源を入力して整流し、1次側に前記整流された交流電圧を入力して直流電圧に変換し、2次側から前記直流電圧を出力するトランスを備えたスイッチング電源回路であって、前記トランスの1次側に直列に接続され、前記1次側への前記交流電圧の入力を制御するスイッチング素子と、前記スイッチング素子に接続され前記トランスの1次側の電圧を検出する検出回路と、前記検出回路により検出された電圧に従って利得が変化し、該利得に従って、前記検出回路により検出された電圧を増幅する増幅器と、前記増幅器から出力された電圧に従って、前記スイッチング素子のオンオフを制御する制御回路とを有することを特徴とする。
【0039】
また本発明を別の側面から見れば、上記構成のスイッチング電源回路を用いた記録装置を備える。
【発明の効果】
【0040】
従って本発明によれば、商用電源の入力電圧に応じて増幅器の利得が実質的に変化する増幅器からの出力電圧に従って、交流電圧の入力を制御するスイッチング素子のオンオフを制御できる。これにより、入力電圧が変化しても、スイッチング素子のオンオフ動作点、即ち、過電力または過電流保護動作点をほぼ一定の維持することができ、装置の安全性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明の代表的な実施例であるインクジェット記録装置の構成を示す概観斜視図である。
【図2】図1に示した記録装置の制御構成を示すブロック図である。
【図3】本発明の実施例1に従うフライバック方式の電源回路を示す図である。
【図4】制御ICで実行される比較動作を示す図である。
【図5】過電流保護動作を説明する図である。
【図6】入力商用電圧の違いに応じた過電流検出点の差異について説明する図である。
【図7】本発明の実施例2に従うフライバック方式の電源回路を示す図である。
【図8】従来のフライバック方式の電源回路の基本構成を示す図である。
【図9】図9に示す電源回路における、軽負荷時と重負荷時とにおけるトランスの1次側巻線に流れる電流を示す図である。
【図10】トランスのH(磁界)とB(磁束密度)の関係を示す図である。
【図11】トランス1次巻線に流れる電流を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0042】
以下添付図面を参照して本発明の好適な実施例について、さらに具体的かつ詳細に説明する。ただし、この実施例に記載されている構成要素の相対配置等は、特定の記載がない限りは、この発明の範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。
【0043】
なお、この明細書において、「記録」(「プリント」という場合もある)とは、文字、図形等有意の情報を形成する場合のみならず、有意無意を問わない。さらに人間が視覚で知覚し得るように顕在化したものであるか否かも問わず、広く記録媒体上に画像、模様、パターン等を形成する、または媒体の加工を行う場合も表すものとする。
【0044】
また、「記録媒体」とは、一般的な記録装置で用いられる紙のみならず、広く、布、プラスチック・フィルム、金属板、ガラス、セラミックス、木材、皮革等、インクを受容可能なものも表すものとする。
【0045】
さらに、「インク」(「液体」と言う場合もある)とは、上記「記録(プリント)」の定義と同様広く解釈されるべきものである。従って、記録媒体上に付与されることによって、画像、模様、パターン等の形成または記録媒体の加工、或いはインクの処理(例えば記録媒体に付与されるインク中の色剤の凝固または不溶化)に供され得る液体を表すものとする。
【0046】
またさらに、「記録要素」とは、特にことわらない限り吐出口ないしこれに連通する液路およびインク吐出に利用されるエネルギーを発生する素子を総括して言うものとする。
【0047】
<インクジェット記録装置の説明(図1)>
図1は本発明の代表的な実施例であるインクジェット記録装置1の構成の概要を示す外観斜視図である。
【0048】
図1に示すように、インクジェット記録装置(以下、記録装置)はインクジェット方式に従ってインクを吐出して記録を行なうインクジェット記録ヘッド(以下、記録ヘッド)3をキャリッジ2に搭載し、キャリッジ2を矢印A方向に往復移動させて記録を行う。記録紙などの記録媒体Pを給紙機構5を介して給紙し、記録位置まで搬送し、その記録位置において記録ヘッド3から記録媒体Pにインクを吐出することで記録を行なう。
【0049】
記録装置1のキャリッジ2には記録ヘッド3を搭載するのみならず、記録ヘッド3に供給するインクを貯留するインクカートリッジ6を装着する。インクカートリッジ6はキャリッジ2に対して着脱自在になっている。
【0050】
図1に示した記録装置1はカラー記録が可能であり、そのためにキャリッジ2にはマゼンタ(M)、シアン(C)、イエロ(Y)、ブラック(K)のインクを夫々、収容した4つのインクカートリッジを搭載している。これら4つのインクカートリッジは夫々独立に着脱可能である。
【0051】
この実施例の記録ヘッド3は、熱エネルギを利用してインクを吐出するインクジェット方式を採用している。このため、電気熱変換体を備えている。この電気熱変換体は各吐出口のそれぞれに対応して設けられ、記録信号に応じて対応する電気熱変換体にパルス電圧を印加することによって対応する吐出口からインクを吐出する。
【0052】
また、図1に示す例では、記録ヘッド3とインクカートリッジ6とが分離している構成であるが、記録ヘッドとインクカートリッジとが一体となったヘッドカートリッジを用いても良い。
【0053】
<インクジェット記録装置の制御構成(図2)>
図2は図1に示した記録装置の制御構成を示すブロック図である。
【0054】
図2に示すように、コントローラ600は、MPU601、ROM602、特殊用途集積回路(ASIC)603、RAM604、システムバス605、A/D変換器606などで構成される。ここで、ROM602は後述する制御シーケンスに対応したプログラム、所要のテーブル、その他の固定データを格納する。ASIC603は、キャリッジモータM1の制御、搬送モータM2の制御、及び、記録ヘッド3の制御のための制御信号を生成する。RAM604は、画像データの展開領域やプログラム実行のための作業用領域等として用いられる。システムバス605は、MPU601、ASIC603、RAM604を相互に接続してデータの授受を行う。A/D変換器606は以下に説明するセンサ群からのアナログ信号を入力してA/D変換し、デジタル信号をMPU601に供給する。
【0055】
また、図2において、610は画像データの供給源となるコンピュータ(或いは、画像読取り用のリーダやデジタルカメラなど)でありホスト装置と総称される。ホスト装置610と記録装置1との間ではインタフェース(I/F)611を介して画像データ、コマンド、ステータス信号等を送受信する。この画像データは、例えば、ラスタ形式で入力される。
【0056】
さらに、620はスイッチ群であり、電源スイッチ621、プリントスイッチ622、回復スイッチ623などから構成される。
【0057】
630は装置状態を検出するためのセンサ群であり、位置センサ631、温度センサ632等から構成される。
【0058】
さらに、640はキャリッジ2を矢印A方向に往復走査させるためのキャリッジモータM1を駆動させるキャリッジモータドライバ、642は記録媒体Pを搬送するための搬送モータM2を駆動させる搬送モータドライバである。また、644はコントローラ600から転送される記録データや制御信号に基づいて記録ヘッドを駆動するヘッドドライバである。
【0059】
ASIC603は、記録ヘッド3による記録走査の際に、RAM604の記憶領域に直接アクセスしながら記録ヘッドに対して記録素子(吐出用のヒータ)を駆動するためのデータを転送する。
【0060】
スイッチング電源回路650は交流の商用電源の周波数が50Hz〜60Hzで電圧が100V〜240Vの交流電圧を入力し、記録装置の各部に直流(DC)電圧を供給するスイッチング電源回路である。
【0061】
次に、以上の構成の記録装置が用いる電源回路の実施例について説明する。
【実施例1】
【0062】
図3は本発明の実施例1に従うフライバック方式の電源回路の構成を示す図である。この電源回路はユニバーサル電源に対応しており、入力電圧範囲はAC100〜240Vである。入力電圧はブリッジダイオードBD1により整流され、その後電解コンデンサC1により平滑化され直流(DC)となる。平滑化された直流電圧は、トランスT1の1次側に入力され、トランスT1及びスイッチング素子Q1(ここではMOSFET)を通じてスイッチングされ、トランスT1の2次側に所望のDC電圧Voが生成される。さらにVoは破線で囲まれたフィードバック回路300を通じて、一定電圧に維持されるように制御される。
【0063】
フィードバック回路300は、誤差検出・増幅回路301とフォトカプラIC302とから構成される。フォトカプラIC302の出力信号FBは制御IC400内で基準信号REFと比較される。
【0064】
図4はこの比較の様子を示す図である。図4に示すように、基準信号REFは三角波(または鋸波)であり、その周波数はスイッチング素子Q1のオンオフのスイッチング周波数fに等しい。一方、フォトカプラIC302の出力信号FBは、2次側の負荷電流が大きくなると上昇し、逆に負荷電流が小さくなると低下する。そして、両者の信号の比較結果が、スイッチング素子Q1の駆動信号DRVとして出力される。駆動信号DRVは抵抗R2を介してスイッチング素子Q1、ここではMOSFETのゲートに印加される。なお、抵抗R2に並列接続されるダイオードD1は、スイッチング素子Q1のオフ時にその少数キャリアの解消を促進し、オフ時間を短縮する役目を果たす。
【0065】
図4から明らかなように、駆動信号DRVの周期T1では信号FBのレベルが低い、即ち、負荷電流が小さいので、駆動信号DRVのオン期間(DRVのハイレベル期間)が短い。これに対し、周期T2では信号FBのレベルが高い、従って、負荷電流が増えたために、駆動信号DRVのオン期間が長くなっている。このように、2次側の負荷電流の変動により信号FBのレベルが変化し、これによりスイッチング素子Q1の駆動信号DRVのオン期間が制御され、結果的に出力電圧Voが一定になるように制御される。
【0066】
図3に戻り説明を続けると、図の破線で囲んだ回路100は、スイッチング素子Q1に流れる電流のレベルを検出する検出回路である。また、回路200は回路100の出力を受けてトリガされるサイリスタ回路である。このサイリスタ回路がトリガされると、ダイオードD2を通じて、スイッチング素子Q1のゲート信号を強制的にローレベルに引き込み、スイッチング素子Q1を永久的にオフする役目を果たす。いわば、このサイリスタ回路はスイッチング素子Q1の動作を制御する制御回路としての役目を果たす。
【0067】
まず、回路100について説明する。スイッチング素子Q1に流れる電流は、抵抗R1によって検出される。抵抗R1に発生する電圧が抵抗R3を介して増幅器(IC)101の一方の入力である(+)入力に入力され、その後、増幅器101の利得Aに従って増幅される。利得Aは増幅器の他方の入力である反転(−)入力に接続される幾つかの抵抗により決定され、この実施例では抵抗R6、R7、R8がそれに関連付けられる。従って、増幅器(IC)101はこの実施例では差動増幅器として動作する。さらに、抵抗R6は商用電源の入力電圧がAC200Vの場合には、トランジスタQ2によってバイパスされるため、そのときは利得Aには寄与せず、結果的にAC100Vの場合だけ利得Aに寄与することになる。
【0068】
この点について詳細に説明する。即ち、商用電源の入力電圧がAC100Vの場合、電解コンデンサC1のプラス側電圧(図中のノード150)は約DC135V程度となる。また、ツエナーダイオードZD1はそのツエナー電圧を例えば200Vに選択すると、ノード150の電圧がDC135Vの場合にはカットオフ状態となる。このため、ツエナーダイオードZD1に直列に接続される抵抗R4とR5には電流が流れないため、トランジスタQ2はオフ状態となる。従って、商用電源の入力電圧がAC100Vの場合には、トランジスタQ2がオフとなり、増幅器(IC)101の利得Aは式(6)に示すようになる。
【0069】
A = R8/(R6+R7) …… (6)
一方、商用電源の入力電圧がAC200Vの場合には、ノード150の電圧が約DC270V程度となり、ツエナーダイオードZD1のツエナー電圧200Vよりも高くなる。このため、ツエナーダイオードZD1を通じて抵抗R4、R5に電流が流れ、トランジスタQ2がオンする。その結果、抵抗R6がトランジスタQ2によりバイパスされることになる。従って、商用電源の入力電圧がAC200Vの場合の増幅器(IC)101の利得Aは式(7)に示すようになる。
【0070】
A = R8/R7 …… (7)
式(6)と式(7)とを比較すると明らかなように、この実施例では、商用電源の入力電圧がAC200Vの場合の利得Aは、AC100Vの場合よりも大きくなることが分かる。このことは、即ち、抵抗R1に流れる電流が同じであっても、増幅器(IC)101の出力(図中のノード160)に現れる電圧は、AC200Vの場合のほうがAC100Vの場合に比べて大きいことを意味する。
【0071】
なお、ノード160の電圧は抵抗R9とR10とにより分圧されて、後段のラッチ回路(図中、破線で囲まれた回路200)に伝達される。
上述のように、ラッチ回路200は基本的にサイリスタ回路であり、2個のトランジスタQ3とQ4とから構成される。図中ノード170として示されるトランジスタQ3のベース電圧が約0.6Vを上回るとトランジスタQ3がオンし、その瞬間、PNPトランジスタQ4もオンし、その後、トランジスタQ3とQ4の両者は永久的にオン状態を維持する。この実施例では、サイリスタ回路200がオンすると、ダイオードD2を介してスイッチング素子Q1のゲート電圧が強制的にローレベルに引っ張られ、それ以降、スイッチング素子Q1の駆動は停止する。
【0072】
以上述べた動作は、図5に示すようにまとめられる。図5に示されているように、スイッチング素子Q1に流れる電流が徐々に増加し、ノード160として示される増幅器(IC)101のピーク出力電圧もそれに伴って増加する。その結果、ノード170として示されるトランジスタQ3のベース電圧が徐々に増加する。そして、トランジスタQ3のトリガレベル、即ち、約0.6Vに達した時点Pで、トランジスタQ3とQ4とから成るサイリスタ回路200がオフ状態からオン状態に遷移し、その後スイッチング素子Q1の駆動が停止する。ここで、トランジスタQ3のトリガ感度は、2個の抵抗R9及びR10と1個のコンデンサC3とから成る時定数回路で決定され、通常、ノイズによる誤作動を回避するために、数10m秒から数100m秒の時定数を有する。従って、図5からも分かるように、スイッチング素子Q1に流れる電流パルスのピーク値が、連続的にある期間大きな値を取り続けない限り、トランジスタQ3はトリガされず、過電流保護動作が作動しない。
【0073】
次に、図6を参照して、商用電源の入力電圧の違いに応じた過電流検出点の差異について説明する。
【0074】
図6(a)はAC100V時の電流波形を示す図である。波形91は増幅器(IC)101の出力を示し、波形92はトランジスタQ3の入力電圧、即ち、ノード170の電圧を示す。図6(a)から明らかなように、オン期間Tonには抵抗R9、R10を通じてコンデンサC3が充電され、オフ期間ToffにはコンデンサC3は放電される。しかしながら、IC302のピーク電圧Ip1の上昇に伴い、波形92のレベルは徐々に上昇する。そして、トランジスタQ3のトリガレベルに達すると(P1点)、前述のようにサイリスタ回路200をトリガする。ここで、図6(a)に示されているように、AC100V時のIC101の出力波形の傾きをαとする。
【0075】
次に、AC200Vの場合、もし増幅器(IC)101の利得がAC100Vの場合と同様、式(6)で与えられると仮定すると、増幅器(IC)101の出力電流は、図6(b)の実線で示される波形93と波形95の結果となる。ここで、IC101の出力波形の傾きは、AC100V時の2倍、従って、2αとなる。また、理論的には、過電流保護動作が作動すべきタイミングは、おおよそピーク電圧Ip2がIp1に等しくなるタイミングである。なぜなら、生成エネルギーは式(4)により与えられ、その大きさは大半がIpにより決定され、Iqが寄与する割合はIpに比べてかなり小さいといえるからである。
【0076】
ところで、図6(b)から明らかなように、IC101の出力電圧がIp2に達したにも関わらず、トランジスタQ3の入力、即ち、ノード170はトリガレベルに達せずに、P2点に留まっている。この理由は、図6(b)から明らかなように、AC200Vの場合、そのオン期間TonがAC100Vの場合のほぼ2分の1となる反面、オフ期間Toffはより長くなるからである。つまり、充電時間は約半分に短縮される一方で、放電時間はより長くなり、その結果、コンデンサC3の電位がAC100Vの場合のように上昇しないことによる。こうした理由から、もしAC100V時とAC200V時の増幅器の利得が等しい場合、AC200V時の過電流保護動作点はAC100V時のそれと比較して、かなり大きな値を取ることとなり、安全上の問題を引き起こしうる結果となる。
【0077】
この実施例では、こうした課題を解決するために、AC200V時の増幅器(IC)の101の利得をAC100V時よりも大きな値に設定する手段を備える。具体的には、前述したように、利得決定に関わる複数の抵抗の内の特定のものを、状況に応じてバイパスすることにより、利得を可変制御する。これにより、図6(b)の破線で示した波形94及び96が得られる。波形94は、式(7)で得られる増幅器利得に基づき、ノード160で得られ、波形96はそれに対応するノード170の波形、即ち、トランジスタQ3の入力電圧を示す。
【0078】
このように以上説明した実施例に従えば、バイパスする抵抗R6の値を調整することで、AC200V時の過電流保護動作点を、AC100V時とほぼ同等の値(図中のP3)に設定することが可能になる。これにより、使用する商用電源の入力電圧が高くとも低くとも過電流保護動作点をほぼ一定に維持し、回路、最終的には記録装置そのものを保護することができる。
【0079】
このように、スイッチング素子に流れる電流を検出するための増幅器の利得を制御することにより、商用電源の入力電圧に応じて、ほぼ一定の過電力保護動作点または過電流保護動作点を維持することができる。
【0080】
なお、増幅器の利得Aは、上述の時定数回路に関連付けられる過電流応答感度などのファクタにも影響されるため、別途シミュレーションや実験により適切に決定されることが望ましい。
【実施例2】
【0081】
図7は本発明の実施例2に従う電源回路の構成を示す図である。なお、図7において、既に図3を参照して説明したのと同じ構成要素には同じ参照番号を付し、その説明は省略する。ここでは、実施例1の場合のように増幅器(IC)101の利得を制御するのではなく利得は一定のままとし、その出力の分割比を制御し、後段のサイリスタ回路200にその結果を伝達することを特徴としている。
【0082】
以下、この実施例の特徴的な構成と動作について詳細に説明する。
【0083】
実施例1の場合同様、AC200V時にはトランジスタQ2がオン状態となり、その結果、PNPトランジスタQ5もオン状態となり、抵抗R9がバイパスされる。従って、ノード170に現れる電圧レベルVnd3は式(8)で表される。
【0084】
Vnd3={R10/(R10+R16)}・Vnd2 …… (8)
ここで、Vnd2は増幅器(IC)101の出力、即ち、ノード160に現れる電圧を示す。
【0085】
一方、AC100V時にはトランジスタQ2はオフ状態のため、トランジスタQ5もオフ状態となり、ノード170に現れる電圧レベルVnd3は式(9)で表わされる。
【0086】
Vnd3={R10/(R9+R10+R16)}・Vnd2 ……(9)
式(8)と式(9)とから、AC200V時にノード170に現れる電圧は除数に抵抗R9のファクタを含まない分、AC100V時のそれに比べて大きくなることが分かる。
【0087】
従って、以上説明した実施例に従えば、増幅器の出力電圧の分割比を制御することも、実施例1の場合と同様の効果を達成することができる。
【0088】
このように、スイッチング素子に流れる電流を検出するための増幅器の出力電圧の分割比を制御することにより、商用電源の入力電圧に応じて、ほぼ一定の過電力保護動作点または過電流保護動作点を維持することができる。
【技術分野】
【0001】
本発明はスイッチング電源回路及びその電源を用いた記録装置に関し、特に、過電力保護回路を備え、入力電圧の違いによる過電力保護動作点の差異を補正することが可能なスイッチング電源回路及びその電源を用いた記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
商用交流電源から安定した直流電圧を生成するためのスイッチング電源回路は、今日数多くの家電製品や事務機製品で使用されている。こうしたスイッチング電源回路は一般に、市販の制御ICを用いて設計されており、これらの多くは過電力保護機能あるいは過電流保護機能を内蔵している。しかしながら、こうした機能には技術的な妥協点が多い。例えば、入力電圧の違い、例えば、入力電圧がAC100Vの時とAC200V(欧州、豪州地域など一般にAC230V)の時とで、保護動作点に大きな差異が生じ、安全性に影響するといった欠点がある。
【0003】
一般には、入力電圧がAC200Vの時の保護動作点は、AC100Vの時のそれと比較して、過大となる傾向がある。その理由として、典型的には、(1)制御ICによる過電流検出時点から実際の保護動作に至る時間遅延、(2)連続伝導モードの場合の正確な電力シミュレーションの実現困難性などに起因する。以下、こうした理由に関し詳細に説明する。
【0004】
最初に、一般に消費電力が60〜80W程度のスイッチング電源回路の場合、コスト優位性の観点から、フライバック方式が採用されるケースが多い。
【0005】
図8はフライバック方式の電源回路の基本構成を示す図である。この構成では、トランジスタTr1がオン状態でトランスの1次側巻線に電力が蓄えられ、Tr1がオフとなるとトランスの2次側巻線に電流が流れる。そして、トランス内に蓄えられていたエネルギーが出力側(Vo)に放出される。このサイクルを繰り返すことにより安定した直流電力を供給する。
【0006】
図9は、図8に示したフライバック方式の電源回路において、トランスの1次側巻線に流れる電流、従って、スイッチング素子として動作するトランジスタTr1に流れる電流を示す図である。
【0007】
図9において、(a)はスイッチング電源回路及びその電源を用いた記録装置が軽負荷の場合であり、(b)は重負荷の場合を示す。フライバック方式では、ある特定の電力負荷までは、図9(a)に示すように不連続伝導モード(Discontinuous Conduction Mode)という称されるモードで動作する。しかしながら、その電力を超えると、図9(b)に示すように連続伝導モード(Continuous Conduction Mode)で動作する。図9(a)に示す不連続伝導モードでは、スイッチング素子に流れる電流はオン期間(Ton)の間にゼロ点から徐々に増加する。そして、ピーク点に達した後オフし、オフ期間中はゼロレベルとなる。なお、この電流(I)の波形は式(1)で表され、入力電圧に比例する。
【0008】
I=VDC/Lp・t …… (1)
ここでVDCは入力交流電圧を整流平滑後のDC電圧、Lpはトランスの1次インダクタンス、tはスイッチング素子のオン後の経過時間である。VDCは入力電圧Vinとおおよそ次の関係、VDC=1.4Vinがある。従って、式(1)は次のように表される。
【0009】
I=1.4Vin/Lp・t …… (2)
つまり、電流Iの傾きは入力電圧Vinに比例する結果となり、AC200V時の電流増加の傾きはAC100V時の2倍となる。
【0010】
一方、連続伝導モードでは、図9(b)に示すように、オン期間の初期電流がゼロからではなく、あるオフセットをもって増加し始める。次に、不連続伝導モードと連続伝導モードについて、図10に示すB−H曲線に関連付けて説明する。
【0011】
<B−H曲線の説明>
図10に示すB−H曲線は、周知のようにH(磁界)とB(磁束密度)の関係を示す。コアが磁化されていない初期状態(O点)から磁界を印加していくにつれ、磁束密度Bは増加していき、最終的に飽和点Pに達する。このときの磁束密度Bsを飽和磁束密度と呼ぶ。その後、磁界が減少していくと磁束密度も減少するが、磁界がゼロになっても磁束密度はゼロにはならず、残留磁束密度Br0が残留する。さらに逆方向に磁界を印加していくと、やがて磁束密度がゼロとなる。このときの磁界の強さ(Hc)を保持力と呼ぶ。その後、さらに磁界を強めていくと、Q点で磁束密度が飽和する。このときの磁束密度は−Bsである。再度磁界を弱めていくと、磁界がゼロのときに残留磁束密度−Brが残留し、その後、再度正方向の磁界を印加していくことで、保持力Hcのときに磁束密度がゼロとなり、さらに磁界を強めていくと、再度飽和点Pに達する。
【0012】
このようにB−H曲線はヒステリシス特性を有し、ヒステリシスで囲まれた面積がトランスのコアによる熱損失となる。
【0013】
ところで、フライバック方式では、両方向に磁界が印加されるプッシュプル方式などとは異なり、一方向の磁界しか印加されない。従って、フライバック方式の実際の動作は、図10に示すB−H曲線の第1象限だけを利用するものと言える。
【0014】
次に、図9に関連して上述した不連続伝導モードと連続伝導モードと、図10に示すB−H曲線との相関について説明する。
【0015】
図9(a)で示した不連続伝導モードは、図10のB−H曲線のX0領域で動作しており、磁束密度が残留磁束密度Br0と最大磁束密度Bm0との間で変化する。図10において、この磁束密度の変化がΔB0で示される。つまり、不連続伝導モードでは、磁界Hがゼロまでリセットされて、励磁が繰り返される。換言すると、不連続伝導モードでは、スイッチング素子のターンオン期間にトランスの1次巻線に蓄積されたエネルギーが、ターンオフ期間に完全に2次巻線により放出された後に、次のサイクルが再開される。
【0016】
一方、図9(b)で示した連続伝導モードは図10のX1領域で動作し、磁束密度が残留磁束密度Br1と最大磁束密度Bm1との間で変化する。図10において、この磁束密度の変化がΔB1で示される。つまり、連続伝導モードでは、磁界Hがゼロまでリセットされない状態で、次の励磁が繰り返される。言い換えれば、不連続伝導モードでは、スイッチング素子のターンオン期間にトランスの1次巻線に蓄積されたエネルギーが、ターンオフ期間に2次巻線により完全には放出されることなく、次のサイクルが再開される。
【0017】
さて次に、不連続伝導モードと連続伝導モードの各場合において、トランスが生成するエネルギーについて説明する。不連続伝導モードの場合の生成エネルギーは式(3)で表される。
【0018】
E=(1/2)・f・Lp・(Ip2) ……(3)
ここで、fはスイッチング周波数、Lpはトランスの1次巻線のインダクタンス、Ipは1次巻線に流れる電流ピーク値であり、図9ではIp1、Ip2として示される。
【0019】
一方、連続伝導モードの場合の生成エネルギーは、式(4)で表される。
【0020】
E=(1/2)・f・Lp・(Ip2−Iq2) ……(4)
ここで、Iqは図9ではIq1、Iq2として示され、ターンオン時のオフセット電流を示す。もしも、重負荷の場合であっても不連続伝導モードを実現しようとすると、トランスのサイズ(即ち、コアサイズ)を大きくしなければならず、コスト面、スペース面などから実用性がないものとなってしまう。
【0021】
次に、式(4)で表される連続伝導モードが、重負荷に対応した大きなエネルギーを生成できる理由について、簡単に説明する。
【0022】
図9(b)に示されるように、ターンオン時のオフセット電流Iqはピーク電流Ipに比べてかなり小さく、通常過電流保護機能がかかるポイントにおいても、IqをIpの2分の1程度に設計する。さて、式(4)はIpとIqの二乗差をファクタとしているため、Iqによる減分の影響は実際には25%程度に過ぎず、結果的に、Iqによる減分を差し引いても、Ipを増加させれば大きなエネルギーを生成することができる。このことが、連続伝導モードにより、適度なサイズのトランスを使用して、大きなエネルギーを生成できる所以である。
【0023】
ところで、過電流保護動作は重負荷の時に、即ち、連続伝導モードで発生するように設計されるため、過電流保護動作を正確に実現するには、制御IC内に式(4)を実現する回路を設ける必要がある。しかしながら、式(4)を実現することは実際には極めて困難であり、実際には一般的に、オフセット成分Iqを無視して過電流検出が行われる。即ち、ピーク電流Ipだけを検出し、過電流か否かを検出するわけである。この場合、前述のように、オフセット成分Iqに起因する約25%程度のファクタを無視することになるため、所望の結果から大きな誤差を生じてしまう。
【0024】
こうした誤差を低減するために、これまでにも制御ICとは別に外部回路を設け、オフセット電流Iqに相当する補正を行う工夫が提案されてはいる。しかしながら、こうした工夫も、例えば、(1)過電流検出電圧の誤検出につながりうるダイナミックレンジの低下、或は、(2)補正に起因する消費電力の増加(即ち、省エネレベルの悪化)など、二次弊害を生じかねない。
【0025】
さらに正確な過電流検出を困難にしている別の原因として、制御ICによる過電流検出時点から実際の保護動作に至る時間遅延がある。この点について、図11を参照して説明する。
【0026】
図11において、上側の電流変化は入力がAC100Vの場合、下側の電流変化は入力AC200Vの場合のトランス1次巻線に流れる電流、従って、スイッチング素子(図8のTr1)に流れる電流を示している。前述のように、電流の傾きはAC200Vでは、AC100Vの場合のそれの2倍となる。AC100Vの場合を参照して、制御ICは図11のIp1Aに達した時点に過電流を検出し、スイッチング素子をターンオフしようとする。しかしながら、実際には検出の瞬間から実際にスイッチング素子の駆動信号をオフするまでに時間遅延Δtが存在し、そのために実際にスイッチング素子がオフされる時点の電流はIp1Bとなる。つまり、Ip1BとIp1Aの差分ΔI1だけ、ターンオフ時の電流が所望のピーク電流値よりも大きくなってしまい、その分だけ過電流が増えてしまう。
【0027】
一方、AC200Vの時にもこうした遅延は同様に発生し、その遅延時間ΔtはAC100Vと同じである。このため、電流の傾きがAC100V時の2倍と大きい分、ピーク電流の増分ΔI2もΔI1の2倍となる。即ち、式(5)に示すようになる。
【0028】
ΔI2=2ΔI1 …… (5)
式(4)に関連して説明したように、ピーク電流Ipは生成エネルギーにその二乗で寄与するために、AC200V時の過電流保護動作点はAC100V時に比べて、かなり大きな値をとってしまう結果となる。
【0029】
以上のように、市販の制御ICを用いたスイッチング電源では、制御ICによる過電流検出時点から実際の保護動作に至る時間遅延や連続伝導モードの場合の正確な電力シミュレーションの実現困難性などに起因して過電流保護動作点が入力電圧の影響を受ける。このような欠点を解決するために、これまでにも、例えば、特許文献1、特許文献2、特許文献3に開示するような技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0030】
【特許文献1】特開8−340672号公報
【特許文献2】特開2002−191172号公報
【特許文献3】特開平8−149821号公報
【特許文献4】特開平11−178332号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0031】
しかしながら、上記のような従来技術には依然として以下のような欠点がある。
【0032】
特許文献1は、スイッチング素子に流れる電流を検出する検出抵抗に並列に接続されたパワーMOSトランジスタを線形に導通制御することで、検出抵抗値を等価的に可変制御するものである。しかしながら、特許文献1に開示する技術では、そのパワーMOSトランジスタがメインのスイッチング素子並の仕様を有する必要があること、またパワーMOSトランジスタを線形に導通制御するための回路がかなり複雑となるなどの欠点がある。
【0033】
特許文献2は、トランスの補助巻線を使用することにより、マイナス電源を生成するなど、回路が複雑になるという欠点がある。
【0034】
特許文献3は、アクティブフィルタの過大電流保護回路を提案しているが、本願発明のフライバック方式とは基本的に技術的な関係がなく、本発明の課題としているフライバック方式の課題に対する何の解決策も提案していない。
【0035】
特許文献4は、入力電圧が高くなるに従い、スイッチング周波数を高くすることで、所望の過電流検出を実現するもので、特許文献3と同様に、本発明の課題としているフライバック方式の課題に対する何の解決策も提案していない。
【0036】
本発明は上記従来例に鑑みてなされたもので、簡単な構成で、商用電源からの入力電圧に依存することなく、過電力や過電流保護動作点をほぼ一様に制御可能なスイッチング電源回路とこれを用いた記録装置を提供すること目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0037】
上記目的を達成するために本発明の記録ヘッドは次のような構成からなる。
【0038】
即ち、電圧の異なる交流の商用電源を入力して整流し、1次側に前記整流された交流電圧を入力して直流電圧に変換し、2次側から前記直流電圧を出力するトランスを備えたスイッチング電源回路であって、前記トランスの1次側に直列に接続され、前記1次側への前記交流電圧の入力を制御するスイッチング素子と、前記スイッチング素子に接続され前記トランスの1次側の電圧を検出する検出回路と、前記検出回路により検出された電圧に従って利得が変化し、該利得に従って、前記検出回路により検出された電圧を増幅する増幅器と、前記増幅器から出力された電圧に従って、前記スイッチング素子のオンオフを制御する制御回路とを有することを特徴とする。
【0039】
また本発明を別の側面から見れば、上記構成のスイッチング電源回路を用いた記録装置を備える。
【発明の効果】
【0040】
従って本発明によれば、商用電源の入力電圧に応じて増幅器の利得が実質的に変化する増幅器からの出力電圧に従って、交流電圧の入力を制御するスイッチング素子のオンオフを制御できる。これにより、入力電圧が変化しても、スイッチング素子のオンオフ動作点、即ち、過電力または過電流保護動作点をほぼ一定の維持することができ、装置の安全性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明の代表的な実施例であるインクジェット記録装置の構成を示す概観斜視図である。
【図2】図1に示した記録装置の制御構成を示すブロック図である。
【図3】本発明の実施例1に従うフライバック方式の電源回路を示す図である。
【図4】制御ICで実行される比較動作を示す図である。
【図5】過電流保護動作を説明する図である。
【図6】入力商用電圧の違いに応じた過電流検出点の差異について説明する図である。
【図7】本発明の実施例2に従うフライバック方式の電源回路を示す図である。
【図8】従来のフライバック方式の電源回路の基本構成を示す図である。
【図9】図9に示す電源回路における、軽負荷時と重負荷時とにおけるトランスの1次側巻線に流れる電流を示す図である。
【図10】トランスのH(磁界)とB(磁束密度)の関係を示す図である。
【図11】トランス1次巻線に流れる電流を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0042】
以下添付図面を参照して本発明の好適な実施例について、さらに具体的かつ詳細に説明する。ただし、この実施例に記載されている構成要素の相対配置等は、特定の記載がない限りは、この発明の範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。
【0043】
なお、この明細書において、「記録」(「プリント」という場合もある)とは、文字、図形等有意の情報を形成する場合のみならず、有意無意を問わない。さらに人間が視覚で知覚し得るように顕在化したものであるか否かも問わず、広く記録媒体上に画像、模様、パターン等を形成する、または媒体の加工を行う場合も表すものとする。
【0044】
また、「記録媒体」とは、一般的な記録装置で用いられる紙のみならず、広く、布、プラスチック・フィルム、金属板、ガラス、セラミックス、木材、皮革等、インクを受容可能なものも表すものとする。
【0045】
さらに、「インク」(「液体」と言う場合もある)とは、上記「記録(プリント)」の定義と同様広く解釈されるべきものである。従って、記録媒体上に付与されることによって、画像、模様、パターン等の形成または記録媒体の加工、或いはインクの処理(例えば記録媒体に付与されるインク中の色剤の凝固または不溶化)に供され得る液体を表すものとする。
【0046】
またさらに、「記録要素」とは、特にことわらない限り吐出口ないしこれに連通する液路およびインク吐出に利用されるエネルギーを発生する素子を総括して言うものとする。
【0047】
<インクジェット記録装置の説明(図1)>
図1は本発明の代表的な実施例であるインクジェット記録装置1の構成の概要を示す外観斜視図である。
【0048】
図1に示すように、インクジェット記録装置(以下、記録装置)はインクジェット方式に従ってインクを吐出して記録を行なうインクジェット記録ヘッド(以下、記録ヘッド)3をキャリッジ2に搭載し、キャリッジ2を矢印A方向に往復移動させて記録を行う。記録紙などの記録媒体Pを給紙機構5を介して給紙し、記録位置まで搬送し、その記録位置において記録ヘッド3から記録媒体Pにインクを吐出することで記録を行なう。
【0049】
記録装置1のキャリッジ2には記録ヘッド3を搭載するのみならず、記録ヘッド3に供給するインクを貯留するインクカートリッジ6を装着する。インクカートリッジ6はキャリッジ2に対して着脱自在になっている。
【0050】
図1に示した記録装置1はカラー記録が可能であり、そのためにキャリッジ2にはマゼンタ(M)、シアン(C)、イエロ(Y)、ブラック(K)のインクを夫々、収容した4つのインクカートリッジを搭載している。これら4つのインクカートリッジは夫々独立に着脱可能である。
【0051】
この実施例の記録ヘッド3は、熱エネルギを利用してインクを吐出するインクジェット方式を採用している。このため、電気熱変換体を備えている。この電気熱変換体は各吐出口のそれぞれに対応して設けられ、記録信号に応じて対応する電気熱変換体にパルス電圧を印加することによって対応する吐出口からインクを吐出する。
【0052】
また、図1に示す例では、記録ヘッド3とインクカートリッジ6とが分離している構成であるが、記録ヘッドとインクカートリッジとが一体となったヘッドカートリッジを用いても良い。
【0053】
<インクジェット記録装置の制御構成(図2)>
図2は図1に示した記録装置の制御構成を示すブロック図である。
【0054】
図2に示すように、コントローラ600は、MPU601、ROM602、特殊用途集積回路(ASIC)603、RAM604、システムバス605、A/D変換器606などで構成される。ここで、ROM602は後述する制御シーケンスに対応したプログラム、所要のテーブル、その他の固定データを格納する。ASIC603は、キャリッジモータM1の制御、搬送モータM2の制御、及び、記録ヘッド3の制御のための制御信号を生成する。RAM604は、画像データの展開領域やプログラム実行のための作業用領域等として用いられる。システムバス605は、MPU601、ASIC603、RAM604を相互に接続してデータの授受を行う。A/D変換器606は以下に説明するセンサ群からのアナログ信号を入力してA/D変換し、デジタル信号をMPU601に供給する。
【0055】
また、図2において、610は画像データの供給源となるコンピュータ(或いは、画像読取り用のリーダやデジタルカメラなど)でありホスト装置と総称される。ホスト装置610と記録装置1との間ではインタフェース(I/F)611を介して画像データ、コマンド、ステータス信号等を送受信する。この画像データは、例えば、ラスタ形式で入力される。
【0056】
さらに、620はスイッチ群であり、電源スイッチ621、プリントスイッチ622、回復スイッチ623などから構成される。
【0057】
630は装置状態を検出するためのセンサ群であり、位置センサ631、温度センサ632等から構成される。
【0058】
さらに、640はキャリッジ2を矢印A方向に往復走査させるためのキャリッジモータM1を駆動させるキャリッジモータドライバ、642は記録媒体Pを搬送するための搬送モータM2を駆動させる搬送モータドライバである。また、644はコントローラ600から転送される記録データや制御信号に基づいて記録ヘッドを駆動するヘッドドライバである。
【0059】
ASIC603は、記録ヘッド3による記録走査の際に、RAM604の記憶領域に直接アクセスしながら記録ヘッドに対して記録素子(吐出用のヒータ)を駆動するためのデータを転送する。
【0060】
スイッチング電源回路650は交流の商用電源の周波数が50Hz〜60Hzで電圧が100V〜240Vの交流電圧を入力し、記録装置の各部に直流(DC)電圧を供給するスイッチング電源回路である。
【0061】
次に、以上の構成の記録装置が用いる電源回路の実施例について説明する。
【実施例1】
【0062】
図3は本発明の実施例1に従うフライバック方式の電源回路の構成を示す図である。この電源回路はユニバーサル電源に対応しており、入力電圧範囲はAC100〜240Vである。入力電圧はブリッジダイオードBD1により整流され、その後電解コンデンサC1により平滑化され直流(DC)となる。平滑化された直流電圧は、トランスT1の1次側に入力され、トランスT1及びスイッチング素子Q1(ここではMOSFET)を通じてスイッチングされ、トランスT1の2次側に所望のDC電圧Voが生成される。さらにVoは破線で囲まれたフィードバック回路300を通じて、一定電圧に維持されるように制御される。
【0063】
フィードバック回路300は、誤差検出・増幅回路301とフォトカプラIC302とから構成される。フォトカプラIC302の出力信号FBは制御IC400内で基準信号REFと比較される。
【0064】
図4はこの比較の様子を示す図である。図4に示すように、基準信号REFは三角波(または鋸波)であり、その周波数はスイッチング素子Q1のオンオフのスイッチング周波数fに等しい。一方、フォトカプラIC302の出力信号FBは、2次側の負荷電流が大きくなると上昇し、逆に負荷電流が小さくなると低下する。そして、両者の信号の比較結果が、スイッチング素子Q1の駆動信号DRVとして出力される。駆動信号DRVは抵抗R2を介してスイッチング素子Q1、ここではMOSFETのゲートに印加される。なお、抵抗R2に並列接続されるダイオードD1は、スイッチング素子Q1のオフ時にその少数キャリアの解消を促進し、オフ時間を短縮する役目を果たす。
【0065】
図4から明らかなように、駆動信号DRVの周期T1では信号FBのレベルが低い、即ち、負荷電流が小さいので、駆動信号DRVのオン期間(DRVのハイレベル期間)が短い。これに対し、周期T2では信号FBのレベルが高い、従って、負荷電流が増えたために、駆動信号DRVのオン期間が長くなっている。このように、2次側の負荷電流の変動により信号FBのレベルが変化し、これによりスイッチング素子Q1の駆動信号DRVのオン期間が制御され、結果的に出力電圧Voが一定になるように制御される。
【0066】
図3に戻り説明を続けると、図の破線で囲んだ回路100は、スイッチング素子Q1に流れる電流のレベルを検出する検出回路である。また、回路200は回路100の出力を受けてトリガされるサイリスタ回路である。このサイリスタ回路がトリガされると、ダイオードD2を通じて、スイッチング素子Q1のゲート信号を強制的にローレベルに引き込み、スイッチング素子Q1を永久的にオフする役目を果たす。いわば、このサイリスタ回路はスイッチング素子Q1の動作を制御する制御回路としての役目を果たす。
【0067】
まず、回路100について説明する。スイッチング素子Q1に流れる電流は、抵抗R1によって検出される。抵抗R1に発生する電圧が抵抗R3を介して増幅器(IC)101の一方の入力である(+)入力に入力され、その後、増幅器101の利得Aに従って増幅される。利得Aは増幅器の他方の入力である反転(−)入力に接続される幾つかの抵抗により決定され、この実施例では抵抗R6、R7、R8がそれに関連付けられる。従って、増幅器(IC)101はこの実施例では差動増幅器として動作する。さらに、抵抗R6は商用電源の入力電圧がAC200Vの場合には、トランジスタQ2によってバイパスされるため、そのときは利得Aには寄与せず、結果的にAC100Vの場合だけ利得Aに寄与することになる。
【0068】
この点について詳細に説明する。即ち、商用電源の入力電圧がAC100Vの場合、電解コンデンサC1のプラス側電圧(図中のノード150)は約DC135V程度となる。また、ツエナーダイオードZD1はそのツエナー電圧を例えば200Vに選択すると、ノード150の電圧がDC135Vの場合にはカットオフ状態となる。このため、ツエナーダイオードZD1に直列に接続される抵抗R4とR5には電流が流れないため、トランジスタQ2はオフ状態となる。従って、商用電源の入力電圧がAC100Vの場合には、トランジスタQ2がオフとなり、増幅器(IC)101の利得Aは式(6)に示すようになる。
【0069】
A = R8/(R6+R7) …… (6)
一方、商用電源の入力電圧がAC200Vの場合には、ノード150の電圧が約DC270V程度となり、ツエナーダイオードZD1のツエナー電圧200Vよりも高くなる。このため、ツエナーダイオードZD1を通じて抵抗R4、R5に電流が流れ、トランジスタQ2がオンする。その結果、抵抗R6がトランジスタQ2によりバイパスされることになる。従って、商用電源の入力電圧がAC200Vの場合の増幅器(IC)101の利得Aは式(7)に示すようになる。
【0070】
A = R8/R7 …… (7)
式(6)と式(7)とを比較すると明らかなように、この実施例では、商用電源の入力電圧がAC200Vの場合の利得Aは、AC100Vの場合よりも大きくなることが分かる。このことは、即ち、抵抗R1に流れる電流が同じであっても、増幅器(IC)101の出力(図中のノード160)に現れる電圧は、AC200Vの場合のほうがAC100Vの場合に比べて大きいことを意味する。
【0071】
なお、ノード160の電圧は抵抗R9とR10とにより分圧されて、後段のラッチ回路(図中、破線で囲まれた回路200)に伝達される。
上述のように、ラッチ回路200は基本的にサイリスタ回路であり、2個のトランジスタQ3とQ4とから構成される。図中ノード170として示されるトランジスタQ3のベース電圧が約0.6Vを上回るとトランジスタQ3がオンし、その瞬間、PNPトランジスタQ4もオンし、その後、トランジスタQ3とQ4の両者は永久的にオン状態を維持する。この実施例では、サイリスタ回路200がオンすると、ダイオードD2を介してスイッチング素子Q1のゲート電圧が強制的にローレベルに引っ張られ、それ以降、スイッチング素子Q1の駆動は停止する。
【0072】
以上述べた動作は、図5に示すようにまとめられる。図5に示されているように、スイッチング素子Q1に流れる電流が徐々に増加し、ノード160として示される増幅器(IC)101のピーク出力電圧もそれに伴って増加する。その結果、ノード170として示されるトランジスタQ3のベース電圧が徐々に増加する。そして、トランジスタQ3のトリガレベル、即ち、約0.6Vに達した時点Pで、トランジスタQ3とQ4とから成るサイリスタ回路200がオフ状態からオン状態に遷移し、その後スイッチング素子Q1の駆動が停止する。ここで、トランジスタQ3のトリガ感度は、2個の抵抗R9及びR10と1個のコンデンサC3とから成る時定数回路で決定され、通常、ノイズによる誤作動を回避するために、数10m秒から数100m秒の時定数を有する。従って、図5からも分かるように、スイッチング素子Q1に流れる電流パルスのピーク値が、連続的にある期間大きな値を取り続けない限り、トランジスタQ3はトリガされず、過電流保護動作が作動しない。
【0073】
次に、図6を参照して、商用電源の入力電圧の違いに応じた過電流検出点の差異について説明する。
【0074】
図6(a)はAC100V時の電流波形を示す図である。波形91は増幅器(IC)101の出力を示し、波形92はトランジスタQ3の入力電圧、即ち、ノード170の電圧を示す。図6(a)から明らかなように、オン期間Tonには抵抗R9、R10を通じてコンデンサC3が充電され、オフ期間ToffにはコンデンサC3は放電される。しかしながら、IC302のピーク電圧Ip1の上昇に伴い、波形92のレベルは徐々に上昇する。そして、トランジスタQ3のトリガレベルに達すると(P1点)、前述のようにサイリスタ回路200をトリガする。ここで、図6(a)に示されているように、AC100V時のIC101の出力波形の傾きをαとする。
【0075】
次に、AC200Vの場合、もし増幅器(IC)101の利得がAC100Vの場合と同様、式(6)で与えられると仮定すると、増幅器(IC)101の出力電流は、図6(b)の実線で示される波形93と波形95の結果となる。ここで、IC101の出力波形の傾きは、AC100V時の2倍、従って、2αとなる。また、理論的には、過電流保護動作が作動すべきタイミングは、おおよそピーク電圧Ip2がIp1に等しくなるタイミングである。なぜなら、生成エネルギーは式(4)により与えられ、その大きさは大半がIpにより決定され、Iqが寄与する割合はIpに比べてかなり小さいといえるからである。
【0076】
ところで、図6(b)から明らかなように、IC101の出力電圧がIp2に達したにも関わらず、トランジスタQ3の入力、即ち、ノード170はトリガレベルに達せずに、P2点に留まっている。この理由は、図6(b)から明らかなように、AC200Vの場合、そのオン期間TonがAC100Vの場合のほぼ2分の1となる反面、オフ期間Toffはより長くなるからである。つまり、充電時間は約半分に短縮される一方で、放電時間はより長くなり、その結果、コンデンサC3の電位がAC100Vの場合のように上昇しないことによる。こうした理由から、もしAC100V時とAC200V時の増幅器の利得が等しい場合、AC200V時の過電流保護動作点はAC100V時のそれと比較して、かなり大きな値を取ることとなり、安全上の問題を引き起こしうる結果となる。
【0077】
この実施例では、こうした課題を解決するために、AC200V時の増幅器(IC)の101の利得をAC100V時よりも大きな値に設定する手段を備える。具体的には、前述したように、利得決定に関わる複数の抵抗の内の特定のものを、状況に応じてバイパスすることにより、利得を可変制御する。これにより、図6(b)の破線で示した波形94及び96が得られる。波形94は、式(7)で得られる増幅器利得に基づき、ノード160で得られ、波形96はそれに対応するノード170の波形、即ち、トランジスタQ3の入力電圧を示す。
【0078】
このように以上説明した実施例に従えば、バイパスする抵抗R6の値を調整することで、AC200V時の過電流保護動作点を、AC100V時とほぼ同等の値(図中のP3)に設定することが可能になる。これにより、使用する商用電源の入力電圧が高くとも低くとも過電流保護動作点をほぼ一定に維持し、回路、最終的には記録装置そのものを保護することができる。
【0079】
このように、スイッチング素子に流れる電流を検出するための増幅器の利得を制御することにより、商用電源の入力電圧に応じて、ほぼ一定の過電力保護動作点または過電流保護動作点を維持することができる。
【0080】
なお、増幅器の利得Aは、上述の時定数回路に関連付けられる過電流応答感度などのファクタにも影響されるため、別途シミュレーションや実験により適切に決定されることが望ましい。
【実施例2】
【0081】
図7は本発明の実施例2に従う電源回路の構成を示す図である。なお、図7において、既に図3を参照して説明したのと同じ構成要素には同じ参照番号を付し、その説明は省略する。ここでは、実施例1の場合のように増幅器(IC)101の利得を制御するのではなく利得は一定のままとし、その出力の分割比を制御し、後段のサイリスタ回路200にその結果を伝達することを特徴としている。
【0082】
以下、この実施例の特徴的な構成と動作について詳細に説明する。
【0083】
実施例1の場合同様、AC200V時にはトランジスタQ2がオン状態となり、その結果、PNPトランジスタQ5もオン状態となり、抵抗R9がバイパスされる。従って、ノード170に現れる電圧レベルVnd3は式(8)で表される。
【0084】
Vnd3={R10/(R10+R16)}・Vnd2 …… (8)
ここで、Vnd2は増幅器(IC)101の出力、即ち、ノード160に現れる電圧を示す。
【0085】
一方、AC100V時にはトランジスタQ2はオフ状態のため、トランジスタQ5もオフ状態となり、ノード170に現れる電圧レベルVnd3は式(9)で表わされる。
【0086】
Vnd3={R10/(R9+R10+R16)}・Vnd2 ……(9)
式(8)と式(9)とから、AC200V時にノード170に現れる電圧は除数に抵抗R9のファクタを含まない分、AC100V時のそれに比べて大きくなることが分かる。
【0087】
従って、以上説明した実施例に従えば、増幅器の出力電圧の分割比を制御することも、実施例1の場合と同様の効果を達成することができる。
【0088】
このように、スイッチング素子に流れる電流を検出するための増幅器の出力電圧の分割比を制御することにより、商用電源の入力電圧に応じて、ほぼ一定の過電力保護動作点または過電流保護動作点を維持することができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電圧の異なる交流の商用電源を入力して整流し、1次側に前記整流された交流電圧を入力して直流電圧に変換し、2次側から前記直流電圧を出力するトランスを備えたスイッチング電源回路であって、
前記トランスの1次側に直列に接続され、前記1次側への前記交流電圧の入力を制御するスイッチング素子と、
前記スイッチング素子に接続され前記トランスの1次側の電圧を検出する検出回路と、
前記検出回路により検出された電圧に従って利得が変化し、該利得に従って、前記検出回路により検出された電圧を増幅する増幅器と、
前記増幅器から出力された電圧に従って、前記スイッチング素子のオンオフを制御する制御回路とを有することを特徴とするスイッチング電源回路。
【請求項2】
前記スイッチング素子はMOSFETであり、
前記制御回路はサイリスタ回路であり、
前記サイリスタ回路の出力が前記MOSFETのゲートに入力され、
前記サイリスタ回路からの出力電圧により前記MOSFETがオンオフすることを特徴とする請求項1に記載のスイッチング電源回路。
【請求項3】
前記検出回路はツエナーダイオードを含み、
前記増幅器は差動増幅器であり、
前記差動増幅器の1つの入力に前記検出回路によって検出された電圧が入力されることを特徴とする請求項1又は2に記載のスイッチング電源回路。
【請求項4】
前記ツエナーダイオードからの出力電圧に従って動作するトランジスタと、
前記差動増幅器の他方の入力に直列に接続される2個の抵抗とをさらに有し、
前記トランジスタは前記2個の抵抗の内の1個の抵抗に並列接続され、前記ツエナーダイオードからの出力電圧に従ってオンオフすることにより、前記並列接続された1個の抵抗に流れる電流をバイパスすることを特徴とする請求項3に記載のスイッチング電源回路。
【請求項5】
前記検出回路はツエナーダイオードを含み、
前記ツエナーダイオードからの出力電圧に従って動作するトランジスタと、
前記増幅器の出力電圧を分圧する2個の抵抗と、
前記2個の抵抗と前記増幅器の出力との間に接続され、前記トランジスタにより動作するトランジスタとをさらに有し、
前記制御回路への出力電圧として前記分圧を接続することを特徴とする請求項2に記載のスイッチング電源回路。
【請求項6】
前記商用電源の入力電圧が200Vのときに、前記商用電源の入力電圧が100Vの場合に比較して、前記増幅器の利得を大きいことを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載のスイッチング電源回路。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか1項に記載のスイッチング電源回路を用いる記録装置。
【請求項1】
電圧の異なる交流の商用電源を入力して整流し、1次側に前記整流された交流電圧を入力して直流電圧に変換し、2次側から前記直流電圧を出力するトランスを備えたスイッチング電源回路であって、
前記トランスの1次側に直列に接続され、前記1次側への前記交流電圧の入力を制御するスイッチング素子と、
前記スイッチング素子に接続され前記トランスの1次側の電圧を検出する検出回路と、
前記検出回路により検出された電圧に従って利得が変化し、該利得に従って、前記検出回路により検出された電圧を増幅する増幅器と、
前記増幅器から出力された電圧に従って、前記スイッチング素子のオンオフを制御する制御回路とを有することを特徴とするスイッチング電源回路。
【請求項2】
前記スイッチング素子はMOSFETであり、
前記制御回路はサイリスタ回路であり、
前記サイリスタ回路の出力が前記MOSFETのゲートに入力され、
前記サイリスタ回路からの出力電圧により前記MOSFETがオンオフすることを特徴とする請求項1に記載のスイッチング電源回路。
【請求項3】
前記検出回路はツエナーダイオードを含み、
前記増幅器は差動増幅器であり、
前記差動増幅器の1つの入力に前記検出回路によって検出された電圧が入力されることを特徴とする請求項1又は2に記載のスイッチング電源回路。
【請求項4】
前記ツエナーダイオードからの出力電圧に従って動作するトランジスタと、
前記差動増幅器の他方の入力に直列に接続される2個の抵抗とをさらに有し、
前記トランジスタは前記2個の抵抗の内の1個の抵抗に並列接続され、前記ツエナーダイオードからの出力電圧に従ってオンオフすることにより、前記並列接続された1個の抵抗に流れる電流をバイパスすることを特徴とする請求項3に記載のスイッチング電源回路。
【請求項5】
前記検出回路はツエナーダイオードを含み、
前記ツエナーダイオードからの出力電圧に従って動作するトランジスタと、
前記増幅器の出力電圧を分圧する2個の抵抗と、
前記2個の抵抗と前記増幅器の出力との間に接続され、前記トランジスタにより動作するトランジスタとをさらに有し、
前記制御回路への出力電圧として前記分圧を接続することを特徴とする請求項2に記載のスイッチング電源回路。
【請求項6】
前記商用電源の入力電圧が200Vのときに、前記商用電源の入力電圧が100Vの場合に比較して、前記増幅器の利得を大きいことを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載のスイッチング電源回路。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか1項に記載のスイッチング電源回路を用いる記録装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2011−244660(P2011−244660A)
【公開日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−116696(P2010−116696)
【出願日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】
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